テキスト

最判平元.11.24:「宅建業法の免許基準」と「国家賠償法」

論点

  1. 宅建業法の免許基準を満たしていない者に免許を与えたり、免許の更新をした知事の行為は、国家賠償法1条1項の「違法な行為」に該当するか?
  2. 宅建業者の不正行為により、取引相手が損害を被った場合、当該業者に対して、監督処分を行わなかった知事等の権限不行使は、国家賠償法1条1項の「違法な行為」に該当するか?

事案

有限会社Aは、京都府知事から宅建業者の免許を受け、営業を続けていたが、多額の債務を負っていた。

そして、Aは、自ら売主として、買主Xと不動産を売却する契約を締結し、手付金およぶ中間金を受け取った。しかし、その後、Aは、当該手付金や中間金を使い込んで、さらにXに当該不動産を引き渡さなかった。

Xは、京都府Yに対して、①このようなAに対して免許を付与したこと、および②Aに対して業務停止処分、免許取消処分等の権限を行使しなかったことは違法であるとして、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。

判決

宅建業法の免許基準を満たしていない者に免許を与えたり、免許の更新をした知事の行為は、国家賠償法1条1項の「違法な行為」に該当するか?

直ちに違法な行為に該当するとはいえない

宅建業法が免許制度を設けた趣旨は、直接的には、宅地建物取引の安全を害するおそれのある宅建業者の関与を未然に排除することにより取引の公正を確保し、宅地建物の円滑な流通を図るところにある。

免許制度も、究極的には取引関係者の利益の保護に資するものではあるが、前記のような趣旨のものであることを超え、免許を付与した宅建業者の人格・資質等を一般的に保証し、ひいては当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が被る具体的な損害の防止、救済を制度の直接的な目的とするものとはにわかに解し難い(考えることは難しい)。

したがって、かかる損害の救済は一般の不法行為規範等に委ねられているというべきであるから、知事等による免許の付与ないし更新それ自体は、法所定の免許基準に適合しない場合であっても、当該業者との個々の取引関係者に対する関係において直ちに国家賠償法1条1項にいう違法な行為に当たるものではないというべきである。

宅建業者の不正行為により、取引相手が損害を被った場合、当該業者に対して、監督処分を行わなかった知事等の権限不行使は、国家賠償法1条1項の「違法な行為」に該当するか?

監督処分の権限不行使が、著しく不合理と認められるときでない限り、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けない

監督処分権限も、この免許制度及び宅建業法が定める各種規制の実効を確保する趣旨に出たものにほかならない。

また、業務の停止ないし免許の取消(監督処分)は、当該宅建業者に対する不利益処分であり、その営業継続を不能にする事態を招き、既存の取引関係者の利害にも影響するところが大きく、そのゆえに前記のような聴聞、公告の手続が定められている。

そして、業務の停止に関する知事等の権限が、その裁量により行使されるべきことは法65条5項の規定上明らかである。

また、免許の取消については法66条各号の一に該当する場合に知事等がこれをしなければならないと規定しているが、業務の停止事由に該当し情状が特に重いときを免許の取消事由と定めている同条9号にあっては、その要件の認定に裁量の余地があるのであって、これらの処分の選択、その権限行使の時期等は、知事等の専門的判断に基づく合理的裁量に委ねられているというべきである。

したがって、当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が損害を被った場合であっても、具体的事情の下において、知事等に監督処分権限が付与された趣旨・目的に照らし、その不行使が著しく不合理と認められるときでない限り、右権限の不行使は、当該取引関係者に対する関係で国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受けるものではないといわなければならない。

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最判平元.11.8:宅地開発指導要綱と給水拒否

論点

  1. 宅地開発指導要綱を順守させるために、給水契約の締結を拒否することはできるか?

事案

武蔵野市では、昭和40年代からマンション建設が急増し、日照権やプライバシー権をめぐって住民と事業者間で紛争が生じるなどの問題が深刻化していた。

そこで、同市では、宅地開発指導要綱を施行した。その指導要綱の中に、「指導要綱に従わない場合、市の上下水道などの利用について必要な協力を行わない旨(給水拒否もあり得る旨)」を定めた。

ところが、建設業者Aは、指導要綱に基づく行政指導に従わないで、マンション建設をし、水道の供給を申し入れた。これに対し、武蔵野市長Xは、水道供給を拒否した。

この拒否は、水道法15条1項に違反するとしてXは起訴された。

判決

宅地開発指導要綱を順守させるために、給水契約の締結を拒否することはできるか?

→できない。

水道法上給水契約の締結を義務づけられている水道事業者としては、たとえ右の指導要綱を事業主に順守させるため行政指導を継続する必要があったとしても、これを理由として事業主(A)との給水契約の締結を留保(保留)することは許されない。

給水契約の締結を留保(保留)した被告人Xの行為は、給水契約の締結を拒んだ行為に当たる

また、原判決の認定によると、被告人Xは、右の指導要綱を順守させるための圧力手段として、水道事業者が有している給水の権限を用い、指導要綱に従わないA建設らとの給水契約の締結を拒んだものであり、その給水契約を締結して給水することが公序良俗違反を助長することとなるような事情もなかったというのである。

そうすると、水道事業者としては、たとえ指導要綱に従わない事業主らからの給水契約の申込であっても、その締結を拒むことは許されないというべきである。

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最判平元.4.13:特急料金改定の認可処分

論点

  1. 特急料金改定の認可処分の取消しを求める訴訟において、特急利用者に原告適格が認められるか?

事案

鉄道会社である株式会社Aは、陸運局長Yから特別急行料金(特急料金)を値上げする旨の認可処分を受けた。そこで、A社の通勤定期乗車券を購入して日常的にA社の特急に乗車していたXらが、同認可処分の取消しを求めて提訴した。

判決

特急料金改定の認可処分の取消しを求める訴訟において、特急利用者に原告適格が認められるか?

認められない

地方鉄道法21条は、地方鉄道における運賃、料金の定め、変更につき監督官庁の認可を受けさせることとしている。

そして、同条に基づく認可処分そのものは、本来、当該地方鉄道の利用者の契約上の地位に直接影響を及ぼすものではなく、このことは、その利用形態のいかんにより差異を生ずるものではない。

また、同条の趣旨は、もっぱら公共の利益を確保することにあるのであって、当該地方鉄道の利用者の個別的な権利利益を保護することにあるのではなく、他に同条が当該地方鉄道の利用者の個別的な権利利益を保護することを目的として認可権の行使に制約を課していると解すべき根拠はない

そうすると、たとえXらがA鉄道株式会社の路線の周辺に居住する者であって通勤定期券を購入するなどしたうえ、日常同社が運行している特別急行旅客列車を利用しているとしても、Xらは、本件特別急行料金の改定(変更)の認可処分によつて自己の権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるということができず、右認可処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきである。

したがって、本件訴え(認可処分取消しの訴え)は不適法である。

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最判平元.2.17:航空法に基づく定期航空運送事業免許処分

論点

  1. 定期航空運送事業免許に基づき路線を航行する航空機の騒音被害に苦しめられる周辺住民は、当該免許処分の取消訴訟の原告適格を有するか?

事案

新潟空港について、昭和54年12月に運輸大臣(現、国土交通大臣)Yが新潟―小松―ソウル間の定期航空運送事業免許をAに与えた。

その結果、空港周辺に居住する住民Xらが、騒音により健康または生活上の利益が侵害されると主張し、その取消しを求めた。

判決

定期航空運送事業免許に基づき路線を航行する航空機の騒音被害に苦しめられる周辺住民は、当該免許処分の取消訴訟の原告適格を有するか?

→有する

取消訴訟の原告適格について規定する行政事件訴訟法九条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。

そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられているとみることができるかどうかによって決すべきである。

本件についてみると、航空法は、「国際民間航空条約の規定」並びに「同条約の附属書」として採択された標準、方式及び手続に準拠しているものであるが、航空機の航行に起因する障害の防止を図ることをその直接の目的の一つとしている(法一条)。

また、航空運送事業の免許権限を有する運輸大臣は、他方において、公共用飛行場の周辺における航空機の騒音による障害の防止等を目的とする公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律三条に基づき、公共用飛行場周辺における航空機の騒音による障害の防止・軽減のために必要があるときは、航空機の航行方法の指定をする権限を有しているのであるが、同一の行政機関である運輸大臣が行う定期航空運送事業免許の審査は、関連法規である同法の航空機の騒音による障害の防止の趣旨をも踏まえて行われることが求められるといわなければならない。

以上のような航空機騒音障害の防止の観点からの定期航空運送事業に対する規制に関する法体系をみると、法は、前記の目的を達成する一つの方法として、あらかじめ定期航空運送事業免許の審査の段階において、当該路線の使用飛行場、使用航空機の型式、運航回数及び発着日時など申請に係る事業計画の内容が、航空機の騒音による障害の防止の観点からも適切なものであるか否かを審査すべきものとしているといわなければならない。

つまり、航空法は、単に飛行場周辺の環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、飛行場周辺に居住する者が航空機の騒音によつて著しい障害を受けないという利益をこれら個々人の個別的利益としても保護すべきとする趣旨を含むものと解することができるのである。

したがって、新たに付与された定期航空運送事業免許に係る路線の使用飛行場の周辺に居住していて、当該免許に係る事業が行われる結果、当該飛行場を使用する各種航空機の騒音の程度、当該飛行場の一日の離着陸回数、離着陸の時間帯等からして、当該免許に係る路線を航行する航空機の騒音によって社会通念上著しい障害を受けることとなる者は、当該免許の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。

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最判昭62.10.30:青色申告課税処分事件

論点

  1. 租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用による違法を考えることができるのはどのような場合か?

事案

酒類販売業を営むAがいた。Aの養子であるXがいた。

Xは、昭和25年からAの営業するB商店の営業に従事し、昭和29年ころからは、Xが事実上中心となってB商店の業務を運営した。

昭和47年、Aの死亡に伴い、XがAを相続した。(A:被相続人、X相続人)

Aはもともと青色申告を受けており、B商店の営業により事業所得については、昭和29年から昭和45年分までA名義により青色申告がされていた。
(青色申告は、通常の申告:白色申告よりも税金が安くなる制度。ただし、その分、一定の帳簿書類を備えることが承認要件となる)

しかし、昭和46年からXが青色申告の承認を受けることなく、自己名義で青色申告書による確定申告をしたところ、税務署長Yは、Xについて青色申告の承認があるかどうかの確認を怠って申告書を受理した。

これが、昭和46年から50年まで続き、その間、Xは青色申告にかかる所得税額を納税していた。また、この間、B商店の帳簿書類の整備などは変化はなく、きちんとそろっていた。

そして、昭和51年、税務署長Yから、青色申告の承認申請がなかったことを指摘されたので、直ちに、申請をし、同年分以降についてその承認を受けた。

しかし、Yは、昭和48年と49年分は、白色申告とみなして、更正処分を行った。

そこで、Xはこの処分は、信義則に反して違法だとして、取消訴訟を提起した。

判決

租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用を考えることができるのはどのような場合か?

納税者間の平等公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免除して納税者の信頼を保護しなければ、正義に反するといえるような特別の事情がある場合、信義則の適用を考える

租税法規に適合する課税処分について、信義則の法理の適用により、課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合はある。

そうだとしても、法律による行政の原理、特に租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の法理の適用については慎重でなければならない

そのため、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて(免除して)納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて信義則の法理の適用の是非を考えるべきである。

そして、「特別の事情が存するかどうか」の判断に当たっては、

少なくとも、①税務官庁が納税者に対し、信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、

②納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、

③のちに右表示に反する課税処分が行われ、

④そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、

また、⑤納税者が税務官庁の右表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて

納税者の責めに帰すべき事由がないかどうか

という点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない。

(特別な事情があるかどうかについては、上記①~⑤を考慮しなければならない)

 

最判昭62.2.6:「公立学校教師の教育活動」と「国家賠償法」

論点

  1. 公立学校の教師の教育活動も国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」に含まれるか?

事案

Y市立中学校の体育授業中、A教諭の指導のもと、プールにおいて、飛び込みの練習が行われていた。

生徒X1は、この練習中に、プールの底に頭部を激突させ、頚椎損傷の傷害を負い、常時介護が必要な状況になった。

そこで、X1と両親X2は、Y市に対して、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償の訴えを提起した。

判決

公立学校の教師の教育活動も国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」に含まれるか?

→含まれる

国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれるものと解するのが相当である。

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最判昭61.3.25:「点字ブロック」と「設置管理の瑕疵」

論点

  1. 点字ブロック等が駅のホームに設置されていないことが、国家賠償法2条1項にいう設置又は管理の瑕疵にあたるか否かの判断基準

事案

視力障害者であるXは、昭和48年、国鉄Yの大阪にあるA駅のホームから線路上に転落し、進入してきた電車にひかれて、両足切断の重傷を負った。

そこで、XはYに対して損害賠償請求の訴えを提起した。

判決

点字ブロック等が駅のホームに設置されていないことが、国家賠償法2条1項にいう設置又は管理の瑕疵にあたるか否かの判断基準

安全設備が、全国的ないし当該地域における道路及び駅のホーム等に普及しているかどうか、当該駅のホームにおける構造又は視力障害者の利用度との関係から予測される視力障害者の事故の発生の危険性の程度、右事故を未然に防止するため右安全設備を設置する必要性の程度及び右安全設備の設置の困難性の有無等の諸般の事情を総合考慮して判断する

点字ブロック等のように、新たに開発された視力障害者用の安全設備を駅のホームに設置しなかったことをもって当該駅のホームが通常有すべき安全性を欠くか否かを判断するに当たっては、

①その安全設備が、視力障害者の事故防止に有効なものとして、その素材、形状及び敷設方法等において相当程度標準化されて全国的ないし当該地域における道路及び駅のホーム等に普及しているかどうか

②当該駅のホームにおける構造又は視力障害者の利用度との関係から予測される視力障害者の事故の発生の危険性の程度、右事故を未然に防止するため右安全設備を設置する必要性の程度及び右安全設備の設置の困難性の有無等

の諸般の事情を総合考慮することを要するものと解するのが相当である。

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最判昭61.2.27:「パトカー追跡」と「国家賠償法」

論点

  1. 警察官のパトカーによる追跡により、追跡を受けていた者が起こした事故によって第三者が損害を被った場合、どのような場合に国家賠償法1条1項上の違法に該当するか?

事案

Y県警の巡査Aは、パトカーでのパトロール中、Bが運転する車両が速度違反であることを発見し、これを停止させるために赤色灯を点灯し、サイレンを鳴らして同車の追跡を開始した。

Bは逃走を図り、少なくとも3つの信号を無視し、結果として、C運転の自動車と衝突し、さらにC運転の自動車が対向車線を進行してきたXらの乗る自動車と激突し、Xらは傷害を負った。

そこで、Xらは、Y県を被告として、巡査Aの追跡が違法であったとして、国家賠償法1条1項に基づき、自己による損害賠償を求めて提訴した。

判決

警察官のパトカーによる追跡により、追跡を受けていた者が起こした事故によって第三者が損害を被った場合、どのような場合に国家賠償法1条1項上の違法に該当するか?

「①追跡が現行犯逮捕、職務質問等の職務の目的を遂行するうえで不必要である」か、又は「②逃走車両の走行の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無・内容に照らして追跡の開始、継続若しくは方法が不相当である」場合、違法となる

およそ警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して、なんらかの犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由のある者を停止させて質問し、また、現行犯人を現認した場合には速やかにその検挙又は逮捕に当たる職責を負う(警察法2条、65条、警察官職務執行法2条1項)。

右職責を遂行する目的のために被疑者を追跡することは当然行うところである。

したがって、警察官がかかる目的のために「交通法規等に違反して車両で逃走する者」をパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被った場合において、右追跡行為が違法であるというためには、「①右追跡が当該職務目的を遂行する上で不必要であるか」、又は「逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当であること」を要するものと解すべきである。

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最判昭60.7.16:行政指導を理由とする建築確認の留保

論点

  1. 行政指導が行われていることを理由に、建築確認を留保することは違法か?

事案

法人Xは、東京都Yにおいて、マンション建築を計画し、Yの建築主事に建築確認申請書を提出した。

しかし、住民の反対があったことから、Yの職員は、Xに対し周辺住民と話し合うよう行政指導を行い、建築確認申請を受理した建築主事は、その間、建築確認処分を保留した。

これに対して、Xは建築審査会に対して、建築確認申請に対する不作為の違法を理由として審査請求をした。

そして、申請から約5か月後に、Xが周辺住民に金銭補償をすることで和解が成立し、ようやく建築確認の処分が行われた。

そこで、XはYに対して建築確認処分の違法な留保を理由として、国家賠償法に基づく損害賠償請求を提起した。

判決

行政指導が行われていることを理由に、建築確認を留保することは違法か?

原則、違法となる

建築基準法6条4項で「申請を受理した日から7日以内に審査をし、適合することを確認したときは、確認済証を交付しなければならない」と規定している趣旨からすると、建築主事が行う確認処分自体は基本的に裁量の余地のない確認的行為の性格を有するものである。

したがって、審査の結果、処分要件を具備するに至った場合には、建築主事としては速やかに確認処分を行う義務があるものといわなければならない。

しかしながら、建築主事の右義務は、いかなる場合にも例外を許さない絶対的な義務であるとまでは解することができない(例外もある)。

①建築主が確認処分の留保につき任意に同意をしているものと認められる場合のほか、

②応答を留保することが法の趣旨目的に照らし社会通念上合理的と認められるときは、その間確認申請に対する応答を留保することをもって、確認処分を違法に遅滞するものということはできないというべきである。(①②の場合は例外として確認処分を保留することができる)

ところで、建築確認申請に係る建築物の建築計画をめぐり建築主と付近住民との間に紛争が生じ、建築主が任意に行政指導に応じて付近住民と協議をしている場合においても、そのことから常に当然に建築主が建築主事に対し確認処分を留保することについてまで任意に同意をしているものとみるのは相当でない(本件事案では、Xが確認処分の留保に同意しているとはいえない)。

しかしながら、地方自治法や建築基準法の趣旨目的に照らせば、建築主が任意にこれに応じているものと認められる場合においては、社会通念上合理的と認められる期間建築主事が申請に係る建築計画に対する確認処分を留保し、行政指導の結果に期待することがあつたとしても、これをもって直ちに違法な措置であるとまではいえない。

もっとも、右のような確認処分の留保は、建築主の任意の協力・服従のもとに行政指導が行われていることに基づく事実上の措置にとどまるものであるから、建築主において自己の申請に対する確認処分を留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を明確に表明している場合には、かかる建築主の明示の意思に反してその受忍を強いることは許されない。

したがって、建築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合には、当該建築主が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは、違法であると解するのが相当である

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最判昭59.10.26:「建築確認」と「訴えの利益」

論点

  1. 建築物の工事が完了した場合であっても、近隣住民は、当該建物にかかる建築確認の取消訴訟の訴えの利益は存続するか?

事案

Aは、宮城県仙台市建築主事Yに対し、建築基準法6条1項に基づく建築確認申請をなし、YはAに対して建築確認処分をした。

これに対し、建物の隣人Xは、本件建築確認は、建築基準法の要件を満たしていないにも関わらず、建築確認がなされたとして、仙台市建築審査会Bに対して、建築確認の審査請求をしたが、Bは、棄却裁決をした。

そこで、Xは、本件建築確認の取消訴訟を提起した。

なお、建築審査会Bが棄却裁決をする前に、当該建築物は完成し、検査済証も交付され、使用されていた。

判決

建築物の工事が完了した場合であっても、近隣住民は、当該建物にかかる建築確認の取消訴訟の訴えの利益は存続するか?

訴えの利益は失われる

築基準法によれば、建築主は、同法6条1項の建築物の建築等の工事をしようとする場合においては、右工事に着手する前に、その計画が建築関係規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認(建築確認)を受けなければならず、建築確認を受けない右建築物の建築等の工事は、することができないものとされている。

また、建築主は、右工事を完了した場合においては、その旨を建築主事に届け出なければならず(7条1項)、建築主事が右届出を受理した場合においては、建築主事等は、届出に係る建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているかどうかを検査し(7条2項)、適合していることを認めたときは、建築主に対し検査済証を交付しなければならないものとされている(7条3項)。

これらの一連の規定に照らせば、建築確認は、建築基準法6条1項の建築物の建築等の工事が着手される前に、当該建築物の計画が建築関係規定に適合していることを公権的に判断する行為であって、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果が付与されており、建築関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを目的としたものということができる。

しかしながら、右工事が完了した後における建築主事等の検査は、当該建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているかどうかを基準とし、同じく特定行政庁の違反是正命令は、当該建築物及びその敷地が建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合しているかどうかを基準とし、いずれも当該建築物及びその敷地が建築確認に係る計画どおりのものであるかどうかを基準とするものでない。

その上、違反是正命令を発するかどうかは、特定行政庁の裁量にゆだねられている。

そのため、建築確認の存在は、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発する上において法的障害となるものではなく、また、たとえ建築確認が違法であるとして判決で取り消されたとしても、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発すべき法的拘束力が生ずるものではない。

したがって、建築確認は、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎないものというべきであるから、当該工事が完了した場合においては、建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるものといわざるを得ない。

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