テキスト

最判平12.2.29:エホバの証人輸血拒否事件

論点

  1. 宗教上の信念を理由に輸血拒否を決定する権利は、人格権として尊重されるか?
  2. 輸血した医師は、上記意思決定をする権利を奪ったといえるか?

事案

エホバの証人という宗教の信者であったXは、宗教上の信念から、いかなる場合にも輸血を受けることは拒否するという固い意思を有していた。そして、Xは、国Y1が運営するA病院に入院した。というのも、A病院は、輸血をしないで手術をした例を有する病院であり、そのことを期待してのことであった。

そして、Xは、A病院の手術をする医師Y2に対して、輸血しない旨の意思表示を行っていた。

しかし、A病院の治療方針は、「輸血以外には、生命の維持が困難な事態に至った時は、患者および家族の諾否に関わらず輸血する」というものであり、この旨をXに説明していなかった。

そして、手術の結果、想定していた以上の出血があったため、担当医師は、輸血をしない救命できないと判断し、輸血を行った。

これに対し、Xは、国Y1および担当医師2に対して、精神的障害の賠償を求める訴えを提起した。

判決

宗教上の信念を理由に輸血拒否を決定する権利は、人格権として尊重されるか?

→尊重される

患者が、宗教上の信念から、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有する場合、このような意思決定を決定する権利は、人格権の一内容として尊重される

輸血した医師は、上記意思決定をする権利を奪ったといえるか?

→いえる

医師は、説明を怠ったことにより、患者が輸血を伴う可能性のあった手術を受けるか否かについて、意思決定をする権利を奪ったものと言える

最大判平9.4.2:愛媛県玉串料事件

論点

  1. 憲法20条3項、89条に違反するか否かの判断基準
  2. 本件公金の支出は憲法20条3項、89条に違反するか?

憲法第20条
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

憲法第89条
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

事案

愛媛県は、靖国神社の例大祭、みたま祭に際して、玉串料等の名目で、13回にわたり合計7万6000円を公金から支出し、他方、愛媛県護国神社の慰霊大祭に際して、供物料の名目で、9回にわたり合計9万円を公金から支出した。

これに対して、愛媛県の住民Xらは、上記支出行為は、憲法20条3項、89条に違反する違法なものであると主張して、愛媛県知事Y1および、Y1の委任により支出を行った職員Y2らに対し、地方自治法242条の2第1項4号(住民訴訟)に基づき、県に代位して当該支出相当額の損害賠償を請求した。

判決

憲法20条3項、89条に違反するか否かの判断基準

(1)行為の目的が宗教的意義をもち、(2)その効果が宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉等になるような行為か否か

「最大判昭52.7.13:津地鎮祭事件」参照>>

本件公金の支出は憲法20条3項、89条に違反するか?

→違反する

例大祭等は、神道の祭式にのっとって行われる儀式を中心とするものであり、玉串料等は宗教的意義を有することから、県は特定の宗教団体に関わり合いをもったといえる。

そして、一般に玉串料等を奉納することは、社会的礼儀にすぎないものとまではいえず、奉納者としてもそれが宗教的意義を有するという意識を持たざるをえないし、

一般人に対して「県が当該特定の宗教団体を特別に支援しており、それらの宗教団体が他の宗教団体と異なる特別なものである」との印象を与える

そうすると、当該玉串料等の奉納は、(1)その目的が宗教的意義をもち、(2)その効果が宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉等になるような行為にあたると認められる。

したがって、本件公金の支出は憲法20条3項、89条に違反する

最判平8.3.19:南九州税理士会政治献金事件

論点

  1. 税理士会が政党に金員を寄付することは、税理士会の目的の範囲内か?
  2. 税理士会が政党に金員を寄付する旨の総会決議は有効か?

事案

南九州税理士会Yは、南九州4県の税理士を構成員とする法人であり、税理士Xは、税理士会Yの構成員です。Yは、定時総会において、税理士法改正運動に要する特別資金として、各会員(税理士)から特別会費として金5000円を徴収し、これを政治資金規正法上の政治団体である「南九州各県税理士政治連盟」へ配布(寄付)する、との決議をした。Xは、本件特別会費を納入しなかったところ、これがYの役員の選挙権および被選挙権の欠格事由にあたるとして、Yは一定期間、Xを選挙人名簿に登載しないまま各役員選挙を実施した。これに対して、Xは、本件決議は、Xの思想、信条の自由を侵害し、無効であり、役員選挙におけるXの選挙権および被選挙権を停止したYの措置は不法行為である、などと主張して、Yに対し、①本件特別開始5000円の納入義務が存在しないことの確認、②損害賠償として慰謝料500万円の支払いを求めた。

判決

税理士会が政党に金員を寄付することは、税理士会の目的の範囲内か?

→目的の範囲外の行為である

民法43条では「法人は、法令の規定に従い、定款又は寄付行為で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。」としている。そして、会社については、「政党に政治資金を寄付すること」も会社の定款所定の目的の範囲内の行為とすることは可能である。

しかし、税理士会は、強制加入団体であって、その会員(税理士)には、実質的には脱退の自由が保障されていない

そうすると、税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であるといえる

そして、その目的の範囲についても、会社のように広範なものと解することはできない

税理士会の目的の範囲を判断するにあたっては、会員(税理士)の思想・信条の自由を考慮しなければならない。

そして、政治団体に対して金員を寄付するかどうかは選挙における投票の自由と表裏をなすものとして(同じ思想・信条に該当するものとして)、各会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄というべきである。

そうすると、税理士会が政党に政治資金を寄付することを決定し、構成員にその協力を義務付けることは、法のまったく予定しないところであり、たとえ税理士にかかわる法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても税理士会の目的の範囲外の行為と言わざるをえない。

税理士会が政党に金員を寄付する旨の総会決議は有効か?

無効である

上記の通り、寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は、税理士会の目的の範囲外の行為であるため、無効である。

最判平8.3.8.:エホバの証人剣道受講拒否事件

論点

  1. 信仰上の理由により剣道の実技の履修を拒否した生徒に対する原級留置・退学処分の適否の判断基準は?
  2. 本件処分は裁量の範囲を超え、違法となるか?

事案

エホバの証人という宗教を信仰していたXは、その宗教の絶対平和主義の教義に従い、格技である剣道の実技に参加することを拒否し、剣道の実技に参加しなかった。その間Xは、正座をしてレポートを作成するため記録しながら見学をしていたが、レポートの受領は拒否された。学校長Yは代替措置をとらないとし、特別救済措置として剣道実技の補講を行うこととして参加を勧めたが、Xは参加しなかった。そのため、YはXの体育の単位を認定せず、Xに対して原級留置処分(留年)を行った。これが2年続き、退学処分をとった。そこで、Xは各処分が信教の自由を侵害するものとして、処分取消しを求める訴えを提起した。

判決

信仰上の理由により剣道の実技の履修を拒否した生徒に対する原級留置・退学処分の適否の判断基準は?

各処分がまったく事実の基礎を欠くか、または、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超えまたは裁量権を濫用したと認められる場合に限り、違法と判断する

原級留置処分または退学処分は、処分権者である校長の合理的な教育的裁量に任せるべき処分である。

そして、各処分がまったく事実の基礎を欠くか、または、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超えまたは裁量権を濫用したと認められる場合に限り、違法と判断すべきである。

本件処分は裁量の範囲を超え、違法となるか?

→違法である

剣道実技の履修は必修とまでは言い難く、教育目的の達成は、他の体育種目の履修等の代替的方法によっても性質上可能である。

また、剣道実技の拒否理由は、信仰の核心部分と密接に関係する真摯なものであり、原級留置処分・退学処分という重大な不利益を避けるためには、信仰上の教義に反する行動をとることを余儀なくさせられる

さらに、Xからの代替措置の要求を一切否定し、代替措置について十分な考慮がなされたといえない。他方、適切な代替措置を採ることは可能であった

したがって、原級留置処分・退学処分は、考慮すべき事項を考慮せず、または考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠くので、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超える違法なものというべきである。

最決平8.1.30:オウム真理教解散命令事件

論点

  1. 宗教法人オウム真理教の解散命令は、憲法20条1項(信教の自由)に違反するか?

事案

宗教法人オウム真理教Yの代表役員のおよびその指示を受けた多数の幹部は、組織的に、不特定多数の者を殺害する目的で、毒ガスの一種であるサリンの生成を企てた。そこで、検察および東京都知事は、かかる行為は殺人予備行為に相当し、宗教法人法81条1項1号などに該当するとして、Yの解散命令を東京地裁に請求した。

宗教法人法第81条(解散命令)
裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。
一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。

判決

宗教法人オウム真理教の解散命令は、憲法20条1項(信教の自由)に違反するか?

違反しない

81条の解散命令制度は、もっぱら宗教法人の世俗的側面を対象とし、かつ、もっぱら世俗的目的によるものであって、宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に容かいする(横から口出しをする)意図によるものではなく、制度の目的は合理的である。

※世俗的:世間一般に見られるさま

そして、Yは、大量殺人を目的として、サリンを生成したのであり、Yは法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められ、宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたことが明らかである。

かかる行為に対処するには、Yを解散し、その法人格を失わせることが必要かつ適切である。

他方、解散命令によって、宗教上の行為に生ずる支障は、解散命令に伴う間接的で事実上のものである。

したがって、本件解散命令は、Yやその信者らの精神的・宗教的側面に及ぼす影響を考慮しても、Yの行為に対処するのに必要でやむをえない法的規制である。

よって本件解散命令は、憲法20条1項に違反するものではない。

最判平7.12.15:指紋押捺拒否事件

論点

  1. 指紋押捺を強制されない自由は、憲法13条で保障されるか?
  2. 指紋押捺制度が、憲法13条に違反しないか?

事案

アメリカ人宣教師Xが、新規の外国人登録を申請した際に、指紋すべき部分に指紋の押印をしなかった。

このことが原因で、Xは、指紋押捺制度(外国人登録法に規定されている制度)に違反したとして起訴された。

それに対して、Xは、指紋押捺制度自体、憲法13条に違反していると主張した。

憲法第13条(幸福追求権)
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法第13条(幸福追求権)はこちら>>

判決

指紋押捺を強制されない自由は、憲法13条で保障されるか?

→保障される

指紋は、誰一人同じものはなく、一生涯変わらない。搾取された指紋の利用方法次第では、プライバシーの侵害の危険性もある。

そのため、何人もみだりに「指紋押捺を強制されない自由」を有しているといえる

したがって、国家機関が正当な理由なく指紋押捺を強制することは、憲法13条の趣旨に反して許されない。

そして、指紋押捺を強制されない自由は、外国人にも等しく及ぶ

※正当な理由があれば、指紋押捺を強制することができ、これが下記「指紋押捺制度」に当たります。

指紋押捺制度が、憲法13条に違反しないか?

→違反しない

外国人登録法が定める指紋押捺制度の目的は、外国人の居住関係および身分関係を明確にすることで在留外国人の公正な管理をすることです。

この指紋押捺制度には、十分な合理性があり、かつ必要性も肯定できる

したがって、指紋押捺制度は、憲法13条に違反しない

最判平7.2.28:外国人の地方選挙の参政権

論点

  1. 外国人に、憲法15条1項の権利(参政権)の保障が及ぶか?
  2. 憲法93条2項は、在留外国人の地方公共団体における選挙権を保障したものといえるか?
  3. 法律によって、在留外国人に地方公共団体の選挙権を与えることができるか?

事案

永住権をもつ韓国籍のXらは、選挙人名簿に登録されていなかったため、選挙管理委員会Yに対して、選挙人名簿に登録するよう申出をした。

Yは、この申出を却下する決定をしたため、Xらはこの却下決定の取り消しを求めて、訴えを提訴した。

※選挙人名簿に登録がない者は、投票権がない。

判決

外国人に、憲法15条1項の権利(参政権)の保障が及ぶか?

→及ばない

憲法15条1項には、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と規定されており、この「国民」は日本国民を意味することは明らかである。

そのため、参政権の保障について、外国人には及ばない

憲法93条2項は、在留外国人の地方公共団体における選挙権を保障したものといえるか?

→言えない

憲法93条2項には「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」と規定しています。

ここの「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当なので、外国人は含まない。

したがって、地方選挙における選挙権について外国人は憲法で保障されていない

法律によって、在留外国人に地方公共団体の選挙権を与えることができるか?

→できる(憲法上禁止されていない)

上記の通り、地方選挙権(投票権)について、外国人には憲法で保障はされていないが、

憲法第8章の地方自治に関する規定は、地方自治体の事務については、その地方の住民の意思に基づいて、その区域の地方公共団体が処理することを憲法上の制度として保障しようとする趣旨です。

そのため、わが国の在留外国人の中でも永住者等で、居住する区域の地方公共団体と、特段緊密な関係を持つに至ったと認められる者については、法律によって、投票権(地方公共団体の長・議会議員への投票権)を与える措置を講ずることは、憲法上禁止されていないと解するのが相当。

ただし、上記措置を講ずるか否かは、もっぱら国の立法政策にかかわる事柄なので、このような措置を講じないからといって、違憲となるわけではない。

外国人の地方選挙の参政権の判決文はこちら>>

最大判平7.2.22:ロッキード事件

論点

  1. 内閣総理大臣の職務権限の範囲は?

事案

昭和47年、アメリカの航空機メーカーであるロッキード社の副会長Aの意向を受けた販売代理店の丸紅社長X1らは、当時の内閣総理大臣である田中角栄氏X2に対し、「①運輸大臣に働きかけ、行政指導をさせること」、また「②直接全日空に働きかけることで、ロッキード社製の大型ジェット機の購入を全日空に推奨すること」を依頼し、成功報酬として現金5億円の供与を約束して、その承諾を得た。

そして、X1らは、全日空が当該大型ジェット機を購入した後、約束通り、X2に対し、現金5億円を供与した。

その後、東京地検は、X1、X2らを逮捕し、贈収賄罪等で起訴した。

判決

内閣総理大臣の職務権限の範囲は?

内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有する

X2が行った運輸大臣への働きかけが、その職務権限に属するといえるためには、

  1. 運輸大臣が全日空へ勧奨する行為がその職務権限に属し、かつ
  2. 内閣総理大臣が運輸大臣に上記勧奨をするよう働きかけることがその職務権限に属していること

この2つが必要である。

本件では、①は肯定できるが、②内閣総理大臣の職務権限について検討すると、内閣総理大臣が行政各部に対し、指揮監督権を行使するためには、閣議にかけて決定した方針が存在することを要する。

しかし、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、内閣総理大臣の右のような地位及び権限に照らすと、内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有するものと解するのが相当である。

したがって、当該内閣総理大臣が行った運輸大臣への働きかけは、内閣総理大臣の指示として、その職務権限に属する。

ロッキード事件の判決文はこちら>>

最判平6.2.8:ノンフィクション「逆転」事件

論点

  1. 前科等のある者は、前科等の事実を公表されない法的保護は与えられるか?
  2. 前科等の公表規制と表現の自由との調整

事案

沖縄県がアメリカ合衆国の統治下にあったころ、Xら4名は米兵2名と殴り合いの喧嘩をし、米兵1名が死亡し、もう一方の米兵も負傷する事件が起きた。Xらはアメリカの高等裁判所により傷害罪について懲役3年の実刑判決を受けた。

その後、Xは、仮出獄し、都内のバス運転会社に運転手として就職し、前科を隠して結婚もしており平穏な生活を送っていた。

Yは、上記裁判の陪審員として関与しており、その体験に基づき『逆転』と題する著作を執筆し、ノンフィクション賞という賞も受けた。

その後、Xは、無断で実名が使用されたため、前科に関わる事実が公表され、プライバシー権が侵害されたとして、Yに対して慰謝料300万円の支払いを請求する訴えを提起した。

判決

前科等のある者は、前科等の事実を公表されない法的保護は与えられるか?

→与えられる

前科等に関する事実は、その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であるから、その者は、みだりに前科等にかかわる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有するものというべきである

前科等の公表規制と表現の自由との調整

→当事者の生活状況、事件の歴史的又は社会的な意義、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、右の前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するとき、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる

ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合に、

その者のその後の生活状況、当該刑事事件それ自体の歴史的又は社会的な意義その者の事件における当事者としての重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、

その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、

右の前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、

右の者は、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。

つまり、「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益」が「これを公表する理由」に優越するとき、Xは、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる

最判平5.2.16:箕面忠魂碑事件

論点

  1. 市による忠魂碑の移設・再建行為は、憲法20条3項の「宗教的活動」にあたるか?
  2. 遺族会は、憲法20条1項の後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」に該当するか?

事案

忠魂碑とは、戦争に出兵し戦死した地域出身の兵士の記念のために製作された記念碑のことで、戦死者の天皇への忠義を称えるものである。そして、箕面市の小学校の校庭(箕面市の所有地)に、戦死者の遺族会が所有する忠魂碑があった。

箕面市は当該小学校の増改築に際し、校庭にあった忠魂碑を移転する必要性が生じ、市は、7882万円で土地を購入して、そこに忠魂碑を移転し、同土地を遺族会に無償貸与した。

そこで、同市の市民であるXらは、本件忠魂碑の移設・再建等が憲法20条・89条に違反するとして、市の被った損害等を求める住民訴訟を起こした。

憲法第20条
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

憲法第89条
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

判決

市による忠魂碑の移設・再建行為は、憲法20条3項の「宗教的活動」にあたるか?

→あたらない

①忠魂碑は、戦没者記念碑的な性格のものであり、少なくとも戦後において、特定の宗教との関係は希薄である。

また、②遺族会は宗教活動を本来の目的とする団体ではない。

そして、③本件箕面市の行為は、箕面小学校における児童数の増加、校舎の老朽化等により校舎の建替えなどを行うことが急務となり、忠魂碑を他の場所に移設せざるをえなくなったから行ったにすぎない行為である。

これらの諸点にかんがみると(考慮すると)、市の行った代替地を取得して、従来どおり、当該土地を無償で提供し、忠魂碑を移設再建する行為は、もっぱら世俗的(世間一般的)なものと認められ、その効果も、特定の宗教を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない

したがって、当該市による忠魂碑の移設・再建行為は、憲法20条3項の「宗教的活動」にあたらないと解するのが相当である。

遺族会は、憲法20条1項の後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」に該当するか?

→該当しない

憲法20条1項の後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」とは、特定の宗教の信仰、礼拝または普及等の宗教活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指す。

この点、遺族会は、戦没者遺族の相互扶助・福祉向上と英霊の顕彰を主たる目的として設立され活動している団体である。

したがって、遺族会は、憲法20条1項の後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」には該当しない。