テキスト

最判平4.12.15:酒類販売の免許制

論点

  1. 酒類販売業免許制度についての合憲性の判定基準は?
  2. 酒税法10条10号は、憲法22条1項(職業選択の自由)に違反するか?

事案

Xは酒類の売買等を目的とする株式会社であり、酒税法9条1項の規定に基づいて酒類販売業の免許申請をした。これに対し、所轄税務署長Yは、Xが酒税法10条10号に規定する「その経営基盤が薄弱であると認められる場合」に該当するものとして、この免許処分の拒否処分をした。

それに対しXは、Yを被告とし、本申請は酒税法10条10号の規定に該当しないから、本処分は違法であると主張して、本処分の取消しを求める訴えを提起した。

判決

酒類販売業免許制度についての合憲性の判定基準は?

規制の必要性と合理性についての立法府の判断が、政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法22条1項の規定に違反するものということはできない

一般に許可制は、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきである。

また、租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。

したがって,租税法の定立については、立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。

以上のことからすると、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法22条1項の規定に違反するものということはできない

酒税法10条10号は、憲法22条1項(職業選択の自由)に違反するか?

違反しない(合憲)

酒税法は、酒税の確実な徴収とその税負担の消費者への円滑な転嫁を確保する必要から、このような制度を採用したものと解される。

本件処分当時の時点においてもなお、酒類販売業について免許制度を存置しておくことの必要性及び合理性については失うに至っているとはいえない。

また、免許基準との関係においても、その必要性と合理性が認められる。

したがって、酒税法9条、10条10号の規定が、立法府の裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるということはできず、右規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。

最大判平元.3.8:レペタ訴訟

論点

  1. 法廷でメモを取る自由は、憲法で保障されているか?
  2. 法廷でメモを取る行為を制限することはできるか?

事案

アメリカ国籍のレペタ氏Xは、アメリカワシントン州の弁護士で、国際交流基金の特別研究員として日本で経済法の研究を行っていた。その一環として、所得税法違反の事件の各公判を傍聴した。Xは、各公判期日の前に、担当裁判長に対して、7回にわたり傍聴席においてメモを取ることの許可を求めたが、いずれも許可されなかった。

そのためXは、上記不許可は憲法に違反するとして、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた。

判決

法廷でメモを取る自由は、憲法で保障されているか?

→憲法21条1項の精神に照らし尊重に値する

憲法21条1項では「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」としている。

そして、各人が自由にさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会を持つことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていく上で欠くことのできないものである。

このような情報に接し、これを摂取する自由は上記趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然導かれるところである。

ただし、筆記行為は、一般的には人の生活活動の一つであり、生活のさまざまな場面において行われ、極めて広い範囲に及んでいるから、そのすべてが憲法の保障する自由に関係するものということはできない。

しかし、情報等の摂取を補助するためにする筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきである。

法廷でメモを取る行為を制限することはできるか?

特段の事情のない限り、制限することはできない

情報等の摂取を補助するためにする筆記行為の自由も、「他者の人権との調整」や「優越する公共の利益を確保する必要」から一定の合理的制限をうけることはやむを得ない。

しかも、筆記行為の自由は、憲法21条1項によって直接保障される表現の自由と異なり、その制限には、表現の自由に制約を加える場合の厳格な基準が要求されるものではない。

そして、公正かつ円滑な訴訟の運営は、傍聴人がメモを取ることに比べればはるかに優越する法益である。

しかし、傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げることは通常ありえず、特段の事情がない限り、これを傍聴人の自由に任せることが憲法21条1項の趣旨に合致する。

最判昭63.12.20:共産党袴田事件

論点

  1. 政党内部の行為について、原則、司法審査は及ぶか?

事案

共産党Xが所有する家屋を、党幹部であった袴田里見氏Yに住居として使用させていた。しかし、その後、XはYを共産党から除名し、Yに対して家屋の明け渡しを求めた。

しかし、Yがこれに応じなかったため、XがYに対して家屋の明渡しを求めて出訴した。

Yは、下記3点について主張した。

  1. 本件家屋は、これまで党のために活動してきたYの終生の住居として提供されたものであること
  2. 政党の内部的処分決定も法律上の争訟であり、除名時処分の適否も司法審査の対象となること
  3. 仮に政党の内部的自律権を尊重し、その自治的措置に委ねるべき事項があるとしても、本件除名処分のように被処分者にとって著しく不利益かつ重大な事項については、司法審査の対象になること

判決

政党内部の行為について、原則、司法審査は及ぶか?

原則、及ばない例外として、一般市民法秩序と直接の関係を有する場合は、司法審査が及ぶ

政党に対しては、高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をなしうる自由を保障しなければならない。

政党の性質、目的からすると、自由な意思によって政党を結成し、あるいはそれに加入した以上、党員が政党の存立及び組織の秩序維持のために、自己の権利や自由に一定の制約を受けることがあることもまた当然である。

そして、政党の内部的自律権に属する行為は、法律に特別の定めのない限り尊重すべきであるから、政党が組織内の自律的運営として党員に対してした除名処分等の当否については、原則として自律的な解決に委ねるのを相当である。

したがって、政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばない

最判昭63.7.15:麹町中学内申書事件

論点

  1. 内申書に「生徒が政治的行為をした旨」を記載することは、憲法19条(思想、良心の自由)に違反しないか?
  2. 上記記載は、憲法21条(表現の自由)に違反しないか?
  3. 上記記載は、憲法13条(プライバシー権の侵害)に違反しないか?

事案

Xは、東京都千代田区立麹町中学校を卒業し、高校受験をしたが、すべて不合格となった。

Xの調査書(内申書)の『行動および性格の記録』の欄には、C評価(最も悪い評価)が付されており、特記事項欄に「中学校在学中に政治活動をした旨(※)」の記載があった。

これに対しXは、高校受験不合格の原因は上記調査書の記載にあるとして、千代田区および東京都に対して、慰謝料の支払いを求める損害賠償請求を提起した。

※特記事項欄の詳細:「校内において麹町中学全共闘を名乗り、機関紙【砦】を発行した。学校文化祭の際、文化祭粉砕を叫んで、他校生徒とともに校内に乱入して、ビラ撒きを行った。大学生ML派(政治活動団体)の集会に参加している。学校側の指導説得を聞かず、ビラを配り、落書きをした。」

判決

内申書に「生徒が政治的行為をした旨」を記載することは、憲法19条(思想、良心の自由)に違反しないか?

憲法19条に違反しない

本件調査書(内申書)の記載は、Xの思想信条そのものを記載したものではないことは明らかであり、記載に関する外部的行為(行動)によっては、Xの思想、信条を了知し得るものではない(はっきり知ることはできない)。

また、Xの思想、信条自体を高等学校の入学者選抜の資料に供したものとは到底解することができない。

したがって、本件調査書の記載は、憲法19条(思想・良心の自由)に反するとはいえない、とした。

上記記載は、憲法21条(表現の自由)に違反しないか?

憲法21条に違反しない

「ビラの配布や落書き」は、中学校における学習とは全く関係ないものであり、「ビラの配布や落書き」を自由とすることは、中学校における教育環境に置く影響を及ぼす等、学習効果をあげる上において、放置できない弊害を発生させる相当の蓋然性(確実性・確かさ)があるものということができる。

そのため、このような弊害を未然に防止するために、①上記行為をしないよう指導説得することはもちろん、「②生徒会規則において、生徒の校内における文書の配布を学校当局の許可にかからしめ、その許可のない文書の配布を禁止すること」は、必要かつ合理的な範囲の制約であり、憲法21条(表現の自由)に違反しない

上記記載は、憲法13条(プライバシー権の侵害)に違反しないか?

憲法13条に違反しない

本件調査書による情報の開示は、入学選抜に関する特定小範囲の人に対するものであって、情報の公開には該当しない

したがって、本件調査書による記載は、Xのプライバシー権を侵害せず憲法13条後段(生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする)には反しない。

最判昭62.4.24:サンケイ新聞事件

論点

  1. 憲法21条によって、反論文掲載請求権(反論権:アクセス権)は保障されているか?

事案

新聞社Yは、翌年予定されている参議院議員選挙を前にして、Yの発行するサンケイ新聞に自民党を広告主とする意見広告を掲載・頒布した。

その広告の内容は、日本共産党Xが定めた「民主連合政府綱領についてのXの提案」はXの党綱領と矛盾しているとし、ゆがんだ福笑いの絵とともに指摘、批判したものであった。

XはYに対し、Xの反論文を朝刊に原文どおり無料で掲載することを求めたが、Yは有料の意見広告としてであれば応じるが、無料では応じれないとして拒否した。

Xは反論文の無料掲載を求める仮処分を申請したが、却下された。そこでXは同一スペースの反論文の無料掲載を求める訴訟を提起した。

判決

憲法21条によって、反論文掲載請求権(反論権:アクセス権)は保障されているか?

保障されない

まず、憲法21条(表現の自由)は、私人相互の関係については適用ないし類推適用されるものではない。その趣旨からすると、憲法21条の規定から、直接に、反論文掲載請求権(意見広告や反論記事の掲載を求める権利)が他方に生ずるものではない。

また、民法723条の名誉回復処分または人格権としての名誉権に基づく差止め請求権も、不法行為の成立を前提として初めて認められるものであって、この前提なくして反論文掲載請求権を認めることはできない。

反論権の制度が認められるときは、新聞を発行・販売する者にとって、その掲載を強制されることになり、また、そのために本来ならば他に利用できたはずの紙面を割かなければならなくなる等の負担を強いられる

そして、これらの負担が、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゅうちょさせ憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながる恐れも多分に存する

したがって、反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論文掲載権(反論権・アクセス権)をたやすく認めることはできない

以上のことから、反論権は憲法によって保障されていない。

最大判昭61.6.11:北方ジャーナル事件

論点

  1. 裁判所による出版物の仮処分による差止めが検閲にあたるか?
  2. 出版物頒布などの事前差止めの実体的要件は?
  3. 出版物頒布などの事前差止めの手続き要件は?
  4. 本件事前差止めは違憲か?

事案

Yは、北海道知事選挙に立候補を予定していた。

雑誌「北方ジャーナル」の代表取締役Xは、Yに関する「ある権力主義者の誘惑」というタイトルの記事を執筆し、印刷の準備をしていた。当該記事は、全体にわたってYの名誉を毀損する記載であり、それを知ったYは、名誉権の侵害を防止するために、「印刷・製本および販売、頒布」の禁止を命ずる仮処分を札幌地裁に申請した。

同地裁はXからの審尋(意見陳述の機会)を行うことなく申請を相当と認め、即日仮処分の決定を行った。

それに対し、Xは、Yの仮処分申請、裁判官の仮処分の決定により、逸失利益等2025万円の損害を受けたとして、Yおよび国を相手に不法行為に基づき損害賠償請求の訴えを提起した。

逸失利益本来得られるべきであるにもかかわらず、債務不履行や不法行為が生じたことによって得られなくなった利益を指す。

判決

裁判所による出版物の仮処分による差止めが検閲にあたるか?

→あたらない

「検閲」とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部または一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指す。

そして、裁判所の仮処分による事前差止めは、表現物の内容の網羅的一般的な審査に基づく事前規制が行政機関によりそれ自体を目的として行われる場合とは異なる。
つまり、行政権が主体となって行っていない

よって、『検閲』には当たらないとした。

出版物頒布などの事前差止めの実体的要件は?

事前抑制に該当し、とりわけ、対象が公的人物に対する表現行為である場合は、原則として事前差止めは許されない。例外として、①その表現内容が真実でなく、またはそれがもっぱら公益に図る目的のものでないことが明白であり、かつ②被害者が重大にして著しく回復困難な被害を被る恐れがあるときに限り、事前差止めが許される。

裁判所による差止命令が検閲に当たらないとしても、憲法21条1項(表現の自由)に違反しないかが問題となる。

まず、表現行為に対する事前抑制は、公の批判の機会を減少させ、規制の範囲が広汎にわたりやすく、濫用のおそれがある上、抑止的効果が事後制裁の場合よりも大きい。

したがって、表現行為に対する事前抑制は、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうる。(=できるだけ表現の自由を保障するということ)

そして、出版物頒布などの事前差止めは事前抑制に該当し、その対象が公的立場にある者に対する表現行為に関する者である場合には、公共の利害に関する事項であるため、憲法上、表現の自由により特に保障されるべきである。

そのため、当該表現行為に対する事前差止めは、原則として許されない。

ただし、例外的に、①その表現内容が真実でなく、またはそれがもっぱら公益に図る目的のものでないことが明白であり、かつ②被害者が重大にして著しく回復困難な被害を被る恐れがあるときに限り、事前差止めが許される。

出版物頒布などの事前差止めの手続き要件は?

原則として、口頭弁論または債務者の審尋を行い、表現内容の真実性等の主張立証の機会を与えるべきである。

事前差止めを求める場合、もっぱら迅速な処理を旨とし、口頭弁論ないし債務者審尋を必要とせず、立証も疎明で足りるとすることは、表現の自由を確保する上で、その手続的保障として不十分である。

したがって、原則、口頭弁論または債務者の審尋を行い、表現内容の真実性等の主張立証の機会を与えるべきである。

ただし、例外として、上記実体的要件を満たすとき(上記例外的に事前抑制が許される場合)は、口頭弁論または債務者の審尋は不要である。

本件事前差止めは違憲か?

→違憲ではない(合憲)

本件の記事は、実体的要件を満たし(上記例外的に事前抑制が許される場合に該当し)、手続的要件も満たしている(口頭弁論または債務者の審尋は不要)ため、仮処分は合憲である。

最大判昭59.12.12:税関検査事件

論点

  1. 憲法21条2項の「検閲」の意義とは?
  2. 税関検査は「検閲」に該当するか?

事案

Xは外国から、わいせつな映画フィルム、書籍など(物件という)を郵便で輸入しようとしたところ、函館税関札幌税関支署長Y1から、「これらの物件が男女の性器、性行為等を描写したものであり、関税定率法21条1項3号所定の輸入禁制品に該当する」旨の通知を受けた。

これに対し、Xは異議の申出をしたが、函館税関長Y2はこれを棄却する決定をした。

そこでXはY1およびY2に対し、上記通知および決定の取消しを求めて出訴した。

関税定率法21条1項3号
公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品は、輸入してはならない。

判決

憲法21条2項の「検閲」の意義とは?

→検閲とは、下記6つの要件を満たすものを言う。

  1. 行政権が主体となって、
  2. 思想内容等の表現物を対象とし、
  3. 表現物の一部または全部の発表を禁止する目的で、
  4. 対象とされる表現物を網羅的一般的に、
  5. 発表前に審査した上、
  6. 不適当と認めるものの発表を禁止すること

税関検査は「検閲」に該当するか?

→検閲には該当しない

輸入禁止されている表現物は、一般に、国外においてはすでに発表済みである。

したがって、輸入を禁止したからといって、それは当該表現物につき、事前に発表そのものを一切禁止するというものではない。そのため、税関検査は、事前規制そのものではない。

また、税関検査は、関税徴収手続きの一環として、これに付随して行われるもの。思想内容等それ自体を網羅的に審査し、規制することを目的とするものでもない。

したがって、検閲の上記要件を満たさないので、検閲には該当しない。

最大判昭58.6.22:よど号ハイジャック新聞記事抹消事件

論点

  1. 刑事施設収容者の閲読の自由に対する制限は、憲法21条に違反しないか?
  2. 閲読の自由に対する制限の合憲性はどのように判定するか?(合憲性の判定基準)

事案

東京拘置所に勾留されていた活動家Xらは、拘置所内で私費で新聞を定期購読していた。そんな中、赤軍派によるよど号ハイジャック事件が発生。Xらに配布された新聞記事は、よど号事件の関連記事の一切を墨で塗りつぶされていた。これは、監獄法令の中にある「犯罪の手段、方法等を詳細に伝えたもの」に当たるという判断から塗りつぶされたものであった。

これに対してXらは、当該監獄法令は憲法21条の「知る権利」に違反する無効なものとして、国家賠償請求訴訟を提起した。

判決

刑事施設収容者の閲読の自由に対する制限は、憲法21条に違反しないか?

違反しない

閲読の自由は、憲法19条や21条の派生原理として当然保障されるべきである。

しかし、この閲読の自由は絶対的に保障されるわけではなく、一定の合理的制限を受けることもある。

当該監獄法令については、合理的制限といえるため、憲法に違反しない。

※判定基準は下記の通り

閲読の自由に対する制限の合憲性はどのように判定するか?(合憲性の判定基準)

まず、当該閲読を許すことにより、監獄内の規律や秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるといだけでは足りず、(左記理由で制限をすることは違反である)

具体的事情のもとにおいて、①「監獄内の規律および秩序の維持上放置することのできない程度」の障害が生ずる「相当の蓋然性」があると認められることが必要であり

かつ、②制限の程度は、上記障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどめるべきものと解するのが相当である。

※ 蓋然性(がいぜんせい)とは、確実さ、確かさの度合いを表し、「蓋然性がある」とは、ある事柄が起こる確実性や、ある事柄が真実として認められる確実性の度合いが高いことを意味します。

つまり、閲読の自由に対する制限の合憲性は、上記①と②を判断基準に判定します。

>>よど号ハイジャック記事抹消事件の判決文はこちら

最大判昭57.7.7:堀木訴訟

論点

  1. 憲法25条1項および2項の解釈と適用について
  2. 児童扶養手当法4条3項3号の「併給禁止規定」が憲法25条(生存権)に反しないか?

事案

X(堀木フミ子氏)は、全盲の視力障害者として、障害福祉年金を受給していた。同時に、Xは内縁の夫との間に男子を、夫との離別後、独力で養育していたので、兵庫県知事Yに対して、児童扶養手当の受給資格の認定の申請をした。

しかし、Yは、障害福祉年金を受給しているので、児童扶養手当法4条3項3号の「併給禁止規定」に該当するとの理由で、申請を却下した。

さらにXは、異議申立をしたが、棄却され、Xは、児童扶養手当法4条3項3号が憲法25条(生存権)に違反するとして、「却下処分の取消し」と「手当受給資格の認定をYに義務付ける判決」を求める訴訟(義務付け訴訟)を提起した。

判決

憲法25条1項および2項の解釈と適用について

憲法25条1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定している。
この規定は、いわゆる福祉国家の理念に基づき、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営みうるよう国政を運営すべきことを国の責務として宣言したものである。

また、同条2項は「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定している。
この規定は、同じく福祉国家の理念に基づき、社会的立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきことを国の責務として宣言したものである。

そして、同条1項は、国が個々の国民に対して具体的・現実的に右のような義務を有することを規定したものではなく、同条2項によって国の責務であるとされている社会的立法及び社会的施設の創造拡充(法令)により個々の国民の具体的・現実的な生活権が設定充実されてゆくものである。

児童扶養手当法4条3項3号の「併給禁止規定」が憲法25条(生存権)に反しないか?

→違反しない

憲法25条(生存権)の規定は、国権の作用に対し、一定の目的を設定しその実現のための積極的な発動を期待するという性質のものである。

しかも、「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であって、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たっては、国の財政事情を無視することができない。

また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。

したがって、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない

児童扶養手当は、もともと母子福祉年金(国民年金)を補完する制度として設けられたものと見るのを相当とするのであり、受給者に対する所得保障である点において、前記母子福祉年金ひいては国民年金法所定の国民年金(公的年金)の一種である障害福祉年金と基本的に同一の性格を有するもの、と見るのがむしろ自然である。

そして、一般に、社会保障法制上、同一人に同一の性格を有する2つ以上の公的年金が支給されることとなるべき、いわゆる複数事故において、そのそれぞれの事故それ自体としては支給原因である稼得能力の喪失又は低下をもたらすものであっても、事故が2つ以上重なったからといって稼得能力の喪失又は低下の程度が必ずしも事故の数に比例して増加するといえないことは明らかである。

このような場合について、社会保障給付の全般的公平を図るため公的年金相互間における併給調整を行うかどうかは、立法府の裁量の範囲に属する事柄と見るべきである。

また、この種の立法における給付額の決定も、立法政策上の裁量事項であり、それが低額であるからといって当然に憲法25条違反に結びつくものということはできず、本件規定は違憲ではない。

判決文の全文はこちら>>

関連ページ

>>関連判例:最大判昭42.5.24:朝日訴訟(生存権の法的権利性の有無)

>>生存権(憲法25条)プログラム規定説・抽象的権

最判昭56.4.16:月刊ペン事件

論点

  1. 私人の私生活上の行状が「公共の利害に関する事実」にあたるか?
  2. 「公共の利害に関する事実」にあたるか否かの判断基準は?

事案

雑誌「月刊ペン」の編集局長である被告人は、「月刊ペン」の中で、宗教法人創価学会を批判し、同会会長の池田大作氏の私的行動を取り上げ、当該雑誌上に、池田大作氏の女性関係の乱れを具体的に記載した上、約3万部を発行した。

これに対し、池田大作、女性2名、創価学会のそれぞれの名誉を棄損したとし告訴され、控訴を提起された。

判決

私人の私生活上の行状が「公共の利害に関する事実」にあたるか?

私人の私生活の行状であっても、そのたずさわる社会的活動の性質や社会に及ぼす程度によっては、「公共の利害に関する事実」にあたる場合がある

私人の私生活の行状であっても、社会的活動の性質や社会に及ぼす程度によっては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法230条の2第1項の「公共の利害に関する事実」にあたる場合がある。

第230条の2(公共の利害に関する場合の特例)
第230条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

第230条1項(名誉棄損)
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

「公共の利害に関する事実」にあたるか否かの判断基準は?

摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべき