判例

ノンフィクション逆転事件(最判平6.2.8)をわかりやすく解説|行書塾

論点

  1. 前科等のある者は、前科等の事実を公表されない法的保護は与えられるか?
  2. 前科等の公表規制と表現の自由との調整

事案

沖縄県がアメリカ合衆国の統治下にあったころ、Xら4名は米兵2名と殴り合いの喧嘩をし、米兵1名が死亡し、もう一方の米兵も負傷する事件が起きた。Xらはアメリカの高等裁判所により傷害罪について拘禁3年の実刑判決を受けた。

その後、Xは、仮出獄し、都内のバス運転会社に運転手として就職し、前科を隠して結婚もしており平穏な生活を送っていた。

Yは、上記裁判の陪審員として関与しており、その体験に基づき『逆転』と題する著作を執筆し、ノンフィクション賞という賞も受けた。

その後、Xは、無断で実名が使用されたため、前科に関わる事実が公表され、プライバシー権が侵害されたとして、Yに対して慰謝料300万円の支払いを請求する訴えを提起した。

判決

前科等のある者は、前科等の事実を公表されない法的保護は与えられるか?

→与えられる

前科等に関する事実は、その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であるから、その者は、みだりに前科等にかかわる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有するものというべきである

前科等の公表規制と表現の自由との調整

→当事者の生活状況、事件の歴史的又は社会的な意義、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、右の前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するとき、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。

ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合に、

その者のその後の生活状況、当該刑事事件それ自体の歴史的又は社会的な意義その者の事件における当事者としての重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、

その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、

右の前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、

右の者は、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。

つまり、「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益」が「これを公表する理由」に優越するとき、Xは、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる

富山大学事件(単位不認定事件)をわかりやすく解説|行書塾

論点

  1. 大学での単位授与の認定に司法審査が及ぶか?

事案

富山大学経済学部の学生Xは、A教官の講義の履修届を提出した上で、受講していた。

しかし、A教官が成績原簿を偽造した疑いが生じ、それにより、経済学部長Yは、「A教官の授業担当停止の措置」および「学生に対する代替科目の受講の指示」を行った。

ところが、A教官は講義を続行し、Xもまた講義を受講し続け、A教官の試験を受験し、合格判定の成績を受けた。

しかし、Yは、Xの単位取得を認めなかった。

そこで、XはYを相手に単位不授与の決定の違法確認および単位取得認定の義務付けを求めて訴えを提起した。

判決

大学での単位授与の認定に司法審査が及ぶか?

→及ばない

自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の争訟は、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのを適当である。

そのため、特殊な部分社会である大学における法律上の係争について、当然に司法審査が及ぶわけではない。

そして、単位授与は当然に一般市民法秩序と直接の関係を有するものではないことは明らかである。

したがって、単位授与(認定)行為は、特段の事情のない限り、裁判所の司法審査の対象にはならない。

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旭川学力テスト事件(最大判昭51.5.21)わかりやすく解説|行書塾

論点

  1. 普通教育における教師に対し、教授の自由は認められるか?
  2. 国は、教育内容について、決定する権能を有するか?

事案

昭和36年の全国中学校一斉学力調査の実施に対する反対運動のため、Xらは、実力阻止行動を行い、旭川市立永山中学校の校長の制止にも関わらず、当該中学校に侵入し、市教育委員会職員および校長に暴力・脅迫を加えた。そこで、Xらは、建造物侵入、公務執行妨害、共同暴行の罪で起訴された。

判決

普通教育における教師に対し、教授の自由は認められるか?

→一定の範囲に限って、認められない

学問の自由は、教授の自由を含む

子どもの教育が、「教師」と「子ども」との間の直接の人格的接触を通じ、その個性に応じて行わなければならない、という本質的な要請に照らし、教授の具体的「内容」及び「方法」につき、普通教育における教師に対して、ある程度自由な裁量が認められなければならないという意味においては、一定の範囲における教授の自由が保障される。

しかし、大学教育の場合には、学生が一応教授内容を批判する能力を備えていると考えられるのに対し、

普通教育においては、①児童生徒に教授内容を批判する能力がなく、教師が児童生徒に対して強い影響力、支配力を有することを考え、
また、②普通教育においては、子どもの側に学校や教師を選択する余地が乏しく、教育の機会均等をはかる上からも全国的に一定の水準を確保すべき強い要請があることから

普通教育における教師に完全な教授の自由を認めることは、とうてい許されないところといわなければならない。

国は、教育内容について、決定する権能を有するか?

