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無効等確認の訴え(抗告訴訟の一種)

行政事件訴訟法の類型でも勉強した通り、主観訴訟の中の抗告訴訟の一つに「無効等確認の訴え」があります。

主観訴訟とは、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関して違法でないかと不服がある場合の訴訟です。

無効等確認の訴えとは?

そして、無効等確認の訴えとは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟です。

以前勉強した通り、行政行為には公定力があります。そのため、取り消しがあるまで、行政行為は有効となります。しかし、その行政行為に重大かつ明白な瑕疵]があるときは、公定力はなく、取り消し手続きをしなくても、当然に無効なので、行政行為の効力は生じません。

言い換えると、無効な処分なので、取消し自体出来ないです。そのため、「処分は無効ですよね!?」と確認することができるわけです。

例えば、Aさんが不動産を取得していないにも関わらず、Aさんに対して不動産取得税の課税処分の通知が来たとします。その場合、重大かつ明白な瑕疵]と言えるので、無効等確認の訴えを提起することができます。

重大かつ明白な瑕疵]とは?

  1. 行政行為の違法性が重大であり
  2. 行政行為の違法性の存在が明白であるということです。

1の重大性は、相手方の事情などを考えた上で、個別的に判断します。

2の明白性には、一般的に外観から見て当然分かることを言います。

この点は行政書士では、それほど重要ではないので、「重大かつ明確な瑕疵がある場合、行政行為は無効である」と覚えていれば十分です。

そして、無効等確認の訴えには、予防的無効確認の訴えと補充的無効確認の訴えの2つがあります。

予防的無効確認の訴え まだ処分されていないけど、処分されると損害を受ける恐れがある場合に行うもの
補充的無効確認の訴え すでに処分されていて、現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができない場合に行うもの

予防的無効確認の訴え

処分や裁決に続く処分によって損害を受ける恐れのある場合、予防的無効確認の訴えを提起できます。

例えば、上記不動産取得税の課税処分があり、この課税処分に続いて滞納処分が課せられる場合、損害を受けることになります。この場合、Aさんは、課税処分の無効確認の訴えを提起でき、無効確認の判決をもらうことで、納税義務を免れ、かつ滞納処分による損害の発生を予防することができます。

これが、予防的無効確認等訴訟です。

予防的無効確認の訴えの要件

「処分や裁決に続く処分によって損害を受ける恐れのあること」が要件です。

補充的無効確認の訴え

処分や裁決の無効確認を求めるに法律上の利益を有していて、かつ、現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができない場合に提起できます。

分かりづらいですが、考え方としては、「現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができない」から、補充的な(追加の)救済手段として「無効確認の訴えを行う」ということです。

現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができない場合とは?

例えば、Bが宅建業の免許の申請をして、不許可処分を受けた。この場合、処分を受ける前も後も、宅建業を行うことができていない状態です。そのため現在の法律関係(免許がされていないこと)の確認を求めても、今も昔も宅建業を行うことができない状態に変わりはないため何の意味もありません。Bの目的は「免許申請の不許可処分の無効を主張して、再度審査をしてもらうこと」です。つまり、「現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができない」ということです。

そのため、Bはすでになされた不許可処分について、無効等確認の訴えを提起することができます。

これが、補充的無効等確認訴訟です。

現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができる場合とは?

実質的当事者訴訟が行える場合

例えば、公務員Cが懲戒免職処分を受けた。この場合、処分を受ける前は、公務員としての地位を有しており、処分を受けた後の現在は公務員としての地位を有していません。この場合、現在の法律関係の確認を求める訴えとは、「懲戒免職処分は無効だ!現在も公務員としての地位を有しているはずでしょ!」という訴えです。この訴えをすることで、Cの目的(公務員としての地位を回復すること)は達成できます。この場合、過去の処分の無効を主張することはできず、現在の法律関係の確認を求める訴え(具体的には実質的当事者訴訟)で、公務員であることの地位の確認を求めることができます。

争点訴訟が行える場合

また、別の事例でいうと、例えば、道路を広くする事業(公共事業)のために、土地を収用された(強制的に奪われた)者Dが、収用裁決は無効だということを理由に、「土地の所有権は私Dにあるでしょ!」と主張する場合、土地収用の起業者(公共事業を行う事業者)を被告として、土地所有権の確認の訴えを提起することができます。「収用裁決を受ける前の土地の所有者はD」、「収用された後の土地所有者は起業者」になります。上記土地所有権の確認の訴えを提起することで、Dの目的(所有権を自分に戻すこと)は達成できます。そのため、過去の収用裁決の無効を主張することはできず、土地所有権の確認の訴え(争点訴訟:民事訴訟)を提起することになります。

実質的当事者訴訟と争点訴訟の違い

上記実質的当事者訴訟と争点訴訟は似ていますが、違います。

何が違うかというと、
実質的当事者訴訟は、私人と行政主体との争い(=行政訴訟)で、
争点訴訟は私人間の争い(=民事訴訟)です。

補充的無効確認の訴えの要件

下記2つの要件を満たす必要があります。

  1. 法律上の利益を有している
  2. 現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができない

<<行政事件訴訟法における教示 | 不作為の違法確認の訴え>>

取消訴訟の判決の種類と効力

取消訴訟の判決の種類

取消訴訟の判決には、却下判決、認容判決、棄却判決の3つがあります。そして、棄却判決の特殊な形態として事情判決があります。

却下判決 訴えが訴訟要件を欠き、不適法な場合に、本案審理に入ることなく訴えを排斥する判決
審理することなく門前払いをするイメージです。
認容判決 原告の請求に理由があることを認めて、処分を取り消す判決
通常、取消判決と言います。
棄却判決 原告の請求に理由なしとして請求を排斥する判決
却下判決と異なり、審理はするものの、行政庁が行った処分が正しいということで、処分は取り消されない判決です。

事情判決

棄却判決の一種に、事情判決があります。

通常、処分または裁決が違法の場合、取消判決を行わないといけません。

しかし、処分や裁決を取り消すと、公の利益に著しい障害を生ずる場合公共の福祉に適合しないと認める場合)、処分を取り消すことなく、原告の請求を棄却することができます。

これを事情判決と言います。

この事情判決をする場合、判決の主文で、処分または裁決が違法であることを宣言しなければなりません。

例えば、土地区画整理事業で、複数の土地について公共施設を整備改善しようとしていたとします。その土地の所有者の一人が、土地区画整理事業の認定は違法だと認定の取り消しの訴えを提起したとします。工事も進んでおり、ここで取り消しをすると、他の土地所有者にも大きな影響を及ぼすことがあると、公共の利益を維持するために事情判決を下したりします。

また、衆議院議員定数不均衡事件では、事情判決が直接適用されたわけではありませんが、事情判決の法理が適用されました。いわゆる一票の格差の話です。

衆議院議員の総選挙について各選挙区間の議員1人あたりの有権者分布差比率は最大4.99対1に及んでおり、平等選挙を要請した憲法(14条1項)に違反すると判断した。(衆議院議員定数不均衡事件:最判昭51.4.14)
しかし、違憲ではあるが、混乱を避けるために、事情判決のルールを使って、その選挙を無効とはしないとした。

判決の効力

判決の効力には、既判力、形成力、拘束力の3つがあります。

既判力 当事者及び裁判所は判決の内容に対して、矛盾する主張や判断が出来なくなるという効力(蒸し返しができない)
形成力 取消判決の確定によって、処分または裁決は、当然に処分時または裁決時にさかのぼって効力を失うという効力
拘束力 処分または裁決をした行政庁・関係行政庁は取消判決に拘束され、同一処分の理由では変更出来なくなる効力

既判力

既判力 当事者及び裁判所は判決の内容に対して、矛盾する主張や判断が出来なくなるという効力(蒸し返しができない)

判決が確定すると、同一事項が別の訴訟で問題となった場合、訴訟当事者は、判決内容に反する主張はできず裁判所は、判決内容に反した判断をすることができなくなります。これを既判力と言います。

例えば、A建設会社がマンション建設のために、甲県の建築主事から建築確認を受けた。その後、近隣住民が当該建築確認処分は違法だとして、甲県に対して処分の取り消しの訴えを提起した。

そして、判決の結果、建築確認は適法として棄却判決が下された場合、近隣住民は再度同一訴えを提起することはできません(蒸し返しはできない)。

形成力、第三者効

形成力 取消判決の確定によって、処分または裁決は、当然に処分時または裁決時にさかのぼって効力を失うという効力

取消判決が確定すると、処分または裁決は、行政庁が取消しをするまでもなく当然に、効力を失い、処分または裁決がなかったことになります(遡及する)。

例えば、A建設会社がマンション建設のために、甲県の建築主事から建築確認を受け、その後、近隣住民が当該建築確認処分は違法だとして、甲県に対して処分の取り消しの訴えを提起した。審理の結果、建築確認が違法として取消判決を受けた場合、初めから建築確認はなかったことになります(建築確認は初めから無効)。

そして、この形成力には第三者にも及びます。上記取消訴訟については、原告が近隣住民、被告が甲県ですが、第三者であるA建設会社にも取消判決の効力が及ぶため、A建設会社はマンション建設ができなくなります。これを第三者効と言います。

拘束力

拘束力 処分または裁決をした行政庁・関係行政庁は取消判決に拘束され、同一処分の理由では変更出来なくなる効力

確定した取消判決は、その事件について、処分または裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束します。この効力を拘束力と言います。

この拘束力は、下記2つの効果をもたらします。

  1. 取消しされた行政処分と同一事情のもとで、同一理由同一内容の処分を行うことを禁止する
  2. 行政庁はあらためて措置を執る義務を負う

例えば、A建設会社がマンション建設のために、甲県の建築主事から建築確認を受けた(建築確認申請を認めた)。その後、近隣住民が当該建築確認処分は違法だとして、甲県に対して処分の取り消しの訴えを提起した。審理の結果、建築確認が違法として取消判決を受けた場合、初めから建築確認はなかったことになります。ここまでは形成力の話です。

その後、A建設会社が、同一のマンション建設について建築確認の申請を行った場合、行政庁は、以前の処分と同じように、建築確認を認める処分を下すことができないということです。これが上記1の効果です。

上記2の効果については、例えば、A建設会社がマンション建設のために、甲県の建築主事に建築確認申請をし、拒否処分を受けたとします。A建設会社が当該拒否処分は違法だとして、取消訴訟を提起した。その結果、取消判決(認容判決)がなされた場合、甲県の建築主事は、再度建築確認申請について、審査をして処分をやり直さなおす義務を負います。

<<執行停止(取消訴訟) | 行政事件訴訟法における教示>>

執行停止(取消訴訟)

取消訴訟を提起してから判決が出るまで、数か月かかる場合もあります。そうなると、判決が出るまでに、不利益が生じる場合もあります。そのような場合に、裁判所は、処分の効力や処分の執行などを行わないようにすることができます。これを執行停止と言います。

執行不停止の原則

行政不服審査法でも勉強した執行停止と同様に、処分の取消しの訴えが提起されても、処分の効力、処分の執行または手続きの続行は妨げられません(停止しない)。これを執行不停止の原則と言います。

例えば、A社が甲県知事から土地の開発許可を受け、造成工事に着手したとします。その近隣住民が、当該造成工事をすることで、がけ崩れなどが起こる可能性があると考え、開発許可処分の取消しの訴えをしました。しかし上記執行不停止の原則の通り、訴訟提起しても、工事は続行されます。そして、造成工事が完了してしまうと、開発許可処分取消しの訴えの利益がなくなり、取消の訴えは却下されてしまいます。そのような事態を防ぐために、仮の救済策として、執行停止があります。

ただし、どんな場合でも執行停止されるかというとそうではありません。要件があります。

執行停止の要件

執行停止の要件は下記2つです。どちらも満たす必要があります。

  1. 処分の取消しの訴えの提起があること
  2. 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があること

上記を言い換えると、取消しの訴えを提起していない場合、執行停止はされません。また、重大な損害を避けることについて緊急ではない場合も執行停止されません。

上記の場合、執行停止の申立てにより、裁判所は、決定をもって、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(執行停止)をすることができます。

ただし、処分の執行又は手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、処分の効力の停止はできません

この点は個別指導で解説します。

また、上記要件を満たす場合でも、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるとき(原告が勝訴する見込みがないとき)は、執行停止することができません。

即時抗告

執行停止の申立てに対する決定に対して、不服がある者は即時抗告ができます。

事情変更による執行停止の取消し

執行停止の決定を行った後に、執行停止をする理由が消滅したり、その他の事情が変更したときは、裁判所は、行政庁(相手方)の申立てにより、決定をもって、執行停止の決定を取り消すことができます。

内閣総理大臣の異議

執行停止の申立てがあったとき、内閣総理大臣は、やむを得ない場合には、執行停止しない理由を付けて、裁判所に対して「執行停止をするな!」と異議を述べることができます。

この異議は、執行停止の決定があった後でも述べることができます。

そして、内閣総理大臣が異議を述べた場合、裁判所は、その異議に従う義務があります。つまり、
執行停止の決定前であれば、執行停止をすることができず
執行停止の決定後であれば、執行停止の決定を取り消さなければなりません

<<訴訟参加 | 取消訴訟の判決の種類と効力却下判決、認容判決、棄却判決事情判決既判力形成力・第三者効拘束力>>

訴えの変更

訴えの変更とは、訴訟の係属中に、原告が請求の趣旨請求の原因を変更することです。

国又は公共団体に対する請求への訴えの変更

そして、この訴えの変更にはいくつかルールがありますので、それを列挙します。

  1. 訴えの変更は、原告の申立てにより行う。(裁判所の職権で行うことはできない)
  2. 訴えの変更は、口頭弁論の終結に至るまでに行うこと。
  3. 訴えの変更をするにしても、請求の基礎に変更がないことが要件。
  4. 訴えの変更を認める場合、裁判所決定をもって行う
  5. 訴えの変更を許す決定をするには、裁判所は、あらかじめ被告の意見をきかなければならない
  6. 訴えの変更を許す決定に対しては、即時抗告をすることができる。
  7. 訴えの変更を許さない決定に対しては、不服を申し立てることができない

請求の基礎とは?

訴訟を行う場合、ある事実があり、その事実に対して何らかの請求を行います。その事実自体が同じ場合、「請求の基礎に変更がない」と言います。

例えば、Aが営業停止処分を受けて、Aが営業停止処分の取消しの訴えをしたとします。その後、営業停止期間に100万円の損害があったとして、「処分の取消しの訴え」から「損賠償請求の訴え」に変更することがあります。

この2つの訴えについて、「Aが営業停止処分を受けた」という事実から発生した訴えです。こういったものが請求の基礎に変更がないということです。

裁判資料(証拠書類等)については、処分取消の訴えのものを使って、損害賠償請求の訴えを行うことができるため、裁判の効率性も保たれます。

<<関連請求の併合 | 訴訟参加>>

訴訟参加

訴訟が行われた場合に、その訴訟に参加できる者として「訴訟の結果により権利を害される第三者」および「処分又は裁決をした行政庁以外の行政庁」を挙げることができます。訴訟に参加する「第三者」と「行政庁」を分けて解説していきます。

第三者の訴訟参加

  • 訴訟の結果により権利を害される第三者があるときは、当事者若しくはその第三者の申立てにより又は職権で、裁判所の決定によって、その第三者を訴訟に参加させることができます。
  • 上記第三者の参加の決定をするには、裁判所は、あらかじめ当事者及び第三者の意見をきかなければなりません。

訴訟の結果により権利を害される第三者

訴訟の結果により権利を害される第三者とは、例えば、A建設会社がマンションの建築のために、甲県の建築主事から建築確認を受けた。近隣住民が、日当たりが悪くなるということで、甲県に対して、建築確認処分の取消しを行った。この場合、近隣住民が原告、甲県が被告となるのですが、A建設会社は、この建築確認が取り消されると、マンションを建築できる権利を害されます。そのため、A建設会社が「訴訟の結果により権利を害される第三者」となります。

行政庁の訴訟参加

  • 裁判所は、処分又は裁決をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させることが必要であると認めるときは、当事者若しくはその行政庁の申立てにより又は職権で、決定をもつて、その行政庁を訴訟に参加させることができる。
  • 上記行政庁の参加の決定をするには、裁判所は、あらかじめ当事者及び当該行政庁の意見をきかなければなりません。

<<訴えの変更 | 執行停止(取消訴訟)>>

関連請求の併合


関連請求の併合とは、相互に関連する訴訟が提起された場合、別々に審理すると、審理の手続きが重複してしまい、効率が悪いです。そのため、関連請求にかかる訴えと取消訴訟とを併合することができます。言い換えると、まとめて訴訟審理を行うということです。

関連請求に係る訴訟の移送

取消訴訟と下記6つの関連請求にかかる訴訟とが異なるの裁判所に係属する場合において、相当と認めるときは、関連請求に係る訴訟の係属する裁判所は、申立てにより又は職権で、その訴訟を取消訴訟の係属する裁判所に移送する(移す)ことができます。(行政事件訴訟法13条)

つまり、取消訴訟をA裁判所で行い、関連請求にかかる訴訟をB裁判所で行う場合、2つの訴訟をまとめてA裁判所で行うということです。

ただし、取消訴訟又は関連請求に係る訴訟の係属する裁判所が高等裁判所であるときは、移送(移すことが)できません

関連請求にかかる訴訟

  1. 当該処分、裁決に関連する原状回復または損害回復
  2. 当該処分とともに一個の手続を構成するほかの処分の取消しの請求
  3. 当該処分に係る裁決の取消しの請求
  4. 当該裁決に係る処分の取消しの請求
  5. 当該処分または裁決の取消しを求める他の請求
  6. その他当該処分又は裁決の取消しの請求と関連する請求

1の具体例でいうと、Aが営業停止処分の取消しとともに、営業停止期間中に営業できなかったことによる損害についても賠償請求する場合です。
「営業停止処分の取消しの訴え」と「損害賠償請求の訴え」を併合して審理することができます。

2の具体例でいうと、土地収用における事業認定と収用裁決は一個の手続きを構成するものです。この「事業認定の取消しの訴え」と「収用裁決の取消しの訴え」を併合することができます。

そして、訴えの併合については、手続として、いろいろなルールがあります。

請求の客観的併合

  • 原告は、取消訴訟を提起するにあたり、関連請求に係る訴えを併合することができます。
  • 上記訴えを併合する場合において、取消訴訟の第一審裁判所が高等裁判所であるときは、関連請求に係る訴えの被告の同意を得なければなりません。
  • もし、被告が異議を述べないで、本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、上記同意したものとみなします。(行政事件訴訟法16条)

共同訴訟

数人の原告が関連請求を行う場合、関連請求を併合して、共同訴訟人として訴えることができ、また、数人の被告が関連請求として訴えられる場合も同様に共同訴訟人として、訴えられることもできます。(行政事件訴訟法17条)

第三者による請求の追加的併合

  • 第三者は、取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、その訴訟の当事者の一方を被告として、関連請求に係る訴えをこれに併合して提起することができます。
  • 上記訴えを併合する場合において、取消訴訟の第一審裁判所が高等裁判所であるときは、関連請求に係る訴えの被告の同意を得なければなりません。
  • もし、被告が異議を述べないで、本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、上記同意したものとみなします。(行政事件訴訟法18条)

原告による請求の追加的併合

  • 原告は、取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、関連請求に係る訴えをこれに併合して提起することができます。
  • 上記訴えを併合する場合において、取消訴訟の第一審裁判所が高等裁判所であるときは、関連請求に係る訴えの被告の同意を得なければなりません。
  • もし、被告が異議を述べないで、本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、上記同意したものとみなします。(行政事件訴訟法19条)

<<取消訴訟の手続きの流れ | 訴えの変更>>

取消訴訟の手続きの流れ

取消訴訟の手続きの流れ

取消訴訟の流れについては、原告が処分や裁決について取消訴訟を提起します。そして、裁判に必要な事実と証拠を集めて、事実関係を精査します。その事実関係に対して法律を適用して、裁判所が判決を下します。

上記流れをもう少し細かく見ていきます。

審理の対象

取消訴訟を含む行政事件訴訟や民事訴訟は、違法かどうかを裁判所に審理してもらうものです。不当かどうかは判断しません。当・不当については不服申立て(審査請求等)で審理できます。

処分権主義

まず、訴えを提起するか、しないか、また訴えを提起する場合、誰を被告として、何について、どのような裁判を行うかは、原告が自由に決めることができます。

また、訴えをいつ終了させるかも原告が自由に決めることができます。

これを処分権主義と言います。

簡単にまとめて、訴えを起こすかどうかを原告が自由に決めることができることを処分権主義と考えてもらっても行政書士の試験勉強であれば問題ございません。

要件審理

取消訴訟が提起されると、裁判所は訴訟要件の有無について審理(要件審理)します。

これは、前回までに勉強した訴訟要件の部分に関連してきます。

下記6つの要件の一つでも満たさないものがあると、不適法として却下されます。

全ての要件を満たすと、実際の処分に違法があるかどうかを審理していきます。

  1. 処分性
  2. 原告適格
  3. 訴えの利益(狭義)
  4. 被告適格
  5. 出訴期間
  6. 管轄裁判所

弁論主義

取消訴訟の審理手続きは弁論主義が採用されます。

裁判の基本は「事実」と「証拠」である。事実と証拠をもとに、裁判所は判決を下します。そして、取消訴訟(民事訴訟も同様)の場合では、この「事実」と「証拠」は当事者が集めて裁判所に提出すべきものとされている。このように、裁判の基礎となる訴訟資料の収集と提出を当事者の権能および責任とする原則を「弁論主義」と言います。

職権探知主義

弁論主義の対義語が「職権探知主義」です。裁判所が判断を下すための証拠資料を自ら収集するという原則を言います。訴訟要件のうちでも公益性の高い事項については、弁論主義ではなく、職権探知主義が採用されます。

また、行政不服審査法においては、審理員が職権で物件の提出要求参考人の陳述及び鑑定の要求審理関係人への質問をすることができるため、職権探知主義が採用されています。

職権証拠調べ

職権探知主義とよく似た言葉に職権証拠調べという言葉があります。

職権証拠調べとは、裁判所が、必要があると認めるときは、職権で、証拠を調べることができることを言います。

職権探知主義のように、裁判所が証拠書類を探しに行く(収集する)のではなく、提出された証拠書類を調べることが職権証拠調べです。

そして、上記証拠調べの結果について、当事者の意見をきかなければなりません。

行政事件訴訟法では、訴訟の結果が公共の福祉に影響するところが少くないため,裁判所が必要があると認めるときは,補充的に職権で証拠調べをすることができます

職権探知 職権証拠調べ
不服申立て
(行政不服審査法)
行政事件訴訟
(行政事件訴訟法)
×

<<取消訴訟の管轄裁判所 | 関連請求の併合>>

取消訴訟の管轄裁判所

裁判管轄の基本

取消訴訟は、原則、地方裁判所が第一審の裁判管轄を有します。

第一審の判決に不服がある当事者は高等裁判所に控訴することができます。

高等裁判所の判決に不服がある当事者は最高裁判所に上告することができます。

上記の通り、合計3回までの審理を受けることができる制度を「三審制」と言います。

行政事件訴訟法における管轄裁判所

管轄裁判所とは、取消訴訟を提起する場合、どこの裁判所に対して、訴訟を提起すればよいかということです。

管轄裁判所に取消訴訟を提起すれば、管轄裁判所の要件を満たし、管轄裁判所以外の裁判所に対して訴えを提起した場合、却下判決が下されます。

原則 被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所」または「処分・裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所」
例外 国が被告となる場合、原告の普通裁判所籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所(特定管轄裁判所

普通裁判籍とは?

裁判籍とは、ある事件がどの区域の裁判所の管轄に属するかということで、「被告の普通裁判籍の所在地」とは、簡単に言えば、被告の住所地です。また、「原告の普通裁判所籍の所在地」とは、原告の住所地です。

<<取消訴訟の出訴期間 | 取消訴訟の手続きの流れ>>

取消訴訟の被告適格

行政書士では、「国または公共団体を被告とする」とするくらいで十分です。これが行政書士試験のポイントとなります。具体例についても記述していますので具体例で考えてもよいでしょう!

被告適格

被告適格とは、誰を被告として、取消訴訟を提起するのか?ということです。

被告適格となる行政庁を被告として、取消訴訟を提起した場合、被告適格の要件を満たします。

一方、被告適格に該当しない行政庁を被告として、取消訴訟を提起した場合、被告適格を満たさないため、却下判決が下されます。

1.処分・裁決した行政庁が行政主体に所属する場合

取消訴訟は、原則として、処分または裁決をした行政庁の所属する行政主体(国または公共団体)を被告として提起しなければなりません。

例えば、税務署長が行った所得税の課税処分の取消訴訟を提起する場合、被告はです。

また、甲県知事が行った営業許可の処分の取消訴訟を提起する場合、甲県知事ではなく、甲県(行政主体)を被告として訴訟を提起する必要があります。

被告となる行政主体とは?

被告となる行政主体には、国、都道府県、市町村、弁護士会等です。

2.処分・裁決した行政庁がいずれの行政主体にも所属しない場合

もっとも、処分又は裁決をした行政庁がいずれの行政主体にも所属しない場合には、当該行政庁を被告として提起しなければなりません。

例えば、指定確認検査機関が行った建築確認の取消訴訟の被告は、当該指定確認検査機関となります。

3.被告とすべき国若しくは公共団体又は行政庁がない場合

上記1、2に該当しない場合、つまり、被告とすべき「国、公共団体、行政庁」がない場合には、取消訴訟は、当該処分または裁決に係る事務の帰属する国または公共団体を被告として提起しなければなりません。

これは、行政庁の統廃合や移管等があって元の処分や裁決をした行政庁が廃止された場合の話です。そのような場合、現在、当該事務を行っている国や公共団体を被告として取消訴訟を起こします。

<<取消訴訟の訴えの利益(狭義) | 取消訴訟の出訴期間>>

取消訴訟の出訴期間

出訴期間とは、取消訴訟を提起できる期間のことです。

出訴期間内であれば、要件を満たしますが、出訴期間を経過した後に取消訴訟を提起しても、却下判決が下されます。

取消訴訟の出訴期間

下記いずれかの期間を経過すると、取消訴訟を提起することができなくなります。

主観的期間 処分または裁決があったことを知った日から6か月を経過したとき
例外として正当な理由があるときは、6か月経過後でも取消訴訟を行える
客観的期間 処分または裁決の日から1年を経過したとき
例外として正当な理由があるときは、1年経過後でも取消訴訟を行える

処分または裁決があったことを知った日とは?

当事者が書類の交付、口頭の告知その他の方法により処分・決定の存在を現実に知った日を指します。(最判昭27.11.20)

審査請求を行った場合の取消訴訟の出訴期間

上記「処分または裁決があったことを知った日から6か月を経過したとき」「処分または裁決の日から1年を経過したとき」という風に「または裁決」となっています。

これは審査請求を行った場合の出訴期間についてです。審査請求を行った場合、処分の時を基準にはせず、裁決の時を基準とします。

審査請求前置主義の場合に審査請求を経ないで取消訴訟を行った場合どうなるか?

取消訴訟の出訴期間は、上記のとおりですが、上記期間内に取消訴訟を行ったとしても、却下される場合があります。

それは、審査請求前置主義にもかかわらず、審査請求の裁決を経る前に取消訴訟を提起した場合です。

この場合、不適法となるので、却下判決が下されます。

ただし、例外として、下記の場合は、審査請求前置主義でも、審査請求の裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起できます。

  1. 審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないとき
  2. 処分、処分の執行または手続きの続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき
  3. その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき

審査庁が誤って却下した場合

審査請求前置主義の場合において、間違えて審査請求を不適法として却下した場合、この却下は「審査の決定にあたる」として、取消訴訟の訴えを提起できます。(最判昭36.7.21)

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