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取締役

取締役とは、会社の具体的な業務に関する意思決定を行い、現実に業務執行を行う機関です。

取締役の資格

取締役の資格とは、誰が取締役になれるのか?ということです。この点について会社法では、下記のいずれかに該当する場合、取締役になれないと規定しています(331条1項)。そして、下記事由を欠格事由と言います。

  1. 法人
  2. 会社法等の法律に違反し、または一定の罪を犯し、罰金刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者
  3. 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)等

取締役の選任

取締役の選任は、株主総会の専属決議事項とされています(329条)。つまり、株主総会でしか決議できません。そして、決議の方法は普通決議です。

そして、上記普通決議の内容については定款の定めにより変更ができます。

定足数については、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1まで下げることができます。3分の1未満にはできません。

また、決議要件について、出席した当該株主の議決権の過半数を上回る割合を定款で定めることができます(341条)。

取締役の選任については、累積投票制度が認められています(342条)。

取締役の解任

解任とは、任期の途中にその役職を解かれること・やめさせることを言います。

そして、取締役の解任については、①株主総会決議による解任と②解任の訴えの2つの場合があります。

株主総会における解任決議

取締役は、いつでも、株主総会の普通決議によって解任することができます(339条1項)。

ただし、累積投票で選任された取締役の解任の場合、特別決議が必要です(309条2項7号)。

正当な理由なく株主総会決議により解任された者は、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(339条2項)。

役員解任の訴え

少数株主は、取締役解任の訴えを行うことにより、取締役の解任を行うことができます。

これは、悪いことをした取締役が、会社内で力を持っている者の場合、株主総会決議をしても、その取締役を恐れて、賛成票を入れず否決されることがあります。

そのような場合に備えて、裁判所に訴えることができるようにしています。

役員に欠員が生じた場合

役員(取締役又は会計参与)が欠けた場合、または定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了または辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有します346条1項)。

悪いことをして解任となった場合は、上記ルールは適用されず、役員としての権利義務はなくなります

辞任とは、自らの意思でやめることです。

取締役の員数

非取締役会設置会社では、1人又は2人以上の取締役を置かなければなりません(326条)。つまり、1人以上置かなければならないということです。

取締役会設置会社では3人以上の取締役を置かなければなりません(331条5項)。

取締役の任期

取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することはできます332条1項)。

言い換えると、取締役の任期は最長「選任の日から2年」ということです。

「非公開株式会社」かつ「監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社でない」場合

「非公開株式会社」かつ「監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社でない株式会社」については、定款によって、任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長(延長)することができます(332条2項)。

監査等委員会設置会社の場合

監査等委員会設置会社の場合、

監査等委員の取締役は、原則、任期2年ですが
監査等委員でない取締役は、原則、任期1年とされています(332条3項)。

指名委員会等設置会社の場合

指名委員会等設置会社の取締役は、任期は原則1年ですが、定款または株主総会決議により、任期を短縮できます(332条1項)。

取締役の地位と権限

取締役の地位や権限については、非取締役会設置会社、取締役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社によって異なります。

これは分かりやすいように、下表のように、「意思決定機関」「業務執行機関」「代表者」と分けて考えると覚えやすいです。

非取締役会設置会社における取締役

取締役会がない場合、会社の業務の意思決定は、原則、取締役が行います。もし、取締役が2人以上いる場合、過半数をもって決定します(348条1項)。

ただし、定款の別段の定めがあれば、それに従います。

そして、非取締役会設置会社の代表者については、
原則、各取締役が会社を代表します。
例外として、代表取締役が定まっている場合、代表取締役が会社を代表します(349条1項2項)。

取締役会設置会社における取締役

取締役会設置会社では、取締役会が会社の業務の意思決定を行うので、取締役個人としては、あくまでも取締役会の構成員として、意思決定の議決権を持つにすぎないことになります(362条)。

業務の執行についても、基本的には取締役の中から選ばれた代表取締役が行います。
※指名委員会等設置会社の場合は、執行役が業務の執行を行います(418条)。

取締役の義務

取締役は下記義務および下記規制を負います。

  1. 善管注意義務
  2. 忠実義務
  3. 競業取引の禁止
  4. 利益相反取引の禁止

善管注意義務

会社と取締役の関係は、委任の規定に従います(330条)。

つまり、「会社=委任者」「取締役=受任者」という関係が成立します。

そうすると、受任者たる取締役は、委任者たる会社に対して善良なる管理者の注意義務(善管注意義務)を負います(民法644条)。

もし、取締役が善管注意義務を怠り、会社に損害を与えた場合、債務不履行により損害賠償義務を負うこととなります(民法415条)。

忠実義務

忠実義務とは、法令および定款・株主総会決議を遵守し、会社のために忠実にその職を行わなければならないという義務を言います(335条)。

判例では、忠実義務は、善管注意義務を、より明確に注意的に規定したものに過ぎず善管注意義務とは別個のより高度な注意義務を取締役に課したものではない、としています(最大判昭45.6.24)。

つまり、善管注意義務と忠実義務は同質の義務であるということです。

競業取引の禁止(競業避止義務)

取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません(356条1項1号)。

「自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引」とは、「競業取引」のことを指します。

例えば、株式会社Aがホームページの作成事業を行っており、取締役Bは、自らホームページ作成事業を立ち上げたり、他のホームページ作成業者Cの代表取締役に就任して、ホームページの作成事業を行ったりしてはいけない、ということです。

このような義務を競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)と言います。

承認を得ずに競業取引を行った場合どうなるか?(競業取引の効果)

株主総会・取締役会の承認を要する競業取引であるにも関わらず、承認を得ずに取引を行った取締役は、会社に損害が生じた場合、任務懈怠による損害賠償責任を負うことになります(432条1項)。

その場合、「取締役が得た利益」又は「第三者が得た利益」の額が損害額と推定され、損害賠償請求の対象となります。

つまり、競業取引自体は有効だが、損害賠償で処理するということです。

利益相反取引の禁止

利益相反取引とは、取締役と会社の利益が相反する取引を言います。

つまり、取締役が利益を得て、会社が不利益を被る取引のことです。

例えば、会社の所有する土地を取締役が安く購入する契約等です。

この場合も、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません(356条1項3号)。

利益相反取引の効果

利益相反取引については、会社は原則として取締役に対して無効を主張することができます。

一方、会社は、承認がなかったことを知らない第三者に対して無効を主張できません

取締役の報酬

取締役の報酬は、定款または株主総会の決議により定めなければなりません(361条1項)。

つまり、定款の定めがない場合、株主総会決議で決めるということです。

取締役会決議では決めることができません

なぜなら、それができると、取締役が自分達の報酬を決めることができるようになり、不当に高額にして会社の経営に影響を及ぼす恐れがあるからです。

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決議取消し、決議無効確認、決議不存在確認の訴え

株主総会の決議に、手続上・内容上問題がある場合、3つの制度が用意されています。

  1. 決議取消しの訴え
  2. 決議無効確認の訴え
  3. 決議不存在確認の訴え

大まかに分けると、
決議の瑕疵が軽いものが、決議取消しの訴えで、
決議の瑕疵が重くなるにしたがって、無効確認の訴え→不存在確認の訴え
といった感じです。

まとめた表は下記の通りで、その後に細かく解説していきます。


決議取消しの訴え

株主総会の決議取消事由

株主総会決議を取り消すことができるのは、下記3つのいずれかに該当する場合です(831条1項)。

  1. 招集手続きまたは決議の方法が、①法令・定款に違反し、または②著しく不公正なとき
  2. 決議の内容定款に違反するとき
  3. 決議について特別利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がなされたとき

1の具体例として、下記があります。

  • 決議の定足数に不足がある場合
  • 一部の株主に招集の通知をし忘れた場合
  • 招集通知期間が不足している場合
    ※原則、2週間前までに通知、非公開会社の場合、1週間前まで
  • 深夜に株主総会を行ったり、誰も来れないような場所で株主総会を行った場合
  • 代表取締役が有効な取締役会決議を経ることなく株主総会を招集した場合(最判昭46.3.18)
    ※株主総会の招集決定は取締役会設置会社では、取締役会決議が必要。これをせずに代表取締役が株主総会を招集したということ。
  • 取締役会設置会社において招集通知の記載のない議題について決議した場合(最判昭31.11.15)

そして、株主総会の決議取消しの訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するとき(上記1の要件を満たす場合)であっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなくかつ決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、決議取消しの請求を棄却することができます831条2項)。

決議取消しの訴えの提訴権者と提訴期間

株主、取締役、執行役員、監査役等は、株主総会決議の日から3か月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができます(831条1項)。

この場合、被告は会社になります。

決議取消し判決の効力

決議取消しの確定判決(認容判決)により、遡及効と対世効が生じます。

遡及効

決議の日にさかのぼって決議は無効となります。

対世効

確定判決は、訴訟当事者間のみに及び、当事者以外の第三者には及ばないのが原則です(民事訴訟法115条1項)。

しかし、確定した決議取消判決の効力は、当事者以外の第三者に対しても効力を生じます(838条)。これを対世効と言います。

例えば、取締役についてAの選任決議がされ、その後、決議取消判決をもらった場合、全員にとって、Aは取締役でなくなるわけです。訴訟提起した者にとってのみAは取締役でなくなり、その他の株主にとってAは取締役というのはおかしな話になります。

決議無効確認の訴え

株主総会の決議無効事由

決議無効の訴えを請求できるのは、決議の内容法令に違反する場合です。

決議取消しと決議無効の要件の違い
法令違反 定款違反
決議の方法 取消事由 取消事由
決議の内容 無効事由 取消事由

決議無効の訴えの提訴権者と提訴期間

株主総会決議の無効の訴えについては、提訴権者および提訴期間に定めはないので、誰でも・いつでも無効を主張できます。

決議無効判決の効力

決議無効の確定判決(認容判決)により、遡及効と対世効が生じます。
これは、決議取消しの判決の効力と同じです。

決議不存在確認の訴え

決議が行われたような書類は存在するが、実際には決議が行っていない場合誰でも・いつでも決議不存在確認の訴えを主張できます。

行政書士の試験対策としては、下記判例をそのまま覚えておきましょう。

  • 代表権のない取締役が取締役会決議に基づかずに株主総会を招集した場合(最判昭45.8.20)

決議不存在確認の確定判決(認容判決)により、遡及効と対世効が生じます。
これは、決議取消しや決議無効の判決の効力と同じです。

<<株主総会の決議 | 取締役>>

株主総会の決議(普通決議・特別決議・特殊決議)

株主総会における決議は、決議する内容の重要性によって、普通決議、特別決議、特殊決議の3つに分かれます。

決議要件

普通決議 議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数で決議
特別決議 議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の多数で決議
特殊決議 議決権を行使できる株主の半数であって、当該株主の議決権の3分の2以上の多数で決議
総株主の半数であって、総株主の議決権の4分の3以上の多数で決議

普通決議

会社法または定款で特別な定めがない場合は、この普通決議により議決します。

言い換えると、特別決議や特殊決議以外のものが普通決議ということです。

普通決議は、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数で決議します。

そして、普通決議の定足数は、定款により、引き下げたり、排除することができます。つまり、議決しやすくすることができるということです。

ただし、役員(取締役、会計参与、監査役)の選任・解任決議については、定足数を総株主の議決権の3分の1未満に引き下げることはできません341条)。

定足数とは、株主総会を開いて、議決するために必要な、最小限度の出席人数です。憲法における国会部分でも勉強した定足数と同じ内容です。

特別決議

特別決議は、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の多数で決議します。

特別決議となること議題は、行政書士試験で出題されそうなものに絞って下記に列挙しました。

  1. 譲渡制限株式の買取決議140条2項)
  2. 特定の株主から自己株式を取得する旨、その条件の決定156条1項)
  3. 全部取得条項付種類株式の取得の決議171条1項)
  4. 株式の併合の決議180条2項)
  5. 募集株式、新株予約権の募集事項の決定(非公開会社のみ)199条2項、238条2項
  6. 募集株式の第三者割当の場合の有利発行199条2項、309条2項5号
  7. 募集株式・募集新株予約権の募集事項の決定を「取締役等に委任」する決議200条1項、309条2項5号)
  8. 「累積投票で選任された取締役」「監査役」を、解任する決議342条3~5項、339条
  9. 非公開会社において、新株予約権付社債を発行する決議248条
  10. 役員等の損害賠償責任を一部免除する決議425条1項)
  11. 資本金を「減少」する決議447条1項)
  12. 金銭以外の財産を配当し、かつ、金銭分配請求権を与えないこととする場合454条4項)

譲渡制限株式の買取決議

株式会社は、譲渡制限付株式の譲渡について承認するよう請求を受けた場合において、譲渡の承認をしない旨の決定をしたときは、譲渡制限株式を買い取らなければなりません

この場合においては、下記事項を定めなければならないのですが、下記事項を決定するには、株主総会の特別議が必要です。

  1. 譲渡制限株式を買い取る旨
  2. 株式会社が買い取る対象株式の数

特定の株主から自己株式を取得する旨、その条件の決定

株式会社が特定の株主との合意により当該株式会社の株式を有償で取得するには、あらかじめ、株主総会の特別決議によって、下記事項を定めなければなりません。

  1. 取得する株式の数
  2. 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額
  3. 株式を取得することができる期間(1年以内で定めること)

全部取得条項付種類株式の取得の決議

全部取得条項付種類株式を発行した種類株式発行会社は、株主総会の特別決議によって、全部取得条項付種類株式の全部を取得することができます。

株式の併合の決議

株式会社は、株式の併合をしようとするときは、その都度、株主総会の特別決議によって、下記事項を定めなければなりません。

  1. 併合の割合
  2. 株式の併合がその効力を生ずる日
  3. 株式会社が種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類

募集株式、新株予約権の募集事項の決定(非公開会社のみ)

株式会社は、その発行する「株式」又は「その処分する自己株式」「新株予約権」を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、一定事項を定めなければなりません。
そして、当該株式会社が非公開会社の場合、募集事項の決定は、株主総会の特別決議によらなければなりません。

※公開会社の場合、取締役会の決議で行えます。

募集株式の発行の手続きはこちら>>

募集株式の第三者割当の場合の有利発行

募集株式について第三者割当を行う場合、公開会社であれば、原則、取締役会決議で行えます。ただし、有利価格での発行には株主総会の特別決議が必要です。

募集株式・募集新株予約権の募集事項の決定を「取締役等に委任」する決議

株主総会の特別決議により、上記「募集株式、新株予約権の募集事項の決定」について取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することができます。

「累積投票で選任された取締役」「監査役」を、解任する決議

累積投票の解説はこちら>>

「累積投票で選任された取締役」または「監査役」を、解任する場合、株主総会の特別決議が必要です。

非公開会社において、新株予約権付社債を発行する決議

新株予約権付社債の発行については、新株予約権の募集に関する規定が適用されます。

したがって、上記「募集株式、新株予約権の募集事項の決定(非公開会社のみ)」の通り、株主総会の特別決議により、募集事項を決定して発行できます。

役員等の損害賠償責任を一部免除する決議

役員等の任務懈怠責任について、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、賠償の責任を負う額から一定金額を控除して得た額(差し引いた額)を限度として、株主総会の特別決議によって免除することができます。

資本金を「減少」する決議

株式会社は、株主総会の特別決議により資本金の額を減少させることができます。

金銭以外の財産を配当し、かつ、金銭分配請求権を与えないこととする場合

金銭分配請求権を与えず、金銭以外の財産(現物配当:例えば商品券)で配当する場合、株主総会の特別決議が必要です。

特殊決議

特殊決議については、決議要件の違いにより、下記2つのパターンがあります。

議決権を行使できる株主の半数であって、当該株主の議決権の3分の2以上の多数で決議
総株主の半数であって、総株主の議決権の4分の3以上の多数で決議

①議決権を行使できる株主の半数であって、当該株主の議決権の3分の2以上の多数で決議

  1. 全部の株式に譲渡制限をかける旨の定款変更
  2. 吸収合併契約等の承認
    ※吸収合併消滅会社・株式交換完全子会社が公開会社で、対価の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合における当該会社の吸収合併契約・株式交換契約の承認(783条1項)
  3. 新設合併契約等の承認
    ※新設合併消滅会社・株式移転完全子会社が公開会社で、対価の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合における当該会社の新設合併契約・株式移転計画の承認(804条1項)

②総株主の半数であって、総株主の議決権の4分の3以上の多数で決議

非公開会社における株主ごとに異なる権利内容を設ける場合(109条2項)の定款変更(当該定款の定めを廃止するものを除く)

<<累積投票とは?(取締役の選任) | 株主総会の決議取消しの訴え、決議無効確認の訴え、決議不存在確認の訴え>>

累積投票とは?(取締役の選任)

累積投票を利用した場合

株式会社の取締役を選任する際に、議決権を有する各株主が、その有する株式1株につき、選任する取締役の数と同数の議決権を持つことを認める投票方法です。当該投票により、最多数の投票を得た者から順に取締役に選任されたものとされます。

例えば、普通株式100株を発行している株式会社で、株主が3名(A:60株、B:30株、C:10株)いるとした場合、この株式会社が取締役を2名選任するとします。

この場合、議決権の数はそれぞれ下記の通りです。

A:60株×2=議決権120個
B:30株×2=議決権60個
C:10株×2=議決権20個

そして、
Aが、候補者Xと候補者Yを選任し、
BとCが、候補者Zを選任した場合

これにより、Zは80個の議決権を獲得します。
一方、候補者Xと候補者Yは合計して120個の議決権しか獲得できません。
もし、候補者Xに100個、候補者Yに20個の議決権が配分された場合

XとZが取締役に選任されます。

累積投票を利用しない場合

議決権の過半数の決議により取締役を選任するため、議決権の過半数である60株を有するAが推薦する候補者XとYが取締役に選任されます。

<<株主の議決権と行使の方法 | 株主総会の決議>>

株主の議決権と行使の方法

議決権とは、株主総会の決議に加わる権利のことで、株主総会の議案についての賛成・反対の投票権とイメージすると分かりやすいです。

そして、原則、1株あたり1個の議決権があります。

下記の場合が例外となります。

  1. 議決権制限株式
    この場合、議決権の行使が制限されているので、この株を持っていても議決権はありません。
  2. 自己株式
    会社自身がもつ株式については、議決権は認められません(308条2項)。
  3. 単元未満株式
    例えば、1000株1単元の場合、1000株未満の株式を持っていても議決権はありません。
  4. 非公開会社の株式
    非公開会社では、定款で株主ごとにその有する議決権について異なる取扱いをする旨を定めることができます(109条2項)。

議決権の行使の方法

株主総会が開かれて、株主自身が株主総会に出席し、決議に参加するということもできますが、株主総会に出席するのが難しい方もいます。そのため、色々な行使方法が会社法で定められています。

  1. 代理行使
  2. 書面による行使(書面投票)
  3. 電磁的方法による行使(電子投票)
  4. 不統一行使

代理行使

株主は、自ら株主総会に出席するのではなく、代理人に出席してもらい、その代理人に議決権を行使してもらうことも可能です。その場合、代理人は、代理権を証明する書面(委任状)を会社に提出しなければなりません。(310条1項)。

代理行使の場合、株主総会ごとに代理権を授与しなければなりません(310条2項)。

なお、株式会社は、株主総会に出席することができる代理人の数を制限することができます(310条5項)。例えば、株主総会での混乱を防止するために、株主1人に対して1人の代理人のみに制限し、2人以上の代理人の出席は拒否することができます。

書面による行使(書面投票)

取締役(取締役会設置会社の場合、取締役会)が決定・決議した株主総会の招集について「株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができること」とした場合、

株主総会に出席しない株主は、書面によって議決権を行使できます(書面投票)(298条1項3号)。

例えば、北海道で株主総会があった場合、沖縄在住の株主は、北海道まで行くのは大変です。そのような場合に、書面で議決権を行使できるということです。

電磁的方法による行使(電子投票)

これは書面投票とよく似ています。書面投票ではなく、メールなどで投票するイメージです。

取締役(取締役会設置会社の場合、取締役会)が決定・決議した株主総会の招集について「株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができること」とした場合、

株主総会に出席しない株主は、電磁的方法によって議決権を行使できます(電子投票)(298条1項4号)。

不統一行使

通常、1万株を有する株主が、議決権を行使する場合、1万株すべてについて、賛成に投票したり、反対に投票したりします。

しかし、会社法では、株主が有する議決権を統一しないで行使することも可能です(313条1項)。

例えば、証券会社Xが、株主A、株主B、株主Cからそれぞれ株式の信託を受けていた場合です。この場合、証券会社Xが、株主A、株主B、株主Cの有する株式についてまとめて議決権を行使します。そうなると、株主Aは反対、株主Bは賛成、株主Cは賛成といった感じで、それぞれ意見が異なります。そのような場合に対応するために、議決権を統一しないで行使することも可能にしています。

<<株主総会の権限と招集 | 累積投票とは?(取締役の選任)>>

株主総会の権限と招集

ここから、会社の機関について勉強していきます。

会社は自然人(ヒト)ではないので、会社自体が経営することはできません。「自然人」または「自然人の集まり」によって、会社を運営していくことになります。

イメージとしては、人が生活するためには、足があり手があり、頭があり、目があったりします。これらが「機関」のイメージです。

会社にも、会社が経営していくために、株主総会があり、取締役があり、監査役がありといった感じで、さまざまな「機関」があります。

そして、すべての株式会社には、株主総会および取締役の2つの機関は必ず置かなければなりません326条)。

株主総会とは、会社の組織運営の根本にかかわる意思決定を行う最高の意思決定機関です。

取締役は、株式会社で、業務執行に関する意思決定を行う機関です。

株主総会の権限

株主総会とは、株主によって構成される合議体です。そして、株主総会で決議できることについては、取締役会設置会社と非取締役会設置会社によって異なります。

取締役会設置会社 ①会社法に規定する事項および②定款で定めた事項
非取締役会設置会社 一切の事項

取締役会設置会社については、一般に株主が会社を所有し、取締役会が経営を行うという風に、所有と経営が分離しています。

そのため、一定事項のみ株主総会で決定し、それ以外は取締役会で決定することが可能です。

取締役会設置会社において、株主総会で決議できる会社法に規定する事項とは、

  1. 「定款変更・事業譲渡・解散・合併・株式交換・株式移転等」の会社の根本に関わる事項
  2. 「取締役、監査役、会計監査人、会計参与等の選任・解任」に関する事項
  3. 「株式併合」や「募集株式の第三者に対する有利発行」といった株主の利害に重大な影響を与える事項

株主総会の招集

株主総会の種類

定時株主総会 最低でも年1回は行う
臨時株主総会 必要に応じて臨時開催される

株主総会の招集権者

取締役会(非取締役会設置会社では、取締役)が一定事項を決定し、代表取締役等がこれを執行して招集します。

また、少数株主総株主の議決権の100分の3以上、公開会社は6か月以上前から保有)による招集も認められています。

株主総会の招集通知

公開会社 総会の2週間前まで
非公開会社 総会の1週間前まで
※ 非取締役会設置会社では、定款で短縮できる
書面決議の場合は、2週間前まで

書面決議とは、株主総会を実際に開催することなく、株主総会の決議を省略し、書面のやり取りのみで株主総会決議があったものとみなすことができる制度です。

また、株主全員の同意があるときは、招集手続きを経ずに、株主総会を開催することができます(300条)。例えば、株主が1人の場合、上記手続きを行うのは、時間の無駄です。

