狭義の訴えの利益に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 都市計画法に基づく開発許可の取消しを求める利益は、開発行為に関する工事の完了によっても失われない。
- 市立保育所の廃止条例の制定行為の取消しを求める利益は、原告らに係る保育の実施期間がすべて満了したとしても失われない。
- 公文書の非公開決定の取消しを求める利益は、当該公文書が裁判所に書証として提出された場合でも失われない。
- 土地収用法による明渡裁決の取消しを求める利益は、明渡しに関わる代執行の完了によっても失われない。
- 衆議院議員選挙を無効とすることを求める利益は、その後に衆議院が解散され、当該選挙の効力が将来に向かって失われたときでも失われない。
【解説】
1.都市計画法に基づく開発許可の取消しを求める利益は、開発行為に関する工事の完了によっても失われない。
1・・・妥当ではない
判例によると、
「開発行為に関する工事が完了し、検査済証の交付もされた後においては、開発許可が有する前記のようなその本来の効果は既に消滅しており、他にその取消しを求める法律上の利益を基礎付ける理由も存しないことになるから、開発許可の取消しを求める訴えは、その利益を欠くに至るものといわざるを得ない。」
と判示しています。
つまり、開発許可の取消しを求める利益は、開発行為に関する工事の完了によっても失われるので、本肢は妥当ではありません。
判例によると、
「開発行為に関する工事が完了し、検査済証の交付もされた後においては、開発許可が有する前記のようなその本来の効果は既に消滅しており、他にその取消しを求める法律上の利益を基礎付ける理由も存しないことになるから、開発許可の取消しを求める訴えは、その利益を欠くに至るものといわざるを得ない。」
と判示しています。
つまり、開発許可の取消しを求める利益は、開発行為に関する工事の完了によっても失われるので、本肢は妥当ではありません。
2.市立保育所の廃止条例の制定行為の取消しを求める利益は、原告らに係る保育の実施期間がすべて満了したとしても失われない。
2・・・妥当ではない
判例によると
「上告人ら(原告ら)に係る保育の実施期間がすべて満了していることが明らかであるから、本件改正条例の制定行為の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべきである」
と判示しています。
したがって、本肢の「市立保育所の廃止条例の制定行為の取消しを求める利益は、原告らに係る保育の実施期間がすべて満了したとしても失われない」は妥当ではありません。
判例によると
「上告人ら(原告ら)に係る保育の実施期間がすべて満了していることが明らかであるから、本件改正条例の制定行為の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべきである」
と判示しています。
したがって、本肢の「市立保育所の廃止条例の制定行為の取消しを求める利益は、原告らに係る保育の実施期間がすべて満了したとしても失われない」は妥当ではありません。
3.公文書の非公開決定の取消しを求める利益は、当該公文書が裁判所に書証として提出された場合でも失われない。
3・・・妥当
判例によると
「公開請求権者は、本件条例に基づき公文書の公開を請求して、所定の手続により請求に係る公文書を閲覧し、又は写しの交付を受けることを求める法律上の利益を有するというべきである。
そのため、請求に係る公文書の非公開決定の取消訴訟において当該公文書が書証として提出されたとしても、当該公文書の非公開決定の取消しを求める訴えの利益は消滅するものではない」
と判示しています。
したがって、本肢の「公文書の非公開決定の取消しを求める利益は、当該公文書が裁判所に書証として提出された場合でも失われない」は妥当です。
判例によると
「公開請求権者は、本件条例に基づき公文書の公開を請求して、所定の手続により請求に係る公文書を閲覧し、又は写しの交付を受けることを求める法律上の利益を有するというべきである。
そのため、請求に係る公文書の非公開決定の取消訴訟において当該公文書が書証として提出されたとしても、当該公文書の非公開決定の取消しを求める訴えの利益は消滅するものではない」
と判示しています。
したがって、本肢の「公文書の非公開決定の取消しを求める利益は、当該公文書が裁判所に書証として提出された場合でも失われない」は妥当です。
4.土地収用法による明渡裁決の取消しを求める利益は、明渡しに関わる代執行の完了によっても失われない。
4・・・妥当ではない
判例によると
「明渡裁決は、裁決時における土地等の占有者に対し、裁決で定められた明渡しの期限までに土地等の引渡し又は物件の移転をするという作為義務を課すものにすぎず、明渡後における起業者による土地等の占有、使用を受忍する義務をも課しているものではない。そして、いったん土地等の明渡しが完了すれば明渡裁決の効果としての土地等の占有者の作為義務はもはや存続していないから、明渡裁決の対象となった土地等について代執行による引渡し等が完了した後は、同裁決の取消しを求める訴えの利益は失われる」
と判示しています。
判例によると
「明渡裁決は、裁決時における土地等の占有者に対し、裁決で定められた明渡しの期限までに土地等の引渡し又は物件の移転をするという作為義務を課すものにすぎず、明渡後における起業者による土地等の占有、使用を受忍する義務をも課しているものではない。そして、いったん土地等の明渡しが完了すれば明渡裁決の効果としての土地等の占有者の作為義務はもはや存続していないから、明渡裁決の対象となった土地等について代執行による引渡し等が完了した後は、同裁決の取消しを求める訴えの利益は失われる」
と判示しています。
したがって、「土地収用法による明渡裁決の取消しを求める利益は、明渡しに関わる代執行の完了によっても失われない」という記述は妥当ではありません。
個別指導では、判例の理解の仕方も解説します!
5.衆議院議員選挙を無効とすることを求める利益は、その後に衆議院が解散され、当該選挙の効力が将来に向かって失われたときでも失われない。
5・・・妥当ではない
判例によると
「衆議院解散によって本件選挙の効力は将来に向かって失われたものと解すべきであるから、衆議院議員選挙の無効の訴えについては、訴えの利益が失われたというべきである」
と判示しています。
したがって、「衆議院議員選挙を無効とすることを求める利益は、衆議院が解散され、当該選挙の効力が将来に向かって失われたときでも失われない」という記述は妥当ではありません。
衆議院の解散によって、選挙無効の訴えの利益も消滅します。
判例によると
「衆議院解散によって本件選挙の効力は将来に向かって失われたものと解すべきであるから、衆議院議員選挙の無効の訴えについては、訴えの利益が失われたというべきである」
と判示しています。
したがって、「衆議院議員選挙を無効とすることを求める利益は、衆議院が解散され、当該選挙の効力が将来に向かって失われたときでも失われない」という記述は妥当ではありません。
衆議院の解散によって、選挙無効の訴えの利益も消滅します。
平成26年度(2014年度)|行政書士試験の問題と解説
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
問3 | 幸福追求権など | 問33 | 民法:債権 |
問4 | 経済的自由 | 問34 | 民法:債権 |
問5 | 投票価値の平等 | 問35 | 民法:親族 |
問6 | 内閣 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政調査 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
問14 | 行政不服審査法等 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識・政治 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識・政治 |
問19 | 国家賠償法 | 問49 | 基礎知識・社会 |
問20 | 損失補償 | 問50 | 基礎知識・経済 |
問21 | 地方自治法 | 問51 | 基礎知識・社会 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識・経済 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識・社会 |
問24 | 行政法 | 問54 | 基礎知識・社会 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識・情報通信 |
問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識・情報通信 |
問27 | 民法:総則 | 問57 | 基礎知識・個人情報保護 |
問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法:債権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |