【答え】:2【解説】
1.行政手続は刑事手続とその性質においておのずから差異があることから、常に必ず行政処分の相手方等に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるなどの一定の手続を設けることを必要とするものではない。
1・・・正しい
憲法31条では、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」と定めています。
これに対して判例によると
「憲法31条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、
行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、
行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を
総合較量して決定されるべきものであって、
常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではない。」
と判示しています。よって、本肢の内容は正しいです。
2.公害健康被害補償法に基づく水俣病患者認定申請を受けた処分庁は、早期の処分を期待していた申請者が手続の遅延による不安感や焦燥感によって内心の静穏な感情を害されるとしても、このような結果を回避すべき条理上の作為義務を負うものではない。
2・・・誤り
判例によると、
「一般に、処分庁が認定申請を相当期間内に処分すべきは当然であり、これにつき不当に長期間にわたって処分がされない場合には、早期の処分を期待していた申請者が不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害されるに至るであろうことは容易に予測できることである。したがって、
処分庁には、こうした結果を回避すべき条理上の作為義務があるということができる。」
と判示しています。
よって、本肢は、「作為義務を負うものではない。」としているので誤りです。
3.一般旅客自動車運送事業の免許拒否処分につき、公聴会審理において申請者に主張立証の機会が十分に与えられなかったとしても、運輸審議会(当時)の認定判断を左右するに足る資料等が追加提出される可能性がなかった場合には、当該拒否処分の取消事由とはならない。
3・・・正しい
一般旅客自動車運送事業の免許拒否処分につき、
運輸審議会は申請者に主張立証の機会が十分に与えられなかった不備があった。
このような事案について、
判例によると
「仮に運輸審議会が、公聴会審理においてより具体的に上告人の申請計画の問題点を指摘し、この点に関する意見及び資料の提出を促したとしても、上告人において、運輸審議会の認定判断を左右するに足る意見及び資料を追加提出しうる可能性があったとは認め難いのである。このような事情のもとにおいて、本件免許申請についての運輸審議会の審理手続における上記のような不備は、結局において、前記公聴会審理を要求する法の趣旨に違背する重大な違法とするには足りず、右審理の結果に基づく運輸審議会の決定(答申)自体に瑕疵があるということはできないから、右諮問を経てなされた運輸大臣の本件処分を違法として取り消す理由とはならないものといわなければならない。」
と判示しました。つまり、
申請者に主張立証の機会が十分に与えられなかった、という不備があっても、
運輸審議会(当時)の認定判断を左右するに足る資料等が追加提出される可能性がなかった場合には、
当該拒否処分の取消事由とはなりません。
よって、正しいです。
4.国税犯則取締法上、収税官吏が犯則嫌疑者に対し質問する際に拒否権の告知は義務付けられていないが、供述拒否権を保障する憲法の規定はその告知を義務付けるものではないから、国税犯則取締法上の質問手続は憲法に違反しない。
4・・・正しい
判例によると、
「国税犯則取締法上の質問調査の手続は、犯則嫌疑者については、自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項についても供述を求めることになるものなので、「実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する」ものというべきである。そのため、憲法38条1項の規定による供述拒否権の保障が及ぶものと解するのが相当である。しかしながら、・・・
国税犯則取締法に供述拒否権告知の規定を欠き、
収税官吏が犯則嫌疑者に対し質問をするにあたりあらかじめ右の告知をしなかったからといって、その質問手続が
憲法38条1項(何人も、自己に不利益な供述を強要されない)に違反することとなるものでない」よって、
国税犯則取締法上、収税官吏が犯則嫌疑者に対し質問する際に拒否権の告知は義務付けられていない。
しかし、供述拒否権を保障する憲法の規定はその告知を義務付けるものではないから、国税犯則取締法上の質問手続は憲法に違反しない、という本肢は正しいです。
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5.教育委員会の秘密会で為された免職処分議決について、免職処分の審議を秘密会で行う旨の議決に公開原則違反の瑕疵があるとしても、当該瑕疵は実質的に軽微なものであるから、免職処分の議決を取り消すべき事由には当たらない。
5・・・正しい
判例によると、
「教育委員会法のもとにおいて、教育委員会が秘密会で免職処分の議決をした場合に、右秘密会で審議する旨の議決に公開違反の瑕疵があったとしても、
- 同委員会においては、従来から人事案件はすべて秘密会で審議しており、各委員がこれを了知したうえ全員一致で秘密会で審議する旨を議決したものであって、
- その議決を公開の会議で行うことが議決の公正確保のために実質的にさして重要な意義を有せず、
- また、その議決は、一部関係者だけが傍聴できない状況のもとで行われた点において公開違反があるにとどまり、全く秘密裡にされたものであるとはいえないなど判示のような事情があるときは、
右公開違反の瑕疵は、実質的に公開制度の趣旨目的に反するというに値しないほど軽微なものとして、免職処分の議決を取り消すべき事由にはあたらないものと解するのが相当である。」
と判示しています。
つまり、上記1~3くらいであれば、免職処分の議決の取消し事由にはならない、ということです。
よって、
教育委員会の秘密会で為された免職処分議決について、免職処分の審議を秘密会で行う旨の議決に公開原則違反の瑕疵があるとしても、当該瑕疵は実質的に軽微なものであるから、免職処分の議決を取り消すべき事由には当たりません。
したがって、正しいです。
平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説