憲法の過去問

令和2年・2020|問7|憲法

憲法訴訟における違憲性の主張適格が問題となった第三者没収に関する最高裁判所判決*について、次のア~オの記述のうち、法廷意見の見解として、正しいものをすべて挙げた組合せはどれか。

ア.第三者の所有物の没収は、所有物を没収される第三者にも告知、弁解、防禦の機会を与えることが必要であり、これなしに没収することは、適正な法律手続によらないで財産権を侵害することになる。

イ.かかる没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であっても、それが被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として上告をすることができる。

ウ.被告人としても、その物の占有権を剥奪され、これを使用・収益できない状態におかれ、所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を有することが明らかであるから、上告により救済を求めることができるものと解すべきである。

エ.被告人自身は本件没収によって現実の具体的不利益を蒙ってはいないから、現実の具体的不利益を蒙っていない被告人の申立に基づき没収の違憲性に判断を加えることは、将来を予想した抽象的判断を下すものに外ならず、憲法81条が付与する違憲審査権の範囲を逸脱する。

オ.刑事訴訟法では、被告人に対して言い渡される判決の直接の効力が被告人以外の第三者に及ぶことは認められていない以上、本件の没収の裁判によって第三者の所有権は侵害されていない。

(注)* 最大判昭和37年11月28日刑集16巻11号1593頁

  1. ア・イ
  2. ア・エ
  3. イ・オ
  4. ア・イ・ウ
  5. ア・エ・オ

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【答え】:4

【解説】
ア.第三者の所有物の没収は、所有物を没収される第三者にも告知、弁解、防禦の機会を与えることが必要であり、これなしに没収することは、適正な法律手続によらないで財産権を侵害することになる。

ア・・・正しい
本問(ア~オ)は、密輸しようとした被告人(密輸人)が捕まった際に、密輸船にあった「第三者の所有物」が「被告人の所有物」と一緒に没収された事件についての判例(最大判昭37.11.28)です。

この判例によると、
「第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者(第三者)に対し、何ら告知、弁解、防御の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であって、憲法の容認しないところであるといわなければならない。
けだし(なぜなら)、憲法29条1項は、財産権は、これを侵してはならないと規定し、また同31条は、何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられないと規定しているが、前記第三者の所有物の没収は、被告人に対する附加刑として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者に及ぶものであるから、
所有物を没収せられる第三者についても、告知、弁解、防御の機会を与えることが必要であって、これなくして第三者の所有物を没収することは、適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科するに外ならないからである」
と判示しています。

つまり、「第三者の所有物を没収する場合、その第三者にも告知、弁解、防禦(防御)の機会を与えることが必要で、その機会を与えないで没収することは、適正な法律手続をしないで財産権を侵害することになる」ということです。

よって、本肢は正しいです。

イ.かかる没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であっても、それが被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として上告をすることができる。

イ・・・正しい

アと同じ判例によると、「かかる没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であっても、被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として上告をなしうることは、当然であるのみならず(選択肢イ)、

被告人としても没収に係る物の占有権を剥奪され、またはこれが使用、収益をなしえない状態におかれ、更には所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を有することが明らかであるから、上告によりこれが救済を求めることができるものと解すべきである(選択肢ウ)」
と判示しています。
つまり、第三者の所有物の没収を言い渡された被告人は、それが被告人に対する附加刑である以上、没収するという裁判は違憲だということを理由に上告できます。

※「附加刑」とは、 独立して科することができず、主刑に付随してだけ科することのできる刑罰で、「没収」が「附加刑」に当たります。

ウ.被告人としても、その物の占有権を剥奪され、これを使用・収益できない状態におかれ、所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される(さらされる)等、利害関係を有することが明らかであるから、上告により救済を求めることができるものと解すべきである。

ウ・・・正しい
選択肢イの判例をご覧ください。

被告人は、没収されてその物の所有権がなくなった第三者から賠償請求等をされる危険があるなど、利害関係があることは明らかであるから、上告して救済を求めることができます。

エ.被告人自身は本件没収によって現実の具体的不利益を蒙ってはいないから、現実の具体的不利益を蒙っていない被告人の申立に基づき没収の違憲性に判断を加えることは、将来を予想した抽象的判断を下すものに外ならず、憲法81条が付与する違憲審査権の範囲を逸脱する。
エ・・・誤り
選択肢ウの解説の通り、被告人自身も、第三者の所有物が没収されることで、第三者から賠償請求等をされる可能性があるなど「現実の具体的不利益」を被っています。
よって、本肢は「不利益を蒙っていない」が誤りで、忠育は「不利益を蒙っている」です。

※ 「蒙っている(こうむっている)」とは「被っている」と同じ意味です

オ.刑事訴訟法では、被告人に対して言い渡される判決の直接の効力が被告人以外の第三者に及ぶことは認められていない以上、本件の没収の裁判によって第三者の所有権は侵害されていない。
オ・・・誤り
本肢は「侵害されていない」が誤りで、正しくは「侵害される」です。

判例によると、「憲法29条1項は、財産権は、これを侵してはならないと規定し、また同31条は、何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられないと規定しているが、前記第三者の所有物の没収は、被告人に対する附加刑として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者に及ぶものである」と判示しています。

つまり、
第三者の所有物の没收は、被告人に対する附加刑として言い渡されて、その刑事処分の効果が第三者に及びます。

したがって、没収の裁判で第三者の所有権は侵害されるので誤りです。

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令和2年(2020年)過去問

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識・経済
問20 国家賠償法 問50 基礎知識・経済
問21 国家賠償法 問51 基礎知識・社会
問22 地方自治法 問52 基礎知識・経済
問23 地方自治法 問53 基礎知識・社会
問24 地方自治法 問54 基礎知識・社会
問25 情報公開法 問55 基礎知識・情報通信
問26 行政法 問56 基礎知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 基礎知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和2年・2020|問4|憲法

表現の自由の規制に関する次の記述のうち、妥当でないものはどれか。

  1. 表現の内容規制とは、ある表現が伝達しようとするメッセージを理由とした規制であり、政府の転覆を煽動する文書の禁止、国家機密に属する情報の公表の禁止などがその例である。
  2. 表現の内容を理由とした規制であっても、高い価値の表現でないことを理由に通常の内容規制よりも緩やかに審査され、規制が許されるべきだとされる場合があり、営利を目的とした表現や、人種的憎悪をあおる表現などがその例である。
  3. 表現内容中立規制とは、表現が伝達しようとするメッセージの内容には直接関係なく行われる規制であり、学校近くでの騒音の制限、一定の選挙運動の制限などがその例である。
  4. 表現行為を事前に規制することは原則として許されないとされ、検閲は判例によれば絶対的に禁じられるが、裁判所による表現行為の事前差し止めは厳格な要件のもとで許容される場合がある。
  5. 表現行為の規制には明確性が求められるため、表現行為を規制する刑罰法規の法文が漠然不明確であったり、過度に広汎であったりする場合には、そうした文言の射程を限定的に解釈し合憲とすることは、判例によれば許されない。

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【答え】:5
【解説】
1.表現の内容規制とは、ある表現が伝達しようとするメッセージを理由とした規制であり、政府の転覆を煽動する文書の禁止、国家機密に属する情報の公表の禁止などがその例である。
1・・・妥当
表現の内容規制とは、ある表現が伝達しようとするメッセージの内容そのものを理由とした規制です。
次に書かれた「政府の転覆を煽動する文書の禁止、国家機密に属する情報の公表の禁止」などが、表現の内容規制の具体例です。
よって、本肢は妥当です。
そして、表現内容に着目した規制は、あらゆるチャネルにおいてそのメッセージの伝達を禁ずることになるから、きわめて強度の規制となります。
そのため、厳格な基準の審査が適用されます。
これがどういうことを意味しているかは個別指導で解説します。
2.表現の内容を理由とした規制であっても、高い価値の表現でないことを理由に通常の内容規制よりも緩やかに審査され、規制が許されるべきだとされる場合があり、営利を目的とした表現や、人種的憎悪をあおる表現などがその例である。

2・・・妥当

表現の内容を理由にした規制については、「高い価値の表現(例えば、政治的表現)」と「それ以外(たとえば、わいせつ的表現)」とを比べた場合、
高い価値の表現の内容規制については、非常に厳格に審査され、「それ以外(高い価値の表現以外)」については、緩やかな基準で審査されます。本肢の営利目的とした表現についても「それ以外」にあたります。
よって、妥当です。
この問題は、細かく解説しないと理解できないので、個別指導で解説します。

3.表現内容中立規制とは、表現が伝達しようとするメッセージの内容には直接関係なく行われる規制であり、学校近くでの騒音の制限、一定の選挙運動の制限などがその例である。
3・・・妥当
表現内容中立規制とは、「特定の時・場所・手段における表現を一般的に規制すること」をいいます(内容自体には規制はかかっていない)。
【具体例】
屋外の公告物を、危険の防止や美観の維持を目的とした規制
内容中立規制においては、あるチャネル(時・場所・手段)における表現が規制されたとしても他のチャネルが確保されている限り表現は可能です。
本肢のように、「学校近くでの騒音の制限」であれば、学校以外の場所で、表現をすればよいです。
これらは、内容自体には直接規制がかかっていません。
4.表現行為を事前に規制することは原則として許されないとされ、検閲は判例によれば絶対的に禁じられるが、裁判所による表現行為の事前差し止めは厳格な要件のもとで許容される場合がある。
4・・・妥当
下記、最大判昭61.6.11の判例によると、「出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止め」は、憲法21条2項の検閲に該当しないと言っています。
よって、本肢は妥当です。

事前差し止めが検閲にあたるかについての判例(最大判昭61.6.11)によると、「仮処分による事前差止めは、表現物の内容の網羅的一般的な審査に基づく事前規制が行政機関によりそれ自体を目的として行われる場合とは異なり、個別的な私人間の紛争について、司法裁判所により、当事者の申請に基づき差止請求権等の私法上の被保全権利の存否、保全の必要性の有無を審理判断して発せられるものであって、右判示にいう「検閲」にはあたらないものというべきである」としています。
さらに、同じ判例で
「出版物の頒布等の事前差止めは、このような事前抑制に該当するものであって、とりわけ、その対象が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等の表現行為に関するものである場合には、そのこと自体から、一般にそれが公共の利害に関する事項であるということができ、・・・その表現が私人の名誉権に優先する社会的価値を含み憲法上特に保護されるべきであることにかんがみると、当該表現行為に対する事前差止めは、原則として許されないものといわなければならない。ただ、右のような場合においても、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときは、当該表現行為はその価値が被害者の名誉に劣後することが明らかであるうえ、有効適切な救済方法としての差止めの必要性も肯定されるから、かかる実体的要件を具備するときに限って、例外的に事前差止めが許されるものというべきであり、このように解しても上来説示にかかる憲法の趣旨に反するものとはいえない」
としています。

5.表現行為の規制には明確性が求められるため、表現行為を規制する刑罰法規の法文が漠然不明確であったり、過度に広汎であったりする場合には、そうした文言の射程を限定的に解釈し合憲とすることは、判例によれば許されない。

5・・・妥当ではない

本肢は「許されない」が妥当ではないです。「許されることもある」とすれば妥当です。

最大判昭59.12.12の判例では、
「表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許されるのは、その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制し得るもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、一般国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができるものでなければならない」
としています。
つまり、表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈も場合によっては許されるので、本肢は妥当ではありません。
これは理解が必要なので、詳細解説は個別指導で行います!

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令和2年(2020年)過去問

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識・経済
問20 国家賠償法 問50 基礎知識・経済
問21 国家賠償法 問51 基礎知識・社会
問22 地方自治法 問52 基礎知識・経済
問23 地方自治法 問53 基礎知識・社会
問24 地方自治法 問54 基礎知識・社会
問25 情報公開法 問55 基礎知識・情報通信
問26 行政法 問56 基礎知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 基礎知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和2年・2020|問6|憲法

衆議院の解散に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

  1. 衆議院議員総選挙は、衆議院議員の任期が満了した場合と衆議院が解散された場合に行われるが、実際の運用では、任期満了による総選挙が過半数を占め、解散による総選挙は例外となっている。
  2. 内閣による衆議院の解散は、高度の政治性を有する国家行為であるから、解散が憲法の明文規定に反して行われるなど、一見極めて明白に違憲無効と認められる場合を除き、司法審査は及ばないとするのが判例である。
  3. 最高裁判所が衆議院議員選挙における投票価値の不均衡について憲法違反の状態にあると判断した場合にも、内閣の解散権は制約されないとするのが政府見解であるが、実際には、不均衡を是正しないまま衆議院が解散された例はない。
  4. 衆議院が内閣不信任案を可決し、または信任案を否決したとき、内閣は衆議院を解散できるが、この場合には、内閣によりすでに解散が決定されているので、天皇は、内閣の助言と承認を経ず、国事行為として衆議院議員選挙の公示を行うことができると解される。
  5. 天皇の国事行為は本来、厳密に形式的儀礼的性格のものにすぎない、と考えるならば、国事行為としての衆議院の解散の宣言について内閣が助言と承認の権能を有しているからといって、内閣が憲法上当然に解散権を有していると決めつけることはできない、という結論が導かれる。

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【答え】:5
【解説】
1.衆議院議員総選挙は、衆議院議員の任期が満了した場合と衆議院が解散された場合に行われるが、実際の運用では、任期満了による総選挙が過半数を占め、解散による総選挙は例外となっている。
1・・・妥当ではない
衆議院議員総選挙は、「衆議院議員の任期が満了した場合」と「衆議院が解散された場合」に行われます。
実際のところ、任期満了に伴う総選挙」は、これまでで1回だけ(昭和51年12月)であり、それ以外は「衆議院の解散に伴う総選挙」です。
2.内閣による衆議院の解散は、高度の政治性を有する国家行為であるから、解散が憲法の明文規定に反して行われるなど、一見極めて明白に違憲無効と認められる場合を除き、司法審査は及ばないとするのが判例である。

2・・・妥当ではない
内閣による衆議院の解散についての判例(最大判昭35.6.8)によると
「衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であって、かくのごとき行為について、その法律上の有効無効を審査することは司法裁判所の権限の外にありと解すべきことは既に前段説示するところによってあきらかである。そして、この理は、本件のごとく、当該衆議院の解散が訴訟の前提問題として主張されている場合においても同様であって、ひとしく裁判所の審査権の外にありといわなければならない」としています。
つまり、「内閣による衆議院の解散は、高度の政治性を有する国家行為であるから、司法審査は及ばない」ということです。したがって、「解散が憲法の明文規定に反して行われるなど、一見極めて明白に違憲無効と認められる場合を除き」が妥当ではありません。このような例外に関係なく、司法審査は及びません。

【対比ポイント】
「一見極めて明白に違憲無効」と認められる場合とはどんな場合か?
これは、砂川事件の判例(最判昭34.12.16)で記述されています。
この判例は、安全保障条約に司法審査が及ぶかが論点の一つとなっています。
ここでは、「本件安全保障条約は、主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであって、安全保障条約の内容が違憲か否かの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす。
それ故、右違憲か否かの法的判断は、司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものである。
そして、本件安全保障条約は、違憲無効であることが一見きわめて明白であるとは到底認められないため、司法審査は及ばない。」と判示しています。

3.最高裁判所が衆議院議員選挙における投票価値の不均衡について憲法違反の状態にあると判断した場合にも、内閣の解散権は制約されないとするのが政府見解であるが、実際には、不均衡を是正しないまま衆議院が解散された例はない。
3・・・妥当ではない
実際には、不均衡を是正しないまま衆議院が解散された例はあります。
例えば、1983年12月に行われた衆議院議員の総選挙では、その前の総選挙の投票価値の不均衡が是正されないまま行われました。
4.衆議院が内閣不信任案を可決し、または信任案を否決したとき、内閣は衆議院を解散できるが、この場合には、内閣によりすでに解散が決定されているので、天皇は、内閣の助言と承認を経ず、国事行為として衆議院議員選挙の公示を行うことができると解される。
4・・・妥当ではない
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、国会議員の総選挙の施行を公示します。(憲法7条4号)。
そのため、、天皇が公示するには、「内閣の助言と承認」を経ることが必要です。
5.天皇の国事行為は本来、厳密に形式的儀礼的性格のものにすぎない、と考えるならば、国事行為としての衆議院の解散の宣言について内閣が助言と承認の権能を有しているからといって、内閣が憲法上当然に解散権を有していると決めつけることはできない、という結論が導かれる。
5・・・妥当
天皇の国事行為は本来全て形式的儀礼的行為と考えられています。
この考え方すると、
内閣の助言と承認が必要な国事行為としての衆議院の解散の宣言があるが(憲法7条3号)、
内閣が助言と承認の権能を有しているからといって、内閣が憲法上当然に解散権を有していると決めつけることはできません。

実際、「内閣が解散権を有する」旨の憲法上の規定はありません。

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令和2年(2020年)過去問

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識・経済
問20 国家賠償法 問50 基礎知識・経済
問21 国家賠償法 問51 基礎知識・社会
問22 地方自治法 問52 基礎知識・経済
問23 地方自治法 問53 基礎知識・社会
問24 地方自治法 問54 基礎知識・社会
問25 情報公開法 問55 基礎知識・情報通信
問26 行政法 問56 基礎知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 基礎知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和2年・2020|問5|憲法

次の記述のうち、「議院の自律権」を前提としていないものはどれか。(改)

  1. 両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定めることができる。
  2. 両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。
  3. 両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
  4. 両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。
  5. 両議院は、各々院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。

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【答え】:2
【解説】
1.両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定めることができる。
1・・・議院の自律権を前提としている
議院の権能として「議院の自律権」と「国政調査権」の2つがあります。

議院の自律権

議院の自律権」とは、衆議院と参議院それぞれの自立性を尊重するために、各議院の自律権を認めて、内部的なことは、各議院が自主的に決定できるようにすること

具体的にどのような内容について自主的に決定できるのか、下記4つがあります。

  1. 議員の資格争訟裁判(55条)
  2. 役員の選任(58条1項)
  3. 議院の懲罰(58条2項)
  4. 議院規則の制定(58条2項)

国政調査権

憲法第62条
両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

国政調査権とは、国会の持つ立法権や行政権が適切に行使されているかを監視・調査を行う権利です。これは、各議院それぞれに与えられています。

■本問の「表両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定めることができる。」というのは、「議院規則の制定」です。
つまり、議院の自律権を前提とした権利です。

2.両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

2・・・議院の自律権を前提としていない
本肢の「両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」は、「国政調査権」です。
「国政調査権」は「議院の自律権」に基づく権利ではありません。

3.両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
3・・・議院の自律権を前提としている
本肢の「両議院は、各々その議長その他の役員を選任する」は、「役員の選任」にあたります。
これは、「議院の自律権」に基づく権利です。
4.両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。
4・・・議院の自律権を前提としている
本肢の「両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する」は、「議員の資格争訟裁判」です。
これは、「議院の自律権」に基づく権利です。
5.両議院は、各々院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。
5・・・議院の自律権を前提としている
本肢の「両議院は、各々院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる」は「議院の懲罰」にあたります。
これは、「議院の自律権」に基づく権利です。

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令和2年(2020年)過去問

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識・経済
問20 国家賠償法 問50 基礎知識・経済
問21 国家賠償法 問51 基礎知識・社会
問22 地方自治法 問52 基礎知識・経済
問23 地方自治法 問53 基礎知識・社会
問24 地方自治法 問54 基礎知識・社会
問25 情報公開法 問55 基礎知識・情報通信
問26 行政法 問56 基礎知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 基礎知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和3年・2021|問41|憲法

次の文章の空欄[ ア ]~[ エ ]に当てはまる語句を、枠内の選択肢(1~20)から選びなさい。

問題は、裁判員制度の下で裁判官と国民とにより構成される裁判体が、[ ア ]に関する様々な憲法上の要請に適合した「[ イ ]」といい得るものであるか否かにある。・・・(中略)・・・。
以上によれば、裁判員裁判対象事件を取り扱う裁判体は、身分保障の下、独立して職権を行使することが保障された裁判官と、公平性、中立性を確保できるよう配慮された手続の下に選任された裁判員とによって構成されるものとされている。また、裁判員の権限は、裁判官と共に公判廷で審理に臨み、評議において事実認定、[ ウ ]及び有罪の場合の刑の量定について意見を述べ、[ エ ]を行うことにある。これら裁判員の関与する判断は、いずれも司法作用の内容をなすものであるが、必ずしもあらかじめ法律的な知識、経験を有することが不可欠な事項であるとはいえない。さらに、裁判長は、裁判員がその職責を十分に果たすことができるように配慮しなければならないとされていることも考慮すると、上記のような権限を付与された裁判員が、様々な視点や感覚を反映させつつ、裁判官との協議を通じて良識ある結論に達することは、十分期待することができる。他方、憲法が定める[ ア ]の諸原則の保障は、裁判官の判断に委ねられている。
このような裁判員制度の仕組みを考慮すれば、公平な「[ イ ]」における法と証拠に基づく適正な裁判が行われること(憲法31条、32条、37条1項)は制度的に十分保障されている上、裁判官は[ ア ]の基本的な担い手とされているものと認められ、憲法が定める[ ア ]の諸原則を確保する上での支障はないということができる。

