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長の専決処分

長は、執行機関として、議会で決めたことしか、執行することができません。しかし、長は、一定の場合に議決を経ずに、処分をすることができます。これを専決処分と言います。

専決処分には法定の専決処分議会委任の専決処分の2つがあります。

法定の専決処分

法定の専決処分とは、法律で定められた事由に該当する場合に行える専決処分です。

法律で定められた事由とは、下記の通りです。

  1. 議会が成立しないとき(在任議員の総数が議員定数の半数に満たない場合)
  2. 議員の定数の半数以上の議員が出席しないなどが原因で会議を開くことができないとき
  3. 特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないとき
  4. 議決事件を議決しないとき

上記4つのいずれかに該当する場合、長は議会の決議なく処分を行えます。

※ 「副知事・副市町村長の選任の同意」および「指定都市の総合区長の専任の同意」については専決処分の対象外

そして、長が処分をした場合、長は、次の会議で、議会に報告(事後報告)し、議会の承認を求めなければなりません。

もし、議会が承認しなくても、長の処分の効力に影響はありません。

議会委任の専決処分

議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、長は専決処分ができます。

議会の委任による専決処分は、議会への事後報告は必要ですが、議会の承認は不要です。なぜなら、議会で指定された事項だから、議会は長が行うことは事前に分かっているからです。

地方公共団体の長の再議請求権

議会の議決について、①地方公共団体の長に異議がある場合、または②違反がある場合、再度審議および議決を要求する制度があり、これを「再議」と言います。

再議には、一般的再議請求権(一般的拒否権)と特別的再議請求権(特別拒否権)の2つがあります。

一般的再議請求権(一般的拒否権)→一般再議

一般的再議請求権(一般的拒否権)は、①長に異議があるときに長が理由を示して再議に付す制度です。これは、異議があるときに請求すればよいので再議に付すかどうかは任意です。

そして、再議に付す要件が、「条例の制定改廃・予算に関する議決」と「それ以外の議決」とで異なります。


条例の制定改廃・予算に関する議決

条例の制定や改廃、予算に関する議決について、長に異議がある場合、長はその送付を受けた日から10日以内に、理由を示して再議に付し、再議の結果、出席議員の3分の2以上の多数で再議に付された議決と同じ議決がなされたときは、その議決は確定します。

例えば、条例の制定案が可決され、長が再議に付し、再度可決されたら、条例は制定されるということです。再議で否決となれば、条例は制定されません。

それ以外の議決

条例の制定改廃・予算以外に関する議決については、議決の日から10日以内に、理由を付して再議し、再議の結果、出席議員の過半数で、再議に付された議決と同じ議決がなされたときは、その議決は確定します。

例えば、議員Aを除名処分の決議が可決され、それに対して、長が再議にかけ、再度過半数の賛成があれば、除名処分の議決は確定します。

特別的再議請求権(特別拒否権)→違法再議

特別的再議請求権(特別拒否権)は、②議会の議決選挙が、その権限を超えまたは法令・会議規則に違反すると認められるとき、長は、理由を付して再議または再選挙をしなければなりません(義務)。

※特別拒否権は、一般的拒否権と異なり、期間制限はありません。

収支不能議決

普通地方公共団体の議会の議決が、収入または支出に関し、執行することができないものがあるとき(収支不能の場合)、2012年の法改正前は、違法再議として、再議に付すことが義務となっていたが、改正後は、権限を超えたり、法令や会議規則に違反する場合は、違法再議ですが、そうでなければ一般再議となります。

義務費の削除減額議決

義務費とは法令により負担する経費のことです。簡単に言えば、人件費や公債費(地方債の返済にかかる元利償還金と利息)等です。そして人件費等を削減する議決がされた場合、長は、理由を付して、必ず再議に付さなければなりません(特別拒否権の対象)。

予算を削るということは、必要な事業を行えない可能性があるから、再議に付すことが義務となっています。

非常災害対策・感染症予防費の削除減額議決

非常災害対策費とは、災害に対する応急、復旧の施設のための費用です。

感染症予防費とは、感染症患者に対して、法に基づく入院勧告又は入院措置を実施した場合において、医療費は公費負担となり、その費用のことです。

これらの経費を削除したり、削減したりする議決をしたときは、長は、理由を付して、必ず再議に付さなければなりません(特別拒否権の対象)。

もし、再議で再度、経費の削除・減額の議決がなされた場合、長は、その議決を不信任の議決をみなすことができます

地方公共団体の長に対する不信任議決と議会解散

「地方公共団体の長」と「議会」が対立して、議会が長を辞めさせたい!という場合、議会は長に対する「不信任議決」により、長を失職させることができ、逆に長は、議会を解散させる「議会解散権」を持ちます。

※不信任議決と不信任決議は同じと考えて大丈夫です。

長に対する不信任議決の流れ

まず、不信任議決をする場合、議員数の3分の2以上が出席し、その4分の3以上の同意が必要です。

議会が、長の不信任議決をしたときは、議長は直ちにその旨を長に通知しなければなりません。

長は、その通知を受けた日から10日以内議会を解散することができます。解散しない場合は、その10日が経過した日に長は失職します。(長の失職後、長の選挙が行われる)

上記、長が議会を解散させた場合、議会の選挙が行われ、解散後初めて招集される議会において、再度不信任議決(議員数の3分の2以上が出席し、その過半数の同意)があった場合、長は議長から通知があった日において失職します。

長の補助機関(副知事・副市町村長、会計管理者)

地方公共団体の長の補助機関は、長が行うこと(長の職務執行)を補助する機関です。

そして、長の補助機関には、下図の通り、「副知事・副市町村長」「会計管理者」「職員」「出納員その他の会計職員」等があります。


副知事・副市町村長

都道府県には副知事が、市町村には副市町村長が置かれ、定数は条例で定めます。
ただし、条例で、副知事・副市町村長を置かないこともできます。

副知事・副市町村長は、長の職務を代理することなどの職務を行います。

副知事・副市町村長は、長が、議会の同意を得て選任し、任期は4年です。ただし、長は任期中でも解職できます。

会計管理者

会計管理者とは、その地方公共団体の会計事務を行うトップとイメージすると分かりやすいです。普通地方公共団体には、会計管理者を1人必ず置きます。

会計管理者は、長の補助機関である職員から、長が任命します。

会計管理者は、お金に関する事務を行うため、「長、副知事若しくは副市町村長又は監査委員」と「親子、夫婦又は兄弟姉妹」の関係にある者は、会計管理者となることができず、もし、上記関係が生じたときは、会計管理者の職を失います

出納員その他の会計職員

会計管理者の事務を補助する機関で、長の補助機関である職員から、長が任命します。

町村出納員を置かないこともできます

地方公共団体の議会の運営の5つの原則

地方公共団体の議会の運営には下記5つの原則があります。

  1. 会議公開の原則
  2. 定足数の原則
  3. 多数決の原則
  4. 一事不再議の原則
  5. 会期不継続の原則

会議公開の原則

普通地方公共団体の議会の会議は、公開により行います。
ただし、議長または議員3人以上の発議により、出席議員の3分の2以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができます。

定足数の原則

普通地方公共団体の議会は、議員の定数の半数以上の議員が出席しなければ、会議自体開くことができません。

※定足数とは、会議で議事を進め議決するのに必要な最小限の人数です。

多数決の原則

普通地方公共団体の議会の議事は、原則、出席議員の過半数で決定し、可否同数(賛成も反対も同じ数)の場合は、議長が決します。

例外的に特別多数を要するものは下記の通りです。

議員の半数の出席とその3分の2以上の多数の同意
地方公共団体の事務所の位置決定又は変更に関する条例の制定
秘密会の開催
議員の失職、資格決定
条例の制定・改廃または予算に関する再議
条例で定める特に重要な公の施設の廃止、長期かつ独占的な利用をさせること
議員の3分の2の出席過半数の同意
地方公共団体の長に対する再度の不信任議決
議員の3分の2の出席とその4分の3の同意
役員の解職請求に対する同意
議員の除名
地方公共団体の長に対する最初の不信任議決

一事不再議の原則

一度議決された事項は、同一会期中に再度議決してはいけません(再議にかけてはいけない)。これを一事不再議の原則と言います。

会期不継続の原則

会期中に議決に至らなかった事件は、次の会期に継続しません。会期はそれぞれ独立しているということです。

地方公共団体の議会の種類と招集、会期

地方公共団体の議会には、定例会と臨時会の2つがあります。

定例会

定例会とは、毎年定期的(定例的)に招集される議会で、条例で定める回数を招集しなければなりません。

臨時会

臨時会とは、必要がある場合に、あらかじめ告示された付議事件に限って招集されるものです。

通年会期制

地方公共団体の議会は、条例で、定例会および臨時会とせず、毎年、条例で定める日から翌年の当該日の前日まで(結果的に1年中)を会期とすることができます。

1年中議会活動ができるので、条例で、定期的に会議を開く日(定例日)を定めなければなりません。

また、地方公共団体の長(知事や市町村長)は、議長に対し、会議に付議すべき事件を示して、定例日以外の日に会議を開くことを請求することができ、その請求があったとき、議長は一定期間内に会議を開かなければなりません。

議会の招集

議会の招集とは、議員を議場に集めることを言います。

  1. 通常、議会の招集は、地方公共団体の長が行います。(地方公共団体の長の議会招集権
  2. また、議長は、議会運営委員会の議決を経て、地方公共団体の長に対して、臨時会の招集を請求できます。(議長の臨時会招集権
  3. さらに、議員定数の4分の1以上の者は、長に対して、会議に付すべき事件を示して、臨時会の招集を請求できます。(議員の臨時会招集権

2、3について、請求を受けた地方公共団体の長は、請求のあった日から20日以内に臨時会を招集しなければなりません。

もし、長が招集しないときは、2の場合、議長が臨時会を招集することができ(任意)、3の場合、議長は必ず臨時会を招集しなければなりません(義務)。

会期

会期とは、議会が活動をする期間を言います。そして、通年会期の場合は、上記の通り、1年中議会が活動できるということです。

会期の決定は、議会の権限なので、議会の活動期間は議会で決めるということです。また、定例会・臨時会に関係なく、会期を延長することも議会で決めます。

議会の委員会(常任委員会、議会運営委員会、特別委員会)

地方公共団体の議会では、効率的に議会を運営するために、条例で、常任委員会議会運営委員会及び特別委員会を置くことができます。これらは、任意で設置するため、必ずしも設置しなければならないわけではありません。

そして、いずれの委員会も、予算案以外であれば議案を提出することができます


常任委員会

常任委員会は、担当部門の事務の調査、議案等を詳しく審査する組織で、各地方公共団体ごとに、色々な種類の常任員会があります。例えば、総務委員会・市民福祉委員会・文教経済委員会・建設水道委員会等、名称も各地方公共団体ごと様々です。

そして、地方公共団体の議員は、常任委員を複数兼ねることができます。

議会運営委員会

議会運営委員会は、「議会の運営に関する事項」「議会の会議規則、委員会に関する条例等に関する事項」「議長の諮問に関する事項」について調査し、審査する組織です。

特別委員会

特別委員会は、原則、会期中に限って、議会の議決により付議された事件を審査します。ただし、例外的に、特定の事件については、議会の閉会中も審査することができます

議長と副議長(地方公共団体の議会)

地方公共団体の議会の議長と副議長について、行政書士の試験のポイントとなる部分は下記内容です。

議長と副議長の選び方

議会は、議員の中から、議長および副議長1人ずつ選挙で選ばなければなりません。

議長と副議長の任期

  • 議長および副議長の任期は、議員の任期(4年)によります。
  • 議長およぶ副議長は、議会の許可を得て辞職することができます。
  • 副議長は、議会の閉会中においては、議長の許可を得て辞職できます。

議長の権限

  • 議長は、議場の秩序を保持し、議事を整理し、議会の事務を統理し、議会を代表します。
  • 議長は、委員会に出席し、発言することができます。
  • 「普通地方公共団体の議会又は議長」の「処分又は裁決」に係る普通地方公共団体を被告とする訴訟については、議長が当該普通地方公共団体を代表します。つまり、議会や議長の処分等により、訴えられた場合、議長が被告である普通地方公共団体を代表して、裁判に出るということです。

副議長

議長に事故があるとき、又は議長が欠けたときは、副議長が議長の職務を行います。

議会の権限(①議決権、②選挙権、③監査権、④自律権)

地方公共団体の議会には、普通地方公共団体の意思決定機関としての①議決権と、②選挙権、③監査権、④自律権といった権限があります。

議決権

普通地方公共団体の議会が行う議決事件は、必ず議決しなければならない必要的議決事件と、必要に応じて条例で議決事項に定めることができる任意的議決事件があります。

必要的議決事件

必要的議決事項は15項目に限定されています(制限列挙)。その中でも、行政書士の試験で出題されやすいものは、下記5つなので、それだけでも頭に入れておきましょう!

  1. 条例の制定と改廃
    条例の提案権は、一般的には、議会と長の双方にある。特定の場合のみいずれかのみに専属する。
  2. 予算の議決
    議会は、予算を増額修正できるが、長の予算発案権の侵害となるような修正は許されない。
    減額修正はできない。
  3. 決算の認定
  4. 地方税の賦課徴収又は分担金、使用料、加入金若しくは手数料の徴収に関すること
  5. 条例で定める重要な公の施設につき条例で定める長期かつ独占的な利用をさせること

任意的議決事件

上記以外にも条例で普通地方公共団体に関する事件につき、議会の議決すべきものを定めることができます。

そして、自治事務については、すべて任意的議決事件の対象となります。

一方、法定受託事務については、国の安全に関することなど普通地方公共団体の議会で議決すべきでないもの以外は、任意的議決事件の対象となります。

選挙権

議会は、議長副議長選挙管理員等の選挙を行わなければなりません。

監査権

住民の代表機関である議会は、長などの執行機関の行為が適正に行われているかを監視する権限(同意権、調査権、書類の検閲・検査権、監査請求権)を持っています。

同意権

地方公共団体の長が、「副知事副市町村長、監査委員、教育委員会の委員、都道府県公安委員会の委員」などを選任する場合、議会の同意が必要となります。

調査権(100条調査権)

地方公共団体の議会は、地方公共団体の事務に関する調査を行うことができ、地方自治法第100条に規定された権利なので、100条調査権と言います。

ほとんどの事務が100条調査権の対象になりますが、
自治事務については、労働委員会、収用委員会の権限に属する事務」は対象外となり、「法定受託事務については、国の安全、個人の秘密にかかわるもの」は対象外となります。

調査を行うために特に必要がると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭および証言ならびに記録の提出を請求することができます。

この100条調査権については、2013年、当時の東京都知事であった猪瀬直樹知事が徳洲会グループより5000万円を受け取った事件で使われています。ただし、東京都議会が百条委員会の設置を決定し、百条調査権を行使しようとする前に、猪瀬知事は辞職しました。

書類の検閲・検査権

議会は、普通地方公共団体の事務に関して書類等を検閲し、執行機関の報告を請求して、事務の管理、議決の執行および出納を検査することができます。

分かりやすく言えば、議会で決めたとおりに仕事をしているか、検査・調査するわけです。

この検査の対象についても、100条調査権同様下記については検査の対象外となっています。

自治事務については、労働委員会、収用委員会の権限に属する事務」は検査権の対象外となり、「法定受託事務については、国の安全、個人の秘密にかかわるもの」は検査権の対象外となります。

監査請求権

議会は、監査委員に対し、普通地方公共団体に関する監査を求め、監査の結果に対する報告を請求することができます。

この監査請求の対象についても、100条調査権同様下記については検査の対象外となっています。

自治事務については、労働委員会、収用委員会の権限に属する事務」は監査請求の対象外となり、「法定受託事務については、国の安全、個人の秘密にかかわるもの」は監査請求の対象外となります。

自律権

議会の自律権とは、議会自らの意思で、議会の組織・運営の決定や処理する権利のことを言い、「会議規則の制定権、会期の決定権、懲罰権、自主的に解散する権利」等があります。

懲罰権の判例(最判昭35.10.19)(最大判令2.11.25)

地方議会議員の除名処分・地方議会議員の議会への出席停止処分は議会の内部規律の問題に当たらないため司法審査が及ぶ

地方公共団体の議会と長の関係

地方公共団体の機関

まず、普通地方公共団体を運営していく上で議会の2つの機関があります。

議会とは、住民の意思を代表する機関(代表機関)であるとともに、地方公共団体の意思を決定する機関(意思決定機関)でもあります。実際、議会の議員は、都道府県議会議員選挙や市議会議員選挙等の直接選挙で、都道府県や市町村の代表として選ばれ、この議員が議会で意思決定を行います。

とは、知事や市長等を指し、普通地方公共団体の事務を管理・執行し、これを統轄し(まとめあげ)代表する機関です。そして、知事や市長等も、知事選挙や市長選挙等の直接選挙で選ばれます。

地方公共団体の議会と長の関係

議会と長は対等な関係です。その理由は、議会も長も住民による直接選挙によって選ばれた者だからです。

そして、議会も長も住民による直接選挙で選ばれた代表機関なので、それぞれが住民に対して直接責任を負います。これを二元的代表制と言います。分かりやすく言うと、2つの代表する機関があるということです(上図参照)。

※国は、直接選挙で選ばれた議員が組織する国会があり、この国会が内閣総理大臣を指名し、この内閣総理大臣が内閣を組織します。このように、内閣が議会に対して責任を負い、内閣の存立が「議会の信任」に委ねられている制度を議院内閣制と言います。

ただし、地方公共団体が二元代表制であるといっても、「地方公共団体の議会による長の不信任決議」や、「長による議会解散」など議院内閣制のルールも取り入れられています。

※上記の通り、は住民による直接選挙によって選ばれるため、大統領制がとられていることも覚えておきましょう。大統領制とは、簡単にいうと、国や地方公共団体のトップを国民や住民が直接選挙によって選ぶ方式を言います。

行政書士の試験対策として、地方公共団体の「議会議員と長」は直接選挙によって選出すべきこととしています。つまり、法律や条例で、間接選挙(議員が長を選ぶといった方式)に変更することはできません

憲法における議会の位置づけ

憲法93条
地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。

憲法93条で議会は普通地方公共団体の必置機関であることを定めています。つまり、普通地方公共団体は、法律や条例などで、議会を置かないことはできないということです。