質権とは?
質権とは、債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物(質物)を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を言います(民法342条)。
例えば、AがBに対して10万円を借りるために、Aが所有する腕時計(質物)を保証(担保)としてBに引き渡した場合、債務者Aが質権設定者で、債権者Bが質権者となります。
イメージとしては、債権者Bは「質屋さん」です。
質権を設定できるもの
譲渡することができる物には質権を設定できます。
例えば、動産や不動産、債権にも質権を設定できます。
譲渡することができない物には質権を設定できません(民法343条)。
例えば、生活保護費の請求権は、生活保護を受けている本人のみの権利で、譲渡できないので、質権を設定することはできません。
質権の成立要件・効力発生要件
質権が成立し、効力が発生するためには、「①質権設定契約(当事者間の合意)」と「②目的物の引渡し」の2つが必要です(民法344条)。
そして、②について、「債権証書が存在しない権利質」の場合は、証書の引き渡しができないので②は不要です。
また、質権者に代わって、質権設定者が質物の占有をさせること(占有改定)はできません(民法345条)。
質権の効力
留置的効力
質権は、上記の通り、質権者が質物(質権が設定された物)を占有します。そして、債務者が弁済期に債務を弁済しなければ、質権設定者(債務者)は当該質物を質権設定者に取られてしまいます(所有権を失う)。この心理的圧迫によって弁済を促すことを留置的効力といいます。
優先弁済権
抵当権同様、質権者は質物を競売し、その落札代金から優先的に弁済を受けることができます。
質権の被担保債権の範囲
質権で保証される範囲(優先弁済を受けることができる範囲)は、「元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償」です(民法346条本文)。ただし、契約でその範囲を変更した場合その契約に従います(民法346条ただし書)。
転質
転質(てんしち)とは、質権が設定された質物をさらに他人への担保として質権を設定することを言います(民法348条)。
例えば、AがBに対してお金を借りるために、Aが所有する腕時計(質物)を保証(担保)としてBに引き渡し、さらに、質権者Bが他の債権者Cからお金を借りて、その保証として、当該腕時計に質権(転質)を設定し、Cに引き渡す場合です。(下記BC間が転質)
A―(腕時計)→B―(腕時計)→C
動産質
動産質とは、質物が動産の場合を言います。上記腕時計に質権を設定した事例は「動産質」です。
動産質の対抗要件
動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができません(民法352条)。
つまり、動産質の対抗要件は「占有を継続すること」です。
占有を失うと、第三者に対して対抗できなくなくなります。そのため、第三者に質物の占有を奪われた場合、占有回収の訴えによってのみ質物の返還請求ができます(民法200条、353条)。
※質権設定者に質物を奪われた場合は、質権に基づいて返還請求ができます。
不動産質
不動産質とは、質物が不動産の場合を言います。例えば、土地や建物に質権を設定する場合です。
不動産質の対抗要件
不動産質権は、質権設定の登記をすることで第三者に対して対抗することができます(民法177条)。
不動産質の使用収益権
不動産質権者は、不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができます(民法356条)。
つまり、不動産を預かったら、その土地や建物を、自分自身で使ったり、賃貸して家賃収入を得ることもできます。
上記収益を得ることができる一方、不動産質権者は、不動産の管理の費用を支払う義務を負います(民法357条)。
不動産質権の存続期間
不動産質権の存続期間は、最長10年です。これより長い期間を定めたときであっても、その期間は、十10年に短縮されます。
権利質
質権は、債権や株式等の財産権に設定することができます(民法362条1項)。
債権質の対抗要件
債権質(現に発生していない債権を目的とするものを含む。)の対抗要件は、債権譲渡の対抗要件と同じく、質権設定者が第三債務者にその質権の設定を通知すること、又は第三債務者の承諾です(民法364条)。
債権の取立て
質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができます(民法366条1項)。
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参考条文
(質権の内容)
第342条 質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
(質権の目的)
第343条 質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。
(質権の設定)
第344条 質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
(質権設定者による代理占有の禁止)
第345条 質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
(質権の被担保債権の範囲)
第346条 質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
(質物の留置)
第347条 質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。
(転質)
第348条 質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。
(契約による質物の処分の禁止)
第349条 質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。
(留置権及び先取特権の規定の準用)
第350条 第二百九十六条から第三百条まで及び第三百四条の規定は、質権について準用する。
(物上保証人の求償権)
第351条 他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。
(動産質の対抗要件)
第352条 動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができない。
(不動産質権者による使用及び収益)
第356条 不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。
(不動産質権者による管理の費用等の負担)
第357条 不動産質権者は、管理の費用を支払い、その他不動産に関する負担を負う。
(不動産質権者による利息の請求の禁止)
第358条 不動産質権者は、その債権の利息を請求することができない。
(不動産質権の存続期間)
第360条 不動産質権の存続期間は、十年を超えることができない。設定行為でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、十年とする。
2 不動産質権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から十年を超えることができない。
(権利質の目的等)
第362条 質権は、財産権をその目的とすることができる。
2 前項の質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、前三節(総則、動産質及び不動産質)の規定を準用する。
(債権を目的とする質権の対抗要件)
第364条 債権を目的とする質権の設定(現に発生していない債権を目的とするものを含む。)は、第四百六十七条の規定に従い、第三債務者にその質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない。
(質権者による債権の取立て等)
第366条 質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
2 債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる。
3 前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。
4 債権の目的物が金銭でないときは、質権者は、弁済として受けた物について質権を有する。