【答え】:5
【解説】
1.落石事故の発生した道路に防護柵を設置する場合に、その費用の額が相当の多額にのぼり、県としてその予算措置に困却するであろうことが推察できる場合には、そのことを理由として、道路管理者は、道路の管理の瑕疵によって生じた損害に対する賠償責任を免れ得るものと解するのが相当である。
1・・・妥当でない
判例(最判昭45.8.20)によると、「落石事故の発生した道路に防護柵を設置する場合に、その費用の額が相当の多額にのぼり、県として、その予算措置に困却するであろうことは推察できる(予算的な制約があり、困ってしまうことは考えられる)が、だからといって、直ちに道路の管理の瑕疵によって生じた損害に対する賠償責任を免れることができると考えることはできない」と判示しています。
分かりやすく言えば、県が予算的な制約を理由に安全対策を講じるのが難しいからといって、損害の賠償責任が免除されるわけではない、ということです。
2.事故発生当時、道路管理者が設置した工事標識板、バリケードおよび赤色灯標柱が道路上に倒れたまま放置されていたことは、道路の安全性に欠如があったといわざるをえず、それが夜間の事故発生直前に生じたものであり、道路管理者において時間的に遅滞なくこれを原状に復し道路を安全良好な状態に保つことが困難であったとしても、道路管理には瑕疵があったと認めるのが相当である。
2・・・妥当でない
判例(最判昭50.6.26)によると、「事故発生当時、道路管理者が設置した工事標識板、バリケードおよび赤色灯標柱が道路上に倒れたまま放置されていたことは、道路の安全性に欠如があったといわざるをえないが、それが夜間の事故発生の直前に先行した他車によって惹起されたものであり、時間的に、遅滞なくこれを原状回復させ道路を安全良好な状態に保つことが困難であったときは、道路管理に瑕疵がなかったと認めるのが相当である」と判示しています。
分かりやすく言うと、倒れた標識等が、道路上に放置されていることは、道路の安全性に欠如があるといえる。しかし、事故発生直前に他の車両によって標識等が倒され、その復旧が直ちに行って、安全な状態に保つことが困難であった場合には、道路管理者は免責されるということです。 本肢は「事故発生当時、道路管理者が設置した工事標識板、バリケードおよび赤色灯標柱が道路上に倒れたまま放置されていたことは、道路の安全性に欠如があったといわざるをえず」という部分は妥当です。後半部分の「時間的に遅滞なくこれを原状に復し道路を安全良好な状態に保つことが困難であったとしても、道路管理には瑕疵があったと認めるのが相当」が妥当ではありません。
3.防護柵は、道路を通行する人や車が誤って転落するのを防止するために設置されるものであり、材質、高さその他その構造に徴し、通常の通行時における転落防止の目的からみればその安全性に欠けるところがないものであったとしても、当該転落事故の被害者が危険性の判断能力に乏しい幼児であった場合、その行動が当該道路および防護柵の設置管理者において通常予測することができなくとも、営造物が本来具有すべき安全性に欠けるところがあったと評価され、道路管理者はその防護柵の設置管理者としての責任を負うと解するのが相当である。
3・・・妥当でない
判例(最判昭53.7.4)によると、「防護柵は、道路を通行する人や車が誤って転落するのを防止するために設置されるものであり、材質、高さその他その構造に徴し、通常の通行時における転落防止の目的からみれば、その安全性に欠けるところがないものであれば、転落事故の被害者が危険性の判断能力に乏しい幼児であったとしても、道路及び防護柵の設置管理者が通常予測することのできない行動に起因するものであった場合、営造物につき本来それが具有すべき安全性に欠けるところがあったとはいえず、道路管理者はその設置管理者としての責任を負うべき理由はない」と判示しています。
分かりやすく言うと、防護柵は通行者や車両の転落を防止するために設置されるものであり、その安全性が通常の通行時において欠けていない場合、転落事故の被害者が幼児であったとしても、防護柵の設置管理者は予測できない行動によって事故が発生した場合には責任を負わない、ということです。つまり、防護柵が本来の安全性を備えており、通常の状況では安全性に問題がない場合には、その設置管理者は事故の責任を負わないということです。
本肢は「通常予測することができなくとも、・・・、道路管理者はその防護柵の設置管理者としての責任を負うと解するのが相当である」と書いてあるので妥当ではありません。
4.道路の周辺住民から道路の設置・管理者に対して損害賠償の請求がされた場合において、当該道路からの騒音、排気ガス等が周辺住民に対して現実に社会生活上受忍すべき限度を超える被害をもたらしたことが認定判断されたとしても、当該道路が道路の周辺住民に一定の利益を与えているといえるときには、当該道路の公共性ないし公益上の必要性のゆえに、当該道路の供用の違法性を認定することはできないものと解するのが相当である。
4・・・妥当でない
判例(最判平7.7.7)によると「道路の周辺住民から道路の設置・管理者に対して損害賠償の請求がされた場合において、当該道路からの騒音、排気ガス等が右住民に対して現実に社会生活上受忍すべき限度を超える被害をもたらしたことが認定判断されたときは、当然に当該住民との関係において道路が他人に危害を及ぼす危険性のある状態にあったことが認定判断されたことになる」と判示しています。
分かりやすくいうと、道路からの騒音や排気ガスが、住民に実際に受け入れられるべき限度を超える被害をもたらしたと認定された場合、道路は他人に危害を及ぼす危険性のある状態にあったと判断され、道路設置者や管理者は被害の責任を負うということです。よって、本肢は「道路の供用の違法性を認定することはできないものと解するのが相当」と書いてあるので妥当ではありません。
5.走行中の自動車がキツネ等の小動物と接触すること自体により自動車の運転者等が死傷するような事故が発生する危険性は高いものではなく、通常は、自動車の運転者が適切な運転操作を行うことにより死傷事故を回避することを期待することができるものというべきであって、金網の柵をすき間なく設置して地面にコンクリートを敷くという小動物の侵入防止対策が全国で広く採られていたという事情はうかがわれず、そのような対策を講ずるためには多額の費用を要することは明らかであり、当該道路には動物注意の標識が設置され自動車の運転者に対して道路に侵入した動物についての適切な注意喚起がされていたということができるなどの事情の下においては、高速道路で自動車の運転者がキツネとの衝突を避けようとして起こした自損事故において、当該道路に設置または管理の瑕疵があったとはいえない。
5・・・妥当
判例(最判平22.3.2)によると「北海道内の高速道路で自動車の運転者がキツネとの衝突を避けようとして自損事故を起こした場合において、(1)走行中の自動車が上記道路に侵入したキツネ等の小動物と接触すること自体により自動車の運転者等が死傷するような事故が発生する危険性は高いものではないこと、(2)金網の柵を地面との透き間無く設置し、地面にコンクリートを敷くという小動物の侵入防止対策が全国で広く採られていたという事情はうかがわれず、そのような対策を講ずるためには多額の費用を要することは明らかであること、(3)上記道路には動物注意の標識が設置されていたことなどの事情の下においては、上記(2)のような対策が講じられていなかったからといって、上記道路に設置又は管理の瑕疵があったとはいえない。」と判示しています。
分かりやすく言うと、高速道路で自動車の運転者がキツネとの衝突を避けようとして自損事故を起こした場合において、
- 道路上での小動物との接触により、自動車の運転者が死傷する危険性は高くない。
- 小動物の侵入を防ぐための柵を設置する費用が高額であり、一般的に採用されていない。
- 道路には動物注意の標識が設置されており、適切な注意が喚起されていた。
これらの事情から、道路に設置又は管理の瑕疵があったとはいえないと判示しています。