判例

最大判昭45.6.24:八幡製鉄の政治献金事件

論点

  1. 政党は、憲法上その存在を当然に予定しているか?
  2. 法人にも憲法上の人権が保障されるか?
  3. 法人に政治献金の自由が認められるか?

事案

八幡製鉄の代表取締役Yが、自民党に対して政治資金を寄付した(政治献金をした)。これについて株主Xは、この寄付は、定款所定の目的範囲外であり、Yの行為は商法で規定されている「取締役の忠実義務違反」だとして、Yに対して損害賠償責任を追及する訴えを提起するよう会社に求めた。しかし、会社は訴えを提起しなかったので、株主Xは、Yを被告として、株主代表訴訟を提起した。

判決

1.政党は、憲法上その存在を当然に予定しているか?

→予定している

政党は、議会制民主主義を支える不可欠な要素として、憲法上その存在を当然予定されている

また、政党のあり方は国民の重大な関心ごとである。

2.法人にも憲法上の人権が保障されるか?

性質上可能な限り、法人にも憲法上の人権が保障される

3.法人に政治献金の自由が認められるか?

→認められる

上記2の通り、性質上可能な限り、法人にも憲法上の人権が保障されているため、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持したり、反対したりするなどの政治的行為をなす自由を有する

そして、政治資金の寄付(政治献金)もまさに、政治的行為の一環であり、

会社により政治献金がなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による寄付と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない
(憲法上、法人献金と個人献金を別々に扱うべき、とはしていない)

したがって、法人についても政治資金の寄付の自由が認めれられる

最大判昭44.12.24:京都府学連事件

論点

  1. 肖像権が憲法で保障されるか?
  2. 写真撮影が許容されるための要件は何か?
  3. 当該事案で写真撮影は適法か?

事案

大学生Xは、京都府学連主催のデモ行進に参加し、集団の先頭に立って行進をしていた。Xはデモ行進の許可の条件を詳しく知らず、デモ隊を誘導し、デモ隊は警察機動隊ともみあいに、隊列を崩したまま行進をした。これが許可条件に反すると判断した京都府警の巡査は、「違法な行進状況」および「違反者の確認」のために写真撮影をした。この撮影を知ったXは、当該巡査を、持っていた旗で一突きし、全治一週間の傷害を与えたため、傷害および公務執行妨害の罪で起訴された。

判決

肖像権が憲法で保障されるか?

→肖像権は憲法13条で保障される

憲法13条は、国民の私生活上の自由が、国家権力に対しても保護されることを規定している。

そして、個人の私生活上の自由として、承諾なしに、みだりにその容ぼう等を撮影されない自由を有する

よって、肖像権は憲法13条によって保障されており、警察官が、正当な理由なく、個人の容ぼう等を撮影する行為は13条の趣旨に反し許されない。(言い換えると、正当な理由があれば、撮影してもよい、ということ)

憲法第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

写真撮影が許容されるための要件は何か?

①現に犯罪が行われ、もしくは、行われたのち間もないと認められる場合」であって、②証拠保全の必要性および緊急性があり、③撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行われること

上記肖像権の自由は、無制限ではなく、公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受ける。

具体的には、「①現に犯罪が行われ、もしくは、行われたのち間もないと認められる場合」であって、②証拠保全の必要性および緊急性があり、③撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行われるときには、

警察官による写真撮影に、本人Xおよび第三者である個人の容ぼう等を含むこととなっても憲法13条等に違反しない。

当該事案で写真撮影は適法か?

適法

今回の事案では、上記①~③を満たすため、適法な職務執行行為といえる。

最大決昭和44.11.26:博多駅フィルム提出命令事件

論点

  1. 報道の自由は、憲法21条によって保障されるか?
  2. 取材の自由は、憲法21条によって保障されるか?
  3. 取材の自由は、どのような場合に制約を受けるか?

事案

アメリカ原子力空母エンタープライズの佐世保寄港に対する反対運動に参加しようとしていた全学連(学生運動団体)の学生らが、博多駅で下車した。警備にあたっていた機動隊員は、当該学生らに対し、実力で駅構内から排除するとともに、改札口で検問と持物検査を行った。これに対して、護憲連合会等は、警察官の行為が特別公務員暴行陵虐罪・職権濫用罪にあたるとして告発したところ、地検が不起訴処分としたため、付審判請求を行った。

この裁判において、福岡地裁は、地元福岡のテレビ局4社に対し、事件当日のフィルムの任意提出を求めたが拒否されたため、フィルムの提出を命じた。 この命令に対して4社は、「報道の自由の侵害・提出の必要性が少ない」という理由に通常抗告を行った。

判決

報道の自由は、憲法21条によって保障されるか?

保障される

報道機関の報道は、国民の知る権利に奉仕するものである、

そのため、事実の報道の自由は、憲法21条の保障のもとにある。

取材の自由は、憲法21条によって保障されるか?

→憲法21条の精神に照らし十分尊重に値する

報道機関の報道が正しい内容を持つためには、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値する。

取材の自由は、どのような場合に制約を受けるか?

公正な刑事裁判の実現というような憲法上の要請があるとき

取材の自由といっても、もとより何らの制約を受けないものではなく、たとえば公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けることがある。

具体的には、公正な刑事裁判を実現するために、報道機関の取材活動によって得られたものが証拠として必要と認められるような場合には、取材の自由がある程度制約をこうむることとなってもやむ得えないところというべきである。

最大判昭38.6.26:奈良県ため池条例事件

論点

  1. 条例により財産権を規制することも許されるか?

事案

多数のため池を有する奈良県は、ため池の破損、決壊等による災害を未然に防止するために、ため池の保全に関する条例を制定した。その条例は、4条でため池の堤とうでの耕作などを禁止し、9条で、その違反者に対して3万円以下の罰金に処するとしている。

ため池Aは、在住の農民の総有に属しており、その堤とうも代々耕作の対象になっていたが、同条例によってそこでの耕作が禁じられることになった。しかし、農夫である被告人Yらは、堤とうでの耕作禁止を知りながら、条例施行後も引き続き、耕作を行ったため、条例違反で起訴された。

判決

条例により財産権を規制することも許されるか?

許される

ため池の保全に関する条例は、ため池の堤とうを使用する権利者に対しては、その使用のほとんどが全面的に禁止されるので、権利に著しい制限を加えるものである。

しかし、それは「災害を未然に防止する」という社会生活上のやむを得ない必要から来ることであって、ため池の堤とうを使用する財産上の権利を有する者は何人も、公共の福祉のため、当然これを受忍しなければならない(受け入れて耐える)責務を負うというべきである。

すなわち、ため池の破損、決かいの原因となるため池の堤とうの使用行為は、憲法でも、民法でも適法な財産権の行使として保障されていないものであって、憲法、民法の保障する財産権の行使の埒外(らちがい:枠外)にある。

したがって、これらの行為(ため池の堤とうの使用権)を条例をもって禁止、処罰しても憲法および法律に牴触またはこれを逸脱するものとはいえないし、また、ため池の堤とうの使用権保護を、既に規定していると認めるべき法令は存在していないのであるから、これを条例で定めたからといって、違憲または違法の点は認められない

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最大判昭37.5.30:大阪市売春取締条例事件

論点

  1. 条例で罰則を設けることもできるか?
  2. 条例で罰則を設ける場合、法律の委任の程度はどれくらい必要か?

事案

女性Xは、大阪市内において、売春目的で通行中の男性を誘ったところ、その行為が大阪市売春取締条例に違反するとして起訴された。

これに対しXは、条例による罰則制定を規定した地方自治法14条3項は、委任の範囲が抽象的であるため、罪刑法定主義を定める憲法31条に違反するので無効であり、この委任により制定された本条例も無効であると主張した。

地方自治法第14条3項
普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、2年以下の拘禁刑、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。

憲法第31条
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

判決

条例で罰則を設けることもできるか?

条例で罰則を設けることもできる

憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものでなく、法律の授権によってそれ以下の法令によって定めることもできると解すべき。

このことは憲法73条6号但書(この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。)によっても明らかである。

また、条例は、法律以下の法令といっても、公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって、むしろ国民の公選した議員をもって組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものである。

条例で罰則を設ける場合、法律の委任の程度はどれくらい必要か?

法律の授権が相当程度に具体的であり、限定されていれば足りる

法律の授権が不特定な一般的の白紙委任的なものであってはならないことは、いうまでもない。

しかも、条例は、公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって、国会の議決を経て制定される法律に類するものである。

そのため、条例によって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されていれば足りると解するのが正当である。

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最大判昭37.3.7:警察法改正無効事件

論点

  1. 国会の両院の議事手続について、司法審査が及ぶか?
  2. 市町村警察を廃止したことは憲法92条に違反するか?

憲法第92条(地方自治の基本原則)
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

事案

旧警察法では、市町村警察の制度があった。しかし、昭和29年の法改正(新警察法)により、従来の市町村警察は廃止され、都道府県警察に組織変更された。その組織変更の結果、大阪府は、組織変更に伴う予算を議会で可決した。それに対して、住民Xは、新警察法は、市町村の警察権限を奪うもので憲法92条、94条に違反するとして、新警察法の無効を主張した。

憲法第94条(地方公共団体の権能)
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

判決

国会の両院の議事手続について、司法審査が及ぶか?

及ばない

裁判所は、両院の自主性を尊重するべきである。

そのため、裁判所は、両院の議事手続きに関する事実を審理して、その有効無効を判断すべきでない。

市町村警察を廃止したことは憲法92条に違反するか?

違反しない

新警察法が、市町村警察を廃止し、その事務を都道府県警察に移したからといって、そのことが地方自治の本旨に反するものと解されない。

したがって、同法は、その内容が憲法92条(地方自治の基本原則)に反するものとして無効な法律ということはできない。

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最大判昭31.7.4:謝罪広告事件

論点

  1. 謝罪広告は憲法19条(思想及び良心の自由)に違反しないか?

事案

Yは、衆議院議員総選挙に立候補し、その選挙運動中に、新聞およびラジオで、対立候補Xが副知事であった時に、某発電所の建設にあたり、業者から800万円の斡旋料を受け取った事実を公表した。そこで、Xは虚偽の事実の公表により名誉を棄損されたとして名誉回復のための謝罪文の放送および掲載を求める訴えを提起した。

判決

謝罪広告は憲法19条(思想及び良心の自由)に違反しないか?

単に事態の真相を告白し、陳謝の意を表明するにとどまる程度において、違反しない

謝罪広告を強制することが債務者の人格を無視し、意思決定の自由ないし良心の自由を不当に制限することとなり、強制執行に適さない場合に該当することもありうる。

しかし、単に事態の真相を告白し、陳謝の意を表明するにとどまる程度のものにあっては、代替作為(謝罪の広告等への掲載)として強制執行もなしえるものと言わなければならない。

したがって、謝罪広告を新聞紙に掲載すべきことを命ずる判決は、Yの有する倫理的な意思、良心の自由を侵害することを要求するものとは解せられない。

つまり、単に事態の真相を告白し、陳謝の意を表明するにとどまる程度のものにあっては、謝罪広告の掲載を強制したとしても、Yの意思、良心の自由を侵害するものではない、ということです。

最大判昭30.1.26:公衆浴場距離制限事件

論点

  1. 公衆浴場の距離制限は憲法22条1項(職業選択の自由)に違反しているか?

事案

被告人Yは、福岡県知事の許可を受けずに、自らの設置した浴場において公衆浴場業を営んだ。このため、Yは公衆浴場法2条1項違反で起訴された。

判決

公衆浴場の距離制限は憲法22条1項(職業選択の自由)に違反しているか?

違反していない

公衆浴場は、多数の国民の日常生活に必要欠くことのできないもので、多分に公共性を伴う厚生施設である。

そして、もし、その設立を業者の自由に委せて、なんらその偏在および濫立を防止する等、その配置の適正を保つために必要な措置が講ぜられないときは、その偏在により、公衆浴場の利用上、不便となる可能性がある。

また、その濫立により、浴場経営に無用の競争を生じその経営を悪化させ、ひいて浴場の衛生設備の低下等の影響を来たすおそれがある。

上記公衆浴場の性質に考慮すると、国民保健及び環境衛生の上から、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠き、その偏在および濫立が起こることは、公共の福祉に反するものである。

したがって、公衆浴場の距離規制は、憲法22条に違反するものとは認められない。

最大判昭28.12.23:農地改革訴訟

論点

  1. 憲法29条3項にいう「正当な補償」とは?
  2. 自創法における買収対価は「正当な補償」にあたるか?

事案

昭和22年、政府Yは、X所有の農地を、自作農創設特別措置法(自創法)6条3項に規定する最高価格で買収したが、Xは、下記理由により、自創法14条に基づき、買収対価の増額変更を求めて出訴した。

  1. 自創法には、農地買収計画による対価は、「田についてはその賃貸価格の40倍」と定めているが、価格算出方法がその後の経済事情の激変を少しも考慮していないため、正当な補償か否かを決定するための基準とはなりえない。
  2. 自創法に規定する買収価格だと、実質上、無償で取り上げられたものと異ならない結果になる。

判決

憲法29条3項にいう「正当な補償」とは?

→正当な補償とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基づき合理的に算出される相当な額をいう

憲法29条3項
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

自創法における買収対価は「正当な補償」にあたるか?

→あたる

買収対価の算出方法は、自作収益価格によったことは、この法律の目的からいって当然である。

また、算出過程になんら不合理はなく、「自作収益価格」が「賃貸価格の40倍」となるため、当該自創法の買収対価は、憲法29条3項の正当な補償にあたる

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最判昭28.12.23:皇居外苑使用の不許可処分

論点

  1. 訴えの利益は、申請にかかる使用期日を経過すれば喪失するか?
  2. 本件不許可処分は、憲法21条、28条に違反しないか?

事案

日本労働組合総評議会Xは昭和27年5月1日のメーデーに使用するため、皇居外苑を管理する厚生大臣(現厚生労働労働)Yに対して、外苑内の公園の使用許可を申請したが、Yは昭和27年3月13日に不許可の処分をした。そこでXは、同処分は憲法21条(表現の自由)、憲法28条労働基本権:団体行動権)に違反するとして、不許可処分取消しの訴えを提起した。

メーデー:労働者が統一して権利要求と行進など活動を取り行う日(労働者の日)

判決

訴えの利益は、申請にかかる使用期日を経過すれば喪失するか?

喪失する

厚生大臣は5月1日の使用を許可しなかっただけで、将来にわたり使用を禁じたものではない。そうであれば、Xの請求は、同日(5月1日)の経過により判決を求める法律上の利益を喪失したものといわなければならない。

本件不許可処分は、憲法21条、28条に違反しないか?

国民が皇居外苑に集合し利用することは、同公園の目的にそうから、その利用の許否(許可するか否か)は厚生大臣の自由裁量ではなく、公園としての使命を達成させるよう考慮した上で決しなければならない。

本件不許可処分は、公園が著しい損壊を受け管理保尊に著しい支障を被ること、長時間一般国民の本来の利用が阻害されること等を理由としてなされたものであり

自由裁量によったものではなく管理権の運用に誤りはない

また、当該厚生大臣の許否は、厚生大臣の管理権の範囲内のことであり、

元来厚生大臣の権限ではない集会・示威運動を行うことの許否ではない、

したがって、本件不許可処分は何ら、表現の自由・団体行動権自体を制限することを目的とするものではないので、違法ではない