インフルエンザウイルス感染症まん延防止のため、政府の行政指導により集団的な予防接種が実施されたところ、それに伴う重篤な副反応により死亡したXの遺族が、国を相手取り損害賠償もしくは損失補償を請求する訴訟を提起した(予防接種と副反応の因果関係は確認済み)場合に、これまで裁判例や学説において主張された憲法解釈論の例として、妥当でないものはどれか。
- 予防接種に伴う特別な犠牲については、財産権の特別犠牲に比べて不利に扱う理由はなく、後者の法理を類推適用すべきである。
- 予防接種自体は、結果として違法だったとしても無過失である場合には、いわゆる谷間の問題であり、立法による解決が必要である。
- 予防接種に伴い、公共の利益のために、生命・身体に対する特別な犠牲を被った者は、人格的自律権の一環として、損失補償を請求できる。
- 予防接種による違法な結果について、過失を認定することは原理的に不可能なため、損害賠償を請求する余地はないというべきである。
- 財産権の侵害に対して損失補償が出され得る以上、予防接種がひき起こした生命・身体への侵害についても同様に扱うのは当然である。
【答え】:4
【解説】
理由はなく、後者の法理を類推適用すべきである。
1・・・妥当
予防接種に伴う特別な犠牲について、判例(東京地判昭和59年5月18日)では下記のように言っています。
憲法29条3項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」と規定しており、公共のためにする財産権の制限が、社会生活上一般に受忍すべきものとされる限度を超え、特定の個人に対し、特別の財産上の犠牲を強いるものである場合には、これについて損失補償を認めた規定がなくても、直接憲法29条3項を根拠として補償請求をすることができないわけではないと解される。
そして、右憲法13条後段、25条1項の規定の趣旨に照らせば、『財産上特別の犠牲が課せられた場合』と『生命、身体に対し特別の犠牲が課せられた場合』とで、後者の方を不利に扱うことが許されるとする合理的理由は全くない。
従つて、生命、身体に対して特別の犠牲が課せられた場合(後者)においても、右憲法29条3項を類進適用し、かかる犠牲を強いられた者は、直接憲法29条3項に基づき、被告国に対し正当な補償を請求することができると解するのが相当である。
よって、本問は妥当です!
ゆる谷間の問題であり、立法による解決が必要である。
2・・・妥当
「国家補償」は「国家賠償」と「損失補償」とがあり、
「国家賠償」は、公権力の行使を行った公務員の「故意または過失」による「違法行為」が対象です。一方、
「損失補償」は、「適法」な公権力の行使による損害が対象です。
そうすると、「予防接種が違法だけど無過失」となると、「国家賠償・損失補償」のどちらも対象ではないことになります(いわゆる谷間の問題)。
これについて、学説では「立法による解決が必要である」という考え方があります。
よって、妥当です。
た者は、人格的自律権の一環として、損失補償を請求できる。
3・・・妥当
憲法13条の学説として「予防接種に伴い、公共の利益のために、生命・身体に対する特別な犠牲を被った者は、人格的自律権の一環として、損失補償を請求できる。」としています。これはそのまま覚えればよいでしょう!
ため、損害賠償を請求する余地はないというべきである。
4・・・妥当ではない
「予防接種が違法だった場合、過失を認定することは不可能だから、損害賠償を請求する余地はない」という判例や学説はないので、妥当ではありません。
命・身体への侵害についても同様に扱うのは当然である。
5・・・妥当
判例(大阪地裁昭和62年9月30日)によると、
「憲法29 条 3 項で公共のために財産権につきなされた特別な犠牲に対して損失補償の必要を規定しているところよりすれば、憲法は、右 29 条 3 項の規定の当然の合意として、公共のためになされた本件各予防接種のような予防接種により本件各被害
児がその生命、身体に受けたような特別な犠牲である副作用による重篤な被害に対して、財産権につき保障している損失補償を下廻ることのない、換言すれば、右財産権につき保障している補償と少なくとも同程度の損失補償が必要であることを規定しているものと解するのが相当である」とした。
そして、上記解釈は、「憲法 29 条 3 項は、財産権について公共のための特別な犠牲がある場合には、これにつき損失補償を認めた規定がなくても、直接同条項を根拠として補償請求をすることができるものと解されているところ、この解釈が、生命、身体について前記特別な犠牲がある場合においても妥当することは勿論である」として、29 条 3 項の勿論解釈により認められると明確に判示した。
つまり、財産権の侵害に対して損失補償が出され得る以上、予防接種がひき起こした生命・身体への侵害についても同様に扱うのは当然であるということです。
令和3年(2021年)過去問
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政手続法 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識 |
問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識 |
問27 | 民法 | 問57 | 基礎知識 |
問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |