判例

最判昭28.12.23:皇居外苑使用の不許可処分

論点

  1. 訴えの利益は、申請にかかる使用期日を経過すれば喪失するか?
  2. 本件不許可処分は、憲法21条、28条に違反しないか?

事案

日本労働組合総評議会Xは昭和27年5月1日のメーデーに使用するため、皇居外苑を管理する厚生大臣(現厚生労働労働)Yに対して、外苑内の公園の使用許可を申請したが、Yは昭和27年3月13日に不許可の処分をした。そこでXは、同処分は憲法21条(表現の自由)、憲法28条労働基本権:団体行動権)に違反するとして、不許可処分取消しの訴えを提起した。

メーデー:労働者が統一して権利要求と行進など活動を取り行う日(労働者の日)

判決

訴えの利益は、申請にかかる使用期日を経過すれば喪失するか?

喪失する

厚生大臣は5月1日の使用を許可しなかっただけで、将来にわたり使用を禁じたものではない。そうであれば、Xの請求は、同日(5月1日)の経過により判決を求める法律上の利益を喪失したものといわなければならない。

本件不許可処分は、憲法21条、28条に違反しないか?

国民が皇居外苑に集合し利用することは、同公園の目的にそうから、その利用の許否(許可するか否か)は厚生大臣の自由裁量ではなく、公園としての使命を達成させるよう考慮した上で決しなければならない。

本件不許可処分は、公園が著しい損壊を受け管理保尊に著しい支障を被ること、長時間一般国民の本来の利用が阻害されること等を理由としてなされたものであり

自由裁量によったものではなく管理権の運用に誤りはない

また、当該厚生大臣の許否は、厚生大臣の管理権の範囲内のことであり、

元来厚生大臣の権限ではない集会・示威運動を行うことの許否ではない、

したがって、本件不許可処分は何ら、表現の自由・団体行動権自体を制限することを目的とするものではないので、違法ではない

最大判昭27.10.8:警察予備隊訴訟

論点

  1. 裁判所は、将来的に論争が起こり得る抽象的なことについて、判断する権限を有するか?

事案

昭和25年、自衛隊の前身である警察予備隊が設置された。これに対し、原告X(日本社会党の鈴木茂三郎氏)は、警察予備隊の設置並びに維持に関して国Yがなした一切の行為の無効を求めて、党を代表して、直接、最高裁判所に出訴した。

判決

裁判所は、将来的に論争が起こり得る抽象的なことについて、判断する権限を有するか?

→抽象的な事柄について判断する権限は有さない

裁判所は、司法権を行う権限を有しており、裁判所が司法権を発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする

具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下す権限を行うことはできない。

また、裁判所が、かような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない

上記内容を分かりやすく言うと

裁判所が違憲立法審査権を行使するには、実際に起こった具体的な争訟事件が必要ということです。

言い換えると、わが国は、「付随的違憲審査制」を採用している、と判旨しています。

結局のところ、今回の訴えについては、具体的な争訟に当たらないとして、却下されました。

最大判昭27.2.20:国民審査投票方法違憲訴訟

論点

  1. 国民審査の法的性質とは?
  2. 国民審査の方式(判断を留保したい裁判官に対しても投票することを余儀なくしている点)は思想・良心の自由を侵害しないか?

事案

昭和24年、最高裁発足後初めて行われた最高裁判所の裁判官の国民審査が行われた。これに対して、審査人Xは、最高裁判所裁判官国民審査法36条に基づき、国民審査は無効であるとの判決を求める訴えを提起した。

最裁審査法第36条(審査無効の訴訟)
審査の効力に関し異議があるときは、審査人又は罷免を可とされた裁判官は、中央選挙管理会を被告として、審査の結果の報告及び告示のあつた日から30日内に東京高等裁判所に訴えを提起することができる。

判決

国民審査の法的性質とは?

解職制度である

憲法第79条
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後10年を経過した後初めて行われる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。

上記憲法79条2項の字句だけでを見ると、国民審査は、解職制度でないように見える。

しかし、3項の字句と併せてみると、国民審査制度の趣旨は、国民が裁判官を「罷免すべきか否か」を決定する点にある。

したがって、国民審査制度は、解職の制度である。

国民審査の方式(判断を留保したい裁判官に対しても投票することを余儀なくしている点)は思想・良心の自由を侵害しないか?

→侵害しない

まず、最高裁判所裁判官国民審査の投票については、審査を受ける裁判官の氏名が投票用紙に印刷されています。そして、裁判官ごとに、この裁判官は辞めさせたいという意思(罷免を可とする意思)があれば「×」を記載し、辞めさせたいという意思がなければ何も記載せずに投票します。

ここまでが、前提となる内容です。以下が判決の内容です。

国民審査は、解職の制度であり、「積極的に罷免を可とする者(罷免させようと思う者)」が「そうでない者」より多数であるか否かを知ろうとするためのものである。

そして、判断を留保したい者は、罷免する方がいいか悪いかが分からない者なので、「積極的に罷免を可とする者」に属さない。

そうすると、記載のない投票に、「罷免を可としない投票」として効果を与えても、なんら意思に反する効果を生じさせているわけではないため、思想・良心の自由を制限するものではない

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憲法の重要判例(行政書士)

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