民法の無料テキスト

占有権

占有権とは?

占有権というのは、「物を現実に支配している」状態を法的に保護するための権利です。

そして、物を支配している者が、その物について法律上の根拠(例えば所有権や賃借権等)を有しているかどうかを問いません。

つまり、物を盗んだ人にも占有権を有します。

占有権の成立要件

占有権は①自己のためにする意思をもって、②物を所持することによって取得します(民法180条)。

占有の種類

占有の種類については、着目する内容によって「自主占有と他主占有」と「自己占有と代理占有」で考えることができます。

自主占有と他主占有

所有の意思を持っているかどうかで区別します。

自主占有」とは、所有の意思を持って占有している場合を言います。

他主占有」とは、所有の意思を持たずに占有している場合を言います。例えば、不動産の賃借人がその不動産を占有するのは、その所有者として占有しているわけではないので、他主占有です。

自己占有と代理占有

誰が実際に占有しているのか、また、誰を介して事実上占有しているかで区別をします。

自己占有(直接占有)」とは、自ら物を直接占有している場合を言います。

代理占有(間接占有)」とは、他人の占有を通して占有している場合を言います。

例えば、A所有の時計を、Bに貸して、Bが時計を占有した場合、Bが自己占有をしていて、Aが代理占有をしています。

占有権の譲渡

占有権の譲渡には、原則として「現実の引渡し」があり、例外的に、「簡易の引渡し」「占有改定」「指図による占有移転」があります。

現実の引渡し:原則

占有権の譲渡は、原則、占有物の現実に引渡すことによってします(民法182条1項:現実の引渡し)。

簡易の引渡し

すでに占有権の譲受人が占有物を所持している場合、意思表示だけで占有権を譲受人に移転することができます(民法182条2項:簡易の引渡し)。

例えば、賃借人が、すでに賃借物を譲り受けていたり、質権者がすでに質物を譲り受けている場合、意思表示だけで占有権は譲渡されます。

 

占有改定

占有改定とは、占有権の譲渡人が、引き続き物の所持をしながら、意思表示のみで譲受人に占有権を譲渡する方法です(民法183条)。

例えば、A所有の時計について、買主Bとして、AB間で売買契約を締結したとします。そして、売買契約締結後も、Aが時計を所持しながら、占有権をBに譲渡する場合、「占有改定による引渡し」をしたことになります。

指図による占有移転

指図による占有移転とは、①目的物を間接占有していた本人(間接占有者)が、占有代理人(直接占有者)に対して、以後、第三者のためにその目的物を占有することを命じ②当該第三者がこれを承諾することによって成立する引渡しです。

例えば、A所有の建物について、AがBに賃貸し、Bが建物に住んでいた。(間接占有者A、直接占有者B)

ここで、Aが当該建物を第三者Cに売却し、移転登記しただけ(引渡しはしていない)では第三者Cに占有権は譲渡されません。

①AがBに対して「今後はCのために占有してください」と命じ②第三者Cが承諾すれば、占有権はCに譲渡されます。

占有権の効力

善意の占有者は果実の取得する

善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得します(民法189条)。

「占有物から生ずる果実」とは、例えば、「目的物を賃貸した場合の賃料」、「占有している土地に果物の木を植えてできた果物」です。

悪意の占有者は果実の返還しなければならない

悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負います(民法190条1項)。

「悪意の占有者」とは、占有する権原がないと知っていて、他人の物を占有しているような人です。イメージとしては不法占有者です。

また、「暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者」も同様の返還義務を負います(民法190条2項)。

占有権の消滅

■自己占有の場合、占有権は、①占有者が占有の意思を放棄し、又は②占有物の所持を失うことによって消滅します(民法203条本文)。

ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、占有権は消滅しません(民法203条ただし書)。

■代理占有の場合、占有権は、下記1~3のいずれかに該当するとき消滅します(民法204条1項)。

  1. 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。
  2. 代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。
  3. 代理人が占有物の所持を失ったこと。

占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しません(民法204条2項)。この「代理権」とは「占有代理権」のことを言っています。

例えば、賃貸借が終了した場合、本人と代理人との間の占有代理関係は消滅します。しかし、2項の通り、代理占有そのものは当然には消滅しません。

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。 もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。 個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。 また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています! 令和4年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう! 個別指導の概要はこちら>>

民法テキストの目次

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参考条文

(占有権の取得)
第180条 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。

(代理占有)
第181条 占有権は、代理人によって取得することができる。

(現実の引渡し及び簡易の引渡し)
第182条 占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。
2 譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。

(占有改定)
第183条 代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。

(指図による占有移転)
第184条 代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。

(占有の性質の変更)
第185五条 権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。

(占有の態様等に関する推定)
第186条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

(占有の承継)
第187条 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
2 前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。

(占有物について行使する権利の適法の推定)
第188条 占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。

(善意の占有者による果実の取得等)
第189条 善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
2 善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。

(悪意の占有者による果実の返還等)
第190条 悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
2 前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。

(占有者による損害賠償)
第191条 占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、その回復者に対し、悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い、善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。ただし、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければならない。

(占有者による費用の償還請求)
第196条 占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

(占有権の消滅事由)
第203条 占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。

(代理占有権の消滅事由)
第204条 代理人によって占有をする場合には、占有権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。
二 代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。
三 代理人が占有物の所持を失ったこと。
2 占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない。

即時取得

即時取得とは?

「即時取得」とは、簡単にいえば、他人が所有する動産が自分のモノになってしまう制度です。

例えば、A所有の時計を、Bが借りていたとします。
(時計の所有者・貸主A、時計の占有者・借主B)

その後、Cが、Bからこの時計を買いました。

この場合、Cは、時計を所有者Aに返さないといけないか?

答えは、下記の一定要件を満たすと、即時取得が成立して、この時計はCのモノとなります。

つまり、Cは所有者Aに時計を返さなくても良いことになります。これが「即時取得」です。

即時取得の成立要件

下記3つをすべて満たすとき、即時取得が成立します(民法192条)。

  1. 目的物は動産であること
  2. 有効な取引行為によること
  3. 平穏、公然、善意無過失で占有を始めること

要件1:目的物は動産であること

目的物は動産である必要があります。上記事例も「時計」で動産なので、即時取得は可能です。

一方、不動産は即時取得できません

不動産について即時取得できない理由は個別指導で解説します。

要件2:有効な取引行為によること

「有効な取引行為」とは、例えば、売買契約や贈与契約、質権設定契約などがあります。

【有効な取引とならないものの具体例】

  1. 制限行為能力者とした取引
  2. 錯誤や詐欺、強迫、無権代理などの取り消すことができる取引
  3. 相続によって取得した場合

要件3:平穏、公然、善意無過失で占有を始めること

平穏・公然・善意は推定されます(民法186条1項)。

無過失も推定されます(民法188条、最判昭41.6.9

上記判例から、占有者は、192条(即時取得の要件)の「過失がない」ことを立証する責任はありません。

即時取得の効果

即時取得すると、即時にその動産について行使する権利(所有権や質権等)を取得する。

盗品又は遺失物についての特例

占有物が盗品(盗まれた場合)又は遺失物であるとき(失くした場合)、被害者又は遺失者は、「盗難又は遺失の時から2年間」、占有者に対してその物の回復(取り戻し)を請求することができます(民法193条)。

即時取得の規定は、取引の安全を図るためのルールですが、反面、原権利者(一番上の事例でいうと所有者A)の権利を奪うことになります。そこで、所有者Aの意思に基づかないで占有を離れた物については、あとで取戻し(回復請求)ができるようにしています。

そして、この回復請求をするには、占有者が支払った代価を弁償する必要はありません

占有者が盗品又は遺失物を、競売や市場で、善意で購入した場合

上記の通り、原則、無償で物を取り戻すことができるのですが

占有者が、「盗品又は遺失物」を、「競売若しくは公の市場(店舗)等」で、「善意」で買い受けたときは、「被害者又は遺失者」は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができません(民法194条)。

つまり、占有者がお店で購入したのであれば、その代金を支払って、原権利者(所有者A)は回復請求できるということです。

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。 もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。 個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。 また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています! 令和4年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう! 個別指導の概要はこちら>>

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参考条文

(即時取得)
第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

(盗品又は遺失物の回復)
第193条 前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

第194条 占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。

消滅時効

消滅時効とは?

消滅時効とは、一定期間、権利を行使しないと、その権利が消滅してしまう制度です。

例えば、あなたが友人Aに、100万円を貸して、返済期限から10年間一度も請求をせずに放っておくと、あなたのAに対して有する「100万円の貸金債権」は時効により消滅してしまい、以後、あなたはAに対して100万円の返済を請求できなくなってしまいます。

消滅時効期間と起算点の原則

一般的な債権の消滅時効

下記2つのいずれかに該当すると、債権は時効によって消滅します(民法166条1項)。つまり、消滅時効の起算点は2つあります。

  1. 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
  2. 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき

1は、「債権者が知ることができた時」という債権者の主観的な時が起算点なので、主観的起算点と言います。

2は、「権利行使することができる時」となっており、債権者が知ったかどうかは関係なく、客観的な時が起算点なので、客観的起算点と言います。

所有権の消滅時効

所有権に消滅時効はありません。つまり、所有権を行使していない(ずっと使用していない)からといって、それが理由で、所有権が消滅することはありません。

これは、関連ポイントも理解していただきたいので個別指導で解説します。

債権又は所有権以外の財産権

「債権又は所有権以外の財産権」とは、例えば、用益物権である「地上権、永小作権、地役権」や「抵当権」です。

債権又は所有権以外の財産権」は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法166条2項)。

抵当権」の場合、上記の通り、時効期間は20年ですが、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しません(民法396条)。

これは、どういうことかを理解していただきたいので個別指導で解説します。

例外的な消滅時効期間と起算点

人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効は、下記2つのいずれかに該当すると、債権は時効によって消滅します(民法167条1項)。

  1. 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
  2. 権利を行使することができる時から20年間行使しないとき

人の生命や身体は、大切なものだから、2について「原則の10年」から「20年」に延長しています。

具体例がないと理解しづらいので、具体例は個別指導で解説します。

不法行為による損害賠償請求権の消滅時効

不法行為による損害賠償の請求権は、下記2つのいずれかに該当すると、時効によって消滅する(民法724条)。

  1. 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき
  2. 不法行為の時から20年間行使しないとき。

人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効

人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、上記1の「3年間」とあるのは、「5年間」と延長になります(民法724条の2)。これも、人の生命や身体は大切なものだから延長しています。

上記については、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効」との違いが理解しづらいので、理解の仕方は、個別指導で解説します。

定期金債権の消滅時効

「定期金債権」とは、年金債権のように、一定額を一定期間請求できる権利を言います。

定期金の債権は、下記2つのいずれかに該当すると、時効によって消滅します(民法168条)。

  1. 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないとき。
  2. 前号に規定する各債権を行使することができる時から20年間行使しないとき。

この点は細かく理解しないとひっかけ問題にひっかかるので、細かい部分は個別指導で解説します。

判決で確定した権利の消滅時効

確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利」については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年となります(民法169条1項)。

ただし、確定の時に弁済期の到来していない債権については、10年とはならず、その債権の時効期間が適用されます(民法169条2項)。

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。 もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。 個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。 また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています! 令和4年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう! 個別指導の概要はこちら>>

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参考条文

(債権等の消滅時効)
第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)
第167条 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「十年間」とあるのは、「二十年間」とする。

(定期金債権の消滅時効)
第168条 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき。
二 前号に規定する各債権を行使することができる時から二十年間行使しないとき。
2 定期金の債権者は、時効の更新の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。

(判決で確定した権利の消滅時効)
第169条 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。
2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。

(抵当権の消滅時効)
第396条 抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条の2 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。

取得時効

取得時効とは?

取得時効とは、所有の意思をもって、物を一定期間占有したとき、その物の所有権を取得することができる制度を言います(民法162条)。

取得時効の要件

下記5つの要件全てを満たすことで、その「物」の所有権を時効取得できます。

  1. 時効の認められる権利である
    → 所有権、地上権、賃借権、地役権、永小作権
  2. 所有の意思がある
    → 他人に物を貸すという間接的な占有でもよい
  3. 一定の期間占有している
    占有を始めた時から下記期間占有している
    ・占有開始時に善意無過失(過失なく自分のものと思っていた)→10年間
    ・占有開始時に悪意もしくは有過失(他人のものであることを知っていた、もしくは他人のものであることを知らな方が過失があった)→20年間
  4. 「平穏」・「公然」に物の占有を継続した

※占有によって「所有の意思善意平穏かつ公然」は推定される

※「無過失推定されないので立証する必要がある(最判昭46.11.11)

取得時効の中断事由

取得時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断します(民法164条)。

つまり、占有をやめたり、占有が奪われた場合、時効期間はリセットされます。ただし、占有回収の訴えを提起した場合については、時効は中断しません(民法203条)。

理解学習について

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参考条文

(所有権の取得時効)
第162条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

(所有権以外の財産権の取得時効)
第163条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。

(占有の中止等による取得時効の中断)
第164条 第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。

(占有権の消滅事由)
第203条 占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。

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時効の完成猶予と時効の更新

時効の完成猶予とは?