→必要かつ相当と認められる範囲において、決定する権能を有する

まず親は、子どもの教育に対する一定の支配権、すなわち子女の教育の自由を有すると認められるが、このような親の教育の自由は、①主として家庭教育等学校外における教育や学校選択の自由にあらわれるものと考えられるし、また、②私学教育における自由や教師の教授の自由も、それぞれ限られた一定の範囲においてこれを肯定するのが相当である

けれども、それ以外の領域においては、一般に社会公共的な問題について国民全体の意思を組織的に決定、実現すべき立場にある国は、国政の一部として広く適切な教育政策を樹立、実施すべく、また、しうる者として、憲法上は、あるいは子ども自身の利益の擁護のため、あるいは子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるため、必要かつ相当と認められる範囲において、教育内容についてもこれを決定する権能を有する。

もっとも、教育内容に対する国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請される。

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麹町中学校内申書事件をわかりやすく解説|思想良心の自由と内申書

論点

  1. 内申書に「生徒が政治的行為をした旨」を記載することは、憲法19条(思想、良心の自由)に違反しないか?
  2. 上記記載は、憲法21条(表現の自由)に違反しないか?
  3. 上記記載は、憲法13条(プライバシー権の侵害)に違反しないか?

事案

Xは、東京都千代田区立麹町中学校を卒業し、高校受験をしたが、すべて不合格となった。

Xの調査書(内申書)の『行動および性格の記録』の欄には、C評価(最も悪い評価)が付されており、特記事項欄に「中学校在学中に政治活動をした旨(※)」の記載があった。

これに対しXは、高校受験不合格の原因は上記調査書の記載にあるとして、千代田区および東京都に対して、慰謝料の支払いを求める損害賠償請求を提起した。

※特記事項欄の詳細:「校内において麹町中学全共闘を名乗り、機関紙【砦】を発行した。学校文化祭の際、文化祭粉砕を叫んで、他校生徒とともに校内に乱入して、ビラ撒きを行った。大学生ML派(政治活動団体)の集会に参加している。学校側の指導説得を聞かず、ビラを配り、落書きをした。」

判決

内申書に「生徒が政治的行為をした旨」を記載することは、憲法19条(思想、良心の自由)に違反しないか?

→憲法19条に違反しない

本件調査書(内申書)の記載は、Xの思想信条そのものを記載したものではないことは明らかであり、記載に関する外部的行為(行動)によっては、Xの思想、信条を了知し得るものではない(はっきり知ることはできない)。

また、Xの思想、信条自体を高等学校の入学者選抜の資料に供したものとは到底解することができない。

したがって、本件調査書の記載は、憲法19条(思想・良心の自由)に反するとはいえない、とした。

上記記載は、憲法21条(表現の自由)に違反しないか?

→憲法21条に違反しない

「ビラの配布や落書き」は、中学校における学習とは全く関係ないものであり、「ビラの配布や落書き」を自由とすることは、中学校における教育環境に置く影響を及ぼす等、学習効果をあげる上において、放置できない弊害を発生させる相当の蓋然性(確実性・確かさ)があるものということができる。

そのため、このような弊害を未然に防止するために、①上記行為をしないよう指導説得することはもちろん、「②生徒会規則において、生徒の校内における文書の配布を学校当局の許可にかからしめ、その許可のない文書の配布を禁止すること」は、必要かつ合理的な範囲の制約であり、憲法21条(表現の自由)に違反しない。

上記記載は、憲法13条(プライバシー権の侵害)に違反しないか?

→憲法13条に違反しない

本件調査書による情報の開示は、入学選抜に関する特定小範囲の人に対するものであって、情報の公開には該当しない。

したがって、本件調査書による記載は、Xのプライバシー権を侵害せず、憲法13条後段(生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする)には反しない。

苫米地事件をわかりやすく解説|統治行為論と衆議院解散の合憲性

論点

  1. 衆議院解散の効力について、司法審査が及ぶか?

事案

昭和27年、吉田内閣は、憲法7条に基づいて、衆議院の解散を強行した。この解散によって議員の資格を失った苫米地義三氏Xは、当該解散の無効を前提として、国Yを被告として、衆議院議員としての資格確認と任期満了までの歳費請求の訴えを提起した。

憲法第7条(天皇の国事行為)
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
3号 衆議院を解散すること。

判決

衆議院解散の効力について、司法審査が及ぶか?

→及ばない

日本国憲法は、立法、行政、司法の三権分立の制度を確立し、司法権はすべて裁判所の行うところとし(憲法76条1項)、

また裁判所法は、裁判所は一切の法律上の争訟を裁判するものと規定し(裁判所法3条1項)、

これによって、民事、刑事のみならず行政事件についても、事項を限定せず、いわゆる概括的に司法裁判所の管轄に属するものとし、さらに憲法は一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを審査決定する権限(違憲審査権)を裁判所に与えた(憲法81条)

結果として、国の立法、行政の行為は、それが法律上の争訟となるかぎり、違憲審査を含めてすべて裁判所の裁判権に服することとなる。

しかし、あらゆる国家行為が無制限に司法審査の対象となるものと即断すべきでない。

国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は、たとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にある。

そして、国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為の判断は、主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられている

ここで、衆議院の解散は、国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為である。

したがって、裁判所の審査権の外にある(裁判所による司法審査は及ばない)。

統治行為論が問題となった主要判例の比較

行政書士試験では、統治行為論に関連する判例の違いが問われます。苫米地事件と砂川事件を中心に、司法審査の及ぶ範囲の違いを整理しましょう。

判例 争点 司法審査 判旨のポイント
苫米地事件(最大判昭35.6.8) 衆議院解散の効力 及ばない 高度に政治性のある国家行為は裁判所の審査権の外にあり、最終的には国民の政治判断に委ねられる
砂川事件(最大判昭34.12.16) 日米安保条約の合憲性 原則及ばない 高度の政治性を有する条約は、一見極めて明白に違憲無効と認められない限り司法審査の対象外

試験対策:両判例の決定的な違い

  • 苫米地事件=統治行為論を正面から採用し、司法審査を完全に排除した
  • 砂川事件=「一見極めて明白に違憲無効」の場合は例外的に審査可能とする留保付きの判断(統治行為論の変形)
  • 両判例とも、司法権の限界として三権分立の観点から判断している点は共通

択一式では「砂川事件は司法審査を完全に否定した」という誤りの選択肢が頻出します。砂川事件には例外の留保がある点を正確に押さえておきましょう。

余目町個室付浴場事件をわかりやすく解説|信頼の保護・権利濫用

【図解】余目町個室付浴場事件の流れ

この事件は、適法に営業準備を進めた事業者に対し、行政が別の認可処分を利用して営業を阻止した点が争われました。まず時系列を押さえましょう。

  • ①建築確認・営業許可の取得:有限会社Xが土地を購入し、建築確認を受けて個室付浴場の建物を完成。営業許可も取得済み。
  • ②地元住民の反対運動:開業に反対する住民運動が発生。余目町と山形県Yが開業阻止策を検討。
  • ③児童遊園の認可(阻止策の実行):風営法の「児童福祉施設から200m以内は営業禁止」規定を利用し、近隣の無認可児童遊園に認可を付与。
  • ④営業不能→業務停止処分:認可により風営法上の営業禁止区域となり、Xは開業できない状態に。それでも営業を開始したため業務停止処分を受けた。
  • ⑤国家賠償請求へ:取消訴訟の係属中に停止期間が経過し、国家賠償請求訴訟に変更。

最高裁は、③の児童遊園認可が行政権の著しい濫用に当たり違法と判断しました。適法な許可を受けた事業者の信頼の保護と、行政による権利濫用の限界を示す重要判例です。

論点

  1. 個室付き浴場の開業阻止のために、知事が行った児童園設置認可処分は国家賠償法上の違法となるか?

事案

有限会社Xは、個室付浴場業(ソープランドや風俗店)を営むために、山形県余目町(あまるめまち)に土地を購入し、個室付浴場業用の建物の建築確認の申請をし、建築確認を得た上で、建物の建築を完成させた。

また、個室付浴場業の営業許可についても、Xは受けていた。

ところが、当該個室付浴場業の建築に反対した地元住民から反対運動が起こったため、余目町と山形県Yは、個室付浴場業の開業を阻止するための方策を考えた。

その方策は、風俗営業等取締法(風営法)に「児童福祉施設から200m以内では、個室付浴場業の営業を禁止する」という法律を利用することであった。

当該個室付浴場から200m以内にある無認可の児童遊園があり、この児童遊園について、認可を与えた。

これにより、上記風営法により、Xは、当該個室付浴場業を開業できなくなった。

それにも関わらず、Xは個室付浴場業の営業を開始したため、Xは業務停止処分を受けた。

そこで、Xは、処分の取消訴訟を提起したが、訴訟係属中に、営業停止処分期間が経過したため、Yを被告として、国家賠償請求の訴えに変更した。

判決

個室付き浴場の開業阻止のために、知事が行った児童園設置認可処分は国家賠償法上の違法となるか?

→違法

本件児童遊園設置の認可処分は、行政権の著しい濫用によるものとして違法である。

関連する判例

最判昭53.6.16:余目町個室付浴場事件(行政権の濫用に相当する違法な行政処分に公定力はない)

北方ジャーナル事件をわかりやすく解説|事前差止めと表現の自由

論点

  1. 裁判所による出版物の仮処分による差止めが検閲にあたるか?
  2. 出版物頒布などの事前差止めの実体的要件は?
  3. 出版物頒布などの事前差止めの手続き要件は?
  4. 本件事前差止めは違憲か?

事案

Yは、北海道知事選挙に立候補を予定していた。

雑誌「北方ジャーナル」の代表取締役Xは、Yに関する「ある権力主義者の誘惑」というタイトルの記事を執筆し、印刷の準備をしていた。当該記事は、全体にわたってYの名誉を毀損する記載であり、それを知ったYは、名誉権の侵害を防止するために、「印刷・製本および販売、頒布」の禁止を命ずる仮処分を札幌地裁に申請した。

同地裁はXからの審尋(意見陳述の機会)を行うことなく申請を相当と認め、即日仮処分の決定を行った。

それに対し、Xは、Yの仮処分申請、裁判官の仮処分の決定により、逸失利益等2025万円の損害を受けたとして、Yおよび国を相手に不法行為に基づき損害賠償請求の訴えを提起した。

逸失利益:本来得られるべきであるにもかかわらず、債務不履行や不法行為が生じたことによって得られなくなった利益を指す。

事前差止めが認められる3つの要件【まとめ】

北方ジャーナル事件で最高裁が示した判断枠組みでは、公的人物に対する表現行為の事前差止めは原則として許されません。ただし、以下の3要件をすべて満たす場合に限り、例外的に事前差止めが認められるとされています。

  • 表現内容が真実でないことが明白であること――記事や出版物の内容が事実に反していることが、証拠上明らかである必要があります。単なる疑いや争いがある程度では足りません。
  • もっぱら公益を図る目的でないことが明白であること――当該表現が公共の利害に関する正当な報道・批判ではなく、私的な攻撃や中傷を目的としていることが客観的に明らかでなければなりません。
  • 被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあること――事後的な損害賠償や名誉回復措置では救済しきれないほどの深刻な被害が生じる具体的危険性が認められる場合に限られます。

この3要件は、表現の自由(憲法21条1項)を最大限保障しつつ、名誉権との調整を図るために設定された厳格な基準です。行政書士試験では、各要件の内容だけでなく「すべて充足しなければ差止めは許されない」という点が問われるため、正確に押さえておきましょう。

判決

裁判所による出版物の仮処分による差止めが検閲にあたるか?

→あたらない

「検閲」とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部または一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指す。

そして、裁判所の仮処分による事前差止めは、表現物の内容の網羅的一般的な審査に基づく事前規制が行政機関によりそれ自体を目的として行われる場合とは異なる。
つまり、行政権が主体となって行っていない

よって、『検閲』には当たらないとした。

出版物頒布などの事前差止めの実体的要件は?

→事前抑制に該当し、とりわけ、対象が公的人物に対する表現行為である場合は、原則として事前差止めは許されない。例外として、①その表現内容が真実でなく、またはそれがもっぱら公益に図る目的のものでないことが明白であり、かつ②被害者が重大にして著しく回復困難な被害を被る恐れがあるときに限り、事前差止めが許される。

裁判所による差止命令が検閲に当たらないとしても、憲法21条1項(表現の自由)に違反しないかが問題となる。

まず、表現行為に対する事前抑制は、公の批判の機会を減少させ、規制の範囲が広汎にわたりやすく、濫用のおそれがある上、抑止的効果が事後制裁の場合よりも大きい。

したがって、表現行為に対する事前抑制は、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうる。(=できるだけ表現の自由を保障するということ)

そして、出版物頒布などの事前差止めは事前抑制に該当し、その対象が公的立場にある者に対する表現行為に関する者である場合には、公共の利害に関する事項であるため、憲法上、表現の自由により特に保障されるべきである。

そのため、当該表現行為に対する事前差止めは、原則として許されない。

ただし、例外的に、①その表現内容が真実でなく、またはそれがもっぱら公益に図る目的のものでないことが明白であり、かつ②被害者が重大にして著しく回復困難な被害を被る恐れがあるときに限り、事前差止めが許される。

出版物頒布などの事前差止めの手続き要件は?

→原則として、口頭弁論または債務者の審尋を行い、表現内容の真実性等の主張立証の機会を与えるべきである。

事前差止めを求める場合、もっぱら迅速な処理を旨とし、口頭弁論ないし債務者審尋を必要とせず、立証も疎明で足りるとすることは、表現の自由を確保する上で、その手続的保障として不十分である。

したがって、原則、口頭弁論または債務者の審尋を行い、表現内容の真実性等の主張立証の機会を与えるべきである。

ただし、例外として、上記実体的要件を満たすとき(上記例外的に事前抑制が許される場合)は、口頭弁論または債務者の審尋は不要である。

本件事前差止めは違憲か?

→違憲ではない(合憲)

本件の記事は、実体的要件を満たし(上記例外的に事前抑制が許される場合に該当し)、手続的要件も満たしている(口頭弁論または債務者の審尋は不要)ため、仮処分は合憲である。

板まんだら事件をわかりやすく解説|争点・判旨・試験ポイント

板まんだら事件とは?

板まんだら事件(最判昭56.4.7)は、宗教上の教義に関する争いが「法律上の争訟」にあたるかが問われた、司法権の限界を示すリーディングケースです。

創価学会の元会員らが「本尊である板曼荼羅は偽物だ」として寄付金の返還を求めた事件で、最高裁は「宗教上の教義の判断が不可欠な訴訟は、法令の適用による終局的解決が不可能であり、法律上の争訟にあたらない」と判示し、訴えを退けました。

行政書士試験では、「法律上の争訟」の2要件(①具体的な権利義務に関する紛争 ②法令の適用で終局的に解決可能)を正確に書けるかが頻出論点です。本記事では、事案・争点・判旨を整理し、試験で問われるポイントまで解説します。

論点

  1. 裁判所が司法権を行使できる裁判所法3条1項の「法律上の争訟」とは?
  2. 宗教上の教義の判断を前提とする請求が「法律上の争訟」にあたるか?

裁判所法3条(裁判所の権限)
裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。

事案

創価学会Yの元会員であるXらは、創価学会の本尊である「板曼荼羅(いたまんだら)」を安置するための「正本堂」建築のために、Yに対して金員を寄付した。

Xらは「板まんだらは偽物だ」として、寄付金の贈与の錯誤無効を主張し、不当利得に基づく寄付金の返還を請求する訴えを提起した。

判決

裁判所が司法権を行使できる裁判所法3条1項の「法律上の争訟」とは?

→「法律上の争訟」とは、①当事者間の具体的な「権利義務ないし法律関係」の存否に関する紛争であって、かつ、②それが法令の適用に終局的に解決することができるものをいう。

宗教上の教義の判断を前提とする請求が「法律上の争訟」にあたるか?

→あたらない

本件訴訟は、上記①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争である。

しかし、宗教上の教義に関する判断は、本件を判断する上で必要不可欠なものと認められ、本件訴訟の争点および当事者の主張立証もこの判断に関するものがその核心となっていると認められる。

このことを踏まえると、結局、本件の訴訟は、その実質において②法令の適用による終局的な解決の不可能なものである。

したがって裁判所法3条にいう「法律上の争訟」にあたらない。

猿払事件とは?わかりやすく判旨・論点を解説|行書塾

猿払事件とは?【結論を30秒で理解】

猿払事件とは、国家公務員の政治活動の自由と国家公務員法の合憲性が争われた最高裁判例(最大判昭和49年11月6日)です。最高裁は、公務員の政治的行為を一律に禁止する国家公務員法102条1項および人事院規則14-7の規定について、「合理的でやむをえない限度にとどまる」として合憲と判断しました。

この判例が行政書士試験で重要とされる理由は、次の2点です。

  • 表現の自由(憲法21条)の制約が許される基準を示した代表的判例であること
  • 「合理的関連性の基準」という緩やかな違憲審査基準が用いられ、後の堀越事件(最判平成24年)で判例変更された流れまで問われること

以下では、猿払事件の事案・判旨・合憲性判定基準の3つのポイントを、行政書士試験の出題傾向に沿って整理していきます。

論点

  1. 公務員の政治的行為を禁止する国家公務員法の規定が憲法21条に違反しないか?
  2. 政治的行為を禁止する規定の合憲性はどのように判定するか?(合憲性の判定基準)

事案

Xは、北海道宗谷郡猿払村の郵便局(当時公務員)に勤務しており、一方で、猿払地区の労働組合協議会の事務局長をしていた。そして、衆議院議員選挙に際して、上記協議会の決定により、日本社会党を支持する目的をもって、同党公認の候補者のポスターを公営掲示板に掲示したほか、配布も行った。

Xの行為が国家公務員法で規定されている禁止行為に該当するとして罰金刑を受けたため、その刑を不服として提訴した。

判決

公務員の政治的行為を禁止する国家公務員法の規定が憲法21条に違反しないか?

→違反しない

政治的行為は、政治的意見の表明としての面をもつから、憲法21条(表現の自由)による保障を受ける。

しかし、公務員は、「国民全体の奉仕者」であるため、政治的に一党一派に偏ることなく「中立的な立場を堅持して、職務の遂行にあたることが必要」である。

したがって、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的でやむをえない限度にとどまるもので限り、憲法の許容するところである。

つまり、政治的行為を禁止する規定について、合理的でやむをえない限度であれば、合憲である、ということです。

政治的行為を禁止する規定の合憲性はどのように判定するか?(合憲性の判定基準)

上記の判断は、下記3点から検討されるべきである。

  1. 規制目的の正当性
  2. 目的と禁止される政治的行為との合理的関連性
  3. 政治的行為の禁止により「得られる利益」と「失われる利益」との均衡

今回の事案を上記に当てはめると

  1. 政治的行為の禁止規定は、「行政の中立的運営」と「これに対する国民の信頼を確保する」という目的であり、この目的は正当であるといえる
  2. 上記目的と、禁止規定である「特定の政党を支持したり反対したりするためのポスターの掲示や配布」は合理的関連性があるといえる
  3. 禁止規定は、意見表明(言論)そのものの制約がねらいではなく、ポスターを掲示する・配布するという行為(非言論)の制約であり、言論そのものに及ぶ制約は「間接的・付随的」なものに過ぎないため、失われる利益は小さいといえる。一方、禁止規定による公務員の政治的中立性、国民の信頼確保という得られる利益は大きいといえる。

上記理由から、政治的禁止行為の規定は違反しないといえる。

 

最判平14.7.9:宝塚市パチンコ条例事件

論点

  1. 国または地方公共団体が行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は適法か?

事案

宝塚市Xの条例に「パチンコ店等の建築物を建築するためには市長の同意を必要とし、この規定に違反して建築しようとする者に対し、市長は建築の中止、原状回復その他必要な措置を講じるよう命じることができる」旨の規定があった。

宝塚市長は、上記規定に違反してパチンコ店を建築しようとするYに対して、その建築工事の中止を命じた。

しかし、Yがこれに従わなかったため、宝塚市Xは、Yに対して、建築工事の続行禁止を求める民事訴訟を提起した。

判決

国または地方公共団体が行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は適法か?

→不適法である

行政事件を含む民事事件において裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる。

そうだとすると、国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきである。

一方、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるものと解される。

そして、行政代執行法は、行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、同法の定めるところによるものと規定して(1条)、同法が行政上の義務の履行に関する一般法であることを明らかにした上で、その具体的な方法としては、同法2条の規定による代執行のみを認めている。

また、行政事件訴訟法その他の法律にも、一般に国又は地方公共団体が国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟を提起することを認める特別の規定は存在しない。

したがって、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらず、これを認める特別の規定もないから、不適法というべきである。

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