A銀行はBに3,000万円を融資し、その貸金債権を担保するために、B所有の山林(樹木の生育する山の土地。本件樹木については立木法による登記等の対抗要件を具備していない)に抵当権の設定を受け、その旨の登記を備えたところ、Bは通常の利用の範囲を超えて山林の伐採を行った。この場合に、以下のア~オの記述のうち、次の【考え方】に適合するものをすべて挙げた場合に、妥当なものの組合せはどれか。なお、対抗要件や即時取得については判例の見解に立つことを前提とする。
【考え方】:分離物が第三者に売却されても、抵当不動産と場所的一体性を保っている限り、抵当権の公示の衣に包まれているので、抵当権を第三者に対抗できるが、搬出されてしまうと、抵当権の効力自体は分離物に及ぶが、第三者に対する対抗力は喪失する。
ア.抵当山林上に伐採木材がある段階で木材がBから第三者に売却された場合には、A銀行は第三者への木材の引渡しよりも先に抵当権の登記を備えているので、第三者の搬出行為の禁止を求めることができる。
イ.抵当山林上に伐採木材がある段階で木材がBから第三者に売却され、占有改定による引渡しがなされたとしても、第三者のために即時取得は成立しない。
ウ.Bと取引関係にない第三者によって伐採木材が抵当山林から不当に別の場所に搬出された場合に、A銀行は第三者に対して元の場所へ戻すように請求できる。
エ.Bによって伐採木材が抵当山林から別の場所に搬出された後に、第三者がBから木材を買い引渡しを受けた場合において、当該木材が抵当山林から搬出されたものであることを第三者が知っているときは、当該第三者は木材の取得をA銀行に主張できない。
オ.第三者がA銀行に対する個人的な嫌がらせ目的で、Bをして抵当山林から伐採木材を別の場所に搬出させた後に、Bから木材を買い引渡しを受けた場合において、A銀行は、適切な維持管理をBに期待できないなどの特別の事情のない限り、第三者に対して自己への引渡しを求めることができない。
- ア・イ・ウ・エ
- ア・イ・ウ・オ
- ア・イ・エ
- ア・ウ・エ
- イ・ウ・オ
【答え】:2
【解説】
本肢の【考え方】を整理すると
伐採木材が、「①抵当不動産上にある場合」と「抵当不動産から搬出された場合」の2つに分けて考えています。
- ①伐採木材が抵当不動産上にある場合 ⇒ 抵当権の効力は伐採材木にも及び、抵当権を第三者に対抗できる
- ②伐採木材が抵当不動産から搬出された場合 ⇒ 抵当権の効力は伐採材木にも及ぶが、抵当権を第三者に対抗できない
ア.抵当山林上に伐採木材がある段階で木材がBから第三者に売却された場合には、A銀行は第三者への木材の引渡しよりも先に抵当権の登記を備えているので、第三者の搬出行為の禁止を求めることができる。
ア・・・適合する
本肢は「抵当山林上に伐採木材がある段階」なので①です。
そのため、木材がBから第三者に売却された場合でも、銀行は、抵当権により第三者に対抗できます。
よって、第三者の搬出行為の禁止を求めることができます。
したがって、本問の考え方と適合します。
イ.抵当山林上に伐採木材がある段階で木材がBから第三者に売却され、占有改定による引渡しがなされたとしても、第三者のために即時取得は成立しない。
イ・・・適合する
本肢は「抵当山林上に伐採木材がある段階」なので①です。
よって、抵当権は伐採木材にも及び、第三者に対抗できます。
そして、占有改定による引渡しがなされたとしても、占有改定では、即時取得は成立しません(最判昭35.2.11)。
したがって、本問の考え方と適合します。
ウ.Bと取引関係にない第三者によって伐採木材が抵当山林から不当に別の場所に搬出された場合に、A銀行は第三者に対して元の場所へ戻すように請求できる。
ウ・・・適合する
本肢は「伐採木材が抵当山林から不当に別の場所に搬出された場合」なので②です。
この場合、抵当権の効力は伐採材木にも及ぶが、抵当権を第三者に対抗できないです。
本肢の第三者は、「Bと取引関係にない第三者」は無権利者です。
よって、上記「抵当権を対抗できない第三者」には含みません。
言い換えると、A銀行は第三者(無権利者)に対して元の場所へ戻すように請求できます。
したがって、本問の考え方と適合します。
エ.Bによって伐採木材が抵当山林から別の場所に搬出された後に、第三者がBから木材を買い引渡しを受けた場合において、当該木材が抵当山林から搬出されたものであることを第三者が知っているときは、当該第三者は木材の取得をA銀行に主張できない。
エ・・・適合しない
本肢は「Bによって伐採木材が抵当山林から別の場所に搬出された後」なので②です。
そして、「第三者がBから木材を買い引渡しを受けた場合」なので、A銀行は、当該第三者に対して抵当権を対抗できません。
言い換えると、当該第三者は木材の取得をA銀行に主張できます。
したがって、本問の考え方と適合しません。
オ.第三者がA銀行に対する個人的な嫌がらせ目的で、Bをして抵当山林から伐採木材を別の場所に搬出させた後に、Bから木材を買い引渡しを受けた場合において、A銀行は、適切な維持管理をBに期待できないなどの特別の事情のない限り、第三者に対して自己への引渡しを求めることができない。
オ・・・適合する
本肢は「第三者がA銀行に対する個人的な嫌がらせ目的で、Bをして抵当山林から伐採木材を別の場所に搬出させた後に、Bから木材を買い引渡しを受けた場合」となっているので、当該第三者は「背信的悪意者」です。
したがって、A銀行は、第三者に対抗できます。
そして、判例によると、
「抵当不動産の占有者に対する抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,当該占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる」としています(最判平17.3.10)。
つまり、A銀行は、適切な維持管理をBに期待できないなどの特別の事情のない限り、第三者に対して自己への引渡しを求めることができないので、本問の考え方と適合します。
平成22年度(2010年度)|行政書士試験の問題と解説
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
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問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
問3 | 基本的人権 | 問33 | 民法・債権 |
問4 | 法の下の平等 | 問34 | 民法:親族 |
問5 | 精神的自由 | 問35 | 民法:親族 |
問6 | 財政 | 問36 | 会社法 |
問7 | 国会 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 法改正により削除 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政事件訴訟法 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政事件訴訟法 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識・政治 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識・政治 |
問19 | 国家賠償法 | 問49 | 基礎知識・社会 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識・経済 |
問21 | 地方自治法 | 問51 | 基礎知識・経済 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識・社会 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識・社会 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識・個人情報保護 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識・情報通信 |
問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識・個人情報保護 |
問27 | 民法:総則 | 問57 | 基礎知識・情報通信 |
問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |