判例

最判平7.12.15:指紋押捺拒否事件

論点

  1. 指紋押捺を強制されない自由は、憲法13条で保障されるか?
  2. 指紋押捺制度が、憲法13条に違反しないか?

事案

アメリカ人宣教師Xが、新規の外国人登録を申請した際に、指紋すべき部分に指紋の押印をしなかった。

このことが原因で、Xは、指紋押捺制度(外国人登録法に規定されている制度)に違反したとして起訴された。

それに対して、Xは、指紋押捺制度自体、憲法13条に違反していると主張した。

憲法第13条(幸福追求権)
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法第13条(幸福追求権)はこちら>>

判決

指紋押捺を強制されない自由は、憲法13条で保障されるか?

→保障される

指紋は、誰一人同じものはなく、一生涯変わらない。搾取された指紋の利用方法次第では、プライバシーの侵害の危険性もある。

そのため、何人もみだりに「指紋押捺を強制されない自由」を有しているといえる

したがって、国家機関が正当な理由なく指紋押捺を強制することは、憲法13条の趣旨に反して許されない。

そして、指紋押捺を強制されない自由は、外国人にも等しく及ぶ

※正当な理由があれば、指紋押捺を強制することができ、これが下記「指紋押捺制度」に当たります。

指紋押捺制度が、憲法13条に違反しないか?

→違反しない

外国人登録法が定める指紋押捺制度の目的は、外国人の居住関係および身分関係を明確にすることで在留外国人の公正な管理をすることです。

この指紋押捺制度には、十分な合理性があり、かつ必要性も肯定できる

したがって、指紋押捺制度は、憲法13条に違反しない

最判平7.2.28:外国人の地方選挙の参政権

論点

  1. 外国人に、憲法15条1項の権利(参政権)の保障が及ぶか?
  2. 憲法93条2項は、在留外国人の地方公共団体における選挙権を保障したものといえるか?
  3. 法律によって、在留外国人に地方公共団体の選挙権を与えることができるか?

事案

永住権をもつ韓国籍のXらは、選挙人名簿に登録されていなかったため、選挙管理委員会Yに対して、選挙人名簿に登録するよう申出をした。

Yは、この申出を却下する決定をしたため、Xらはこの却下決定の取り消しを求めて、訴えを提訴した。

※選挙人名簿に登録がない者は、投票権がない。

判決

外国人に、憲法15条1項の権利(参政権)の保障が及ぶか?

→及ばない

憲法15条1項には、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と規定されており、この「国民」は日本国民を意味することは明らかである。

そのため、参政権の保障について、外国人には及ばない

憲法93条2項は、在留外国人の地方公共団体における選挙権を保障したものといえるか?

→言えない

憲法93条2項には「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」と規定しています。

ここの「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当なので、外国人は含まない。

したがって、地方選挙における選挙権について外国人は憲法で保障されていない

法律によって、在留外国人に地方公共団体の選挙権を与えることができるか?

→できる(憲法上禁止されていない)

上記の通り、地方選挙権(投票権)について、外国人には憲法で保障はされていないが、

憲法第8章の地方自治に関する規定は、地方自治体の事務については、その地方の住民の意思に基づいて、その区域の地方公共団体が処理することを憲法上の制度として保障しようとする趣旨です。

そのため、わが国の在留外国人の中でも永住者等で、居住する区域の地方公共団体と、特段緊密な関係を持つに至ったと認められる者については、法律によって、投票権(地方公共団体の長・議会議員への投票権)を与える措置を講ずることは、憲法上禁止されていないと解するのが相当。

ただし、上記措置を講ずるか否かは、もっぱら国の立法政策にかかわる事柄なので、このような措置を講じないからといって、違憲となるわけではない。

外国人の地方選挙の参政権の判決文はこちら>>

最大判平7.2.22:ロッキード事件

論点

  1. 内閣総理大臣の職務権限の範囲は?

事案

昭和47年、アメリカの航空機メーカーであるロッキード社の副会長Aの意向を受けた販売代理店の丸紅社長X1らは、当時の内閣総理大臣である田中角栄氏X2に対し、「①運輸大臣に働きかけ、行政指導をさせること」、また「②直接全日空に働きかけることで、ロッキード社製の大型ジェット機の購入を全日空に推奨すること」を依頼し、成功報酬として現金5億円の供与を約束して、その承諾を得た。

そして、X1らは、全日空が当該大型ジェット機を購入した後、約束通り、X2に対し、現金5億円を供与した。

その後、東京地検は、X1、X2らを逮捕し、贈収賄罪等で起訴した。

判決

内閣総理大臣の職務権限の範囲は?

内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有する

X2が行った運輸大臣への働きかけが、その職務権限に属するといえるためには、

  1. 運輸大臣が全日空へ勧奨する行為がその職務権限に属し、かつ
  2. 内閣総理大臣が運輸大臣に上記勧奨をするよう働きかけることがその職務権限に属していること

この2つが必要である。

本件では、①は肯定できるが、②内閣総理大臣の職務権限について検討すると、内閣総理大臣が行政各部に対し、指揮監督権を行使するためには、閣議にかけて決定した方針が存在することを要する。

しかし、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、内閣総理大臣の右のような地位及び権限に照らすと、内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有するものと解するのが相当である。

したがって、当該内閣総理大臣が行った運輸大臣への働きかけは、内閣総理大臣の指示として、その職務権限に属する。

ロッキード事件の判決文はこちら>>

最判平6.2.8:ノンフィクション「逆転」事件

論点

  1. 前科等のある者は、前科等の事実を公表されない法的保護は与えられるか?
  2. 前科等の公表規制と表現の自由との調整

事案

沖縄県がアメリカ合衆国の統治下にあったころ、Xら4名は米兵2名と殴り合いの喧嘩をし、米兵1名が死亡し、もう一方の米兵も負傷する事件が起きた。Xらはアメリカの高等裁判所により傷害罪について懲役3年の実刑判決を受けた。

その後、Xは、仮出獄し、都内のバス運転会社に運転手として就職し、前科を隠して結婚もしており平穏な生活を送っていた。

Yは、上記裁判の陪審員として関与しており、その体験に基づき『逆転』と題する著作を執筆し、ノンフィクション賞という賞も受けた。

その後、Xは、無断で実名が使用されたため、前科に関わる事実が公表され、プライバシー権が侵害されたとして、Yに対して慰謝料300万円の支払いを請求する訴えを提起した。

判決

前科等のある者は、前科等の事実を公表されない法的保護は与えられるか?

→与えられる

前科等に関する事実は、その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であるから、その者は、みだりに前科等にかかわる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有するものというべきである

前科等の公表規制と表現の自由との調整

→当事者の生活状況、事件の歴史的又は社会的な意義、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、右の前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するとき、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる

ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合に、

その者のその後の生活状況、当該刑事事件それ自体の歴史的又は社会的な意義その者の事件における当事者としての重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、

その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、

右の前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、

右の者は、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。

つまり、「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益」が「これを公表する理由」に優越するとき、Xは、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる

最判平5.2.16:箕面忠魂碑事件

論点

  1. 市による忠魂碑の移設・再建行為は、憲法20条3項の「宗教的活動」にあたるか?
  2. 遺族会は、憲法20条1項の後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」に該当するか?

事案

忠魂碑とは、戦争に出兵し戦死した地域出身の兵士の記念のために製作された記念碑のことで、戦死者の天皇への忠義を称えるものである。そして、箕面市の小学校の校庭(箕面市の所有地)に、戦死者の遺族会が所有する忠魂碑があった。

箕面市は当該小学校の増改築に際し、校庭にあった忠魂碑を移転する必要性が生じ、市は、7882万円で土地を購入して、そこに忠魂碑を移転し、同土地を遺族会に無償貸与した。

そこで、同市の市民であるXらは、本件忠魂碑の移設・再建等が憲法20条・89条に違反するとして、市の被った損害等を求める住民訴訟を起こした。

憲法第20条
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

憲法第89条
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

判決

市による忠魂碑の移設・再建行為は、憲法20条3項の「宗教的活動」にあたるか?

→あたらない

①忠魂碑は、戦没者記念碑的な性格のものであり、少なくとも戦後において、特定の宗教との関係は希薄である。

また、②遺族会は宗教活動を本来の目的とする団体ではない。

そして、③本件箕面市の行為は、箕面小学校における児童数の増加、校舎の老朽化等により校舎の建替えなどを行うことが急務となり、忠魂碑を他の場所に移設せざるをえなくなったから行ったにすぎない行為である。

これらの諸点にかんがみると(考慮すると)、市の行った代替地を取得して、従来どおり、当該土地を無償で提供し、忠魂碑を移設再建する行為は、もっぱら世俗的(世間一般的)なものと認められ、その効果も、特定の宗教を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない

したがって、当該市による忠魂碑の移設・再建行為は、憲法20条3項の「宗教的活動」にあたらないと解するのが相当である。

遺族会は、憲法20条1項の後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」に該当するか?

→該当しない

憲法20条1項の後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」とは、特定の宗教の信仰、礼拝または普及等の宗教活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指す。

この点、遺族会は、戦没者遺族の相互扶助・福祉向上と英霊の顕彰を主たる目的として設立され活動している団体である。

したがって、遺族会は、憲法20条1項の後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」には該当しない。

最判平4.12.15:酒類販売の免許制

論点

  1. 酒類販売業免許制度についての合憲性の判定基準は?
  2. 酒税法10条10号は、憲法22条1項(職業選択の自由)に違反するか?

事案

Xは酒類の売買等を目的とする株式会社であり、酒税法9条1項の規定に基づいて酒類販売業の免許申請をした。これに対し、所轄税務署長Yは、Xが酒税法10条10号に規定する「その経営基盤が薄弱であると認められる場合」に該当するものとして、この免許処分の拒否処分をした。

それに対しXは、Yを被告とし、本申請は酒税法10条10号の規定に該当しないから、本処分は違法であると主張して、本処分の取消しを求める訴えを提起した。

判決

酒類販売業免許制度についての合憲性の判定基準は?

規制の必要性と合理性についての立法府の判断が、政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法22条1項の規定に違反するものということはできない

一般に許可制は、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきである。

また、租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。

したがって,租税法の定立については、立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。

以上のことからすると、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法22条1項の規定に違反するものということはできない

酒税法10条10号は、憲法22条1項(職業選択の自由)に違反するか?

違反しない(合憲)

酒税法は、酒税の確実な徴収とその税負担の消費者への円滑な転嫁を確保する必要から、このような制度を採用したものと解される。

本件処分当時の時点においてもなお、酒類販売業について免許制度を存置しておくことの必要性及び合理性については失うに至っているとはいえない。

また、免許基準との関係においても、その必要性と合理性が認められる。

したがって、酒税法9条、10条10号の規定が、立法府の裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるということはできず、右規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。

最大判平元.3.8:レペタ訴訟

論点

  1. 法廷でメモを取る自由は、憲法で保障されているか?
  2. 法廷でメモを取る行為を制限することはできるか?

事案

アメリカ国籍のレペタ氏Xは、アメリカワシントン州の弁護士で、国際交流基金の特別研究員として日本で経済法の研究を行っていた。その一環として、所得税法違反の事件の各公判を傍聴した。Xは、各公判期日の前に、担当裁判長に対して、7回にわたり傍聴席においてメモを取ることの許可を求めたが、いずれも許可されなかった。

そのためXは、上記不許可は憲法に違反するとして、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた。

判決

法廷でメモを取る自由は、憲法で保障されているか?

→憲法21条1項の精神に照らし尊重に値する

憲法21条1項では「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」としている。

そして、各人が自由にさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会を持つことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていく上で欠くことのできないものである。

このような情報に接し、これを摂取する自由は上記趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然導かれるところである。

ただし、筆記行為は、一般的には人の生活活動の一つであり、生活のさまざまな場面において行われ、極めて広い範囲に及んでいるから、そのすべてが憲法の保障する自由に関係するものということはできない。

しかし、情報等の摂取を補助するためにする筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきである。

法廷でメモを取る行為を制限することはできるか?

特段の事情のない限り、制限することはできない

情報等の摂取を補助するためにする筆記行為の自由も、「他者の人権との調整」や「優越する公共の利益を確保する必要」から一定の合理的制限をうけることはやむを得ない。

しかも、筆記行為の自由は、憲法21条1項によって直接保障される表現の自由と異なり、その制限には、表現の自由に制約を加える場合の厳格な基準が要求されるものではない。

そして、公正かつ円滑な訴訟の運営は、傍聴人がメモを取ることに比べればはるかに優越する法益である。

しかし、傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げることは通常ありえず、特段の事情がない限り、これを傍聴人の自由に任せることが憲法21条1項の趣旨に合致する。

最判昭63.12.20:共産党袴田事件

論点

  1. 政党内部の行為について、原則、司法審査は及ぶか?

事案

共産党Xが所有する家屋を、党幹部であった袴田里見氏Yに住居として使用させていた。しかし、その後、XはYを共産党から除名し、Yに対して家屋の明け渡しを求めた。

しかし、Yがこれに応じなかったため、XがYに対して家屋の明渡しを求めて出訴した。

Yは、下記3点について主張した。

  1. 本件家屋は、これまで党のために活動してきたYの終生の住居として提供されたものであること
  2. 政党の内部的処分決定も法律上の争訟であり、除名時処分の適否も司法審査の対象となること
  3. 仮に政党の内部的自律権を尊重し、その自治的措置に委ねるべき事項があるとしても、本件除名処分のように被処分者にとって著しく不利益かつ重大な事項については、司法審査の対象になること

判決

政党内部の行為について、原則、司法審査は及ぶか?

原則、及ばない例外として、一般市民法秩序と直接の関係を有する場合は、司法審査が及ぶ

政党に対しては、高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をなしうる自由を保障しなければならない。

政党の性質、目的からすると、自由な意思によって政党を結成し、あるいはそれに加入した以上、党員が政党の存立及び組織の秩序維持のために、自己の権利や自由に一定の制約を受けることがあることもまた当然である。

そして、政党の内部的自律権に属する行為は、法律に特別の定めのない限り尊重すべきであるから、政党が組織内の自律的運営として党員に対してした除名処分等の当否については、原則として自律的な解決に委ねるのを相当である。

したがって、政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばない

最判昭63.7.15:麹町中学内申書事件

論点

  1. 内申書に「生徒が政治的行為をした旨」を記載することは、憲法19条(思想、良心の自由)に違反しないか?
  2. 上記記載は、憲法21条(表現の自由)に違反しないか?
  3. 上記記載は、憲法13条(プライバシー権の侵害)に違反しないか?

事案

Xは、東京都千代田区立麹町中学校を卒業し、高校受験をしたが、すべて不合格となった。

Xの調査書(内申書)の『行動および性格の記録』の欄には、C評価(最も悪い評価)が付されており、特記事項欄に「中学校在学中に政治活動をした旨(※)」の記載があった。

これに対しXは、高校受験不合格の原因は上記調査書の記載にあるとして、千代田区および東京都に対して、慰謝料の支払いを求める損害賠償請求を提起した。

※特記事項欄の詳細:「校内において麹町中学全共闘を名乗り、機関紙【砦】を発行した。学校文化祭の際、文化祭粉砕を叫んで、他校生徒とともに校内に乱入して、ビラ撒きを行った。大学生ML派(政治活動団体)の集会に参加している。学校側の指導説得を聞かず、ビラを配り、落書きをした。」

判決

内申書に「生徒が政治的行為をした旨」を記載することは、憲法19条(思想、良心の自由)に違反しないか?

憲法19条に違反しない

本件調査書(内申書)の記載は、Xの思想信条そのものを記載したものではないことは明らかであり、記載に関する外部的行為(行動)によっては、Xの思想、信条を了知し得るものではない(はっきり知ることはできない)。

また、Xの思想、信条自体を高等学校の入学者選抜の資料に供したものとは到底解することができない。

したがって、本件調査書の記載は、憲法19条(思想・良心の自由)に反するとはいえない、とした。

上記記載は、憲法21条(表現の自由)に違反しないか?

憲法21条に違反しない

「ビラの配布や落書き」は、中学校における学習とは全く関係ないものであり、「ビラの配布や落書き」を自由とすることは、中学校における教育環境に置く影響を及ぼす等、学習効果をあげる上において、放置できない弊害を発生させる相当の蓋然性(確実性・確かさ)があるものということができる。

そのため、このような弊害を未然に防止するために、①上記行為をしないよう指導説得することはもちろん、「②生徒会規則において、生徒の校内における文書の配布を学校当局の許可にかからしめ、その許可のない文書の配布を禁止すること」は、必要かつ合理的な範囲の制約であり、憲法21条(表現の自由)に違反しない

上記記載は、憲法13条(プライバシー権の侵害)に違反しないか?

憲法13条に違反しない

本件調査書による情報の開示は、入学選抜に関する特定小範囲の人に対するものであって、情報の公開には該当しない

したがって、本件調査書による記載は、Xのプライバシー権を侵害せず憲法13条後段(生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする)には反しない。

最判昭62.4.24:サンケイ新聞事件

論点

  1. 憲法21条によって、反論文掲載請求権(反論権:アクセス権)は保障されているか?

事案

新聞社Yは、翌年予定されている参議院議員選挙を前にして、Yの発行するサンケイ新聞に自民党を広告主とする意見広告を掲載・頒布した。

その広告の内容は、日本共産党Xが定めた「民主連合政府綱領についてのXの提案」はXの党綱領と矛盾しているとし、ゆがんだ福笑いの絵とともに指摘、批判したものであった。

XはYに対し、Xの反論文を朝刊に原文どおり無料で掲載することを求めたが、Yは有料の意見広告としてであれば応じるが、無料では応じれないとして拒否した。

Xは反論文の無料掲載を求める仮処分を申請したが、却下された。そこでXは同一スペースの反論文の無料掲載を求める訴訟を提起した。

判決

憲法21条によって、反論文掲載請求権(反論権:アクセス権)は保障されているか?

保障されない

まず、憲法21条(表現の自由)は、私人相互の関係については適用ないし類推適用されるものではない。その趣旨からすると、憲法21条の規定から、直接に、反論文掲載請求権(意見広告や反論記事の掲載を求める権利)が他方に生ずるものではない。

また、民法723条の名誉回復処分または人格権としての名誉権に基づく差止め請求権も、不法行為の成立を前提として初めて認められるものであって、この前提なくして反論文掲載請求権を認めることはできない。

反論権の制度が認められるときは、新聞を発行・販売する者にとって、その掲載を強制されることになり、また、そのために本来ならば他に利用できたはずの紙面を割かなければならなくなる等の負担を強いられる

そして、これらの負担が、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゅうちょさせ憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながる恐れも多分に存する

したがって、反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論文掲載権(反論権・アクセス権)をたやすく認めることはできない

以上のことから、反論権は憲法によって保障されていない。