取締役が任務を怠った(任務懈怠)場合、会社が、当該取締役に対して損害賠償の責任を追及することができます。
しかし、会社と取締役の関係上、会社が取締役に対して責任追及をしないことも多いです。そうなると、株主に不利益になるため、会社法では、株主が会社を代表して取締役を訴える「株主代表訴訟(847条)」を規定しています。
株主代表訴訟
株主代表訴訟については、流れをしっかり覚えておくことが重要です。というのも、取締役の任務懈怠により、会社に損害を与えたからと言って、株主がいきなり訴えを起こせる訳ではないからです。
株主代表訴訟の流れ
- 6か月から引き続き株式を有する株主は、会社に対して書面等をもって、取締役の責任を追及する訴訟を提起するよう請求する
- 株主が請求をしたもかかわらず、会社が60日以内に訴訟を提起しない
- 株主は会社の代わりに、自らが原告となって訴訟(株主による責任追及等の訴え:株主代表訴訟)を提起することができる
このような流れになります。
※非公開会社の場合は6か月前から持っていなくてもよく、株主であれば株主代表訴訟を提起できます。
2において、会社が訴えを提起した場合は、株主代表訴訟は行えません。
株主からの請求に基づいて会社が訴えを提起する場合、原則、代表取締役(指名委員会等設置会社では代表執行役)が会社を代表します(349条1項4項、420条3項)。
ただし、監査役設置会社について取締役の責任を追及する訴えを行う場合、監査役が会社を代表します(386条2項1号)。
違法行為の差止請求
取締役や執行役が違法行為をした場合、当該取締役等は会社に対して損害賠償責任を負います(423条1項)。
しかし、できれば、違法行為が行われる前にその行為を差止めでできれば、その方がよいです。
そこで、会社法では、一定要件を満たせば、株主は、当該取締役等に対して違法行為の差止めができる権利(差止請求権)を認めています(360条、422条)。
株主による差止請求の要件
- 6か月から引き続き株式を有する株主であること(非公開会社の場合は6か月前から持っていなくてもよい)
- 取締役が株式会社の①目的の範囲外の行為や②法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある
- 株式会社に著しい損害が生ずるおそれがある(監査役設置会社又は指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社の場合、回復することができない損害が生ずるおそれがある)
業務の執行に関する検査役による調査
株式会社の業務の執行に関し、「不正の行為」又は「法令若しくは定款に違反する重大な事実があること」を疑うに足りる事由があるときは、一定要件を満たした株主は、当該株式会社の業務及び財産の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができます(358条)。
検査役の選任の申立てができる株主の要件
下記2つのいずれか一方を満たす株主は、検査役の選任の申立てができます。
- 総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主
- 発行済株式(自己株式を除く)の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主
検査役の役割
ここでいう検査役とは、株式会社の業務や財産状況の調査などを職務とする臨時的な監査機関といったイメージです。
会社の取締役が不正な行為や法令違反行為を行っていることが疑われる場合、株主としては、計算書類・会計帳簿や取締役会議事録を閲覧することによって情報を収集し、取締役に不正・不法な行為があれば、最終的に株主総会や取締役解任の訴えによって当該取締役を解任させることができます。
しかし、実際のところ、計算書類や会計帳簿の閲覧の対象は一定の資料に限定されており、株主であっても、細かい部分まで調べることは難しいです。
そのような場合に、「検査役」を選任して、その検査役に細かく調べてもらい、報告してもらうことができます。
これによって、取締役を解任させることができます。