行政上の法関係に対する民事法の適用についての次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものはどれか。
- 自作農創設特別措置法に基づく農地買収処分は、大量の事務処理の便宜上、登記簿の記載に沿って買収計画を立てることが是認され、またこの場合、民法の対抗要件の規定が適用されるので、仮に当該買収処分の対象となる土地の登記簿上の農地所有者が真実の所有者でないとしても、真実の所有者は当該処分を受忍しなければならない。
- 公営住宅の使用関係については、公営住宅法およびこれに基づく条例が特別法として民法および借家法(事件当時)に優先して適用されるが、公営住宅法および条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法および借家法の適用があり、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用がある。
- 普通地方公共団体が当該地方公共団体の関連団体と契約を結ぶ場合、当該地方公共団体を代表するのは長であり、また相手方である団体の代表が当該地方公共団体の長であるとしても、そのような契約の締結は、いわば行政内部における機関相互間の行為と同視すべきものであるから、民法が定める双方代理の禁止の規定の適用または類推適用はない。
- 租税滞納処分における国と相手方との関係は、一般統治権に基づく権力関係であるから、民法の対抗要件の規定は適用されず、したがって、仮に滞納処分の対象となる土地の登記簿上の所有者が真の所有者ではないことを、所轄税務署においてたまたま把握していたとしても、滞納処分を行うに何ら妨げとなるものではない。
- 農地買収処分によって、国が対象となった土地の所有権を取得したのち、第三者が相続により当該土地を取得したとして移転登記を済ませたとしても、買収処分による所有権取得について民法の対抗要件の規定は適用されないから、当該第三者は、当該土地所有権の取得を国に対して対抗することはできない。
【答え】:2
【解説】
1.自作農創設特別措置法に基づく農地買収処分は、大量の事務処理の便宜上、登記簿の記載に沿って買収計画を立てることが是認され、またこの場合、民法の対抗要件の規定が適用されるので、仮に当該買収処分の対象となる土地の登記簿上の農地所有者が真実の所有者でないとしても、真実の所有者は当該処分を受忍しなければならない。
1・・・誤り
判例によると、「自作農創設特別措置法に基く農地買収処分は、国家が権力的手段をもって農地の強制買上を行うものであって、対等の関係にある私人相互の経済取引を本旨とする民法上の売買とは、その本質を異にするものである。従って、かかる私経済上の取引の安全を保障するために設けられた民法177条の規定は、自作法による農地買収処分には、適用しないものと解すべきである。されば政府が同法に従って、農地の買収を行うには、単に登記簿の記載に依拠して、登記簿上の農地の所有者を相手方として買収処分を行うべきものではなく、真実の農地の所有者から、これを買収すべきものであると解する」と判示しています。
判例によると、「自作農創設特別措置法に基く農地買収処分は、国家が権力的手段をもって農地の強制買上を行うものであって、対等の関係にある私人相互の経済取引を本旨とする民法上の売買とは、その本質を異にするものである。従って、かかる私経済上の取引の安全を保障するために設けられた民法177条の規定は、自作法による農地買収処分には、適用しないものと解すべきである。されば政府が同法に従って、農地の買収を行うには、単に登記簿の記載に依拠して、登記簿上の農地の所有者を相手方として買収処分を行うべきものではなく、真実の農地の所有者から、これを買収すべきものであると解する」と判示しています。
したがって、「民法の対抗要件の規定が適用される」は誤りで、正しくは「適用されない」です。
2.公営住宅の使用関係については、公営住宅法およびこれに基づく条例が特別法として民法および借家法(事件当時)に優先して適用されるが、公営住宅法および条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法および借家法の適用があり、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用がある。
2・・・正しい
判例によると、「公営住宅の使用関係については、公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借家法(借地借家法)に優先して適用されるが、法及び条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法及び借家法(借地借家法)の適用があり、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用があるものと解すべきである。公営住宅の使用者が法の定める公営住宅の明渡請求事由に該当する行為をした場合であっても、賃貸人である事業主体との間の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情があるときには、事業主体の長は、当該使用者に対し、その住宅の使用関係を取り消し、その明渡を請求することはできない」と判示しています。よって、本肢は正しいです。
判例によると、「公営住宅の使用関係については、公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借家法(借地借家法)に優先して適用されるが、法及び条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法及び借家法(借地借家法)の適用があり、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用があるものと解すべきである。公営住宅の使用者が法の定める公営住宅の明渡請求事由に該当する行為をした場合であっても、賃貸人である事業主体との間の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情があるときには、事業主体の長は、当該使用者に対し、その住宅の使用関係を取り消し、その明渡を請求することはできない」と判示しています。よって、本肢は正しいです。
3.普通地方公共団体が当該地方公共団体の関連団体と契約を結ぶ場合、当該地方公共団体を代表するのは長であり、また相手方である団体の代表が当該地方公共団体の長であるとしても、そのような契約の締結は、いわば行政内部における機関相互間の行為と同視すべきものであるから、民法が定める双方代理の禁止の規定の適用または類推適用はない。
3・・・誤り
判例によると、「普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約締結行為であっても、長が相手方を代表又は代理することにより、私人間における双方代理行為等による契約と同様に、当該普通地方公共団体の利益が害されるおそれがある場合がある。そうすると、普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約の締結には、民法108条(双方代理等の禁止)が類推適用されると解するのが相当である」よって、「双方代理の禁止の規定の適用または類推適用はない」が誤りで、正しくは「類推適用がある」です。
判例によると、「普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約締結行為であっても、長が相手方を代表又は代理することにより、私人間における双方代理行為等による契約と同様に、当該普通地方公共団体の利益が害されるおそれがある場合がある。そうすると、普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約の締結には、民法108条(双方代理等の禁止)が類推適用されると解するのが相当である」よって、「双方代理の禁止の規定の適用または類推適用はない」が誤りで、正しくは「類推適用がある」です。
4.租税滞納処分における国と相手方との関係は、一般統治権に基づく権力関係であるから、民法の対抗要件の規定は適用されず、したがって、仮に滞納処分の対象となる土地の登記簿上の所有者が真の所有者ではないことを、所轄税務署においてたまたま把握していたとしても、滞納処分を行うに何ら妨げとなるものではない。
4・・・誤り
判例によると、「国税滞納処分においては、国は、その有する租税債権につき、自ら執行機関として、強制執行の方法により、その満足を得ようとするものであって、滞納者の財産を差し押えた国の地位は、あたかも、民事訴訟法上の強制執行における差押債権者の地位に類するものであり、租税債権がたまたま公法上のものであることは、この関係において、国が一般私法上の債権者より不利益の取扱を受ける理由となるものではない。それ故、滞納処分による差押の関係においても、民法177条の適用がある」と判示しています。したがって、「民法の対抗要件の規定は適用されず」が誤りで、正しくは「適用される」です。
判例によると、「国税滞納処分においては、国は、その有する租税債権につき、自ら執行機関として、強制執行の方法により、その満足を得ようとするものであって、滞納者の財産を差し押えた国の地位は、あたかも、民事訴訟法上の強制執行における差押債権者の地位に類するものであり、租税債権がたまたま公法上のものであることは、この関係において、国が一般私法上の債権者より不利益の取扱を受ける理由となるものではない。それ故、滞納処分による差押の関係においても、民法177条の適用がある」と判示しています。したがって、「民法の対抗要件の規定は適用されず」が誤りで、正しくは「適用される」です。
5.農地買収処分によって、国が対象となった土地の所有権を取得したのち、第三者が相続により当該土地を取得したとして移転登記を済ませたとしても、買収処分による所有権取得について民法の対抗要件の規定は適用されないから、当該第三者は、当該土地所有権の取得を国に対して対抗することはできない。
5・・・誤り
選択肢1の通り、自作農創設特別措置法に基づいて、農地を買収する行為については、民法177条は適用されません。一方、自作農創設特別措置法に基づいて、農地を買収した後、国が所有権の登記をしなかった場合、その後、その土地の所有権を登記した第三者に対して、国は所有権を主張することはできません。つまり、自作農創設特別措置法に基づいて、農地を買収した後については民法177条の適用があります(判例)。よって、「当該第三者は、当該土地所有権の取得を国に対して対抗することはできない。」は誤りです。
選択肢1の通り、自作農創設特別措置法に基づいて、農地を買収する行為については、民法177条は適用されません。一方、自作農創設特別措置法に基づいて、農地を買収した後、国が所有権の登記をしなかった場合、その後、その土地の所有権を登記した第三者に対して、国は所有権を主張することはできません。つまり、自作農創設特別措置法に基づいて、農地を買収した後については民法177条の適用があります(判例)。よって、「当該第三者は、当該土地所有権の取得を国に対して対抗することはできない。」は誤りです。
平成22年度(2010年度)|行政書士試験の問題と解説
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
問3 | 基本的人権 | 問33 | 民法・債権 |
問4 | 法の下の平等 | 問34 | 民法:親族 |
問5 | 精神的自由 | 問35 | 民法:親族 |
問6 | 財政 | 問36 | 会社法 |
問7 | 国会 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 法改正により削除 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政事件訴訟法 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政事件訴訟法 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識・政治 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識・政治 |
問19 | 国家賠償法 | 問49 | 基礎知識・社会 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識・経済 |
問21 | 地方自治法 | 問51 | 基礎知識・経済 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識・社会 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識・社会 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識・個人情報保護 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識・情報通信 |
問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識・個人情報保護 |
問27 | 民法:総則 | 問57 | 基礎知識・情報通信 |
問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
