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行政不服審査法20条:口頭による審査請求

行政不服審査法20条「口頭による審査請求」の内容は、簡単な内容なので覚えてしまいましょう!ただ、行政書士試験ではあまり出題されない部分です。ただし、難しくないので出題されたら必ず得点できるようにしましょう!

口頭で審査請求をする場合、行政不服審査法19条の「処分における審査請求書の記載内容」と「不作為における審査請求書の記載内容」を陳述し(口頭で伝え)、行政庁は、その内容を記録します。記録が終わったら、陳述人(口頭で話した者)に読み聞かせを行い誤りがないかを確認させなければなりません。

(口頭による審査請求)
行政不服審査法第20条 口頭で審査請求をする場合には、前条第2項から第5項までに規定する事項を陳述しなければならない。この場合において、陳述を受けた行政庁は、その陳述の内容を録取し、これを陳述人に読み聞かせて誤りのないことを確認しなければならない。

<<行政不服審査法19条:審査請求書の提出 | 行政不服審査法21条:処分庁等を経由する審査請求>>

行政不服審査法7条:適用除外

行政不服審査法7条は、下記事項は「2条・3条の規定を適用しない」としています。どういうことかというと、下記事項については、審査請求できないということです。

では、どういった場合に審査請求ができないのか?

審査請求ができない場合

  1. 国会若しくは地方議会の議決によってされる処分
  2. 裁判により、又は裁判の執行としてされる処分
  3. 国会若しくは地方議会の議決又は同意等を経てされる処分
  4. 検査官会議で決すべきものとされている処分
  5. 当事者間の法律関係を確認し、又は形成する処分で、法令の規定により当該処分に関する訴え(形式的当事者訴訟)においてその法律関係の当事者の一方を被告とすべきものと定められているもの
  6. 刑事事件に関する検察官等がする処分
  7. 国税又は地方税の犯則事件に関する処分
    金融商品取引の犯則事件に関する処分
  8. 学校講習所訓練所又は研修所で、学生、生徒、児童若しくは幼児若しくはこれらの保護者、講習生、訓練生又は研修生に対してされる処分
  9. 刑務所、少年刑務所、拘置所、留置施設、海上保安留置施設、少年院、少年鑑別所又は婦人補導院において、収容の目的を達成するためにされる処分
  10. 外国人の出入国又は帰化に関する処分
  11. 専ら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分(例えば、行政書士試験の結果等)
  12. 行政不服審査法に基づいて行われる処分

この点については、行政手続法で適用除外になっているものと、行政不服審査法で適用除外になっているものの違いを覚えるとよいでしょう!

行政手続法と行政不服審査法の適用除外の違い

手続法のみ適用除外 ① 公務員の懲戒処分
② 利害の反する者の利害調整を目的とした処分
③ 難民認定
④ 報告または物件提出等の情報収集を目的とした処分
⑤ 公衆衛生・環境保全・防疫・保安のための処分
⑥ 不服申立て(審査請求・再調査請求)による裁決・決定
⑦ 聴聞・弁明の機会付与手続き(意見陳述の手続き)において法令に基づいてされる処分
不服審査法のみ適用外 形式的当事者訴訟によるべきとされている処分

行政不服審査法における国の機関または地方公共団体等の適用除外

「国の機関」又は「地方公共団体」その他の「公共団体」若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為については、行政不服審査法の規定は、適用しません。

これは、行政手続法と同様に行政不服審査法も適用しないことを意味します。

イメージとしては、国の機関や地方公共団体に対する処分については、審査請求できないということです。

(適用除外)
第7条 次に掲げる処分及びその不作為については、第2条及び第3条の規定は、適用しない。
一 国会の両院若しくは一院又は議会の議決によってされる処分
二 裁判所若しくは裁判官の裁判により、又は裁判の執行としてされる処分
三 国会の両院若しくは一院若しくは議会の議決を経て、又はこれらの同意若しくは承認を得た上でされるべきものとされている処分
四 検査官会議で決すべきものとされている処分
五 当事者間の法律関係を確認し、又は形成する処分で、法令の規定により当該処分に関する訴えにおいてその法律関係の当事者の一方を被告とすべきものと定められているもの
六 刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官又は司法警察職員がする処分
七 国税又は地方税の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて国税庁長官、国税局長、税務署長、国税庁、国税局若しくは税務署の当該職員、税関長、税関職員又は徴税吏員(他の法令の規定に基づいてこれらの職員の職務を行う者を含む。)がする処分及び金融商品取引の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて証券取引等監視委員会、その職員(当該法令においてその職員とみなされる者を含む。)、財務局長又は財務支局長がする処分
八 学校、講習所、訓練所又は研修所において、教育、講習、訓練又は研修の目的を達成するために、学生、生徒、児童若しくは幼児若しくはこれらの保護者、講習生、訓練生又は研修生に対してされる処分
九 刑務所、少年刑務所、拘置所、留置施設、海上保安留置施設、少年院、少年鑑別所又は婦人補導院において、収容の目的を達成するためにされる処分
十 外国人の出入国又は帰化に関する処分
十一 専ら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分
十二 この法律に基づく処分(第五章第一節第一款の規定に基づく処分を除く。)

2 国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為については、この法律の規定は、適用しない。

<<行政不服審査法6条:再審査請求 | 行政不服審査法8条:特別の不服申立ての制度>>

行政不服審査法66条:審査請求に関する規定の準用

審査請求の規定が、再審査請求に準用されないもの

下記内容は審査請求のルールですが、下記審査請求のルールは再審査請求には適用されません

第9条第3項 審理員指名の例外機関への除外規定
第18条
第1項・2項
審査請求期間
第19条第3項 不作為についての審査請求書の記載事項
第19条第5項
1号・2号
再調査請求の年月日
決定を経ないことについての正当な理由
第22条 誤った教示をした場合の救済
第25条第2項 執行停止
第29条2~5項 弁明書の提出
第30条第1項 反論書の提出
第41条第2項
第1号イ及びロ
審理手続の終結
弁明書の未提出、反論書の未提出
第43条 行政不服審査会等への諮問
第45条 処分についての審査請求の却下又は棄却
第46条 処分についての審査請求の認容
第47条 事実上の行為についての審査請求の認容
第48条 不利益変更の禁止
第49条 不作為についての審査請求の裁決
第50条
第1項・2項
裁決の方式

再審査庁が、審理員指名の例外機関(例えば内閣府等)である場合には、下記規定は適用されます

第17条 審理員となるべき者の名簿
第40条 審理員による執行停止の意見書の提出
第42条 審理員意見書
第50条第2項 諮問を要しない場合の裁決書への審理員意見書の添付

(審査請求に関する規定の準用)
行政不服審査法第66条 第二章(第9条第3項、第18条(第3項を除く。)、第19条第3項並びに第5項第1号及び第2号、第22条、第25条第2項、第29条(第1項を除く。)、第30条第1項、第41条第2項第1号イ及びロ、第四節、第45条から第49条まで並びに第50条第3項を除く。)の規定は、再審査請求について準用する。この場合において、別表第三の上欄に掲げる規定中同表の中欄に掲げる字句は、それぞれ同表の下欄に掲げる字句に読み替えるものとする。
2 再審査庁が前項において準用する第九条第1項各号に掲げる機関である場合には、前項において準用する第17条、第40条、第42条及び第50条第2項の規定は、適用しない。

<<行政不服審査法65条:再審査請求の認容の裁決 | 行政不服審査法82条:不服申立てをすべき行政庁等の教示>>

国地方係争処理委員会と自治紛争処理委員

係争処理手続

①国と地方公共団体との間に、または②都道府県と市町村との間に争いが生じた場合、公平・中立な第三者機関によって紛争の解決を図り、違法行為については、高等裁判所の判断によって解決を図ります。これが地方自治法における係争処理手続です。

そして、①国と地方公共団体との間での争いについては、国地方係争処理委員会が第三者機関として紛争解決に努め、②都道府県と市町村との間に争いについては自治紛争処理委員が第三者機関として紛争解決に努めます。

国地方係争処理委員会

  1. 国が地方公共団体に関与します。
  2. 国が地方公共団体に対して関与し、その関与に不服があるときは、関与の日から30日以内に、国地方係争処理委員会に対して、審査の申出をすることができます。
  3. 申出を受けた国地方係争処理委員会は、審査の申出があった日から90日以内に、関与の妥当性と違法性を審査します。
  4. 違法な関与にも関わらず、国地方係争処理委員会の判断に不服がある場合、高等裁判所に対し、違法な関与の取消し、または、不作為の違法確認の訴えを提起できます。(行政機関同士の争いなので、機関訴訟に該当)

国地方係争処理委員会が処理する対象

  • 国による是正要求、許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるもの
  • 国の不作為
  • 法令に基づく国との協議

国地方係争処理委員会の委員

  • 国地方係争処理委員会は、委員5人で組織され、委員は、非常勤とする。
    ただし、そのうち2人以内は、常勤とすることができる。
  • 委員は、優れた識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、総務大臣が任命する。

自治紛争処理委員

  1. 都道府県が市町村に関与します。
  2. 都道府県が市町村に対して関与し、その関与に不服があるときは、関与の日から30日以内に、総務大臣に、審査の申出をすることができます。
  3. 申出を受けた総務大臣は、自治紛争処理委員を任命します。
  4. 自治紛争処理委員は、審査の申出があった日から90日以内に、関与の妥当性と違法性を審査します。
  5. 違法な関与にも関わらず、自治紛争処理委員の判断に不服がある場合、高等裁判所に対し、違法な関与の取消し、または、不作為の違法確認の訴えを提起できます。(行政機関同士の争いなので、機関訴訟に該当)

自治紛争処理委員が処理する対象

  • 都道府県による是正要求、許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるもの
  • 都道府県の不作為
  • 法令に基づく都道府県との協議

自治紛争処理委員の委員

  • 自治紛争処理委員は3人で組織され、委員は、非常勤とする。
  • 委員は、事件ごとに、優れた識見を有する者のうちから、総務大臣又は都道府県知事それぞれ任命する。
  • 委員は、事件終了によって失職する。

関与(助言・勧告、是正要求、是正勧告、是正指示、代執行)

まず、基本的な考え方として、国と地方公共団体は対等・協力の関係があります。

対等ではあるのですが、国の政策を行っていく上で、地方公共団体の事務についても、国の一定の関与が必要となることもあります。

しかし、どんな場合においても関与できるとなると、それは地方自治体の自主性や自立性を壊してしまうので、関与を行うには、法律又はこれに基づく政令の根拠が必要となります(法定主義)。

また、関与をする場合、その目的を達成するために必要最小限のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性および自立性に配慮しなければなりません(比例原則)。

また、その構成・透明性を確保するため、書面の交付、審査基準・標準処理期間の設定等、行政手続法に似た内容を義務付けています(公正・透明の原則)。

関与の形態

関与は、国が都道府県や市町村に関与したり、都道府県が市町村に関与したりします。

そして、関与の形態については、行政書士で重要なものは下記5つです。

  1. 技術的な助言および勧告、資料の提出の要求
  2. 是正の要求
  3. 是正の勧告
  4. 是正の指示
  5. 代執行

1が一番緩い関与で、2、3、4の順に関与がきつくなり、5が一番きつい関与です。

技術的な助言および勧告、資料の提出の要求

各大臣は、都道府県・市町村に対して
都道府県は、市町村に対して
自治事務・法定受託事務の運営について適切と認める技術的な助言勧告をすることができ、また、当該助言・勧告・情報提供をするため必要な資料の提出を求めることができます。

是正の要求

是正要求は、地方公共団体の処理が、「法令違反していると認めるとき」、又は「著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるとき」に行うことができます。

そして、各大臣は、都道府県・都道府県の執行機関・市町村に対して是正要求が行えますが、是正要求できる対象となる事務が異なります。

  • 都道府県に対しては、都道府県の自治事務
  • 都道府県の執行機関に対しては、市町村の自治事務および第2号法定受託事務
  • 市町村に対しては、市町村の自治事務および第2号法定受託事務

