判例

最判平4.9.22:原子炉設置許可処分と原告適格

論点

  1. 原子炉の周辺に居住する住民は、原子炉設置許可処分の無効確認訴訟の原告適格を有するか?

事案

動力炉・核燃料開発事業団は、福井県敦賀市(つるが)に高速増殖炉原子炉「もんじゅ」の建設・運転を計画し、内閣総理大臣Yは、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律(規制法)に基づき原子炉設置許可処分を行った。

このため、付近の住民XらがYを被告として、原子炉設置許可処分に際しての安全審査に重大かつ明白な瑕疵があるとして、原子炉設置許可処分の無効確認の訴えを提起した。

判決

原子炉の周辺に居住する住民は、原子炉設置許可処分の無効確認訴訟の原告適格を有するか?

原告適格を有する

行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。

そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである。

そして、行政事件訴訟法36条は、無効等確認の訴えの原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」の意義についても、右の取消訴訟の原告適格の場合と同義に解するのが相当である。

そして、原子炉設置許可の基準の趣旨は、原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、右災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の右技術的能力の有無及び申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき十分な審査をし、右の者において所定の技術的能力があり、かつ、原子炉施設の位置、構造及び設備が右災害の防止上支障がないものであると認められる場合でない限り、主務大臣は原子炉設置許可処分をしてはならないとした点にある。

そして、「所定の技術的能力の有無」及び「所定の安全性に関する各審査」に過誤、欠落があった場合には重大な原子炉事故が起こる可能性があり、事故が起こったときは、原子炉施設に近い住民ほど被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その被害の程度はより直接的かつ重大なものとなるのであって、特に、原子炉施設の近くに居住する者はその生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるのである。

このような原子炉の事故等がもたらす災害による被害の性質を考慮した上で、右技術的能力及び安全性に関する基準を定めているものと解される。

原子炉設置許可の基準の趣旨、「所定の技術的能力の有無」及び「所定の安全性に関する各審査」が考慮している被害の性質等にかんがみると、「所定の技術的能力の有無」及び「所定の安全性に関する各審査」は、単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。

そして、本件原子炉から約29kmないし約58kmの範囲内の地域に居住している者は、「所定の技術的能力の有無」及び「所定の安全性に関する各審査」に過誤、欠落がある場合に起こり得る事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域内に居住する者というべきであるから、本件設置許可処分の無効確認を求める本訴請求において、行政事件訴訟法36条所定の「法律上の利益を有する者」に該当するものと認めるのが相当である。(原告適格を有する

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最判平4.9.22:民事差止訴訟と無効確認訴訟(もんじゅ訴訟)

最判平4.1.24:「土地改良事業の施行認可処分」と「訴えの利益」

論点

  1. 土地改良事業の工事が完了して、原状回復が不可能となった場合、当該事業の施行認可の取消しを求める訴えの利益は消滅するか?

事案

A町は、町営の土地改良事業を計画し、事業計画を定め、B県知事に対して、本件土地改良事業の施行の認可申請をした。

その後、本件事業地内の土地所有者であるXは、本件認可の取消しを求めて出訴した。

そして、裁判の係属中に本件事業計画にかかる工事はすべて完了した。

判決

土地改良事業の工事が完了して、原状回復が不可能となった場合、当該事業の施行認可の取消しを求める訴えの利益は消滅するか?

訴えの利益は消滅しない

本件認可処分は、本件事業の施行者であるA町に対し、本件事業施行地域内の土地につき土地改良事業を施行することを認可するもの、すなわち、土地改良事業施行権を付与するものである。

そして、本件事業において、本件認可処分後に行われる換地処分等の一連の手続及び処分は、本件認可処分が有効に存在することを前提とするものであるから、本件訴訟において本件認可処分が取り消されるとすれば、これにより右換地処分等の法的効力が影響を受けることは明らかである。

そして、本件訴訟において、本件認可処分が取り消された場合に、本件事業施行地域を本件事業施行以前の原状に回復することが、本件訴訟係属中に本件事業計画に係る工事及び換地処分がすべて完了したため、社会的、経済的損失の観点からみて、社会通念上、不可能であるとしても、右のような事情は、行政事件訴訟法31条事情判決)の適用に関して考慮されるべき事柄であって、本件認可処分の取消しを求めるXの法律上の利益を消滅させるものではないと解するのが相当である。

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最判平3.7.9:監獄法事件

論点

  1. 被勾留者と幼年者との接見を原則禁止するとした旧監獄法施行規則は、旧監獄法の委任の範囲を超え、無効となるか?

事案

Xは、ある罪により東京拘置所に勾留されていたが、第一審・第二審において死刑判決を受け、最高裁に上告をしていた。

Xはその間に、死刑廃止運動に関係するAから裁判を通じて援助を受け、「Aの母親B」と養子縁組を結んだ。

そして、Xは「Aの娘C(10歳)」と文通をしており、XはCとの面会を求めたところ、東京拘置所長Y1は旧監獄法施行規則に基づき不許可処分とした。

旧監獄法50条には「接見の立ち合い、信書の検閲その他接見及び信書に関する制限は法務省令をもって定める」と規定し、それを受けて、旧監獄法施行規則120条で「14歳末満の者には在監者と接見することを許さない」と規定し、旧監獄法施行規則124条は「所長において処遇上その他必要があると認めるときは旧監獄法施行規則120条の制限を免除できる」と規定していた。

Xは、旧監獄法施行規則120条が、憲法31条(適正手続の保障)、13条(人権保障)、14条(法の下の平等)の保障する幼年者との面接権を侵害する違憲な規定であり、仮に違憲でないとしても面接不許可処分は裁量権を濫用したものであるとして、国Y2に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償訴訟を提起した。

判決

被勾留者と幼年者との接見を原則禁止するとした旧監獄法施行規則は、旧監獄法の委任の範囲を超え、無効となるか?

委任の範囲を超え、無効である

旧監獄法50条は、「接見の立ち合い、信書の検閲その他接見及び信書に関する制限は法務省令をもって定める」と規定し、命令(法務省令)をもって、面会の立会、場所、時間、回数等、面会の態様についてのみ必要な制限をすることができる旨を定めている。

そして、命令によって接見許可の基準そのものを変更することは許されない。

ところが、規則120条は、「14歳末満の者には在監者と接見することを許さない」と規定し、旧監獄法施行規則124条は「所長において処遇上その他必要があると認めるときは旧監獄法施行規則120条の制限を免除できる」と規定している。

これによれば、規則120条が原則として被勾留者と幼年者との接見を許さないこととする一方で、規則124条がその例外として限られた場合に監獄の長の裁量によりこれを許すこととしていることが明らかである。

しかし、これらの規定は、たとえ事物を弁別する能力の未発達な幼年者の心情を害することがないようにという配慮の下に設けられたものであるとしても、それ自体、法律によらないで、被勾留者の接見の自由を著しく制限するものであって、法50条の委任の範囲を超えるものといわなければならない

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最判平3.4.26:水俣病認定業務に関する知事の不作為違法

論点

  1. 水俣病患者の認定申請をした者が、相当期間内に応答処分されることにより焦燥、不安の気持ちを抱かされない利益は、不法行為法上の保護の対象になるか?
  2. 水俣病患者の認定申請を受けた処分庁が、申請に対する処分をする義務に違反したというためには、どのような要件が必要か?

事案

Xらは、水俣病の認定申請をした。しかし、半年以上経過しても、熊本県知事から何らの応答処分を受けなかったので、Xらは、熊本県知事等Yに対して国家賠償法1条等に基づく損害賠償請求の訴えを提起した。

判決

水俣病患者の認定申請をした者が、相当期間内に応答処分されることにより焦燥、不安の気持ちを抱かされない利益は、不法行為法上の保護の対象になるか?

保護の対象となる

一般的には、各人の価値観が多様化し、精神的な摩擦が様々な形で現れている現代社会においては、各人が自己の行動について他者の社会的活動との調和を充分に図る必要がある。

したがって、人が社会生活において他者から内心の静穏な感情を害され精神的苦痛を受けることがあっても、一定の限度では甘受すべきものというべきではあるが、社会通念上その限度を超えるものについては人格的な利益として法的に保護すべき場合があり、それに対する侵害があれば、その侵害の態様、程度いかんによっては、不法行為が成立する余地があるものと解すべきである。

本件についてみるに、認定申請者としての、早期の処分により水俣病にかかっている疑いのままの不安定な地位から早期に解放されたいという期待、その期待の背後にある申請者の焦燥(しょうそう:あせっていらだつこと)不安の気持を抱かされないという利益は、内心の静穏な感情を害されない利益として、これが不法行為法上の保護の対象になり得るものと解するのが相当である。

水俣病患者の認定申請を受けた処分庁が、申請に対する処分をする義務に違反したというためには、どのような要件が必要か?

①その期間に比してさらに長期間にわたり遅延が続き、かつ、②その間、処分庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに、これを回避するための努力を尽くさなかった、という2つの要件が必要

一般に、処分庁が認定申請を相当期間内に処分すべきは当然であり、これにつき不当に長期間にわたって処分がされない場合には、早期の処分を期待していた申請者が不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害されるに至るであろうことは容易に予測できる。

したがって、処分庁には、こうした結果を回避すべき条理上の作為義務があるということができる。

そして、処分庁が右の意味における作為義務に違反したといえるためには客観的に処分庁がその処分のために手続上必要と考えられる期間内に処分できなかったことだけでは足りず①その期間に比してさらに長期間にわたり遅延が続き、かつ、②その間、処分庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに、これを回避するための努力を尽くさなかったことが必要であると解すべきである。

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最判平2.12.13:改修済河川の安全性(多摩川水害訴訟)

論点

  1. 改修済河川における河川管理の瑕疵の判断基準は?

事案

昭和49年8月末の豪雨により、1級河川・多摩川が著しく増水し、東京都狛江市の河道内に設置された取水堰(取水ダム)を越えた流水(洪水)により付近の家屋19棟が流出するという水害が発生した。

建設大臣(現国土交通大臣)Aは、昭和41年に多摩川水系工事実施基本計画を策定していたが、今回の洪水は、この基本計画の予定する水量規模の洪水であった。

そして、洪水が行った付近の河川部分は、基本計画による改修工事が終わった区間とされ、本件災害時までの間にも、基本計画に照らして新規の改修、整備の必要性は認められておらず、当面の改修計画もなかった。

そこで、被災者Xらは、多摩川の管理者である国Yに対して、危険な取水ダムを放置し、これに対応する河川管理施設の整備を怠ったとして、国家賠償法2条1項に基づいく損害賠償請求訴訟を提起した。

判決

改修済河川における河川管理の瑕疵の判断基準は?

改修済河川は、改修がなされた段階で想定されていた洪水に対応しうる安全性を備えていたか否かで判断する

工事実施基本計画が策定され、「右計画に準拠して改修、整備がされ」、あるいは「右計画に準拠して新規の改修、整備の必要がないものとされた」河川の改修、整備の段階に対応する安全性とは、同計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全性をいうものと解すべきである。

つまり、前記判断基準に示された河川管理の特質から考えれば、改修、整備がされた河川は、その改修、整備がされた段階において想定された洪水から、当時の防災技術の水準に照らして通常予測し、かつ、回避し得る水害を未然に防止するに足りる安全性を備えるべきものであるというべきである。

水害が発生した場合においても、当該河川の改修、整備がされた段階において想定された規模の洪水から当該水害の発生の危険を通常予測することができなかった場合には、河川管理の瑕疵を問うことができない。

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最判平元.11.24:「宅建業法の免許基準」と「国家賠償法」

論点

  1. 宅建業法の免許基準を満たしていない者に免許を与えたり、免許の更新をした知事の行為は、国家賠償法1条1項の「違法な行為」に該当するか?
  2. 宅建業者の不正行為により、取引相手が損害を被った場合、当該業者に対して、監督処分を行わなかった知事等の権限不行使は、国家賠償法1条1項の「違法な行為」に該当するか?

事案

有限会社Aは、京都府知事から宅建業者の免許を受け、営業を続けていたが、多額の債務を負っていた。

そして、Aは、自ら売主として、買主Xと不動産を売却する契約を締結し、手付金およぶ中間金を受け取った。しかし、その後、Aは、当該手付金や中間金を使い込んで、さらにXに当該不動産を引き渡さなかった。

Xは、京都府Yに対して、①このようなAに対して免許を付与したこと、および②Aに対して業務停止処分、免許取消処分等の権限を行使しなかったことは違法であるとして、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。

判決

宅建業法の免許基準を満たしていない者に免許を与えたり、免許の更新をした知事の行為は、国家賠償法1条1項の「違法な行為」に該当するか?

直ちに違法な行為に該当するとはいえない

宅建業法が免許制度を設けた趣旨は、直接的には、宅地建物取引の安全を害するおそれのある宅建業者の関与を未然に排除することにより取引の公正を確保し、宅地建物の円滑な流通を図るところにある。

免許制度も、究極的には取引関係者の利益の保護に資するものではあるが、前記のような趣旨のものであることを超え、免許を付与した宅建業者の人格・資質等を一般的に保証し、ひいては当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が被る具体的な損害の防止、救済を制度の直接的な目的とするものとはにわかに解し難い(考えることは難しい)。

したがって、かかる損害の救済は一般の不法行為規範等に委ねられているというべきであるから、知事等による免許の付与ないし更新それ自体は、法所定の免許基準に適合しない場合であっても、当該業者との個々の取引関係者に対する関係において直ちに国家賠償法1条1項にいう違法な行為に当たるものではないというべきである。

宅建業者の不正行為により、取引相手が損害を被った場合、当該業者に対して、監督処分を行わなかった知事等の権限不行使は、国家賠償法1条1項の「違法な行為」に該当するか?

監督処分の権限不行使が、著しく不合理と認められるときでない限り、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けない

監督処分権限も、この免許制度及び宅建業法が定める各種規制の実効を確保する趣旨に出たものにほかならない。

また、業務の停止ないし免許の取消(監督処分)は、当該宅建業者に対する不利益処分であり、その営業継続を不能にする事態を招き、既存の取引関係者の利害にも影響するところが大きく、そのゆえに前記のような聴聞、公告の手続が定められている。

そして、業務の停止に関する知事等の権限が、その裁量により行使されるべきことは法65条5項の規定上明らかである。

また、免許の取消については法66条各号の一に該当する場合に知事等がこれをしなければならないと規定しているが、業務の停止事由に該当し情状が特に重いときを免許の取消事由と定めている同条9号にあっては、その要件の認定に裁量の余地があるのであって、これらの処分の選択、その権限行使の時期等は、知事等の専門的判断に基づく合理的裁量に委ねられているというべきである。

したがって、当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が損害を被った場合であっても、具体的事情の下において、知事等に監督処分権限が付与された趣旨・目的に照らし、その不行使が著しく不合理と認められるときでない限り、右権限の不行使は、当該取引関係者に対する関係で国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受けるものではないといわなければならない。

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最判平元.11.8:宅地開発指導要綱と給水拒否

論点

  1. 宅地開発指導要綱を順守させるために、給水契約の締結を拒否することはできるか?

事案

武蔵野市では、昭和40年代からマンション建設が急増し、日照権やプライバシー権をめぐって住民と事業者間で紛争が生じるなどの問題が深刻化していた。

そこで、同市では、宅地開発指導要綱を施行した。その指導要綱の中に、「指導要綱に従わない場合、市の上下水道などの利用について必要な協力を行わない旨(給水拒否もあり得る旨)」を定めた。

ところが、建設業者Aは、指導要綱に基づく行政指導に従わないで、マンション建設をし、水道の供給を申し入れた。これに対し、武蔵野市長Xは、水道供給を拒否した。

この拒否は、水道法15条1項に違反するとしてXは起訴された。

判決

宅地開発指導要綱を順守させるために、給水契約の締結を拒否することはできるか?

→できない。

水道法上給水契約の締結を義務づけられている水道事業者としては、たとえ右の指導要綱を事業主に順守させるため行政指導を継続する必要があったとしても、これを理由として事業主(A)との給水契約の締結を留保(保留)することは許されない。

給水契約の締結を留保(保留)した被告人Xの行為は、給水契約の締結を拒んだ行為に当たる

また、原判決の認定によると、被告人Xは、右の指導要綱を順守させるための圧力手段として、水道事業者が有している給水の権限を用い、指導要綱に従わないA建設らとの給水契約の締結を拒んだものであり、その給水契約を締結して給水することが公序良俗違反を助長することとなるような事情もなかったというのである。

そうすると、水道事業者としては、たとえ指導要綱に従わない事業主らからの給水契約の申込であっても、その締結を拒むことは許されないというべきである。

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最判平元.4.13:特急料金改定の認可処分

論点

  1. 特急料金改定の認可処分の取消しを求める訴訟において、特急利用者に原告適格が認められるか?

事案

鉄道会社である株式会社Aは、陸運局長Yから特別急行料金(特急料金)を値上げする旨の認可処分を受けた。そこで、A社の通勤定期乗車券を購入して日常的にA社の特急に乗車していたXらが、同認可処分の取消しを求めて提訴した。

判決

特急料金改定の認可処分の取消しを求める訴訟において、特急利用者に原告適格が認められるか?

認められない

地方鉄道法21条は、地方鉄道における運賃、料金の定め、変更につき監督官庁の認可を受けさせることとしている。

そして、同条に基づく認可処分そのものは、本来、当該地方鉄道の利用者の契約上の地位に直接影響を及ぼすものではなく、このことは、その利用形態のいかんにより差異を生ずるものではない。

また、同条の趣旨は、もっぱら公共の利益を確保することにあるのであって、当該地方鉄道の利用者の個別的な権利利益を保護することにあるのではなく、他に同条が当該地方鉄道の利用者の個別的な権利利益を保護することを目的として認可権の行使に制約を課していると解すべき根拠はない

そうすると、たとえXらがA鉄道株式会社の路線の周辺に居住する者であって通勤定期券を購入するなどしたうえ、日常同社が運行している特別急行旅客列車を利用しているとしても、Xらは、本件特別急行料金の改定(変更)の認可処分によつて自己の権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるということができず、右認可処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきである。

したがって、本件訴え(認可処分取消しの訴え)は不適法である。

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最判平元.2.17:航空法に基づく定期航空運送事業免許処分

論点

  1. 定期航空運送事業免許に基づき路線を航行する航空機の騒音被害に苦しめられる周辺住民は、当該免許処分の取消訴訟の原告適格を有するか?

事案

新潟空港について、昭和54年12月に運輸大臣(現、国土交通大臣)Yが新潟―小松―ソウル間の定期航空運送事業免許をAに与えた。

その結果、空港周辺に居住する住民Xらが、騒音により健康または生活上の利益が侵害されると主張し、その取消しを求めた。

判決

定期航空運送事業免許に基づき路線を航行する航空機の騒音被害に苦しめられる周辺住民は、当該免許処分の取消訴訟の原告適格を有するか?

→有する

取消訴訟の原告適格について規定する行政事件訴訟法九条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。

そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられているとみることができるかどうかによって決すべきである。

本件についてみると、航空法は、「国際民間航空条約の規定」並びに「同条約の附属書」として採択された標準、方式及び手続に準拠しているものであるが、航空機の航行に起因する障害の防止を図ることをその直接の目的の一つとしている(法一条)。

また、航空運送事業の免許権限を有する運輸大臣は、他方において、公共用飛行場の周辺における航空機の騒音による障害の防止等を目的とする公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律三条に基づき、公共用飛行場周辺における航空機の騒音による障害の防止・軽減のために必要があるときは、航空機の航行方法の指定をする権限を有しているのであるが、同一の行政機関である運輸大臣が行う定期航空運送事業免許の審査は、関連法規である同法の航空機の騒音による障害の防止の趣旨をも踏まえて行われることが求められるといわなければならない。

以上のような航空機騒音障害の防止の観点からの定期航空運送事業に対する規制に関する法体系をみると、法は、前記の目的を達成する一つの方法として、あらかじめ定期航空運送事業免許の審査の段階において、当該路線の使用飛行場、使用航空機の型式、運航回数及び発着日時など申請に係る事業計画の内容が、航空機の騒音による障害の防止の観点からも適切なものであるか否かを審査すべきものとしているといわなければならない。

つまり、航空法は、単に飛行場周辺の環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、飛行場周辺に居住する者が航空機の騒音によつて著しい障害を受けないという利益をこれら個々人の個別的利益としても保護すべきとする趣旨を含むものと解することができるのである。

したがって、新たに付与された定期航空運送事業免許に係る路線の使用飛行場の周辺に居住していて、当該免許に係る事業が行われる結果、当該飛行場を使用する各種航空機の騒音の程度、当該飛行場の一日の離着陸回数、離着陸の時間帯等からして、当該免許に係る路線を航行する航空機の騒音によって社会通念上著しい障害を受けることとなる者は、当該免許の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。

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最判昭62.10.30:青色申告課税処分事件

論点

  1. 租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用による違法を考えることができるのはどのような場合か?

事案

酒類販売業を営むAがいた。Aの養子であるXがいた。

Xは、昭和25年からAの営業するB商店の営業に従事し、昭和29年ころからは、Xが事実上中心となってB商店の業務を運営した。

昭和47年、Aの死亡に伴い、XがAを相続した。(A:被相続人、X相続人)

Aはもともと青色申告を受けており、B商店の営業により事業所得については、昭和29年から昭和45年分までA名義により青色申告がされていた。
(青色申告は、通常の申告:白色申告よりも税金が安くなる制度。ただし、その分、一定の帳簿書類を備えることが承認要件となる)

しかし、昭和46年からXが青色申告の承認を受けることなく、自己名義で青色申告書による確定申告をしたところ、税務署長Yは、Xについて青色申告の承認があるかどうかの確認を怠って申告書を受理した。

これが、昭和46年から50年まで続き、その間、Xは青色申告にかかる所得税額を納税していた。また、この間、B商店の帳簿書類の整備などは変化はなく、きちんとそろっていた。

そして、昭和51年、税務署長Yから、青色申告の承認申請がなかったことを指摘されたので、直ちに、申請をし、同年分以降についてその承認を受けた。

しかし、Yは、昭和48年と49年分は、白色申告とみなして、更正処分を行った。

そこで、Xはこの処分は、信義則に反して違法だとして、取消訴訟を提起した。

判決

租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用を考えることができるのはどのような場合か?

納税者間の平等公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免除して納税者の信頼を保護しなければ、正義に反するといえるような特別の事情がある場合、信義則の適用を考える

租税法規に適合する課税処分について、信義則の法理の適用により、課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合はある。

そうだとしても、法律による行政の原理、特に租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の法理の適用については慎重でなければならない

そのため、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて(免除して)納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて信義則の法理の適用の是非を考えるべきである。

そして、「特別の事情が存するかどうか」の判断に当たっては、

少なくとも、①税務官庁が納税者に対し、信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、

②納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、

③のちに右表示に反する課税処分が行われ、

④そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、

また、⑤納税者が税務官庁の右表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて

納税者の責めに帰すべき事由がないかどうか

という点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない。

(特別な事情があるかどうかについては、上記①~⑤を考慮しなければならない)