民法のテキスト

時効の基本

時効とは?

時効とは、一定の「事実」が継続する場合に、「事実」が「真実」と異なるときでも、継続した「事実」の法律関係で確定させる制度を言います。

【事例1】 「甲土地の所有者はA」という「真実」に対して、Bが甲土地を一定期間占有し続けたら(=事実)、事実を優先させて、甲土地の所有者はBとなる。(これを「取得時効」という)

【事例2】 CがDに対して100万円を貸した。「CはDに対して100万円を請求する権利を持つ」という「真実」に対して、一定期間CはDに対して請求等をしなかった(請求権を行使しないという「事実」)。この場合、Cの有する請求は消滅してしまう。(これを「消滅時効」という)

時効の要件

時効が成立する要件は下記2つあります。

  1. 時効期間が経過すること(時効が完成するという)
  2. 時効を援用すること

時効期間(要件1)

1の時効が完成する期間については、色々あるので、取得時効と消滅時効で細かく解説します。

時効の援用(要件2)

「時効を援用する」とは、時効の利益を受ける旨の意思表示をすることです。

「時効の利益」とは、上記事例1では、「甲土地の所有権を取得すること」、事例2では「Cの債権が消滅して、100万円を返済しなくてよくなること」です。

つまり、「甲土地の所有権を取得します!」とか「Cの債権を消滅させます!」と主張することが「時効を援用する」ということです。

時効を援用できる者と時効を援用できない者

当事者は、もちろん時効を援用できますが、それ以外でも「時効を援用できる者」がいます。

「援用ができる者」は「時効により直接に利益を受ける者」と判例では示されていましたが、改正民法により「正当な利益を有する者」と規定され、具体的には下記のような者が挙げられます。

時効を援用できる者

  • 保証人、連帯保証人
  • 物上保証人
  • 抵当権の第三取得者
  • 詐害行為の受益者最判平10.6.22

時効を援用できない者(判例)

時効の効果

①時効期間が満了し(時効が完成し)、②当事者が時効を援用すると、その効果は、起算点(時効期間の最初の時点)にさかのぼります(民法144条:遡及効)。

詳細解説は個別指導で解説します。

時効利益の放棄

「時効利益の放棄」とは、時効完成後に、時効の利益を受けない旨の意思表示をすることです。時効利益は時効完成前に放棄することはできません(民法146条)。

時効完成後に債務を承認した場合

時効完成後に債務を承認した場合、時効完成していることを知らなかったとしても、その後、時効を援用することができなくなります最判昭41.4.20)。

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。

もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。

個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。

また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています!

令和3年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう!

個別指導の概要はこちら>>

参考条文

(時効の効力)
第144条 時効の効力は、その起算日にさかのぼる。

(時効の援用)
第145条 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

(時効の利益の放棄)
第146条 時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。

代理の基本

代理とは?

代理とは、代理人が本人に代わって意思表示をして、その法律効果は本人に帰属させることを言います。

例えば、A所有の土地について、Aが土地を誰かに売りたいと思って、Bに対して、土地の売却についての代理権を与えた。

この場合、「Aが本人」「Bが代理人」です。

そして、代理人Bが、買主Cと「A所有の土地」の売買契約を締結するのが代理です。

代理の要件の一つ「顕名」とは?

代理人が、相手方に対して、「本人のために代理行為をすること」を示すことを言います。

上記事例でいうと、
代理人Bが、買主Cに対して「売主Aのために、売買契約をします!」と伝えることを指します。

この「顕名」をすることで、代理の効果は、本人に帰属します。

顕名をしない場合どうなるか?

原則、代理行為は代理人のためにしたものとみなされます(民法100条本文)。

上記事例でいうと、代理人Bが売主となって売買契約をしたことになります。つまり、「売主B-買主C」の契約となるので、他人物売買ということです。

ただし、例外として、相手方Bが、本人のためにすることを知っていたり(悪意)、もしくは知ることができた(有過失の)場合、本人のためにしたものとみなされます。

代理の効果

代理の効果とは、「代理行為をした結果発生する権利義務」のことです。

上記事例でいうと、土地の売買契約を締結すると(代理行為をすると)、売主側は「代金を受け取る権利」「土地を引渡す義務」が代理の効果です。

そして、この権利義務を誰が取得するか?が、「代理の効果は誰に効果が帰属するか?」ということです。

「代理の効果が本人に帰属する」のであれば、本人Aが「代金を受け取る権利」と「土地を引渡す義務」を持ちます。

一方、

「代理の効果が代理人に帰属する」のであれば、代理人Bが「代金を受け取る権利」と「土地を引渡す義務」を持ちます。

代理権の種類

代理権には「任意代理権」と「法定代理権」の2種類があります。

任意代理権とは?

任意代理権とは、本人の意思に基づいて、代理人に代理権を与えた場合、代理人は任意代理権を取得します。

通常、委任状を作成して、代理権を与える場合が「任意代理」に当たります。

法定代理権とは?

法定代理権とは、本人に基づかず、法律の規定で、代理人に代理権が与えられる場合、代理人は法定代理権を取得します。

例えば、親権者や成年後見人は、法律で未成年者や成年被後見人の法定代理人となる旨の規定があります。

権限の定めのない代理人の権限

権限の定めのない代理人は、「①保存行為」と「②代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為」のみをする権限を有します(民法103条)。

①②については、個別指導で詳しく解説します。

代理権が消滅する場合とは?(消滅事由)

下表について

「死亡」とは、死亡した場合

「破産」とは、破産手続開始決定を受けた場合

「後見開始」とは、後見開始の審判を受けた場合

を示しています。

本人 代理人
死亡 破産 後見開始 死亡 破産 後見開始
任意代理 消滅 消滅 消滅しない 消滅 消滅 消滅
法定代理 消滅 消滅しない 消滅しない 消滅 消滅 消滅

上表の「本人が破産手続き開始決定を受けた場合」の違いについては、個別指導で詳しく理由を解説します。

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。 もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。 個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。 また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています! 令和4年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう! 個別指導の概要はこちら>>

参考条文

(代理行為の要件及び効果)
第99条 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。

(本人のためにすることを示さない意思表示)
第100条 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。

(権限の定めのない代理人の権限)
第103条 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

(代理権の消滅事由)
第111条 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人の死亡
二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。

詐欺

詐欺とは?

詐欺(さぎ)とは、他人に騙されて意思表示をしてしまった場合を指します。詐欺のことを「欺罔行為(ぎもうこうい)」と言ったりもします。

詐欺の効果

詐欺による意思表示は、取り消すことができます(民法96条1項)。

例えば、AがBに騙されて、A所有の土地をBに売却してしまった場合、Aはあとで、詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消すことができます。

上記取消権は、①追認をすることができる時から5年間行使しないとき、または、②詐欺による意思表示をした時から20年を経過したとき時効によって消滅します(民法126条)。

第三者から詐欺を受けた場合

第三者が詐欺を行った場合、相手方がその事実を知り(悪意)、又は知ることができた(有過失)ときに限り、詐欺を受けた者は、その意思表示を取り消すことができます(民法96条2項)。

例えば、Aが、第三者Cから詐欺を受け、A所有の土地をBに売却した場合、Bが悪意もしくは有過失の場合、AはBに対して詐欺取消しを主張できます。つまり、AはBから土地を取り戻すことができます。

逆にBが善意無過失であれば、AはBから詐欺を理由に土地を取り戻すことができません。

詐欺取消し前の第三者との関係

例えば、AがBに騙されて、A所有の土地をBに売却してしまった。その後、Aが詐欺取消しをする前に、Bが第三者Cに土地を売却してしまった。この場合、Aは土地を取り戻すことができるか?

第三者Cが、詐欺の事実について善意無過失であれば第三者Cが保護され、悪意または有過失の場合、Cは保護されず、Aは詐欺取消しをCに主張できます

その他、関連ポイントは個別指導で解説します。

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。 もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。 個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。 また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています! 令和4年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう! 個別指導の概要はこちら>>

参考条文

(詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

(取消権の期間の制限)
第126条 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

無権代理と相続の関係

今回は、無権代理人が無権代理行為を行い、その後
「無権代理人が死亡し、本人が相続した場合」と
「本人が死亡して無権代理人が相続した場合」、さらには
「無権代理人が死亡し、その後、無権代理人を相続した本人も死亡した場合」の3つに分けて考えます。

無権代理人が死亡し、本人が相続した場合

【事例】 例えば、父親A(本人)が土地を所有していて、息子B(無権代理人)が、この土地をX(相手方)に売却した。

単独相続

上記事例で、無権代理人Bが死亡し、本人Aが単独で相続した場合、本人Aが、無権代理人Bの債務を相続するが、本人Aが追認拒絶をしたとしても、信義則に反しないため、本人Aは追認拒絶ができます。しかし、無権代理人Bの責任は相続するので、本人Aは、損害賠償債務は負います最判昭37.4.20)。

共同相続

上記事例で、無権代理人Bが死亡し、本人AとC(例えば母親)が共同相続した場合、本人Aは、上記単独相続同様、本人Aは追認拒絶ができます。しかし、無権代理人Bの責任は相続するので、本人Aは、損害賠償債務は負います

また、Cも同様、無権代理人Bを相続するので、損害賠償債務を負います(最判昭48.7.3)。

本人が死亡して無権代理人が相続した場合

【事例】 例えば、父親A(本人)が土地を所有していて、息子B(無権代理人)が、この土地をX(相手方)に売却した(上記同様)。

単独相続

上記事例で、本人Aが死亡し、無権代理人Bが単独で相続した場合、無権代理人Bが自ら無権代理行為を行っているため、無権代理効は当然に有効な法律行為となります(最判昭40.6.18)。

共同相続

上記事例で、本人Aが死亡し、無権代理人BとC(例えば母親)が共同相続した場合、本人が有する追認権は、BとC共に相続し、不可分なので、①C(他の相続人全員)の追認がない限り、無権代理行為は有効とはなりません。また、

C(他の相続人全員)が追認している場合、無権代理人Bは追認拒絶はできません

無権代理人が死亡し、その後、無権代理人を相続した本人も死亡した場合

【事例】 例えば、父親A(本人)が土地を所有していて、息子B(無権代理人)が、この土地をX(相手方)に売却した(上記同様)。無権代理人Bが死亡し、本人AとCが共同で相続した。その後、本人Aが死亡し、Cが本人Aを相続した。

Cは、無権代理人Bの地位を包括的に承継していることに変わりはないから、追認拒絶はできない最判昭63.3.1)。

詳細解説は個別指導で解説します!

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。 もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。 個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。 また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています! 令和4年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう! 個別指導の概要はこちら>>

相殺

相殺とは?

相殺とは、2人が互いに同種の債権・債務を持っている場合、その債権債務を消滅させること(帳消しにすること)です(民法505条1項)。

そして、相殺は一方的な意思表示によって行うことができます。

自働債権と受働債権

AがBに対して「金銭債権X」を有し、逆に、
BがAに対して「金銭債権Y」を有していた。

ここで、Aから相殺を主張する場合、相殺を主張する側Aの有する金銭債権Xを「自働債権」と呼び
相殺を主張される側Bの有する債権を「受働債権」と呼びます。

相殺ができる要件(相殺適状)

相殺を主張するためには、下記4つの要件を全て満たす必要があります。

  1. お互いが相手方に対して債権を持っている(505条1項本文)
    →例)AがBに対して債権を有し、逆にBもAに対して債権を有している
  2. お互いが有する債権が同種の目的である(505条1項本文)
    →例)AとB、それぞが相手方に有する債権がいずれも金銭債権である
  3. 両債権が弁済期にある(505条1項本文)
    →原則、お互いの債権が弁済期でないといけないが、自働債権(相殺を主張する者が有する債権)が弁済期であれば、受働債権は弁済期が到来していなくてもよい
  4. 債務の性質上相殺が許されている(505条1項ただし書)
    →例)「同時履行の抗弁権がついている場合」や、「受働債権が人の生命又は侵害の侵害による損害賠償債権である場合」等は、相殺が禁止されているため、相殺できません。

ここはしっかり理解した方が良いので、個別指導で具体例を出しながら解説いたします。

相殺禁止の特約をした場合

当事者が相殺を禁止する特約をした場合、第三者が相殺禁止特約を知り(悪意)、又は重大な過失によって知らなかったとき(重過失)に限り、その第三者に対抗することができます=第三者がいても相殺できる(民法505条2項)。

具体例については個別指導で解説します。

相殺ができない場合

下記のいずれかに該当する場合、上記要件を満たしていても相殺をすることができません。

  1. 受働債権が悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権である場合(民法509条1号)
    →「悪意」とは、積極的な意思を持って行った不法行為を指します。
  2. 受働債権が、不法行為や債務不履行に基づく人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権である場合(民法509条2号)
  3. 受働債権が差押禁止の債権である場合(民法510条)
    →例)扶養請求権や賃金債権
  4. 受働債権が差押えられ、その後、反対債権を取得した場合(民法511条)

細かい具体例については個別指導で解説します。

相殺の方法

相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によって行います(民法506条1項前段)。

つまり、相手方の承諾なく、単独で相殺することができます。

また、相殺をする際、条件又は期限を付することができません(民法506条1項後段)。

相殺の効果

相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺適状となった時にさかのぼってその効力を生じます(民法506条2項)。

つまり、相殺適状後の遅延損害金は発生しません。

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。 もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。 個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。 また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています! 令和4年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう! 個別指導の概要はこちら>>

民法テキストの目次

作成中・・・

参考条文

(相殺の要件等)
第505条 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。

(相殺の方法及び効力)
第506条 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。
2 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。

(履行地の異なる債務の相殺)
第507条 相殺は、双方の債務の履行地が異なるときであっても、することができる。この場合において、相殺をする当事者は、相手方に対し、これによって生じた損害を賠償しなければならない。

(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)
第508条 時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。

(不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第509条 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)

(差押禁止債権を受働債権とする相殺の禁止)
第510条 債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第511条 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
2 前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。

貸人の地位の移転(賃貸人の変更)

賃貸人の変更とは?

例えば、アパートの所有者A(賃貸人)が、B(賃借人)にアパートの一室を貸していたとします。その後。Aがアパートを第三者Cに売却すると、アパートの所有者がAからCに変わります。

これによって、賃貸人がAからCに変更します。これが「賃貸人の変更」です。

賃借権の対抗要件

上記具体例の通り、賃貸人がAからCに変更になった場合、賃借人Bは新賃貸人Cに対して、「不動産の賃貸借」をどのような場合に対抗できるか?

民法では、賃借権を登記したときは、新賃貸人Cに対抗することができるとしています(民法605条)。

もっとも、建物の賃借権は、賃借権の登記がなくても、建物の引き渡しがあれば、新賃貸人に建物賃借権を対抗できます(借地借家法31条)。つまり、上記具体例では、賃借人Bは、「賃借権の登記」もしくは「建物の引渡し」によって、新賃貸人Cに対抗できます。

また、建物所有の土地の賃借権の場合、借地上の土地の建物を登記していれば、土地の賃借人は、土地の賃貸人(地主)に対抗できます(借地借家法10条1項)。

賃貸人の地位移転

上記具体例の通り、賃貸している不動産を譲渡することができます。これにより、賃貸人が変更となるのですが、どういった場合に「賃貸人の地位」が新しい賃貸人(所有者)に移転するかが問題です。

言い換えると、どういった場合に新賃貸人Cが、賃借人Bに賃貸人であることを主張できるかが問題です。

賃借人Bが賃貸借の対抗要件を備えている状況で、不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、新賃貸人Cに移転します(民法605条の2第1項)。

この場合、賃借人Bの承諾は不要です。

敷金返還債務、必要費・有益費償還債務の移転

上記のように「賃貸人の地位が移転(賃貸人が変更)」すると、敷金返還債務や必要費償還債務、有益費償還債務も、新賃貸人Cに移転します(民法605条の2第1項)。

具体例については個別指導で解説します!

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。 もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。 個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。 また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています! 令和4年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう! 個別指導の概要はこちら>>

民法テキストの目次

作成中・・・

参考条文

(不動産賃貸借の対抗力)
第605条 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

(不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の2 前条、借地借家法(平成三年法律第九十号)第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
3 第一項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
4 第一項又は第二項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第六百八条の規定による費用の償還に係る債務及び第六百二十二条の二第一項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。

(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の3 不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、前条第三項及び第四項の規定を準用する。

失踪宣告

失踪宣告とは?

失踪とは「しっそう」と呼びます。

ある人(失踪者)が生死不明となった場合、失踪者の財産をどうすることもできず、家族の人が困ってしまいます。そのため、一定期間が経過したら、その財産を家族の人に相続させるようにすることが失踪宣告という制度です。

普通失踪

家出等が原因で行方不明になった場合が普通失踪です。

そして、不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができます(民法30条1項)。

そして、失踪の宣告を受けた者は上記7年を経過した時に、死亡したものとみなします(民法31条)。

特別失踪

戦争、船舶の沈没、震災などの危難に遭遇して行方不明となった場合が特別失踪です。

危難が去った後1年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができます(民法30条2項)。

そして、失踪の宣告を受けた者は上記危難が去った時に、死亡したものとみなします(民法31条)。

失踪宣告を受けた者の権利能力

もしかすると、失踪宣告を受けた者は、どこかで生存して生活をしているかもしれません。そのため、失踪者本人の権利能力は依然として残ります

失踪宣告の取消し

①失踪者が生存すること又は②上記「7年経過時・危難が去った時」と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければなりません(民法32条1項)。

また、失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失います。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負います(民法32条2項)。

具体例等の詳細解説は個別指導で解説します!

参考条文

(失踪の宣告)
第30条 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪そうの宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。

(失踪の宣告の効力)
第31条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。

(失踪の宣告の取消し)
第32条 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。

即時取得

即時取得とは?

「即時取得」とは、簡単にいえば、他人が所有する動産が自分のモノになってしまう制度です。

例えば、A所有の時計を、Bが借りていたとします。
(時計の所有者・貸主A、時計の占有者・借主B)

その後、Cが、Bからこの時計を買いました。

この場合、Cは、時計を所有者Aに返さないといけないか?

答えは、下記の一定要件を満たすと、即時取得が成立して、この時計はCのモノとなります。

つまり、Cは所有者Aに時計を返さなくても良いことになります。これが「即時取得」です。

即時取得の成立要件

下記3つをすべて満たすとき、即時取得が成立します(民法192条)。

  1. 目的物は動産であること
  2. 有効な取引行為によること
  3. 平穏、公然、善意無過失で占有を始めること

要件1:目的物は動産であること

目的物は動産である必要があります。上記事例も「時計」で動産なので、即時取得は可能です。

一方、不動産は即時取得できません

不動産について即時取得できない理由は個別指導で解説します。

要件2:有効な取引行為によること

「有効な取引行為」とは、例えば、売買契約や贈与契約、質権設定契約などがあります。

【有効な取引とならないものの具体例】

  1. 制限行為能力者とした取引
  2. 錯誤や詐欺、強迫、無権代理などの取り消すことができる取引
  3. 相続によって取得した場合

要件3:平穏、公然、善意無過失で占有を始めること

平穏・公然・善意は推定されます(民法186条1項)。

無過失も推定されます(民法188条、最判昭41.6.9

上記判例から、占有者は、192条(即時取得の要件)の「過失がない」ことを立証する責任はありません。

即時取得の効果

即時取得すると、即時にその動産について行使する権利(所有権や質権等)を取得する。

盗品又は遺失物についての特例

占有物が盗品(盗まれた場合)又は遺失物であるとき(失くした場合)、被害者又は遺失者は、「盗難又は遺失の時から2年間」、占有者に対してその物の回復(取り戻し)を請求することができます(民法193条)。

即時取得の規定は、取引の安全を図るためのルールですが、反面、原権利者(一番上の事例でいうと所有者A)の権利を奪うことになります。そこで、所有者Aの意思に基づかないで占有を離れた物については、あとで取戻し(回復請求)ができるようにしています。

そして、この回復請求をするには、占有者が支払った代価を弁償する必要はありません

占有者が盗品又は遺失物を、競売や市場で、善意で購入した場合

上記の通り、原則、無償で物を取り戻すことができるのですが

占有者が、「盗品又は遺失物」を、「競売若しくは公の市場(店舗)等」で、「善意」で買い受けたときは、「被害者又は遺失者」は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができません(民法194条)。

つまり、占有者がお店で購入したのであれば、その代金を支払って、原権利者(所有者A)は回復請求できるということです。

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。 もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。 個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。 また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています! 令和4年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう! 個別指導の概要はこちら>>

民法テキストの目次

作成中・・・

参考条文

(即時取得)
第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

(盗品又は遺失物の回復)
第193条 前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

第194条 占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。

民法の無料テキスト|行政書士

行政書士試験の無料テキスト(民法)

総則

物権

債権

親族

遺言

遺言とは?

