論点
事案
X、Yの兄弟は、父からそれぞれ山林の2分の1の持分を生前贈与され、共有登記をしていた。しかし、弟Xの反対を押し切って、兄Yが森林の一部を伐採したことから争いになった。
XはYを被告として、持分に応じた山林の分割等を請求する訴えを提起した。
規制目的二分論における森林法事件の位置づけ
財産権・経済的自由の規制についての違憲審査基準を理解するうえで、規制目的二分論の枠組みを押さえることが重要です。規制目的二分論とは、規制の目的が積極目的(政策的規制)か消極目的(警察的規制)かによって、違憲審査の厳格度を変える考え方です。
森林法事件の判決は、この二分論との関係で独特の位置にあります。以下の比較表で3つの重要判例を整理しましょう。
| 判例 | 小売市場距離制限事件 (最大判昭47.11.22) | 薬事法距離制限事件 (最大判昭50.4.30) | 森林法共有林事件 (最大判昭62.4.22) |
|---|---|---|---|
| 規制の種類 | 職業の自由(営業の自由) | 職業の自由(営業の自由) | 財産権(共有物分割請求権) |
| 規制目的 | 積極目的(中小企業保護政策) | 消極目的(国民の生命・健康への危険防止) | 積極目的とも消極目的とも明示せず |
| 審査基準 | 明白の原則(緩やかな審査) | 厳格な合理性の基準(中間審査) | 目的・手段の合理性審査(独自の枠組み) |
| 結論 | 合憲 | 違憲 | 違憲 |
森林法事件が二分論に収まらない理由
小売市場事件と薬事法事件では、規制目的が積極か消極かを明確に分類したうえで審査基準を設定しました。しかし森林法事件では、最高裁は規制目的の分類を行わず、財産権の種類・性質・規制の程度等を総合的に比較考量する枠組みを採用しています。
これは、財産権の規制が「多種多様」であることを理由に、目的二分論では対応しきれないと判断したものと解されています。行政書士試験では、3判例の審査基準の違いと、森林法事件が二分論の枠外にある点が問われるため、比較して整理しておきましょう。
判決
憲法29条1項は何を保障しているか?
→私有財産制度のみならず、国民の個々の財産権についても保障している
憲法29条は、1項において「財産権は、これを侵してはならない。」と規定し、私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障する。
森林法186条は憲法29条2項に違反するか?
→違反する(違憲)
憲法29条2項では、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。」と規定されている。
財産権に対する規制は、財産権の種類、性質等が多種多様であり、また、財産権に対し規制を要求する社会的理由ないし目的も、社会政策及び経済政策上の積極的なものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的なものに至るまで多岐にわたるため、種々様々でありうるのである。
したがって、財産権に対して加えられる規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によつて制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべきものである。
また、裁判所としては、立法府がした右比較考量に基づく判断を尊重すべきものである。
そこで、裁判所としては、①立法の規制目的が、公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は②規制手段が目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであって、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法29条2項に違反すると解するのが相当である。
■そして、森林法186条(森林の共有者は、持分の過半数を有さない場合、分割請求ができない。)の立法目的は、森林の細分化を防止することによって森林経営の安定を図り、もつて国民経済の発展に資することにあると解すべきである。
この目的は、公共の福祉に合致しないことが明らかとはいえない。
ただし、共有者間に紛争が生じたときは、各共有者は、共有森林につき、保存行為を行うことができず、管理又は変更の行為を適法にすることができないこととなり、ひいては当該森林の荒廃という事態を招来することとなる。
また、一律に現物分割を認めないとすることは、同条の立法目的を達成する規制手段として合理性に欠け、必要な限度を超えるものというべきである。
また、共有森林につき現物分割をしても直ちにその細分化を来すものとはいえないし、また、民法258条2項は、競売による代金分割の方法をも規定しているのであり、この方法により一括競売がされるときは、当該共有森林の細分化という結果は生じないのである。したがって、森林法186条は、目的を達成するについて必要な限度を超えた不必要な規制というべきである。
したがって、森林法186条の規制手段は、同条の立法目的との関係で合理性と必要性のいずれも肯定できないことが明らかなので、憲法29条2項に違反し無効である。


