通達に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 通達は、法律の根拠なく発令・改廃することができるが、それに際しては、官報による公示や関係機関の事務所における備付けその他適当な方法により国民に対して公にしなければならない。
- 通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないが、特段の理由もなく通達に反する処分については、平等原則に違反するものとして、相手方たる国民との関係においても違法とされる余地がある。
- 通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないから、その発令・改廃行為は、行政事件訴訟法3条1項の「公権力の行使」および国家賠償法1条1項の「公権力の行使」にはあたらない。
- 通達によって示された法令解釈の違法性が訴訟において問題となったとき、裁判所は、行政庁の第一次的判断権の尊重の原則により、それが重大明白に誤りでない限り、当該通達で示された法令解釈に拘束される。
- 通達は、上級行政機関が下級行政機関に対して発するものであり、上司たる公務員が部下である公務員に発する職務命令と別のものであるから、通達に反する行為を行ったことと当該行為を行った公務員の職務上の義務違反との間には、直接の関係はない。
【答え】:2
【解説】
1.通達は、法律の根拠なく発令・改廃することができるが、それに際しては、官報による公示や関係機関の事務所における備付けその他適当な方法により国民に対して公にしなければならない。
1・・・誤り
通達とは、行政組織の内部間の命令(お知らせ)です。そのため、国民に対して公にする義務はありません。よって、本肢は誤りです。
通達とは、行政組織の内部間の命令(お知らせ)です。そのため、国民に対して公にする義務はありません。よって、本肢は誤りです。
2.通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないが、特段の理由もなく通達に反する処分については、平等原則に違反するものとして、相手方たる国民との関係においても違法とされる余地がある。
2・・・正しい
判例によると、「通達は、機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないため、国民は、直接通達に拘束されるものではない。」
判例によると、「通達は、機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないため、国民は、直接通達に拘束されるものではない。」
と判示しています。
一方で、
特段の理由もなく通達に反する処分については、平等原則に違反するものとして、違法とされる可能はあります。
よって、正しいです。
3.通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないから、その発令・改廃行為は、行政事件訴訟法3条1項の「公権力の行使」および国家賠償法1条1項の「公権力の行使」にはあたらない。
3・・・誤り
選択肢2の通り、通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないです。そのため、原則、通達に処分性はないといえます(選択肢2の判例参照)。しかし、別の判例によると
「国の担当者が、原爆医療法及び原爆特別措置法の解釈を誤り、原爆医療法に基づき被爆者健康手帳の交付を受けた被爆者が国外に居住地を移した場合には、原爆特別措置法は適用されず、同法に基づく健康管理手当等の受給権は失権の取扱いとなる旨定めた通達を作成、発出し、
選択肢2の通り、通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないです。そのため、原則、通達に処分性はないといえます(選択肢2の判例参照)。しかし、別の判例によると
「国の担当者が、原爆医療法及び原爆特別措置法の解釈を誤り、原爆医療法に基づき被爆者健康手帳の交付を受けた被爆者が国外に居住地を移した場合には、原爆特別措置法は適用されず、同法に基づく健康管理手当等の受給権は失権の取扱いとなる旨定めた通達を作成、発出し、
その後、上記二法を統合する形で被爆者援護法が制定された後も、平成15年3月まで上記通達に従った取扱いを継続したことは、公務員の職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法なものであり、当該担当者には過失がある。」
と判示しています。
つまり、通達の発令・改廃行為が、国家賠償法1条1項の「公権力の行使」にあたることもあります。
また、別の判例では、行政事件訴訟法3条1項の「公権力の行使」にあたることもあるともしています。
4.通達によって示された法令解釈の違法性が訴訟において問題となったとき、裁判所は、行政庁の第一次的判断権の尊重の原則により、それが重大明白に誤りでない限り、当該通達で示された法令解釈に拘束される。
4・・・誤り
選択肢2の判例によると、「通達は、元来、法規の性質をもつものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない。
選択肢2の判例によると、「通達は、元来、法規の性質をもつものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない。
また、裁判所がこれらの通達に拘束されることのないことはもちろんで、裁判所は、法令の解釈適用にあたっては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ、
通達に定める取扱いが法の趣旨に反するときは独自にその違法を判定することもできる筋合である」
と判示しています。
つまり、裁判所は、違法かどうかの判定について、独自の法令解釈ができるので誤りです。
5.通達は、上級行政機関が下級行政機関に対して発するものであり、上司たる公務員が部下である公務員に発する職務命令と別のものであるから、通達に反する行為を行ったことと当該行為を行った公務員の職務上の義務違反との間には、直接の関係はない。
5・・・誤り
通達は、上級行政機関が下級行政機関に対して発するものであり、上司たる公務員が部下である公務員に発する職務命令と別のものです。そして、「通達に反する行為を行ったこと」と「当該行為を行った公務員の職務上の義務違反」との間には、直接の関係があり、通達に重大明白な違法がない限り、通達違反をした者は、懲戒処分の対象となります。
通達は、上級行政機関が下級行政機関に対して発するものであり、上司たる公務員が部下である公務員に発する職務命令と別のものです。そして、「通達に反する行為を行ったこと」と「当該行為を行った公務員の職務上の義務違反」との間には、直接の関係があり、通達に重大明白な違法がない限り、通達違反をした者は、懲戒処分の対象となります。
平成22年度(2010年度)|行政書士試験の問題と解説
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
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問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
問3 | 基本的人権 | 問33 | 民法・債権 |
問4 | 法の下の平等 | 問34 | 民法:親族 |
問5 | 精神的自由 | 問35 | 民法:親族 |
問6 | 財政 | 問36 | 会社法 |
問7 | 国会 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 法改正により削除 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政事件訴訟法 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政事件訴訟法 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識・政治 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識・政治 |
問19 | 国家賠償法 | 問49 | 基礎知識・社会 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識・経済 |
問21 | 地方自治法 | 問51 | 基礎知識・経済 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識・社会 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識・社会 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識・個人情報保護 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識・情報通信 |
問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識・個人情報保護 |
問27 | 民法:総則 | 問57 | 基礎知識・情報通信 |
問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |