判例

最判昭57.4.1:「加害行為の不特定」と「国等の損害賠償責任」

論点

  1. 公務員による一連の職務上の行為によって他人に被害が生じたが、具体的な加害行為を特定できない場合、国または公共団体は損害賠償責任を免れるか?

事案

税務署職員であるXは、国家公務員法に基づく定期健康診断で、胸部エックス線の撮影を受けた。その結果について、実施担当者である税務署長から格別の指示も通知も受けなかったので、従前どおり職務に従事していたところ、翌年の定期健康診断で、結核にり患していたことが判明し、長期休養を余儀なくされた。

その後、上記エックス線の撮影フィルムを見たXは、すでに結核り患を示す影が映っていたことを知り、国Yに対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた。

判決

公務員による一連の職務上の行為によって他人に被害が生じたが、具体的な加害行為を特定できない場合、国または公共団体は損害賠償責任を免れるか?

免れることはできない

国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生じさせた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、

右の一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは、

国又は公共団体は、加害行為不特定の故をもって国家賠償法又は民法上の損害賠償責任を免れることができないと解するのが相当である。

しかしながら、この法理が肯定されるのは、それらの一連の行為を組成する各行為のいずれもが国又は同一の公共団体の公務員の職務上の行為にあたる場合に限られる。

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最判昭56.1.27:宜野座工場誘致事件

論点

  1. 地方公共団体の行政計画について、施行に着手した後、当該計画を変更することは許されるか?
  2. 行政計画の変更により、地方公共団体は、変更により損害を受けた者に対し、不法行為責任を負うか?

事案

沖縄県の宜野座(ぎのざ)村Yに工場建設を計画し、村長Aに対して、工場の誘致などを陳情していた株式会社Xに対して、Aは村有地の一部をXに譲渡するとの議会の議決を得た上で、誘致に全面的に協力することを断言した。

これを受けて、X社は、工場予定である村有地の耕作者らに土地明け渡しのための補償料を支払い、工場の機械設備の発注、工場の敷地内の整備工事を完了させた。

ところが、工場誘致の賛否を争点とする村長選挙があり、誘致反対派のBが村長に選出された結果、Bは、工場の建築確認申請を不同意とした。

これにより、Xは、工場誘致を断念することとなったため、当該Yの行いは、Xとの間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして、損害賠償請求をした。

判決

地方公共団体の行政計画について、施行に着手した後、当該計画を変更することは許されるか?

→許される

「地方公共団体の施策(行政計画)を住民の意思に基づいて行うべきものとする」いわゆる「住民自治の原則」は、地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則である。

また、地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたって継続すべき施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動等に伴って変更されることがあることは、当然である

したがって、地方公共団体は原則として一度行った決定に拘束されるものではない

(言い換えると、地方公共団体の行政計画も、諸事情に変更することは許される)

行政計画の変更により、地方公共団体は、変更により損害を受けた者に対し、不法行為責任を負うか?

施策が変更されることにより、①社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、②地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることがない場合、原則、不法行為責任を負う。
ただし、それがやむをえない客観的事情によるのであれば、責任を免れる

上記の通り、施策の変更は許されるが、

当初行った決定(旧村長Aのもとで行われたYの決定)が、単に一定内容の継続的な施策を定めるにとどまらず、①特定の者に対して右施策に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的、具体的な勧告ないし勧誘を伴うものであり、かつ、②その活動が相当長期にわたる当該施策の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じうる性質のものである場合には、

特定の者(X)は、右施策(旧村長AのもとYが決定した施策)が活動の基盤として維持されるものと信頼し、これを前提として活動ないしその準備活動に入るのが通常である。

このような状況のもとでは、たとえ右勧告ないし勧誘に基づいてその者と当該地方公共団体との間に右施策の維持を内容とする契約が締結されたものとは認められない場合であっても、右のように密接な交渉を持つに至った当事者間の関係を規律すべき信義衡平の原則に照らし、その施策の変更にあたってはかかる信頼に対して法的保護が与えられなければならない

すなわち、右施策が変更されることにより、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り

当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任が生じる。

最大判昭56.12.16:「空港騒音」と「設置又は管理の瑕疵」(大阪国際空港公害訴訟)

論点

  1. 営造物(空港)の利用が一定の限度を超えるため、第三者(空港周辺の住民)が損害を受ける危険性がある場合、国家賠償法2条1項の「営造物の設置又は管理」に瑕疵があるといえるのか?

事案

大阪国際空港(伊丹空港)は、昭和34年から国営空港として、管理・供用されていた。

昭和39年にジェット機、さらに昭和45年には大型ジェット機の離着陸が認められた。

その結果、周辺住民Xらは、騒音・振動等の被害を被っていた。

そこで、Xらは、国Yに対して民法709条(不法行為による損害賠償責任)または国家賠償法2条に基づく損害賠償責任があるとして、訴えを提起した。

判決

営造物(空港)の利用が一定の限度を超えるため、第三者(空港周辺の住民)が損害を受ける危険性がある場合、国家賠償法2条1項の「営造物の設置又は管理」に瑕疵があるといえるのか?

設置又は管理の瑕疵があるといえる

国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が有すべき安全性を欠いている状態をいう。

そこにいう安全性の欠如、すなわち、他人に危害を及ぼす危険性のある状態とは、ひとり当該営造物を構成する物的施設自体に存する物理的、外形的な欠陥ないし不備によって一般的に右のような危害を生じさせる危険性がある場合のみならず、その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含む。

また、その危害は、営造物の利用者に対してのみならず、利用者以外の第三者(周辺住民Xら)に対するそれをも含むものと解すべきである。

すなわち、当該営造物の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りにおいてはその施設に危害を生ぜしめる危険性がなくても、これを超える利用によつて危害を生ぜしめる危険性がある状況にある場合には、そのような利用に供される限りにおいて右営造物の設置、管理には瑕疵があるといえる

したがって、右営造物の設置・管理者において、かかる危険性があるにもかかわらず、これにつき特段の措置を講ずることなく、また、適切な制限を加えないままこれを利用に供し、その結果利用者又は第三者に対して現実に危害を生ぜしめたときは、それが右設置・管理者の予測しえない事由によるものでない限り、国家賠償法2条1項の規定による責任を免れることができないと解されるのである。

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関連判例

最大判昭56.12.16:大阪空港公害訴訟

最大判昭56.12.16:大阪空港公害訴訟

論点

  1. 民事上の請求として、国営空港の使用の差止めを求める訴えは適法か?

事案

大阪国際空港(伊丹空港)は、国営の空港であった。

周辺住民Xらは、空港を発着する航空機の騒音等により被害を受け、人格権および環境権を著しく侵害されたことを理由として、空港の管理者である国Yに対して、民事訴訟を提起し、毎日午後9時~翌朝午前7時までの間、航空機の発着に使用させることの差止めを求めた。

判決

民事上の請求として、国営空港の使用の差止めを求める訴えは適法か?

→不適法である(民事訴訟で訴えることはできない

国際航空路線又は主要な国内航空路線に必要なものなど基幹となる公共用飛行場については、「運輸大臣みずから」が、又は「特殊法人である新東京国際空港公団」が、これを国営又は同公団営の空港として設置、管理し、公共の利益のためにその運営に当たるべきものとしている。

その理由は、これら基幹となる公共用飛行場にあっては、その設置、管理のあり方がわが国の政治、外交、経済、文化等と深いかかわりを持ち、国民生活に及ぼす影響も大きく、したがつて、どの地域にどのような規模でこれを設置し、どのように管理するかについては航空行政の全般にわたる政策的判断を不可欠とするからにほかならないものと考えられる。

このような空港国営化の趣旨、すなわち国営空港の特質を参酌して考えると、本件空港の管理に関する事項のうち、少なくとも航空機の離着陸の規制そのもの等、本件空港の本来の機能の達成実現に直接にかかわる事項自体については、「空港管理権に基づく管理」と「航空行政権に基づく規制」とが、「空港管理権者としての運輸大臣」と「航空行政権の主管者としての運輸大臣」のそれぞれ別個の判断に基づいて分離独立的に行われ、両者の間に矛盾乖離を生じ、本件空港を国営空港とした本旨を没却し又はこれに支障を与える結果を生ずることがないよう、いわば両者が不即不離、不可分一体的に行使実現されているものと解するのが相当である。

言い換えれば、本件空港における航空機の離着陸の規制等は、これを法律的にみると、単に本件空港についての営造物管理権の行使という立場のみにおいてされるべきもの、そして現にされているものとみるべきではなく航空行政権の行使という立場をも加えた、複合的観点に立つた総合的判断に基づいてされるべきもの、そして現にされているものとみるべきものである。

ここで、Xらの前記のような請求は、不可避的に航空行政権の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することとなるものといわなければならない。

したがって、Xらが行政訴訟の方法により何らかの請求をすることができるかどうかはともかくとして、上告人に対し、いわゆる通常の民事上の請求として前記のような私法上の給付請求権を有するとの主張の成立すべきいわれはない(民事上の請求で主張はできない)というほかはない。

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関連判例

最大判昭56.12.16:「空港騒音」と「設置又は管理の瑕疵」(大阪国際空港公害訴訟)

最判昭55.11.25:「運転免許停止処分」と「訴えの利益」

論点

  1. 運転免許停止処分後、無違反・無処分で1年を経過した場合、当該処分の取消訴訟において、訴えの利益は認められるか?

事案

自動車運転免許保持者Xは、Y県警本部長から、自動車運転免許の効力を30日停止する旨の処分(免許停止処分:本件原処分)を受けたが、講習受講により免許の効力停止期間を29日短縮した。

そして、Xは、本件原処分の日から1年間無違反・無処分で経過した。

Xは、本件原処分を不服として、Y県公安委員会に対し審査請求をしたが、Y県公安委員会は審査請求を棄却する裁決をしたため、Xは、審査手続きの瑕疵を主張して、本件裁決の取消訴訟を提起した。

判決

運転免許停止処分後、無違反・無処分で1年を経過した場合、当該処分の取消訴訟において、訴えの利益は認められるか?

訴えの利益は認められない

本件事実によると本件原処分の効果は右処分の日一日の期間の経過によりなくなったものである。(講習を受けたことにより29日短縮されたから)

また、本件原処分の日から一年を経過した日の翌日以降、Xが本件原処分を理由に道路交通法上不利益を受ける虞(おそれ)(理由)がなくなったことはもとより、他に本件原処分を理由にXを不利益に取り扱いうることを認めた法令の規定はない

したがって、行政事件訴訟法9条の規定の適用上、Xは、本件原処分及び本件裁決の取消によつて回復すべき法律上の利益を有しないというべきである。

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最判昭54.12.25:輸入禁止の製品に該当する旨の通知

論点

  1. 輸入禁制品の該当通知に処分性が認められるか?

事案

輸入業者である株式会社Xは、女性ヌード写真集392冊を輸入するために、税関長Yに対して、当該書籍の輸入申告をした。

しかし、Yは、Xに対して、関税定率法21条1項3号の輸入禁制品(輸入禁止の製品)に該当する旨の通知をした。

そこで、Xが当該通知について異議を申し出たものの、Yは棄却し、Xは、当該通知、および棄却決定の取消訴訟を提起した。

判決

輸入禁制品の該当通知に処分性が認められるか?

認められる

関税定率法の規定による通知が、行政庁のいわゆる観念の通知とみるべきものであることは、原判決の判示するとおりである。

そして、輸入禁制品について税関長がその輸入を許可するものでないことは、明らかである。

そして、税関長Yにおいて、輸入申告者に対し、通知をした場合においては、当該貨物につき輸入の許可を得ることができなくなったことが明らかとなったものということができる。

また、輸入申告者Xは輸入の許可を受けないで貨物を輸入することを法律上禁止されているのであるから、輸入申告者は、当該貨物を適法に輸入する道を閉ざされるに至ったものといわなければならない。

そして、輸入申告者Xの被るこのような制約は、関税定率法の規定による通知によって生ずるに至った法律上の効果である、とみるのが相当である

そうすると、Yの関税定率法による通知は、その法律上の性質においてYの判断の結果の表明、すなわち観念の通知であるとはいうものの、もともと法律の規定に準拠してされたものであり、かつ、これにより上告人に対し申告にかかる本件貨物を適法に輸入することができなくなるという法律上の効果を及ぼすものというべきであるから、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するもの、と解するのが相当である。

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最大判昭53.10.4:マクリーン事件

論点

  1. 外国人の在留期間の更新について法務大臣の裁量権が認められるか?
  2. 外国人にも人権の保障が及ぶか?
  3. 外国人にも政治活動の自由の保障が及ぶか?

事案

外国籍のマクリーン(X)は、在留期間を1年とする許可を得て、日本に入国した。

その後、Xは、法務大臣Yに対して、在留期間延長の申請をした。

しかし、「無断転職」および「政治活動(※)」を理由に、120日の更新しか認められず、その後、更新は不許可となった。

※ベトナム戦争の反対運動、日米安保条約の反対運動などを行っていた。

そこで、XはYの更新不許可処分を不服として、その取消しを求めて出訴した。

判決

1.外国人の在留期間の更新について法務大臣の裁量権が認められるか?

認められる

出入国管理令では、「在留期間の更新については、法務大臣がこれを適当と認めるに足りる相当の理由があると判断した場合に限り許可できる」としています。

そのため、更新事由の判断を、法務大臣の裁量に任せて、その裁量権の範囲を広汎なものとする趣旨であると解されます。

したがって、外国人の在留期間の更新について法務大臣の裁量権が認められます。

ただし、その裁量について、裁量権の範囲を超え又はその濫用があった場合、違法となります

そして、今回、法務大臣が、外国人の政治活動を斟酌して在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるものとはいえないと判断し、更新不許可の処分を下したわけですが、

今回の事案では、「裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできない」として、違法ではないとした。

※ 斟酌(しんしゃく)相手の事情や心情をよくくみとること

2.外国人にも人権の保障が及ぶか?

原則、外国人にも人権の保障は及ぶ

例外として、外国人在留制度の枠を超える部分は、人権保障が及ばない

判例では、「基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべき」としているので、原則、外国人にも人権保障が及びます。

しかし、外国人の人権保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎず、外国人在留制度の枠を超える部分は、人権保障が及ばないとしています。

具体例が下記一定の政治活動の自由です。

「外国人在留制度の枠」については、個別指導で解説します!

3.外国人にも政治活動の自由の保障が及ぶか?

原則、外国人にも政治活動の自由を認めている

例外として、わが国の政治的意思決定または、その実施に影響を及ぼす活動などは、政治活動の自由の保障は及ばない

政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定または、その実施に影響を及ぼす活動など、外国人の地位にかんがみて、これを認めることが相当でないと解されるものを除いて、その保障が及びます

そして、今回の事案では、外国人Xの事実に対する法務大臣の不許可処分は、「明白に合理性に欠き、その判断が社会通念上著しく妥当性に欠くことが明らかである」とはいえないので、在留中の政治活動を理由に更新を不許可としたことは違憲ではない、とした。

※ かんがみる(鑑みる):先例や規範に照らし合わせる。他を参考にして考える

最判昭53.6.16:余目町個室付浴場事件

論点

  1. 行政権の濫用に相当する違法な行政処分に公定力があるか?

事案

有限会社Xは、個室付浴場業(ソープランドや風俗店)を営むために、山形県余目町(あまるめまち)に土地を購入し、個室付浴場業用の建物の建築確認の申請をし、建築確認を得た上で、建物の建築を完成させた。

また、個室付浴場業の営業許可についても、Xは受けていた。

ところが、当該個室付浴場業の建築に反対した地元住民から反対運動が起こったため、余目町と山形県Yは、個室付浴場業の開業を阻止するための方策を考えた。

その方策は、風俗営業等取締法(風営法)に「児童福祉施設から200m以内では、個室付浴場業の営業を禁止する」といる法律を利用することであった。

当該個室付浴場から200m以内にある無認可の児童遊園があり、この児童遊園について、認可を与えた。

これにより、上記風営法により、Xは、当該個室付浴場業を開業できなくなった。

それにも関わらず、Xは個室付浴場業の営業を開始した。

そのため、Xは風営法違反で起訴された。

判決

行政権の濫用に相当する違法な行政処分に公定力があるか?

