テキスト

最判昭48.4.26:課税処分と当然無効

論点

  1. 課税処分が当然無効となるのは、どのような場合か?

事案

Aは、債権者からの差押えを回避するなどの目的のため、親戚であるXに無断で、自己所有の土地建物のうち、Xへの所有権移転登記を行った。

その後、Aは、自己の事業経営の不振から借金が膨らみ、返済に充てるために、本件土地を売却することを思い立ち、登記をXからAに戻し、本件土地を第三者に売り渡した。

税務署長Yは、調査の上、X→Aと売られているので、Xに譲渡による所得があったものとして課税処分を行った。

これに対して、Xは、不服申立てをしたが、却下されたため、Xは当該課税処分の無効確認を求めて出訴した。

判決

課税処分が当然無効となるのは、どのような場合か?

処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生(争えなくなること)を理由として被課税者(X)に右処分による不利益を甘受させる(与える)ことが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合

課税処分が法定の処分要件を欠く場合には、まず行政上の不服申立てをし、これが容れられなかったときにはじめて当該処分の取消しを訴求すべきものとされており、不服申立ての所定期間が経過した後においては、もはや当該処分の内容上の過誤を理由としてその効力を争うことはできないものとされている。

課税処分に対する不服申立てについての右の原則は、もとより、比較的短期間に大量的になされるところの課税処分を可及的速やかに確定させることにより、徴税行政の安定とその円滑な運営を確保しようとする要請によるものである。

しかし、この一般的な原則は、いわば通常予測される事態を制度上予定したものであって、例外的な場合が存在することを否定していない。(上記所有期間が経過した後も処分の内容上の過誤を理由としてその効力を争うことができる場合もある。)

もっとも、課税処分につき当然無効の場合を認めるとしても、このような処分については、上記出訴期間の制限を受けることなく、何時まででも争うことができることとなるわけであるから、更正についての期間の制限等を考慮すれば、かかる例外の場合を肯定するについて慎重でなければならないことは当然である。

したがって、当該処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生(争えなくなること)を理由として被課税者(X)に右処分による不利益を甘受させる(与える)ことが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効とする。

最判昭47.12.5:理由付記の不備と瑕疵の治癒

論点

  1. 理由付記の不備(瑕疵)は、審査請求の裁決で処分理由が明らかにされた場合、治癒されるか?

事案

株式会社Xは、法人税の申告について青色申告の承認を受けていた。

Xは、事業年度の(法人)の確定申告をしたところ、税務署長Yから増額更正を受けた。

その際、更正通知書には付記理由(記載された理由)として、加算項目(何について増額されるか?)と加算額(いくら税金が増額されるか?)が簡単に記載されているに過ぎなかった。

これを不服としたXが、国税局長に審査請求をしたところ、国税局長は、前記更正処分の一部取消しをしたうえで、より詳細な理由を審査裁決書に付記した(付け加えた)。

Xは、この裁決にも不服であったため、理由付記の不備を主張して取消訴訟を提起した。

これに対して、Yは、更正処分の理由付記に不備はなく、仮に不備があったとしても、審査裁決書に十分な理由が付記されていることから、瑕疵は治癒された(不備はないこととなる)と反論した。

判決

理由付記の不備(瑕疵)は、審査請求の裁決で処分理由が明らかにされた場合、治癒されるか?

→瑕疵は治癒されない

処分庁(Y)と異なる機関(国税局長)の行為により付記理由不備の瑕疵が治癒されるとすることは、処分そのものの慎重、合理性を確保する目的にそわないばかりでなく、処分の相手方(X)としても、審査裁決によってはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは、それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れない(不利益を受ける)

そして、更正が付記理由不備のゆえに訴訟で取り消されるときは、更正期間の制限により(その期間中も時間は過ぎてしまうことから)あらたな更正をする余地のないことがあるなど処分の相手方(X)の利害に影響を及ぼすのである。

したがって、審査裁決に理由が付記されたからといって、更正を取り消すことが所論のように無意味かつ不必要なこととなるものではない。

よって、更正における付記理由不備の瑕疵は、後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより治癒されるものではないと解すべきである。

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最判昭和47.5.19:公衆浴場営業許可申請と先願主義

論点

  1. 公衆浴場の営業許可の申請が重複し、距離制限規定との関係で、競願関係が生じた場合、先願主義が妥当か?

※競願関係とは、ある事柄の許可をめぐり、複数の者が官公署などに願い出ること

※距離制限規定とは、公衆浴場を設置する場合、既存の公衆浴場と一定距離を離して設置しなければならないという規定。

事案

Xは昭和34年6月8日、広島県知事Yに対し、尾道市内のa地を浴場の設置場所とする公衆浴場営業の許可申請書を尾道保健所に提出した。

A漁業協同組合は、Xの申請より2日前の6月6日に、a地から10以内の距離にあるb地を浴場の設置場所とする公衆浴場営業の許可申請書を提出していたが、添付書類に不備があり、補正を求められていた。しかし、結局補正は不要であることが判明したことから、6月11日にAの申請は先に提出していた書類のままで受理された。

申請の日にちが近く、AとXのいずれに対しても許可処分を下す前とのことから、AとXは競願関係となった。

これに対して、Yは、先に申請をしていたAに対して許可処分をすることとし、Xに対して不許可処分がなされた。

そこでXは、Aに対する許可処分はXの先願権を無視したものであると主張して、Aに対する許可処分の無効確認および事故に対する不許可処分の取消しを求めて出訴した。

※先願権とは、先に申請をした人が、その後に申請した人を排除する権利。

判決

公衆浴場の営業許可の申請が重複し、距離制限規定との関係で、競願関係が生じた場合、先願主義が妥当か?

先願者の申請が許可の要件を満たすものである限り、先願主義が妥当

公衆浴場法2条2項において「都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは、営業許可を与えないことができる。」と規定している。

上記規定の趣旨およびその文言からすれば、許可の申請が所定の許可基準に適合するかぎり、行政庁は、これに対して許可を与えなければならないものと解される。

本件のように、営業許可をめぐって競願関係が生じた場合に、各競願者の申請が、いずれも許可基準をみたすものであって、そのかぎりでは条件が同一であるときは、行政庁は、その申請の前後により、先願者に許可を与えなければならないものと解するのが相当である。

なぜなら、許可の要件を備えた許可申請が適法になされたときは、その時点において、申請者と行政庁との間に許可をなすべき法律関係が成立したと考えることができるか。

(つまり、本件事案では、後で申請を出したXは負け=棄却)

 

 

 

最判昭46.10.28:個人タクシー事件

論点

  1. 個人タクシー事業の免許申請の審理手続が不公正なものであったことが、却下処分の取消事由となるか?

事案

Xは、陸運局長Yに対し、個人タクシーの免許を申請したところ、申請件数が膨大だったため、Yは、内部的な17の基準を設け、この基準をクリアしない場合は、却下することとした。

しかし、この審査基準が公表されたり、Xに告知されたりすることはなかった。

そのためXは、十分な主張・立証の機会を与えられなかった。

その結果、具体的な17の基準のうち、2つの項目に該当しなかったとして申請は却下された。

そのため、Xは本件却下処分の取消訴訟を提起した。

判決

個人タクシー事業の免許申請の審理手続が不公正なものであったことが、却下処分の取消事由となるか?

適正な手続きによって、初めに下した処分(判断)と異なる処分(判断)に到達する可能性がなかったとは言えない場合、取消事由となる

多数の者のうちから少数特定の者を、具体的個別的事実関係に基づき選択して免許の許否を決しようとする行政庁(Y)としては、事実の認定につき行政庁の独断が疑われるような不公正な手続をとってはならない

当該、「内部的な17の基準」は、抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正かつ合理的に適用しなければならない

とくに、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するようなものである等の場合には、右基準を適用するうえで必要とされる事項について、申請人に対し、その主張と証拠の提出の機会を与えなければならないというべきである。

そして、免許の申請人(X)はこのような公正な手続によって免許の許否につき判定を受くべき法的利益を有するものといえる。

したがって、これに反する審査手続(主張・証拠の提出の機会を与えない審査手続)によって免許の申請の却下処分がされたときは、右利益を侵害するものとして、右処分の違法事由となるものというべきである。

本件事案では、これらの点に関する事実を聴聞し、Xにこれに対する主張と証拠の提出の機会を与えその結果をしんしやくしたとすれば、Yがさきにした判断と異なる判断に到達する可能性がなかったとはいえない。(却下ではなく、許可処分の可能性もあった)

したがって、この手続によってされた本件却下処分は違法たるを免れない。

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最判昭43.12.24:墓地・埋葬等に関する通達の処分性

論点

  1. 通達に処分性はあるか?
  2. 通達の取消しを求める訴訟を提起できるか?

事案

厚生省(現厚生労働省)の公衆衛生局・環境衛生部長Aは、各都道府県の衛生主管部局長あてに「墓地、埋葬等に関する法律第13条の解釈について」と題する通達を発した。

墓地埋葬法第13条
墓地、納骨堂又は火葬場の管理者は、埋葬、埋蔵、収蔵又は火葬の求めを受けたときは『正当の理由』がなければこれを拒んではならない。

通達の趣旨は以下の通り

「宗教団体の経営する墓地の管理者は、埋葬等の請求する者が他の宗教団体の信者であることをのみを理由として、その請求を拒むことは、同条にいう『正当の理由』とは認められない」という趣旨であった。

Xは、390年間、Xの宗教の信徒のみを埋葬してきた。

そのため、Xは本件通達により、異教徒の埋葬の受忍が罰則をもって強化され、本件通達後すでに無承諾のまま埋葬を強要されたと主張し、厚生大臣Yを被告として、本件通達中の取消訴訟を提起した。

判決

通達に処分性はあるか?

通達に処分性はない

通達は、機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎない

したがって、一般の国民は、直接これに拘束されるものではない。

よって、通達に処分性はないといえる。

通達の取消しを求める訴訟を提起できるか?

→訴訟提起できない

通達の内容が、法令の解釈や取り扱いに関するもので、国民の権利義務に重大な関わりを持つようなものである場合においても、処分性はない。

また、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない。

また、裁判所が通達に拘束されることはなく、裁判所は、法令の解釈適用にあたっては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ、通達に定める取り扱いが法の趣旨に反するときには独自にその違法を判定することもできる。

裁判所は「同法13条のいわゆる正当の理由の判断にあたっては、本件通達に示されている事情以外の事情をも考慮するべきものと解せられるから、本件通達が発せられたからといって直ちにXにおいて刑罰を科せられるおそれがあるともいえない。

現行法上行政訴訟において取消の訴えの対象となりうるものは、国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的に法律上の影響を及ぼすような行政処分等でなければならないから、

本件通達の取り消しを求める本件訴えは許されないものとして却下される。
通達の取消しを求める訴訟を提起できない

最大判昭43.11.27:憲法29条3項を根拠とした損失補償

論点

  1. 憲法29条3項を根拠に損失補償を請求する余地はあるか?

事案

Xらは、昭和32年以来、名取川の堤外民有地(河川沿いの私有地)を賃借しており、相当の資本を投入して、砂利採取業を営んでいた。

その後、昭和34年の宮城県の告示により、河川付近地制限令の規制対象となる「河川付近地」が指定された。そして、当該河川付近地に指定されると、そこで砂利採取等を行う場合は、知事の許可が必要となった。

それにもかかわらず、Xらは、昭和35年、宮城県知事の許可を得ないで、名取川の堤外民有地で、数度にわたり、砂利採取行為等をしたとして、河川付近地制限令4条2号違反で提訴された。

憲法第29条3項
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

判決

憲法29条3項を根拠に損失補償を請求する余地はあるか?

→ある

河川附近地制限令4条2号の定める制限は、河川管理上支障のある事態の発生を事前に防止するため、単に所定の行為をしようとする場合には知事の許可を受けることが必要である旨を定めているにすぎず、この種の制限は、公共の福祉のためにする一般的な制限であり、原則的には、何人もこれを受忍すべきものである。

しかし、本件財産上の犠牲は、公共のために必要な制限によるものとはいえ、単に一般的に当然に受忍すべきものとされる制限の範囲をこえ、特別の犠牲を課したものとみる余地が全くないわけではない。

また、憲法29条3項の趣旨に照らし、さらに河川附近地制限令の定めるところにより損失補償をすべきものとしていることとの均衡からいって、Xらの被った現実の損失については、その補償を請求することができるものと解する余地がある。

したがって、かりに被告人に損失があったとしても補償することを要しないとした原判決の説示は妥当とはいえない。

しかし、同令4条2号による制限について同条に損失補償に関する規定がないからといつて、同条があらゆる場合について一切の損失補償を全く否定する趣旨とまでは解されず、本件Xらも、その損失を具体的に主張立証して、別途、直接憲法29条3項を根拠にして、補償請求をする余地が全くないわけではない

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最判昭39.10.29:ごみ焼却場設置行為と行政庁の処分

論点

  1. 行政庁の処分とは?
  2. 本件ごみ焼却場の設置行為は行政庁の処分にあたるか?

事案

東京都Yは、ごみ焼却場設置のために土地を購入し、都議会のごみ焼却場設置計画案を提出した。都議会が計画案を可決したので、Yは、その旨を東京都の広報に記載した上で、建設会社とごみ焼却場の建設にかかる請負契約を締結した。

これに対し、本件土地の近隣住民Xらは、ごみ焼却場の設置の選定が環境衛生上もっとも不適当な土地になされている等を理由に、ごみ焼却場の設置行為の無効確認を求めて出訴した。

判決

行政庁の処分とは?

「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」をいう

行政事件訴訟特例法1条にいう「行政庁の処分」とは、行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものであることは、当裁判所の判例とするところである。

本件ごみ焼却場の設置行為は行政庁の処分にあたるか?

→あたらない

本件ごみ焼却場は、東京都Yが先に私人から買収した都所有の土地の上に、私人との間に対等の立場に立って締結した私法上の契約により設置されたものである。

Yが、本件ごみ焼却場の設置を計画し、その計画案を都議会に提出した行為はY自身の内部的手続行為にとどまる。

そのため、右設置行為によってXらが、不利益を被ることがあるとしても、右設置行為は、Yが公権力の行使により直接Xらの権利義務を形成し、またはその範囲を確定することを法律上認められている場合に該当するとは言えない

したがって、行政事件訴訟特例法にいう「行政庁の処分」にあたらないからその無効確認を求める上告人らの本訴請求を不適法である。

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最判昭37.1.19:公衆浴場既存経営者の原告適格

論点

  1. 既存の公衆浴場営業者は、第三者に対する公衆浴場営業許可処分の無効確認を求める訴えの利益を有するか?

事案

Xは、京都市内に公衆浴場を経営していた。

そして、京都府知事YがAに対して新たに営業許可を与えたが、Aの公衆浴場は、Xの公衆浴場から最短距離208mにすぎないところにあった。

そのため、Xは、YがAに与えた営業許可は、条例に定められた適正配置基準に違反するとして、処分の無効確認を求めて出訴した。

判決

既存の公衆浴場営業者は、第三者に対する公衆浴場営業許可処分の無効確認を求める訴えの利益を有するか?

訴えの利益を有する

公衆浴場法は、公衆浴場の経営につき許可制を採用し、第2条において、「設置の場所が配置の適正を欠く」と認められるときは許可を拒み得る旨を定めている。

その立法趣旨は、以下の通りである

  • 公衆浴場は、多数の国民の日常生活に必要欠くことのできない、多分に公共性を伴う厚生施設である。
  • そして、もしその設立を業者の自由に委せて、何等その偏在及び濫立を防止する等その配置の適正を保つために必要な措置が講ぜられないときは、その偏在により、多数の国民が日常容易に公衆浴場を利用しようとする場合に不便を来たすおそれがある。
  • また、その濫立により、浴場経営に無用の競争を生じその経営を経済的に不合理となり、ひいて浴場の衛生設備の低下等好ましからざる影響を来たすおそれがある。
  • このようなことは、上記公衆浴場の性質に鑑み、国民保健及び環境衛生の上から、出来る限り防止することが望ましいことである。
  • 従って、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠き、その偏在・濫立を来たすことは、公共の福祉に反するものであって、この理由により公衆浴場の経営の許可を与えないことができる旨の規定を設けた。

これら規定の趣旨から考えると公衆浴場法が許可制を採用し前述のような規定を設けたのは、主として「国民保健及び環境衛生」という公共の福祉の見地から出たものである。

同時に、無用の競争により経営が不合理化することのないように濫立を防止することが公共の福祉のため必要であるとの見地から、被許可者を濫立による経営の不合理化から守ろうとする意図をも有するものであることは否定し得ないところである。

したがって、適正な許可制度の運用によって保護されるべき業者の営業上の利益は、単なる事実上の反射的利益というにとどまらず公衆浴場法によって保護される法的利益と解するを相当とする。

そして、本件処分によって侵害されたというXの利益は、事実上のものに過ぎないとはいえ、具体的な個人的利益であり、またその利益の侵害が直接的で、しかもこれによりXが重大な損害を蒙る(こうむる)ことは見易いところであるから、Xは本件訴訟の原告適格を有するものといわなければならない。

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最判昭35.7.12:普通財産の払下行為は行政処分にあたるか

論点

  1. 国有の普通財産の払下行為は、行政処分にあたるか?

事案

本件土地は、もともとAが所有していたところ、Aが税金を納付することができなくなり、当該土地を使って納税をした。(Aは土地を国に渡した)

その後、Yは、本件土地をBに払い下げ、所有権移転登記を完了した。(土地をBに売った)

これにつき、XはYによる上記売払行為は違法な処分であるとして、Yを被告として、上記売払行為の取消訴訟を提起した。

Xは、普通財産の払い下げを受ける優先順位は、借地権者であったXにあると主張した。

判決

国有の普通財産の払下行為は、行政処分にあたるか?

→あたらない

国有普通財産の払下げ(売払い)を私法上の売買と解すべきことは、原判決の説明することおりである。

払下が売渡申請書の提出、これに対する許可の形式をとっているからといって、右払下行為の法律上の性質に影響を及ぼすものではない。

 

最判昭35.3.18:営業許可を受けずにした契約の効力

論点

  1. 食品衛生法上の営業許可を受けずにした精肉の売買契約は、私法上無効か?

事案

有限会社Xは、食品衛生法上の許可を受けて食肉の販売業を営んでいる株式会社Aと精肉の売買取引をしていた(売主X、買主A)。しかし、AがXに対する買掛金債務の弁済を怠っていることから、取引は一時中断していた。Aの代表取締役Yは、自衛隊に精肉を納入うするために取引再開をXに提案したが、Aの支払能力への危惧を理由に拒否された。

そこで、食品衛生法上の許可を受けていないY個人として、精肉を買い受けることを提案した。(つまり、会社Aで購入するのではなく、代表者個人Y名義で購入するということ。)

これに対して、Xは承諾し、売主X・買主Yとして売買契約が成立した。

もっとも、Yが内金を支払ったのみであったため、Xは、Yに対して残金および遅延損害金の支払いを求めて訴えを提起した。

判決

食品衛生法上の営業許可を受けずにした精肉の売買契約は、私法上無効か?

→有効

食品衛生法は単なる取締法規にすぎない。

したがって、Yが食肉販売業の許可を受けていないとしても、食品衛生法により本件取引の効力が否定される理由はない

それ故、食品衛生法上の営業許可の有無は、本件取引の私法上の効力に消長を及ぼさない(影響を及ぼさない)

したがって、当該売買契約は有効である。

※消長を及ぼす・消長を来す→影響を及ぼす
※消長を及ぼさない・消長を来さない→影響を及ぼさない