Aは、BにCから贈与を受けた動産甲を売却する旨の契約(以下「本件契約」という。)をBと締結したが、引渡し期日が過ぎても動産甲の引渡しは行われていない。この場合についての次の記述のうち、民法の規定に照らし、正しいものはどれか。
- 本件契約に「Cが亡くなった後に引き渡す」旨が定められていた場合、Cの死亡後にBから履行請求があったとしても、Aが実際にCの死亡を知るまではAの履行遅滞の責任は生じない。
- 動産甲が、契約締結前に生じた自然災害により滅失していたために引渡しが不能である場合、本件契約は、その成立の時に不能であるから、Aは、Bに履行の不能によって生じた損害を賠償する責任を負わない。
- 動産甲の引渡しについて、Aが履行補助者であるDを用いた場合、Dの過失により甲が滅失し引渡しができないときには、Aに当然に債務不履行責任が認められる。
- 動産甲が本件契約締結後引渡しまでの間にA・B双方責めに帰すことができない事由によって滅失したときは、Aの引渡し債務は不能により消滅するが、Bの代金債務は消滅しないから、Bは、Aからの代金支払請求に応じなければならない。
- Aが本件契約に基づき動産甲をBのもとに持参して引き渡そうとしたが、Bがその受領を拒んだ場合、その後にA・B双方の責めに帰すことができない事由によって甲が滅失したときは、Bは、本件契約の解除をすることも、Aからの代金支払請求を拒絶することもできない。
【答え】:5
【解説】
1.Aは、BにCから贈与を受けた動産甲を売却する旨の契約(本件契約)をBと締結したが、引渡し期日が過ぎても動産甲の引渡しは行われていない。
本件契約に「Cが亡くなった後に引き渡す」旨が定められていた場合、Cの死亡後にBから履行請求があったとしても、Aが実際にCの死亡を知るまではAの履行遅滞の責任は生じない。
1・・・誤り
「Cが亡くなった後に引き渡す」旨の定めは、「不確定期限」です。
「不確定期限」は、必ず起きるけど、それがいつ起こるか分からない場合に使います。
債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、①その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又は②その期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負います(民法412条2項)。
①と②のどちらか一方でも満たせば、履行遅滞責任を負うので、
Cの死亡後にBから履行請求があった場合、Aが実際にCの死亡を知らなくても、Aの履行遅滞の責任は生じるので、本肢は誤りです。
2.Aは、BにCから贈与を受けた動産甲を売却する旨の契約(本件契約)をBと締結したが、引渡し期日が過ぎても動産甲の引渡しは行われていない。
動産甲が、契約締結前に生じた自然災害により滅失していたために引渡しが不能である場合、本件契約は、その成立の時に不能であるから、Aは、Bに履行の不能によって生じた損害を賠償する責任を負わない。
2・・・誤り
契約成立時に、すでに引渡しが不能であっても、売主Aは、買主Bに履行不能に基づく損害を賠償する責任を負います。
よって、本肢は誤りです。
契約時に履行不能だから、「契約は無効」と考えないように注意しましょう!
契約時に履行不能であっても、契約は有効であり、履行できないから損害が発生したら、賠償請求されるという流れです。
3.Aは、BにCから贈与を受けた動産甲を売却する旨の契約(本件契約)をBと締結したが、引渡し期日が過ぎても動産甲の引渡しは行われていない。
動産甲の引渡しについて、Aが履行補助者であるDを用いた場合、Dの過失により甲が滅失し引渡しができないときには、Aに当然に債務不履行責任が認められる。
3・・・誤り
動産甲の引渡しについて、Aが履行補助者であるDを用いた場合、Dの過失により甲が滅失し引渡しができないときには、Aに当然に債務不履行責任が認められるわけではないので誤りです。
4.Aは、BにCから贈与を受けた動産甲を売却する旨の契約(本件契約)をBと締結したが、引渡し期日が過ぎても動産甲の引渡しは行われていない。
動産甲が本件契約締結後引渡しまでの間にA・B双方責めに帰すことができない事由によって滅失したときは、Aの引渡し債務は不能により消滅するが、Bの代金債務は消滅しないから、Bは、Aからの代金支払請求に応じなければならない。
4・・・誤り
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができます(民法536条1項)。
「A・B双方責めに帰すことができない事由」とは、例えば、天災(津波)などです。
例えば、津波によって動産甲が壊れて使い物にならなくなった(=滅失した)ときは、
売主Aの引渡義務は履行不能により消滅します。
一方、買主Bは、売主Aから動産甲の引渡しを受けていないので、「反対給付である代金支払」を行う必要はありません(=代金支払請求を拒絶できる)。
よって、誤りです。
5.Aは、BにCから贈与を受けた動産甲を売却する旨の契約(本件契約)をBと締結したが、引渡し期日が過ぎても動産甲の引渡しは行われていない。
Aが本件契約に基づき動産甲をBのもとに持参して引き渡そうとしたが、Bがその受領を拒んだ場合、その後にA・B双方の責めに帰すことができない事由によって甲が滅失したときは、Bは、本件契約の解除をすることも、Aからの代金支払請求を拒絶することもできない。
5・・・正しい
債権者(買主B)が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者(買主B)の責めに帰すべき事由によるものとみなします(民法413条の2第2項)。
そして、債務の不履行が債権者(買主B)の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者(買主B)は、契約解除ができません(民法543条)。
また、債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができません(民法536条2項前段)。
よって、買主Bは、契約の解除をすることも、「反対給付である代金支払」を拒絶することもできないので正しいです。
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令和4年(2022年)過去問
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識 |
問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識 |
問27 | 民法 | 問57 | 基礎知識 |
問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |