判例

最判昭62.2.6:「公立学校教師の教育活動」と「国家賠償法」

論点

  1. 公立学校の教師の教育活動も国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」に含まれるか?

事案

Y市立中学校の体育授業中、A教諭の指導のもと、プールにおいて、飛び込みの練習が行われていた。

生徒X1は、この練習中に、プールの底に頭部を激突させ、頚椎損傷の傷害を負い、常時介護が必要な状況になった。

そこで、X1と両親X2は、Y市に対して、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償の訴えを提起した。

判決

公立学校の教師の教育活動も国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」に含まれるか?

→含まれる

国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれるものと解するのが相当である。

国家賠償法1条のテキストはこちら>>

判決文の全文はこちら>>

最判昭61.3.25:「点字ブロック」と「設置管理の瑕疵」

論点

  1. 点字ブロック等が駅のホームに設置されていないことが、国家賠償法2条1項にいう設置又は管理の瑕疵にあたるか否かの判断基準

事案

視力障害者であるXは、昭和48年、国鉄Yの大阪にあるA駅のホームから線路上に転落し、進入してきた電車にひかれて、両足切断の重傷を負った。

そこで、XはYに対して損害賠償請求の訴えを提起した。

判決

点字ブロック等が駅のホームに設置されていないことが、国家賠償法2条1項にいう設置又は管理の瑕疵にあたるか否かの判断基準

安全設備が、全国的ないし当該地域における道路及び駅のホーム等に普及しているかどうか、当該駅のホームにおける構造又は視力障害者の利用度との関係から予測される視力障害者の事故の発生の危険性の程度、右事故を未然に防止するため右安全設備を設置する必要性の程度及び右安全設備の設置の困難性の有無等の諸般の事情を総合考慮して判断する

点字ブロック等のように、新たに開発された視力障害者用の安全設備を駅のホームに設置しなかったことをもって当該駅のホームが通常有すべき安全性を欠くか否かを判断するに当たっては、

①その安全設備が、視力障害者の事故防止に有効なものとして、その素材、形状及び敷設方法等において相当程度標準化されて全国的ないし当該地域における道路及び駅のホーム等に普及しているかどうか

②当該駅のホームにおける構造又は視力障害者の利用度との関係から予測される視力障害者の事故の発生の危険性の程度、右事故を未然に防止するため右安全設備を設置する必要性の程度及び右安全設備の設置の困難性の有無等

の諸般の事情を総合考慮することを要するものと解するのが相当である。

判決文の全文はこちら>>

最判昭61.2.27:「パトカー追跡」と「国家賠償法」

論点

  1. 警察官のパトカーによる追跡により、追跡を受けていた者が起こした事故によって第三者が損害を被った場合、どのような場合に国家賠償法1条1項上の違法に該当するか?

事案

Y県警の巡査Aは、パトカーでのパトロール中、Bが運転する車両が速度違反であることを発見し、これを停止させるために赤色灯を点灯し、サイレンを鳴らして同車の追跡を開始した。

Bは逃走を図り、少なくとも3つの信号を無視し、結果として、C運転の自動車と衝突し、さらにC運転の自動車が対向車線を進行してきたXらの乗る自動車と激突し、Xらは傷害を負った。

そこで、Xらは、Y県を被告として、巡査Aの追跡が違法であったとして、国家賠償法1条1項に基づき、自己による損害賠償を求めて提訴した。

判決

警察官のパトカーによる追跡により、追跡を受けていた者が起こした事故によって第三者が損害を被った場合、どのような場合に国家賠償法1条1項上の違法に該当するか?

「①追跡が現行犯逮捕、職務質問等の職務の目的を遂行するうえで不必要である」か、又は「②逃走車両の走行の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無・内容に照らして追跡の開始、継続若しくは方法が不相当である」場合、違法となる

およそ警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して、なんらかの犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由のある者を停止させて質問し、また、現行犯人を現認した場合には速やかにその検挙又は逮捕に当たる職責を負う(警察法2条、65条、警察官職務執行法2条1項)。

右職責を遂行する目的のために被疑者を追跡することは当然行うところである。

したがって、警察官がかかる目的のために「交通法規等に違反して車両で逃走する者」をパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被った場合において、右追跡行為が違法であるというためには、「①右追跡が当該職務目的を遂行する上で不必要であるか」、又は「逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当であること」を要するものと解すべきである。

判決文の全文はこちら>>

最判昭60.7.16:行政指導を理由とする建築確認の留保

論点

  1. 行政指導が行われていることを理由に、建築確認を留保することは違法か?

事案

法人Xは、東京都Yにおいて、マンション建築を計画し、Yの建築主事に建築確認申請書を提出した。

しかし、住民の反対があったことから、Yの職員は、Xに対し周辺住民と話し合うよう行政指導を行い、建築確認申請を受理した建築主事は、その間、建築確認処分を保留した。

これに対して、Xは建築審査会に対して、建築確認申請に対する不作為の違法を理由として審査請求をした。

そして、申請から約5か月後に、Xが周辺住民に金銭補償をすることで和解が成立し、ようやく建築確認の処分が行われた。

そこで、XはYに対して建築確認処分の違法な留保を理由として、国家賠償法に基づく損害賠償請求を提起した。

判決

行政指導が行われていることを理由に、建築確認を留保することは違法か?

原則、違法となる

建築基準法6条4項で「申請を受理した日から7日以内に審査をし、適合することを確認したときは、確認済証を交付しなければならない」と規定している趣旨からすると、建築主事が行う確認処分自体は基本的に裁量の余地のない確認的行為の性格を有するものである。

したがって、審査の結果、処分要件を具備するに至った場合には、建築主事としては速やかに確認処分を行う義務があるものといわなければならない。

しかしながら、建築主事の右義務は、いかなる場合にも例外を許さない絶対的な義務であるとまでは解することができない(例外もある)。

①建築主が確認処分の留保につき任意に同意をしているものと認められる場合のほか、

②応答を留保することが法の趣旨目的に照らし社会通念上合理的と認められるときは、その間確認申請に対する応答を留保することをもって、確認処分を違法に遅滞するものということはできないというべきである。(①②の場合は例外として確認処分を保留することができる)

ところで、建築確認申請に係る建築物の建築計画をめぐり建築主と付近住民との間に紛争が生じ、建築主が任意に行政指導に応じて付近住民と協議をしている場合においても、そのことから常に当然に建築主が建築主事に対し確認処分を留保することについてまで任意に同意をしているものとみるのは相当でない(本件事案では、Xが確認処分の留保に同意しているとはいえない)。

しかしながら、地方自治法や建築基準法の趣旨目的に照らせば、建築主が任意にこれに応じているものと認められる場合においては、社会通念上合理的と認められる期間建築主事が申請に係る建築計画に対する確認処分を留保し、行政指導の結果に期待することがあつたとしても、これをもって直ちに違法な措置であるとまではいえない。

もっとも、右のような確認処分の留保は、建築主の任意の協力・服従のもとに行政指導が行われていることに基づく事実上の措置にとどまるものであるから、建築主において自己の申請に対する確認処分を留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を明確に表明している場合には、かかる建築主の明示の意思に反してその受忍を強いることは許されない。

したがって、建築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合には、当該建築主が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは、違法であると解するのが相当である

判決文の全文はこちら>>

最判昭59.10.26:「建築確認」と「訴えの利益」

論点

  1. 建築物の工事が完了した場合であっても、近隣住民は、当該建物にかかる建築確認の取消訴訟の訴えの利益は存続するか?

事案

Aは、宮城県仙台市建築主事Yに対し、建築基準法6条1項に基づく建築確認申請をなし、YはAに対して建築確認処分をした。

これに対し、建物の隣人Xは、本件建築確認は、建築基準法の要件を満たしていないにも関わらず、建築確認がなされたとして、仙台市建築審査会Bに対して、建築確認の審査請求をしたが、Bは、棄却裁決をした。

そこで、Xは、本件建築確認の取消訴訟を提起した。

なお、建築審査会Bが棄却裁決をする前に、当該建築物は完成し、検査済証も交付され、使用されていた。

判決

建築物の工事が完了した場合であっても、近隣住民は、当該建物にかかる建築確認の取消訴訟の訴えの利益は存続するか?

訴えの利益は失われる

築基準法によれば、建築主は、同法6条1項の建築物の建築等の工事をしようとする場合においては、右工事に着手する前に、その計画が建築関係規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認(建築確認)を受けなければならず、建築確認を受けない右建築物の建築等の工事は、することができないものとされている。

また、建築主は、右工事を完了した場合においては、その旨を建築主事に届け出なければならず(7条1項)、建築主事が右届出を受理した場合においては、建築主事等は、届出に係る建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているかどうかを検査し(7条2項)、適合していることを認めたときは、建築主に対し検査済証を交付しなければならないものとされている(7条3項)。

これらの一連の規定に照らせば、建築確認は、建築基準法6条1項の建築物の建築等の工事が着手される前に、当該建築物の計画が建築関係規定に適合していることを公権的に判断する行為であって、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果が付与されており、建築関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを目的としたものということができる。

しかしながら、右工事が完了した後における建築主事等の検査は、当該建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているかどうかを基準とし、同じく特定行政庁の違反是正命令は、当該建築物及びその敷地が建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合しているかどうかを基準とし、いずれも当該建築物及びその敷地が建築確認に係る計画どおりのものであるかどうかを基準とするものでない。

その上、違反是正命令を発するかどうかは、特定行政庁の裁量にゆだねられている。

そのため、建築確認の存在は、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発する上において法的障害となるものではなく、また、たとえ建築確認が違法であるとして判決で取り消されたとしても、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発すべき法的拘束力が生ずるものではない。

したがって、建築確認は、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎないものというべきであるから、当該工事が完了した場合においては、建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるものといわざるを得ない。

判決文の全文はこちら>>

最判昭59.1.26:未改修河川の安全性(大東水害訴訟)

論点

  1. 河川管理についての瑕疵の有無の判断基準は?
  2. 未改修河川は、どの程度の安全性が必要か?

事案

昭和47年7月7日の集中豪雨により、大阪府大東市の低湿地帯において、床上浸水等が発生した。この地域は低湿地帯であったところ、急速な市街化が進み、浸水被害が深刻化していたため、巨額の費用をかけて河川の改修工事が行われていた。

しかし、一部区間についてはなお未改修のままであった。

そして、この豪雨により、被害を受けた低湿地帯の周辺住民Xらは、浸水の原因は、Xらの居住地域付近を流れる「1級河川・谷田川」および「3本の水路」の管理の瑕疵にあったと主張して、「河川管理者である国Y1」および「水路の管理者である大東市Y2」に対し、国家賠償法2条または3条に基づき国家賠償請求訴訟を提訴した。

判決

河川管理についての瑕疵の有無の判断基準は?

同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべき

財政的、技術的及び社会的諸制約によっていまだ通常予測される災害に対応する安全性を備えるに至っていない現段階においては、当該河川の管理についての瑕疵の有無は、過去に発生した水害の規模、発生の頻度、発生原因、被害の性質、降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等諸般の事情を総合的に考慮し、前記諸制約のもとでの同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきであると解するのが相当である。

既に改修計画が定められ、これに基づいて現に改修中である河川については、右計画が全体として右の見地からみて格別不合理なものと認められないときは、その後の事情の変動により当該河川の未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり、当初の計画の時期を繰り上げ、又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由が生じない限り、右部分につき改修がいまだ行われていないとの一事をもって河川管理に瑕疵があるとすることはできないと解すべきである。

未改修河川は、どの程度の安全性が必要か?

未改修河川は、河川の改修、整備の過程に対応する過渡的安全性をもって足りる

河川の管理においては、道路の管理における危険な区間の一時閉鎖等のような簡易、臨機的な危険回避の手段を採ることもできないのである。

河川の管理には、以上のような諸制約が内在するため、すべての河川について通常予測し、かつ、回避しうるあらゆる水害を未然に防止するに足りる治水施設を完備するには、相応の期間を必要とし、未改修河川又は改修の不十分な河川の安全性としては、右諸制約のもとで一般に施行されてきた治水事業による河川の改修、整備の過程に対応するいわば過渡的な安全性(一時的な対策)をもって足りるものとせざるをえない。

そのため、当初から通常予測される災害に対応する安全性を備えたものとして設置され公用開始される道路その他の営造物の管理の場合とは、その管理の瑕疵の有無についての判断の基準もおのずから異なったものとならざるをえないのである。

最判昭58.2.18:「ガソリンタンクの移転」と「道路法に基づく損失補償」

論点

  1.  道路法70条1項の定める損失の補償の範囲は?

事案

株式会社Yは、国道の交差点付近で、給油所(ガソリンスタンド)を経営しており、地下に5基のガソリンタンクを設置していた。

その後、国Xが当該交差点に地下道を設置したため、当該ガソリンタンクのうち4基の位置が「消防法10条4項」および「危険物の規制に関する政令13条」に違反する状態となった。

これにより、Yは、消防局長Aから違反の警告を受けたため、ガソリンタンクの移設工事を行った。

Yは、移設工事が道路法70条の補償の対象になるとして、国Xに対して補償を請求したが、協議が成立しなかったので、70条4項に基づき収用委員会に裁決の申請をしたところ、委員会は、損失補償金約900万円とする裁決を行った。

そこで、国Xは、本ガソリンタンクの移設工事費用は、70条所定の補償対象にならず

裁決は全部違法であるとして、裁決の取消しと損失補償債務の不存在確認の訴えを提起した。

道路法第70条(道路の新設又は改築に伴う損失の補償)
土地収用法第93条第1項の規定による場合の外、道路を新設し、又は改築したことに因り、当該道路に面する土地について、通路、みぞ、かき、さくその他の工作物を新築し、増築し、修繕し、若しくは移転し、又は切土若しくは盛土をするやむを得ない必要があると認められる場合においては、道路管理者は、これらの工事をすることを必要とする者(以下「損失を受けた者」という。)の請求により、これに要する費用の全部又は一部を補償しなければならない。この場合において、道路管理者又は損失を受けた者は、補償金の全部又は一部に代えて、道路管理者が当該工事を行うことを要求することができる。

判決

道路法70条1項の定める損失の補償の範囲は?

補償の対象は、道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむを得ない必要があってした前記工作物の移転等に起因する損失に限られる

道路法70条1項の規定は、道路の新設又は改築のための工事の施行によって当該道路とその隣接地との間に高低差が生ずるなど土地の形状の変更が生じた結果として、設置されていた通路、みぞ、かき、さくその他これに類する工作物を移転するやむを得ない必要があると認められる場合において、道路管理者は、これに要する費用の全部又は一部を補償しなければならないものとしたものである。

その補償の対象は、道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむを得ない必要があってした前記工作物の移転等に起因する損失に限られると解するのが相当である。

したがって、警察法規が一定の危険物の保管場所等につき保安物件との間に一定の離隔距離を保持すべきことなどを内容とする技術上の基準を定めている場合において、道路工事の施行の結果、警察違反の状態を生じ、危険物保有者が右技術上の基準に適合するように工作物の移転等を余儀なくされ、これによって損失を被ったとしても、それは道路工事の施行によって警察規制に基づく損失がたまたま現実化するに至ったものにすぎず、このような損失は、道路法70条1項の定める補償の対象には属しないものというべきである。

よって、本件にみると、道路管理者とする道路工事の施行に伴い、右地下貯蔵タンク(ガソリンタンク)の設置状況が消防法10条等の定める技術上の基準に適合しなくなって警察法規に違反の状態を生じたため、右地下貯蔵タンクを別の場所に移設せざるを得なくなったというのであって、これによってYが被つた損失は、まさしく先にみた警察規制に基づく損失にほかならず、道路法70条1項の定める補償の対象には属しないといわなければならない。

判決文の全文はこちら>>

最判昭57.9.9:「保安林指定の解除処分」と「原告適格・訴えの利益」

論点

  1. 保安林の周辺住民について保安林指定解除処分の取消訴訟の原告適格を有するか?
  2. 保安林指定解除に伴う代替施設の設置によって、洪水、渇水の危険が解消された場合でも訴えの利益を有するか?

事案

農林水産大臣Yは、北海道夕張郡長沼町に所在する「保安林」の一部について、航空自衛隊の施設用地として使用するため、保安林指定の解除をした。

これに対して、基地建設に反対する同町の住民Xらは、森林法26条2項の定める指定解除事由である「公益上の理由」はなく、指定解除は違法として保安林指定解除処分の取消訴訟を提起した。

判決

保安林の周辺住民について保安林指定解除処分の取消訴訟の原告適格を有するか?

原告適格を有する

法律が、「不特定多数の個別的利益」を「専ら一般的公益」の中に吸収解消させるにとどめず、これと並んで、それらの利益の全部又は一部につきそれが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとすることももとより可能である。

特定の法律の規定が上記趣旨を含むものと解されるときは、右法律の規定に違反してされた行政庁の処分に対し、これらの利益を害されたとする個々人においてその処分の取消しを訴求する原告適格を有するものと解することに、なんら妨げはないというべきである。

そして、本件の森林法は、森林の存続によって不特定多数者の受ける生活利益のうち一定範囲のものを公益と並んで保護すべき個人の個別的利益としてとらえ、かかる利益の帰属者に対し保安林の指定につき「直接の利害関係を有する者」としてその利益主張をすることができる地位を法律上付与しているものと解するのが相当である。

そうすると、かかる「直接の利害関係を有する者」は、保安林の指定が違法に解除され、それによって自己の利益を害された場合には、右解除処分に対する取消しの訴えを提起する原告適格を有する者ということができるけれども、その反面、それ以外の者は、たといこれによってなんらかの事実上の利益を害されることがあっても、右のような取消訴訟の原告適格を有するものとすることはできないというべきである。

保安林指定解除に伴う代替施設の設置によって、洪水、渇水の危険が解消された場合でも訴えの利益を有するか?

訴えの利益は失われる

Xらの原告適格の基礎は、本件保安林指定解除処分に基づく立木竹の伐採に伴う理水機能の低下の影響を直接受ける点において右保安林の存在による洪水や渇水の防止上の利益を侵害されているところにあるのである。

したがって、本件におけるいわゆる代替施設の設置によって右の洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは本件保安林の存続の必要性がなくなったと認められるに至ったときは、もはやXらにおいて右指定解除処分の取消しを求める訴えの利益は失われるに至ったものといわざるをえないのである。

判決文の全文はこちら>>

最判昭57.7.15:反則金納付通告の処分性

論点

  1. 道路交通法に基づく反則金納付通告に処分性は認められるか?

事案

Xは、駐車違反の被疑事実で現行犯逮捕された。その翌日、Xは、反則金納付による処理手続を受けることを希望し、反則金相当額を仮納付して釈放された。

その後、県警本部長Yは、反則金の仮納付を本納付とみなす効果もつ反則金納付通告を行った。

そこで、Xは、駐車違反者の誤認があるとして、反則金納付通告処分の取消訴訟を提起した。

判決

道路交通法に基づく反則金納付通告に処分性は認められるか?

認められない

交通反則通告制度は、車両等の運転者がした道路交通法違反行為のうち、比較的軽微であって、警察官が現認する明白で定型的なものを反則行為とし、反則行為をした者に対しては、警察本部長が定額の反則金の納付を通告し、その通告を受けた者が任意に反則金を納付したときは、その反則行為について刑事訴追をされず、一定の期間内に反則金の納付がなかったときは、本来の刑事手続が進行するというものである。

そして、道路交通法127条1項の規定による警察本部長の反則金の納付の通告があっても、これにより通告を受けた者は通告に係る反則金を納付すべき法律上の義務が生ずるわけではなく、ただその者が任意に右反則金を納付したときは公訴が提起されないというにとどまり納付しないときは、検察官の公訴の提起によつて刑事手続が開始され、その手続において通告の理由となつた反則行為となるべき事実の有無等が審判されることとなるものとされているが、これは上記の趣旨を示すものにほかならない。(通告を受けても納付の義務は発生しないので、通告は処分性がないことになる

道路交通法は、通告を受けた者が、その自由意思により、通告に係る反則金を納付し、これによる事案の終結の途を選んだときは、もはや当該通告の理由となった反則行為の不成立等を主張して通告自体の適否を争い、これに対する抗告訴訟によってその効果の覆滅を図る(くつがえす)ことは許されない

右のような主張をしようとするのであれば(くつがえしたいのであれば)、反則金を納付せず、後に公訴が提起されたときにこれによって開始された刑事手続の中でこれを争い、これについて裁判所の審判を求める途を選ぶべきであるとしているものと解するのが相当である。

もしそうでなく、抗告訴訟が許されるものとすると、本来刑事手続における審判対象として予定されている事項を行政訴訟手続で審判することとなり、また、刑事手続と行政訴訟手続との関係について複雑困難な問題を生ずるため、同法がこのような結果を予想し、これを容認しているものとは到底考えられない。

判決文の全文はこちら>>

最判昭57.4.22:工業地域指定の決定

論点

  1. 工業地域指定の決定は抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

事案

工業地域とは?

工業地域とは、用途地域の一種です。用途地域とは、住居、商業、工業など市街地の大枠として、各地域をどのような地域にしていくのかを定めるものです。その中の一つに「工業地域」があります。工業地域に指定されると、病院や大学などの建設ができなくなるという一定の建築制限が発生します。

——-

そして、Xは、岩手県内に精神病院を経営し、将来その施設の拡張を予定していた。しかし、岩手県知事Yが都市計画法8条1項に基づいて、Xの経営する病院を含む地区を工業地域に指定した。

これにより、Xは、病院の拡張が困難になること、また病院としての環境が破壊されることなどを危惧し、上記「工業地域指定の決定」の無効確認あるいは取消しを求めて提訴した。

判決

工業地域指定の決定は抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

→あたらない

都市計画区域内において工業地域を指定する決定は、都市計画法8条1項1号に基づき都市計画決定の一つとしてされるものであり、右決定が告示されて効力を生ずると、当該地域内においては、建築物の用途、容積率、建ぺい率等につき従前と異なる基準が適用される。

このことにより、上記基準に適合しない建築物については、建築確認を受けることができず、ひいてその建築等をすることができないこととなるから、右決定が、当該地域内の土地所有者等に建築基準法上新たな制約を課し、その限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは否定できない。

しかし、かかる効果は、あたかも新たに右のような制約を課する法令が制定された場合におけると同様の当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず、このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったものとして、これに対する抗告訴訟を肯定することはできない。(個別具体的な処分とは言えないので、処分性を有しない

判決文の全文はこちら>>