国務請求権に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
- 憲法は何人に対しても平穏に請願する権利を保障しているので、請願を受けた機関はそれを誠実に処理せねばならず、請願の内容を審理および判定する法的義務が課される。
- 立法行為は、法律の適用段階でその違憲性を争い得る以上、国家賠償の対象とならないが、そのような訴訟上の手段がない立法不作為についてのみ、例外的に国家賠償が認められるとするのが判例である。
- 憲法が保障する裁判を受ける権利は、刑事事件においては裁判所の裁判によらなければ刑罰を科せられないことを意味しており、この点では自由権的な側面を有している。
- 憲法は、抑留または拘禁された後に「無罪の裁判」を受けたときは法律の定めるところにより国にその補償を求めることができると規定するが、少年事件における不処分決定もまた、「無罪の裁判」に当たるとするのが判例である。
- 憲法は、裁判は公開の法廷における対審および判決によってなされると定めているが、訴訟の非訟化の趨勢(すうせい)をふまえれば、純然たる訴訟事件であっても公開の法廷における対審および判決によらない柔軟な処理が許されるとするのが判例である。
【答え】:3
【解説】
1・・・妥当でない
憲法16条は、何人に対しても平穏に請願する権利を保障しています。また、請願を受けた機関はそれを誠実に処理しなければなりません(請願法5条)。しかし、請願の内容を審理および判定する法的義務までは課されていません。よって、妥当ではありません。
憲法16条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
請願法5条 この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。
2・・・妥当でない
最判昭60.11.21によると「国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けない」と判示しています。つまり、「立法行為も、国家賠償の対象となる」ので、本肢は「立法行為は、国家賠償の対象とならないが、立法不作為のみ、例外的に国家賠償が認められる」となっているので妥当ではありません。
3・・・妥当である
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われません(憲法32条)。この裁判を受ける権利は、刑事事件においては裁判所の裁判によらなければ刑罰を科せられないことを意味しており、自由権的な側面を有しています。
自由権的側面とは、人が「ある権利や自由」を有していた場合、「その権利や自由」を国家によって阻害あるいは侵害されないことを指します。この裁判を受ける権利についても、国家によって奪われないので、自由権的側面を持っているといえます。
4・・・妥当でない
【前半部分】 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができます(憲法40条)。そのため、前半部分は妥当です。
【後半部分】 最決平3.3.29によると「少年法23条2項による不処分決定(少年事件における不処分決定)は、当該事件について刑事訴追をし、又は家庭裁判所の審判に付することを妨げる効力を有しないから、非行事実が認められないことを理由とするものであっても、「無罪の裁判」に当たらない」と判示しています。
【詳細解説】 少年法23条2項とは、分かりやすく言えば、少年の行為や状況によっては、保護処分をする必要がない場合や、保護処分が適切ではない場合には、家庭裁判所がそれを認めて、保護処分を行わない決定をしなければならないということです。これはあくまで、「保護処分をしない」という決定であり、無罪を意味するわけではありません。 このように保護処分を行わない決定が出されても、その事件についての「刑事訴追」される可能性もあるし「家庭裁判所の審判」を受けることもあります。つまり、この決定が出されたからといって、少年が罪を犯していないことを意味するわけではありません。つまり、「少年が非行を犯していないことを理由」に「処分を行わない決定」をしても、その事件についての裁判は行われて、有罪判決を受ける可能性もあるということです。
5・・・妥当でない
裁判の対審及び判決は、原則、公開法廷で行います(憲法82条1項)。 そして、問題文の「訴訟の非訟化の趨勢(すうせい)」とは、訴訟手続きや裁判所に訴えることよりも、争いや紛争を解決する方法として、話し合いや調停などの手段を積極的に活用する傾向や動きを指します。
分かりやすく言えば、友達同士でゲームのルールをめぐって争いが起きたとき、友達同士で話し合ってルールを決めることで紛争を解決するのが一番簡単だから、裁判所に行くよりも、自分たちで問題を解決しようとする動きをいいます。
これを踏まえて、問題文の内容を確認すると、「純然たる訴訟事件(訴えが提起された事柄)でも、公開法廷での対審・判決をしない柔軟な対応ができる」〇か×か?と質問しています。これは妥当ではありません。
判例(最大決昭35.7.6)では「純然たる訴訟事件につき、当事者の意思いかんにかかわらず終局的に、事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定する裁判が、憲法所定の例外の場合を除き、公開の法廷における対審及び判決によってなされないとするならば、そのことは憲法82条に違反する」と判示しています。つまり、訴えが提起されて裁判になったのであれば、憲法82条の通り、原則、裁判の対審及び判決は、原則、公開法廷で行わないと憲法違反になるということです。よって、本肢は妥当ではありません。
【対審とは】裁判における「対審」とは、裁判所で行われる訴訟手続きにおいて、当事者同士が争う場面や手続きのことを指します。 具体的には、訴訟を起こした原告(告訴者)と被告(被告人)が、法廷で自分たちの主張や証拠を提示し、裁判官の前で争いを行う場面が対審となります。対審では、原告と被告が互いに主張を述べ合い、証拠を提示して、裁判官に対して自分たちの立場や主張を説明します。
令和5年(2023年)過去問
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
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問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法・多肢選択 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法・多肢選択 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法・多肢選択 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
問25 | 行政事件訴訟法 | 問55 | 基礎知識 |
問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識 |
問27 | 民法 | 問57 | 基礎知識 |
問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |