A(3歳)は母親Bが目を離した隙に、急に道路へ飛び出し、Cの運転するスピード違反の自動車に轢(ひ)かれて死亡した。CがAに対して負うべき損害賠償額(以下、「本件損害賠償額」という。)に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 本件損害賠償額を定めるにあたって、A自身の過失を考慮して過失相殺するには、Aに責任能力があることが必要であるので、本件ではAの過失を斟酌することはできない。
- 本件損害賠償額を定めるにあたって、A自身の過失を考慮して過失相殺するには、Aに事理弁識能力があることは必要でなく、それゆえ、本件ではAの過失を斟酌することができる。
- 本件損害賠償額を定めるにあたって、BとAとは親子関係にあるが、BとAとは別人格なので、Bが目を離した点についてのBの過失を斟酌することはできない。
- 本件損害賠償額を定めるにあたって、Aが罹患(りかん)していた疾患も一因となって死亡した場合、疾患は過失とはいえないので、当該疾患の態様、程度のいかんにかかわらずAの疾患を斟酌することはできない。
- 本件損害賠償額を定めるにあたって、Aの死亡によって親が支出を免れた養育費をAの逸失利益から控除することはできない。
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【解説】
A(3歳)は母親Bが目を離した隙に、急に道路へ飛び出し、Cの運転するスピード違反の自動車に轢(ひ)かれて死亡した。
1.本件損害賠償額を定めるにあたって、A自身の過失を考慮して過失相殺するには、Aに責任能力があることが必要であるので、本件ではAの過失を斟酌することはできない。
1・・・妥当ではない
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができます(民法722条2項:過失相殺)。
判例によると「被害者たる未成年者の過失を斟酌(しんしゃく)する場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく(=のように)、行為の責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しないものと解するのが相当である」としています(最大判昭39.6.24) 。
よって、本肢は「責任能力」が妥当ではありません。
正しくは「事理弁識能力」です。
本肢はややこしいので、詳細は個別指導で解説します!
A(3歳)は母親Bが目を離した隙に、急に道路へ飛び出し、Cの運転するスピード違反の自動車に轢(ひ)かれて死亡した。
2.本件損害賠償額を定めるにあたって、A自身の過失を考慮して過失相殺するには、Aに事理弁識能力があることは必要でなく、それゆえ、本件ではAの過失を斟酌することができる。
2・・・妥当ではない
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができます(民法722条2項:過失相殺)。
判例によると「被害者たる未成年者の過失を斟酌(しんしゃく)する場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく(=のように)、行為の責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しないものと解するのが相当である」としています(最大判昭39.6.24) 。
つまり、事理弁識能力があれば、責任能力まではなかったとしても、過失相殺の規定を適用されます。
したがって、本問は「過失相殺するには、Aに事理弁識能力があることは必要でなく」となっているので妥当ではありません。
Aの事理弁識能力は必要です。
A(3歳)は母親Bが目を離した隙に、急に道路へ飛び出し、Cの運転するスピード違反の自動車に轢(ひ)かれて死亡した。
3.本件損害賠償額を定めるにあたって、BとAとは親子関係にあるが、BとAとは別人格なので、Bが目を離した点についてのBの過失を斟酌することはできない。
3・・・妥当ではない
判例によると、『過失相殺の規定における「被害者の過失」とは、単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失をも包含する趣旨と解すべきではあるが、本件のように被害者本人が幼児である場合において、当該被害者側の過失とは、例えば、被害者に対する監督者である父母ないしはその被用者である家事使用人などのように、被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうものと解するのを相当とする』としています(最判昭34.11.26)。
つまり、母親Bの過失も「過失」に含めて、過失相殺の規定の適用します。
よって、「母親Bの過失を斟酌できない」という本問は妥当ではありません。
A(3歳)は母親Bが目を離した隙に、急に道路へ飛び出し、Cの運転するスピード違反の自動車に轢(ひ)かれて死亡した。
4.本件損害賠償額を定めるにあたって、Aが罹患(りかん)していた疾患も一因となって死亡した場合、疾患は過失とはいえないので、当該疾患の態様、程度のいかんにかかわらずAの疾患を斟酌することはできない。
4・・・妥当ではない
判例では、「被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項(過失相殺)の規定を類推適用して、被害者の疾患をしんしゃくすることができる」としています(最判平4.6.25)。
つまり、被害者の病気が一因となって死亡した場合、病気も「過失」といえるため、その分、加害者の損害賠償額を減らすこともできるということです。
よって、本問は妥当ではありません。
A(3歳)は母親Bが目を離した隙に、急に道路へ飛び出し、Cの運転するスピード違反の自動車に轢(ひ)かれて死亡した。
5.本件損害賠償額を定めるにあたって、Aの死亡によって親が支出を免れた養育費をAの逸失利益から控除することはできない。
5・・・妥当
判例では、「交通事故により死亡した幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなった場合においても、当該養育費と幼児の将来得べかりし収入との間には、前者を後者から損益相殺の法理又はその類推適用により控除すべき損失と利得との同質性がなく、したがって、幼児の財産上の損害賠償額の算定にあたり、その将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきものではないと解するのが相当である」としています(最判昭53.10.20)。
つまり、「Aの死亡によって親が支出を免れた養育費をAの逸失利益から控除することはできない」ので正しいです。
上記判例は分かりづらいので、具体例については、個別指導で細かく解説します!

平成27年度(2015年度)|行政書士試験の問題と解説