適正手続に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 告知、弁解、防御の機会を与えることなく所有物を没収することは許されないが、貨物の密輸出で有罪となった被告人が、そうした手続的保障がないままに第三者の所有物が没収されたことを理由に、手続の違憲性を主張することはできない。
- 憲法は被疑者に対して弁護人に依頼する権利を保障するが、被疑者が弁護人と接見する機会の保障は捜査権の行使との間で合理的な調整に服さざるを得ないので、憲法は接見交通の機会までも実質的に保障するものとは言えない。
- 審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判を受ける被告人の権利が害されたと認められる異常な事態が生じた場合であっても、法令上これに対処すべき具体的規定が存在しなければ、迅速な裁判を受ける権利を根拠に救済手段をとることはできない。
- 不利益供述の強要の禁止に関する憲法の保障は、純然たる刑事手続においてばかりだけでなく、それ以外にも、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、等しく及ぶ。
- 不正な方法で課税を免れた行為について、これを犯罪として刑罰を科すだけでなく、追徴税(加算税)を併科することは、刑罰と追徴税の目的の違いを考慮したとしても、実質的な二重処罰にあたり許されない。
【答え】:4
【解説】
1・・・妥当ではない
第三者所有物没収事件において判例(最大判昭37.11.28)によると、「所有者に対して事前に告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有物を没収することは、憲法31条に反する」としてします
ここでいう所有物を没収する前に「所有者に対して事前に告知、弁解、防禦の機会を与えること」が「手続的保障」です。
つまり、この手続的保障がないままに第三者の所有物が没収された場合、そのことを理由に、手続の違憲性を主張することはできるので、本肢は妥当ではないです。
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2・・・妥当ではない
まず、本肢は、憲法34条の内容と関連するのですが、そもそも私たちが身柄の拘束を受ける場合、「なぜ抑留・拘禁されなければならなのか?」という理由が示されなければならないとされています。また、弁護人を依頼する権利が与えられます。
これを前提知識として、下記判例をご覧ください。
【最大判平11.3.24】
憲法34条前段は、「何人も、理由を直ちに告げられ、かつ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない。」と定める。
この弁護人に依頼する権利は、身体の拘束を受けている被疑者が、拘束の原因となっている嫌疑を晴らしたり、人身の自由を回復するための手段を講じたりするなど自己の自由と権利を守るため弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものである。
したがって、右規定は、単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである。
そして、「接見交通の機会」とは、刑事事件の被疑者・被告人として身柄拘束を受けている者が、弁護士等と面談する(接見)する機会、物品を受領する(交通)機会という意味です。
上記の通り、「弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障している」という部分から、「接見交通の機会も実質的に保障しています」。
よって、本肢は「接見交通の機会までも実質的に保障するものとは言えない。」という部分が妥当でないです。
3・・・妥当ではない
下記判例は、「公判が、特段の理由なく15年以上にわたって中断されていた」場合の判例です。
憲法37条1項の保障する迅速な裁判をうける権利は、憲法の保障する基本的な人権の一つであり、右条項は、単に迅速な裁判を一般的に保障するために必要な立法上および司法行政上の措置をとるべきことを要請するにとどまらず、さらに個々の刑事事件について、現実に右の保障に明らかに反し、審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判をうける被告人の権利が害せられたと認められる異常な事態が生じた場合には、これに対処すべき具体的規定がなくても、もはや当該被告人に対する手続の続行を許さず、その審理を打ち切るという非常救済手段がとられるべきことをも認めている趣旨の規定であると解する。
つまり、迅速な裁判を受ける被告人の権利が害されたと認められる異常な事態が生じた場合であれば、法令上これに対処すべき具体的規定が存在しなくても、迅速な裁判を受ける権利を根拠に救済手段をとることができます。
よって、妥当ではないです。
4・・・妥当
「不利益供述の強要の禁止」は、憲法38条1項「何人も、自己に不利益な供述を強制されない」という規定の内容です。
わかりやすくいうと、誰でも黙秘権があり、供述を強要することは禁止だということです。
上記規定は「刑事手続」について規定していますが、判例では、「それ以外(行政手続)」にも及ぶとしています。
それが、下記判例(最大判昭47.11.22:川崎民商事件)です。
憲法38条1項の法意が、何人も自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものであると解すべきことは、当裁判所大法廷の判例とするところであるが、右規定による保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、それ以外の手続(行政手続)においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、ひとしく及ぶものと解するのを相当とする。
5・・・妥当ではない
結論からいうと「刑罰(罰金)」と「追徴税(加算税)」は、二重処罰に当たらないので許されているため、本肢は妥当ではないです。
法人税法43条の追徴税は、単に過少申告・不申告による納税義務違反の事実があれば、同条所定の已むを得ない事由のない限り、その違反の法人に対し課せられるものであり、これによつて、過少申告・不申告による納税義務違反の発生を防止し、以つて納税の実を挙げんとする趣旨に出でた行政上の措置であると解すべきである。
法が追徴税を行政機関の行政手続により租税の形式により課すべきものとしたことは追徴税を課せらるべき納税義務違反者の行為を犯罪とし、これに対する刑罰として、これを課する趣旨でないこと明らかである。追徴税のかような性質にかんがみれば、憲法39条の規定は刑罰たる罰金と追徴税とを併科することを禁止す
る趣旨を含むものでないと解するのが相当である
わかりやすくいうと、
「脱税に対する刑罰は、反社会性・反道徳性に対する制裁」であるのに対して、「追徴税(加算税)は、納税義務違反を防止するための行政上の措置」です。
両者は性質が異なるから二重処罰の禁止に当たらない、ということです。
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令和4年(2022年)過去問
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識 |
問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識 |
問27 | 民法 | 問57 | 基礎知識 |
問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |