処分性とは、取消訴訟の対象となる行政庁の処分とはどんな処分か?ということです。
取消訴訟の対象となる行政庁の処分であれば、「処分性あり」として処分性の要件を満たします。
一方、取消訴訟の対象外の行政庁の処分であれば、「処分性なし」として、処分性の要件を満たさず、却下判決が下されます。
取消訴訟の対象となるのは「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」を指します。
行政庁の処分・公権力の行使に当たる行為とは?
結論からいうと、①公権力であること、②個別・具体的な法的地位の変動(特定の者に対して権利義務が生じる)の2つを満たすと処分性を有することとなります。難しい感じがしますが、申請に対する処分や不利益処分等の行政処分が、処分性を有する処分とイメージできれば大丈夫です。
行政書士の試験で重要な部分は、処分性を有するか否かの判例です。
処分性を有するとされた判例
- 輸入禁止の製品に該当する旨の通知(最判昭54.12.25)
- 第二種市街地再開発事業計画(最判平4.11.26)
- 二項道路の一括指定の告示(最判平14.1.17)
- 労災就学援護費の支給決定(最判平15.9.4)
- 食品衛生法に基づく違反通知(最判平16.4.26)
- 病院開設の中止勧告(最判平17.7.15)
- 土地区画整理事業計画の決定(最判平20.9.10)
- 保育所廃止条例の制定行為(最判平21.11.26)
輸入禁止の製品に該当する旨の通知(最判昭54.12.25)
「Aさんが輸入しようとしている書籍は輸入禁制品にあたりますよ」という税関長の通知に対して、取消訴訟を行えるか?という点について、判例では、上記通知を行うことにより、Aさんは適法に輸入できなくなるという個別具体的な法律上の効果を及ぼすため、上記通知は処分性があるとされました。
「最判昭54.12.25:輸入禁止の製品に該当する旨の通知」の詳細はこちら>>。
第二種市街地再開発事業計画(最判平4.11.26)
第2種市街地再開発事業計画は、事業計画が決まり、公告された段階で、事業認定と同じ法律効果が生じます。そのため、その地域に住んでいる人たちは立ち退きなどを求められる可能性が大きい(所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼす)ので、計画自体が住民の権利義務に大きな影響を及ぼします。そのため、処分性があって抗告訴訟の対象になります。
「最判平4.11.26:第二種市街地再開発事業計画の決定」の詳細はこちら>>
二項道路の一括指定の告示(最判平14.1.17)
2項道路の指定の告示によって、2項道路が前面道路となる敷地所有者は、その道路内の建築等が制限され(建築基準法44条)、私道の変更又は廃止が制限される(建築基準法45条)等の具体的な私権の制限を受けることになります。そうすると,特定行政庁による2項道路の指定は、それが一括指定の方法でされた場合であっても、個別の土地について、具体的な私権制限を発生させるものであり、個人の権利義務に対して直接影響を与えるものです。そのため、2項道路の指定の告示は処分性があり、抗告訴訟の対象になります。
「最判平14.1.17:二項道路の一括指定の告示」の詳細はこちら>>
労災就学援護費の支給決定(最判平15.9.4)
被災労働者又はその遺族が、労災就学援護費の支給を受けるためには一定の要件を満たす必要があります。そして、その要件は、「労災就学等援護費支給要綱」において規定されており、労災就学援護費の支給を受けようとする者は、労災就学等援護費支給申請書を業務災害に係る事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出しなければならず、同署長は、同申請書を受け取ったときは、支給、不支給等を決定し、その旨を申請者に通知しなければならないこととされています。
つまり、具体的に支給を受けるためには、労働基準監督署長に申請し、所定の支給要件を具備していることの確認を受けなければならず、労働基準監督署長の支給決定によって初めて、具体的な労災就学援護費の支給請求権を取得するものといわなければならないです。
よって、労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり、被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる(処分性を有する)ものと解するのが相当。
「最判平15.9.4:労災就学援護費の支給決定」の詳細はこちら>>
食品衛生法に基づく違反通知(最判平16.4.26)
ある食品が食品衛生法違反である旨の通知によって、①関税法上の確認および輸入の許可も受けられなくなり(税関の「検査完了確認」を受けられなくなり)、②輸入申告書を提出しても受理されないという法的効力を有し、処分性が認められるとしています。
病院開設の中止勧告(最判平17.7.15)
病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導ではあるけれども、この勧告に従わない場合には、ほとんどの場合、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができる。
そして、日本では、国民皆保険制度が採用されていて、健康保険、国民健康保険等を利用しないで病院で受診する者はほとんどなく、保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院がほとんど存在せず、保険医療機関の指定を受けることができない場合には、実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになる。
そのため、病院開設中止の勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。(=処分性を有する)
「最判平17.7.15:病院開設の中止勧告」の詳細はこちら>>
土地区画整理事業計画の決定(最判平20.9.10)
市町村は、土地区画整理事業を施行しようとする場合においては、施行規程及び事業計画を定めなければならず、事業計画が定められた場合においては、市町村長は、遅滞なく、施行者の名称、事業施行期間、施行地区等の一定事項を公告しなければならない。
そして、この公告がされると、換地処分の公告がある日まで、施行地区内において、建築制限が課せられるなど、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。
つまり、土地区画整理事業の決定は、処分性があるとされています。
「最判平20.9.10:土地区画整理事業計画の決定」の詳細はこちら>>
保育所廃止条例の制定行為(最判平21.11.26)
市の設置する特定の保育所を廃止する条例の制定行為は、現に保育を受けている児童及びその保護者は当該保育所において保育の実施期間が満了するまでの間保育を受けることを期待し得る法的地位(保育を受けることができること)を有すること、同条例が、他に行政庁の処分を待つことなくその施行により当該保育所廃止の効果を発生させ、入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、上記法的地位を奪う(保育を受けることができなくなる)結果を生じさせるものであることなど判示の事情の下では、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。(処分性を有する)
「最判平21.11.26:保育所廃止条例の制定行為」の詳細はこちら>>
処分性を有さないとされた判例
- 墓地・埋葬に関する通達(最判昭43.12.24)
- 日本鉄道建設公団の実施計画に対する認可(最判昭53.12.8)
- 簡易水道事業条例の制定(最判平18.7.14)
- 工業地域指定の決定(最判昭57.4.22)
墓地・埋葬に関する通達(最判昭43.12.24)
通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は行政機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されることはあっても、一般の国民は直接これに拘束されるものではない。
そのため、通達は、処分性を有しないため、取消訴訟の対象にはならない。
日本鉄道建設公団の実施計画に対する認可(最判昭53.12.8)
新幹線を作るために、日本鉄道建設公団が工事実施計画を作成した。
この工事実施計画に対して行う国土交通大臣の認可は、いわば「日本鉄道建設公団の上級行政機関(国土交通大臣)」が、「下級行政機関(日本鉄道建設公団)」に対し、一定の審査をするという監督手段としての承認の性質を有するもので、行政機関相互の行為と同視すべきものであり、行政行為として外部に対する効力を有するものではなく、また、これによって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらない(処分性を有しない)。
簡易水道事業条例の制定(最判平18.7.14)
普通地方公共団体が営む水道事業に係る条例所定の水道料金を改定する条例の制定行為は、同条例が上記水道料金を一般的に改定するものであって、限られた特定の者に対してのみ適用されるものではなく、同条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないという事情の下では、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。
=限られた特定の者ではないので、個別・具体的な法的地位の変動(特定の者に対して権利義務が生じる)とは言えないから処分性はないということ
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工業地域指定の決定(最判昭57.4.22)
工業地域の指定の決定による効果は、当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず、このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったとは言えない。
したがって、「当該工業地域の指定の決定」は、抗告訴訟の対象となる行政処分とは言えない。(個別具体的な処分とは言えないので、処分性を有しない)
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