A所有の甲土地をBに対して建物所有の目的で賃貸する旨の賃貸借契約(以下、「本件賃貸借契約」という。)が締結され、Bが甲土地上に乙建物を建築して建物所有権保存登記をした後、AがCに甲土地を売却した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- 本件賃貸借契約における賃貸人の地位は、別段の合意がない限り、AからCに移転する。
- 乙建物の所有権保存登記がBと同居する妻Dの名義であっても、Bは、Cに対して、甲土地の賃借権をもって対抗することができる。
- Cは、甲土地について所有権移転登記を備えなければ、Bに対して、本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を請求することができない。
- 本件賃貸借契約においてAからCに賃貸人の地位が移転した場合、Bが乙建物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、Bは、Cに対して、直ちにその償還を請求することができる。
- 本件賃貸借契約の締結にあたりBがAに対して敷金を交付していた場合において、本件賃貸借契約が期間満了によって終了したときは、Bは、甲土地を明け渡した後に、Cに対して、上記の敷金の返還を求めることができる。
【答え】:2
【解説】
1.本件賃貸借契約における賃貸人の地位は、別段の合意がない限り、AからCに移転する。
1・・・妥当
賃貸借の対抗要件を備えた場合、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転します(民法605条の2)。
つまり、賃貸人たる地位は、Aから譲受人C(土地の新所有者)に移転します。
よって、本肢は妥当です。
例えば、アパートの賃貸借契約をしていて、アパートのオーナーがAからCに変われば、賃貸人もAからCに変わるということです。
これを、業界用語で「オーナーチェンジ」と言います。
2.乙建物の所有権保存登記がBと同居する妻Dの名義であっても、Bは、Cに対して、甲土地の賃借権をもって対抗することができる。
2・・・妥当ではない
判例(最判昭47.6.22)によると、
「土地の賃借人は、借地上に妻名義で保存登記を経由した建物を所有していても、その後その土地の所有権を取得した第三者に対し、建物保護に関する法律1条により、その土地の賃借権をもって対抗することができない」
としています。
つまり、「土地の賃借人がB」で、「借りた土地の上にある建物の登記の名義が妻D」の場合(=土地の借主と、借地上の建物の登記名義人が異なる場合)、新しい土地の買主Cに対して、土地の賃借権を主張できない、ということです。
よって、妥当ではないです。
A所有の甲土地をBに対して建物所有の目的で賃貸する旨の賃貸借契約が締結され、Bが甲土地上に乙建物を建築して建物所有権保存登記をした後、AがCに甲土地を売却した。
3.Cは、甲土地について所有権移転登記を備えなければ、Bに対して、本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を請求することができない。
3・・・妥当
賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができません(民法605条の2第3項)。
つまり、土地の新所有者Cは、甲土地について所有権移転登記を備えなければ、Bに対して、賃貸人であることを主張できない(賃貸借契約に基づく賃料の支払を請求することができない)ので、本肢は妥当です。
簡単に言えば、
土地の新所有者Cが、賃借人Bに対して賃料の支払いを請求するには、登記が必要、ということです。
A所有の甲土地をBに対して建物所有の目的で賃貸する旨の賃貸借契約が締結され、Bが甲土地上に乙建物を建築して建物所有権保存登記をした後、AがCに甲土地を売却した。
4.本件賃貸借契約においてAからCに賃貸人の地位が移転した場合、Bが乙建物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、Bは、Cに対して、直ちにその償還を請求することができる。
4・・・妥当
この問題文の「乙建物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したとき」という部分について「乙建物なのに、なぜ、土地賃貸人Cが負担するの?」と疑問に思うかもしれませんが、この点については理解が必要なので、個別指導で解説します!
こういった問題文の理解が、合否に結び付くので、理解学習をすることが行政書士試験の合格の近道になります!
では、本肢の解説に入ります!
賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができます(民法608条)。
そして、本肢の場合
賃貸借契約においてAからCに賃貸人の地位が移転しているため、
賃借人Bが乙建物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、
Bは、新賃貸人Cに対して、直ちにその償還を請求することができます。
よって、妥当です。
A所有の甲土地をBに対して建物所有の目的で賃貸する旨の賃貸借契約が締結され、Bが甲土地上に乙建物を建築して建物所有権保存登記をした後、AがCに甲土地を売却した。
5.本件賃貸借契約の締結にあたりBがAに対して敷金を交付していた場合において、本件賃貸借契約が期間満了によって終了したときは、Bは、甲土地を明け渡した後に、Cに対して、上記の敷金の返還を求めることができる。
5・・・妥当
賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、「費用の償還債務」及び「敷金の返還債務」は、譲受人又はその承継人が承継します(民法605条の2第4項)。
したがって、敷金の返還債務は、新賃貸人Cが引き継ぐので、賃借人Bは、新賃貸人Cに対して、敷金の返還を請求できます。
令和2年(2020年)過去問
問1 | 著作権の関係上省略 | 問31 | 民法:債権 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
問3 | 基礎法学 | 問33 | 民法:債権 |
問4 | 憲法 | 問34 | 民法:債権 |
問5 | 憲法 | 問35 | 民法:親族 |
問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識・政治 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識・社会 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識・経済 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識・経済 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識・社会 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識・経済 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識・社会 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識・社会 |
問25 | 情報公開法 | 問55 | 基礎知識・情報通信 |
問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識・個人情報保護 |
問27 | 民法:総則 | 問57 | 基礎知識・個人情報保護 |
問28 | 民法:物権 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法:債権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |