Aが家電製品の販売業者のBに対して有する貸金債権の担保として、Bが営業用動産として所有し、甲倉庫内において保管する在庫商品の一切につき、Aのために集合(流動)動産譲渡担保権(以下「本件譲渡担保権」という。)を設定した。この場合に関する次の記述のうち、判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- 構成部分が変動する集合動産についても、その種類、場所および量的範囲が指定され、目的物の範囲が特定されている場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができ、当該集合物につき、AはBから占有改定の引渡しを受けることによって対抗要件が具備される。
- 本件譲渡担保権の設定後に、Bが新たな家電製品乙(以下「乙」という。)を営業用に仕入れて甲倉庫内に搬入した場合であっても、集合物としての同一性が損なわれていない限り、本件譲渡担保権の効力は乙に及ぶ。
- 本件譲渡担保権の設定後であっても、通常の営業の範囲に属する場合であれば、Bは甲倉庫内の在庫商品を処分する権限を有する。
- 甲倉庫内の在庫商品の中に、CがBに対して売却した家電製品丙(以下「丙」という。)が含まれており、Bが履行期日までに丙の売買代金を支払わない場合、丙についてAが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Cは丙について動産先取特権を行使することができない。
- 甲倉庫内の在庫商品の中に、DがBに対して所有権留保特約付きの売買契約によって売却した家電製品丁(以下「丁」という。)が含まれており、Bが履行期日までに丁の売買代金をDに支払わないときにはDに所有権が留保される旨が定められていた場合でも、丁についてAが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Aは、Dに対して本件譲渡担保権を当然に主張することができる。
【答え】:5
【解説】
1・・・妥当
構成部分が変動する集合動産でも、種類、所在場所、量の範囲を指定するなどの方法により、目的物の範囲が特定される場合には、ひとつの集合物として、譲渡担保の目的にできます(最判昭54.2.15)また、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権の設定者がその構成部分である動産の占有改定により取得した場合、譲渡担保権者は、譲渡担保権の対抗要件を備え、その効力は、新たにその構成部分となった動産を含む集合物に及びます(最判昭62.11.10)。つまり、構成部分が変動する集合動産についても、その種類、場所および量的範囲が指定され、目的物の範囲が特定されている場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができ、当該集合物につき、AはBから占有改定の引渡しを受けることによって対抗要件が具備されます。譲渡担保の基本事項を含めて理解すべき部分なので、詳細解説は、個別指導で解説します。
2・・・妥当
債権者と債務者との間に、集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、その際に債権者が占有改定の方法により現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備したことになり、譲渡担保権の効力は、その後、構成部分(倉庫にある在庫商品)が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となった動産を包含する集合物について、譲渡担保の効力が及びます(最判昭62.11.10)。よって、本肢は妥当です。本肢は、理解すべき部分なので、詳細解説は、個別指導で解説します。
3・・・妥当
構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては、集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されているのであるから、譲渡担保設定者には、その通常の営業の範囲内で、譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており、この権限内でされた処分の相手方は、当該動産について、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができます(最判平18.7.20)。つまり、倉庫にある在庫商品について、動産譲渡担保契約を締結したとしても、譲渡担保設定者Bは、目的物の商品を通常の営業の範囲内で第三者に売却する権限をもっており、Bは、通常の営業の範囲内なら甲倉庫内の商品を処分(売却)することができます。
4・・・妥当
まず、先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができなくなります(民法333条)。 そして、動産売買の先取特権の存在する動産(先取特権が付いた動産)が、譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となった場合(倉庫に入れられた場合)、債権者は、「先取特権の付いた動産」についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、特段の事情のない限り、民法333条の第三取得者に該当します(最判昭62.11.10)。よって、先取特権者Cは、丙(先取特権が付いた動産)について動産先取特権を行使することができません。よって、本肢は妥当です。本肢は、理解すべき部分なので、詳細解説は、個別指導で解説します。
5・・・妥当でない
選択肢1の解説の通り、占有改定で占有権を取得した場合、譲渡担保権者は、譲渡担保権の対抗要件を備えます(最判昭62.11.10)。つまり、丁についてAが既に占有改定による引渡しを受ければ、Aは、第三者に対して譲渡担保権を主張することはできます。しかし、継続的な売買契約において目的物の所有権が売買代金の完済まで売主Dに留保される旨が定められた場合に、売主Dは買主Bに動産の転売を包括的に承諾していたが、これは売主が買主に契約の売買代金を支払うための資金を確保させる趣旨であり、売買代金が完済されていない動産については、Aは、売主Dに譲渡担保権を主張することができません(最判平30.12.7)。よって、本肢は、「丁についてAが既に占有改定による引渡しを受けていても、Aは、Dに対して本件譲渡担保権を当然に主張することはできない」ので妥当ではありません。詳細解説は、個別指導で解説します。
令和5年(2023年)過去問
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法・多肢選択 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法・多肢選択 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法・多肢選択 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
問25 | 行政事件訴訟法 | 問55 | 基礎知識 |
問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識 |
問27 | 民法 | 問57 | 基礎知識 |
問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |