テキスト

株式会社の概要

現代社会において、会社というと、多くが株式会社です。

そして、会社法においても、この株式会社に関する規定が非常に多いので、まず、株式会社がどういった会社なのかを理解することは非常に重要になります。

この株式会社を理解する上で、重要となってくる用語が「株主」と「株式」です。
また、「資本金」についても、簡単に解説します。

株主と株式

株主とは、分かりやすく言えば、株式会社のオーナーの集まりです。

株式会社が事業を始めるには、事業資金が必要です。その事業資金を提供しているのが株主です。

そして、上記事業資金を調達するために、株式会社は、株式を発行します。

例えば、1株1万円の株式を1000株発行した場合、この株式会社は

1万円×1000株=1000万円

を資金調達できるということです。

そして、この株式を持っている人が株主となるわけです。

株主の間接有限責任

間接有限責任とは、出資者(株主)は出資額を限度として責任を負う、ということです。

言い換えると、株主は会社に対して出資をしたら、そのお金は、無くなる可能性はありますが、それ以外に株主会社の債権者から直接責任の追及をされることはない、ということです。

分かりやすく言えば、出資したお金で責任をとるだけで、それ以上に責任は取らなくてもよいということです。

例えば、株主Aが株主会社Xに対して、10万円を出資した。

株式会社Xが、B銀行から100億円を借り、事業を運営していたが、事業が行き詰まり、破産してしまった。この場合、債権者であるB銀行は、株主Aに対して、損害賠償請求や貸金返還請求はできません。

もちろん、株主Aの出資した10万円は返ってこないでしょう。

つまり、一番上で説明した通り、「出資者(株主)は出資額を限度として責任を負った」ということです。

資本金

資本金とは、株式会社の設立時点において会社が所有している運転資金です。

上記事例でいうと、1株1万円の株式を1000株発行して、1000株すべてを引き受けてもらって、株主(引受人)が払い込みをしたら、会社としては、1000万円集まるわけです。

この1000万円が資本金です。

始めはこのくらいの理解で十分です!

これから行政書士の試験に対応するために、どんどん深い内容に入っていきます!

<<場屋営業 | 株式会社の設立(定款の内容等)>>

株式会社の設立(定款の内容等)

株式会社の設立については、非常に細かいです。そのため、全体像を理解した上で、あとで、細かい部分を押さえていく方が効率的です。

今回は、株式会社の設立についての用語の解説をしていきます。

具体的な設立の手続きについては、次回解説します。

株式会社の成立要件

会社の設立というのは、会社を成立させることです。

会社を成立させるには、下記4つが必要となります。

  1. 定款(会社のルール)
  2. 社員(株主)
  3. 資金の出資(会社の事業資金)
  4. 会社の機関(取締役などの会社を運営する上で必要な機関)

定款とは?

定款とは、会社のルールです。

「定款を作成する」とは、この定款(ルール)の内容を決めて、書面または電磁的記録(データ)にすることを意味します。

そして、株式会社の場合、定款は公証人の認証を受けなければ効力を生じません30条)。

公証人とは?

公正証書を作成したり、定款の認証を行ったりする人ですが、

裁判官、検察官、弁護士あるいは法務局長や司法書士など長年法律関係の仕事をしていた人の中から法務大臣の任命を受けた者です。

公証役場というところで、働いているのですが、ネットで調べると、あなたの住んでいる町にも公証役場はあると思います。

定款の内容

定款には、

  1. 絶対に記載(規定)しなければならない内容=「絶対的記載事項
  2. 定めなくても定款が有効だが、定款に定めておかないと、その内容の効力が認められない内容=「相対的記載事項(変態設立事項ともいう)」
  3. 定款で定める必要はなく、定款外で定めても有効な事項だが、定款に定めることによって変更する際に、定款変更の手続きのルールが適用され、変更しづらくなる内容=「任意的記載事項

絶対的記載事項

定款には下記6つを必ず記載しなければなりません。

  1. 会社の目的(どんな事業を行うか?)
    →例えば、不動産管理業、不動産仲介業、不動産の売買
  2. 商号
  3. 本店の所在地
  4. 設立に際して出資される財産の価額または最低額
  5. 発起人の氏名・名称および住所
  6. 発行可能株式総数

設立に際して出資される財産の価額又はその最低額

出資される財産の価額とは、発起人が出資する価額が決まっている場合、その価額の合計額がこれに当たります。例えば、発起人(のちの株主)が3人いて、1人あたり500万円を出資する場合、「設立に際して出資される財産の価額」は1500万円となります。

※出資できるのは、「お金」に限りません。「価値のある物(例えば、パソコンとか)」も出資できます。このように物を出資することを現物出資と言います。

出資される財産の最低額とは、発起人が決まっていても、出資する金額が決まっていない場合に、事業を運営するために必要な財産の最低額を指します。事業を開始して、1か月で倒産しました、とならないために、最低額を決めておきます。

もし、この最低額を下回った場合設立無効となります。

発起人とは?

発起人とは、株式会社を設立する人です。場合によっては複数の人が発起人として設立することもあります。

また、法人が発起人になることも可能です。

そして、発起人少なくとも1株以上の株式を引き受けなければなりません(25条2項)。

発行可能株式総数

会社が発行することができる株式の総数が発行可能株式総数です。

そして、定款認証の際に、発行可能株式総数が決まっていなくても大丈夫ですが、

設立登記の時までに、発起人全員の同意によって定款変更して定める必要があります。

相対的記載事項(変態設立事項)

下記内容は定めなくても定款が有効だが、定款に定めておかないと、その内容の効力認められません。

  1. 現物出資
  2. 財産引受
  3. 発起人の報酬等
  4. 設立費用

現物出資

現物出資とは、金銭以外の財産による出資です。パソコンや机などの動産や、土地や建物などの不動産なども含みます。

金銭(お金)については、その金額が価額となるので分かりやすいですが、パソコンや机、土地・建物などの現物は、その価額が分かりづらいです。

そして、価額に応じて株式を与えるため、例えばパソコンを100万円として株式を与えたりしたら、不公平です。そのため、誰が何を出資して、価額はいくらとして、株式をどれだけ与えたかを定款に記載しておくわけです。

もし記載がない時は現物出資は無効となります。

財産引受

例えば、発起人A・B・Cが株式会社甲を設立しようと考えており、会社が設立したら、第三者Xから、X所有の建物を譲り受ける契約(甲X間の売買契約)をしたとします。

これを財産引受と言います。

もし、X所有の建物が500万円の価値しかないにも関わらず、2000万円で株式会社甲が購入する契約をした場合、株式会社甲は、設立後、1500万円の損失を被り、開業直後に経営危機になることもあり得ます。

そのため、財産引受については、財産とその価格、譲渡人の氏名を定款に記載しなければ、無効となります。

発起人の報酬等

発起人の報酬等とは、会社を設立させたことに対する報酬です。不当に高額報酬を定めると、会社の財産が不当に流出する危険性があるため、定款に記載しないと無効になります。

設立費用

設立費用とは、会社が負担する設立中に支出する費用です。例えば、事務所の賃料や株式申込書の印刷費用等です。

ただし、定款認証費用といった、会社に損害を与える可能性がないものは除きます。

これらを記載しないと、会社に対して、設立費用を過大に請求されて、会社の財産が不当に流出する危険性があるため、定款に記載しないと無効になります。

任意的記載事項

任意記載事項は、定款で定める必要はなく、定めなくても、定款自体無効とはなりません。

そして、定款外で定めても有効な事項だが、定款に定めることによって変更する際に、定款変更の手続きのルールが適用され、変更しづらくなります。

例えば、「取締役の員数」を定めた場合です。

もし、取締役の員数について定款で定めていない場合、この員数を変更する場合、株主総会の普通決議で行いますが、定款に定めれば、特別決議となり、変更が難しくなるということです。

<<株式会社の概要 | 発起設立の手続きの流れ>>

運送人

商法第569条(運送人)
運送人とは陸上又は湖川、港湾において物品又は旅客の運送をなすを業とする者をいう。

運送人とは、物品運送旅客運送に分かれます。

物品運送は、ヤマトや佐川急便など

旅客運送は、JRや私鉄、バス会社等をイメージすると分かりやすいです。

運送状と貨物引換証

商法第570条
荷送人は運送人の請求により運送状を交付することを要す
2 運送状には下記事項を記載し、荷送人はこれに署名することを要す
一 運送品ノ種類、重量又ハ容積及ヒ其荷造ノ種類、個数並ニ記号
二 到達地
三 荷受人の氏名又は商号
四 運送状の作成地及の作成の年月日

570条を分かりやすくいうと、
荷送人とは「荷物の発送を依頼する人(発送元)」です。

荷送人は、運送人(ヤマト等)から請求されて、上記2項の運送状(宛先などを記載したもの)を、運送人に交付しなければなりません。

これがないと、どこの誰に運んでいいか分からないです。

商法第571条
運送人は荷送人に、請求により貨物引換証を交付することを要す
2 貨物引換証には下記事項を記載し運送人はこれに署名することを要す
一 前条第2項第1号~第3号の事項
二 荷送人の氏名又は商号
三 運送賃
四 貨物引換証の作成地及び作成の年月日

571条を分かり言えば、運送人は、荷送人から荷物を預かった時に、荷送人から請求があれば「貨物引換証」を交付しなければなりません。

これは、運送人が運送物を受領したことを証明するものです。

運送賃請求権

商法第576条(運送品滅失と運送賃)
運送品の全部又は一部が不可抗力に因りて滅失したるときは、運送人は、其運送賃を請求することを得ず。若し運送人が既に其運送賃の全部又は一部を受取りたるときは之を返還することを要す。
2 運送品の全部又は一部が其性質、若くは瑕疵又は荷送人の過失に因りて滅失したるときは、運送人は運送賃の全額を請求することを得。

576条を分かりやすく言えば、荷物が不可抗力(例えば、津波等)によって無くなった場合、運送人は運送賃を、荷送人(依頼者)に請求できない、ということです。

また、事前に運送人が運送賃を受領している場合は、荷送人に返還しないといけません。

2項を分かりやすく言えば、例えば、液体の運送品で口が閉まっていなくてすべて漏れてしまった場合、荷送人の過失(落ち度)によって運送品がなくなっているので、荷送人が悪いです。そのため、運送人は運送賃の全額を請求できます。

運送人の損害賠償責任

商法第577条
運送人は、自己若くは運送取扱人又は其使用人其他運送の為め使用したる者が運送品の受取、引渡、保管及び運送に関し注意を怠らざりしことを証明するに非ざれば、運送品の滅失、毀損又は延著に付き損害賠償の責を免るることを得ず。

577条を分かりやすく言えば、運送品が無くなったり、壊れたりしたときには、運送人が、運送品を受取るとき、引き渡すとき、保管するとき、運送するときにおいて注意を怠っていないことを証明できなければ、その損害賠償責任を負うとしています。

つまり、運送人がきちんと注意していたことを証明できれば、損害賠償責任を免れるということです。

<<仲立人、問屋、代理商の違い | 場屋営業>>

場屋営業

場屋営業(じょうおくえいぎょう)とは、お客様が集まる設備を設けて、そのお客様にその設備を利用させることを目的とする営業をいいます。例えば、旅館、飲食店、銭湯などです。

寄託を受けた物品に関する責任

寄託とは、「預ける」という意味です。

場屋営業者は、お客様から預かったモノ(寄託を受けた物品)を滅失(無くしたり)または毀損させた(壊した)場合、不可抗力が原因であることを証明できない限り損害賠償責任を負います。(594条1項

分かりやすく言えば、

場屋営業者は、注意していたことを証明できたとしても、不可抗力が原因でない場合は、損害賠償責任を負います。

また、場屋営業者が不可抗力が原因であることを証明できれば、損害賠償責任を免れます

寄託を受けていない物品に関する責任

場屋営業者は、お客様から預かっていないモノであっても、お客様が場屋内(施設内)に携帯したモノが、場屋営業者またはその使用人の不注意によって滅失または毀損したときは、場屋営業者は損害賠償責任を負います。

分かりやすく言えば、

お客様から預かっていない場合でも、場屋営業者または従業員の不注意で、そのモノが壊れたり、なくなったりした場合、場屋営業者は責任を負わなければならない、ということです。

逆を言えば、注意をしていれば、場屋営業者は責任を負いません

<<運送人 | 株式会社の概要>>

仲立人、問屋、代理商の違い

仲立人、問屋、代理商の違い

先に、仲立人、問屋、代理商の違いの表を示して、あとで細かく解説していきます。

仲立人 代理商 問屋
営業の種類 媒介 媒介・代理 取次
契約相手(依頼者) 不特定 特定 不特定
権利義務の帰属 帰属しない 帰属しない 帰属する

仲立人

商法第543条(仲立人)
仲立人とは他人間の商行為の媒介を為すを業とする者をいう。

  • 仲立人は、媒介(仲介)するだけで、当事者となって契約することはしません。
    分かりやすく言えば、Aさんがモノを買うために、仲立人が媒介を行った場合、代金を支払う義務はAさんにあり、仲立人は支払い義務を負わないということです。
    つまり、権利義務の主体はAさんにあり、仲立人は権利義務の主体ではないということです。
  • 仲立人は、不特定多数の商人と媒介契約をすることができます。

仲立人の具体例

  • 顧客とホテルや旅館の仲を取り持つ旅行業者
  • 顧客と不動産オーナーとの仲を取り持つ不動産仲介業者

代理商

代理商とは、特定の商人のために,継続的にその営業の部類に属する取引の「代理または媒介」をなすことを業とする者を言います。

  • 代理商は、取引の代理を業とする締約代理商と、媒介を業とする媒介代理商とがある。代理商は、媒介または代理をするだけなので、権利義務の主体にはなりません。分かりやすく言えば、Aさんがモノを買うために、代理商が媒介や代理を行った場合、代金を支払う義務はAさんにあり、代理商は支払い義務を負わないということです。
  • 代理商は特定の商人と代理商契約(媒介もしくは代理)を締結する。

代理商の具体例

  • 保険代理店

仲立人と代理商の違い

仲立人は、不特定多数の商人等のために活動する者で

代理商は、特定の商人のために活動する者です。

問屋(といや)

商法第551条(問屋)
問屋とは自己の名をもって他人のために物品の販売又は買入を為すを業とする者をいう

  • 問屋は、他人のために、自分が売主・買主となって取引を行います。そのため、例えば、Aのために問屋がモノを買った場合、支払い義務は問屋が負います。つまり、権利義務の主体は問屋になるということです。
  • 問屋は、不特定多数の者のために取引を行える。

問屋の具体例

  • 証券会社(顧客の依頼で、証券市場で株式の売買をする)

問屋(とんや)と問屋(といや)の違い

問屋の読み方は「といや」です。

一般的に知られている「問屋:とんや」とは、違います。一般的な「とんや」は、卸売業を行っている者を言います。例えば、おもちゃ問屋とかです。これらの「とんや」は「といや」ではありません。

法律的にみれば,自己の名で売買をするのは共通しますが、取引の損益が誰に帰属するかが異なります。

「とんや」の場合、とんやAが、商品をBから100円で仕入れて、それをCに120円で売ったとすると、問屋は20円の利益を得ます。これは、他人のために物品を売っているわけではありません。自分のために売ったり買ったりしています。

一方、「といや」の場合、といやD(証券会社)が、委託者Eから、120円で売るよう頼まれて、といやD(証券会社)名義で、それをFに売ります。この場合、といやD(証券会社)は、委託者Eから手数料をもらいます。言い換えると、問屋(といや)取次を行っています。

<<匿名組合 | 運送人>>

商事売買と民事売買の違い

商事売買とは、商人間の売買をいい、商法に特則が設けられています。そのため、一部民法と異なる部分があるので、その点を解説していきます。

民事売買 商事売買
適用範囲 商人以外―商人以外
商人―商人以外
商人―商人
供託と競売 原則:供託
例外:競売
供託にするか競売にするか売主が選択
競売の際の裁判所の許可 必要 不要
定期売買における解除の方法 催告は不要
解除の意思表示は必要
催告も解除の意思表示も不要
買主の検査・通知義務 なし あり
買主の目的物供託義務 なし あり

供託と競売

民法では、1.債権者の弁済受領拒絶、2.債権者の受領不能、3.債権者不確知の場合に供託することができると規定されています。それに対して

商法では、1.債権者の弁済受領拒絶、2.債権者の受領不能の場合、供託するか、もしくは相当期間を定めて催告した上で競売にかけることができると規定しています。

そして、目的物が「生の食料品」等のように損傷などにより価格の低下のおそれがあるものの場合は、催告せずに競売にかけることができます。

商法第524条(売主による目的物の供託及び競売)
商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、その物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができる。この場合において、売主がその物を供託し、又は競売に付したときは、遅滞なく、買主に対してその旨の通知を発しなければならない。
2 損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、前項の催告をしないで競売に付することができる。
3 前二項の規定により売買の目的物を競売に付したときは、売主は、その代価を供託しなければならない。ただし、その代価の全部又は一部を代金に充当することを妨げない。

改正民法第494条(供託)
弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。
一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
二 債権者が弁済を受領することができないとき。
2 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。

競売の際の裁判所の許可

民法については、裁判所の許可を得た上で競売にかけることができます。一方、

商法については、上記524条の通り、裁判所の許可なく競売にかけることができます

改正民法第497条(供託に適しない物等)
弁済者は、次に掲げる場合には、裁判所の許可を得て、弁済の目的物を競売に付し、その代金を供託することができる。
一 その物が供託に適しないとき。
二 その物について滅失、損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき。
三 その物の保存について過分の費用を要するとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、その物を供託することが困難な事情があるとき。

定期売買における解除の方法

民法では、解除する場合、解除の意思表示が必要です。

そして、定期売買の場合において、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合、催告なく解除できます。

例えば、成人式のために着物をレンタルし、成人式当日に着物を仕入れることができずレンタルすることができなかった場合、催告なく解除できます。一方、

商法では、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合、催告も解除の意思表示もなく、解除となります。

ただし、債権者が履行請求した場合は、解除させずに、契約を存続させます。

商法第525条(定期売買の履行遅滞による解除)
商人間の売買において、売買の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなす。

改正民法第540条(解除権の行使)
契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2 前項の意思表示は、撤回することができない。

改正民法第542条(定期行為の履行遅滞による解除権)
契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。

買主の検査・通知義務

買主が、売買の目的物を受領したら、

原則、遅滞なく検査し、瑕疵を発見したら、直ちに売主に通知しなければなりません。
この通知をすれば、売主に責任追及ができます。

例外として、直ちに発見できない瑕疵は、6か月以内に瑕疵を発見して通知すれば、責任追及できます。

そして、検査や通知をしない場合、契約解除や代金減額請求、損害賠償請求はできなくなります。

このルールは、民法にはありません。

商法第526条(買主による目的物の検査及び通知)
商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。

買主の目的物供託義務

上記のように、買主が、売買の目的物を受領し、目的物に瑕疵があり、その旨を通知して解除をしたとき、目的物自体、買主のもとにあります。

この場合、買主は「瑕疵ある目的物」を保管もしくは供託しなければなりません

保管する際の費用は、売主負担です。

また、目的物が、生の食品のように損傷の恐れがあるときは、①裁判所の許可を得て、競売にかけて、代金を保管するか、もしくは②供託しなければなりません。

ただし、売主及び買主の営業所が同一の市町村の区域内にある場合は、買主に保管義務はないので、買主のもとにあることで、目的物が損傷しても、買主は責任を負いません。つまり、売主は早く取りに行きなさい!ということです。

商法第527条(買主による目的物の保管及び供託)
前条第1項に規定する場合においては、買主は、契約の解除をしたときであっても、売主の費用をもって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならない。ただし、その物について滅失又は損傷のおそれがあるときは、裁判所の許可を得てその物を競売に付し、かつ、その代価を保管し、又は供託しなければならない。
2 前項ただし書の許可に係る事件は、同項の売買の目的物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
3 第1項の規定により買主が売買の目的物を競売に付したときは、遅滞なく、売主に対してその旨の通知を発しなければならない。
4 前三項の規定は、売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にある場合には、適用しない。

商法第528条
前条の規定は、売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合における当該売主から買主に引き渡した物品及び売主から買主に引き渡した物品の数量が注文した数量を超過した場合における当該超過した部分の数量の物品について準用する。

<<商人間の留置権 | 匿名組合>>

商人間の留置権(牽連性:けんれんせい)

商法第521条(商人間の留置権)
商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券を留置することができる。ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない。

ここでのポイントは3つです。

  1. 被担保債権は、商行為の取引によって生じた債権である
  2. 商行為により留置した留置物は、債務者所有である
  3. 「1の被担保債権」と「2の留置物」は同じ取引のものでなくてもよい

例えば、中古車の販売店Aが、車の修理業者BにA所有の車の修理を依頼した。その後、Bは車の修理を完了させて、Aに修理した車を引き渡した。しかし、修理代金を受け取っていない。つまり、修理業者Bは、Aに対して修理代金債権を有している(1を満たす)。

その後、中古車販売店Aが、BにA所有の別の車の修理を依頼して、Bに車を引き渡した。この場合、AB間の修理に関する契約は、商行為であり、Bが留置している車は、債務者A所有です(2を満たす)。

上記「Bの修理代金債権」と「現在Bが留置している車」は同じ取引ではありません。

これを「被担保債権と留置物との間に牽連性はない」と言います。分かりやすく言えば、関連性がないということです。これは上記ポイント3より、牽連性がなくても1、2を満たしていれば、留置権は成立します。

したがって、上記の場合、修理業者Bは、Aの車を留置することが可能です。

<<商法における流質契約 | 商事売買と民事売買の違い>>

商事債権の法定利息と消滅時効

商法における法定利息

商法第513条(利息請求権)
商人間において金銭の消費貸借をしたときは、貸主は、法定利息を請求することができる。
商人がその営業の範囲内において他人のために金銭の立替えをしたときは、その立替えの日以後の法定利息を請求することができる。

商人と商人がお金の貸し借りをした場合、特約がなかったとしても、貸主は当然に法定利息改正民法の3%適用)を請求できます。

個人と商人がお金の貸し借りをした場合は、民法が適用されます。つまり、特約がなければ無利息となります。

※2020年(令和2年)3月31日までは、商法第514条で、法定利息は年6分(6%)とされていたが、2020年4月1年以降は、上記の通り改正民法の3分(3%)が適用されます。

商法における債権の消滅時効

2020年3月31日までは、商法第522条で、商行為によって生じた債権の消滅時効は、原則、5年とされていました。しかし、民法改正に伴い、商法第522条が廃止され、改正民法166条が適用されます。

改正民法166条 債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。

  1. 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
  2. 権利を行使できるときから10年間行使しないとき。

利息制限法の制限を超える利息の消滅時効

判例では、利息制限法の制限を超える利息等の不当利息返還請求権は、商行為性が否定され、消滅時効期間は10年としています(最判昭55.1.24)。

<<商人の報酬請求権 | 商法における流質契約>>

商法における流質契約

商法第515条(契約による質物の処分の禁止の適用除外)
民法第349条 の規定は、商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権については、適用しない。

民法第349条(契約による質物の処分の禁止)
質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。

流質契約とは?

流質は「りゅうしち」と読みます。

例えば、債務者Aが、債権者Bから10万円を借り、債務者Aは、債権者Bのために自己所有の時計に質権を設定しました。(債権者B=質権者、債務者A=質権設定者)

これによって時計は、債権者Bが占有することになります。

そして、弁済期前にAB間の契約で、「弁済期にAが返済できなかった場合は、直ちに時計の所有権は債権者Bに移転する」というような契約があった場合、弁済期を経過した時点で、時計の所有権は、債権者Bに移転することになります。

この契約を流質契約と言います。

商法では流質契約も有効

民法では、上記349条の通り、流質契約は禁止されています。

一方、商法では、民法349条の規定は適用されないので、流質契約も有効となります。

<<商人間の留置権 |