(最大判平成23年11月16日刑集65巻8号1285頁)

1. 憲法訴訟 2.民事裁判 3.裁決 4.行政裁判 5.情状酌量 6.判例との関係 7.司法権 8.公開法廷 9.判決 10.紛争解決機関 11.決定 12.法令の解釈 13.裁判所 14.人身の自由 15.立法事実 16.評決 17.参審制 18.議決 19.法令の適用 20.刑事裁判

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【答え】: ア:20.刑事裁判、イ:13.裁判所、ウ:19.法令の適用、エ:16.評決【解説】

問題は、裁判員制度の下で裁判官と国民とにより構成される裁判体が、[ ア:刑事裁判 ]に関する様々な憲法上の要請に適合した「[ イ:裁判所 ]」といい得るものであるか否かにある。・・・(中略)・・・。
以上によれば、裁判員裁判対象事件を取り扱う裁判体は、身分保障の下、独立して職権を行使することが保障された裁判官と、公平性、中立性を確保できるよう配慮された手続の下に選任された裁判員とによって構成されるものとされている。また、裁判員の権限は、裁判官と共に公判廷で審理に臨み、評議において事実認定、[ ウ:法令の適用 ]及び有罪の場合の刑の量定について意見を述べ、[ エ:評決 ]を行うことにある。これら裁判員の関与する判断は、いずれも司法作用の内容をなすものであるが、必ずしもあらかじめ法律的な知識、経験を有することが不可欠な事項であるとはいえない。さらに、裁判長は、裁判員がその職責を十分に果たすことができるように配慮しなければならないとされていることも考慮すると、上記のような権限を付与された裁判員が、様々な視点や感覚を反映させつつ、裁判官との協議を通じて良識ある結論に達することは、十分期待することができる。他方、憲法が定める[ ア:刑事裁判 ]の諸原則の保障は、裁判官の判断に委ねられている。
このような裁判員制度の仕組みを考慮すれば、公平な「[ イ:裁判所 ]」における法と証拠に基づく適正な裁判が行われること(憲法31条、32条、37条1項)は制度的に十分保障されている上、裁判官は[ ア:刑事裁判 ]の基本的な担い手とされているものと認められ、憲法が定める[ ア:刑事裁判 ]の諸原則を確保する上での支障はないということができる。

【ア】 「裁判員制度の下で裁判官と国民とにより構成される裁判体が、[ ア ]に関する様々な憲法上の要請に適合した「[ イ ]」といい得るものであるか否かにある。」

「裁判員制度の仕組みを考慮すれば、公平な「[ イ ]」における法と証拠に基づく適正な裁判が行われること(憲法31条、32条、37条1項)は制度的に十分保障されている上、裁判官は[ ]の基本的な担い手とされているものと認められ、憲法が定める[ ア ]の諸原則を確保する上での支障はないということができる。」

ア・・・20.刑事裁判

この空欄は、「裁判官は[ ]の基本的な担い手とされているものと認められ」が一番わかりやすいです。

裁判員裁判が対象としているのは「刑事裁判の第一審」です。

つまり、裁判官は、刑事裁判の基本的な担い手とされているといえます。

よって、アには、「刑事裁判」が入ります。

【イ】 「裁判員制度の下で裁判官と国民とにより構成される裁判体が、に関する様々な憲法上の要請に適合した「[ イ ]」といい得るものであるか否かにある。」「裁判員制度の仕組みを考慮すれば、公平な「[ イ ]」における法と証拠に基づく適正な裁判が行われること(憲法31条、32条、37条1項)は制度的に十分保障されている上、裁判官は[ ア ]の基本的な担い手とされているものと認められ、憲法が定める[ ア ]の諸原則を確保する上での支障はないということができる。」

イ・・・13.裁判所

公平な「何」における適正な裁判が行われることが、制度的に(法令により)保障されているのか?を考えます。

『「何」における』は「場所」を指す言葉でもあります。

適正な裁判を行う場所は「裁判所」なので、イには「裁判所」が入ります。

 

【ウ】 裁判員の権限は、裁判官と共に公判廷で審理に臨み、評議において事実認定、[ ウ ]及び有罪の場合の刑の量定について意見を述べ、[ エ ]を行うことにある。

ウ・・・19.法令の適用

裁判員裁判において、「①事実認定」「② 法令の適用・量刑」については、裁判員と裁判官の双方が話し合って決めますす。

一方、「③法解釈」は裁判官のみの権限となっています。

よって、問題文では、「事実認定」「量定(量刑)」が記載されているので、「ウ」には「法令の適用」が入ります。

【エ】 裁判員の権限は、裁判官と共に公判廷で審理に臨み、評議において事実認定、[ ウ ]及び有罪の場合の刑の量定について意見を述べ、[ エ ]を行うことにある。

エ・・・16.評決

証拠をすべて調べたら、今度は、「事実を認定」し、法令を適用して、被告人が有罪か無罪か、「有罪だとしたらどんな刑にするべきか」を、裁判官と一緒に議論し(評議)、決定する(評決)ことになります。

このように、合議制の裁判所で、裁判内容を確定するために評議・採決することを「評決」と言います

よって、エには「評決」が入ります。

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令和3年(2021年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政手続法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和3年・2021|問7|憲法

次の文章の空欄[ ア ]~[ オ ]に当てはまる語句の組合せとして、妥当なものはどれか。

国民投票制には種々の方法があるが、普通にこれを[ ア ]、[ イ ]及び[ ウ ]の三種に大別する。[ ア ]という言葉は、通俗には広く国民投票一般を意味するもののようにも用いられているが、その語の本来の意義は、代表者たる議会が一度議決した事柄を、主権者たる国民が確認又は否認して終局的に決定するということであって、国民表決という訳語も必ずしも正確ではない。・・・(中略)・・・。[ ア ]が議会の為したことの過誤を是正する手段であるのに対して、[ イ ]は議会が為さないことの怠慢を補完する方法である。即ち議会が国民の要望を採り上げないで、必要な立法を怠っている場合に、国民自ら法律案を提出し国民の投票によってその可否を決する制度である。・・・(中略)・・・。[ ウ ]即ち公務員を国民の投票によって罷免する制度は、元来選挙と表裏を成して人の問題を決定するもので、[ エ ]を前提とするものであるから、厳密な意味における[ オ ]ではないけれども、その思想及び制度の歴史に於いて他の国民投票制と形影相伴って発達して来たのみならず、その実行の方法に於いても、概ね共通しているから、通常やはり国民投票制の一種として取り扱われている。

(出典 河村又介「新憲法と民主主義」1948年から<原文の表記の一部を改めた。>」

  1. ア:レファレンダム イ:国民発案 ウ:国民拒否 エ:命令委任 オ:プレビシット
  2. ア:イニシアティブ イ:国民拒否 ウ:不信任投票 エ:直接民主制 オ:代議制
  3. ア:レファレンダム イ:国民発案 ウ:国民拒否 エ:代議制 オ:直接民主制
  4. ア:イニシアティブ イ:国民拒否 ウ:解職投票 エ:プレビシット オ:命令委任
  5. ア:レファレンダム イ:国民発案 ウ:解職投票 エ:代議制 オ:直接民主制

>解答と解説はこちら


【答え】:5

【解説】
ア.[ ア ]という言葉は、通俗には広く国民投票一般を意味するもののようにも用いられているが、その語の本来の意義は、代表者たる議会が一度議決した事柄を、主権者たる国民が確認又は否認して終局的に決定するということであって、国民表決という訳語も必ずしも正確ではない。

ア・・・レファレンダム
「国民投票」を意味する語句として正しいものは「レファレンダム」です。
「レファレンダム」とは、 憲法改正や法律の制定など重大な事項を定めるに際して、直接に国民投票によって賛否を求める制度。直接民主制の一形態で、日本では、憲法改正の際の国民投票や、地方自治特別法についての住民投票がレファレンダムに当たります。

政治における「イニシアチブ(国民発案ともいう)」とは、「国家・住民の発案権」を言います。

国や地方自治体の政治で、国民または住民の発言を認めることが「イニシアチブ」です。

イ.[ イ ]は議会が為さないことの怠慢を補完する方法である。即ち議会が国民の要望を採り上げないで、必要な立法を怠っている場合に、国民自ら法律案を提出し国民の投票によってその可否を決する制度である。
イ・・・国民発案
必要な立法を怠っている場合に、国民自ら法律案を提出することを「イニシアチブ(国民発案ともいう)」と言います。つまり、イには「国民発案」が入ります。

議会が仕事をしない(立法を作らない)といった、怠慢の状況の際に、国民自らが「このような法律を作るのはどうでしょうか?」と法律案を提出して、国民投票によってその可否を決する制度が「国民発案」です。

ウ.[ ウ ]即ち公務員を国民の投票によって罷免する制度

ウ・・・ 解職投票
「公務員を国民の投票によって罷免する制度」は「解職投票」です。

「不信任投票」新たに選出される候補者の信任を問うものです。
一方、解職投票は、既に任命されている者の解職を問うものである点で異なります。

エ.[ ウ:解職投票 ]即ち公務員を国民の投票によって罷免する制度は、元来選挙と表裏を成して人の問題を決定するもので、[ エ ]を前提とするものであるから、厳密な意味における[ オ ]ではないけれども、その思想及び制度の歴史に於いて他の国民投票制と形影相伴って発達して来たのみならず、その実行の方法に於いても、概ね共通しているから、通常やはり国民投票制の一種として取り扱われている。

エ・・・代議制
「代議制」は、選挙によって選ばれた代表者が国民の代表として政治を行うシステムです。ここで、選ばれた代表者を国民が罷免(やめさせる)のが「解職投票」です。

つまり、解職制度は、代議制を前提とするものと言えます。

分かりやすく言えば、「代議制で代表者を選んで → 解職投票で、選んだ代表者をやめさせる」という関係です。

オ.[ ウ:解職投票 ]即ち公務員を国民の投票によって罷免する制度は、元来選挙と表裏を成して人の問題を決定するもので、[ エ:代議制 ]を前提とするものであるから、厳密な意味における[ オ ]ではないけれども、その思想及び制度の歴史に於いて他の国民投票制と形影相伴って発達して来たのみならず、その実行の方法に於いても、概ね共通しているから、通常やはり国民投票制の一種として取り扱われている。

オ・・・直接民主
「解職投票は代議制を前提とするものであるため、厳密な意味における[ オ ]ではない。」と言っています。

代議制とは、国民が政治を行う代表者を選んで、その代表者が政治の意思決定を行います。

一方、直接民主制は、国民が自ら政治の意思決定を行います。例えば、国民投票や住民投票です。

つまり、「解職投票は代議制を前提とするものであるため、厳密な意味における[ オ:直接民主制 ]ではない。」ということです。

【参考知識】

「プレビシット」とは国民投票のことですが「レファレンダム(国民投票)」と少し異なる部分があります。

プレビシットは、政府や立法府がある政策を採用する前に、国民の意見を問い合わせる手段です。

一方、レファレンダムは、政府や立法府がある政策を採用した後に、国民による投票を行うことで、その政策の承認を得るかどうかを決定する手段です。

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令和3年(2021年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政手続法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和3年・2021|問6|憲法,国会

次の文章の空欄[ ア ]・[ イ ]に当てはまる語句の組合せとして、妥当なものはどれか。

憲法で、国会が国の「唯一の」立法機関であるとされるのは、憲法自身が定める例外を除き、[ ア ]、かつ、[ イ ]を意味すると解されている。
  1. ア:内閣の法案提出権を否定し(国会中心立法の原則) イ:議員立法の活性化を求めること(国会単独立法の原則)
  2. ア:国権の最高機関は国会であり(国会中心立法の原則) イ:内閣の独立命令は禁止されること(国会単独立法の原則)
  3. ア:法律は国会の議決のみで成立し(国会単独立法の原則) イ:天皇による公布を要しないこと(国会中心立法の原則)
  4. ア:国会が立法権を独占し(国会中心立法の原則) イ:法律は国会の議決のみで成立すること(国会単独立法の原則)
  5. ア:国権の最高機関は国会であり(国会中心立法の原則) イ:立法権の委任は禁止されること(国会単独立法の原則)

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【答え】:4
【解説】
憲法で、国会が国の「唯一の」立法機関であるとされるのは、憲法自身が定める例外を除き、[ア:国会が立法権を独占し(国会中心立法の原則)]、かつ、[イ:法律は国会の議決のみで成立すること(国会単独立法の原則)]を意味すると解されている。

本問は、「国会中心立法の原則」と「国会単独立法の原則」の内容を問う問題です。

国会中心立法の原則

「国会中心立法の原則」は、憲法によって特別定められたものを除いて、原則として国会を通して立法を行わなければならないという意味です。
例外として、両議院の規則制定権、内閣の政令制定権、裁判所の規則制定権、地方自治体の条例制定権は、国会を通さずに立法を行っているので、例外です。

国会単独立法の原則

「国会単独立法の原則」は、立法は国会だけで行い、国会以外の機関等は参加せずに、国会の議決だけで法律が成立するという原則をいいます。
例外としては、「①一の地方公共団体のみに適用される特別法への住民投票(95条)」「②憲法改正の国民投票(96条)」「③内閣の法案提出権」などがあり、①は、住民投票は、住民が参加しないと成立しない点で例外ですし、②は国民が参加しないと成立しない点で例外です。また、③については、法律の成立に内閣(行政機関)が参加している点で、例外といえます。

1.ア:内閣の法案提出権を否定し(国会中心立法の原則) イ:議員立法の活性化を求めること(国会単独立法の原則)

1・・・妥当ではない
「内閣の法案提出権」を否定しているのは、「国会単独立法の原則」です。よって、この点が妥当ではありません。

また、「議員立法の活性化を求めること」は、「国会単独立法の原則」を意味していないので、この点も妥当ではありません。

2.国権の最高機関は国会であり(国会中心立法の原則) イ:内閣の独立命令は禁止されること(国会単独立法の原則)

2・・・妥当ではない
「国権の最高機関は国会であり」というのは、「国会中心立法の原則」の意味ではありません。
憲法41条にある「国会は、国権の最高機関であって」の「最高機関」とは、国会議員が「国民」によって、直接選任され、その点で国会は国民に連結しており、国会は、国政の中心的地位を占める機関であることを強調する「ほめ言葉」のような意味で使われていて、法的な意味はありません。

「内閣の独立命令は禁止されること」は、「国会単独立法の原則」の意味ではありません。
「内閣の独立命令」とは、法律を無視して内閣が制定する政令のことですが、これは憲法73条6号本文「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。」の中の「憲法及び法律の規定を実施するために」について、「法律」を無視して「憲法の規定を実施するために」と考えているため、憲法にさえ沿っていれば法律に違反していても政令が下せるという解釈の下にある命令です。しかし、現在は認められていません。

3.ア:法律は国会の議決のみで成立し(国会単独立法の原則) イ:天皇による公布を要しないこと(国会中心立法の原則)

3・・・妥当ではない
「法律は国会の議決のみで成立し」とは、「国会単独立法の原則」ですが、イの「天皇による公布を要しないこと」は、「国会中心立法の原則」ではないので、妥当ではありません。

4.ア:国会が立法権を独占し(国会中心立法の原則) イ:法律は国会の議決のみで成立すること(国会単独立法の原則)

4・・・妥当
「国会が立法権を独占している」とは、「国会を通して立法を行わなければならない」「立法する場合、国会を通す必要がある」ということなので「国会中心立法の原則」です。

また、「法律は国会の議決のみで成立する」ことは、「国会単独立法の原則」を意味します。

よって、妥当です。

5.ア:国権の最高機関は国会であり(国会中心立法の原則) イ:立法権の委任は禁止されること(国会単独立法の原則)

5・・・妥当ではない
「国権の最高機関は国会であり」とは「国会中心立法の原則」を意味するものではありません。(選択肢2の解説参照)

また、「立法権の委任は禁止されること」は、「国会単独立法の原則」の意味ではありません。
そして、「国会単独立法の原則」は、立法権の委任は禁止してはいません。

この点は理解するのが難しい部分なので、個別指導で解説します!

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令和3年(2021年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政手続法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和3年・2021|問5|憲法,政教分離

地方公共団体がその土地を神社の敷地として無償で提供することの合憲性に関連して、最高裁判所判決で考慮要素とされたものの例として、妥当でないものはどれか。

  1. 国または地方公共団体が国公有地を無償で宗教的施設の敷地として提供する行為は、一般に、当該宗教的施設を設置する宗教団体等に対する便宜の供与として、憲法89条*との抵触が問題となる行為であるといわなければならない。
  2. 一般的には宗教的施設としての性格を有する施設であっても、同時に歴史的、文化財的な保護の対象となったり、観光資源、国際親善、地域の親睦の場としての意義を有するなど、文化的・社会的な価値に着目して国公有地に設置されている場合もあり得る。
  3. 日本では、多くの国民に宗教意識の雑居性が認められ、国民の宗教的関心が必ずしも高いとはいえない一方、神社神道には、祭祀儀礼に専念し、他の宗教にみられる積極的な布教・伝道などの対外活動をほとんど行わないという特色がみられる。
  4. 明治初期以来、一定の社寺領を国等に上知(上地)させ、官有地に編入し、または寄附により受け入れるなどの施策が広く採られたこともあって、国公有地が無償で社寺等の敷地として供される事例が多数生じており、これが解消されないまま残存している例もある。
  5. 当該神社を管理する氏子集団が、宗教的行事等を行うことを主たる目的とする宗教団体であり、寄附等を集めて当該神社の祭事を行っている場合、憲法89条*の「宗教上の組織若しくは団体」に該当するものと解される。

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【答え】:3
【解説】
1.国または地方公共団体が国公有地を無償で宗教的施設の敷地として提供する行
為は、一般に、当該宗教的施設を設置する宗教団体等に対する便宜の供与として、憲法89条*との抵触が問題となる行為であるといわなければならない。

1・・・妥当
問題文は「神社」となっておりますので
「孔子廟判決」ではなく、平成22年の判例の内容で考えていただいて大丈夫です。

判例(最大判平22.1.20)によると

国又は地方公共団体が国公有地を無償で宗教的施設の敷地としての用に供する行為は,一般的には,当該宗教的施設を設置する宗教団体等に対する便宜の供与として,憲法89条との抵触が問題となる行為であるといわなければならない。(選択肢1

もっとも,国公有地が無償で宗教的施設の敷地としての用に供されているといっても,当該施設の性格や来歴,無償提供に至る経緯,利用の態様等には様々なものがあり得ることが容易に想定されるところである。例えば,一般的には宗教的施設としての性格を有する施設であっても,同時に歴史的,文化財的な建造物として保護の対象となるものであったり,観光資源,国際親善,地域の親睦の場などといった他の意義を有していたりすることも少なくなく,それらの文化的あるいは社会的な価値や意義に着目して当該施設が国公有地に設置されている場合もあり得よう。(選択肢2

また,我が国においては,明治初期以来,一定の社寺領を国等に上知(上地)させ,官有地に編入し,又は寄附により受け入れるなどの施策が広く採られたこともあって,国公有地が無償で社寺等の敷地として供される事例が多数生じた。(選択肢4

このような事例については,戦後,国有地につき「社寺等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律」が公布され,公有地についても同法と同様に譲与等の処分をすべきものとする内務文部次官通牒が発出された上,これらによる譲与の申請期間が経過した後も,譲与,売払い,貸付け等の措置が講じられてきたが,それにもかかわらず,現在に至っても,なおそのような措置を講ずることができないまま社寺等の敷地となっている国公有地が相当数残存していることがうかがわれるところである。

これらの事情のいかん(内容によっては)は,当該利用提供行為が,一般人の目から見て特定の宗教に対する援助等と評価されるか否かに影響するものと考えられるから,政教分離原則との関係を考えるに当たっても,重要な考慮要素とされるべきものといえよう

そうすると,国公有地が無償で宗教的施設の敷地としての用に供されている状態が,前記の見地から,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えて憲法89条に違反するか否かを判断するに当たっては,当該宗教的施設の性格,当該土地が無償で当該施設の敷地としての用に供されるに至った経緯,当該無償提供の態様,これらに対する一般人の評価等,諸般の事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すべきものと解するのが相当である。』

としています。よって、選択肢1、2、4については「地方公共団体がその土地を神社の敷地として無償で提供することの合憲性」の考慮要素とされたものの例なので、妥当です。

2.一般的には宗教的施設としての性格を有する施設であっても、同時に歴史的、文化財的な保護の対象となったり、観光資源、国際親善、地域の親睦の場としての意義を有するなど、文化的・社会的な価値に着目して国公有地に設置されている場合もあり得る。

2・・・妥当

選択肢1の解説参照

3.日本では、多くの国民に宗教意識の雑居性が認められ、国民の宗教的関心が必ずしも高いとはいえない一方、神社神道には、祭祀儀礼に専念し、他の宗教にみられる積極的な布教・伝道などの対外活動をほとんど行わないという特色がみられる。

3・・・妥当ではない

判例最大判昭52.7.13:津地鎮祭事件)によると、

元来、わが国においては、多くの国民は、地域社会の一員としては神道を、個人としては仏教を信仰するなどし、冠婚葬祭に際しても異なる宗教を使いわけてさしたる矛盾を感ずることがないというような宗教意識の雑居性が認められ、国民一般の宗教的関心度は必ずしも高いものとはいいがたい。他方、神社神道自体については、祭祀儀礼に専念し、他の宗教にみられる積極的な布教・伝道のような対外活動がほとんど行われることがないという特色がみられる。・・・問題文の内容

このような事情と前記のような起工式に対する一般人の意識に徴すれば、建築工事現場において、たとえ専門の宗教家である神職により神社神道固有の祭祀儀礼に則つて、起工式が行われたとしても、それが参列者及び一般人の宗教的関心を特に高めることとなるものとは考えられず、これにより神道を援助、助長、促進するような効果をもたらすことになるものとも認められない。

そして、このことは、国家が主催して、私人と同様の立場で、本件のような儀式による起工式を行つた場合においても、異なるものではなく、そのために、国家と神社神道との間に特別に密接な関係が生じ、ひいては、神道が再び国教的な地位をえたり、あるいは信教の自由がおびやかされたりするような結果を招くものとは、とうてい考えられないのである。

以上の諸事情を総合的に考慮して判断すれば、本件起工式(市が主催した市立体育館の起工式)は、宗教とかかわり合いをもつものであることを否定しえないが、その目的は建築着工に際し土地の平安
堅固、工事の無事安全を願い、社会の一般的慣習に従つた儀礼を行うという専ら世
俗的なものと認められ、その効果は神道を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められないのであるから、憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動にはあたらないと解するのが、相当である。』

問題文の内容は、「市が主催した市立体育館の起工式が、合憲なのか違憲なのかを判断する際に考慮した要素の内容です

一方、本問で問われているのは「地方公共団体がその土地を神社の敷地として無償で提供することの合憲性」の考慮要素ではないので、妥当ではないです。

4.明治初期以来、一定の社寺領を国等に上知(上地)させ、官有地に編入し、または寄附により受け入れるなどの施策が広く採られたこともあって、国公有地が無償で社寺等の敷地として供される事例が多数生じており、これが解消されないまま残存している例もある。

4・・・妥当

選択肢1の解説参照

5.当該神社を管理する氏子集団が、宗教的行事等を行うことを主たる目的とする
宗教団体であり、寄附等を集めて当該神社の祭事を行っている場合、憲法89条*の宗教上の組織若しくは団体」に該当するものと解される。

5・・・妥当

選択肢1と同様の判例(最大判平22.1.20)によると

本件神社物件を管理し,上記のような祭事を行っているのは,本件利用提供行為の直接の相手方である本件町内会ではなく,本件氏子集団である。本件氏子集団は,前記のとおり,町内会に包摂される団体ではあるものの,町内会とは別に社会的に実在しているものと認められる。
そして,この氏子集団は,宗教的行事等を行うことを主たる目的としている宗教団体であって,寄附を集めて本件神社の祭事を行っており,憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に当たるものと解される。

しかし,本件氏子集団は,祭事に伴う建物使用の対価を町内会に支払うほかは,本件神社物件の設置に通常必要とされる対価を何ら支払うことなく,その設置に伴う便益を享受している。すなわち,本件利用提供行為は,その直接の効果として,氏子集団が神社を利用した宗教的活動を行うことを容易にしているものということができる。

そうすると,本件利用提供行為は,市が,何らの対価を得ることなく本件各土地上に宗教的施設を設置させ,本件氏子集団においてこれを利用して宗教的活動を行うことを容易にさせているものといわざるを得ず,一般人の目から見て,市が特定の宗教に対して特別の便益を提供し,これを援助していると評価されてもやむを得ないものである。前記事実関係等によれば,本件利用提供行為は,もともとは小学校敷地の拡張に協力した用地提供者に報いるという世俗的,公共的な目的から始まったもので,本件神社を特別に保護,援助するという目的によるものではなかったことが認められるものの,明らかな宗教的施設といわざるを得ない本件神社物件の性格,これに対し長期間にわたり継続的に便益を提供し続けていることなどの本件利用提供行為の具体的態様等にかんがみると,本件において,当初の動機,目的は上記評価を左右するものではない。

以上のような事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すると,本件利用提供行為は,市と本件神社ないし神道とのかかわり合いが,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとして,憲法89条の禁止する公の財産の利用提供に当たり,ひいては憲法20条1項後段の禁止する宗教団体に対する特権の付与にも該当すると解するのが相当である。』

つまり、宗教的行事等を行うことを主たる目的としている氏子集団が、憲法89条の宗教上の組織若しくは団体」に該当することは、「地方公共団体がその土地を神社の敷地として無償で提供することの合憲性」の考慮要素の一つなので、妥当です。

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令和3年(2021年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政手続法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和3年・2021|問3|憲法

インフルエンザウイルス感染症まん延防止のため、政府の行政指導により集団的な予防接種が実施されたところ、それに伴う重篤な副反応により死亡したXの遺族が、国を相手取り損害賠償もしくは損失補償を請求する訴訟を提起した(予防接種と副反応の因果関係は確認済み)場合に、これまで裁判例や学説において主張された憲法解釈論の例として、妥当でないものはどれか。

  1. 予防接種に伴う特別な犠牲については、財産権の特別犠牲に比べて不利に扱う理由はなく、後者の法理を類推適用すべきである。
  2. 予防接種自体は、結果として違法だったとしても無過失である場合には、いわゆる谷間の問題であり、立法による解決が必要である。
  3. 予防接種に伴い、公共の利益のために、生命・身体に対する特別な犠牲を被った者は、人格的自律権の一環として、損失補償を請求できる。
  4. 予防接種による違法な結果について、過失を認定することは原理的に不可能なため、損害賠償を請求する余地はないというべきである。
  5. 財産権の侵害に対して損失補償が出され得る以上、予防接種がひき起こした生命・身体への侵害についても同様に扱うのは当然である。

>解答と解説はこちら


【答え】:4
【解説】
1.予防接種に伴う特別な犠牲については、財産権の特別犠牲に比べて不利に扱う
理由はなく、後者の法理を類推適用すべきである。

1・・・妥当

予防接種に伴う特別な犠牲について、判例(東京地判昭和59年5月18日)では下記のように言っています。

憲法29条3項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」と規定しており、公共のためにする財産権の制限が、社会生活上一般に受忍すべきものとされる限度を超え、特定の個人に対し、特別の財産上の犠牲を強いるものである場合には、これについて損失補償を認めた規定がなくても、直接憲法29条3項を根拠として補償請求をすることができないわけではないと解される。

そして、右憲法13条後段、25条1項の規定の趣旨に照らせば、『財産上特別の犠牲が課せられた場合』と『生命、身体に対し特別の犠牲が課せられた場合』とで、後者の方を不利に扱うことが許されるとする合理的理由は全くない

従つて、生命、身体に対して特別の犠牲が課せられた場合(後者)においても、右憲法29条3項を類進適用し、かかる犠牲を強いられた者は、直接憲法29条3項に基づき、被告国に対し正当な補償を請求することができると解するのが相当である。

よって、本問は妥当です!

2.予防接種自体は、結果として違法だったとしても無過失である場合には、いわ
ゆる谷間の問題であり、立法による解決が必要である。

2・・・妥当

「国家補償」は「国家賠償」と「損失補償」とがあり、

「国家賠償」は、公権力の行使を行った公務員の「故意または過失」による「違法行為」が対象です。一方、

「損失補償」は、「適法」な公権力の行使による損害が対象です。

そうすると、「予防接種が違法だけど無過失」となると、「国家賠償・損失補償」のどちらも対象ではないことになります(いわゆる谷間の問題)。

これについて、学説では「立法による解決が必要である」という考え方があります。

よって、妥当です。

3.予防接種に伴い、公共の利益のために、生命・身体に対する特別な犠牲を被っ
た者は、人格的自律権の一環として、損失補償を請求できる。

3・・・妥当

憲法13条の学説として「予防接種に伴い、公共の利益のために、生命・身体に対する特別な犠牲を被った者は、人格的自律権の一環として、損失補償を請求できる。」としています。これはそのまま覚えればよいでしょう!

4.予防接種による違法な結果について、過失を認定することは原理的に不可能な
ため、損害賠償を請求する余地はないというべきである。

4・・・妥当ではない

「予防接種が違法だった場合、過失を認定することは不可能だから、損害賠償を請求する余地はない」という判例や学説はないので、妥当ではありません。

5.財産権の侵害に対して損失補償が出され得る以上、予防接種がひき起こした生
命・身体への侵害についても同様に扱うのは当然である。

5・・・妥当

判例(大阪地裁昭和62年9月30日)によると、

「憲法29 条 3 項で公共のために財産権につきなされた特別な犠牲に対して損失補償の必要を規定しているところよりすれば、憲法は、右 29 条 3 項の規定の当然の合意として、公共のためになされた本件各予防接種のような予防接種により本件各被害
児がその生命、身体に受けたような特別な犠牲である副作用による重篤な被害に対して、財産権につき保障している損失補償を下廻ることのない、換言すれば、右財産権につき保障している補償と少なくとも同程度の損失補償が必要であることを規定しているものと解するのが相当である」とした。

そして、上記解釈は、「憲法 29 条 3 項は、財産権について公共のための特別な犠牲がある場合には、これにつき損失補償を認めた規定がなくても、直接同条項を根拠として補償請求をすることができるものと解されているところ、この解釈が、生命、身体について前記特別な犠牲がある場合においても妥当することは勿論である」として、29 条 3 項の勿論解釈により認められると明確に判示した。

つまり、財産権の侵害に対して損失補償が出され得る以上、予防接種がひき起こした生命・身体への侵害についても同様に扱うのは当然であるということです。

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令和3年(2021年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政手続法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和3年・2021|問4|憲法,プライバシー権

捜査とプライバシーに関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 個人の容ぼうや姿態は公道上などで誰もが容易に確認できるものであるから、個人の私生活上の自由の一つとして、警察官によって本人の承諾なしにみだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を認めることはできない。
  2. 憲法は、住居、書類および所持品について侵入、捜索および押収を受けることのない権利を定めるが、その保障対象には、住居、書類および所持品に限らずこれらに準ずる私的領域に侵入されることのない権利が含まれる。
  3. 電話傍受は、通信の秘密や個人のプライバシーを侵害するが、必要性や緊急性が認められれば、電話傍受以外の方法によって当該犯罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが可能な場合であっても、これを行うことが憲法上広く許容される。
  4. 速度違反車両の自動撮影を行う装置により運転者本人の容ぼうを写真撮影することは憲法上許容されるが、運転者の近くにいるため除外できないことを理由としてであっても、同乗者の容ぼうまで撮影することは許されない。
  5. GPS端末を秘かに車両に装着する捜査手法は、車両使用者の行動を継続的・網羅的に把握するものであるが、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりする手法と本質的に異ならず、憲法が保障する私的領域を侵害するものではない。

>解答と解説はこちら


【答え】:2
【解説】
1.個人の容ぼうや姿態は公道上などで誰もが容易に確認できるものであるから、個人の私生活上の自由の一つとして、警察官によって本人の承諾なしにみだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を認めることはできない。

1・・・妥当ではない

判例によると、

「憲法13条は、国民の私生活上の自由が、国家権力に対しても保護されることを規定している。
そして、個人の私生活上の自由として、承諾なしに、みだりにその容ぼう等を撮影されない自由をする。」

と判示しています。

よって、「警察官によって本人の承諾なしにみだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を認めることはできない」は妥当ではありません。

 

2.憲法は、住居、書類および所持品について侵入、捜索および押収を受けることのない権利を定めるが、その保障対象には、住居、書類および所持品に限らずこれに準ずる私的領域に侵入されることのない権利が含まれる。

2・・・妥当

判例(最大判平29.3.15)では、

『憲法35条は,「住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を
受けることのない権利」を規定しているところ,この規定の保障対象には,「住
居,書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのな
い権利が含まれるものと解するのが相当である。』としています。

よって、本肢は妥当です。

 

3.電話傍受は、通信の秘密や個人のプライバシーを侵害するが、必要性や緊急性が認められれば、電話傍受以外の方法によって当該犯罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが可能な場合であっても、これを行うことが憲法上広く許容される。

3・・・妥当ではない

「電話傍受」とは、「通話内容を盗聴すること」です!

そして、判例(最判平11.12.16)によると

電話傍受は、通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分であるが、一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されないものではないと解すべきであって、このことは所論も認めるところである。

そして、重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である。』

つまり、後半部分の「電話傍受以外の方法によって当該犯罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが可能な場合であっても、これを行うことが憲法上広く許容される。」が妥当ではありません。

正しくは、「電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許される」です。

分かりやい解説は個別指導で解説いたします!

 

4.速度違反車両の自動撮影を行う装置により運転者本人の容ぼうを写真撮影することは憲法上許容されるが、運転者の近くにいるため除外できないことを理由としてであっても、同乗者の容ぼうまで撮影することは許されない。

4・・・妥当ではない

判例(最判昭61.2.14)によると

『速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置(オービス)による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいつて緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法一三条(プライバシー権)に違反せず、また、右写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになつても、憲法一三条、二一条(通信の秘密)に違反しない

としています。

よって、本問は「運転者の近くにいるため除外できないことを理由としてであっても、同乗者の容ぼうまで撮影することは許されない」が妥当ではありません。

正しくは「運転者の近くにいるため除外できないことを理由として、同乗者の容ぼうまで撮影することは許される」です。

 

5.GPS端末を秘かに車両に装着する捜査手法は、車両使用者の行動を継続的・網羅的に把握するものであるが、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりする手法と本質的に異ならず、憲法が保障する私的領域を侵害するものではない。

5・・・妥当ではない

判例(最大判平29.3.15)では、

『GPS捜査は,対象車両の時々刻々の位置情報を検索し,把握すべく行われるものであるが,その性質上,公道上のもののみならず,個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて,対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得るものであり,また,そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において,公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり,公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。』

よって、本肢は妥当ではありません。

分かりやすい解説は個別指導で解説します!

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令和3年(2021年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政手続法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略