令和6年度(2024年度)過去問

令和6年・2024|問38|会社法

監査等委員会設置会社の取締役の報酬等に関する次の記述のうち、会社法の規定に照らし、誤っているものはどれか。

  1. 取締役の報酬等に関する事項は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して定めなければならない。
  2. 監査等委員である取締役は、株主総会において、監査等委員である取締役の報酬等について意見を述べることができる。
  3. 監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の報酬等について監査等委員会の意見を述べることができる。
  4. 監査等委員である各取締役の報酬等について定款の定めまたは株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、株主総会で決議された取締役の報酬等の範囲内において、監査等委員である取締役の多数決によって定める。
  5. 監査等委員である取締役を除く取締役の個人別の報酬等の内容が定款または株主総会の決議により定められている場合を除き、当該取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を取締役会で決定しなければならない。

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【答え】:4
【解説】
1.取締役の報酬等に関する事項は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して定めなければならない。

1・・・正しい

監査等委員会設置会社においては、取締役の報酬等(報酬、賞与、退職慰労金など)を決定する場合、
以下のように 取締役を2つの区分に分けて定める必要があります。

  1. 監査等委員である取締役(監査等委員会のメンバー)
  2. それ以外の取締役(業務執行を行う取締役など)

これは、監査等委員である取締役が、会社の監督機能を担う立場にあるため、
報酬の内容や決定方法についても、明確に分けることが求められるためです。

具体的には、会社法361条2項において、

監査等委員である取締役と、それ以外の取締役の報酬等の決定は区別して定めなければならない

と規定されています。

2.監査等委員である取締役は、株主総会において、監査等委員である取締役の報酬等について意見を述べることができる。

2・・・正しい

監査等委員である取締役は、自身の報酬等(報酬・賞与・退職慰労金など)について、株主総会で意見を述べることができます

これは、会社法361条5項に明記されています。

この制度は、監査等委員が会社の業務執行を監督する立場にあることを踏まえ、その独立性と中立性を確保するために設けられています。

本肢は、周辺知識も重要なので、個別指導で解説します。

3.監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の報酬等について監査等委員会の意見を述べることができる。

3・・・正しい

会社法361条6項により、監査等委員会があらかじめ選定した監査等委員は、
株主総会において、監査等委員でない取締役(=業務執行を行う取締役など)の報酬等に関する議案に対し、
監査等委員会としての意見を述べることができます

これは、監査等委員会設置会社において、取締役の報酬等に対しても監督機能を発揮できるようにするための制度です。

4.監査等委員である各取締役の報酬等について定款の定めまたは株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、株主総会で決議された取締役の報酬等の範囲内において、監査等委員である取締役の多数決によって定める。

4・・・誤り

本肢は、「監査等委員である取締役の多数決によって定める」という部分が誤りです。

実際には、会社法361条3項により、
監査等委員である各取締役の報酬等について、定款や株主総会の決議で個別に定めがない場合は、監査等委員間の「協議」により決定するとされています。

本肢は理解すべき部分が重要なので、個別指導で解説します。

5.監査等委員である取締役を除く取締役の個人別の報酬等の内容が定款または株主総会の決議により定められている場合を除き、当該取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を取締役会で決定しなければならない。

5・・・正しい

会社法361条7項により、監査等委員でない取締役の個人別の報酬等の内容については、以下のように定められています。

定款または株主総会の決議により個別に定められていない場合  → その報酬等をどう決めるかという「決定方針」を、取締役会で定めなければならないとされています。

この方針の策定は、取締役の報酬が「お手盛り」にならないようにし、ガバナンス(企業統治)を強化する目的で導入されています。

本肢は関連ポイントが重要なので、個別指導で解説します。


令和6年(2024年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 多肢選択
問12 行政手続法 問42 多肢選択
問13 行政手続法 問43 多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 行政書士法
問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政法 問55 基礎知識
問26 公文書管理法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 個人情報保護法
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和6年・2024|問37|会社法

株主の議決権に関する次のア~オの記述のうち、会社法の規定に照らし、正しいものの組合せはどれか。

ア.株主総会における議決権の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を生じない。

イ.株式会社は、自己株式については、議決権を有しない。

ウ.取締役候補者である株主は、自らの取締役選任決議について特別の利害関係を有する者として議決に加わることができない。

エ.監査役を選任し、または解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。

オ.役員等がその任務を怠ったために株式会社に生じた損害を賠償する責任を負うこととなった場合に、当該責任を免除するには、議決権のない株主を含めた総株主の同意がなければならない。

  1. ア・ウ
  2. ア・エ
  3. イ・エ
  4. イ・オ
  5. ウ・オ

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【答え】:4(イとオが正しい)

【解説】
ア.株主総会における議決権の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を生じない。

ア・・・誤り

会社法では、株主総会における議決権を制限した種類株式を発行することが認められています。

具体的には、会社法第108条第1項第3号により、「株主総会における議決権の制限(全部または一部)」を内容とする種類株式を発行することができます。これは、たとえば配当目的で株式を保有しているだけで、会社運営に口を出す意思のない株主に対して、議決権を与えないようにする制度です。

また、会社法第105条により、種類株式を発行する場合には、定款にその内容を定める必要があります。したがって、「議決権の全部を与えない」種類株式を定款で定めることは、適法であり有効です。

注意点

ただし、注意すべきは、会社法第105条第2項により、「剰余金の配当を受ける権利」および「残余財産の分配を受ける権利」の両方を有しない株式を発行する旨の定款の定めは無効となる点です。これは、株主としての経済的利益を全く認めないような株式の発行は認められないという趣旨です。
イ.株式会社は、自己株式については、議決権を有しない。

イ・・・正しい

会社法第308条第2項により、株式会社は自己株式について議決権を行使することはできません

自己株式とは、会社が自ら発行した株式を取得して保有している状態の株式のことです。このような株式に議決権を認めてしまうと、会社が自分で自分の意思決定に影響を与えることができてしまい、経営の公正さ・透明性が損なわれるおそれがあります。

また、株式会社においては「所有と経営の分離」が基本原則とされており、株主が会社経営に対して監督・意思決定を行うという仕組みになっています。自己株式に議決権を認めてしまうと、会社自身が経営に介入することになってしまい、この原則が形骸化することになります。

したがって、自己株式には議決権が認められず、その効力を持たないとされています。

ウ.取締役候補者である株主は、自らの取締役選任決議について特別の利害関係を有する者として議決に加わることができない。

ウ・・・誤り

会社法では、株主総会においては「特別の利害関係」を有する株主であっても、原則として議決権を行使することが認められています(会社法831条1項3号)。したがって、取締役に選任される予定の株主本人であっても、自らの選任に関する決議に議決権を行使することができます。

つまり、「自分を取締役にするかどうか」の決議に自分自身が加わっても違法ではありません。ただし、その議決が著しく不当である場合には、株主がその決議の取消しを請求できるにとどまります。

混乱しやすい部分

一方、混同しやすいのが取締役会における決議です。こちらでは、会社法第369条第2項により、特別の利害関係を有する取締役は、その議決に加わることができません。たとえば、取締役が会社と取引を行う場合や、利益相反のおそれがある場合などが該当します。

また、日本の中小企業では株主=取締役であることが多く、このようなケースで「自分の選任について議決に加われない」とすると、現実的に株主総会の運営が成り立たなくなるため、法律上もそのような制限は設けられていません。

エ.監査役を選任し、または解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。

エ・・・誤り

この記述は監査役の「選任」については正しいですが、「解任」についての要件が誤っています。

✅【監査役の選任

監査役の選任は、会社法第341条により普通決議で行われます。
普通決議とは、会社法第309条第1項に定められた要件で、

  • 議決権を行使できる株主の過半数が出席し、
  • その出席株主の議決権の過半数の賛成で可決されるものです。

    したがって、選任に関する記述は正確です。

    ❌【監査役の解任

    一方、監査役の解任は、会社法第339条第1項・第309条第2項第7号により、特別決議が必要です。

    特別決議の要件は以下のとおり。

    • 議決権を行使できる株主の過半数が出席し、
    • その出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要

      つまり、「出席株主の議決権の過半数」ではなく「3分の2以上」が要件であるため、本肢は誤りです。

      関連ポイントが重要なので関連ポイントは個別指導で解説します。

      オ.役員等がその任務を怠ったために株式会社に生じた損害を賠償する責任を負うこととなった場合に、当該責任を免除するには、議決権のない株主を含めた総株主の同意がなければならない。

      オ・・・正しい

      会社法第423条第1項により、役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人)は、その任務を怠ったことによって株式会社に損害を与えた場合、会社に対して損害賠償責任を負います。

      これは、会社の経営を担う者が法令や定款、善管注意義務に違反して損害を与えた場合に、その責任を明確にするためのルールです。

      免除には「総株主の同意」が必要

      この損害賠償責任は、会社法第424条により、総株主の同意がない限り、免除することができません

      ここでの「総株主」とは、議決権の有無にかかわらず、すべての株主を指します。つまり、議決権のない株主の同意も含まれるという点が非常に重要です。

      本肢は理解すべき内容なので、個別指導で解説します。


      令和6年(2024年)過去問

      問1 基礎法学 問31 民法
      問2 基礎法学 問32 民法
      問3 憲法 問33 民法
      問4 憲法 問34 民法
      問5 憲法 問35 民法
      問6 憲法 問36 商法
      問7 憲法 問37 会社法
      問8 行政法 問38 会社法
      問9 行政法 問39 会社法
      問10 行政法 問40 会社法
      問11 行政手続法 問41 多肢選択
      問12 行政手続法 問42 多肢選択
      問13 行政手続法 問43 多肢選択
      問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
      問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
      問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
      問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
      問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
      問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
      問20 国家賠償法 問50 基礎知識
      問21 国家賠償法 問51 基礎知識
      問22 地方自治法 問52 行政書士法
      問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
      問24 地方自治法 問54 基礎知識
      問25 行政法 問55 基礎知識
      問26 公文書管理法 問56 基礎知識
      問27 民法 問57 個人情報保護法
      問28 民法 問58 著作権の関係上省略
      問29 民法 問59 著作権の関係上省略
      問30 民法 問60 著作権の関係上省略

      令和6年・2024|問35|民法

      共同相続における遺産分割に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

      1. 共同相続人中の特定の1人に相続財産中の不動産の所有権を取得させる一方で当該相続人が老親介護を負担する義務を負う内容の遺産分割協議がなされた場合において、当該相続人が遺産分割協議に定められた介護を行わない場合には、他の共同相続人は債務不履行を理由として遺産分割協議自体を解除することができる。
      2. 被相続人が、相続財産中の特定の銀行預金を共同相続人中の特定の1人に相続させる旨の遺言をしていた場合、当該預金債権の価額が当該相続人の法定相続分の価額を超えるときには、当該預金債権の承継に関する債権譲渡の対抗要件を備えなければ、当該預金債権の承継を第三者に対抗できない。
      3. 共同相続人の1人が、相続開始後遺産分割の前に、被相続人が自宅に保管していた現金を自己のために費消した場合であっても、遺産分割の対象となる財産は、遺産分割時に現存する相続財産のみである。
      4. 共同相続人は、原則としていつでも協議によって遺産の全部または一部の分割をすることができ、協議が調わないときは、家庭裁判所に調停または審判の申立てをすることができるが、相続開始から10年以上放置されていた遺産の分割については、家庭裁判所に対して調停または審判の申立てを行うことができない。
      5. 相続財産中に銀行預金が含まれる場合、当該預金は遺産分割の対象となるから、相続開始後遺産分割の前に、当該預金口座から預金の一部を引き出すためには共同相続人の全員の同意が必要であり、目的、金額のいかんを問わず相続人の1人が単独で行うことは許されない。

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      【答え】:2
      【解説】
      1.共同相続人中の特定の1人に相続財産中の不動産の所有権を取得させる一方で当該相続人が老親介護を負担する義務を負う内容の遺産分割協議がなされた場合において、当該相続人が遺産分割協議に定められた介護を行わない場合には、他の共同相続人は債務不履行を理由として遺産分割協議自体を解除することができる。

      1・・・妥当でない

      このような遺産分割協議において、特定の相続人に不動産を取得させ、その代わりに介護の負担を義務づけることは、協議内容として可能です。しかし、その義務(介護)を履行しないからといって、遺産分割協議そのものを解除することはできません

      これは、次の最高裁判例(最判平成元年2月9日)に基づきます。

      共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条(債務不履行による解除)によって遺産分割協議を解除することができない。

      まず、遺産分割協議は、一度成立すれば、その効力は相続開始時に遡って確定(民法909条)します。

      協議成立後は、債務を負担した相続人と、その履行を期待する他の相続人との債権債務関係が残るのみとなります。

      もし解除を認めると、分割がなかったことになり、法的安定性を害する再分割が必要になってしまうため、解除は認められません。

      したがって、介護義務を怠ったからといって、遺産分割協議そのものを解除することはできず、介護義務については別途債務不履行として損害賠償請求などの対応を検討することになります。

      2.被相続人が、相続財産中の特定の銀行預金を共同相続人中の特定の1人に相続させる旨の遺言をしていた場合、当該預金債権の価額が当該相続人の法定相続分の価額を超えるときには、当該預金債権の承継に関する債権譲渡の対抗要件を備えなければ、当該預金債権の承継を第三者に対抗できない。

      2・・・妥当である

      この問題は、遺言によって特定の相続人に銀行預金などの可分債権を承継させる場合に、その承継の対外的効力(対抗要件)が必要かどうかが問われています。

      民法899条の2第1項
      相続による権利の承継は、遺産の分割によるものであるか否かを問わず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

      つまり、被相続人が「○○銀行の預金を全部、長男に相続させる」といった内容の遺言をした場合でも、その金額が長男の法定相続分を超える部分については、他の共同相続人や第三者に対して預金の権利を主張するには、債権譲渡と同様の対抗要件(たとえば銀行への通知や承諾など)を備える必要があります

      債権譲渡の対抗要件(民法467条)

      • 債務者(=ここでは銀行)に対する通知(確定日付があるもの)
        または
      • 債務者の承諾(確定日付がある証書による)

      が必要となります。

      よって、預金債権の承継においてその価額が法定相続分を超える場合には、債権譲渡と同様の対抗要件を備えなければ、第三者に対してその承継を主張することはできません。

      本肢は妥当であるといえます。

      3.共同相続人の1人が、相続開始後遺産分割の前に、被相続人が自宅に保管していた現金を自己のために費消した場合であっても、遺産分割の対象となる財産は、遺産分割時に現存する相続財産のみである。

      3・・・妥当でない

      遺産分割の対象となる財産については、原則として「相続開始時に被相続人に属していた財産」が対象です(民法898条)。

      ただし、相続開始後に相続人の1人が遺産(たとえば現金など)を処分してしまったとしても、その財産が「すでにない」からといって、絶対に分割の対象外になるわけではありません

      ここで重要になるのが、次の条文です。

      民法906条の2第1項(遺産の範囲の調整):
      相続人全員の同意があるときは、既に処分された財産その他現存しない財産を、遺産分割時に現存するものとみなして遺産分割の対象とすることができる。

      つまり、他の相続人全員が同意すれば、処分された現金なども「あるもの」とみなして分割の対象にできるのです。

      したがって、「遺産分割の対象は、現存する財産のみ」というのは妥当でないといえます。

      このような制度があるのは、処分された財産についても相続人間で公平な分割がなされるようにするためです。

      よって、処分された現金であっても、相続人全員の同意があれば遺産分割の対象とすることができるため、
      「遺産分割の対象は現存する財産に限る」という本肢の内容は妥当でないといえます。

      4.共同相続人は、原則としていつでも協議によって遺産の全部または一部の分割をすることができ、協議が調わないときは、家庭裁判所に調停または審判の申立てをすることができるが、相続開始から10年以上放置されていた遺産の分割については、家庭裁判所に対して調停または審判の申立てを行うことができない。

      4・・・妥当でない

      この問題は、遺産分割の申立てがいつまでできるのか、つまり「時効のような制限があるか?」という点を問うものです。

      結論から言えば、遺産分割に申立期間の制限はありません。

      民法907条(遺産の分割)

      • 共同相続人は、いつでも協議によって、遺産の全部または一部の分割をすることができる。
      • 協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、各共同相続人は、家庭裁判所に対してその分割を請求することができる。

      つまり、相続開始から10年、20年、あるいはそれ以上経っていても遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に調停や審判の申立てをすることが可能です。

      特に「法定の期限」や「時効」のような制限は設けられていません。

      したがって、本肢の内容は妥当でないです。

      本肢は、関連ポイントが重要なので、個別指導で解説します。

      5.相続財産中に銀行預金が含まれる場合、当該預金は遺産分割の対象となるから、相続開始後遺産分割の前に、当該預金口座から預金の一部を引き出すためには共同相続人の全員の同意が必要であり、目的、金額のいかんを問わず相続人の1人が単独で行うことは許されない。

      5・・・妥当でない

      まず原則として、銀行預金(預貯金債権)は、可分債権であるにもかかわらず、遺産分割の対象とされます(最高裁平成28年12月19日判決など)。
      そのため、遺産分割が完了するまでは、相続人が勝手に自分の法定相続分に応じた金額を引き出すことは原則としてできません。

      しかし、例外として、相続人が単独で一定額まで引き出すことを可能とする制度が設けられています。

      民法909条の2(預貯金の一部払戻制度):
      各共同相続人は、相続開始時の預貯金債権のうち、
      債権額の1/3 × 当該相続人の法定相続分」に相当する額まで、
      一定の上限を超えない範囲内で、家庭裁判所の関与なしに単独で引き出すことができる

      この制度は、葬儀費用や生活資金といった当面の資金需要に対応するために設けられたものです。

      なお、具体的な上限額は法務省令により定められており、銀行ごとに150万円が上限(令和5年3月現在)とされています。

      よって、預金は遺産分割の対象となるため、原則として相続人単独で引き出すことはできませんが、
      一定の金額までは例外的に単独で引き出すことが可能です。
      よって「目的・金額のいかんを問わず、単独で行うことは許されない」とする本肢の内容は妥当でないです。


      令和6年(2024年)過去問

      問1 基礎法学 問31 民法
      問2 基礎法学 問32 民法
      問3 憲法 問33 民法
      問4 憲法 問34 民法
      問5 憲法 問35 民法
      問6 憲法 問36 商法
      問7 憲法 問37 会社法
      問8 行政法 問38 会社法
      問9 行政法 問39 会社法
      問10 行政法 問40 会社法
      問11 行政手続法 問41 多肢選択
      問12 行政手続法 問42 多肢選択
      問13 行政手続法 問43 多肢選択
      問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
      問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
      問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
      問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
      問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
      問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
      問20 国家賠償法 問50 基礎知識
      問21 国家賠償法 問51 基礎知識
      問22 地方自治法 問52 行政書士法
      問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
      問24 地方自治法 問54 基礎知識
      問25 行政法 問55 基礎知識
      問26 公文書管理法 問56 基礎知識
      問27 民法 問57 個人情報保護法
      問28 民法 問58 著作権の関係上省略
      問29 民法 問59 著作権の関係上省略
      問30 民法 問60 著作権の関係上省略

      令和6年・2024|問34|民法

      不法行為に基づく損害賠償に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
      ※ 試験センターより「正答肢が二つある」として、全員が正解扱い。よって本問は没問となりました。なので、妥当なものを2つ選びなさい

      1. 不法行為による生命侵害の場合において、被害者の相続人であれば、常に近親者固有の慰謝料請求権が認められる。
      2. 法人が名誉毀損を受けた場合、法人には感情がないので、財産的損害を除き、非財産的損害の賠償は認められない。
      3. 交通事故による被害者が、いわゆる個人会社の唯一の代表取締役であり、被害者には当該会社の機関としての代替性がなく、被害者と当該会社とが経済的に一体をなす等の事情の下では、当該会社は、加害者に対し、被害者の負傷のため営業利益を逸失したことによる賠償を請求することができる。
      4. 不法行為により身体傷害を受けた被害者は、後遺症が残ったため、労働能力の全部または一部の喪失により将来において取得すべき利益を喪失した場合には、その損害について定期金ではなく、一時金による一括賠償しか求めることができない。
      5. 交通事故の被害者が後遺症により労働能力の一部を喪失した場合に、その後に被害者が別原因で死亡したとしても、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は逸失利益に関する就労可能期間の認定において考慮されない。

      >解答と解説はこちら


      【答え】:3、5が妥当
      【解説】
      1.不法行為による生命侵害の場合において、被害者の相続人であれば、常に近親者固有の慰謝料請求権が認められる。

      1・・・妥当でない

      民法711条は、他人の生命を侵害した者は、被害者の父母・配偶者・子に対して、財産的損害がなくても慰謝料を支払う義務があると定めています(=これが「近親者固有の慰謝料請求権」)。

      しかし、それ以外の相続人(たとえば兄弟姉妹など)については、自動的にこの権利が認められるわけではありません

      判例(最判昭和33年8月5日)では、711条に書かれていない人でも、被害者と特に強い身分関係があり、深刻な精神的苦痛を受けた場合には、類推適用によって慰謝料請求が認められるとしています。

      つまり、「相続人である」という理由だけで、常に固有の慰謝料請求権が認められるわけではないです。

      2.法人が名誉毀損を受けた場合、法人には感情がないので、財産的損害を除き、非財産的損害の賠償は認められない。

      2・・・妥当でない

      たしかに法人には人間のような「感情」はありませんが、法人にも「名誉」はあります。名誉とは、その者が社会から受ける客観的評価のことであり、これは個人だけでなく法人にも認められます。したがって、法人が名誉毀損を受けた場合には、非財産的損害(無形の精神的損害)であっても、金銭で評価できる限り損害賠償の対象になります(最判昭和39年1月28日)。つまり、「感情がないから非財産的損害の賠償は認められない」というのは誤り(妥当ではない)です。

      3.交通事故による被害者が、いわゆる個人会社の唯一の代表取締役であり、被害者には当該会社の機関としての代替性がなく、被害者と当該会社とが経済的に一体をなす等の事情の下では、当該会社は、加害者に対し、被害者の負傷のため営業利益を逸失したことによる賠償を請求することができる。

      3・・・妥当である

      交通事故などで、個人会社の代表者が負傷した場合、その会社の営業がストップして利益を失うことがあります。

      このとき、次のような条件がそろっていれば、会社自身が加害者に対して損害賠償を請求できます(最判昭和43年11月15日)。

      • 会社の代表者に代わりがいない(代替性がない)
      • 会社と代表者が経済的に一体関係にある(≒個人会社である)

      つまり、事故で代表者が働けず会社の営業が止まり利益を失った場合、会社の損害として加害者に請求できるということです。

      4.不法行為により身体傷害を受けた被害者は、後遺症が残ったため、労働能力の全部または一部の喪失により将来において取得すべき利益を喪失した場合には、その損害について定期金ではなく、一時金による一括賠償しか求めることができない。

      4・・・妥当でない

      被害者が後遺症により将来の収入(逸失利益)を失った場合、その損害は一括の一時金だけでなく、定期金による賠償も認められることがあります。

      たとえば、最判令和2年7月9日では、交通事故により高次脳機能障害を負った被害者が、労働能力をすべて失い、長期間にわたって収入を得られないと見込まれる状況で、定期金による支払いが認められました。

      つまり、事情によっては被害者側が定期金での賠償を求めることも可能であり、「一括しか求められない」というのは誤りです。

      定期金とは?

      一定の期間ごとに、決まった金額を継続して支払うお金のことです。
      損害賠償の場面では、たとえば毎月○万円ずつ、あるいは年に1回○万円ずつ支払うというような形です。

      5.交通事故の被害者が後遺症により労働能力の一部を喪失した場合に、その後に被害者が別原因で死亡したとしても、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は逸失利益に関する就労可能期間の認定において考慮されない。

      5・・・妥当である

      逸失利益とは、後遺障害などで本来得られたはずの収入が得られなくなることによる損害のことです。

      この逸失利益を計算する際には、「本来どれだけ働けたか(就労可能期間)」が重要になります。

      判例(最判平成8年4月25日)では、交通事故の後に、全く別の原因で被害者が死亡したとしても、次のような特段の事情がなければ、その死亡は逸失利益の計算に影響しないとしました。

      • 事故の時点で死亡の原因となる病気などがすでにあった
      • 近い将来に死亡することが客観的に予測できた

      つまり、事故のあとにたまたま別の理由で亡くなった場合でも、事故当時にそうした事情がなければ、「本来の就労可能年齢(たとえば70歳)」まで働けたものとして逸失利益を計算する、ということです。


      令和6年(2024年)過去問

      問1 基礎法学 問31 民法
      問2 基礎法学 問32 民法
      問3 憲法 問33 民法
      問4 憲法 問34 民法
      問5 憲法 問35 民法
      問6 憲法 問36 商法
      問7 憲法 問37 会社法
      問8 行政法 問38 会社法
      問9 行政法 問39 会社法
      問10 行政法 問40 会社法
      問11 行政手続法 問41 多肢選択
      問12 行政手続法 問42 多肢選択
      問13 行政手続法 問43 多肢選択
      問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
      問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
      問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
      問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
      問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
      問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
      問20 国家賠償法 問50 基礎知識
      問21 国家賠償法 問51 基礎知識
      問22 地方自治法 問52 行政書士法
      問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
      問24 地方自治法 問54 基礎知識
      問25 行政法 問55 基礎知識
      問26 公文書管理法 問56 基礎知識
      問27 民法 問57 個人情報保護法
      問28 民法 問58 著作権の関係上省略
      問29 民法 問59 著作権の関係上省略
      問30 民法 問60 著作権の関係上省略

      令和6年・2024|問33|民法

      組合に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、正しいものはどれか。

      1. 組合の業務の決定は、組合契約の定めるところにより、一人または数人の組合員に委任することができるが、第三者に委任することはできない。
      2. 組合の業務の執行は、組合契約の定めるところにより、一人または数人の組合員に委任することができるが、第三者に委任することはできない。
      3. 各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属し、各組合員は、いつでも組合財産の分割を請求することができる。
      4. 組合契約で組合の存続期間を定めた場合であるか、これを定めなかった場合であるかを問わず、各組合員は、いつでも脱退することができる。
      5. 組合契約の定めるところにより一人または数人の組合員に業務の決定および執行を委任した場合、その組合員は、正当な事由があるときに限り、他の組合員の一致によって解任することができる。

      >解答と解説はこちら


      【答え】:5
      【解説】
      1.組合の業務の決定は、組合契約の定めるところにより、一人または数人の組合員に委任することができるが、第三者に委任することはできない。

      1・・・誤り

      民法670条2項では、組合の業務の「決定」および「執行」は、組合契約の定めにより、一人または数人の組合員に限らず、第三者にも委任することができると定められています。
      したがって、組合の業務の決定を第三者に委任することも可能です。

      ✅ つまり、組合の業務を誰に任せられるかは「組合契約次第」。組合員だけでなく、外部の第三者に任せることも法律上はOKです!
      2.組合の業務の執行は、組合契約の定めるところにより、一人または数人の組合員に委任することができるが、第三者に委任することはできない。

      2・・・誤り

      民法670条2項により、組合の業務の「執行」についても、組合契約で定めれば、第三者に委任することが可能です。
      したがって、「第三者に委任できない」とする本肢の記述は誤りです。

      ✅ つまり、業務の「決定」だけでなく「執行」も、組合契約の内容しだいで、第三者に委任することができます!
      3.各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属し、各組合員は、いつでも組合財産の分割を請求することができる。

      3・・・誤り

      たしかに、組合財産は総組合員の共有に属する(民法668条)という点は正しいです。
      しかし、「各組合員がいつでも分割を請求できる」というのは誤りです。

      民法676条3項により、組合の清算前に組合財産の分割を請求することはできません
      なぜなら、組合財産は組合の目的を達成するための共通財産であり、途中で自由に分割されてしまうと、組合の運営に支障が出るためです。

      ✅ つまり、組合財産の分割請求は「清算の段階」になってから。運営中は勝手に分けられません!
      4.組合契約で組合の存続期間を定めた場合であるか、これを定めなかった場合であるかを問わず、各組合員は、いつでも脱退することができる。

      4・・・誤り

      「いつでも脱退することができる」というのは誤りです。
      民法678条には、脱退が制限される場合が明確に定められています。

      🔹 ①組合の存続期間を定めなかった場合(民法678条1項)

       原則、いつでも脱退できます。
      ただし、組合に不利な時期には脱退できない※やむを得ない事由があるときは除く

      🔹 ②組合の存続期間を定めた場合(民法678条2項)

       原則として、存続期間中の脱退はできません
      ただし、やむを得ない事由があるときは脱退が認められます。

      ✅ つまり:脱退の自由は無制限ではありません!
      状況によって「時期」や「理由」に制限があります!
      5.組合契約の定めるところにより一人または数人の組合員に業務の決定および執行を委任した場合、その組合員は、正当な事由があるときに限り、他の組合員の一致によって解任することができる。

      5・・・正しい

      民法672条2項により、業務の決定および執行を委任された組合員は、正当な事由がある場合に限って、他の組合員全員の一致によって解任することができます
      これは、業務を任されている組合員の地位を安定させ、軽率な解任によって組合運営が混乱することを防ぐためです。

      また、委任された組合員自身も、正当な事由がなければ辞任できません(民法672条1項)。
      したがって、「正当な事由があるときに限り解任できる」とする本肢の記述は正しいです。

      ✅ つまり、業務を任された組合員の地位は安易に動かせない。解任も辞任も「正当な事由」が必要です!


      令和6年(2024年)過去問

      問1 基礎法学 問31 民法
      問2 基礎法学 問32 民法
      問3 憲法 問33 民法
      問4 憲法 問34 民法
      問5 憲法 問35 民法
      問6 憲法 問36 商法
      問7 憲法 問37 会社法
      問8 行政法 問38 会社法
      問9 行政法 問39 会社法
      問10 行政法 問40 会社法
      問11 行政手続法 問41 多肢選択
      問12 行政手続法 問42 多肢選択
      問13 行政手続法 問43 多肢選択
      問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
      問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
      問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
      問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
      問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
      問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
      問20 国家賠償法 問50 基礎知識
      問21 国家賠償法 問51 基礎知識
      問22 地方自治法 問52 行政書士法
      問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
      問24 地方自治法 問54 基礎知識
      問25 行政法 問55 基礎知識
      問26 公文書管理法 問56 基礎知識
      問27 民法 問57 個人情報保護法
      問28 民法 問58 著作権の関係上省略
      問29 民法 問59 著作権の関係上省略
      問30 民法 問60 著作権の関係上省略

      令和6年・2024|問32|民法

      A所有の動産甲(以下「甲」という)を、BがCに売却する契約(以下「本件契約」という)に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

      1. Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うが、本件契約成立の当初からAには甲を他に譲渡する意思のないことが明確であり、甲の所有権をCに移転することができない場合には、本件契約は実現不能な契約として無効である。
      2. Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うところ、本件契約後にBが死亡し、AがBを単独相続した場合においては、Cは当然に甲の所有権を取得する。
      3. Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主とする本件契約を締結し、Cに対して甲を現実に引き渡した場合、Cは即時取得により甲の所有権を取得する。
      4. Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主として本件契約を締結した場合、Bに本件契約の代理権がないことを知らなかったが、そのことについて過失があるCは、本件契約が無効となった場合であっても、Bに対して履行または損害賠償の請求をすることができない。
      5. Aが法人で、Bがその理事である場合、Aの定款に甲の売却に関しては理事会の承認が必要である旨の定めがあり、Bが、理事会の承認を得ないままにAを売主、Cを買主とする本件契約を締結したとき、Cが、その定款の定めを知っていたとしても、理事会の承認を得ていると過失なく信じていたときは、本件契約は有効である。

      >解答と解説はこちら


      【答え】:5
      【解説】
      1.Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うが、本件契約成立の当初からAには甲を他に譲渡する意思のないことが明確であり、甲の所有権をCに移転することができない場合には、本件契約は実現不能な契約として無効である。

      1・・・妥当でない

      本件契約は 有効 であり、「無効」とするのは妥当ではありません。

      他人の物の売買は有効(民法561条)
      民法561条では、他人の物を売買の目的とする契約も原則として有効とされており、売主はその目的物を取得して買主に引き渡す義務を負うとされています。
      つまり、売主がその物の所有者でなくても、売買契約そのものは成立します。

      原始的不能でも契約は有効(民法412条の2第2項)
      契約締結時点ですでに履行が不能であっても(=原始的不能)、
      契約は原則として無効にはなりません
      履行不能により損害が発生した場合は、債務不履行責任として損害賠償請求が可能です。

      判例(最判昭和25年10月26日)
      目的物の真の所有者が、契約当初からその物を譲渡する意思がなくても、
      売買契約は有効
      とし、売主は買主に対して担保責任を負うと判示しています。

      つまり、Aが甲を他人に譲渡する意思が最初からなかったとしても、BとCとの間で成立した売買契約は有効です。
      BはAから甲を取得してCに移転する義務を負います。
      したがって、「本件契約が無効である」とする記述は妥当でないです。

      2.Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うところ、本件契約後にBが死亡し、AがBを単独相続した場合においては、Cは当然に甲の所有権を取得する。

      2・・・妥当でない

      Cは当然に甲の所有権を取得するわけではない。
      したがって、「Cが当然に所有権を取得する」とする記述は妥当ではありません。

      他人の物の売買は有効(民法561条)
      まず前提として、BがAの所有物(甲)をCに売却した場合、
      たとえBが甲の所有者でなくても、契約は有効であり、
      BはAから甲を取得してCに移転する義務を負います。

      売主の死亡と相続の効果
      Bが死亡し、AがBを単独で相続した場合、AはBの売主としての地位(契約上の義務)を承継します。

      しかし、ここで重要なのは、

      A=所有者(=「権利者」)が、自身の所有権をCに移転する義務を当然に負うわけではない
      という点です。

      判例の考え方(最大判昭和49年9月4日)

      この判例では次のように述べられています。

      • 所有者(A)は、相続によって売主の地位を承継しても、
        自己の意思で目的物の移転を拒否できる自由を持つ
      • 相続によってたまたま売主となったからといって、
        所有者が自動的に売買契約に拘束されることはない。
      • よって、特別な事情(信義則に反するような事情)がない限り
        所有者はその権利の移転を拒むことができる

      上記をまとめると、
      Bの死亡後、AがBを相続しても、AがCに甲を当然に引き渡さなければならないわけではありません。
      Aが売主の地位を承継しても、自己の所有物を引き渡す義務までは負わないというのが判例の立場です。
      したがって、本件の「Cが当然に所有権を取得する」とする記述は、誤り=妥当でないです。

      3.Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主とする本件契約を締結し、Cに対して甲を現実に引き渡した場合、Cは即時取得により甲の所有権を取得する。

      3・・・妥当でない

      Cは即時取得により甲の所有権を取得するとはいえないので本肢妥当ではないです。

      無権代理行為の原則(民法113条)

      BはAの代理人と偽って契約を締結しているため、これは無権代理行為です。

      民法113条1項により、

      無権代理人の行為は、本人が追認しなければ無効であり、
      本人(=A)に効果は帰属しません。

      つまり、本件契約は原則として無効です。

      即時取得(民法192条)の要件

      即時取得とは、以下の条件をすべて満たしたときに成立します。

      1. 動産の取引行為により
      2. 平穏・公然に占有を開始し
      3. 善意・無過失であること

      ここで問題になるのが「1.取引行為」の要件です。

      「取引行為」としての有効性が必要

      判例・通説によれば、
      即時取得における「取引行為」とは、形式上・実体上の有効な法律行為を意味します。

      つまり、契約自体が無効である場合には、「取引行為」に当たらず
      即時取得の要件を欠くことになります。

      したがって、無権代理による売買契約は、本人の追認がない限り無効である以上、
      そのような行為に基づく引渡しによってCが即時取得することはできません。

      よって、
      Bが無権代理人として契約をした場合、その契約はAの追認がない限り無効であり、
      Cへの引渡しがあっても、「取引行為」による占有開始とは認められません。

      したがって、Cは即時取得によって所有権を取得することはできず、記述は妥当でないといえます。

      4.Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主として本件契約を締結した場合、Bに本件契約の代理権がないことを知らなかったが、そのことについて過失があるCは、本件契約が無効となった場合であっても、Bに対して履行または損害賠償の請求をすることができない。

      4・・・妥当でない

      CはBに対して履行または損害賠償を請求することができる。
      よって、「請求できない」とする設問の記述は妥当でない。

      無権代理人の責任(民法117条1項)

      無権代理人(=B)は、次のいずれかを満たさない限り、相手方(=C)に対して責任を負います。

      • 代理権の存在を証明した場合
      • 本人の追認を得た場合

      これらを満たさない場合には、Cは、履行請求または損害賠償請求のいずれかを選べます(民法117条1項)。

      例外規定(民法117条2項)

      ただし、以下のケースでは、B(無権代理人)は責任を負いません

      • CがBに代理権がないことを知っていたとき
      • Cが過失により知らなかったとき(=過失による善意

      つまり、原則として「Cに過失があるとき」は、Bに責任はないことになります。

      ただし書の適用(民法117条2項2号ただし書)

      しかし、今回のように、Bが自分に代理権がないことを知りつつ、Aの代理人であると偽って契約した場合にはどうなるでしょうか?

      この場合は、民法117条2項2号ただし書が適用され、

      Cに過失があっても、Bは責任を負う
      とされます。

      なぜなら、Bの行為は故意による「信頼侵害」といえるため、相手方であるCを保護する必要があるからです。

      よって、

      • Bは自分に代理権がないことを知っていた(=故意に無権代理行為をした)
      • Cはそれを知らず、たとえ過失があったとしても、
      • Bは契約責任(履行または損害賠償)を負います。

      したがって、「Cは請求できない」とする設問の記述は、誤り(妥当でない)です。

      5.Aが法人で、Bがその理事である場合、Aの定款に甲の売却に関しては理事会の承認が必要である旨の定めがあり、Bが、理事会の承認を得ないままにAを売主、Cを買主とする本件契約を締結したとき、Cが、その定款の定めを知っていたとしても、理事会の承認を得ていると過失なく信じていたときは、本件契約は有効である。

      5・・・妥当である

      法人の代表理事の権限と定款の制限

      一般に、法人の代表理事には、対外的に広範な代表権があります。
      ただし、定款で内部的に代表権が制限されていることもあり、
      本件のように「重要な財産(甲)の売却には理事会の承認が必要」とされることがあります。

      表見代理の類推適用(民法110条の趣旨)

      問題は、理事会の承認がない場合でも、契約は有効か?という点。

      この点に関して、判例(最判昭和60年11月29日)は、

      たとえ買主が、定款上の承認の要否を知っていたとしても、実際に承認があったと信じ、かつ、それを信じたことに正当な理由があれば契約は有効となる

      と判示しています。

      これは、民法110条(代理権の範囲を超えた表見代理)の趣旨を類推適用したものです。

      本肢の場合の適用

      本肢は、

      • Cは定款で「理事会承認が必要」と知っていた
      • しかし、理事会で承認されたと信じた
      • その信頼に過失がなかった(=信じたことに正当な理由がある)

      という要件を満たしており、
      判例に従えば、契約は有効に成立します。

      したがって、
      法人の内部規定である定款の制限があっても、
      第三者(C)が承認があったと信じたことに正当な理由がある場合には、
      表見代理の考え方が類推され、契約は有効になります。

      よって、本肢は妥当です。


      令和6年(2024年)過去問

      問1 基礎法学 問31 民法
      問2 基礎法学 問32 民法
      問3 憲法 問33 民法
      問4 憲法 問34 民法
      問5 憲法 問35 民法
      問6 憲法 問36 商法
      問7 憲法 問37 会社法
      問8 行政法 問38 会社法
      問9 行政法 問39 会社法
      問10 行政法 問40 会社法
      問11 行政手続法 問41 多肢選択
      問12 行政手続法 問42 多肢選択
      問13 行政手続法 問43 多肢選択
      問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
      問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
      問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
      問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
      問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
      問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
      問20 国家賠償法 問50 基礎知識
      問21 国家賠償法 問51 基礎知識
      問22 地方自治法 問52 行政書士法
      問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
      問24 地方自治法 問54 基礎知識
      問25 行政法 問55 基礎知識
      問26 公文書管理法 問56 基礎知識
      問27 民法 問57 個人情報保護法
      問28 民法 問58 著作権の関係上省略
      問29 民法 問59 著作権の関係上省略
      問30 民法 問60 著作権の関係上省略

      令和6年・2024|問31|民法

      Aは、Bから金銭を借り受け、Cが、Aの同貸金債務を保証した。次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。

      1. AがBに対し保証人を立てる義務を負う場合において、BがCを指名したときは、Cが弁済をする資力を有しなくなったときでも、Bは、Aに対し、Cに代えて資力を有する保証人を立てることを請求することはできない。
      2. AがBに対し保証人を立てる義務を負う場合において、BがCを指名するときは、Cは、行為能力者でなければならない。
      3. BのAに対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予および更新は、Cに対しても、その効力を生ずる。
      4. Cの保証債務は、Aの債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。
      5. Cは、その保証債務についてのみ、違約金または損害賠償の額を約定することができる。

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      【答え】:2
      【解説】
      1.AがBに対し保証人を立てる義務を負う場合において、BがCを指名したときは、Cが弁済をする資力を有しなくなったときでも、Bは、Aに対し、Cに代えて資力を有する保証人を立てることを請求することはできない。

      1・・・正しい

      民法では、債務者が保証人を立てる義務を負っている場合、その保証人には一定の要件が求められます。

      民法450条

      第1項:保証人は、弁済の資力がある者で、かつ行為能力者でなければならない。

      第2項:保証人が弁済前にこれらの要件を欠いた場合、債権者は債務者に対して、別の要件を満たす保証人を立てるよう請求できる。

      第3項:ただし、保証人を債権者が指名した場合には、第1項・第2項の規定は適用されない

      本肢

      保証人Cは、債権者Bが指名しています。このような場合には、たとえCが後に資力を失っても、民法450条1項・2項の適用がないため、BはAに「新たな保証人を立てろ」と請求することはできません。

      よって、本問の「Bは、Aに対し、Cに代えて資力を有する保証人を立てることを請求することはできない」という記述は正しいです。

      2.AがBに対し保証人を立てる義務を負う場合において、BがCを指名するときは、Cは、行為能力者でなければならない。

      2・・・誤り

      保証人の条件について、民法は次のように定めています。

      450条1項
      債務者が保証人を立てる義務を負うとき、その保証人は
      弁済する資力があること
      行為能力者であること
      が必要。

      450条2項
      保証人が途中でこれらの要件を欠いたときは、債権者は債務者に対し、要件を満たす保証人に代えるよう請求できる。

      450条3項
      しかし、保証人を債権者が指名した場合には、上記の1項・2項は適用されない。

      本肢

      保証人Cは、債権者Bが指名しています。このような場合には、民法450条1項・2項の適用がなくなります。よって、Cは行為能力者である必要はないし、資力がなくても構いません。

      よって、本肢は「債権者BがCを指名した場合でも、Cは行為能力者でなければならない」としていますが、これは民法450条3項により誤りです。

      3.BのAに対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予および更新は、Cに対しても、その効力を生ずる。

      3・・・正しい

      主たる債務者(この場合はA)に対する以下の行為によって、時効の完成猶予や更新が生じた場合、それは保証人(この場合はC)にも影響します(民法457条1項)。

      たとえば…

      • 債権者BがAに請求した
      • Aが一部支払った
      • Aが債務を承認した

      こうした場合、保証人Cに対しても、時効の猶予や更新が生じます。

      よって、本肢の「主たる債務者に対する時効の猶予・更新が保証人にも効力を生ずる」という記述は、民法457条1項に基づき正しいです。

      本肢は周辺知識も重要なので、個別指導で解説します。

      4.Cの保証債務は、Aの債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。

      4・・・正しい

      保証人は、原則として「主たる債務(=Aの債務)」だけでなく、その債務に付随する利息・違約金・損害賠償なども一緒に負担することになります。

      これは、民法447条1項に規定されています。

      民法447条1項
      保証債務は、主たる債務に付随する利息、違約金、損害賠償その他すべての従たるものをも包含する

      つまり、Cは単にAの元本だけでなく、それにかかる遅延利息や損害賠償金なども支払う義務を負うのです。

      ただし、これは特約がない限りの原則です。
      契約で「元本だけを保証する」と明記されていれば、そのような限定も可能です。

      5.Cは、その保証債務についてのみ、違約金または損害賠償の額を約定することができる。

      5・・・正しい

      この問題のポイントは、保証人と債権者との間で「違約金」や「損害賠償の金額」を決めておくことができるか?という点です。

      民法では、保証人が自分の保証債務に関して、債権者との間で特別に違約金や損害賠償の額を定める(=約定する)ことができるとされています。

      これは民法447条2項に規定されています。

      民法447条2項
      保証人は、その保証債務についてのみ、債権者と違約金または損害賠償の額をあらかじめ定めることができる

      つまり、主たる債務者(A)との契約とは別に、保証人(C)と債権者(B)との間で、

      • 違約金はいくらにするか
      • 損害賠償はどういう場合に発生し、いくらにするか

      といった条件を独自に取り決めることができるということです。


      令和6年(2024年)過去問

      問1 基礎法学 問31 民法
      問2 基礎法学 問32 民法
      問3 憲法 問33 民法
      問4 憲法 問34 民法
      問5 憲法 問35 民法
      問6 憲法 問36 商法
      問7 憲法 問37 会社法
      問8 行政法 問38 会社法
      問9 行政法 問39 会社法
      問10 行政法 問40 会社法
      問11 行政手続法 問41 多肢選択
      問12 行政手続法 問42 多肢選択
      問13 行政手続法 問43 多肢選択
      問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
      問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
      問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
      問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
      問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
      問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
      問20 国家賠償法 問50 基礎知識
      問21 国家賠償法 問51 基礎知識
      問22 地方自治法 問52 行政書士法
      問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
      問24 地方自治法 問54 基礎知識
      問25 行政法 問55 基礎知識
      問26 公文書管理法 問56 基礎知識
      問27 民法 問57 個人情報保護法
      問28 民法 問58 著作権の関係上省略
      問29 民法 問59 著作権の関係上省略
      問30 民法 問60 著作権の関係上省略

      令和6年・2024|問27|民法

      失踪の宣告に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

      1. 不在者の生死が7年間明らかでない場合において、利害関係人の請求により家庭裁判所が失踪の宣告をしたときは、失踪の宣告を受けた者は、7年間の期間が満了した時に、死亡したものとみなされる。
      2. 失踪の宣告を受けた者が実際には生存しており、不法行為により身体的被害を受けていたとしても、失踪の宣告が取り消されなければ、損害賠償請求権は発生しない。
      3. 失踪の宣告の取消しは、必ず本人の請求によらなければならない。
      4. 失踪の宣告によって失踪者の財産を得た者は、失踪の宣告が取り消されたときは、その受けた利益の全部を返還しなければならない。
      5. 失踪の宣告によって失踪者の所有する甲土地を相続した者が、甲土地を第三者に売却した後に、失踪者の生存が判明し、この者の失踪の宣告が取り消された。この場合において、相続人が失踪者の生存について善意であったときは、第三者が悪意であっても、甲土地の売買契約による所有権移転の効果に影響しない。

      >解答と解説はこちら


      【答え】:1
      【解説】
      1.不在者の生死が7年間明らかでない場合において、利害関係人の請求により家庭裁判所が失踪の宣告をしたときは、失踪の宣告を受けた者は、7年間の期間が満了した時に、死亡したものとみなされる。

      1・・・妥当である

      不在者の生死が 7年間不明 な場合、利害関係人(家族など)は、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることができます(民法30条1項)。

      失踪宣告には2種類あります。

      普通失踪

      長期間(7年)生死がわからない場合
      7年が満了した時に死亡したとみなされます。

      特別失踪

      戦争や災害など、生死に関わる危険(危難)に遭遇した場合。
      → その危難が去った時に死亡とみなされます。

      この問題は①の「普通失踪」に関するものであり、内容は正しいです(民法31条)。

      2.失踪の宣告を受けた者が実際には生存しており、不法行為により身体的被害を受けていたとしても、失踪の宣告が取り消されなければ、損害賠償請求権は発生しない。

      2・・・妥当でない

      失踪の宣告を受けた者は、法律上「死亡したもの」とみなされます(民法31条)。
      しかし、この「みなし死亡」は、相続など法律関係の清算を目的とした擬制にすぎず、失踪者の権利能力そのものを否定するものではありません。

      したがって、失踪宣告後に本人が実際に生存していたことが判明し、たとえば第三者から不法行為による身体的被害を受けていた場合には、たとえ失踪の宣告がまだ取り消されていなかったとしても、本人は損害賠償請求権を有すると解されます。

      つまり、損害賠償請求権の発生は、「失踪の宣告の有無」ではなく実際に生存しており、被害を受けた事実に基づいて判断されるべきです。

      3.失踪の宣告の取消しは、必ず本人の請求によらなければならない。

      3・・・妥当でない

      失踪宣告の取消しは、必ずしも本人の請求に限られるものではなく、利害関係人も請求することができます(民法32条1項)。

      つまり、たとえば失踪者の配偶者や相続人、関係する契約の相手方など、利害関係を有する第三者が、失踪者の生存または実際の死亡時期が失踪宣告によるみなし死亡時期と異なることを証明すれば、家庭裁判所に対して取消しの請求を行うことが可能です。

      したがって、「必ず本人の請求によらなければならない」というのは誤りです。

      4.失踪の宣告によって失踪者の財産を得た者は、失踪の宣告が取り消されたときは、その受けた利益の全部を返還しなければならない。

      4・・・妥当でない

      失踪宣告により財産を取得した者は、その後に失踪宣告が取り消されると、原則としてその財産を返還する義務があります(民法32条2項)。
      しかし、返還義務は 「現に利益を受けている限度」 にとどまります。つまり、受けた利益のすべてを返還しなければならないわけではありません

      この「現に利益を受けている限度」とは、たとえば受け取った財産がまだ手元にある、または形を変えて残っている場合などを指し、既に消費してしまっている部分には返還義務が生じないこともあります。

      判例の例

      • 遊興費として消費した金銭:返還義務なし(大判昭和14年10月26日)
      • 生活費に充てた場合:現存利益ありとされ返還義務がある(大判昭和8年2月23日)
        → これは、「生活費は通常支出すべき費用であり、他の財産を節約できた」という理屈によるもの。

      このように、返還義務は「形式的に受け取った財産全額」ではなく、「実質的に残っている利益の範囲」で判断されるため、「全部を返還しなければならない」という記述は妥当ではありません。

      5.失踪の宣告によって失踪者の所有する甲土地を相続した者が、甲土地を第三者に売却した後に、失踪者の生存が判明し、この者の失踪の宣告が取り消された。この場合において、相続人が失踪者の生存について善意であったときは、第三者が悪意であっても、甲土地の売買契約による所有権移転の効果に影響しない。

      5・・・妥当でない

      民法32条1項では、失踪の宣告が取り消された場合であっても、その取消し前に善意でした行為の効力には影響しないとされています。
      しかしこの「善意でした行為」として保護されるには、当事者双方(=失踪者から財産を得た者と、譲り受けた第三者)が善意であることが必要です。

      したがって、

      • 相続人が失踪者の生存について善意でも、
      • 売却先の第三者が悪意(=失踪者が生きていることを知っていた)であれば、

      その所有権移転の効果は否定される可能性があり、失踪者の本来の所有権が回復することになります。

      このように、「第三者が悪意であっても効力に影響しない」とするのは誤りであり、両当事者が善意であることが保護の要件です(大判昭和13年2月7日)。


      令和6年(2024年)過去問

      問1 基礎法学 問31 民法
      問2 基礎法学 問32 民法
      問3 憲法 問33 民法
      問4 憲法 問34 民法
      問5 憲法 問35 民法
      問6 憲法 問36 商法
      問7 憲法 問37 会社法
      問8 行政法 問38 会社法
      問9 行政法 問39 会社法
      問10 行政法 問40 会社法
      問11 行政手続法 問41 多肢選択
      問12 行政手続法 問42 多肢選択
      問13 行政手続法 問43 多肢選択
      問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
      問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
      問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
      問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
      問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
      問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
      問20 国家賠償法 問50 基礎知識
      問21 国家賠償法 問51 基礎知識
      問22 地方自治法 問52 行政書士法
      問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
      問24 地方自治法 問54 基礎知識
      問25 行政法 問55 基礎知識
      問26 公文書管理法 問56 基礎知識
      問27 民法 問57 個人情報保護法
      問28 民法 問58 著作権の関係上省略
      問29 民法 問59 著作権の関係上省略
      問30 民法 問60 著作権の関係上省略

      令和6年・2024|問30|民法

      Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

      1. Bの抵当権設定登記後に設定されたCの賃借権はBに対して対抗することができないため、Bは、Cに対して、直ちに抵当権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。
      2. Bの抵当権が実行された場合において、買受人Dは、Cに対して、直ちに所有権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。
      3. AがCに対して有する賃料債権をEに譲渡し、その旨の債権譲渡通知が内容証明郵便によって行われた後、Bが抵当権に基づく物上代位権の行使として当該賃料債権に対して差押えを行った場合、当該賃料債権につきCがいまだEに弁済していないときは、Cは、Bの賃料支払請求を拒むことができない。
      4. Cのための賃借権の設定においてBの抵当権の実行を妨害する目的が認められ、Cの占有により甲の交換価値の実現が妨げられてBの優先弁済権の行使が困難となるような状態がある場合、Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できるときであっても、Bは、Cに対して、抵当権に基づく妨害排除請求として甲の直接自己への明渡しを求めることができる。
      5. CがAの承諾を得て甲をFに転貸借した場合、Bは、特段の事情がない限り、CがFに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することができる。

      >解答と解説はこちら


      【答え】:3
      【解説】
      1.Bの抵当権設定登記後に設定されたCの賃借権はBに対して対抗することができないため、Bは、Cに対して、直ちに抵当権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。

      1・・・妥当でない

      事案の整理

      • Aが所有する甲建物に、Bのために抵当権が設定され、その抵当権設定登記も完了している。
      • その後、Cが甲建物の賃借権を取得し、使用収益(占有)を開始している。
      • このとき問題となるのは、「Cの賃借権は、Bに対抗できるか?」「Bは、Cに対して明渡しを求められるか?」という点です。

      解説

      たしかに、Cの賃借権は、Bの抵当権設定登記後に設定されたものなので、原則としてBに対抗できません(物権変動の対抗関係)。

      しかし、B(抵当権者)が直ちにCに対して明渡しを請求できるわけではありません。

      最判平成17年3月10日の趣旨

      抵当権者が占有者に対して妨害排除請求(明渡し請求など)をするには、以下のような特段の事情が必要です。

      判例の要点

      抵当不動産を占有する者が、抵当権設定登記後に占有権原(この場合は賃借権)を取得している場合でも、

      その占有が、

      • 競売手続を妨害する目的によるものであり、
      • 占有により抵当不動産の交換価値の実現(売却代金の確保)が妨げられ、
      • 優先弁済請求権の行使が困難となる

      ような事情がある場合には、抵当権に基づく妨害排除請求が認められる。

      また、

      抵当不動産の所有者が、抵当権の価値を適切に維持できない場合には、抵当権者が直接、明渡しを求めることができる。

      したがって、
      Cの賃借権がBに対抗できないからといって、直ちに明渡しを請求できるわけではなく、
      競売妨害や交換価値の毀損など、特段の事情がある場合に限り、明渡しなどの妨害排除請求が認められます。

      よって、抵当権者が占有者(賃借人)に対して明渡しを請求するには、特段の事情が必要であり、「直ちに」明渡し請求できるわけではないから、本肢は妥当ではありません。

      2.Bの抵当権が実行された場合において、買受人Dは、Cに対して、直ちに所有権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。

      2・・・妥当でない

      事案の整理

      • Aが所有する甲建物に、Bの抵当権が設定・登記された。
      • その後、Cが甲建物について賃借権を取得し、使用収益(占有)を開始。
      • そして、Bの抵当権が実行され、甲建物が競売にかけられ、Dが買い受けた。
      • このとき、D(買受人)がC(賃借人)に対して、直ちに明渡しを求められるか?が問われています。

      解説

      本件のCは、抵当権設定登記後に賃借権を取得した者であり、抵当権者には対抗できない立場にあります。

      しかし、それにもかかわらず、Cには一定の保護期間が認められています。

      民法395条1項1号(抜粋)

      抵当不動産について、抵当権の実行としての売却(競売)により所有権を取得した者は、売却の時にその不動産に居住し、またはこれを営業のために使用していた者に対しては、買受けの時から6ヵ月を経過するまでは、その不動産の引渡しを請求することができない。

      つまり、買受人Dは、たとえCの賃借権が対抗力を持たなかったとしても、Cが建物に居住していた、または営業のために使用していた場合には、買受けから6ヵ月間は明渡しを求めることができません。

      したがって、民法395条1項1号により、Cが甲建物を居住または営業目的で使用している場合、Dは買受けの時から6ヵ月間は明渡し請求ができません。
      したがって、「直ちに明渡し請求ができる」とする記述は妥当でありません。

      3.AがCに対して有する賃料債権をEに譲渡し、その旨の債権譲渡通知が内容証明郵便によって行われた後、Bが抵当権に基づく物上代位権の行使として当該賃料債権に対して差押えを行った場合、当該賃料債権につきCがいまだEに弁済していないときは、Cは、Bの賃料支払請求を拒むことができない。

      3・・・妥当である

      債権譲渡の対抗要件が具備された後であっても、Cがまだ弁済していなければ、Bが差押えをすることで物上代位が可能であり、CはBへの支払を拒めない(最判平成10年1月30日)ので、本肢は妥当です。

      事案の整理

      • Aが甲建物の所有者。
      • BはAから抵当権を設定され、抵当権設定登記も済んでいる。
      • その後、AはCに甲建物を賃貸し、Cは賃料を支払っている立場。
      • AはCに対する賃料債権を第三者Eに譲渡し、その通知も内容証明郵便でなされている(対抗要件あり)。
      • その後、Bが抵当権に基づく物上代位権の行使として、この賃料債権を差し押さえた。
      • このとき、Cがまだ賃料をEに支払っていない状況。

      解説

      物上代位とは?

      抵当権は、本来「不動産などの特定物」に効力が及びますが、その目的物が売却・賃貸・滅失等されたことで生じる「金銭債権」にも、抵当権者が差押えをすることで効力が及ぶ制度です(これを「物上代位」といいます)。

      ※ 物上代位をするには「払渡し・引渡しの前に差押え」が必要。(民法304条1項)

      問題のポイント

      本問でのポイントは以下の通りです。

      • A→Eへの債権譲渡は、通知により対抗要件も備えられている。
      • にもかかわらず、Bはその後、差押えをして物上代位権を行使した。
      • CはまだEに賃料を支払っていない(=債権の履行が済んでいない)。

      判例の立場(最判平成10年1月30日)

      このような状況について、判例は以下のように述べています。

      抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が具備された後であっても、

      その債権が現実に履行される前である限り、差押えによって物上代位権を行使できる。

      つまり、たとえ賃料債権がEに譲渡されていても、Cがまだ支払っていないなら、Bが差押えすることで「物上代位」が成立し、Bがその債権を取得するということです。

      よって、Cは、すでに支払い済みであれば、当然Bに対抗できますが、支払っていないなら、Bの差押えによって支払先がBに切り替わるということになります。

      したがって、Cは、Bによる支払請求を拒むことができません。

      4.Cのための賃借権の設定においてBの抵当権の実行を妨害する目的が認められ、Cの占有により甲の交換価値の実現が妨げられてBの優先弁済権の行使が困難となるような状態がある場合、Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できるときであっても、Bは、Cに対して、抵当権に基づく妨害排除請求として甲の直接自己への明渡しを求めることができる。

      4・・・妥当でない

      「Aが甲を適切に維持管理できる」ときには、抵当権者Bは、Cに対して自己への直接明渡しを求めることはできない(最判平成17年3月10日)ので、本肢は妥当ではありません。

      事案の整理

      • A:甲建物の所有者
      • B:甲に対する抵当権者(登記済み)
      • C:Bの抵当権設定登記後に、Aから賃借権を設定され、甲を使用収益している

      ここで、以下のような事実関係が加わっています。

      • Cの占有目的が抵当権の実行を妨害する意図による
      • Cの占有によって、甲の交換価値の実現が妨げられ、Bの優先弁済の行使が困難な状態

      さらに、

      • Aが甲を適切に維持管理できると期待できる状況

      このとき、BがCに対して直接、甲の明渡しを求めることができるか?が問題となっています。

      本肢のキーワードは「抵当権者は、直接明渡しを請求できるのはどんなときか?」にあります。

      この点についての最高裁判例(平成17年3月10日)は、次のように判断しています。

      最判平成17年3月10日

      抵当権者が占有者に対して「状態の排除(例:退去)」を求めることができる要件

      以下のような事情があれば、「状態の排除請求(一般的な妨害排除請求)」が認められます。

      1. 占有者(C)が抵当権設定登記後に占有権原を得ている
      2. その設定が抵当権実行(競売手続)の妨害を目的としている
      3. 占有により抵当不動産の交換価値が失われ、抵当権の実現が困難になっている

      ただし、この場合でも、抵当権者が直接「自己への明渡し」を求めることができるかは、また別の要件になります。

      「自己への明渡し」を請求できる追加要件

      抵当不動産の所有者(A)において、抵当権侵害が生じないよう適切に維持管理することが期待できないとき」に限り、抵当権者(B)はCに自己への直接明渡しを求めることができる

      【本肢の状況との照合

      本肢は、Aは「抵当権侵害が生じないよう甲を適切に維持管理できると期待できる」と記述されています。よって、上記要件を満たしていないです。

      したがって、BはCに対して直接明渡しを求めることはできないです。

      5.CがAの承諾を得て甲をFに転貸借した場合、Bは、特段の事情がない限り、CがFに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することができる。

      5・・・妥当でない

      転貸賃料債権は、抵当不動産の所有者(A)のものではなく、賃借人Cのものです。
      そのため、賃借人は、抵当不動産に対して担保責任を負う立場にないため、抵当権者Bは物上代位権を行使できません(最判平成12年4月14日)。よって、本肢は妥当ではありません。

      事案の整理

      • A:甲建物の所有者
      • B:甲に設定された抵当権者(登記済)
      • C:Bの抵当権設定登記後に甲建物の賃借人となり、使用収益を開始
      • Cは、Aの承諾を得て、甲建物をFに転貸し、Fから転貸賃料を受け取っている
      • このとき、BがCのFに対する転貸賃料債権に物上代位できるか?が問われています。

      解説

      物上代位の基本(民法372条・304条)

      抵当権は、本来不動産などの特定物に対する担保権ですが、それが売却・賃貸・滅失等されたことにより生じた「金銭その他の物」についても、差押えを条件として担保の効力が及ぶ(物上代位)とされています。

      民法372条
      抵当権の効力は、その目的物の「売却、賃貸、滅失、損傷」によって債務者が受けるべき金銭その他の物にも及ぶ。

      つまり、抵当不動産の賃料収入などは物上代位の対象となりえます。

      では、転貸賃料債権は?

      ここで問題となるのが、Cが受け取る「転貸賃料債権」です。

      Cは、所有者Aから甲建物を借りているだけの第三者(賃借人)であり、抵当不動産の所有者ではありません。

      判例の立場(最判平成12年4月14日)

      この判例は、次のように明確に述べています。

       

      抵当権者は、抵当不動産の賃借人が転貸によって取得した転貸賃料債権に対して、物上代位権を行使することはできない。

      これは、賃借人が抵当不動産の担保責任を負う立場にないためである。

       

      つまり、物上代位の対象となるのは、あくまで抵当不動産の所有者(またはそれに準ずる地位にある者)が得る代替財産であって、賃借人が転貸で得た賃料収入には及ばないという立場です。

      よって、本肢は、「抵当権者Bは、賃借人Cが転借人Fに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することができる」となっているので、妥当ではありません。


      令和6年(2024年)過去問

      問1 基礎法学 問31 民法
      問2 基礎法学 問32 民法
      問3 憲法 問33 民法
      問4 憲法 問34 民法
      問5 憲法 問35 民法
      問6 憲法 問36 商法
      問7 憲法 問37 会社法
      問8 行政法 問38 会社法
      問9 行政法 問39 会社法
      問10 行政法 問40 会社法
      問11 行政手続法 問41 多肢選択
      問12 行政手続法 問42 多肢選択
      問13 行政手続法 問43 多肢選択
      問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
      問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
      問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
      問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
      問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
      問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
      問20 国家賠償法 問50 基礎知識
      問21 国家賠償法 問51 基礎知識
      問22 地方自治法 問52 行政書士法
      問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
      問24 地方自治法 問54 基礎知識
      問25 行政法 問55 基礎知識
      問26 公文書管理法 問56 基礎知識
      問27 民法 問57 個人情報保護法
      問28 民法 問58 著作権の関係上省略
      問29 民法 問59 著作権の関係上省略
      問30 民法 問60 著作権の関係上省略

      令和6年・2024|問29|民法

      甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。

      1. 遺産分割が終了していないにもかかわらず、甲につきBが虚偽の登記申請に基づいて単独所有名義で相続登記手続を行った上で、これをDに売却して所有権移転登記手続が行われた場合、Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる。
      2. 遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
      3. Aが甲をCに遺贈していたが、Cが所有権移転登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続きを行った上で、これをFに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
      4. Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。
      5. Aが「甲をCに相続させる」旨の特定財産承継遺言を行っていたが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをHに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、民法の規定によれば、Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

      >解答と解説はこちら


      【答え】:4
      【解説】
      1.遺産分割が終了していないにもかかわらず、甲につきBが虚偽の登記申請に基づいて単独所有名義で相続登記手続を行った上で、これをDに売却して所有権移転登記手続が行われた場合、Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる。

      1・・・妥当である

      この問題の核心は、「共同相続された不動産について、1人の相続人が単独で処分し、それを第三者が取得した場合、他の相続人は登記なしで権利を主張できるかどうか」です。

      判例:最判昭和38年2月22日

      「共同相続人の一人が単独で所有権移転登記をしても、その者に共有持分を超える権利はなく、他の相続人は自己の持分については登記なくして第三者に対抗できる」

      ① 共同相続と法定相続分

      相続人が複数いる場合、相続開始と同時に相続財産は法定相続分に従って準共有状態となります。遺産分割が終わっていない限り、BとCはそれぞれ法定相続分に応じた持分権を有しています。

      ② Bの単独登記の効果

      Bが単独で相続登記をしたとしても、他の相続人Cの持分まで取得したことにはなりません。つまり、Bは「無権限でCの持分を処分した」にすぎないです。

      ③ Dの地位(民法177条の第三者にあたるか?)

      Dは登記を受けたが、Cの持分についてはBが無権限で処分したものです。このような無権限の譲渡において、Dは民法177条の「第三者」にはあたらず、登記の有無にかかわらずCの持分を取得できません。よって、Cは登記がなくても、Dに自己の持分を対抗できます。

      したがって、本肢は妥当です。

      2.遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

      2・・・妥当である

      設問の状況整理

      • Aが死亡し、その子BとCが相続人となった。
      • 遺産分割の結果、甲土地はCが単独で相続することに決まった。
      • しかし、Cはまだ相続登記をしていない段階で、
      • Bが「自分の法定相続分に基づく持分権」について登記をし、さらにその持分をEに売却・移転登記した。
      • このとき、Cは、Eの持分は本来Cに帰属するものであると主張できるか?

      結論

      Cは、Eに対して「その持分は自分のものである」と主張できないので、本肢は妥当です。

      解説

      ① 遺産分割の効果

      遺産分割が成立すると、相続開始時に遡って相続財産の権利が確定します(民法909条)。この場合、甲土地は相続開始時からCの単独所有となります。

      ② ただし対抗要件が必要(=登記)

      ただし、その権利を第三者に主張するためには登記が必要です。

      ③ 民法899条の2第1項(令和元年改正で新設)

      相続によって権利を取得した者は、その権利を第三者に対抗するには登記等が必要であります。つまり、Cが登記をしていない場合、登記を信じて取引したEに対して、「それは私のものだ」と主張しても、民法上対抗できません。

      3.Aが甲をCに遺贈していたが、Cが所有権移転登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続きを行った上で、これをFに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

      3・・・妥当である

      設問の状況整理

      • Aが死亡し、相続人である子BとCに相続が開始。
      • Aは生前にCに甲土地を遺贈していた(遺言に基づく遺贈)。
      • しかし、Cはまだ遺贈による所有権移転登記をしていない段階で、
      • Bが「自己の法定相続分に基づく持分権」について相続登記を行い、その後、Fに売却・移転登記がされた。
      • このとき、Cは、Fに対して「その持分は自分のものだ」と主張できるか?

      結論

      Cは、Fに対してその持分が自己に帰属すると主張することができないです。よって、本肢は妥当です。

      【解説】

      ① 遺贈による権利取得も「登記が対抗要件」

      不動産の遺贈による取得も、「物権の取得」にあたり、民法177条の適用対象です。そして、民法177条では、不動産の物権変動は「登記がなければ第三者に対抗できない」と規定しています。

      判例(最判昭和39年3月6日)

      「不動産の遺贈による取得についても、登記がなければ第三者に対抗することはできない。」

      つまり、遺言によってCに甲土地を遺贈する旨が定められていても、登記をしていない限り、その権利を第三者(F)に対抗することはできない。

      ② Bによる売却とFの地位

      Bは本来、甲土地を相続していません(遺贈によりCが取得するため)。しかし、登記簿上は、Bが持分を取得したように見えます。そのため、その登記に基づいてFが取引を行った場合、Fは「民法177条の第三者」に該当し、保護されます。

      よって、CはFに対して持分の帰属を主張できない。

      4.Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。

      4・・・妥当でない

      設問の状況整理

      • Aが死亡し、その子BとCが相続人。
      • Bは相続を放棄した。
      • 結果として、甲土地はCが単独で相続することになった。
      • しかし、Cがまだ登記をしていない段階で、
      • Bの債権者Gが、Bの法定相続分に基づいて差押えを申し立てた。
      • このとき、Cはその差押えが無効だと主張できるか?

      結論

      Cは、Gの差押えの無効を主張することができます。よって、本肢は妥当ではありません。

      【解説】

      ① 相続放棄の効果(民法939条)

      相続の放棄をした者は、その相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなす

      つまり、Bは最初から相続人でなかったのと同じ扱いをします。よって、甲土地についてBには何の権利も発生しません。

      ② 相続放棄の効力は「絶対的効力」

      相続放棄は、相続開始時にさかのぼって効力を持ちます。

      この効果は、登記の有無にかかわらず、誰に対しても主張できます(=絶対的効力)。

      よって、Bの債権者Gが、あたかもBが相続したかのように差押えしても無効です。

      最判昭和42年1月20日

      相続の放棄をした相続人の債権者が、当該相続人も相続したものとして差押登記を行っても、その差押登記は無効である。
      5.Aが「甲をCに相続させる」旨の特定財産承継遺言を行っていたが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをHに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、民法の規定によれば、Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

      5・・・妥当である

      設問の状況整理

      • Aが死亡し、その子BおよびCが相続人となった。
      • Aは遺言により「甲土地をCに相続させる」と指定していた(特定財産承継遺言)。
      • しかし、Cはまだ相続登記をしていない。
      • この間に、Bが甲土地について「自己の法定相続分に基づく相続登記」を行い、さらにその持分をHに売却・移転登記した。
      • このとき、Cは、Hに対して「その持分は自分に帰属する」と主張できるか?

      結論

      Cは、Hに対して「その持分は自分のものである」と主張することができないので、本肢はだとうです。

      【解説】

      ① 「相続させる」旨の遺言の効果

      「相続させる」旨の特定財産承継遺言は、遺贈ではなく相続分の指定と解されます(最判平成3年4月19日)。この場合、CはAの死亡により当然に甲土地の所有権を取得します。しかし、その権利を第三者に主張するには登記が必要です。

      ■ ② 民法899条の2第1項(令和元年改正)

      相続によって権利を取得した者は、その権利を第三者に対抗するには登記等の対抗要件が必要です。

      そして、相続による取得であっても、「法定相続分を超える部分」については登記がなければ第三者に対抗できません。

      今回のように、Cが甲全部を取得するというのはBの法定相続分を超えるため、このルールが適用されます。

      ③ Bの行動とHの地位

      Bは登記簿上、法定相続分に基づく持分を取得したように見えます。Hはその登記に基づいて不動産を取得しているため、「民法177条の第三者」として保護されます。よって、Cは登記がない限り、Hに対して「その持分は自分のものだ」と主張することができないので、本肢は妥当です。


      令和6年(2024年)過去問

      問1 基礎法学 問31 民法
      問2 基礎法学 問32 民法
      問3 憲法 問33 民法
      問4 憲法 問34 民法
      問5 憲法 問35 民法
      問6 憲法 問36 商法
      問7 憲法 問37 会社法
      問8 行政法 問38 会社法
      問9 行政法 問39 会社法
      問10 行政法 問40 会社法
      問11 行政手続法 問41 多肢選択
      問12 行政手続法 問42 多肢選択
      問13 行政手続法 問43 多肢選択
      問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
      問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
      問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
      問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
      問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
      問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
      問20 国家賠償法 問50 基礎知識
      問21 国家賠償法 問51 基礎知識
      問22 地方自治法 問52 行政書士法
      問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
      問24 地方自治法 問54 基礎知識
      問25 行政法 問55 基礎知識
      問26 公文書管理法 問56 基礎知識
      問27 民法 問57 個人情報保護法
      問28 民法 問58 著作権の関係上省略
      問29 民法 問59 著作権の関係上省略
      問30 民法 問60 著作権の関係上省略