→ない(公定力はない

まず、本件児童遊園設置の認可処分は、行政権の著しい濫用によるものとして違法である。

(この点は「最判昭53.5.26:余目町個室付浴場事件」参照)

Xの個室付浴場業の営業に先立つ児童遊園設置の認可処分が行政権の濫用に相当する違法性を帯びているときには、児童遊園の存在を理由に、Xの個室付浴場業の営業を規制する根拠にすることは許されない。

そして、本件当時余目町において、Xの個室付浴場業の営業の規制以外に、「児童遊園を無認可施設から認可施設に整備する必要性、緊急性があったこと」をうかがわせる事情は認められない。

したがって、「Xの個室付浴場業の営業の規制」を主たる動機、目的とする余目町の「児童遊園設置の認可処分」は、行政権の濫用に相当する違法性があり、Xの個室付浴場業の営業に対しこれを規制しうる効力を有しない
(Xのソープランド営業を規制する効力はない)

最判昭53.5.26:余目町個室付浴場事件

論点

  1. 個室付き浴場の開業阻止のために、知事が行った児童園設置認可処分は国家賠償法上の違法となるか?

事案

有限会社Xは、個室付浴場業(ソープランドや風俗店)を営むために、山形県余目町(あまるめまち)に土地を購入し、個室付浴場業用の建物の建築確認の申請をし、建築確認を得た上で、建物の建築を完成させた。

また、個室付浴場業の営業許可についても、Xは受けていた。

ところが、当該個室付浴場業の建築に反対した地元住民から反対運動が起こったため、余目町と山形県Yは、個室付浴場業の開業を阻止するための方策を考えた。

その方策は、風俗営業等取締法(風営法)に「児童福祉施設から200m以内では、個室付浴場業の営業を禁止する」という法律を利用することであった。

当該個室付浴場から200m以内にある無認可の児童遊園があり、この児童遊園について、認可を与えた。

これにより、上記風営法により、Xは、当該個室付浴場業を開業できなくなった。

それにも関わらず、Xは個室付浴場業の営業を開始したため、Xは業務停止処分を受けた。

そこで、Xは、処分の取消訴訟を提起したが、訴訟係属中に、営業停止処分期間が経過したため、Yを被告として、国家賠償請求の訴えに変更した。

判決

個室付き浴場の開業阻止のために、知事が行った児童園設置認可処分は国家賠償法上の違法となるか?

→違法

本件児童遊園設置の認可処分は、行政権の著しい濫用によるものとして違法である。

関連する判例

最判昭53.6.16:余目町個室付浴場事件(行政権の濫用に相当する違法な行政処分に公定力はない)

最判昭53.3.14:主婦連ジュース事件

論点

  1. 景表法に基づく不服申立について、一般消費者に不服申立人適格が認められるか?

事案

公正取引委員会Yは、社団法人日本果汁協会らの申請に基づき、昭和46年3月、果実飲料等の表示に関する公正競争規約を認定した。

これに対して、主婦連合会Xは、この規約の認定は「不当景品類及び不当表示防止法(景表法)」の要件に該当していないとして、Yに不服申し立てをした。

判決

景表法に基づく不服申立について、一般消費者に不服申立人適格が認められるか?

→認められない

一般消費者も国民を消費者としての側面からとらえたものというべきであり、景表法の規定により一般消費者が受ける利益は、公正取引委員会による同法の適正な運用によって実現されるべき公益の保護を通じ国民一般が共通してもつにいたる抽象的、平均的、一般的な利益である。

言い方をかえると、同法の規定の目的である公益の保護の結果として生ずる反射的な利益ないし事実上の利益であって、本来私人等権利主体の個人的な利益を保護することを目的とする法規により保障される法律上保護された利益とはいえないものである。

もとより、一般消費者といっても、個々の消費者を離れて存在するものではないが、景表法上かかる個々の消費者の利益は、同法の規定が目的とする公益の保護を通じその結果として保護されるべきものである。

言い方をかえると、公益に完全に包摂されるような性質のものにすぎないと解すべきである。

したがって、仮に、公正取引委員会による公正競争規約の認定が正当にされなかったとしても、一般消費者としては、景表法の規定の適正な運用によて得られるべき反射的な利益ないし事実上の利益が得られなかったにとどまり、その本来有する法律上の地位には、なんら消長はない(変化はない)といわなければならない。

そこで、単に一般消費者であるというだけでは、公正取引委員会による公正競争規約の認定につき景表法による不服申立をする法律上の利益をもつ者であるということはできず、不服申立人適格は認められない

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