狭義の訴えの利益とは?
(狭義の)訴えの利益とは、訴訟を行う意味(実益)があるのか?訴訟を維持する意味(実益)があるのか?という、処分を取り消すことの必要性を指します。
処分を取り消すことにより、原告に何らかの利益の回復が得られるのであれば、訴えの利益はあり、ないのであれば訴えの利益は否定され、不適法として却下されます。
例えば、処分性や原告適格の要件を備えていたとしても、訴えの利益がなければ却下判決を下されます。
※「広義の訴えの利益」とは、原告が取消訴訟を行うにあたって法律上の利益を有していることを意味します。つまり、訴訟要件のうちの「原告適格」のことです。
訴えの利益を肯定した判例
- 運転免許取消し(最判昭40.8.2)
- 公務員の免職(最判昭40.4.28)
- 土地改良事業の施行認可処分(最判平4.1.24)
- 公文書の非公開決定(最判平14.2.28)
- 優良運転者である旨の記載がない処分を受けた者(最判平21.2.27)
運転免許取消処分(最判昭40.8.2)
運転免許の取消処分に対する取消訴訟の係属中に免許の有効期間が経過した場合でも、取消処分が取り消されば、免許の更新手続きにより免許を維持できるため、訴えの利益は失われないとしています。つまり、「運転免許の取消処分に対する取消訴訟」に訴えの利益はあるということです。
【詳細解説】 Aは、運転免許取消処分を受けた。
Aは、処分を不服に思って取消訴訟を提起した。
裁判をしている間に、当初の免許の有効期間が経過した。
この場合、免許の有効期間が過ぎているので、
Aに訴えの利益がなくなるのでは?と思うかもしれませんが
もし、免許取消処分が取り消されたら
有効期間中に更新申請できたわけなので(利益があったので)
免許取消処分を取り消す利益はある
公務員の免職処分(最判昭40.4.28)
懲戒免職を受けた公務員がその処分を取消訴訟中に本人が議員に立候補した場合、立候補するとその時点で自動的に失職しますが、懲戒処分が取り消されれば、公務員時代の給料や退職金はもらえるため、訴えの利益は失われない。
※懲戒処分は給料や退職金はもらえないが、議員立候補による失職の場合は、それまでの給料や退職金はもらえる
【詳細解説】 公務員Aが懲戒免職を受けた(クビになった)
クビという処分に不服があるため、取消訴訟を提起。
裁判中に、Aは議員に立候補
公務員は、議員に立候補するとその時点で自動的に失職するというルールがある(公職選挙法90条)。
そのため、Aは、立候補した時点でクビ処分の取消訴訟の訴えの利益がなくなるのでは?と思うかもしれませんが
もし、クビ処分が取り消されたら「公務員時代の給料や退職金はもらえる」という利益が存在するため、訴えの利益は失われません。
土地改良事業の施行認可処分(最判平4.1.24)
土地改良事業における事業施工認可処分により、工事が開始され、工事が完了すると、社会通念上元に戻すことが不可能です。しかし、社会通念上元に戻すことが不可能であっても、事業施工の認可処分を取消せば、換地処分など他の法的効力にも影響するため訴えの利益は残るため、訴えの利益は失われません。
公文書の非公開決定(最判平14.2.28)
公文書公開条例に基づき公開請求された公文書の非公開決定がされた後、当該公文書が書証(裁判の中で証拠書類)として提出された。証拠書証として出されても、誰もが見ることができる訳ではないし、コピーを取ることもできません。そのため、上記非公開決定を取り消した場合、請求した公文書を閲覧したり、公文書のコピーを受け取ることを求める法律上の利益があるから、上記決定の取消しを求める訴えの利益は消滅しません。
優良運転者である旨の記載がない処分を受けた者(最判平21.2.27)
客観的に優良運転者の要件を満たす者であれば優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を有することが肯定される以上、一般運転者として扱われ上記記載のない免許証を交付されて免許証の更新処分を受けた者は、上記の法律上の地位を否定されたことを理由として、これを回復するため、同更新処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきものである。
『最判平21.2.27:「優良運転者である旨の記載の有無」と「訴えの利益」』の詳細はこちら>>
訴えの利益を否定した判例
- 皇居外苑使用の不許可処分(最判昭28.12.23)
- 生活保護の変更決定(最判昭42.5.24)
- 土地収用にける明渡裁決(最判昭48.3.6)
- 運転免許停止処分(最判昭55.11.25)
- 保安林指定の解除処分(最判昭57.9.9)
- 建築確認(最判昭59.10.26)
- 保育所廃止条例の制定(最判平21.11.26)
- 衆議院議員選挙(最判平17.9.27)
公会堂使用及び皇居外苑使用の不許可処分の取消訴訟の係属中に、使用する特定日が経過した場合、たとえ不許可処分をしたとしても、その特定日に使用できないから訴えの利益は失われます。
生活保護処分に関する裁決の取消訴訟に対して、取消処分を求めた。その後、被保護者が死亡すると、保護受給権も消滅し、相続されることもないため、取消しを訴える利益は消滅します。
※生活保護受給権は一身専属権であり、他の者に譲渡することもできないし、相続されることもない。
土地収用にける明渡裁決(最判昭48.3.6)
土地収用に基づく明渡裁決があると、一定期間内に土地を明け渡す義務が発生します。そして、いったん土地の明渡しが完了すれば、明渡裁決の効果として土地の占有者の義務はなくなります。つまり、代執行の完了(明渡し完了)をした後に、上記明渡裁決を取り消しても意味がないので、明渡裁決の取消しを求める訴えの利益は消滅する。
運転免許停止処分がなされて、免許停止期間の経過後、無事故無違反で1年経過すると、免許停止処分がなかったことになり、また、免許停止処分を受けたことがあることにより、何らかの不利益を受けるといった法令はありません。そのため、上記1年を経過した後に、運転免許停止処分の取消しを求めたとしても、処分を受けた者に利益はないので、訴えの利益は認められません。
保安林指定の解除処分(最判昭57.9.9)
保安林指定解除処分があると、周辺住民は、洪水や渇水の危険性が増します。そのため、当該解除処分を取り消すことについては訴えの利益はあります。しかし、保安林に代わる代替施設の設置があれば、上記洪水や渇水の危険が解消され、保安林の存続の必要性がなくなります。つまり、保安林指定解除処分を取り消しても周辺住民に何ら利益はないので、訴えの利益は失います。
建築確認(最判昭59.10.26)
建築確認があった後、建物の建築工事が完了した場合、その後、建築確認を取り消したとしても、既に建物は完成しているため、取消ししても意味がありません。そのため、工事完了によって建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われます。
建築確認は、建築工事を開始してよいと伝えるだけ。この建築確認を取り消しても、建物を除去するまでの効力はない。
保育所廃止条例の制定(最判平21.11.26)
保育園廃止処分を受けた者(原告)について、保育の実施期間が満了すると、その後、保育園に入ることはないため、上記期間満了後に保育園廃止処分を取り消しても、原告に利益はないため、保育園廃止処分の取消しを求める訴えの利益は失われます。
衆議院議員選挙(最判平17.9.27)
衆議院選挙があり、その後、解散があると本件選挙の効力は将来に向かって失われたものと考えられています。そのため、衆議院議員選挙を無効とする判決を求める訴訟は、衆議院の解散によって、その訴えの利益を失います。
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