テキスト

持分会社の社員の責任、社員の加入・退社

持分会社の社員の責任

会社は法人なので、会社の債務は、会社自身の債務であって、社員(個人)の債務ではありません。

しかし、持分会社の社員(無限責任社員および有限責任社員)は、会社債権者に対して、直接責任を負います。ただし、この責任の範囲が、無限責任社員と有限責任社員とで異なります。

無限責任社員 すべて責任を負う
有限責任社員 出資した分を限度に責任を負う。出資した金額以上の責任は負わない

どのような場合に責任を負うか?

持分会社の社員は、下記2つのいずれかに該当する場合には、連帯して、持分会社の債務を弁済する責任を負います(580条1項)。

  1. 当該持分会社の財産をもってその債務を完済することができない場合
  2. 当該持分会社の財産に対する強制執行がその効を奏しなかった場合
    (社員が、当該持分会社に弁済をする資力があり、かつ、強制執行が容易であることを証明した場合は、責任を免れることができる)

上記の通り、持分会社の社員は、会社の債務の保証人といった立場にあります。

社員の加入と退社

加入

持分会社は、新たに社員を加入させることができます(604条1項)。

ここでいう「社員」とは従業員ではなく、「出資者」を意味します。
株式会社でいえば株主と同じ立場の人です。

社員に関する情報は登記事項なので、社員が加入する場合、変更登記が必要です。

そして、変更登記をすることで、効力が生じます(604条2項)。

条文では、「持分会社の社員の加入は、当該社員に係る定款の変更をした時に、その効力を生ずる(604条2項)」と規定しているが、内容は上記の通りです。

もっとも、合同会社新たに社員を加入させる場合において、新たに社員となろうとする者が定款の変更をした時にその出資に係る払込み又は給付の全部又は一部を履行していないときは、その者は、当該払込み又は給付を完了した時に、合同会社の社員となります604条3項)。

※持分会社の成立後に加入した社員は、その加入前に生じた持分会社の債務についても、これを弁済する責任を負います605条)。

退社

退社とは、会社が存立している間に、社員がその地位を失うことです。分かりやすく言えば、「会社のオーナー」を辞めるイメージです。よって、後でも解説する通り、出資したお金をあとで取り戻せます。

そして、退社には、任意退社と法定退社の2種類があります。

任意退社

任意退社とは、社員自らの意思によって退社することです。

「①持分会社の存続期間を定款で定めなかった場合」又は「②ある社員の終身の間持分会社が存続することを定款で定めた場合」には、各社員は、事業年度の終了の時において退社をすることができます(606条1項)。

この場合においては、各社員は、6か月前までに持分会社に退社の予告をしなければなりません。

しかし、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができます(606条3項)。

法定退社

社員は、下記事由によって、自動的に退社します(607条)。

  1. 定款で定めた事由の発生
  2. 総社員の同意
  3. 死亡
  4. 合併(合併により当該法人である社員が消滅する場合に限る。)
  5. 破産手続開始の決定
  6. 解散
  7. 後見開始の審判を受けた
  8. 除名

退社に伴う持分の払戻し

退社した社員は、その出資の種類を問わず、金銭によりその持分の払戻しを受けることができます(611条1項3項)。

<<持分会社の設立の流れ | 組織変更>>

取消訴訟の訴えの利益(狭義)

狭義の訴えの利益とは?

狭義の)訴えの利益とは、訴訟を行う意味(実益)があるのか?訴訟を維持する意味(実益)があるのか?という、処分を取り消すことの必要性を指します。

処分を取り消すことにより、原告に何らかの利益の回復が得られるのであれば、訴えの利益はあり、ないのであれば訴えの利益は否定され、不適法として却下されます。

例えば、処分性や原告適格の要件を備えていたとしても、訴えの利益がなければ却下判決を下されます。

※「広義の訴えの利益」とは、原告が取消訴訟を行うにあたって法律上の利益を有していることを意味します。つまり、訴訟要件のうちの「原告適格」のことです。

訴えの利益を肯定した判例

  1. 運転免許取消し(最判昭40.8.2)
  2. 公務員の免職(最判昭40.4.28)
  3. 土地改良事業の施行認可処分(最判平4.1.24)
  4. 公文書の非公開決定(最判平14.2.28)
  5. 優良運転者である旨の記載がない処分を受けた者(最判平21.2.27)

運転免許取消処分(最判昭40.8.2)

運転免許の取消処分に対する取消訴訟の係属中に免許の有効期間が経過した場合でも、取消処分が取り消されば、免許の更新手続きにより免許を維持できるため、訴えの利益は失われないとしています。つまり、「運転免許の取消処分に対する取消訴訟」に訴えの利益はあるということです。

【詳細解説】 Aは、運転免許取消処分を受けた。
Aは、処分を不服に思って取消訴訟を提起した。
裁判をしている間に、当初の免許の有効期間が経過した。

この場合、免許の有効期間が過ぎているので、
Aに訴えの利益がなくなるのでは?と思うかもしれませんが

もし、免許取消処分が取り消されたら
有効期間中に更新申請できたわけなので(利益があったので)
免許取消処分を取り消す利益はある

公務員の免職処分(最判昭40.4.28)

懲戒免職を受けた公務員がその処分を取消訴訟中に本人が議員に立候補した場合、立候補するとその時点で自動的に失職しますが、懲戒処分が取り消されれば、公務員時代の給料や退職金はもらえるため、訴えの利益は失われない

※懲戒処分は給料や退職金はもらえないが、議員立候補による失職の場合は、それまでの給料や退職金はもらえる

【詳細解説】 公務員Aが懲戒免職を受けた(クビになった)
クビという処分に不服があるため、取消訴訟を提起。
裁判中に、Aは議員に立候補

公務員は、議員に候補するとその時点で自動的に失職するというルールがある(公職選挙法90条)。
そのため、Aは、立候補した時点でクビ処分の取消訴訟の訴えの利益がなくなるのでは?と思うかもしれませんが

もし、クビ処分が取り消されたら「
公務員時代の給料や退職金はもらえる」という利益が存在するため、訴えの利益は失われません。

土地改良事業の施行認可処分(最判平4.1.24)

土地改良事業における事業施工認可処分により、工事が開始され、工事が完了すると、社会通念上元に戻すことが不可能です。しかし、社会通念上元に戻すことが不可能であっても、事業施工の認可処分を取消せば換地処分など他の法的効力にも影響するため訴えの利益は残るため、訴えの利益は失われません

公文書の非公開決定(最判平14.2.28)

公文書公開条例に基づき公開請求された公文書の非公開決定がされた後、当該公文書が書証(裁判の中で証拠書類)として提出された。証拠書証として出されても、誰もが見ることができる訳ではないし、コピーを取ることもできません。そのため、上記非公開決定を取り消した場合、請求した公文書を閲覧したり、公文書のコピーを受け取ることを求める法律上の利益があるから、上記決定の取消しを求める訴えの利益は消滅しません

優良運転者である旨の記載がない処分を受けた者(最判平21.2.27)

客観的に優良運転者の要件を満たす者であれば優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を有することが肯定される以上、一般運転者として扱われ上記記載のない免許証を交付されて免許証の更新処分を受けた者は、上記の法律上の地位を否定されたことを理由として、これを回復するため、同更新処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきものである。

『最判平21.2.27:「優良運転者である旨の記載の有無」と「訴えの利益」』の詳細はこちら>>

訴えの利益を否定した判例

  1. 皇居外苑使用の不許可処分(最判昭28.12.23)
  2. 生活保護の変更決定(最判昭42.5.24)
  3. 土地収用にける明渡裁決(最判昭48.3.6)
  4. 運転免許停止処分(最判昭55.11.25)
  5. 保安林指定の解除処分(最判昭57.9.9)
  6. 建築確認(最判昭59.10.26)
  7. 保育所廃止条例の制定(最判平21.11.26)
  8. 衆議院議員選挙(最判平17.9.27)

皇居外苑使用の不許可処分(最判昭28.12.23)

公会堂使用及び皇居外苑使用の不許可処分の取消訴訟の係属中に、使用する特定日が経過した場合、たとえ不許可処分をしたとしても、その特定日に使用できないから訴えの利益は失われます

生活保護の変更決定(最判昭42.5.24:朝日訴訟)

生活保護処分に関する裁決の取消訴訟に対して、取消処分を求めた。その後、被保護者が死亡すると、保護受給権も消滅し、相続されることもないため、取消しを訴える利益は消滅します。

※生活保護受給権は一身専属権であり、他の者に譲渡することもできないし、相続されることもない。

土地収用にける明渡裁決(最判昭48.3.6)

土地収用に基づく明渡裁決があると、一定期間内に土地を明け渡す義務が発生します。そして、いったん土地の明渡しが完了すれば、明渡裁決の効果として土地の占有者の義務はなくなります。つまり、代執行の完了(明渡し完了)をした後に、上記明渡裁決を取り消しても意味がないので、明渡裁決の取消しを求める訴えの利益は消滅する。

運転免許停止処分(最判昭55.11.25)

運転免許停止処分がなされて、免許停止期間の経過後、無事故無違反で1年経過すると、免許停止処分がなかったことになり、また、免許停止処分を受けたことがあることにより、何らかの不利益を受けるといった法令はありません。そのため、上記1年を経過した後に、運転免許停止処分の取消しを求めたとしても、処分を受けた者に利益はないので、訴えの利益は認められません

保安林指定の解除処分(最判昭57.9.9)

保安林指定解除処分があると、周辺住民は、洪水や渇水の危険性が増します。そのため、当該解除処分を取り消すことについては訴えの利益はあります。しかし、保安林に代わる代替施設の設置があれば、上記洪水や渇水の危険が解消され、保安林の存続の必要性がなくなります。つまり、保安林指定解除処分を取り消しても周辺住民に何ら利益はないので、訴えの利益は失います

建築確認(最判昭59.10.26)

建築確認があった後、建物の建築工事が完了した場合、その後、建築確認を取り消したとしても、既に建物は完成しているため、取消ししても意味がありません。そのため、工事完了によって建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われます
建築確認は、建築工事を開始してよいと伝えるだけ。この建築確認を取り消しても、建物を除去するまでの効力はない。

保育所廃止条例の制定(最判平21.11.26)

保育園廃止処分を受けた者(原告)について、保育の実施期間が満了すると、その後、保育園に入ることはないため、上記期間満了後に保育園廃止処分を取り消しても、原告に利益はないため、保育園廃止処分の取消しを求める訴えの利益は失われます

衆議院議員選挙(最判平17.9.27)

衆議院選挙があり、その後、解散があると本件選挙の効力は将来に向かって失われたものと考えられています。そのため、衆議院議員選挙を無効とする判決を求める訴訟は、衆議院の解散によって、その訴えの利益を失います

<<取消訴訟の原告適格 | 取消訴訟の被告適格>>

最判昭60.11.21:在宅投票制度廃止事件

論点

  1. 立法行為の不作為は、違憲審査の対象となるか?
  2. 在宅投票制度を廃止して、その後復活しなかった不作為は、国賠法上違法か?

事案

Xは、屋根の雪下ろし作業中に転落事故を起こし、脊髄を損傷した。そのことが原因で、寝たきり状態になり、昭和28年頃から投票所へ出向くことができなくなった。

ところが、昭和27年の公職選挙法の一部改正により、「投票所に行かずにその現在の場所において投票用紙に投票の記載をして投票することができる制度(在宅投票制度)」が廃止された。廃止された原因は、昭和26年の統一地方選挙により、在宅投票制度が悪用され、多くの選挙違反が続出したからである。そのため、その後も在宅投票制度を設けるための立法を行わなかった。

このため、合計8回の公職選挙の投票をすることができなかったXは、選挙権の行使に身体上の欠陥等の原因で差別を受け、精神的損害を被ったとして、在宅投票制度の復活を採らない国に対し、国家賠償法(国賠法)1条1項に基づく慰謝料80万円の賠償を求めて訴えを提起した。

国家賠償法第1条1項
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

判決

立法行為の不作為は、違憲審査の対象となるか?

→対象となる

立法行為(不作為も含む)の内容にわたるものは、これを議員各自の政治的判断に任せ、その当否は終局的に国民の自由な言論及び選挙による政治的評価にゆだねるのが相当である。

また、憲法51条が、「両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない。」と規定し、国会議員の発言・表決につきその法的責任を免除しているのも、国会議員の立法過程における行動は政治的責任の対象とするにとどめるという趣旨とである。

よって、国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきである。

また、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。

■上記の通り、国会議員の立法行為(不作為も含む)について違法かどうかを審査しているので、立法行為の不作為は、違憲審査の対象といえる。

在宅投票制度を廃止して、その後復活しなかった不作為は、国賠法上違法か?

→違法ではない

憲法には在宅投票制度の設置を積極的に命ずる明文の規定は存在しない。

また、憲法47条は「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」と規定しており、これは、投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定を原則として立法府である国会の裁量的権限に任せる趣旨である。

そうすると、在宅投票制度を廃止しその後復活しなかった本件立法不作為は、上記の例外的場合に当たらず、違法ではない

判決内容はこちら>>

行政不服審査法43条:行政不服審査会等への諮問

このページでは、行政不服審査会への諮問(しもん)について解説します。まず、審査請求からの裁決の下記流れをご覧ください。今回は8の諮問の内容です。この流れは行政書士試験で合格するために重要な流れなので、必ず頭に入れましょう!

審査請求から裁決までの流れ

処分が行われ、その処分に不服があると、下記流れで審査請求が行われます。

  1. 審査請求人は審査請求書を審査庁に提出します。
  2. 審査庁は審査請求書に不備がないかを審査します。
  3. 不備がなければ審査庁は、審査請求の手続きを担当する審理員を指名します。
  4. 審理員は処分庁に審査請求書を送付します。
  5. 処分庁は審理員に弁明書を提出します。
  6. 審査請求人は審理員に反論書を提出します。
  7. 審理員は審査庁に審理員意見書を提出


行政不服審査会等への諮問

審査庁が審理員意見書の提出を受けたときは、行政不服審査会等に諮問(しもん)しなければなりません。諮問とは、意見を尋ね求めることです。

この手続きは、審査庁が裁決をする前に、行政不服審査会等の第三者機関に対してお伺いを立てて、その意見を踏まえた上で最終的な判断を下すためです。

これは、客観的で公正な判断を下すためのルールで、平成26年の法改正により設けられました。

審査庁が「合議制の機関(例えば〇〇委員会)」である場合等は、行政不服審査会への諮問不要です

諮問機関(誰に諮問するか?)

上図では、「行政不服審査会」となっていますが、審査庁が地方公共団体の長である場合、地方公共団体に設置された付属機関に諮問することになります。

(行政不服審査会等への諮問)
行政不服審査法第43条 審査庁は、審理員意見書の提出を受けたときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、審査庁が主任の大臣又は宮内庁長官若しくは内閣府設置法第49条第1項若しくは第2項若しくは国家行政組織法第3条第2項に規定する庁の長である場合にあっては行政不服審査会に、審査庁が地方公共団体の長(地方公共団体の組合にあっては、長、管理者又は理事会)である場合にあっては第81条第1項又は第2項の機関に、それぞれ諮問しなければならない。
一 審査請求に係る処分をしようとするときに他の法律又は政令(条例に基づく処分については、条例)に第九条第1項各号に掲げる機関若しくは地方公共団体の議会又はこれらの機関に類するものとして政令で定めるもの(以下「審議会等」という。)の議を経るべき旨又は経ることができる旨の定めがあり、かつ、当該議を経て当該処分がされた場合
二 裁決をしようとするときに他の法律又は政令(条例に基づく処分については、条例)に第九条第1項各号に掲げる機関若しくは地方公共団体の議会又はこれらの機関に類するものとして政令で定めるものの議を経るべき旨又は経ることができる旨の定めがあり、かつ、当該議を経て裁決をしようとする場合
三 第46条第3項又は第49条第4項の規定により審議会等の議を経て裁決をしようとする場合
四 審査請求人から、行政不服審査会又は第81条第1項若しくは第2項の機関(以下「行政不服審査会等」という。)への諮問を希望しない旨の申出がされている場合(参加人から、行政不服審査会等に諮問しないことについて反対する旨の申出がされている場合を除く。)
五 審査請求が、行政不服審査会等によって、国民の権利利益及び行政の運営に対する影響の程度その他当該事件の性質を勘案して、諮問を要しないものと認められたものである場合
六 審査請求が不適法であり、却下する場合
七 第46条第1項の規定により審査請求に係る処分(法令に基づく申請を却下し、又は棄却する処分及び事実上の行為を除く。)の全部を取り消し、又は第47条第1号若しくは第2号の規定により審査請求に係る事実上の行為の全部を撤廃すべき旨を命じ、若しくは撤廃することとする場合(当該処分の全部を取り消すこと又は当該事実上の行為の全部を撤廃すべき旨を命じ、若しくは撤廃することについて反対する旨の意見書が提出されている場合及び口頭意見陳述においてその旨の意見が述べられている場合を除く。)
八 第46条第2項各号又は第49条第3項各号に定める措置(法令に基づく申請の全部を認容すべき旨を命じ、又は認容するものに限る。)をとることとする場合(当該申請の全部を認容することについて反対する旨の意見書が提出されている場合及び口頭意見陳述においてその旨の意見が述べられている場合を除く。)
2 前項の規定による諮問は、審理員意見書及び事件記録の写しを添えてしなければならない。
3 第1項の規定により諮問をした審査庁は、審理関係人(処分庁等が審査庁である場合にあっては、審査請求人及び参加人)に対し、当該諮問をした旨を通知するとともに、審理員意見書の写しを送付しなければならない。

<<行政不服審査法42条:審理員意見書 | 行政不服審査法44条:裁決の時期>>

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居住・移転の自由、海外渡航の自由、国籍離脱の自由(憲法22条)

憲法第22条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

居住・移転の自由

居住・移転の自由とは、自己の住所または居所を自由に決定し、移動することができる自由を言います。また、国内旅行の自由も含まれます。

海外渡航の自由

海外渡航の自由は、「一時的な外国旅行の自由」と「外国に住所を移す海外移住の自由」を指し、22条2項で保障されています。

国籍離脱の自由

国籍離脱の自由について、日本国籍を失って無国籍になる自由までは含まれないと解されています。そのため、日本国籍を離脱する場合には、どこかの国の国籍を取得していなければなりません。

<<学問の自由(憲法23条) | 職業選択の自由(憲法22条)>>

幸福追求権(憲法13条)プライバシー権など

憲法第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法13条(幸福追求権)は、上記の通り、非常に抽象的で分かりにくい内容です。

しかし、このように抽象的な内容であるがゆえに、社会・経済の変動によって生じた様々問題に対して法的に対応することが可能であるのも事実です。

その結果、憲法13条(幸福追求権)は、憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる一般的かつ包括的な権利であり、この幸福追求権によって基礎づけられている個々の権利は裁判上の救済を受けることができる具体的権利(憲法上保障される権利)であると解されています。

幸福追求権の内容

幸福追求権については、憲法13条後段において「生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利」として保障しています。
つまり、具体的に、憲法で保障されているということです。
その具体的な権利の内容については、2つの考え方(一般的行為自由説人格的利益説)があります。

  • 一般的行為自由説あらゆる生活領域に関する行為の自由を保障するという考え方
  • 人格的利益説:個人の人格的生存に不可欠な行為の自由を保障するという考え方(通説)

幸福追求権から導きだされる具体的な人権

幸福追求権から導き出される具体的な権利は、プライバシーの権利、環境権、日照権等色々ありますが、最高裁の判例で、「プライバシーの権利としての肖像権」については、憲法上保障される権利としています(最大判昭44.12.24:京都府学連事件)。

この幸福追求権については、判例を押さえることが行政書士に合格するために重要となってきますので、判例を勉強してきましょう!

プライバシー権の2つの側面

プライバシー権利は、「消極的な権利としての側面」と「積極的な権利としての側面」2つの側面を持っています。

  • 消極的側面:受動的な権利で、誰かに侵害されたときに損害賠償などをすることができる権利を言います。
  • 積極的側面:能動的な権利(自分の情報をコントロールする権利)で、積極的に情報公開や削除などを求める権利を言います。

幸福追求権に関する重要判例

  • デモ隊の大学生Xは、「行進隊列は4列縦隊とすること」という条件付きで許可をもらって、デモ隊を誘導していた。その後、機動隊ともみあいになって、隊列が崩れた。これを許可条件に違反すると判断して、警察官は、デモ隊を写真で撮影した。この撮影行為は、肖像権を侵害するではないかということで争いになった。これについて、最高裁は、「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有し、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し許されない」として、プライバシーの権利としての肖像権を憲法上保障される権利と認めた。(最大判昭44.12.24:京都府学連事件
  • アメリカ人Xが、日本で新規の外国人登録をしようとした。その登録の際に、提出書類に指紋押なつを拒否したため、外国人登録法違反で起訴された。これに対して、指紋押捺制度は憲法13条に違反すると主張して、争われた。最高裁は、「何人も個人の私生活上の自由の一つとしてみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有し、国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、憲法一三条の趣旨に反し許されない。」として、プライバシー権を憲法上保障される権利として認めた。(最判平7.12.15:指紋押捺拒否事件
  • Xが会社Yを解雇され、XはYを相手に、解雇は不当だと争った。Yの弁護士は、弁護士会を通じて京都市伏見区役所にXの前科・犯罪経歴の照会を行った。それに対して、区長は、前科・犯罪経歴を回答した。Xは、この区長の「前科・犯罪経歴を回答した事実」がプライバシー権侵害にならないかが争った。これに対して、最高裁は、「前科及び犯罪経歴は、人の名誉・信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する。」また、「市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。」とし、区長の照会の違法性を認めた。(最判昭56.4.14:前科照会事件)
  • 傷害致死事件の犯人Xを題材にしたノンフィクション小説「逆転」の中に実名で記された人物Xが、プライバシーの権利を侵害されたとして、慰謝料を請求し、争われた。最高裁は 「前科等に関わる事実を公表されないことは、法的保護に値する利益を有する」とし、「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、Xは、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。」とした。(最判平6.2.8:ノンフィクション「逆転」事件
  • 宗教上の理由で輸血を拒否していたエホバの証人の信者が、手術の際に無断で輸血を行った医師、病院に対して損害賠償を求め、争われた。最高裁は「患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。」とした。(最判平12.2.29:エホバの証人輸血拒否事件
  • 民法750条では、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と夫婦の姓は同じにするように規定しています。これに対して、夫婦同姓の強制(氏の変更を強制されない自由)は憲法13条の権利として保障される人格権の一内容である「氏の変更を強制されない自由」を不当に侵害しているのではないかと争われた。この点について、最高裁は、「氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば、氏が、親子関係など一定の身分関係を反映し、婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されているといえる。この氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に氏の変更を強制されない自由が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない」として、本件規定は憲法13条に違反するものではないとした。(最大判平27.12.16:夫婦別姓訴訟)

<<憲法のテキスト一覧 | 法の下の平等(憲法14条)>>

行政不服審査法20条:口頭による審査請求

行政不服審査法20条「口頭による審査請求」の内容は、簡単な内容なので覚えてしまいましょう!ただ、行政書士試験ではあまり出題されない部分です。ただし、難しくないので出題されたら必ず得点できるようにしましょう!

口頭で審査請求をする場合、行政不服審査法19条の「処分における審査請求書の記載内容」と「不作為における審査請求書の記載内容」を陳述し(口頭で伝え)、行政庁は、その内容を記録します。記録が終わったら、陳述人(口頭で話した者)に読み聞かせを行い誤りがないかを確認させなければなりません。

(口頭による審査請求)
行政不服審査法第20条 口頭で審査請求をする場合には、前条第2項から第5項までに規定する事項を陳述しなければならない。この場合において、陳述を受けた行政庁は、その陳述の内容を録取し、これを陳述人に読み聞かせて誤りのないことを確認しなければならない。

<<行政不服審査法19条:審査請求書の提出 | 行政不服審査法21条:処分庁等を経由する審査請求>>

行政不服審査法7条:適用除外

行政不服審査法7条は、下記事項は「2条・3条の規定を適用しない」としています。どういうことかというと、下記事項については、審査請求できないということです。

では、どういった場合に審査請求ができないのか?

審査請求ができない場合

  1. 国会若しくは地方議会の議決によってされる処分
  2. 裁判により、又は裁判の執行としてされる処分
  3. 国会若しくは地方議会の議決又は同意等を経てされる処分
  4. 検査官会議で決すべきものとされている処分
  5. 当事者間の法律関係を確認し、又は形成する処分で、法令の規定により当該処分に関する訴え(形式的当事者訴訟)においてその法律関係の当事者の一方を被告とすべきものと定められているもの
  6. 刑事事件に関する検察官等がする処分
  7. 国税又は地方税の犯則事件に関する処分
    金融商品取引の犯則事件に関する処分
  8. 学校講習所訓練所又は研修所で、学生、生徒、児童若しくは幼児若しくはこれらの保護者、講習生、訓練生又は研修生に対してされる処分
  9. 刑務所、少年刑務所、拘置所、留置施設、海上保安留置施設、少年院、少年鑑別所又は婦人補導院において、収容の目的を達成するためにされる処分
  10. 外国人の出入国又は帰化に関する処分
  11. 専ら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分(例えば、行政書士試験の結果等)
  12. 行政不服審査法に基づいて行われる処分

この点については、行政手続法で適用除外になっているものと、行政不服審査法で適用除外になっているものの違いを覚えるとよいでしょう!

行政手続法と行政不服審査法の適用除外の違い

手続法のみ適用除外 ① 公務員の懲戒処分
② 利害の反する者の利害調整を目的とした処分
③ 難民認定
④ 報告または物件提出等の情報収集を目的とした処分
⑤ 公衆衛生・環境保全・防疫・保安のための処分
⑥ 不服申立て(審査請求・再調査請求)による裁決・決定
⑦ 聴聞・弁明の機会付与手続き(意見陳述の手続き)において法令に基づいてされる処分
不服審査法のみ適用外 形式的当事者訴訟によるべきとされている処分

行政不服審査法における国の機関または地方公共団体等の適用除外

「国の機関」又は「地方公共団体」その他の「公共団体」若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為については、行政不服審査法の規定は、適用しません。

これは、行政手続法と同様に行政不服審査法も適用しないことを意味します。

イメージとしては、国の機関や地方公共団体に対する処分については、審査請求できないということです。

(適用除外)
第7条 次に掲げる処分及びその不作為については、第2条及び第3条の規定は、適用しない。
一 国会の両院若しくは一院又は議会の議決によってされる処分
二 裁判所若しくは裁判官の裁判により、又は裁判の執行としてされる処分
三 国会の両院若しくは一院若しくは議会の議決を経て、又はこれらの同意若しくは承認を得た上でされるべきものとされている処分
四 検査官会議で決すべきものとされている処分
五 当事者間の法律関係を確認し、又は形成する処分で、法令の規定により当該処分に関する訴えにおいてその法律関係の当事者の一方を被告とすべきものと定められているもの
六 刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官又は司法警察職員がする処分
七 国税又は地方税の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて国税庁長官、国税局長、税務署長、国税庁、国税局若しくは税務署の当該職員、税関長、税関職員又は徴税吏員(他の法令の規定に基づいてこれらの職員の職務を行う者を含む。)がする処分及び金融商品取引の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて証券取引等監視委員会、その職員(当該法令においてその職員とみなされる者を含む。)、財務局長又は財務支局長がする処分
八 学校、講習所、訓練所又は研修所において、教育、講習、訓練又は研修の目的を達成するために、学生、生徒、児童若しくは幼児若しくはこれらの保護者、講習生、訓練生又は研修生に対してされる処分
九 刑務所、少年刑務所、拘置所、留置施設、海上保安留置施設、少年院、少年鑑別所又は婦人補導院において、収容の目的を達成するためにされる処分
十 外国人の出入国又は帰化に関する処分
十一 専ら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分
十二 この法律に基づく処分(第五章第一節第一款の規定に基づく処分を除く。)

2 国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為については、この法律の規定は、適用しない。

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最大判昭62.4.22:森林法事件

論点

  1. 憲法29条1項は何を保障しているか?
  2. 森林法186条は憲法29条2項に違反するか?

事案

X、Yの兄弟は、父からそれぞれ山林の2分の1の持分を生前贈与され、共有登記をしていた。しかし、弟Xの反対を押し切って、兄Yが森林の一部を伐採したことから争いになった。

XはYを被告として、持分に応じた山林の分割等を請求する訴えを提起した。

判決

憲法29条1項は何を保障しているか?

私有財産制度のみならず、国民の個々の財産権についても保障している

憲法29条は、1項において「財産権は、これを侵してはならない。」と規定し、私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障する。

森林法186条は憲法29条2項に違反するか?

違反する(違憲)

憲法29条2項では、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。」と規定されている。

財産権に対する規制は、財産権の種類、性質等が多種多様であり、また、財産権に対し規制を要求する社会的理由ないし目的も、社会政策及び経済政策上の積極的なものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的なものに至るまで多岐にわたるため、種々様々でありうるのである。

したがって、財産権に対して加えられる規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によつて制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべきものである。

また、裁判所としては、立法府がした右比較考量に基づく判断を尊重すべきものである。

そこで、裁判所としては、①立法の規制目的が、公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制手段が目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであって、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法29条2項に違反すると解するのが相当である。

■そして、森林法186条(森林の共有者は、持分の過半数を有さない場合、分割請求ができない。)の立法目的は、森林の細分化を防止することによって森林経営の安定を図り、もつて国民経済の発展に資することにあると解すべきである。

この目的は、公共の福祉に合致しないことが明らかとはいえない。

ただし、共有者間に紛争が生じたときは、各共有者は、共有森林につき、保存行為を行うことができず、管理又は変更の行為を適法にすることができないこととなり、ひいては当該森林の荒廃という事態を招来することとなる。

また、一律に現物分割を認めないとすることは、同条の立法目的を達成する規制手段として合理性に欠け、必要な限度を超えるものというべきである

また、共有森林につき現物分割をしても直ちにその細分化を来すものとはいえないし、また、民法258条2項は、競売による代金分割の方法をも規定しているのであり、この方法により一括競売がされるときは、当該共有森林の細分化という結果は生じないのである。したがって、森林法186条は、目的を達成するについて必要な限度を超えた不必要な規制というべきである。

したがって、森林法186条の規制手段は、同条の立法目的との関係で合理性と必要性のいずれも肯定できないことが明らかなので、憲法29条2項に違反し無効である。