国家賠償法1条は、条文の内容とその判例が、行政書士の試験で問われます。そのため、条文と判例を見ていきます。個別の判例については、リンク先が具体例となっています。
国家賠償法
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
国家賠償責任の法的性質
上記国家賠償法(国賠法)1条の条文の通り、公務員の職務上の行為で、他人に損害を与えた場合、国や公共団体が賠償責任を負うことになっています。つまり、本来公務員が負うべき責任を国や公共団体が代わって賠償責任を負うこととしています。これを代位責任と言います。
加害者の特定性
代位責任説によると、違法行為を行った公務員自身に損害賠償責任が生ずることが前提なので、論理的に考えると、加害者が特定できない場合、損害賠償責任を問えないことになります。しかし、被害者保護の観点から、厳密な特定までは不要としています(最判昭57.4.1:「加害行為の不特定」と「国等の損害賠償責任」)。
公共団体とは?
公共団体とは、地方公共団体(都道府県や市町村)、公共組合(土地区画整理組合、国民健康保険組合)、独立行政法人だけでなく、弁護士会も含まれます。
国家賠償法1条の要件
国賠法1条に基づく責任が生ずるための要件は、下記5つです。
- 公権力の行使にあたる公務員の行為であること
- 公務員が「職務を行うについて」行った行為であること
- 公務員に故意または過失があること
- 公務員の行為が違法であること
- 損害が発生したこと
上記の中において、行政書士で重要なキーワードを抜粋すると、下記6つです。これから細かく解説していきます。
- 公務員
- 公権力の行使
- 職務を行うについて(職務関連性)
- 故意または過失
- 違法(違法性)
公務員
公務員とは、地方公務員、国家公務員はもちろん、「公権力の行使」に当たる行為を行う民間人も含まれます。
例えば、建築確認を行う民間の指定確認検査機関による建築確認により、相手方に損害を与えてしまった場合、地方公共団体が国家賠償責任を負う判例(最判平17.6.24)があります。つまり、建築確認という公権力の行使を行う「指定確認検査機関」も「公務員」として扱っているわけです。
また、弁護士会の懲戒委員会の委員が、弁護士に対して懲戒処分する場合、当該委員は、懲戒処分という一種の公権力の行使を行っているため、当該委員を「公務員」として、弁護士会(公共団体)が賠償責任を負う判例(東京高判平19.11.29)があります。
公権力の行使
公権力の行使とは、国賠法1条では、「国家賠償法2条の対象となるもの(公の営造物の設置・管理)および私経済作用を除くすべての行政作用」を指します(判例・通説)。
分かりやすく言えば、下記2つ以外のすべての行政作用ということです。
- 国家賠償法2条の対象となるもの(公の営造物の設置・管理)
- 私経済作用
私経済作用とは?
例えば、「国公立病院が行う医療行為」や「公務員が事務用品を購入する行為」が私経済作用で、民法が適用されます。これらの行為は、私人と同等の立場で行い、公権力の行使とは言えないからです。
上記の通り、「国家賠償法2条の対象となるもの」および「私経済作用」を除くすべての行政作用なので、「行政手続法における公権力の行使」、「行政不服審査法における公権力の行使」、「行政事件訴訟法における公権力の行使」と比べて、国賠法1条の方が対象範囲が非常に広くなるわけです。
公権力の行使の具体例
国賠法1条では、下記行為も公権力の行使として損害賠償の対象となります。
- 行政指導
- 国公立学校・市立学校の教育活動(最判昭58.2.18、最判昭62.2.6、最判平5.2.18)
- 国会議員による立法行為(最判昭60.11.21、最判平17.9.14)
- 裁判所による裁判(最判昭57.3.12)
- 「拘置所職員たる医師」による「拘留されている患者」に対する医療行為(最判平17.12.8)
- 県から委託を受けた社会福祉法人の施設職員による養育監護行為(最判平19.1.25)
公権力の行使に該当しない場合どうなるか?
公権力の行使にあたる |
国家賠償法1条の対象 |
公権力の行使にあたらない |
民法709条(不法行為責任)の対象 |
職務を行うについて(職務関連性)
国賠法1条では、公務員が、職務上の行為によって、国民に損害を与えた場合を対象としているのですが、加害行為が職務で行われた場合はもちろん、職務との間に一定の関連性(職務関連性)があればよいとしています。
外形標準説(外形理論)
また、判例(最判昭31.11.30:「公務員の私利を図る目的の行為」と「国家賠償法」)では、加害行為が客観的に職務行為の外形を備えるものであればよく、実際には職務上の行為でなかったとしてもよいとしています。
このように、外見から判断して、職務行為に見える場合も「職務上の行為」として、賠償責任の対象としています。これも被害者救済の見地からきています。
故意または過失
国家賠償責任は、公務員の行った不法行為(民法709条)が前提なので、公務員の故意または過失が要件となってきます。
(不法行為による損害賠償)
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
公務員が上記不法行為を行った場合、「公務員個人」に賠償責任を負わせるよりも「国や公共団体」に責任を負わせた方が被害者を保護できるということです。
故意とは?
民法上の故意とは、一定の侵害結果の発生を認識しながらそれを認容して行う場合(その心理状態)を言います(通説)。そして、国賠法も同様と考えてよいです。
過失とは?
過失とは、判例(最判平5.3.11:「所得税更正処分の取消し」と「国家賠償法」)では、公務員が職務上要求される注意能力を欠く場合を指します。
細かいことをいえば、客観的過失があったかどうかで判断し、主観的過失(公務員自身の注意能力を基準としている)ではないということです。
違法(違法性)
国家賠償責任は、公務員の行った不法行為(民法709条)が前提なので、公務員の違法行為が要件となってきます。
これは法令違反だけでなく、裁量の範囲を逸脱・濫用した場合(最判昭52.12.20:神戸税関事件)や社会的相当性を欠く場合(最判昭61.2.27:「パトカー追跡」と「国家賠償法」)も違法とされています。
公務員の不作為・権限不行使は違法となるか?
(最判平元.11.24:「宅建業法の免許基準」と「国家賠償法」)や(最判平7.6.23)の判例では、公務員の不作為によって、私人に損害が発生した場合も国家賠償の対象としており、また、法律上与えられた権限を行使せずに(権限不行使で)損害が発生した場合も同様に国家賠償の対象としています。
公務員に対する求償
国や公共団体が私人(国民)に対して損害賠償した場合、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償できます。
行政書士の試験対策として注意点としては、下記部分です。
- 国等から公務員に対して求償できるが、公務員から国等に対しては求償できない
- 公務員に故意または重過失があった場合のみ、国等は求償できるが、公務員に故意がなく、かつ、無重過失の場合は求償できない
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