論点
事案
昭和38年に、自宅店舗において川崎税務署収税官吏が、Xの所得税確定申告調査のため帳簿書類等の検査をしようとしていた。
これに対し、Xは、「何回くるんだ、事前通知がなければ調査に応じられない」などと大声をあげたり、また「あちらへ行こう」と収税官吏を引っ張ったりするなど、上記検査を拒んだ。
これが旧所得税法に違反するとしてXは起訴された。
憲法第35条(住居の不可侵)
何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、現行犯逮捕の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。憲法第38条(黙秘権)
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
川崎民商事件の試験出題ポイント
川崎民商事件は、憲法35条(令状主義)と38条(黙秘権)が行政手続にも及ぶかという論点で繰り返し出題されています。判決の結論だけでなく、最高裁の論理構造を正確に押さえることが得点の鍵です。
頻出の出題パターン
- 「刑事手続でないから憲法35条の保障は一切及ばない」→誤り。最高裁は、刑事手続でないとの理由のみで保障の枠外とは判断できないとしつつ、総合判断で令状不要と結論づけています。この「完全排除ではないが違反ではない」という二段構えの論理が引っかけポイントです。
- 「行政調査には令状が常に不要である」→誤り。本判決はあくまで間接強制(罰則による心理的強制)の事案です。直接的物理的強制と同視すべき程度に達する行政調査であれば、令状が必要となる余地を残しています。
- 「憲法38条1項の保障は純然たる刑事手続にのみ及ぶ」→誤り。判決は、刑事手続以外でも刑事責任追及のための資料取得に直接結びつく手続には保障が及ぶとしています。
関連判例との横断整理
川崎民商事件の理解を深めるには、荒川民商事件(最大判昭和48.7.10)も併せて確認しましょう。荒川民商事件では旧所得税法の質問検査権の範囲がさらに具体化されています。また、行政調査と刑事手続の区別という観点では、交通事故報告義務事件(最大判昭37.5.2)も憲法38条との関係で出題されるため、3判例をセットで整理しておくと択一式で確実に得点できます。
判決
旧所得税法に規定する収税官吏の検査は、憲法35条1項に違反するか?
→違反しない
旧所得税法の規定する検査拒否に対する罰則は、収税官吏による当該帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する作用を伴なうものである。
しかし、収税官吏の検査は、もつぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であって、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない。
また、当該検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない。
さらに、強制の態様は、収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に対し、刑罰を加えることによつて、間接的心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであるが、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認めがたい。
憲法35条1項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでない(収税官吏の検査)との理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。
つまり、収税官吏の検査においても、憲法35条1項の保障の範囲外とは判断できない。
しかし、総合して判断すれば、収税官吏の検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといって、憲法35条に違反しているとはいえない。
旧所得税法に規定する収税官吏の質問・検査は、憲法38条に違反するか?
→違反しない
憲法38条1項は、何人も自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものである。
そして、上記保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、それ以外の手続においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、等しく及ぶものと解するのを相当とする。
しかし、収税官吏の検査、質問の性質が上述のようなものである以上、当該検査、質問の規定そのものが憲法38条1項にいう「自己に不利益な供述」を強要するものとすることはできず、この点の所論も理由がない。(=違反ではない)


