テキスト

最判昭59.1.26:未改修河川の安全性(大東水害訴訟)

論点

  1. 河川管理についての瑕疵の有無の判断基準は?
  2. 未改修河川は、どの程度の安全性が必要か?

事案

昭和47年7月7日の集中豪雨により、大阪府大東市の低湿地帯において、床上浸水等が発生した。この地域は低湿地帯であったところ、急速な市街化が進み、浸水被害が深刻化していたため、巨額の費用をかけて河川の改修工事が行われていた。

しかし、一部区間についてはなお未改修のままであった。

そして、この豪雨により、被害を受けた低湿地帯の周辺住民Xらは、浸水の原因は、Xらの居住地域付近を流れる「1級河川・谷田川」および「3本の水路」の管理の瑕疵にあったと主張して、「河川管理者である国Y1」および「水路の管理者である大東市Y2」に対し、国家賠償法2条または3条に基づき国家賠償請求訴訟を提訴した。

判決

河川管理についての瑕疵の有無の判断基準は?

同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべき

財政的、技術的及び社会的諸制約によっていまだ通常予測される災害に対応する安全性を備えるに至っていない現段階においては、当該河川の管理についての瑕疵の有無は、過去に発生した水害の規模、発生の頻度、発生原因、被害の性質、降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等諸般の事情を総合的に考慮し、前記諸制約のもとでの同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきであると解するのが相当である。

既に改修計画が定められ、これに基づいて現に改修中である河川については、右計画が全体として右の見地からみて格別不合理なものと認められないときは、その後の事情の変動により当該河川の未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり、当初の計画の時期を繰り上げ、又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由が生じない限り、右部分につき改修がいまだ行われていないとの一事をもって河川管理に瑕疵があるとすることはできないと解すべきである。

未改修河川は、どの程度の安全性が必要か?

未改修河川は、河川の改修、整備の過程に対応する過渡的安全性をもって足りる

河川の管理においては、道路の管理における危険な区間の一時閉鎖等のような簡易、臨機的な危険回避の手段を採ることもできないのである。

河川の管理には、以上のような諸制約が内在するため、すべての河川について通常予測し、かつ、回避しうるあらゆる水害を未然に防止するに足りる治水施設を完備するには、相応の期間を必要とし、未改修河川又は改修の不十分な河川の安全性としては、右諸制約のもとで一般に施行されてきた治水事業による河川の改修、整備の過程に対応するいわば過渡的な安全性(一時的な対策)をもって足りるものとせざるをえない。

そのため、当初から通常予測される災害に対応する安全性を備えたものとして設置され公用開始される道路その他の営造物の管理の場合とは、その管理の瑕疵の有無についての判断の基準もおのずから異なったものとならざるをえないのである。

最判昭58.2.18:「ガソリンタンクの移転」と「道路法に基づく損失補償」

論点

  1.  道路法70条1項の定める損失の補償の範囲は?

事案

株式会社Yは、国道の交差点付近で、給油所(ガソリンスタンド)を経営しており、地下に5基のガソリンタンクを設置していた。

その後、国Xが当該交差点に地下道を設置したため、当該ガソリンタンクのうち4基の位置が「消防法10条4項」および「危険物の規制に関する政令13条」に違反する状態となった。

これにより、Yは、消防局長Aから違反の警告を受けたため、ガソリンタンクの移設工事を行った。

Yは、移設工事が道路法70条の補償の対象になるとして、国Xに対して補償を請求したが、協議が成立しなかったので、70条4項に基づき収用委員会に裁決の申請をしたところ、委員会は、損失補償金約900万円とする裁決を行った。

そこで、国Xは、本ガソリンタンクの移設工事費用は、70条所定の補償対象にならず

裁決は全部違法であるとして、裁決の取消しと損失補償債務の不存在確認の訴えを提起した。

道路法第70条(道路の新設又は改築に伴う損失の補償)
土地収用法第93条第1項の規定による場合の外、道路を新設し、又は改築したことに因り、当該道路に面する土地について、通路、みぞ、かき、さくその他の工作物を新築し、増築し、修繕し、若しくは移転し、又は切土若しくは盛土をするやむを得ない必要があると認められる場合においては、道路管理者は、これらの工事をすることを必要とする者(以下「損失を受けた者」という。)の請求により、これに要する費用の全部又は一部を補償しなければならない。この場合において、道路管理者又は損失を受けた者は、補償金の全部又は一部に代えて、道路管理者が当該工事を行うことを要求することができる。

判決

道路法70条1項の定める損失の補償の範囲は?

補償の対象は、道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむを得ない必要があってした前記工作物の移転等に起因する損失に限られる

道路法70条1項の規定は、道路の新設又は改築のための工事の施行によって当該道路とその隣接地との間に高低差が生ずるなど土地の形状の変更が生じた結果として、設置されていた通路、みぞ、かき、さくその他これに類する工作物を移転するやむを得ない必要があると認められる場合において、道路管理者は、これに要する費用の全部又は一部を補償しなければならないものとしたものである。

その補償の対象は、道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむを得ない必要があってした前記工作物の移転等に起因する損失に限られると解するのが相当である。

したがって、警察法規が一定の危険物の保管場所等につき保安物件との間に一定の離隔距離を保持すべきことなどを内容とする技術上の基準を定めている場合において、道路工事の施行の結果、警察違反の状態を生じ、危険物保有者が右技術上の基準に適合するように工作物の移転等を余儀なくされ、これによって損失を被ったとしても、それは道路工事の施行によって警察規制に基づく損失がたまたま現実化するに至ったものにすぎず、このような損失は、道路法70条1項の定める補償の対象には属しないものというべきである。

よって、本件にみると、道路管理者とする道路工事の施行に伴い、右地下貯蔵タンク(ガソリンタンク)の設置状況が消防法10条等の定める技術上の基準に適合しなくなって警察法規に違反の状態を生じたため、右地下貯蔵タンクを別の場所に移設せざるを得なくなったというのであって、これによってYが被つた損失は、まさしく先にみた警察規制に基づく損失にほかならず、道路法70条1項の定める補償の対象には属しないといわなければならない。

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最判昭57.9.9:「保安林指定の解除処分」と「原告適格・訴えの利益」

論点

  1. 保安林の周辺住民について保安林指定解除処分の取消訴訟の原告適格を有するか?
  2. 保安林指定解除に伴う代替施設の設置によって、洪水、渇水の危険が解消された場合でも訴えの利益を有するか?

事案

農林水産大臣Yは、北海道夕張郡長沼町に所在する「保安林」の一部について、航空自衛隊の施設用地として使用するため、保安林指定の解除をした。

これに対して、基地建設に反対する同町の住民Xらは、森林法26条2項の定める指定解除事由である「公益上の理由」はなく、指定解除は違法として保安林指定解除処分の取消訴訟を提起した。

判決

保安林の周辺住民について保安林指定解除処分の取消訴訟の原告適格を有するか?

原告適格を有する

法律が、「不特定多数の個別的利益」を「専ら一般的公益」の中に吸収解消させるにとどめず、これと並んで、それらの利益の全部又は一部につきそれが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとすることももとより可能である。

特定の法律の規定が上記趣旨を含むものと解されるときは、右法律の規定に違反してされた行政庁の処分に対し、これらの利益を害されたとする個々人においてその処分の取消しを訴求する原告適格を有するものと解することに、なんら妨げはないというべきである。

そして、本件の森林法は、森林の存続によって不特定多数者の受ける生活利益のうち一定範囲のものを公益と並んで保護すべき個人の個別的利益としてとらえ、かかる利益の帰属者に対し保安林の指定につき「直接の利害関係を有する者」としてその利益主張をすることができる地位を法律上付与しているものと解するのが相当である。

そうすると、かかる「直接の利害関係を有する者」は、保安林の指定が違法に解除され、それによって自己の利益を害された場合には、右解除処分に対する取消しの訴えを提起する原告適格を有する者ということができるけれども、その反面、それ以外の者は、たといこれによってなんらかの事実上の利益を害されることがあっても、右のような取消訴訟の原告適格を有するものとすることはできないというべきである。

保安林指定解除に伴う代替施設の設置によって、洪水、渇水の危険が解消された場合でも訴えの利益を有するか?

訴えの利益は失われる

Xらの原告適格の基礎は、本件保安林指定解除処分に基づく立木竹の伐採に伴う理水機能の低下の影響を直接受ける点において右保安林の存在による洪水や渇水の防止上の利益を侵害されているところにあるのである。

したがって、本件におけるいわゆる代替施設の設置によって右の洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは本件保安林の存続の必要性がなくなったと認められるに至ったときは、もはやXらにおいて右指定解除処分の取消しを求める訴えの利益は失われるに至ったものといわざるをえないのである。

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最判昭57.7.15:反則金納付通告の処分性

論点

  1. 道路交通法に基づく反則金納付通告に処分性は認められるか?

事案

Xは、駐車違反の被疑事実で現行犯逮捕された。その翌日、Xは、反則金納付による処理手続を受けることを希望し、反則金相当額を仮納付して釈放された。

その後、県警本部長Yは、反則金の仮納付を本納付とみなす効果もつ反則金納付通告を行った。

そこで、Xは、駐車違反者の誤認があるとして、反則金納付通告処分の取消訴訟を提起した。

判決

道路交通法に基づく反則金納付通告に処分性は認められるか?

認められない

交通反則通告制度は、車両等の運転者がした道路交通法違反行為のうち、比較的軽微であって、警察官が現認する明白で定型的なものを反則行為とし、反則行為をした者に対しては、警察本部長が定額の反則金の納付を通告し、その通告を受けた者が任意に反則金を納付したときは、その反則行為について刑事訴追をされず、一定の期間内に反則金の納付がなかったときは、本来の刑事手続が進行するというものである。

そして、道路交通法127条1項の規定による警察本部長の反則金の納付の通告があっても、これにより通告を受けた者は通告に係る反則金を納付すべき法律上の義務が生ずるわけではなく、ただその者が任意に右反則金を納付したときは公訴が提起されないというにとどまり納付しないときは、検察官の公訴の提起によつて刑事手続が開始され、その手続において通告の理由となつた反則行為となるべき事実の有無等が審判されることとなるものとされているが、これは上記の趣旨を示すものにほかならない。(通告を受けても納付の義務は発生しないので、通告は処分性がないことになる

道路交通法は、通告を受けた者が、その自由意思により、通告に係る反則金を納付し、これによる事案の終結の途を選んだときは、もはや当該通告の理由となった反則行為の不成立等を主張して通告自体の適否を争い、これに対する抗告訴訟によってその効果の覆滅を図る(くつがえす)ことは許されない

右のような主張をしようとするのであれば(くつがえしたいのであれば)、反則金を納付せず、後に公訴が提起されたときにこれによって開始された刑事手続の中でこれを争い、これについて裁判所の審判を求める途を選ぶべきであるとしているものと解するのが相当である。

もしそうでなく、抗告訴訟が許されるものとすると、本来刑事手続における審判対象として予定されている事項を行政訴訟手続で審判することとなり、また、刑事手続と行政訴訟手続との関係について複雑困難な問題を生ずるため、同法がこのような結果を予想し、これを容認しているものとは到底考えられない。

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最判昭57.4.22:工業地域指定の決定

論点

  1. 工業地域指定の決定は抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

事案

工業地域とは?

工業地域とは、用途地域の一種です。用途地域とは、住居、商業、工業など市街地の大枠として、各地域をどのような地域にしていくのかを定めるものです。その中の一つに「工業地域」があります。工業地域に指定されると、病院や大学などの建設ができなくなるという一定の建築制限が発生します。

——-

そして、Xは、岩手県内に精神病院を経営し、将来その施設の拡張を予定していた。しかし、岩手県知事Yが都市計画法8条1項に基づいて、Xの経営する病院を含む地区を工業地域に指定した。

これにより、Xは、病院の拡張が困難になること、また病院としての環境が破壊されることなどを危惧し、上記「工業地域指定の決定」の無効確認あるいは取消しを求めて提訴した。

判決

工業地域指定の決定は抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

→あたらない

都市計画区域内において工業地域を指定する決定は、都市計画法8条1項1号に基づき都市計画決定の一つとしてされるものであり、右決定が告示されて効力を生ずると、当該地域内においては、建築物の用途、容積率、建ぺい率等につき従前と異なる基準が適用される。

このことにより、上記基準に適合しない建築物については、建築確認を受けることができず、ひいてその建築等をすることができないこととなるから、右決定が、当該地域内の土地所有者等に建築基準法上新たな制約を課し、その限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは否定できない。

しかし、かかる効果は、あたかも新たに右のような制約を課する法令が制定された場合におけると同様の当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず、このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったものとして、これに対する抗告訴訟を肯定することはできない。(個別具体的な処分とは言えないので、処分性を有しない

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最判昭57.4.1:「加害行為の不特定」と「国等の損害賠償責任」

論点

  1. 公務員による一連の職務上の行為によって他人に被害が生じたが、具体的な加害行為を特定できない場合、国または公共団体は損害賠償責任を免れるか?

事案

税務署職員であるXは、国家公務員法に基づく定期健康診断で、胸部エックス線の撮影を受けた。その結果について、実施担当者である税務署長から格別の指示も通知も受けなかったので、従前どおり職務に従事していたところ、翌年の定期健康診断で、結核にり患していたことが判明し、長期休養を余儀なくされた。

その後、上記エックス線の撮影フィルムを見たXは、すでに結核り患を示す影が映っていたことを知り、国Yに対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた。

判決

公務員による一連の職務上の行為によって他人に被害が生じたが、具体的な加害行為を特定できない場合、国または公共団体は損害賠償責任を免れるか?

免れることはできない

国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生じさせた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、

右の一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは、

国又は公共団体は、加害行為不特定の故をもって国家賠償法又は民法上の損害賠償責任を免れることができないと解するのが相当である。

しかしながら、この法理が肯定されるのは、それらの一連の行為を組成する各行為のいずれもが国又は同一の公共団体の公務員の職務上の行為にあたる場合に限られる。

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最判昭56.1.27:宜野座工場誘致事件

論点

  1. 地方公共団体の行政計画について、施行に着手した後、当該計画を変更することは許されるか?
  2. 行政計画の変更により、地方公共団体は、変更により損害を受けた者に対し、不法行為責任を負うか?

事案

沖縄県の宜野座(ぎのざ)村Yに工場建設を計画し、村長Aに対して、工場の誘致などを陳情していた株式会社Xに対して、Aは村有地の一部をXに譲渡するとの議会の議決を得た上で、誘致に全面的に協力することを断言した。

これを受けて、X社は、工場予定である村有地の耕作者らに土地明け渡しのための補償料を支払い、工場の機械設備の発注、工場の敷地内の整備工事を完了させた。

ところが、工場誘致の賛否を争点とする村長選挙があり、誘致反対派のBが村長に選出された結果、Bは、工場の建築確認申請を不同意とした。

これにより、Xは、工場誘致を断念することとなったため、当該Yの行いは、Xとの間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして、損害賠償請求をした。

判決

地方公共団体の行政計画について、施行に着手した後、当該計画を変更することは許されるか?

→許される

「地方公共団体の施策(行政計画)を住民の意思に基づいて行うべきものとする」いわゆる「住民自治の原則」は、地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則である。

また、地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたって継続すべき施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動等に伴って変更されることがあることは、当然である

したがって、地方公共団体は原則として一度行った決定に拘束されるものではない

(言い換えると、地方公共団体の行政計画も、諸事情に変更することは許される)

行政計画の変更により、地方公共団体は、変更により損害を受けた者に対し、不法行為責任を負うか?

施策が変更されることにより、①社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、②地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることがない場合、原則、不法行為責任を負う。
ただし、それがやむをえない客観的事情によるのであれば、責任を免れる

上記の通り、施策の変更は許されるが、

当初行った決定(旧村長Aのもとで行われたYの決定)が、単に一定内容の継続的な施策を定めるにとどまらず、①特定の者に対して右施策に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的、具体的な勧告ないし勧誘を伴うものであり、かつ、②その活動が相当長期にわたる当該施策の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じうる性質のものである場合には、

特定の者(X)は、右施策(旧村長AのもとYが決定した施策)が活動の基盤として維持されるものと信頼し、これを前提として活動ないしその準備活動に入るのが通常である。

このような状況のもとでは、たとえ右勧告ないし勧誘に基づいてその者と当該地方公共団体との間に右施策の維持を内容とする契約が締結されたものとは認められない場合であっても、右のように密接な交渉を持つに至った当事者間の関係を規律すべき信義衡平の原則に照らし、その施策の変更にあたってはかかる信頼に対して法的保護が与えられなければならない

すなわち、右施策が変更されることにより、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り

当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任が生じる。

最大判昭56.12.16:「空港騒音」と「設置又は管理の瑕疵」(大阪国際空港公害訴訟)

論点

  1. 営造物(空港)の利用が一定の限度を超えるため、第三者(空港周辺の住民)が損害を受ける危険性がある場合、国家賠償法2条1項の「営造物の設置又は管理」に瑕疵があるといえるのか?

事案

大阪国際空港(伊丹空港)は、昭和34年から国営空港として、管理・供用されていた。

昭和39年にジェット機、さらに昭和45年には大型ジェット機の離着陸が認められた。

その結果、周辺住民Xらは、騒音・振動等の被害を被っていた。

そこで、Xらは、国Yに対して民法709条(不法行為による損害賠償責任)または国家賠償法2条に基づく損害賠償責任があるとして、訴えを提起した。

判決

営造物(空港)の利用が一定の限度を超えるため、第三者(空港周辺の住民)が損害を受ける危険性がある場合、国家賠償法2条1項の「営造物の設置又は管理」に瑕疵があるといえるのか?

設置又は管理の瑕疵があるといえる

国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が有すべき安全性を欠いている状態をいう。

そこにいう安全性の欠如、すなわち、他人に危害を及ぼす危険性のある状態とは、ひとり当該営造物を構成する物的施設自体に存する物理的、外形的な欠陥ないし不備によって一般的に右のような危害を生じさせる危険性がある場合のみならず、その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含む。

また、その危害は、営造物の利用者に対してのみならず、利用者以外の第三者(周辺住民Xら)に対するそれをも含むものと解すべきである。

すなわち、当該営造物の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りにおいてはその施設に危害を生ぜしめる危険性がなくても、これを超える利用によつて危害を生ぜしめる危険性がある状況にある場合には、そのような利用に供される限りにおいて右営造物の設置、管理には瑕疵があるといえる

したがって、右営造物の設置・管理者において、かかる危険性があるにもかかわらず、これにつき特段の措置を講ずることなく、また、適切な制限を加えないままこれを利用に供し、その結果利用者又は第三者に対して現実に危害を生ぜしめたときは、それが右設置・管理者の予測しえない事由によるものでない限り、国家賠償法2条1項の規定による責任を免れることができないと解されるのである。

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関連判例

最大判昭56.12.16:大阪空港公害訴訟

最大判昭56.12.16:大阪空港公害訴訟

論点

  1. 民事上の請求として、国営空港の使用の差止めを求める訴えは適法か?

事案

大阪国際空港(伊丹空港)は、国営の空港であった。

周辺住民Xらは、空港を発着する航空機の騒音等により被害を受け、人格権および環境権を著しく侵害されたことを理由として、空港の管理者である国Yに対して、民事訴訟を提起し、毎日午後9時~翌朝午前7時までの間、航空機の発着に使用させることの差止めを求めた。

判決

民事上の請求として、国営空港の使用の差止めを求める訴えは適法か?

→不適法である(民事訴訟で訴えることはできない

国際航空路線又は主要な国内航空路線に必要なものなど基幹となる公共用飛行場については、「運輸大臣みずから」が、又は「特殊法人である新東京国際空港公団」が、これを国営又は同公団営の空港として設置、管理し、公共の利益のためにその運営に当たるべきものとしている。

その理由は、これら基幹となる公共用飛行場にあっては、その設置、管理のあり方がわが国の政治、外交、経済、文化等と深いかかわりを持ち、国民生活に及ぼす影響も大きく、したがつて、どの地域にどのような規模でこれを設置し、どのように管理するかについては航空行政の全般にわたる政策的判断を不可欠とするからにほかならないものと考えられる。

このような空港国営化の趣旨、すなわち国営空港の特質を参酌して考えると、本件空港の管理に関する事項のうち、少なくとも航空機の離着陸の規制そのもの等、本件空港の本来の機能の達成実現に直接にかかわる事項自体については、「空港管理権に基づく管理」と「航空行政権に基づく規制」とが、「空港管理権者としての運輸大臣」と「航空行政権の主管者としての運輸大臣」のそれぞれ別個の判断に基づいて分離独立的に行われ、両者の間に矛盾乖離を生じ、本件空港を国営空港とした本旨を没却し又はこれに支障を与える結果を生ずることがないよう、いわば両者が不即不離、不可分一体的に行使実現されているものと解するのが相当である。

言い換えれば、本件空港における航空機の離着陸の規制等は、これを法律的にみると、単に本件空港についての営造物管理権の行使という立場のみにおいてされるべきもの、そして現にされているものとみるべきではなく航空行政権の行使という立場をも加えた、複合的観点に立つた総合的判断に基づいてされるべきもの、そして現にされているものとみるべきものである。

ここで、Xらの前記のような請求は、不可避的に航空行政権の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することとなるものといわなければならない。

したがって、Xらが行政訴訟の方法により何らかの請求をすることができるかどうかはともかくとして、上告人に対し、いわゆる通常の民事上の請求として前記のような私法上の給付請求権を有するとの主張の成立すべきいわれはない(民事上の請求で主張はできない)というほかはない。

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関連判例

最大判昭56.12.16:「空港騒音」と「設置又は管理の瑕疵」(大阪国際空港公害訴訟)

最判昭55.11.25:「運転免許停止処分」と「訴えの利益」

論点

  1. 運転免許停止処分後、無違反・無処分で1年を経過した場合、当該処分の取消訴訟において、訴えの利益は認められるか?

事案

自動車運転免許保持者Xは、Y県警本部長から、自動車運転免許の効力を30日停止する旨の処分(免許停止処分:本件原処分)を受けたが、講習受講により免許の効力停止期間を29日短縮した。

そして、Xは、本件原処分の日から1年間無違反・無処分で経過した。

Xは、本件原処分を不服として、Y県公安委員会に対し審査請求をしたが、Y県公安委員会は審査請求を棄却する裁決をしたため、Xは、審査手続きの瑕疵を主張して、本件裁決の取消訴訟を提起した。

判決

運転免許停止処分後、無違反・無処分で1年を経過した場合、当該処分の取消訴訟において、訴えの利益は認められるか?

訴えの利益は認められない

本件事実によると本件原処分の効果は右処分の日一日の期間の経過によりなくなったものである。(講習を受けたことにより29日短縮されたから)

また、本件原処分の日から一年を経過した日の翌日以降、Xが本件原処分を理由に道路交通法上不利益を受ける虞(おそれ)(理由)がなくなったことはもとより、他に本件原処分を理由にXを不利益に取り扱いうることを認めた法令の規定はない

したがって、行政事件訴訟法9条の規定の適用上、Xは、本件原処分及び本件裁決の取消によつて回復すべき法律上の利益を有しないというべきである。

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