そして、是正要求は、法的拘束力があるため、是正要求を受けた地方公共団体は、是正又は改善のための必要な措置を講じなければなりません。もし、是正要求に不服があれば、国地方係争処理委員会自治紛争処理委員による係争処理手続きを行うことができます。

是正の勧告

是正勧告は、市町村の自治事務の処理が、「法令違反していると認めるとき」、又は「著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるとき」に都道府県の執行機関が、市町村に対して行う関与です。

この是正勧告は、法的拘束力がないので、国地方係争処理委員会自治紛争処理委員による係争処理手続き行うことができません

是正の指示

是正指示は、地方公共団体の法定受託事務の処理が、「法令違反していると認めるとき」、又は「著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるとき」に行うことができます。

誰から誰に是正指示ができるかは下記の通りです。

  1. 各大臣→都道府県
  2. 都道府県の執行機関→市町村
  3. 各大臣→都道府県の執行機関(第1号法定受託事務に限る)
  4. 各大臣→市町村(第1号法定受託事務に限る)

代執行

代執行とは、地方公共団体の事務の処理が法令違反のとき、または事務の処理を怠っているときに、是正のための措置を、各大臣が都道府県や市町村に代わって行うことを言います。

そして、代執行の対象となるのは、長の法定受託事務に限られます。(自治事務については代執行できない

代執行の流れ

  1. 各大臣は、都道府県知事の法定受託事務の処理に違反がある場合、文書により、当該都道府県知事に対して、その旨を指摘し、期限を定めて、当該違反を是正するよう勧告することができる。
    都道府県は、市町村長に対して、同様の勧告を行うことができる。
  2. 各大臣は、都道府県知事が上記期限までに勧告に従わないときは、文書により、当該都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを指示することができる。
    都道府県は、市町村長に対して、同様の指示を行うことができる。
  3. 各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに当該事項を行わないときは、高等裁判所に対し、訴えをもつて、当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができる。
    都道府県も同様、高等裁判所に請求できる。
  4. 高等裁判所が、各大臣(都道府県)の請求を認めるときは、各大臣(都道府県)は代執行を行える。

一般競争入札・指名競争入札・随意契約・せり売り

地方公共団体の行う売買、賃貸、請負その他の契約は、一般競争入札・指名競争入札・随意契約・せり売りの方法により締結します。

原則、一般競争入札で、例外として、政令の定める場合に限って、それ以外の方法で行えます。(一般競争入札の原則

一般競争入札 一定の資格を有する不特定多数の者が入札し、最も高い価格を提供した者と契約締結する方式
指名競争入札 資力・信用その他の特定の条件により発注者側が指名した者同士で競争入札をして契約者を決める方式
随意契約 競争によらずに、任意に特定の者を選んで契約を締結する方式
せり売り 買受人が、口頭または挙手により価格の競争を行うもの
動産の売り払い(競売)のみに認められる方式

地方公共団体の会計と予算、収入と支出、決算

会計年度

地方公共団体の会計年度は、毎年4月1日~翌年3月31日までを指し、原則、各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもって充てなければなりません。分かりやすく言うと、会計年度の歳入(収入)の中で、その年度の歳出(支出)をしなければならないということです。これを会計年度独立の原則と言います。この原則は、翌年に渡って支出を認めると、その年度における財務関係が不明確になることを防ぐためにあります。

ただし、例外として、継続費繰越明許費等は、翌年に渡ってもよいとしています。

継続費 公共事業等、事業が完了するまでに数年を要する費用
継続費は、予算を定めるところにより、数年度に渡って支出できる
繰越明許費 予算に計上したが、その後、非常事態などの特別な事情により、その年度内に支出が終わらなかった費用
繰越明許費は、翌年度に繰り越してその予算を使用することができる

会計の区分

地方公共団体の会計は、一般会計と特別会計に区分されます。

一般会計とは、一般会計は「特別会計に属さないすべての会計」ですが、分かりやすく言うと、一般的な行政にかかる歳入(収入)と歳出(支出)です。

特別会計とは、特定の事業に関する歳入(収入)と歳出(支出)で、例えば、市営バス事業や市立病院事業、水道事業等が挙げられます。そして、特別会計は条例で設置することができます。

予算

予算とは、一般会計年度内の歳入(収入)と歳出(支出)の見積もりです。分かりやすく言うと、どれくらいの収入があり、どれくらいの支出がありそうかということをまとめたものです。

そして、会計年度内の一切の収入および支出はすべて予算に編入しなければなりません。これを総計予算主義と言います。これは、収支のバランスを把握するためです。

予備費の計上と支出

また、地方公共団体の一般会計には、必ず予備費を計上しなければなりません。特別会計には予備費を計上しないこともできます

予備費 予算外の支出又は予算超過の支出に充てるための費用。

予備費の支出は、議会の議決を必要とせず、長の権限で行うことができます。しかし、議会で否決したことに使うことはできません。

国の予算における予備費はこちら>>

予算の手続き(調整と執行)

普通地方公共団体の長は、毎会計年度予算を調製し、年度開始前に、議会の議決を経なければなりません。この場合において、普通地方公共団体の長は、年度開始前までに当該予算(予算案)を議会に提出するようにしなければなりません。

予算の提出を受けた議会は、予算案について、議会で修正することができます。
ただし、増額してこれを議決することはできますが、普通地方公共団体の長の予算の提出の権限を侵すことはできません。また、減額して議決することは、規定されていませんが可能とされています。

地方公共団体の長は、政令で定める基準に従って予算の執行に関する手続きを定め、これに従って、予算を執行しなければなりません。

債務負担行為

債務負担行為とは、「歳出予算で計上した金額、継続費の総額又は繰越明許費の金額」以外の将来にわたる債務を負担する行為を指します。分かりやすく言うと、将来に発生する見込みはあるけれど、今年中には支払う予定がない費用のことです。継続費と似ていますが、継続費は、各年度の支出がある程度確定している場合に使い、債務負担行為は、各年度の支出に変動が生じる可能性が高い場合に使います。例えば、大規模工事で、3年間で20億円の契約をしたとします。1年目に歳出5億円とした場合、債務負担行為15億円を計上します。2年目に歳出6億円とした場合、債務負担行為9億円(15-6億円)を計上します。3年目に歳出9億円とした場合、債務負担行為0円となります。

このように、債務負担行為も予算で定めなければなりません。

地方債と一時借入金

地方債 地方公共団体が、一定の経費を調達するための、地方公共団体の借入金で、その償還(債権者への返済)が会計年度を超えて行われるもの。
地方債を発行する場合、一定事項を予算で定める必要がある。
一時借入金 会計年度内に借入をして、その年度内に償還するもの。
借入れの最高限度は、予算で定めるものとされています。

収入と支出

収入

普通地方公共団体の収入には、地方税分担金使用料加入料手数料地方債があります。

分担金使用料加入料および手数料に関する事項は、条例で定めなければなりません。

一方、地方債については、予算で定めなければなりません。

支出

支出とは、歳出予算に基づいて、執行を命じる行為(お金を支払う行為)を支出と言います。支払いは、長の支出命令を受け、会計管理者がその適法性を確認した上で行います。

公金の収納・支払い

公金の収納とは、地方公共団体がお金を受け取ることを言い、公金の支払いは、地方公共団体が、お金を払うことを言います。

そして、地方公共団体は、公金の収納・支払いについて、都道府県と市町村で、金融機関の指定が必要かどうかが分かれます。

都道府県は、政令の定めるところにより、金融機関を指定して、都道府県の公金の収納又は支払の事務を取り扱わせなければなりません(義務)。一方、市町村は、政令の定めるところにより、金融機関を指定して、市町村の公金の収納又は支払の事務を取り扱わせることができます(任意)。

都道府県 金融機関を指定しなければならない(義務)
市町村 金融機関を指定することができる(任意)

決算

決算とは、毎会計年度の歳入と歳出について、執行の結果の実績を示した計算書です。分かりやすく言うと、実際のどれだけの収入があって、どれだけ支出したかを表示したものです。

そして、決算の手続きの流れが行政書士の勉強では重要なので、その点をお伝えします。

  1. 会計管理者は、毎会計年度、決算を調製し、出納の閉鎖後3か月以内に、一定の書類と併せて、普通地方公共団体の長に提出しなければならない。
  2. 普通地方公共団体の長は、決算及び前項の書類を監査委員の審査に付さなければならない。
  3. 普通地方公共団体の長は、上記監査委員の審査に付した決算を監査委員の意見を付けて次の通常予算を議する会議までに議会の認定に付さなければならない。
  4. 普通地方公共団体の長は、議会の認定に付した決算の要領を住民に公表しなければならない。

条例と規則

条例と規則の大きな違いは、
条例は、地方公共団体(議会)が定めるルールで、
規則は、地方公共団体の長や委員会が定めるルールです。

条例

条例と国の法令との効力関係

国の法秩序は、憲法→法律→命令→条例の順に、階層構造を有しており、上位の法に抵触する下位の法は、その部分について無効となります。つまり、憲法や法令に違反する条例は無効となります。

都道府県の条例と市町村の条例の関係

都道府県と市町村は、原則として独立・対等な関係にあります。

ただし、都道府県と市町村の事務の配分上、市町村(特別区も含む)は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならず、違反して行った地方公共団体の行為は無効となります。

条例制定・改廃の流れ

  1. 普通地方公共団体の議会の議長は、条例の制定又は改廃の議決があったときは、その日から3日以内にこれを当該普通地方公共団体の長に送付しなければならない。
  2. 普通地方公共団体の長は、上記条例の送付を受けた場合は、その日から20日以内にこれを公布しなければならない。ただし、再議その他の措置を講じた場合は、この限りでない。
  3. 条例は、条例に特別の定があるものを除く外、公布の日から起算して10日を経過した日から、これを施行する。

条例案の発案

条例案は、①議員が発案と②長が発案と③住民による発案(直接請求)があります。

①議員による発案は、議員定数の12分の1以上の賛成が必要

③住民により条例制定を請求する場合、選挙権を有する者外国人は除く)の総数の50分の1以上の連署が必要

条例案の議決

条例は、出席議員の過半数で決し、可否同数のときは議長が決めます(議会による議決:多数決の原則)。

また、例外的に、長の専決処分によって成立することもあります。

条例制定の限界

憲法94条では、「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。」としています。

そして、上記憲法を受けて、地方自治法14条1項では、「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる。」と規定しています。

条例による財産権の規制

条例により財産権を規制することも許される最大判昭38.6.26:奈良県ため池条例事件

条例による罰則

相当な程度に具合的であり、限定されていれば、条例で罰則を設けることもできる(最大判昭37.5.30:大阪市売春取締条例事件

そして、地方自治法14条3項で「普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、2年以下の懲役若しくは禁錮100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる」と規定しています。

上乗せ条例

国の法令が規定している事項と同じ事項について、同一目的で、法令よりも厳しい規制にする条例を上乗せ条例と言います。

例えば、ある化学物質の排出基準について、法律で、10ppm以下とされている場合に、条例で、5ppm以下とする場合、法律よりも条例が厳しい規制になっています。

横出し条例

国の法令が規定している事項よりも、対象範囲を広げる条例を横出し条例と言います。

例えば、法律で、有害物質のホルムアルデヒドのみを対象としている場合に、条例で、ホルムアルデヒドのみならず、トルエンやキシレンといった物質も対象する場合、条例により規制対象が広がっています。

横出し条例の判例

河川法は、普通河川(比較的小さい河川)は、適用河川や準適用河川(比較的大きい河川)に対する管理よりも強力な河川管理は行わない趣旨の定めです。そのため、地方公共団体の条例で、普通河川の管理に関する定めをする場合、適用河川の管理の定め以上に
強力な河川管理の定めをすることは、河川法に違反し、許されない。(最判昭53.12.21)

規則

普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができます。

普通地方公共団体の長は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、普通地方公共団体の規則中に、規則に違反した者に対し、5万円以下の過料(行政罰:秩序罰を科する旨の規定を設けることができます。

上記の通り、過料を定めることができるが、刑罰を定めることはできません

規則は、施行期日の定めがあるものを除き、公布の日から起算して10日を経過した日から施行されます。

公の施設の設置・管理・利用、指定管理者

公の施設とは?

公の施設とは、普通地方公共団体が設置する住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設を言います。

例えば、道路、公園、上下水道、体育館、図書館、公立高校、公営住宅等です。

公の施設の設置

普通地方公共団体は、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例で定めなければなりません。(公の施設の設置については、法律等で定められている場合もあります。)

区域外の設置

普通地方公共団体は、その区域外においても、また、関係普通地方公共団体との協議により、公の施設を設けることができます(区域外にも公の施設を設置できる)。

普通地方公共団体は、他の普通地方公共団体との協議により、当該他の普通地方公共団体の公の施設を自己の住民の利用に供させることができる(他の地方公共団体の施設を自己住民も使うことができる)。

上記協議については、関係普通地方公共団体の議会の議決を経なければなりません。

公の施設の管理

上記設置でもあったように、普通地方公共団体は、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例で定めなければなりません。(公の施設の設置については、法律等で定められている場合もあります。)

指定管理者

行政書士の試験における指定管理者のポイントは以下の通りです。

  1. 普通地方公共団体は、公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、法人その他の団体であって当該普通地方公共団体が指定するもの(=指定管理者)に、当該公の施設の管理を行わせることができます。
  2. 条例には、指定管理者の指定の手続、指定管理者が行う管理の基準及び業務の範囲その他必要な事項を定めます。
  3. 指定管理者の指定は、期間を定めて行います。
  4. 指定管理者の指定をしようとするときは、あらかじめ、当該普通地方公共団体の議会の議決を経なければなりません。
  5. 指定管理者は、毎年度終了後、その管理する公の施設の管理の業務に関し事業報告書を作成し、当該公の施設を設置する普通地方公共団体に提出しなければなりません。
  6. 普通地方公共団体は、適当と認めるときは、指定管理者にその管理する公の施設の利用に係る料金(利用料金)を当該指定管理者の収入として収受させることができます。分かりやすく言うと、普通地方公共団体は、「公の施設の利用料」を「指定管理者の収入」と認めることができるということです。
  7. 上記利用料金は、公益上必要があると認める場合を除くほか、条例の定めるところにより、指定管理者が定、指定管理者は、あらかじめ当該利用料金について当該普通地方公共団体の承認を受けなければならない。

公の施設の利用権

正当な理由のない利用拒否の禁止

普通地方公共団体(指定管理者も含む)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではなりません

不当な差別的取扱いの禁止

普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはなりません

条例で定める特に重要な施設の廃止と独占的利用

普通地方公共団体は、条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて、これを廃止し、又は条例で定める長期かつ独占的な利用をさせようとするときは、議会において出席議員の3分の2以上の者の同意を得なければなりません。

>>議会の権限(議決権)はこちら

公の施設を利用する権利に関する処分についての審査請求(不服申立て)

  • 普通地方公共団体の長以外の機関(指定管理者を含む。)がした公の施設を利用する権利に関する処分についての審査請求は、普通地方公共団体の長が当該機関の最上級行政庁でない場合においても、当該普通地方公共団体の長に対してしなければなりません。
    最上級行政庁でない点に注意しましょう!
    >>行政不服審査法における審査請求の請求先はこちら
  • 普通地方公共団体の長は、公の施設を利用する権利に関する処分についての審査請求がされた場合には、当該審査請求が不適法であり、却下するときを除き、議会に諮問した上、当該審査請求に対する裁決をしなければなりません。
  • 議会は、前項の規定による諮問を受けた日から20日以内意見を述べなければなりません。
  • 普通地方公共団体の長は、上記諮問をしないで同項の審査請求を却下したときは、その旨を議会に報告しなければならない。

 

 

住民訴訟

住民訴訟は、住民監査請求をしたにも関わらず、①その監査結果に不服あるときや、②監査委員が勧告したが、議会や長等がその勧告に従わない場合に、裁判所に訴えを提起するものです。

この訴えは、「自己の法律上の利益に関わらないことで訴えを提起する」ことから客観訴訟(民衆訴訟)に当たります。

例えば、地方公共団体の長が、違法に公金を使っていて、裁判の結果、認容判決(勝訴)を得たとしても、住民訴訟をする住民自身の法律上の利益は何もありません。
そのため主観訴訟(抗告訴訟等)ではないことが分かります。

住民監査請求と住民訴訟の違い


住民訴訟の対象

住民訴訟は、「訴訟」なので、法律に違反したこと(違法なこと)しか対象になりません。

そのため、住民監査請求の対象となり、かつ違法であることが要件となるため、地方公共団体の執行機関における財務会計上の違法な行為または怠る事実があるときに住民訴訟を提起できます。

住民訴訟の出訴権者

住民訴訟を提起できるのは、住民監査請求をした住民に限られます。

したがって、その住民であることが要件ですし、また、事前に住民監査請求を行っている必要があります(住民監査請求前置主義)。

住民訴訟の出訴先

住民訴訟は、当該普通地方公共団体の事務所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属します。つまり、地方裁判所に訴訟提起します。

そして、ある事件で、住民訴訟が係属している場合、別訴をもって、同一の請求をすることはできません(別訴禁止)。分かりやすく言うと、ある事件で住民訴訟手続きが進んでいる場合、同じ事件について、同じ請求(訴訟)を重ねて行うことはできないということです。

住民訴訟の出訴期間

住民訴訟は、下記期間内に提起しなければなりません。

  1. 監査委員の監査の結果又は勧告に不服がある場合は、当該監査の結果又は当該勧告の内容の通知があった日から30日以内
  2. 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員の措置に不服がある場合は、当該措置に係る監査委員の通知があった日から30日以内
  3. 監査委員が請求をした日から60日を経過しても監査又は勧告を行なわない場合は、当該60日を経過した日から30日以内
  4. 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員が措置を講じない場合は、当該勧告に示された期間を経過した日から30日以内

住民訴訟の請求内容(類型)

住民訴訟の請求内容は、下記4つに限られます。それ以外の請求はできません。

  1. 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
  2. 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
  3. 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
  4. 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求

住民訴訟に関する判例

  1. 贈収賄容疑で逮捕・起訴され、有罪判決が確定した場合において、懲戒免職処分をせずに、分限免職処分により退職手当の支給をしたとしても、違法な公金の支出に当たるということはできない。なぜなら、職員に懲戒事由が存する場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分をするときにいかなる処分を選ぶかは、任命権者の裁量にゆだねられており、このことから考えて、収賄事実のみが判明していた段階において、懲戒免職処分に付さなかったことが違法であるとまで認めることは困難だから。(最判昭60.9.12)
  2. 教育委員会が公立学校の教頭で勧奨退職に応じた者を校長に任命して昇給させるとともに同日退職を承認する処分をした場合(1日だけ校長に昇給させ、翌日退職承認の処分をした場合)において、右処分が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものといえないときは、知事がした右の者の昇給後の号給を基礎とする退職手当の支出決定は、財務会計法規上の義務に違反する違法なものとはいえない。(最判平4.12.15)
  3. 県議会議長が、野球大会に参加する議員に出した旅行命令が違法の場合に、その命令を前提として知事の補助職員がした、議員への旅費の支出負担行為と支出命令は、財務会計法規上の義務に違反する違法なものではない。なぜなら、県議会議長が行った議員に対する旅行命令は違法なものではあるが、旅行命令の経緯等に関する事実関係の下において、県議会議長が行った旅行命令が、著しく合理性を欠き、そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるとまでいうことはできないから。(最判平15.1.17)