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国家賠償法1条(公権力の行使に基づく賠償責任)

国家賠償法1条は、条文の内容とその判例が、行政書士の試験で問われます。そのため、条文と判例を見ていきます。個別の判例については、リンク先が具体例となっています。

国家賠償法
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

国家賠償責任の法的性質

上記国家賠償法(国賠法)1条の条文の通り、公務員の職務上の行為で、他人に損害を与えた場合、国や公共団体が賠償責任を負うことになっています。つまり、本来公務員が負うべき責任を国や公共団体が代わって賠償責任を負うこととしています。これを代位責任と言います。

加害者の特定性

代位責任説によると、違法行為を行った公務員自身に損害賠償責任が生ずることが前提なので、論理的に考えると、加害者が特定できない場合、損害賠償責任を問えないことになります。しかし、被害者保護の観点から、厳密な特定までは不要としています(最判昭57.4.1:「加害行為の不特定」と「国等の損害賠償責任」)。

公共団体とは?

公共団体とは、地方公共団体(都道府県や市町村)、公共組合(土地区画整理組合、国民健康保険組合)、独立行政法人だけでなく、弁護士会も含まれます。

国家賠償法1条の要件

国賠法1条に基づく責任が生ずるための要件は、下記5つです。

  1. 公権力の行使にあたる公務員の行為であること
  2. 公務員が「職務を行うについて」行った行為であること
  3. 公務員に故意または過失があること
  4. 公務員の行為が違法であること
  5. 損害が発生したこと

上記の中において、行政書士で重要なキーワードを抜粋すると、下記6つです。これから細かく解説していきます。

  1. 公務員
  2. 公権力の行使
  3. 職務を行うについて(職務関連性)
  4. 故意または過失
  5. 違法(違法性)

公務員

公務員とは、地方公務員、国家公務員はもちろん、「公権力の行使」に当たる行為を行う民間人も含まれます。

例えば、建築確認を行う民間の指定確認検査機関による建築確認により、相手方に損害を与えてしまった場合、地方公共団体が国家賠償責任を負う判例(最判平17.6.24)があります。つまり、建築確認という公権力の行使を行う「指定確認検査機関」も「公務員」として扱っているわけです。

また、弁護士会の懲戒委員会の委員が、弁護士に対して懲戒処分する場合、当該委員は、懲戒処分という一種の公権力の行使を行っているため、当該委員を「公務員」として、弁護士会(公共団体)が賠償責任を負う判例(東京高判平19.11.29)があります。

公権力の行使

公権力の行使とは、国賠法1条では、「国家賠償法2条の対象となるもの(公の営造物の設置・管理)および私経済作用を除くすべての行政作用」を指します(判例・通説)。

分かりやすく言えば、下記2つ以外のすべての行政作用ということです。

  1. 国家賠償法2条の対象となるもの(公の営造物の設置・管理)
  2. 私経済作用

私経済作用とは?

例えば、「国公立病院が行う医療行為」や「公務員が事務用品を購入する行為」が私経済作用で、民法が適用されます。これらの行為は、私人と同等の立場で行い、公権力の行使とは言えないからです。

上記の通り、「国家賠償法2条の対象となるもの」および「私経済作用」を除くすべての行政作用なので、「行政手続法における公権力の行使」、「行政不服審査法における公権力の行使」、「行政事件訴訟法における公権力の行使」と比べて、国賠法1条の方が対象範囲が非常に広くなるわけです。

公権力の行使の具体例

国賠法1条では、下記行為も公権力の行使として損害賠償の対象となります。

  • 行政指導
  • 国公立学校・市立学校の教育活動(最判昭58.2.18、最判昭62.2.6、最判平5.2.18)
  • 国会議員による立法行為(最判昭60.11.21、最判平17.9.14)
  • 裁判所による裁判(最判昭57.3.12)
  • 「拘置所職員たる医師」による「拘留されている患者」に対する医療行為(最判平17.12.8)
  • 県から委託を受けた社会福祉法人の施設職員による養育監護行為(最判平19.1.25)

公権力の行使に該当しない場合どうなるか?

公権力の行使にあたる 国家賠償法1条の対象
公権力の行使にあたらない 民法709条不法行為責任)の対象

職務を行うについて(職務関連性)

国賠法1条では、公務員が、職務上の行為によって、国民に損害を与えた場合を対象としているのですが、加害行為が職務で行われた場合はもちろん、職務との間に一定の関連性職務関連性)があればよいとしています。

外形標準説(外形理論)

また、判例(最判昭31.11.30:「公務員の私利を図る目的の行為」と「国家賠償法」)では、加害行為が客観的に職務行為の外形を備えるものであればよく、実際には職務上の行為でなかったとしてもよいとしています。

このように、外見から判断して、職務行為に見える場合も「職務上の行為」として、賠償責任の対象としています。これも被害者救済の見地からきています。

故意または過失

国家賠償責任は、公務員の行った不法行為(民法709条)が前提なので、公務員の故意または過失が要件となってきます。

(不法行為による損害賠償)
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

公務員が上記不法行為を行った場合、「公務員個人」に賠償責任を負わせるよりも「国や公共団体」に責任を負わせた方が被害者を保護できるということです。

故意とは?

民法上の故意とは、一定の侵害結果の発生を認識しながらそれを認容して行う場合(その心理状態)を言います(通説)。そして、国賠法も同様と考えてよいです。

過失とは?

過失とは、判例(最判平5.3.11:「所得税更正処分の取消し」と「国家賠償法」)では、公務員が職務上要求される注意能力を欠く場合を指します。

細かいことをいえば、客観的過失があったかどうかで判断し、主観的過失(公務員自身の注意能力を基準としている)ではないということです。

違法(違法性)

国家賠償責任は、公務員の行った不法行為(民法709条)が前提なので、公務員の違法行為が要件となってきます。

これは法令違反だけでなく、裁量の範囲を逸脱・濫用した場合最判昭52.12.20:神戸税関事件)や社会的相当性を欠く場合最判昭61.2.27:「パトカー追跡」と「国家賠償法」)も違法とされています。

公務員の不作為・権限不行使は違法となるか?

最判平元.11.24:「宅建業法の免許基準」と「国家賠償法」)や(最判平7.6.23)の判例では、公務員の不作為によって、私人に損害が発生した場合も国家賠償の対象としており、また、法律上与えられた権限を行使せずに(権限不行使で)損害が発生した場合も同様に国家賠償の対象としています。

公務員に対する求償

国や公共団体が私人(国民)に対して損害賠償した場合、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償できます。

行政書士の試験対策として注意点としては、下記部分です。

  • 国等から公務員に対して求償できるが、公務員から国等に対しては求償できない
  • 公務員に故意または重過失があった場合のみ、国等は求償できるが、公務員に故意がなく、かつ、無重過失の場合は求償できない

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国家賠償と損失補償の全体像

行政書士のここまでの勉強、行政不服審査法行政事件訴訟法と勉強してきました。これらは、争訟による救済制度です。もし、公権力の行使によって、金銭的に損害を受けた場合、行政不服審査法や行政事件訴訟法での救済だけでは不十分です。そのため、国家賠償や損失補償という制度があります。

そもそも、国家賠償法は、憲法17条を受けて制定されました。

憲法17条
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

一方、損失補償は、憲法29条3項で定めております。しかし、国家賠償法のように、一般法はなく、個別の法律で損失補償の規定がされています。ただし、たとえ、個別法に損失補償の規定がない場合も、上記憲法29条3項を根拠に(直接適用して)損失補償されることもあります。

憲法29条3項
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

国家賠償 違法行為による損害の賠償を求める制度
損失補償 適法行為ではあるもの損失を受けた場合に補償を求める制度

そして、国家賠償には、「国家賠償法1条による損害賠償責任」と「国家賠償法2条による損害賠償責任」があります。

1条 公権力の行使について、故意または過失により他人に損害を与えた場合(過失責任
2条 営造物の設置管理の瑕疵により他人に損害を与えた場合(無過失責任

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民衆訴訟・機関訴訟(客観訴訟)

このページでは、民衆訴訟と機関訴訟をまとめて解説します。

民衆訴訟も機関訴訟も客観訴訟に当たります。

行政事件訴訟法は大きく分けて主観訴訟客観訴訟に分けることができます。

主観訴訟は、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、客観訴訟は、行政の適法性の確保を目的とし、自分には直接関係ない行政活動に対する訴訟を指します。つまり、民衆訴訟も客観訴訟も個人(自分自身)には直接関係しない訴訟と言えます。これは具体例を見ていくと分かると思います。

民衆訴訟

民衆訴訟とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものを言います。

分かりやすくいうと、住民や選挙人が、国や地方公共団体に対して、「法律違反しているでしょ!だから正しなさい!」というのが民衆訴訟です。

具体的には、「地方自治法に基づく住民訴訟」や「選挙又は当選の効力に関する訴訟」です。

地方自治法に基づく住民訴訟

例えば、市長が、公金を違法に支出してしまい、自治体に損害を与えた場合、監査請求を経たうえで、被害回復を求めて住民が住民訴訟を提訴できます。

選挙又は当選の効力に関する訴訟

例えば、甲市の市議会議員選挙があり、AとBが立候補し、選挙が行われ、Aが当選した。しかし、Aは選挙期間中に、住民にお金を配るなどして、違法な選挙活動を行っていた場合、当選の効力の無効の訴えを提起することができます。

機関訴訟

機関訴訟とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟を言います。

分かりやすく言えば、行政機関同士の争いです。

例えば、市長が「議会の議決が法令に即して手続きをしていないから議決は無効だ!」と訴える場合、市長と議会という行政機関同士で争っているので機関訴訟です。

<<争点訴訟 | 国家賠償法と損失補償>>

争点訴訟(民事訴訟)

争点訴訟とは?

争点訴訟とは、私法上の法律関係に関する訴訟ですが、その前提となる処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無が争われているものを言います。

例えば、Aの農地が買収された場合における「農地買収処分の無効を理由とする所有権確認訴訟」です。最終的には、Aは「この農地の所有権は私のものです!」と確認を求める訴訟(所有権という私法上の法律関係に関する訴訟)なのですが、争点となっているのは、農地買収処分です。この農地買収処分が無効だから、この農地の所有権はAにあるでしょ!という争いです。

また、Aが不動産を取得していないにも関わらず、不動産取得税の課税処分の通知を受け、納税した場合における「課税処分の無効を前提とする税金の還付請求訴訟」も争点訴訟です。最終的には、納税した税金を還付してください!という還付請求(返還請求)の訴訟(民事訴訟)なのですが、争点となっているのは、課税処分です。そのため、争点訴訟となります。

争点訴訟と実質的当事者訴訟の違い

上記実質的当事者訴訟と争点訴訟は似ていますが、違います。

何が違うかというと、
争点訴訟は私人間の争い(=民事訴訟)で、
実質的当事者訴訟は、私人と行政主体との争い(=行政訴訟)です。

もう少し詳しくいうと、処分等の無効等を前提に「私法上の権利義務」について争う争点訴訟は民事訴訟ですが、処分等の無効等を前提に「公法上の権利義務」について争う訴訟(実質的当事者訴訟)は行政訴訟(行政事件訴訟です。

実質的当事者訴訟はこちら>>

争点訴訟と無効等確認訴訟の違い

無効等確認訴訟は、処分が当初から無効であることの確認自体を請求する訴訟であるのに対し、争点訴訟は、処分の無効を前提に、私法上の権利義務について争う訴訟です。

上の2つの事例でいうと、「農地買収処分の無効自体を争う場合」や「課税処分の無効自体を争う場合」は、無効等確認の訴えを提起します。

一方で、「農地買収処分の無効を前提として、所有権を確認する場合」や「課税処分の無効を前提として、税金の還付を求める場合」は、争点訴訟を提起します。

そして、上図の通り、現在の法律関係の確認を求める訴え(争点訴訟)では目的達成ができない場合に限って、無効等確認の訴え(無効確認訴訟)を提起できます。

<<仮の義務付け・仮の差止め | 民衆訴訟・機関訴訟(客観訴訟)>>

当事者訴訟(形式的当事者訴訟・実質的当事者訴訟)

当事者訴訟は、主観訴訟ではあるものの、これまで勉強してきた抗告訴訟ではありません。主観訴訟は、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指します。

そして、当事者訴訟は非常に分かりにくい訴訟なので、イメージを頭に入れることが重要です!


当事者訴訟とは?

当事者訴訟とは、①当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び②公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。

上記、「①当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で、法律関係の当事者の一方を被告とするもの」が形式的当事者訴訟で、「②公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」が実質的当事者訴訟です。

上記を読んだだけでは全く意味が分からないと思いますので、具体例を出しながら解説していきます。

形式的当事者訴訟

例えば、Aの土地について、土地収用に関する収用委員会の裁決について,不服がある場合、本来、収用委員会の属する都道府県を被告として、収用裁決の取消しの訴えを提起します。

しかし、Aが収用自体は納得しているけど、収用に対する補償金額に不服がある場合があります。この場合、Aは補償額についてのみ争えばよいです。

そして、この補償額については、事業の起業者(事業を行う者)が決め、収用委員会が認定するのですが、補償額(損失補償額)に争いがある場合,土地を収用されたAと起業者との間で争います。

本来であれば,「補償額を認定した収用委員会の属する行政主体である都道府県」を被告として裁決を争う抗告訴訟によるべきです。
これが、「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟」ということです。

しかし、補償金額については,補償金の支払いに関係する当事者間で直接争わせたほうが適切であるため、被告を起業者として訴訟を提起します。
これが、「法律関係の当事者の一方を被告とする」ということです。

上記訴えが、当事者訴訟の中の形式的当事者訴訟です。

上記は、土地を収用されたAが、「補償額が少なすぎる!」と主張する場合で、逆に起業者が「補償額が高すぎる!」と主張する場合、被告がAとなり、同じく形式的当事者訴訟で争います。

形式的当事者訴訟は、上記「収用における補償金の増額・減額の訴訟」 を具体例として覚えた方が早いです。

実質的当事者訴訟

次に実質的当事者訴訟を解説するのですが、形式的当事者訴訟と全く違うものに見えると思います。そのため、形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟は分けて考えた方がよいでしょう!つなげて考えると、逆に分かりづらくなります。

今から解説する具体例は、無効等確認訴訟でも勉強した内容です。

例えば、国家公務員Cが懲戒免職処分を受けた。Cは、この処分が無効であることを前提に、「公務員の地位確認訴訟」や「給料支払請求訴訟」を行うことができます。この訴えは、被告が国であるというだけで、内容としては、民事訴訟と同じです。

例えば、会社員Dが会社から不当解雇を受け、この解雇が無効であることを前提に、「社員たる地位の確認訴訟」を提起することは、民事訴訟です。

単に、「私人と私人の争い」ではなく「国と公務員」という公法上の法律関係なっているにすぎません。

このような訴訟が実質的当事者訴訟です。

まずは、具体例を覚えることが理解への第一歩なので、具体例を覚えていきましょう。

上記以外にも、

等があります。

実質的当事者訴訟と争点訴訟の違い

上記実質的当事者訴訟と争点訴訟は似ていますが、違います。

何が違うかというと、
実質的当事者訴訟は、私人と行政主体との争い(=行政訴訟)で、
争点訴訟は私人間の争い(=民事訴訟)です。

また、上図の通り、現在の法律関係の確認を求める訴え(実質的当事者訴訟や争点訴訟)では目的達成ができない場合に限って、無効等確認の訴え(無効確認訴訟)を提起できる点も併せて覚えておきましょう。

<<当事者訴訟(形式的当事者訴訟・実質的当事者訴訟) | 争点訴訟>>

仮の義務付け・仮の差止め

取消訴訟が提起された場合、仮の救済手段として、執行停止の制度があります。

これと同様に、
義務付け訴訟が提起された場合の仮の救済手段として「仮の義務付け」
差止め訴訟が提起された場合の仮の救済手段として「仮の差止め」があります。

仮の義務付け

仮の義務付けは、義務付けの訴えがあった場合に、その判断がされる前に、暫定的に行政庁が処分または裁決をする旨を命ずることを言います。

例えば、A所有の建物が違法建築物で今にも倒壊しそうです。隣地の住民Bが当該建物の除去命令の義務付けの訴えを提起したが、判決をもらうまでに時間がかかるためその間に建物が倒壊してしまっては、Bは困ります。そのような場合に、仮の義務付けを申し立てることができます。

仮の義務付けの要件

手続要件 義務付けの訴えがあったこと
積極要件
  1. 義務付けの訴えに係る処分又は裁決がなされないことにより生ずる償うことができない損害をさけるため緊急の必要があること
  2. 本案に理由があるとみえること
消極要件 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあること

積極要件と消極要件

積極要件とは、効力を発生させるための要件を言います。

一方、消極要件とは、効力が妨げられる要件を言います。

上記事例でいうと、下記2つの要件を満たることで仮の義務付けの効力が発生します。

  1. 償うことができない損害をさけるため緊急の必要があること
  2. 本案に理由があるとみえること

しかし、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」という要件を満たす場合、たとえ、上記積極的要件(上記2つの要件)を満たしていても、仮の義務付けの効力は発生しません。

仮の差止め

仮の差止めは、差止めの訴えがあった場合に、その判断がされる前に、暫定的に行政庁が処分または裁決をしてはならない旨を命ずることを言います。

例えば、A土木会社が、宅地の造成工事を行っています。隣地の住民Bの土地が、Aの造成工事により、沈下(地盤沈下)している。この場合、工事の差止めの訴えをしたが、判決をもらうまでに時間がかかるため、その間にもドンドン地盤沈下して困ってしまいます。そのような場合にBは仮の差止めを申し立てることができます。

仮の差止めの要件

仮の差止めの要件は、仮の義務付けと考え方は同じです。

手続要件 差止めの訴えがあったこと
積極要件
  1. 差止めの訴えに係る処分又は裁決がなされることにより生ずる償うことができない損害をさけるため緊急の必要があること
  2. 本案に理由があるとみえること
消極要件 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあること

この点も仮の義務付けと同様に

下記2つの要件を満たることで仮の差止めの効力が発生します。

  1. 償うことができない損害をさけるため緊急の必要があること
  2. 本案に理由があるとみえること

しかし、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」という要件を満たす場合、たとえ、上記積極的要件(上記2つの要件)を満たしていても、仮の差止めの効力は発生しません。

<<差止めの訴え | 当事者訴訟(形式的当事者訴訟・実質的当事者訴訟)>>

差止めの訴え(抗告訴訟の一種)

行政事件訴訟法の類型でも勉強した通り、主観訴訟の中の抗告訴訟の一つに「差止めの訴え」があります。

主観訴訟とは、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関して違法でないかと不服がある場合の訴訟です。

差止めの訴えとは?

差止めの訴え差止め訴訟)とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟を言います。

上記「処分や裁決がされようとしている場合」に行う訴訟なので、処分や裁決がされる前に提起するものだということです。行政書士の試験ではここが非常に重要です。

例えば、Aが建物を建築したが、甲県が「この建物は違法建築物です。直してくれませんか?」という行政指導をAに対して行った。しかし、Aは違法建築物ではないと思っていた。このまま放っておくと、除去命令の処分をされかねません。そのためAは甲県に対して、除去命令をしないように差止めの訴えを提起することができます。

差止め訴訟の訴訟要件

差止め訴訟を提起できる要件は下記3つです。すべて満たした場合に適法となり審理されます。いずれか一つでも満たさない場合は、不適法として却下されます。

非申請型の義務付け訴訟と同じ訴訟要件です。

  1. 一定の処分や裁決がなされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあること
  2. その損害を避けるため他に適当な方法がないこと
  3. 行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者であること

差止め訴訟の勝訴要件

差止め訴訟で原告が勝訴するためには下記2つのいずれかを満たす必要があります。

  1. 行政庁がその処分をすべきでないことが明らかであること
  2. 行政庁がその処分をすることが裁量権の逸脱・濫用となると認められること

上記のいずれかを満たせば、認容判決(原告勝訴)となり、どちらも満たさない場合は棄却判決(原告敗訴)となります。

<<義務付けの訴え | 仮の義務付け・仮の差止め>>

義務付けの訴え(抗告訴訟の一種)

行政事件訴訟法の類型でも勉強した通り、主観訴訟の中の抗告訴訟の一つに「義務付けの訴え」があります。

主観訴訟とは、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関して違法でないかと不服がある場合の訴訟です。

義務付けの訴えとは?

義務付けの訴え義務付け訴訟)とは、下記場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟を言います。
  1. 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(申請を前提としない義務付け訴訟非申請型義務付け訴訟
  2. 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(申請を前提とする義務付け訴訟申請型義務付け訴訟

非申請型義務付け訴訟:1号義務付け訴訟

非申請型義務付け訴訟は、「非申請型」の通り、申請者でない者が行政庁に対して「こういった処分を行ってください!」と求める訴訟です。

例えば、甲市内に違法建築物があるにも関わらず、甲市が何ら権限を行使せず放っておいている場合、隣地の住民は、甲市に対して、建物の除去命令を下してください!と義務付けの訴えを提起することができます。

この場合、隣地の住民は、事前に何かしらの申請をしたかというと、何の申請もしていません。単に、隣地の住民は建物の除去命令がされないことにより、重大な損害を受ける可能性があるから除去命令を求めているだけです。

非申請型義務付け訴訟の訴訟要件

1号義務付け訴訟を提起できる要件は下記3つです。すべて満たした場合に適法となり審理されます。いずれか一つでも満たさない場合は、不適法として却下されます。

  1. 一定の処分がなされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあること
  2. その損害を避けるため他に適当な方法がないこと
  3. 行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者であること

非申請型義務付け訴訟の勝訴要件

1号義務付け訴訟で原告が勝訴するためには下記2つのいずれかを満たす必要があります。

  1. 行政庁がその処分をすべきことが明らかであること
  2. 行政庁がその処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用となると認められること

上記のいずれかを満たせば、認容判決(原告勝訴)となり、どちらも満たさない場合は棄却判決(原告敗訴)となります。

申請型義務付け訴訟:2号義務付け訴訟

申請型義務付け訴訟は、「申請型」の通り、申請したけど、拒否処分を下されたり、不作為状態が続く場合に、「申請に対して許可処分を下してください!」と義務付けよう求める訴訟です。

例えば、Aが甲県の建築主事に対して、建築確認の申請をした。しかし、建築主事は拒否処分をした。その場合、Aは甲県に対して、建築確認を認めてください!と義務付けを求めることが申請型義務付け訴訟です。

申請型義務付け訴訟の訴訟要件

2号義務付け訴訟を提起できる要件は、不作為型と拒否処分型とで異なり、それぞれ、2つの要件を同時に満たす必要があります。

不作為型
  1. 法令に基づく申請又は審査請求がなされたにも関わらず、相当期間内に処分または裁決がされなかったとき
  2. 不作為の違法確認の訴えと併せて提起すること
拒否処分型
  1. 法令に基づく申請又は審査請求が、却下または棄却された場合に、当該処分または裁決が取り消されるべきものであったり、無効または不存在であったとき
  2. 取消訴訟」又は「無効確認の訴え」と併せて提起すること

上記不作為型については、「不作為の違法確認訴訟」と関連する部分です。

申請型義務付け訴訟の勝訴要件

2号義務付け訴訟で原告が勝訴するための要件は「不作為型」と「拒否処分型」とで異なります。

不作為型 行政庁が処分・裁決すべきことが根拠法令から明らかである場合
拒否処分型 行政庁が処分・裁決をしないことが裁量権の逸脱・濫用である場合

上記を満たせば、認容判決(原告勝訴)となり、満たさない場合は棄却判決(原告敗訴)となります。

<<不作為の違法確認の訴え | 差止めの訴え>>

不作為の違法確認の訴え(抗告訴訟の一種)

行政事件訴訟法の類型でも勉強した通り、主観訴訟の中の抗告訴訟の一つに「不作為の違法確認の訴え」があります。

主観訴訟とは、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関して違法でないかと不服がある場合の訴訟です。

不作為の違法確認の訴えとは?

不作為の違法確認の訴え不作為の違法確認訴訟)とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟を言います。

簡単に言えば、申請をしたにも関わらず、相当期間が経過しても、処分や裁決を下さない場合に、それは違法だ!と訴訟提起することです。

例えば、宅建業の免許の申請をしたにも関わらず、いつまで経っても、許可処分も不許可処分も下さない場合に、申請者は不作為の違法確認の訴えを提起できます。

ただ、不作為の違法確認の訴えで勝訴したとしても、不作為の行政庁に対して、何らかの応答(許可処分や不許可処分)をしなさいという命令としての意味しか持ちません。

申請者としては、許可処分をください!と主張したい場合もあります。そのような場合はあとで解説する義務付け訴訟を行います。

そうすれば、許可処分を義務付ける効力を持ちます。

相当期間とは?

ここでいう「相当期間」とは、その処分をするのに通常必要とする期間を言います。標準処理期間と必ずしも一致するわけではないので、標準処理期間が経過したからといって直ちに不作為の違法だと主張することはできません。

不作為の違法確認訴訟の原告適格

不作為の違法確認の訴えは、処分又は裁決について申請をした者に限って提起できます。

注意すべき点は、その申請が適法である必要はありません。現に申請をしていれば、不適法と却下されるような申請であっても、却下処分がされていない以上、不作為状態なので、不作為の違法確認訴訟を提起できます。

不作為の違法確認訴訟の出訴期間

行政庁の不作為が続いている限り、申請をした者はいつでもこの訴えを提起することができます。

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行政事件訴訟法における教示

行政庁は、取消訴訟を提起することができる「処分又は裁決」をする場合には、当該「処分又は裁決」の相手方に対し、原則、下記事項を書面教示しなければなりません。

①当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者
②当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間
③法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、その旨

ただし、例外として、当該処分を口頭でする場合は、教示しなくてもよいです。

裁決主義の場合の教示

上記の内容は、処分についても、裁決についても取消訴訟の提起ができる場合です。

今回の内容は、裁決についてのみ取消訴訟の提起が許される場合(裁決主義の場合)の話です。

この場合、処分の相手方に対し、法律にその定めがある旨(裁決主義である旨)を書面で教示しなければなりません。

形式的当事者訴訟ができる場合の教示

行政庁は、「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの形式的当事者訴訟)」を提起することができる処分又は裁決をする場合には、当該処分又は裁決の相手方に対し、下記事項を書面で教示しなければなりません。

①当該訴訟の被告とすべき者
②当該訴訟の出訴期間

ただし、例外として、当該処分を口頭でする場合は、教示しなくてもよいです。

教示における行政不服審査法との違い

行政不服審査法の教示では、行政庁が誤って教示した場合や教示をしなかった場合について規定されてています。

一方、行政事件訴訟法では、行政庁が誤って教示した場合や教示をしなかった場合の規定はありません。しかし、取消訴訟の出訴期間の例外で「正当な理由があるとき」は、6か月・1年経過後でも取消訴訟を行えるとして、上記の場合は、「正当な理由」に該当すると解釈されています。そのため、一定の救済措置があるわけです。

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