憲法

国会

国会の地位

憲法第41条
国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

憲法第43条
両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

上記41条、43条から、国会には、憲法上3つの地位を与えています。

  1. 国民の代表機関
  2. 国権の最高機関
  3. 唯一の立法機関

国の代表機関

43条の両議院とは、衆議院と参議院の2つを指し、衆議院議員も参議院議員も全国民の代表であり、地方選挙区の代表者ではありません

そして、「代表」の意味については、全国民のためを思って行動をすれば、それが国民の意思と異なっていたとしてもよい、つまり、選挙区や後援団体の意思に拘束されず、自己の信念に従って行動できるということです。これを「自由委任の原則」と言います。そして、このような代表の在り方を「政治的代表」と言います。

一方、国民の多様な意思を国会に反映させる必要があるため、国民意思と代表者の意思をできるだけ近づけ、社会の実勢力が国会にできるだけ忠実に反映する必要があります。このような代表の在り方を「社会学的代表」と言います。

国権の最高機関

最高機関とは、国民によって直接選出された議員によって構成される国会が、国政中心的な地位を占めるという点で、国会を「国権の最高機関」として位置付けています。

唯一の立法機関

「形式的意味の立法」と「実質的意味の立法(一般的抽象的法規範)」

立法とは、分かりやすくいうと、「法律を作ること」です。そして、憲法第41条では、「国会は唯一の立法機関」といっているので、内容を問わず、どんな法律も作れるのか?というとそうではありません。特定の内容を持った法律を作ることとしています。

そして、内容を問わず、国会の議決で法律を作ることを「形式的意味の立法」と言い、特定の規範内容を持った法律を作ることを「実質的意味の立法」と言います。

そして41条の「立法」とは,形式的意味だけでなく,実質的意味も含んでいます。

そして、特定の規範内容を持った法律(実質的意味の法律)は、不特定多数の人々に対して適用され(一般的)、不特定多数の場合・不特定多数の事件に適用される(抽象的)ので、一般的抽象的法規範とされています。
※法規範とは、国の法律等によって規定されている規則・規準(ルール)です。

「国会中心立法の原則」と「国会単独立法の原則」

憲法第41条「国会は唯一の立法機関」の「唯一」とはどういう意味か?

2つの考え方があります。それが「国会中心立法の原則」と「国会単独立法の原則」です。

国会中心立法の原則

国会中心立法の原則とは、立法について国会が関わっていればよい、つまり、立法に国会が関わっていればよく、他に関わる機関があってもよい、という考え方です。

国会中心立法の原則の例外として、下記があります。

  • 衆議院、参議院の各議院が制定する議員規則58条2項
  • 最高裁判所が制定する裁判所規則77条1項
  • 地方公共団体の議会が制定する条例94条

これらは、国会が一切かかわらずに規則や条例を定めてしまうので、国会中心立法の原則の例外となります。

市販のテキストなどで、「国会以外の機関が立法を行うことは、憲法に特別の定めがある場合を除き許されない」というのは、上記の内容を難しくまとめた内容で、内容自体は上記と同じです。

国会単独立法の原則

国会単独立法の原則とは、国会が立法に関わる場合に、国会以外にかかわる機関がない考え方です。言い方を変えると、「他の機関の関与なく国会の議決だけで法律を成立させることができる」ということです。

国会単独立法の原則の例外として、地方自治特別法制定のための住民投票95条)があります。地方自治特別法とは、特定の地方公共団体のみ適用される法律で、その地方公共団体の住民投票で過半数の同意がなければ国会は制定できません。一番わかりやすい事例が「大阪都構想」です。大阪都構想を実現するためには、地方自治特別法の制定が必要であり、この地方自治特別法は、国会だけでは制定できず、住民投票(他の機関の位置づけ)が必要になります。そのため、「国会単独立法の原則」の例外にあたります。

衆議院と参議院の違い

国会は衆議院と参議院の二院制です。そして、衆議院と参議院の違いは下記の通りです。

下記内容はすべて重要です。

衆議院 参議院
任期 4年 6年
解散制度 解散あり 解散なし
定数 465名 248名
選挙権 満18歳以上 満18歳以上
被選挙権 満25歳以上 満30歳以上
選挙方法 小選挙区比例代表並立制
重複立候補が認められている
小選挙区:289名
比例代表:176名
選挙区制と比例代表制
重複立候補が認められていない
選挙区:148名
比例代表:100名
3年ごとに半数改選

重複立候補とは、立候補者が「小選挙区選挙」と「比例代表選挙」と2つとも立候補できるということです。これは衆議院のみ認められ、参議院の場合、「選挙区選挙」と「比例代表選挙」のどちらかを選んで立候補する形になります。

<<天皇(国事行為・皇室の財産) | 会期の種類・議決の方法(定足数と表決数)>>

 

居住・移転の自由、海外渡航の自由、国籍離脱の自由(憲法22条)

憲法第22条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

居住・移転の自由

居住・移転の自由とは、自己の住所または居所を自由に決定し、移動することができる自由を言います。また、国内旅行の自由も含まれます。

海外渡航の自由

海外渡航の自由は、「一時的な外国旅行の自由」と「外国に住所を移す海外移住の自由」を指し、22条2項で保障されています。

国籍離脱の自由

国籍離脱の自由について、日本国籍を失って無国籍になる自由までは含まれないと解されています。そのため、日本国籍を離脱する場合には、どこかの国の国籍を取得していなければなりません。

<<学問の自由(憲法23条) | 職業選択の自由(憲法22条)>>

幸福追求権(憲法13条)プライバシー権など

憲法第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法13条(幸福追求権)は、上記の通り、非常に抽象的で分かりにくい内容です。

しかし、このように抽象的な内容であるがゆえに、社会・経済の変動によって生じた様々問題に対して法的に対応することが可能であるのも事実です。

その結果、憲法13条(幸福追求権)は、憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる一般的かつ包括的な権利であり、この幸福追求権によって基礎づけられている個々の権利は裁判上の救済を受けることができる具体的権利(憲法上保障される権利)であると解されています。

幸福追求権の内容

幸福追求権については、憲法13条後段において「生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利」として保障しています。
つまり、具体的に、憲法で保障されているということです。
その具体的な権利の内容については、2つの考え方(一般的行為自由説人格的利益説)があります。

  • 一般的行為自由説あらゆる生活領域に関する行為の自由を保障するという考え方
  • 人格的利益説:個人の人格的生存に不可欠な行為の自由を保障するという考え方(通説)

幸福追求権から導きだされる具体的な人権

幸福追求権から導き出される具体的な権利は、プライバシーの権利、環境権、日照権等色々ありますが、最高裁の判例で、「プライバシーの権利としての肖像権」については、憲法上保障される権利としています(最大判昭44.12.24:京都府学連事件)。

この幸福追求権については、判例を押さえることが行政書士に合格するために重要となってきますので、判例を勉強してきましょう!

プライバシー権の2つの側面

プライバシー権利は、「消極的な権利としての側面」と「積極的な権利としての側面」2つの側面を持っています。

  • 消極的側面:受動的な権利で、誰かに侵害されたときに損害賠償などをすることができる権利を言います。
  • 積極的側面:能動的な権利(自分の情報をコントロールする権利)で、積極的に情報公開や削除などを求める権利を言います。

幸福追求権に関する重要判例

  • デモ隊の大学生Xは、「行進隊列は4列縦隊とすること」という条件付きで許可をもらって、デモ隊を誘導していた。その後、機動隊ともみあいになって、隊列が崩れた。これを許可条件に違反すると判断して、警察官は、デモ隊を写真で撮影した。この撮影行為は、肖像権を侵害するではないかということで争いになった。これについて、最高裁は、「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有し、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し許されない」として、プライバシーの権利としての肖像権を憲法上保障される権利と認めた。(最大判昭44.12.24:京都府学連事件
  • アメリカ人Xが、日本で新規の外国人登録をしようとした。その登録の際に、提出書類に指紋押なつを拒否したため、外国人登録法違反で起訴された。これに対して、指紋押捺制度は憲法13条に違反すると主張して、争われた。最高裁は、「何人も個人の私生活上の自由の一つとしてみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有し、国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、憲法一三条の趣旨に反し許されない。」として、プライバシー権を憲法上保障される権利として認めた。(最判平7.12.15:指紋押捺拒否事件
  • Xが会社Yを解雇され、XはYを相手に、解雇は不当だと争った。Yの弁護士は、弁護士会を通じて京都市伏見区役所にXの前科・犯罪経歴の照会を行った。それに対して、区長は、前科・犯罪経歴を回答した。Xは、この区長の「前科・犯罪経歴を回答した事実」がプライバシー権侵害にならないかが争った。これに対して、最高裁は、「前科及び犯罪経歴は、人の名誉・信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する。」また、「市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。」とし、区長の照会の違法性を認めた。(最判昭56.4.14:前科照会事件)
  • 傷害致死事件の犯人Xを題材にしたノンフィクション小説「逆転」の中に実名で記された人物Xが、プライバシーの権利を侵害されたとして、慰謝料を請求し、争われた。最高裁は 「前科等に関わる事実を公表されないことは、法的保護に値する利益を有する」とし、「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、Xは、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。」とした。(最判平6.2.8:ノンフィクション「逆転」事件
  • 宗教上の理由で輸血を拒否していたエホバの証人の信者が、手術の際に無断で輸血を行った医師、病院に対して損害賠償を求め、争われた。最高裁は「患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。」とした。(最判平12.2.29:エホバの証人輸血拒否事件
  • 民法750条では、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と夫婦の姓は同じにするように規定しています。これに対して、夫婦同姓の強制(氏の変更を強制されない自由)は憲法13条の権利として保障される人格権の一内容である「氏の変更を強制されない自由」を不当に侵害しているのではないかと争われた。この点について、最高裁は、「氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば、氏が、親子関係など一定の身分関係を反映し、婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されているといえる。この氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に氏の変更を強制されない自由が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない」として、本件規定は憲法13条に違反するものではないとした。(最大判平27.12.16:夫婦別姓訴訟)

<<憲法のテキスト一覧 | 法の下の平等(憲法14条)>>

地方自治

憲法第92条
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

上記92条の条文の地方自治とは、分かりやすく言えば、日本国内を地域で区切って、その中でそれぞれが独自に行政サービスを行ったり、ルール作りをしたりするということです。

地方自治の本旨とは?

地方自治の本旨とは、住民自治と団体自治の2つを意味します。この2つに従って、地方公共団体の組織や運営について法律(地方自治法)で定める、と憲法は言っているわけです。

住民自治

住民自治とは、地方公共団体の行政は、その住民の意思に基づいて行わなければならない、ということです。

住民自治の具体例として、直接請求住民訴訟が挙げられます。

団体自治

団体自治とは、国から独立した存在として、地方公共団体自らの意思と責任で地方公共団体の事務を処理する、ということで、国からの介入を排除して住民の自由を保障しています。

また、この団体自治は、国家と地方に権力分立させ、住民の人権保障にも役立っているといえます。

団体自治の具体例として、条例制定権(94条)があります。

憲法第94条
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

地方公共団体の機関

憲法第93条
地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

上記93条2項を見ると、「地方公共団体の長は、住民が直接選挙で選ぶ」となっています。これは、大統領制であることを意味しています。

大統領制とは、国家元首ないし行政権の主体たる大統領を国民から直接的に選出する政治制度です。

地方公共団体の機関に関する重要判例

東京都の特別区について区長の公選制を廃止することが憲法上許されるかどうかが争われた。この点について、最高裁は「憲法上の地方公共団体というためには、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識を持っているという社会的基盤が存在し沿革的にみても、現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権自主行政権自主財政権等地方自治の基本的機能を付与された地域団体であることを必要とするが、東京都の特別区は、そのような実体を備えておらず、憲法上の地方公共団体に当たらない」としました。(最大判昭38.3.27:特別区長公選廃止事件)

<<財政民主主義と租税法律主義 |

財政民主主義と租税法律主義

財政民主主義

憲法第83条
国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

財政とは、国家がその任務を行うために、必要な財力を調達し、管理し、使用することです。分かりやすく言えば、国家の歳入(収入)と歳出(支出)です。

具体的に言えば、
国民から税金を徴収したり、国債を発行して国民から借金をするのが、歳入で、
公務員の人件費だったり、公共事業にお金を使ったり、社会保障にお金を使ったりするのが歳出です。

そして、国家が使用する費用は、結局は国民が負担するものなので、国家財政の運用には、民主的なコントロールが必要です。

上記の通り、財政を処理する権限は国会に与えられています。国会は私たちが投票で選んだ議員によって成り立っていることから、民主的だといえるわけです。

これを財政民主主義と言います。

歳入において、この財政民主主義が現れているのは84条の租税法律主義です。

租税法律主義

憲法第84条
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

租税法律主義とは、新たに税金を課したり、税制を変更したりする場合、国民の代表者からなる国会の法律によって決定しなければならないということです。

総理大臣が独断で、〇〇税を取り入れます!ということはできないのです。

そして、租税法律主義の内容としては、

  1. 課税要件法定主義
  2. 課税要件明確主義

課税要件法定主義

課税要件法定主義とは、分かりやすく言えば、「納税義務が成立するための要件」と「租税の賦課・徴収の手続」は法律で定めなければならないという原則です。

具体的には、納税義務が発生する要件として、「納税義務者、課税物件、課税物件の帰属、課税標準、税率」を定め、さらに、細かくどのように税金等を徴収するかを法律で決めなければならないということです。

ここで問題になるのは、法律が、下位規範である政令や省令に定めを委任する場合です。
例えば、「財務省令で定める方法により」といった場合です。

委任自体は租税法律主義に反しませんが、委任する場合には一般的・白紙的委任は許されず具体的・個別的委任でなければなりません。

また、委任の目的、内容及び程度が委任する法律の中で明確にされていなければならないと解されています。

課税要件明確主義

課税要件明確主義というのは、法律またはその委任のもとに政令や省令において課税要件及び租税の賦課・徴収手続に関する定めをなす場合に、その定めは一義的で明確でなければならないという原則を言います。
一義的とは、それ以外に意味や解釈ができないということです。法律で定めた内容が、色々な解釈ができると、課税庁の自由裁量により、色々な課税ができてしまいます。それを防ぐための原則です。

<<違憲審査権 | 地方自治>>

違憲審査権

憲法第81条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

違憲審査とは?

違憲審査とは、法律・命令・規則・処分が憲法に適合するか否かを審査することを言います。 憲法が最上位のルールとして君臨しており、国会で定める法律等は、憲法に違反することができません。そして、法律などが憲法に違反していないかどうかを審査するのが違憲審査で、裁判所の重要な仕事となっています。 そして、違憲審査については、付随的違憲審査制と抽象的違憲審査制の2つの考え方があります。

付随的違憲審査制

付随的違憲審査制とは、具体的な訴訟(事件)があって、その事件を審査する上で、必要な場合でのみ違憲審査を付随的に行う制度です。 例えば、Xが死刑判決を受けた場合において、「死刑制度はそもそも違憲だから、死刑を受けることはない」と主張して違憲審査を行うことです。死刑判決が具体的な事件です。 判例(最大判昭27.10.8:警察予備隊訴訟)でも、日本の違憲審査制は、付随的違憲審査制を採用していることを示しています。 つまり、裁判所は、具体的な訴訟と切り離して、憲法判断をすることはできないということです。

抽象的違憲審査制

具体的な訴訟(事件)がないけど、法律等が憲法違反ではないかと審査することです。 例えば、死刑制度はおかしいと思って、死刑制度について違憲審査を申し立てることです。日本では、上記の通り、付随的違憲審査制を採用していることから、上記のように、具体的な事件がないにも関わらず、死刑制度の違憲審査を行うことはできません。

違憲審査の対象

81条の条文では、「一切の法律、命令、規則又は処分」と書かれています。これには、「個別具体的な公権行為」も含まれます。 また、下記判例により、立法不作為条約についても違憲審査の対象と判示されています。

違憲審査に関する重要判例

  • 公職選挙法及び公職選挙法施行令で、「一定事由がある場合、投票所に行かずに、在宅等で投票することができる」という制度を定めていました。しかし、この制度の悪用により、法改正され、当該在宅投票制度が廃止され、その後、在宅投票制度を設けることはありませんでした。そして、歩行困難になり投票所にいくことができなくなったXが、在宅投票制度がない状態は、選挙人(投票を行う人)に対する投票を機会を保障する憲法15条等に違反するとして、在宅投票制度を廃止したままで、再度立法行為を行わなかった不作為により、精神的な損害を受けたとして、国家賠償法1条1項に基づいて国に損害賠償を求めた。 これに対して最高裁は、「国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。」とし、立法行為の不作為についても違憲審査を行っていることから、立法不作為も違憲審査の対象としています。また、今回の在宅投票制度を廃止して、その後復活しなかった不作為については、違法ではないとしました。(最判昭60.11.21:在宅投票制度廃止事件
  • 日本国外に在住する在外国民が、国政選挙において、投票できない制度について、当時の公職選挙法の違憲確認等と損害賠償請求の訴えがなされた。 これに対して最高裁は、「立法の内容又は立法不作為が国民に、憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべき」として、今回の在外選挙制度について違憲と判示した。(最大判平17.9.14:在外日本人選挙権訴訟)

違憲判決・違憲決定とした事案

違憲判決・意見決定となった事案は、これまでに9つしかないので、すべて覚えておきましょう!
  1. 最大判昭48.4.4:尊属殺重罰規定違憲判決
  2. 最大判昭50.4.30:薬事法距離制限事件
  3. 最大判昭51.4.14、最大判昭60.7.17:衆議院議員定員不均衡訴訟
  4. 最大判昭62.4.22:森林法事件
  5. 最大判平14.9.11:郵便法免責規定違憲判決
  6. 最大判平17.9.14:在外日本人選挙権訴訟
  7. 最大判平20.6.4:国籍法3条1項違憲判決
  8. 最大決平25.9.4:非嫡出子相続分差別違憲決定
  9. 最大判平27.12.16:再婚禁止期間違憲訴訟
<<裁判の公開 | 財政民主主義と租税法律主義>>

裁判の公開

憲法第82条
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞(おそれ)があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

裁判の対審および判決は、原則公開です。

対審とは、民事訴訟で、原告・被告を法廷に立ち合わせ、口頭弁論をさせて審理することです。

ただし、対審については、例外もあり、裁判官が全員一致で非公開にすることができます。

また、「政治犯罪、出版に関する犯罪又は基本的人権が問題となっている事件の対審」は必ず、必ず公開しなければなりません。

まとめると下記の通りです!

対審 原則、公開
例外として
① 政治犯罪、出版に関する犯罪又は基本的人権が問題となっている事件は、常に公開
② ①以外の事件は、裁判官が全員一致で非公開にできる
判決 常に公開

<<裁判所の組織 | 違憲審査権>>

裁判所の組織

裁判所の組織に関して憲法で規定されている部分でいうと、79条と80条です。

憲法第79条
最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
4 審査に関する事項は、法律でこれを定める。
5 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。

憲法第80条
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる[1]。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。

行政書士の試験におけるポイントを列挙します。

  • 最高裁判所長官は、内閣が指名して、天皇が任命する。
  • 最高裁判所の長官以外の裁判官内閣が任命して、天皇が認証する。
  • 最高裁判所の長官および裁判官は、任期がない任命後初めて行われる衆議院議員選挙の際の国民審査に付される
  • 最高裁判所の長官および裁判官は、定年70歳。(裁判所法50条
  • 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した名簿により、内閣が任命する。
    ただし、高等裁判所の長官については、さらに天皇が認証をする。(裁判所法40条2項
  • 下級裁判所の裁判官は、任期が10年
  • 高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所の裁判官の定年は、65歳。(裁判所法50条
  • 簡易裁判所の裁判官の定年は、70歳。(裁判所法50条

<<司法権の独立 | 裁判の公開>>

内閣と国会の関係(議院内閣制と内閣総辞職)

まず、三権分立でも勉強した通り、内閣は行政権を持っています。

そもそも内閣とは、内閣総理大臣を中心とする大臣の集まりですが、この点は「内閣の組織」のページで学習します。

行政権とは?

行政権とは、法律を執行する権限を言います。国会が法律を定めて、その法律に従って、内閣が国民のためにいろいろなサービスを行うわけです。例えば、国民年金の支給を行ったり、図書館を設置したり、高速道路を作ったりと幅広い内容を行います。

そして、通説としては、「すべての国家作用から立法(法律の立案)と司法(裁判)を除いたすべての作用(行為)」が行政権と考えられています。

議院内閣制

日本は、議院内閣制を採用している国です。国会と内閣の分離が緩やかな政治体制とも言えます。そして、議院内閣制の特徴は以下の通りです。すべて重要です。

議院内閣制の特徴

  1. 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名する(67条1項
  2. 内閣総理大臣以外の国務大臣(各大臣)の過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない(68条1項但書
  3. 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う。(66条3項
  4. 内閣総理大臣その他の国務大臣は、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。(63条後段
  5. 内閣は、衆議院の信任を必要とする(衆議院による不信任決議、内閣総辞職)(69条70条

上記5については、衆議院は内閣を辞職させることができ、一方、内閣は衆議院の解散ができることを意味しています。

衆議院の解散と内閣総辞職

衆議院の解散

解散とは、任期満了前に全衆議院議員の地位を失わせることを言います。任期満了によって議員の地位を失うことは解散とは言いません。

そして、衆議院が内閣不信任決議をした場合、内閣総理大臣が10日内に「衆議院解散」もしくは「内閣総辞職」いずれかを選ぶことができます。もし、衆議院解散を選ぶと、衆議院は解散され、衆議院議員の総選挙となります。

内閣不信任決議の詳細解説はこちら>>

内閣総辞職

内閣は、下記の3つのいずれかに該当すると、総辞職します。その場合、内閣は、新たに内閣総理大臣が任命されるまで、引き続きその職務を行うものとされています。(71条

  1. 衆議院が不信任決議案を可決し、または信任の決議案を否決した場合に、10日以内に衆議院が解散されない場合69条
  2. 内閣総理大臣が、死亡・辞職・国会議員の地位の喪失などにより欠けたとき(70条
  3. 衆議院議員総選挙の後に初めて国会(特別会)が召集されたとき(70条

<<国会議員の特権 | 内閣の組織>>

司法権の独立

司法権の独立とは、2つの意味を持ちます。

  1. 司法権が立法権や行政権から独立していること(司法府の独立
  2. 裁判官一人が独立して職権を行使すること(裁判官の独立

司法府の独立

司法府の独立は、全体としての裁判所が、国会や内閣から独立して、自主的に活動することができるということです。その為、憲法では、次のような制度が設けられています。

  1. 最高裁判所の規則制定権(77条
  2. 最高裁判所による下級裁判所裁判官の指名権(80条1項
  3. 裁判所による裁判官の懲戒(78条後段)

最高裁判所の規則制定権

憲法第77条
最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。
3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。

憲法41条で「国の唯一の立法機関」と書いているのですが、その意味は2つあり、「国会中心立法の原則」と「国会単独立法の原則」です。

今回、最高裁判所が、単独で、裁判所の規則を制定する権利を持つため、国会中心立法の原則の例外にあたります。

最高裁判所による下級裁判所裁判官の指名権

憲法第80条1項
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。

下級裁判所とは、最高裁判所以外を指すので、高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所のことです。そして、これらの裁判官は最終的には内閣が任命するのですが、最高裁判所が指名した名簿から任命させるわけなので、最高裁判所の意思が強く反映されるわけです。そのため、裁判所の自主性を確保していると言えます。

裁判所による裁判官の懲戒

憲法第78条
裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。

78条は、裁判官の身分保障の規定です。裁判官の懲戒処分は行政機関ができないのですが、これができるとすると、裁判官は、行政に有利な判断をしてしまい、独立性を失ってしまいます。そのため、裁判官の懲戒処分(免職、停職、降任、減給、戒告)は、原則、弾劾裁判といった形で行います。

裁判官の独立

裁判官の職権行使の独立

憲法第76条
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

「良心」とは、客観的な裁判官としての良心を指します。裁判官として考えたときに何が正しいかで判断し、その基準は、憲法と法律です。

裁判官の身分保障

裁判官の罷免事由の限定

裁判官は上記78条および79条の場合でない限り、罷免されることはありません。

憲法第78条
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。

下記の場合に罷免されます。

  1. 心身故障のために職務執行不能の裁判を受けた場合(78条)
  2. 弾劾裁判所による罷免(78条)
  3. 国民審査による最高裁判所裁判官の罷免(79条2項3項)

3の国民審査による罷免は、最高裁の裁判官のみ適用され、下級裁判所の裁判官は適用されません。

そして、国民審査は、解職制度(リコール制度)であり、任期満了前に国民または住民の意思によって罷免する制度を言います。

行政機関による懲戒処分の禁止

上記「裁判所による裁判官の懲戒」でも解説した通り、裁判官の懲戒処分は行政機関が行うことができません。

報酬の減額禁止

憲法第79条
6 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

憲法第80条
2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

最高裁判所・下級裁判所関係なく、いずれの裁判官も、すべて定期に相当額の報酬が保障され、在任中に減額されることはありません。

一方、国会議員の歳費(給与)については、減額される可能性はあります。

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