<<社債・新株予約権付社債 | 株主の議決権と行使の方法>>

新株予約権

新株予約権とは、この予約権を有する者が会社に対して権利を行使することで、株式の交付を受けることができる権利を言います(2条21号)。

例えば、Aが株式会社Xの新株予約権を持っていた場合、Aが新株予約権を行使して、所定の金銭を払い込むと、XはAに対して株式を交付します。

ここで注意が必要なのは、「新株予約権の発行」と「新株予約権の行使」の2つのステップがあります。

新株予約権の発行

募集により新株予約権を発行する場合、募集株式の発行の場合と同じ手続きで行います。

つまり、「公開会社と非公開会社」、「株主割当と第三者割当」で異なります。

新株予約権者となる日、払込み

新株予約権の発行については、無償の場合と有償の場合があります。

無償の場合、新株予約権の募集に対する申込者は、払込を待たず割当日に募集新株予約権の新株予約権者となります245条1項)。

有償の場合、新株予約権者は、払込期日までに払込金額の全額を払いこまなければなりません(264条1項)。

新株予約権の行使

新株予約権者は、新株予約権を行使した日に、新株予約権の目的である株式の株主となります(282条1項)。

そして、新株予約権を行使する際に、行使価額の全額を払い込まなければなりません。

つまり、予約権の発行の際に1回目の払い込みを行い、権利行使の際に2回目の払込みを行います。

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募集株式の発行差止請求、無効の訴え、不存在確認の訴え

このページでは、違法な募集株式の発行に対する救済の方法について解説します。

募集株式の発行の手続きに法令又は定款違反がある場合、その効力が問題となります。

募集株式の発行の効力が発生する前と後によって救済手段が異なります。

効力発生前:募集株式の発行差止請求

効力発生後:新株発行等の無効の訴え、不存在確認の訴え

募集株式の発行差止請求

下記いずれかの場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、「株式の発行又は自己株式の処分」をやめることを請求することができます(210条)。

  1. 当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合
  2. 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合

この募集株式の発行の差止請求裁判外で行うことも可能です。

新株発行等の無効の訴え

違法・不当な募集株式の発行において、発行差止請求ができるのは、払込期日の前までです。払込が終わってしまうと、株式発行の効力が生じてしまうので、その後は、発行差止請求はできません。

この場合、「新株発行等の無効の訴え」や「新株発行等の不存在確認の訴え」を行うことができます。

無効原因

どういった場合に無効原因となるかについては、会社法で規定されません。

判例では、下記のような場合に無効原因となるとしています。

  • 発行可能株式総数を超えて新株発行が行われた場合
  • 募集事項の通知・公告を行わずに新株の発行が行われた場合(最判平9.1.28)
  • 新株発行差止めの仮処分を無視して、新株を発行した場合(最判平5.12.16)

提訴期間

新株発行等の無効の訴えは、新株発行の効力が生じた日から6か月以内非公開会社の場合、1年以内)に訴えをもってのみ主張できます。

裁判外で主張することはできないので注意しましょう!

提訴権者

新株発行等の無効の訴えは、株主、取締役、監査役等です。

会社の債権者新株発行等の無効の訴えを提起できません

無効判決の効果

新株発行等の無効の訴えについて、認容の判決(無効判決)となった場合、無効判決の効果は第三者に対しても効力を生じます838条)。

また、無効判決の効果は、将来に向かってその効力を失います(839条)。

新株発行等の不存在確認の訴え

新株発行の手続きが全くなされていない場合等のように新株発行の実態がない場合、新株発行等の不存在確認の訴えの対象となります。

提訴期間

これは、新株発行をしていないというように、手続きの瑕疵の程度が重いので、提訴期間に定めはありません。つまり、いつでも主張できます(裁判外でもOK)。

提訴権者

新株発行の不存在確認の訴えは、会社法上、誰でも、提訴できます。

不存在確認の判決の効果

第三者に対してもその効力を生じます838条)。

しかし、無効判決の場合と異なり、もともと、株式が発行されていないので、当初にさかのぼって効力を生じます。

新株発行等の「無効確認の訴え」と「不存在確認の訴え」の違い

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募集株式の発行(株主割当と第三者割当)

企業が発展していくために、新たに資金を必要とする場合があります。そのような場合、募集株式を発行したり、社債を発行したりします。

ここでは、募集株式の発行について解説していきます。

募集株式の発行の方法

募集株式を発行する場合、新たに株式引受人を募集し、その払込金により資金を調達します。この場合、株式引受人に割り当てる株式について、①新たに株式を発行する場合②自己株式を処分する(売却する)場合の2つがあります。

そして、募集株式の発行については、「公開会社と非公開会社」、「株主割当てと第三者割当」で手続きが異なります。

この手続きが行政書士の試験で出題されるのでしっかり頭に入れましょう!

第三者割当の手続き

第三者割当とは、既存株主または既存株主でない人を募集して、その人に株式を割当てるものです。

公開会社の場合

公開会社が、第三者割当により募集株式の発行を行う場合、募集事項の決定を原則として取締役会で決議して行います(199条2項)。

ただし、募集株式の払込金額が特に有利な金額である場合(例えば、安い価格で株式を割当てる場合)は、既存株主は文句をいうでしょう。そのため、株主総会の特別決議が必要です。

非公開会社の場合

非公開会社では、株主総会の特別決議が必要です(199条2項、309条2項5号)。

非公開会社の株主は、通常、会社の経営権を持つ方が多いです。そのため、第三者割当をして、新たに株主を募集する場合、経営権を揺るがすことにもなりかねないため、株主総会の特別決議を必要としています。

ただし、株主総会の特別決議により、取締役(取締役会設置会社の場合は取締役会)に委任することはできます(200条1項)。

株主割当ての手続き

株主割当てとは、既存の株主に対して、その持株数に応じて募集株式を割当てる権利を与えることを言います。

例えば、株主Aが1万株、株主Bが5000株を持っていたとします。そして、1株あたり、0.5株を与える場合、株主Aは5000株、株主Bは2500株の割当を受けることになります。

この場合、株主Aと株主Bの持株比率は変わらないため、株主として権力に変化はありません。

公開会社の場合

公開会社では、募集事項の決定を取締役会の決議で行います(202条3項3号)。

非公開会社の場合

非公開会社の場合、原則、株主総会の特別決議により行います(202条3項4号、309条2項5号)。

ただし、定款の定めにより、「取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会の決議)による」旨の記載があれば、その定めに従います。

株主割当と第三者割当の対比表

上記内容をまとめると下記の通りです。

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単元株(買取請求と売渡請求)

単元株制度の導入

単元株とは、通常の株式取引で売買される売買単位のことで、会社によって異なります。単元株が1株、100株、1000株だったりします。

では、なぜ、100株や1000株をひとまとめにするのでしょうか?

これは株主の管理コストを削減するためです。

例えば、単元株100株の会社Aがあったとし、1株1万円とします。

すると、Aの株を取得するには、最低100株つまり100万円必要です。

もし、単元株が1株だと、1万円から購入することができ、必然と株主の数も増えます。

そうなると、株主総会の際の招集通知を多くの株主に対して行う必要があり、コストがかかってきます。それを解消するために単元株制度があります。

そして、1単元の株式数は、必ず定款で定めておかなければなりません(188条1項)。

また、単元株未満の株主については、市場で株式を売却することができなくなったり、株主総会で議決権を行使できなくなったりします。

つまり、もともと単元株制度を導入する場合、単元株未満の株主は、売却する権利が無くなるなど不利益を被るため、株式併合と同じように、株主総会の特別決議が必要となっています(309条2項11号)。

ちなみに、定款を変更する際は、株主総会の特別決議が必要なので(466条)、そのことからも、上記とのつながりを理解できるはずです。

単元株未満の株主の株式買取請求権

上記の通り、単元株未満の株主は、市場で株式を売却できなくなります。そのため、会社に対して単元株未満の株式を買い取るよう請求できます(192条1項2項)。

これができないと、株主は、投資したお金を回収することができなくなるため、定款によっても買取請求権を排除することはできません(189条2項4号)。

また、一度買取請求権を行使した場合、会社の承諾がない限り、撤回をすることはできません(192条3項)。

単元株未満の株主の売渡請求(買増請求)

売渡請求とは、会社に対して、単元株になるよう売ってください!と請求することです。

これは、定款に定めがある場合にのみ売渡請求を行うことができます

例えば、もともと30株持っており、単元株制度が導入されて、単元株が100株となった。

この場合、この株主は、会社に対して70株を売ってください!と請求することが売渡請求です。

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