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訴訟参加

訴訟が行われた場合に、その訴訟に参加できる者として「訴訟の結果により権利を害される第三者」および「処分又は裁決をした行政庁以外の行政庁」を挙げることができます。訴訟に参加する「第三者」と「行政庁」を分けて解説していきます。

第三者の訴訟参加

  • 訴訟の結果により権利を害される第三者があるときは、当事者若しくはその第三者の申立てにより又は職権で、裁判所の決定によって、その第三者を訴訟に参加させることができます。
  • 上記第三者の参加の決定をするには、裁判所は、あらかじめ当事者及び第三者の意見をきかなければなりません。

訴訟の結果により権利を害される第三者

訴訟の結果により権利を害される第三者とは、例えば、A建設会社がマンションの建築のために、甲県の建築主事から建築確認を受けた。近隣住民が、日当たりが悪くなるということで、甲県に対して、建築確認処分の取消しを行った。この場合、近隣住民が原告、甲県が被告となるのですが、A建設会社は、この建築確認が取り消されると、マンションを建築できる権利を害されます。そのため、A建設会社が「訴訟の結果により権利を害される第三者」となります。

行政庁の訴訟参加

  • 裁判所は、処分又は裁決をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させることが必要であると認めるときは、当事者若しくはその行政庁の申立てにより又は職権で、決定をもつて、その行政庁を訴訟に参加させることができる。
  • 上記行政庁の参加の決定をするには、裁判所は、あらかじめ当事者及び当該行政庁の意見をきかなければなりません。

<<訴えの変更 | 執行停止(取消訴訟)>>

関連請求の併合


関連請求の併合とは、相互に関連する訴訟が提起された場合、別々に審理すると、審理の手続きが重複してしまい、効率が悪いです。そのため、関連請求にかかる訴えと取消訴訟とを併合することができます。言い換えると、まとめて訴訟審理を行うということです。

関連請求に係る訴訟の移送

取消訴訟と下記6つの関連請求にかかる訴訟とが異なるの裁判所に係属する場合において、相当と認めるときは、関連請求に係る訴訟の係属する裁判所は、申立てにより又は職権で、その訴訟を取消訴訟の係属する裁判所に移送する(移す)ことができます。(行政事件訴訟法13条)

つまり、取消訴訟をA裁判所で行い、関連請求にかかる訴訟をB裁判所で行う場合、2つの訴訟をまとめてA裁判所で行うということです。

ただし、取消訴訟又は関連請求に係る訴訟の係属する裁判所が高等裁判所であるときは、移送(移すことが)できません

関連請求にかかる訴訟

  1. 当該処分、裁決に関連する原状回復または損害回復
  2. 当該処分とともに一個の手続を構成するほかの処分の取消しの請求
  3. 当該処分に係る裁決の取消しの請求
  4. 当該裁決に係る処分の取消しの請求
  5. 当該処分または裁決の取消しを求める他の請求
  6. その他当該処分又は裁決の取消しの請求と関連する請求

1の具体例でいうと、Aが営業停止処分の取消しとともに、営業停止期間中に営業できなかったことによる損害についても賠償請求する場合です。
「営業停止処分の取消しの訴え」と「損害賠償請求の訴え」を併合して審理することができます。

2の具体例でいうと、土地収用における事業認定と収用裁決は一個の手続きを構成するものです。この「事業認定の取消しの訴え」と「収用裁決の取消しの訴え」を併合することができます。

そして、訴えの併合については、手続として、いろいろなルールがあります。

請求の客観的併合

  • 原告は、取消訴訟を提起するにあたり、関連請求に係る訴えを併合することができます。
  • 上記訴えを併合する場合において、取消訴訟の第一審裁判所が高等裁判所であるときは、関連請求に係る訴えの被告の同意を得なければなりません。
  • もし、被告が異議を述べないで、本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、上記同意したものとみなします。(行政事件訴訟法16条)

共同訴訟

数人の原告が関連請求を行う場合、関連請求を併合して、共同訴訟人として訴えることができ、また、数人の被告が関連請求として訴えられる場合も同様に共同訴訟人として、訴えられることもできます。(行政事件訴訟法17条)

第三者による請求の追加的併合

  • 第三者は、取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、その訴訟の当事者の一方を被告として、関連請求に係る訴えをこれに併合して提起することができます。
  • 上記訴えを併合する場合において、取消訴訟の第一審裁判所が高等裁判所であるときは、関連請求に係る訴えの被告の同意を得なければなりません。
  • もし、被告が異議を述べないで、本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、上記同意したものとみなします。(行政事件訴訟法18条)

原告による請求の追加的併合

  • 原告は、取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、関連請求に係る訴えをこれに併合して提起することができます。
  • 上記訴えを併合する場合において、取消訴訟の第一審裁判所が高等裁判所であるときは、関連請求に係る訴えの被告の同意を得なければなりません。
  • もし、被告が異議を述べないで、本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、上記同意したものとみなします。(行政事件訴訟法19条)

<<取消訴訟の手続きの流れ | 訴えの変更>>

取消訴訟の手続きの流れ

取消訴訟の手続きの流れ

取消訴訟の流れについては、原告が処分や裁決について取消訴訟を提起します。そして、裁判に必要な事実と証拠を集めて、事実関係を精査します。その事実関係に対して法律を適用して、裁判所が判決を下します。

上記流れをもう少し細かく見ていきます。

審理の対象

取消訴訟を含む行政事件訴訟や民事訴訟は、違法かどうかを裁判所に審理してもらうものです。不当かどうかは判断しません。当・不当については不服申立て(審査請求等)で審理できます。

処分権主義

まず、訴えを提起するか、しないか、また訴えを提起する場合、誰を被告として、何について、どのような裁判を行うかは、原告が自由に決めることができます。

また、訴えをいつ終了させるかも原告が自由に決めることができます。

これを処分権主義と言います。

簡単にまとめて、訴えを起こすかどうかを原告が自由に決めることができることを処分権主義と考えてもらっても行政書士の試験勉強であれば問題ございません。

要件審理

取消訴訟が提起されると、裁判所は訴訟要件の有無について審理(要件審理)します。

これは、前回までに勉強した訴訟要件の部分に関連してきます。

下記6つの要件の一つでも満たさないものがあると、不適法として却下されます。

全ての要件を満たすと、実際の処分に違法があるかどうかを審理していきます。

  1. 処分性
  2. 原告適格
  3. 訴えの利益(狭義)
  4. 被告適格
  5. 出訴期間
  6. 管轄裁判所

弁論主義

取消訴訟の審理手続きは弁論主義が採用されます。

裁判の基本は「事実」と「証拠」である。事実と証拠をもとに、裁判所は判決を下します。そして、取消訴訟(民事訴訟も同様)の場合では、この「事実」と「証拠」は当事者が集めて裁判所に提出すべきものとされている。このように、裁判の基礎となる訴訟資料の収集と提出を当事者の権能および責任とする原則を「弁論主義」と言います。

職権探知主義

弁論主義の対義語が「職権探知主義」です。裁判所が判断を下すための証拠資料を自ら収集するという原則を言います。訴訟要件のうちでも公益性の高い事項については、弁論主義ではなく、職権探知主義が採用されます。

また、行政不服審査法においては、審理員が職権で物件の提出要求参考人の陳述及び鑑定の要求審理関係人への質問をすることができるため、職権探知主義が採用されています。

職権証拠調べ

職権探知主義とよく似た言葉に職権証拠調べという言葉があります。

職権証拠調べとは、裁判所が、必要があると認めるときは、職権で、証拠を調べることができることを言います。

職権探知主義のように、裁判所が証拠書類を探しに行く(収集する)のではなく、提出された証拠書類を調べることが職権証拠調べです。

そして、上記証拠調べの結果について、当事者の意見をきかなければなりません。

行政事件訴訟法では、訴訟の結果が公共の福祉に影響するところが少くないため,裁判所が必要があると認めるときは,補充的に職権で証拠調べをすることができます

職権探知 職権証拠調べ
不服申立て
(行政不服審査法)
行政事件訴訟
(行政事件訴訟法)
×

<<取消訴訟の管轄裁判所 | 関連請求の併合>>

取消訴訟の管轄裁判所

裁判管轄の基本

取消訴訟は、原則、地方裁判所が第一審の裁判管轄を有します。

第一審の判決に不服がある当事者は高等裁判所に控訴することができます。

高等裁判所の判決に不服がある当事者は最高裁判所に上告することができます。

上記の通り、合計3回までの審理を受けることができる制度を「三審制」と言います。

行政事件訴訟法における管轄裁判所

管轄裁判所とは、取消訴訟を提起する場合、どこの裁判所に対して、訴訟を提起すればよいかということです。

管轄裁判所に取消訴訟を提起すれば、管轄裁判所の要件を満たし、管轄裁判所以外の裁判所に対して訴えを提起した場合、却下判決が下されます。

原則 被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所」または「処分・裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所」
例外 国が被告となる場合、原告の普通裁判所籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所(特定管轄裁判所

普通裁判籍とは?

裁判籍とは、ある事件がどの区域の裁判所の管轄に属するかということで、「被告の普通裁判籍の所在地」とは、簡単に言えば、被告の住所地です。また、「原告の普通裁判所籍の所在地」とは、原告の住所地です。

<<取消訴訟の出訴期間 | 取消訴訟の手続きの流れ>>

取消訴訟の被告適格

行政書士では、「国または公共団体を被告とする」とするくらいで十分です。これが行政書士試験のポイントとなります。具体例についても記述していますので具体例で考えてもよいでしょう!

被告適格

被告適格とは、誰を被告として、取消訴訟を提起するのか?ということです。

被告適格となる行政庁を被告として、取消訴訟を提起した場合、被告適格の要件を満たします。

一方、被告適格に該当しない行政庁を被告として、取消訴訟を提起した場合、被告適格を満たさないため、却下判決が下されます。

1.処分・裁決した行政庁が行政主体に所属する場合

取消訴訟は、原則として、処分または裁決をした行政庁の所属する行政主体(国または公共団体)を被告として提起しなければなりません。

例えば、税務署長が行った所得税の課税処分の取消訴訟を提起する場合、被告はです。

また、甲県知事が行った営業許可の処分の取消訴訟を提起する場合、甲県知事ではなく、甲県(行政主体)を被告として訴訟を提起する必要があります。

被告となる行政主体とは?

被告となる行政主体には、国、都道府県、市町村、弁護士会等です。

2.処分・裁決した行政庁がいずれの行政主体にも所属しない場合

もっとも、処分又は裁決をした行政庁がいずれの行政主体にも所属しない場合には、当該行政庁を被告として提起しなければなりません。

例えば、指定確認検査機関が行った建築確認の取消訴訟の被告は、当該指定確認検査機関となります。

3.被告とすべき国若しくは公共団体又は行政庁がない場合

上記1、2に該当しない場合、つまり、被告とすべき「国、公共団体、行政庁」がない場合には、取消訴訟は、当該処分または裁決に係る事務の帰属する国または公共団体を被告として提起しなければなりません。

これは、行政庁の統廃合や移管等があって元の処分や裁決をした行政庁が廃止された場合の話です。そのような場合、現在、当該事務を行っている国や公共団体を被告として取消訴訟を起こします。

<<取消訴訟の訴えの利益(狭義) | 取消訴訟の出訴期間>>

取消訴訟の出訴期間

出訴期間とは、取消訴訟を提起できる期間のことです。

出訴期間内であれば、要件を満たしますが、出訴期間を経過した後に取消訴訟を提起しても、却下判決が下されます。

取消訴訟の出訴期間

下記いずれかの期間を経過すると、取消訴訟を提起することができなくなります。

主観的期間 処分または裁決があったことを知った日から6か月を経過したとき
例外として正当な理由があるときは、6か月経過後でも取消訴訟を行える
客観的期間 処分または裁決の日から1年を経過したとき
例外として正当な理由があるときは、1年経過後でも取消訴訟を行える

処分または裁決があったことを知った日とは?

当事者が書類の交付、口頭の告知その他の方法により処分・決定の存在を現実に知った日を指します。(最判昭27.11.20)

審査請求を行った場合の取消訴訟の出訴期間

上記「処分または裁決があったことを知った日から6か月を経過したとき」「処分または裁決の日から1年を経過したとき」という風に「または裁決」となっています。

これは審査請求を行った場合の出訴期間についてです。審査請求を行った場合、処分の時を基準にはせず、裁決の時を基準とします。

審査請求前置主義の場合に審査請求を経ないで取消訴訟を行った場合どうなるか?

取消訴訟の出訴期間は、上記のとおりですが、上記期間内に取消訴訟を行ったとしても、却下される場合があります。

それは、審査請求前置主義にもかかわらず、審査請求の裁決を経る前に取消訴訟を提起した場合です。

この場合、不適法となるので、却下判決が下されます。

ただし、例外として、下記の場合は、審査請求前置主義でも、審査請求の裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起できます。

  1. 審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないとき
  2. 処分、処分の執行または手続きの続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき
  3. その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき

審査庁が誤って却下した場合

審査請求前置主義の場合において、間違えて審査請求を不適法として却下した場合、この却下は「審査の決定にあたる」として、取消訴訟の訴えを提起できます。(最判昭36.7.21)

<<取消訴訟の被告適格 | 取消訴訟の管轄裁判所>>

取消訴訟の処分性

処分性とは、取消訴訟の対象となる行政庁の処分とはどんな処分か?ということです。

取消訴訟の対象となる行政庁の処分であれば、「処分性あり」として処分性の要件を満たします。

一方、取消訴訟の対象外の行政庁の処分であれば、「処分性なし」として、処分性の要件を満たさず、却下判決が下されます。

取消訴訟の対象となるのは「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」を指します。

行政庁の処分・公権力の行使に当たる行為とは?

結論からいうと、①公権力であること、②個別・具体的な法的地位の変動(特定の者に対して権利義務が生じる)の2つを満たすと処分性を有することとなります。難しい感じがしますが、申請に対する処分や不利益処分等の行政処分が、処分性を有する処分とイメージできれば大丈夫です。

行政書士の試験で重要な部分は、処分性を有するか否かの判例です。

処分性を有するとされた判例

  1. 輸入禁止の製品に該当する旨の通知(最判昭54.12.25)
  2. 第二種市街地再開発事業計画(最判平4.11.26)
  3. 二項道路の一括指定の告示(最判平14.1.17)
  4. 労災就学援護費の支給決定(最判平15.9.4)
  5. 食品衛生法に基づく違反通知(最判平16.4.26)
  6. 病院開設の中止勧告(最判平17.7.15)
  7. 土地区画整理事業計画の決定(最判平20.9.10)
  8. 保育所廃止条例の制定行為(最判平21.11.26)

輸入禁止の製品に該当する旨の通知(最判昭54.12.25)

Aさんが輸入しようとしている書籍は輸入禁制品にあたりますよ」という税関長の通知に対して、取消訴訟を行えるか?という点について、判例では、上記通知を行うことにより、Aさんは適法に輸入できなくなるという個別具体的な法律上の効果を及ぼすため、上記通知は処分性があるとされました。

「最判昭54.12.25:輸入禁止の製品に該当する旨の通知」の詳細はこちら>>

第二種市街地再開発事業計画(最判平4.11.26)

第2種市街地再開発事業計画は、事業計画が決まり、公告された段階で、事業認定と同じ法律効果が生じます。そのため、その地域に住んでいる人たちは立ち退きなどを求められる可能性が大きい(所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼす)ので、計画自体が住民の権利義務に大きな影響を及ぼします。そのため、処分性があって抗告訴訟の対象になります。

「最判平4.11.26:第二種市街地再開発事業計画の決定」の詳細はこちら>>

二項道路の一括指定の告示(最判平14.1.17)

2項道路の指定の告示によって、2項道路が前面道路となる敷地所有者は、その道路内の建築等が制限され(建築基準法44条)、私道の変更又は廃止が制限される(建築基準法45条)等の具体的な私権の制限を受けることになります。そうすると,特定行政庁による2項道路の指定は、それが一括指定の方法でされた場合であっても、個別の土地について、具体的な私権制限を発生させるものであり、個人の権利義務に対して直接影響を与えるものです。そのため、2項道路の指定の告示は処分性があり、抗告訴訟の対象になります。

「最判平14.1.17:二項道路の一括指定の告示」の詳細はこちら>>

労災就学援護費の支給決定(最判平15.9.4)

被災労働者又はその遺族が、労災就学援護費の支給を受けるためには一定の要件を満たす必要があります。そして、その要件は、「労災就学等援護費支給要綱」において規定されており、労災就学援護費の支給を受けようとする者は、労災就学等援護費支給申請書を業務災害に係る事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出しなければならず、同署長は、同申請書を受け取ったときは、支給、不支給等を決定し、その旨を申請者に通知しなければならないこととされています。

つまり、具体的に支給を受けるためには、労働基準監督署長に申請し、所定の支給要件を具備していることの確認を受けなければならず、労働基準監督署長の支給決定によって初めて、具体的な労災就学援護費の支給請求権を取得するものといわなければならないです。

よって、労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり、被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる(処分性を有する)ものと解するのが相当。

「最判平15.9.4:労災就学援護費の支給決定」の詳細はこちら>>

食品衛生法に基づく違反通知(最判平16.4.26)

ある食品が食品衛生法違反である旨の通知によって、①関税法上の確認および輸入の許可も受けられなくなり(税関の「検査完了確認」を受けられなくなり)、②輸入申告書を提出しても受理されないという法的効力を有し、処分性が認められるとしています。

病院開設の中止勧告(最判平17.7.15)

病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導ではあるけれども、この勧告に従わない場合には、ほとんどの場合、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができる。

そして、日本では、国民皆保険制度が採用されていて、健康保険、国民健康保険等を利用しないで病院で受診する者はほとんどなく、保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院がほとんど存在せず、保険医療機関の指定を受けることができない場合には、実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになる。

そのため、病院開設中止の勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。(=処分性を有する

「最判平17.7.15:病院開設の中止勧告」の詳細はこちら>>

土地区画整理事業計画の決定(最判平20.9.10)

市町村は、土地区画整理事業を施行しようとする場合においては、施行規程及び事業計画を定めなければならず、事業計画が定められた場合においては、市町村長は、遅滞なく、施行者の名称、事業施行期間、施行地区等の一定事項を公告しなければならない。

そして、この公告がされると、換地処分の公告がある日まで、施行地区内において、建築制限が課せられるなど、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。

つまり、土地区画整理事業の決定は、処分性があるとされています。

「最判平20.9.10:土地区画整理事業計画の決定」の詳細はこちら>>

保育所廃止条例の制定行為(最判平21.11.26)

市の設置する特定の保育所を廃止する条例の制定行為は、現に保育を受けている児童及びその保護者は当該保育所において保育の実施期間が満了するまでの間保育を受けることを期待し得る法的地位(保育を受けることができること)を有すること、同条例が、他に行政庁の処分を待つことなくその施行により当該保育所廃止の効果を発生させ、入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、上記法的地位を奪う(保育を受けることができなくなる)結果を生じさせるものであることなど判示の事情の下では、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。(処分性を有する)

「最判平21.11.26:保育所廃止条例の制定行為」の詳細はこちら>>

処分性を有さないとされた判例

  1. 墓地・埋葬に関する通達(最判昭43.12.24)
  2. 日本鉄道建設公団の実施計画に対する認可(最判昭53.12.8)
  3. 簡易水道事業条例の制定(最判平18.7.14)
  4. 工業地域指定の決定(最判昭57.4.22)

墓地・埋葬に関する通達(最判昭43.12.24)

通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は行政機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されることはあっても、一般の国民は直接これに拘束されるものではない
そのため、通達は、処分性を有しないため、取消訴訟の対象にはならない。

日本鉄道建設公団の実施計画に対する認可(最判昭53.12.8)

新幹線を作るために、日本鉄道建設公団が工事実施計画を作成した。
この工事実施計画に対して行う国土交通大臣の認可は、いわば「日本鉄道建設公団の上級行政機関(国土交通大臣)」が、「下級行政機関(日本鉄道建設公団)」に対し、一定の審査をするという監督手段としての承認の性質を有するもので、行政機関相互の行為と同視すべきものであり、行政行為として外部に対する効力を有するものではなく、また、これによって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらない(処分性を有しない)

簡易水道事業条例の制定(最判平18.7.14)

普通地方公共団体が営む水道事業に係る条例所定の水道料金を改定する条例の制定行為は、同条例が上記水道料金を一般的に改定するものであって、限られた特定の者に対してのみ適用されるものではなく、同条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないという事情の下では、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない

=限られた特定の者ではないので、個別・具体的な法的地位の変動(特定の者に対して権利義務が生じるとは言えないから処分性はないということ

「最判平18.7.14:水道料金を改訂する条例制定行為」の詳細はこちら>>

工業地域指定の決定(最判昭57.4.22)

工業地域の指定の決定による効果は、当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず、このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったとは言えない

したがって、「当該工業地域の指定の決定」は、抗告訴訟の対象となる行政処分とは言えない。(個別具体的な処分とは言えないので、処分性を有しない

「最判昭57.4.22:工業地域指定の決定」の詳細はこちら>>

<<取消訴訟の訴訟要件 | 取消訴訟の原告適格>>

取消訴訟の訴訟要件|処分性、原告適格、訴えの利益、被告適格、出訴期間、管轄

行政書士の試験でよく出題される部分です。なので、しっかり一つ一つを覚えていきましょう!

行政事件訴訟法は、条文だけでなく、判例も頻出です。そのため、条文を解説するというよりは、キーワードごとに解説していきます!

取消訴訟の訴訟要件

訴訟要件とは、訴えが適法であるための要件を言います。言い換えると、訴訟要件を満たさない場合、不適法として、却下されます。(門前払いされる)

そして、取消訴訟の訴訟要件は下記6つです。

  1. 処分性
  2. 原告適格
  3. (狭義の)訴えの利益
  4. 被告適格
  5. 出訴期間
  6. 管轄裁判所

処分性

処分性とは、取消訴訟の対象となる行政庁の処分とはどんな処分か?ということです。

取消訴訟の対象となる行政庁の処分であれば、「処分性あり」として処分性の要件を満たします。

一方、取消訴訟の対象外の行政庁の処分であれば、「処分性なし」として、処分性の要件を満たさず、却下判決が下されます。

取消訴訟の対象となるのは「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」を指します。

処分性の詳細はこちら>>

原告適格

原告適格とは、取消訴訟を提起した者が「処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」であるかどうか?ということです。

法律上の利益を有していれば、原告適格の要件を満たします。

一方、法律上の利益を有していないのであれば、原告適格の要件を満たさず、却下判決が下されます。

原告適格の詳細はこちら>>

訴えの利益(狭義)

狭義の訴えの利益は、取消判決によって、現実に原告の権利救済を達することができるかどうかということです。

取消判決によって、侵害されていた権利や地位が回復される場合、訴えの利益があるとして、訴えの利益の要件を満たします。

一方、取消判決によって、侵害されていた権利や地位が回復されない場合、訴えの利益がないとして、却下判決が下されます。

訴えの利益の詳細はこちら>>

被告適格

被告適格とは、誰を被告として、取消訴訟を提起するのか?ということです。

被告適格となる行政庁を被告として、取消訴訟を提起した場合、被告適格の要件を満たします。

一方、被告適格に該当しない行政庁を被告として、取消訴訟を提起した場合、被告適格を満たさないため、却下判決が下されます。

被告適格の詳細はこちら>>

出訴期間

出訴期間とは、取消訴訟を提起できる期間のことです。

出訴期間内であれば、要件を満たしますが、出訴期間を経過した後に取消訴訟を提起しても、却下判決が下されます。

取消訴訟の出訴期間

下記いずれかの期間を経過すると、取消訴訟を提起することができなくなります。

主観的期間 処分又は裁決があったことを知った日から6か月を経過したとき
例外として正当な理由があるときは、6か月経過後でも取消訴訟を行える
客観的期間 処分または裁決の日から1年を経過したとき
例外として正当な理由があるときは、6か月経過後でも取消訴訟を行える
行政事件 行政事件訴訟法

出訴期間の詳細はこちら>>

管轄裁判所

管轄裁判所とは、取消訴訟を提起する場合、どこの裁判所に対して、訴訟を提起すればよいかということです。

管轄裁判所に取消訴訟を提起すれば、管轄裁判所の要件を満たし、管轄裁判所以外の裁判所に対して訴えを提起した場合、却下判決が下されます。

原則 被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所」または「処分・裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所」
例外 国が被告となる場合、原告の普通裁判所籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所(特定管轄裁判所

管轄裁判所の詳細はこちら>>

<<取消訴訟の概要原処分主義裁決主義審査請求前置主義 | 取消訴訟の処分性>>

行政事件訴訟法の概要

行政事件訴訟法とは?

行政事件訴訟法は、裁判によって、違法な行政活動によって権利利益を侵害された国民の救済を図るものです。

行政不服審査法 違法または不当な行政行為
行政事件訴訟法 違法な行政行為(不当な行政行為は行政事件訴訟法の対象外

訴訟は、民事訴訟、刑事訴訟、行政事件訴訟に区別でき、行政事件訴訟法は、公権力の行使に関する争いを含む公法上の法律関係に関する紛争解決を目的としてます。

民事事件 民事訴訟法
刑事事件 刑事訴訟法
行政事件 行政事件訴訟法

行政事件訴訟法の経緯

1945年(昭和20年)第二次世界大戦が終戦。

1946年(昭和21年)日本国憲法が公布。

1948年(昭和23年)に「行政事件訴訟特例」が制定(戦後に制定)。

行政事件訴訟特例法は、民事訴訟法の特例を定めたものであり、全文でわずか12条のみの簡単なものでした。この法律は、制定が急がれたため、欠陥も多かったため、
1962年(昭和37年)に法改正され、現行の「行政事件訴訟法」が制定されました。

行政事件訴訟法の類型

行政事件訴訟法は大きく分けて主観訴訟客観訴訟に分けることができます。

主観訴訟は、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、客観訴訟は、行政の適法性の確保を目的とし、自分には直接関係ない行政活動に対する訴訟を指します。

主観訴訟

主観訴訟とは、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、大きく分けて、抗告訴訟当事者訴訟に分けることができます。

主観訴訟は、個人の権利利益が侵害され、または侵害されそうになっている場合、その救済を求める訴えを指します。

抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関して違法でないかと不服がある場合の訴訟で、当事者訴訟は、当事者間の公法上の法律関係を争う訴訟です。

抗告訴訟

抗告訴訟には、下記5つがあります。詳細は下記リンク先で解説しています。

  1. 取消訴訟(処分の取消しの訴え、裁決の取消しの訴え)
  2. 無効等確認の訴え
  3. 不作為の違法確認の訴え
  4. 義務付けの訴え
  5. 差止めの訴え

当事者訴訟

当事者訴訟には、下記2つがあります。詳細は下記リンク先で解説しています。

  1. 形式的当事者訴訟
  2. 実質的当事者訴訟

客観訴訟

客観訴訟は、行政の適法性の確保を目的とし、自分には直接関係ない行政活動に対する訴訟を指し、民衆訴訟機関訴訟があります。

この客観訴訟は、行政活動が法律に違反している場合に個人の利益に関係なく、違法状態を回復するための訴訟です。

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行政不服審査法83条:教示をしなかった場合の不服申立て

行政庁がすべき教示をしなかった場合

教示すべき事項教示しなかった場合、処分を受けた者(処分に不服がある者)は処分庁に不服申立書を提出することができます。

当該処分が、「処分庁以外の行政庁」に対して、審査請求できる処分であるときは、処分庁は速やかに不服申立書を審査庁に送付しなければなりません。

送付されたときは、初めから「権限ある行政庁(審査庁等)」に不服申立てがされたものとみなされます

行政庁が教示内容を誤った場合(行政不服審査法22条)>>

(教示をしなかった場合の不服申立て)
行政不服審査法第83条 行政庁が前条の規定による教示をしなかった場合には、当該処分について不服がある者は、当該処分庁に不服申立書を提出することができる。
2 第19条(第5項第1号及び第2号を除く。)の規定は、前項の不服申立書について準用する。
3 第1項の規定により不服申立書の提出があった場合において、当該処分が処分庁以外の行政庁に対し審査請求をすることができる処分であるときは、処分庁は、速やかに、当該不服申立書を当該行政庁に送付しなければならない。当該処分が他の法令に基づき、処分庁以外の行政庁に不服申立てをすることができる処分であるときも、同様とする。
4 前項の規定により不服申立書が送付されたときは、初めから当該行政庁に審査請求又は当該法令に基づく不服申立てがされたものとみなす。
5 第3項の場合を除くほか、第1項の規定により不服申立書が提出されたときは、初めから当該処分庁に審査請求又は当該法令に基づく不服申立てがされたものとみなす。

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