時効の完成猶予」とは、時効期間経過前に一定の事由が発生した場合に、一定期間、時効が完成しないことです。

言い換えると、時効は、時効期間の満了によって完成するのが原則ですが、時効期間の進行中に一定の事由が発生することによって時効の完成が先延ばしになるということです。

具体的な内容(時効の完成猶予事由)は下記で解説します。

時効の更新とは?

時効の更新」とは、一定の事由が発生した場合に、時効期間の経過が一旦ゼロにリセットされ、新たに時効期間が進行し始めることです。

具体的な内容(時効の更新事由)は下記で解説します。

裁判上の請求等・・・時効の完成猶予事由・時効の更新事由

下記1~4のいずれかに該当すると、下記1~4の事由が終了するまでの間は、時効は完成しません(民法147条1項:時効完成猶予)。

  1. 裁判上の請求
  2. 支払督促
  3. 和解(民事訴訟法)又は調停(民事調停法・家事事件手続法)
  4. 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加

※「裁判の取り下げ等をして判決が確定することなくその事由が終了した場合は、その終了の時から6ヶ月を経過するときまで時効は関係しない。

そして、「確定判決」又は「確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定」したときは、時効は、上記1~4の事由が終了した時から新たにその進行を始めます(民法147条2項:時効の更新)。

強制執行等・・・時効の完成猶予事由・時効の更新事由

下記1~4のいずれかに該当すると、下記1~4の事由が終了するまでの間は、時効は完成しません(民法148条1項:時効完成猶予)。

  1. 強制執行
  2. 担保権の実行
  3. 競売
  4. 財産開示手続又は第三者からの情報取得手続(民事執行法)

※ 「申立ての取下げ」又は「法律の規定に従わないことによる取消し」によってその事由が終了した場合、その終了の時から6ヶ月を経過するときまで時効は関係しない。

そして、時効は、上記1~4の事由が終了した時から新たにその進行を始めます(民法148条2項:時効の更新)。

ただし、「申立ての取下げ」又は「法律の規定に従わないことによる取消し」によってその事由が終了した場合は、時効の更新はありません

仮差押え等・・・時効の完成猶予事由

下記1または2の事由がある場合には、その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しません(民法149条:時効の完成猶予)。

  1. 仮差押え
  2. 仮処分

催告・・・時効の完成猶予事由

催告があったときは、催告があった時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しません(民法150条1項:時効の完成猶予)。

催告によって時効の完成が猶予されている間に、再度の催告をしても、さらに6ヶ月延長とはなりません(民法150条2項)。

協議を行う旨の合意による時効の完成猶予

権利について、「協議を行いましょう!」と書面で合意したときは、下記1~3のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しなません(民法151条1項 )。

  1. その合意があった時から1年を経過した時
  2. その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
  3. 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6ヶ月を経過した時

これは内容がややこしいので、個別指導で整理した内容を解説します。

■そして、上記「協議を行う旨の合意」があって、時効の完成が猶予されている間に、再度の「協議を行う旨の合意」をした場合、時効の完成猶予期間は延長されます。ただし、その効力は、当初時効が完成すべき時から起算して最長5年間です(民法151条2項)。

■催告によって時効の完成が猶予されている間に、「協議を行う旨の合意」を行った場合は、時効の完成猶予期間は延長されません。また、逆に、「協議を行う旨の合意」によって時効の完成が猶予されている間に、催告をしても、時効の完成猶予期間は延長されません(民法151条3項)。

承認・・・時効の更新事由

権利の承認があったとき(=債務者が債務を承認したとき)は、時効は承認の時から新たにその進行を始めます(民法152条1項:時効の更新)。

制限行為能力者であっても、単独で有効に承認をすることができます(民法152条2項)。

天災等・・・時効の完成猶予

時効の期間の満了の時に、天災その他避けることのできない事変のため、「裁判上の請求等」や「強制執行等」に係る手続を行うことができないときは、その障害が消滅した時から3か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない(民法161条:時効の完成猶予)。

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。 もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。 個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。 また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています! 令和4年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう! 個別指導の概要はこちら>>

参考条文

(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第147条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)
第148条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。

(仮差押え等による時効の完成猶予)
第149条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
一 仮差押え
二 仮処分
(催告による時効の完成猶予)
第百五十条 催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。

(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
第151条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から一年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時
2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。
3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
4 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
5 前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。

(承認による時効の更新)
第152条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。

(天災等による時効の完成猶予)
第161条 時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため第百四十七条第一項各号又は第百四十八条第一項各号に掲げる事由に係る手続を行うことができないときは、その障害が消滅した時から三箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

民法テキストの目次

作成中・・・

未成年者

未成年者とは?

未成年者は、制限行為能力者の1つです。

未成年者は、20歳未満の者を言います(民法4条)。(令和4年4月1日以降は、民法が改正され、18歳未満の者が未成年者となります。)

ただし、婚姻すると、20歳未満であっても成年者として扱います(民法753条:婚姻による成年擬制)。

また、婚姻後、離婚をしても未成年者に戻ることはありません。

未成年者の行為能力

未成年者は原則として、単独で法律行為を行うことができません。

そのため、原則、未成年者が法律行為を行う場合、法定代理人(親等)の同意が必要です(民法5条1項本文)。

ただし、例外として、下記内容については、法定代理人の同意なく、単独で法律行為を行えます。

未成年者が単独で有効に行える行為

  • 単に権利を得たり義務を免れる行為(民法5条1項ただし書)
  • 処分を許された財産の処分(民法5条3項)
  • 営業を許された場合の営業行為(民法6条1項)
  • 法律行為の取消し(民法120条1項)

上記の具体例については、個別指導で解説します。

未成年者の法定代理人

未成年者については、親権者が法定代理人となります。

もし親権者がいないとき、または親権者が管理権を有していないときは、未成年後見人が法定代理人となります。

未成年者の法定代理人の権限

未成年者の法定代理人は「代理権」「同意権」「取消権」「追認権」を有します。

  • 代理権:未成年者を代理して法律行為を行う権利
  • 同意権:未成年者が単独で行えない行為に対して同意を与える権利
  • 取消権:法定代理人の同意が必要な法律行為であるにも関わらず、未成年者が単独で法律行為を行った場合、後で取り消しができる権利
  • 追認権:法定代理人の同意が必要な法律行為であるにも関わらず、未成年者が単独で法律行為を行った場合、後で契約を確定的に有効にさせる権利

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。 もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。 個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。 また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています! 令和4年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう! 個別指導の概要はこちら>>

参考条文

(成年)
第4条 年齢20歳をもって、成年とする。

(未成年者の法律行為)
第5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

(未成年者の営業の許可)
第6条 一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
2 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第四編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。

権利能力・意思能力・行為能力

内容としては抽象的なので、分かりづらいので、初めて勉強される方はサラッと読み流して、あとで細かく理解していくのが良いでしょう!

権利能力

権利能力とは、権利を取得したり、義務を負ったりすることのできる地位・資格を言います。

そして、人は出生により権利能力を持ちます。(民法3条1項)

よって、お母さんのおなかの中にいる胎児は、原則、権利能力を持ちません。

ただし、例外的に下記3つについて、生まれてきたら、胎児であったときにさかのぼって、胎児にも権利能力が認められます。

胎児にも認められる権利能力

  1. 不法行為による損害賠償請求権(民法721条)
  2. 相続(民法886条)
  3. 遺贈(民法965条)

具体例等の詳細は、個別指導で解説します!

意思能力

意思能力とは、自らがした行為の結果を判断することができる精神的能力のことです。

一般にだいたい10歳になれば意思能力を備えるものと考えられています。

意思能力がないとされている者

  • 10歳未満の子供
  • 泥酔者
  • 重い精神病や認知症にある者等

行為能力


行為能力とは、単独で法律行為を行う能力のことです。

そして、「法律行為」とは、当事者がその意思に基づいて一定の効果の発生を求めて行う行為です。

例えば、売主Aが車を売っていて、買主Bが、売主Aに対して「車を買います!」と言った(意思表示をした)場合、買主Bは、売主Aに対して代金を支払う義務が発生し、逆に売主Aは、車を引渡す義務が発生します。この場合、買主Bの購入する意思表示が法律行為です。

また、売買契約も法律行為です。

制限行為能力者

文字通り、行為能力が制限されている者が「制限行為能力者」です。

例えば、未成年者成年被後見人被保佐人補助人が制限行為能力者です。

民法の無料テキスト|行政書士

行政書士試験の無料テキスト(民法)

総則

物権

債権

親族