遺言とは、被相続人が、死後、自己の財産(相続財産)を、誰に、どれだけ残すのかといった意思表示を言います。

遺言については、民法で厳格に「方式(形式)」が決まっており、この方式に従っていない場合は、法律上の遺言としての効力を持ちません(無効)(民法960条)。

そして、2人以上の者が同一の証書で遺言を記載することはできません(民法975条:共同遺言の禁止)。

また、遺言は相手方の承諾なく、単独行為で効力が発生します。

遺言能力

満15歳以上の者は、単独で遺言をすることができます。たとえ、未成年者・被保佐人・被補助人であっても、単独で遺言できます(民法961条・962条)。

成年被後見人については、「①事理を弁識する能力を一時回復した時に」、「②医師2人以上の立会い」があれば、遺言できます。

遺言の種類

遺言の種類には下記、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。

自筆証書遺言の方式

  • 遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、遺言に押印しなければならない(民法968条1項)。ただし、財産目録を添付する場合には、その目録については、自書しなくてもよいが、その目録の毎葉(各ページ)に署名し、印を押さなければならない(民法968条2項)。
  • 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、「変更した場所を指示」し、これを「変更した旨を付記」して特にこれに「署名」し、かつ、その「変更の場所に押印」しなければ、変更は無効となる(民法968条3項)。

公正証書遺言の方式

公正証書によって遺言をするには、下記の要件を全て満たさなければなりません(民法969条)。

  1. 証人2人以上の立会いがあること。
  2. 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する(言葉で伝える)こと。
  3. 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
  4. 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、押印すること。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
  5. 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、押印すること。

秘密証書遺言

秘密証書によって遺言をするには、下記の要件を全て満たさなければなりません(民法970条)。

  1. 遺言者が、その証書に署名し、押印すること。
  2. 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
  3. 遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
  4. 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

もし、上記要件を満たさない場合、自筆証書の要件を満たせば、自筆証書遺言としての効力は認められます(民法971条)。

遺言の効力発生時期

遺言は、遺言者の死亡の時に効力が発生します(民法985条1項)。

遺言に停止条件を付した場合、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時に効力が発生します(民法985条2項)。

遺言の撤回

遺言者は、いつでも、その遺言の全部又は一部を撤回することができます(民法1022条)。

「前の遺言」と「後の遺言」とが矛盾するときは、矛盾する部分については、「後の遺言」で「前の遺言」を撤回したものとみなし、「後の遺言」が優先します(民法1023条)。

(遺言の撤回権の放棄の禁止)
遺言者は、上記遺言の撤回権を放棄することができません(民法1026条)。

理解学習について

行政書士試験に合格するためには、膨大な量の知識を頭に入れる必要があります。そのためには「丸暗記で勉強」しても、覚えて忘れての繰り返しで、一向に実力が上がりません。そのため、着実に実力を上げるためには、理解をしながら勉強することが重要です。 もちろんすべてを理解することは難しいですが、理解すべき部分は理解していけば、膨大な量の知識を頭に入れることが可能です。 個別指導では、理解すべき部分を理解していただくために、「具体例や理由」などを入れて、詳しく分かりやすく解説しています。 また、丸暗記でよいものは、語呂合わせを使ったりして、効率的に覚えていただけるようにしています! 令和4年の合格を目指しているのであれば、是非、個別指導で一緒に勉強をしましょう! 個別指導の概要はこちら>>

民法テキストの目次

作成中・・・

参考条文

(遺言の方式)
第960条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

(遺言能力)
第961条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

第962条 第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。

第963条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

(相続人に関する規定の準用)
第965条 第八百八十六条及び第八百九十一条の規定は、受遺者について準用する。

(被後見人の遺言の制限)
第966条 被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。
2 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。

(普通の方式による遺言の種類)
第967条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。

(自筆証書遺言)
第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

(公正証書遺言)
第969条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

(秘密証書遺言)
第970条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第九百六十八条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

(方式に欠ける秘密証書遺言の効力)
第971条 秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。

(秘密証書遺言の方式の特則)
第972条 口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第九百七十条第一項第三号の申述に代えなければならない。
2 前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
3 第一項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第九百七十条第一項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。

(成年被後見人の遺言)
第973条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。

(共同遺言の禁止)
第975条 遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。

(遺言の効力の発生時期)
第985条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

(遺言の撤回)
第1022条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。

(遺言の撤回権の放棄の禁止)
第1026条 遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。