憲法の無料テキスト

居住・移転の自由、海外渡航の自由、国籍離脱の自由(憲法22条)

憲法第22条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

居住・移転の自由

居住・移転の自由とは、自己の住所または居所を自由に決定し、移動することができる自由を言います。また、国内旅行の自由も含まれます。

海外渡航の自由

海外渡航の自由は、「一時的な外国旅行の自由」と「外国に住所を移す海外移住の自由」を指し、22条2項で保障されています。

国籍離脱の自由

国籍離脱の自由について、日本国籍を失って無国籍になる自由までは含まれないと解されています。そのため、日本国籍を離脱する場合には、どこかの国の国籍を取得していなければなりません。

<<学問の自由(憲法23条) | 職業選択の自由(憲法22条)>>

幸福追求権(憲法13条)プライバシー権など

憲法第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法13条(幸福追求権)は、上記の通り、非常に抽象的で分かりにくい内容です。

しかし、このように抽象的な内容であるがゆえに、社会・経済の変動によって生じた様々問題に対して法的に対応することが可能であるのも事実です。

その結果、憲法13条(幸福追求権)は、憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる一般的かつ包括的な権利であり、この幸福追求権によって基礎づけられている個々の権利は裁判上の救済を受けることができる具体的権利(憲法上保障される権利)であると解されています。

幸福追求権の内容

幸福追求権については、憲法13条後段において「生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利」として保障しています。
つまり、具体的に、憲法で保障されているということです。
その具体的な権利の内容については、2つの考え方(一般的行為自由説人格的利益説)があります。

  • 一般的行為自由説あらゆる生活領域に関する行為の自由を保障するという考え方
  • 人格的利益説:個人の人格的生存に不可欠な行為の自由を保障するという考え方(通説)

幸福追求権から導きだされる具体的な人権

幸福追求権から導き出される具体的な権利は、プライバシーの権利、環境権、日照権等色々ありますが、最高裁の判例で、「プライバシーの権利としての肖像権」については、憲法上保障される権利としています(最大判昭44.12.24:京都府学連事件)。

この幸福追求権については、判例を押さえることが行政書士に合格するために重要となってきますので、判例を勉強してきましょう!

プライバシー権の2つの側面

プライバシー権利は、「消極的な権利としての側面」と「積極的な権利としての側面」2つの側面を持っています。

  • 消極的側面:受動的な権利で、誰かに侵害されたときに損害賠償などをすることができる権利を言います。
  • 積極的側面:能動的な権利(自分の情報をコントロールする権利)で、積極的に情報公開や削除などを求める権利を言います。

幸福追求権に関する重要判例

  • デモ隊の大学生Xは、「行進隊列は4列縦隊とすること」という条件付きで許可をもらって、デモ隊を誘導していた。その後、機動隊ともみあいになって、隊列が崩れた。これを許可条件に違反すると判断して、警察官は、デモ隊を写真で撮影した。この撮影行為は、肖像権を侵害するではないかということで争いになった。これについて、最高裁は、「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有し、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し許されない」として、プライバシーの権利としての肖像権を憲法上保障される権利と認めた。(最大判昭44.12.24:京都府学連事件
  • アメリカ人Xが、日本で新規の外国人登録をしようとした。その登録の際に、提出書類に指紋押なつを拒否したため、外国人登録法違反で起訴された。これに対して、指紋押捺制度は憲法13条に違反すると主張して、争われた。最高裁は、「何人も個人の私生活上の自由の一つとしてみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有し、国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、憲法一三条の趣旨に反し許されない。」として、プライバシー権を憲法上保障される権利として認めた。(最判平7.12.15:指紋押捺拒否事件
  • Xが会社Yを解雇され、XはYを相手に、解雇は不当だと争った。Yの弁護士は、弁護士会を通じて京都市伏見区役所にXの前科・犯罪経歴の照会を行った。それに対して、区長は、前科・犯罪経歴を回答した。Xは、この区長の「前科・犯罪経歴を回答した事実」がプライバシー権侵害にならないかが争った。これに対して、最高裁は、「前科及び犯罪経歴は、人の名誉・信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する。」また、「市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。」とし、区長の照会の違法性を認めた。(最判昭56.4.14:前科照会事件)
  • 傷害致死事件の犯人Xを題材にしたノンフィクション小説「逆転」の中に実名で記された人物Xが、プライバシーの権利を侵害されたとして、慰謝料を請求し、争われた。最高裁は 「前科等に関わる事実を公表されないことは、法的保護に値する利益を有する」とし、「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、Xは、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。」とした。(最判平6.2.8:ノンフィクション「逆転」事件
  • 宗教上の理由で輸血を拒否していたエホバの証人の信者が、手術の際に無断で輸血を行った医師、病院に対して損害賠償を求め、争われた。最高裁は「患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。」とした。(最判平12.2.29:エホバの証人輸血拒否事件
  • 民法750条では、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と夫婦の姓は同じにするように規定しています。これに対して、夫婦同姓の強制(氏の変更を強制されない自由)は憲法13条の権利として保障される人格権の一内容である「氏の変更を強制されない自由」を不当に侵害しているのではないかと争われた。この点について、最高裁は、「氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば、氏が、親子関係など一定の身分関係を反映し、婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されているといえる。この氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に氏の変更を強制されない自由が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない」として、本件規定は憲法13条に違反するものではないとした。(最大判平27.12.16:夫婦別姓訴訟)

<<憲法のテキスト一覧 | 法の下の平等(憲法14条)>>

地方自治

憲法第92条
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

上記92条の条文の地方自治とは、分かりやすく言えば、日本国内を地域で区切って、その中でそれぞれが独自に行政サービスを行ったり、ルール作りをしたりするということです。

地方自治の本旨とは?

地方自治の本旨とは、住民自治と団体自治の2つを意味します。この2つに従って、地方公共団体の組織や運営について法律(地方自治法)で定める、と憲法は言っているわけです。

住民自治

住民自治とは、地方公共団体の行政は、その住民の意思に基づいて行わなければならない、ということです。

住民自治の具体例として、直接請求住民訴訟が挙げられます。

団体自治

団体自治とは、国から独立した存在として、地方公共団体自らの意思と責任で地方公共団体の事務を処理する、ということで、国からの介入を排除して住民の自由を保障しています。

また、この団体自治は、国家と地方に権力分立させ、住民の人権保障にも役立っているといえます。

団体自治の具体例として、条例制定権(94条)があります。

憲法第94条
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

地方公共団体の機関

憲法第93条
地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

上記93条2項を見ると、「地方公共団体の長は、住民が直接選挙で選ぶ」となっています。これは、大統領制であることを意味しています。

大統領制とは、国家元首ないし行政権の主体たる大統領を国民から直接的に選出する政治制度です。

地方公共団体の機関に関する重要判例

東京都の特別区について区長の公選制を廃止することが憲法上許されるかどうかが争われた。この点について、最高裁は「憲法上の地方公共団体というためには、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識を持っているという社会的基盤が存在し沿革的にみても、現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権自主行政権自主財政権等地方自治の基本的機能を付与された地域団体であることを必要とするが、東京都の特別区は、そのような実体を備えておらず、憲法上の地方公共団体に当たらない」としました。(最大判昭38.3.27:特別区長公選廃止事件)

<<財政民主主義と租税法律主義 |

財政民主主義と租税法律主義

財政民主主義

憲法第83条
国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

財政とは、国家がその任務を行うために、必要な財力を調達し、管理し、使用することです。分かりやすく言えば、国家の歳入(収入)と歳出(支出)です。

具体的に言えば、
国民から税金を徴収したり、国債を発行して国民から借金をするのが、歳入で、
公務員の人件費だったり、公共事業にお金を使ったり、社会保障にお金を使ったりするのが歳出です。

そして、国家が使用する費用は、結局は国民が負担するものなので、国家財政の運用には、民主的なコントロールが必要です。

上記の通り、財政を処理する権限は国会に与えられています。国会は私たちが投票で選んだ議員によって成り立っていることから、民主的だといえるわけです。

これを財政民主主義と言います。

歳入において、この財政民主主義が現れているのは84条の租税法律主義です。

租税法律主義

憲法第84条
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

租税法律主義とは、新たに税金を課したり、税制を変更したりする場合、国民の代表者からなる国会の法律によって決定しなければならないということです。

総理大臣が独断で、〇〇税を取り入れます!ということはできないのです。

そして、租税法律主義の内容としては、

  1. 課税要件法定主義
  2. 課税要件明確主義

課税要件法定主義

課税要件法定主義とは、分かりやすく言えば、「納税義務が成立するための要件」と「租税の賦課・徴収の手続」は法律で定めなければならないという原則です。

具体的には、納税義務が発生する要件として、「納税義務者、課税物件、課税物件の帰属、課税標準、税率」を定め、さらに、細かくどのように税金等を徴収するかを法律で決めなければならないということです。

ここで問題になるのは、法律が、下位規範である政令や省令に定めを委任する場合です。
例えば、「財務省令で定める方法により」といった場合です。

委任自体は租税法律主義に反しませんが、委任する場合には一般的・白紙的委任は許されず具体的・個別的委任でなければなりません。

また、委任の目的、内容及び程度が委任する法律の中で明確にされていなければならないと解されています。

課税要件明確主義

課税要件明確主義というのは、法律またはその委任のもとに政令や省令において課税要件及び租税の賦課・徴収手続に関する定めをなす場合に、その定めは一義的で明確でなければならないという原則を言います。
一義的とは、それ以外に意味や解釈ができないということです。法律で定めた内容が、色々な解釈ができると、課税庁の自由裁量により、色々な課税ができてしまいます。それを防ぐための原則です。

<<違憲審査権 | 地方自治>>

違憲審査権

憲法第81条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

違憲審査とは?

違憲審査とは、法律・命令・規則・処分が憲法に適合するか否かを審査することを言います。 憲法が最上位のルールとして君臨しており、国会で定める法律等は、憲法に違反することができません。そして、法律などが憲法に違反していないかどうかを審査するのが違憲審査で、裁判所の重要な仕事となっています。 そして、違憲審査については、付随的違憲審査制と抽象的違憲審査制の2つの考え方があります。

付随的違憲審査制

付随的違憲審査制とは、具体的な訴訟(事件)があって、その事件を審査する上で、必要な場合でのみ違憲審査を付随的に行う制度です。 例えば、Xが死刑判決を受けた場合において、「死刑制度はそもそも違憲だから、死刑を受けることはない」と主張して違憲審査を行うことです。死刑判決が具体的な事件です。 判例(最大判昭27.10.8:警察予備隊訴訟)でも、日本の違憲審査制は、付随的違憲審査制を採用していることを示しています。 つまり、裁判所は、具体的な訴訟と切り離して、憲法判断をすることはできないということです。

抽象的違憲審査制

具体的な訴訟(事件)がないけど、法律等が憲法違反ではないかと審査することです。 例えば、死刑制度はおかしいと思って、死刑制度について違憲審査を申し立てることです。日本では、上記の通り、付随的違憲審査制を採用していることから、上記のように、具体的な事件がないにも関わらず、死刑制度の違憲審査を行うことはできません。

違憲審査の対象

81条の条文では、「一切の法律、命令、規則又は処分」と書かれています。これには、「個別具体的な公権行為」も含まれます。 また、下記判例により、立法不作為条約についても違憲審査の対象と判示されています。

違憲審査に関する重要判例

  • 公職選挙法及び公職選挙法施行令で、「一定事由がある場合、投票所に行かずに、在宅等で投票することができる」という制度を定めていました。しかし、この制度の悪用により、法改正され、当該在宅投票制度が廃止され、その後、在宅投票制度を設けることはありませんでした。そして、歩行困難になり投票所にいくことができなくなったXが、在宅投票制度がない状態は、選挙人(投票を行う人)に対する投票を機会を保障する憲法15条等に違反するとして、在宅投票制度を廃止したままで、再度立法行為を行わなかった不作為により、精神的な損害を受けたとして、国家賠償法1条1項に基づいて国に損害賠償を求めた。 これに対して最高裁は、「国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。」とし、立法行為の不作為についても違憲審査を行っていることから、立法不作為も違憲審査の対象としています。また、今回の在宅投票制度を廃止して、その後復活しなかった不作為については、違法ではないとしました。(最判昭60.11.21:在宅投票制度廃止事件
  • 日本国外に在住する在外国民が、国政選挙において、投票できない制度について、当時の公職選挙法の違憲確認等と損害賠償請求の訴えがなされた。 これに対して最高裁は、「立法の内容又は立法不作為が国民に、憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべき」として、今回の在外選挙制度について違憲と判示した。(最大判平17.9.14:在外日本人選挙権訴訟)

違憲判決・違憲決定とした事案

違憲判決・意見決定となった事案は、これまでに9つしかないので、すべて覚えておきましょう!
  1. 最大判昭48.4.4:尊属殺重罰規定違憲判決
  2. 最大判昭50.4.30:薬事法距離制限事件
  3. 最大判昭51.4.14、最大判昭60.7.17:衆議院議員定員不均衡訴訟
  4. 最大判昭62.4.22:森林法事件
  5. 最大判平14.9.11:郵便法免責規定違憲判決
  6. 最大判平17.9.14:在外日本人選挙権訴訟
  7. 最大判平20.6.4:国籍法3条1項違憲判決
  8. 最大決平25.9.4:非嫡出子相続分差別違憲決定
  9. 最大判平27.12.16:再婚禁止期間違憲訴訟
<<裁判の公開 | 財政民主主義と租税法律主義>>

裁判の公開

憲法第82条
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞(おそれ)があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

裁判の対審および判決は、原則公開です。

対審とは、民事訴訟で、原告・被告を法廷に立ち合わせ、口頭弁論をさせて審理することです。

ただし、対審については、例外もあり、裁判官が全員一致で非公開にすることができます。

また、「政治犯罪、出版に関する犯罪又は基本的人権が問題となっている事件の対審」は必ず、必ず公開しなければなりません。

まとめると下記の通りです!

対審 原則、公開
例外として
① 政治犯罪、出版に関する犯罪又は基本的人権が問題となっている事件は、常に公開
② ①以外の事件は、裁判官が全員一致で非公開にできる
判決 常に公開

<<裁判所の組織 | 違憲審査権>>

裁判所の組織

裁判所の組織に関して憲法で規定されている部分でいうと、79条と80条です。

憲法第79条
最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
4 審査に関する事項は、法律でこれを定める。
5 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。

憲法第80条
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる[1]。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。

行政書士の試験におけるポイントを列挙します。

  • 最高裁判所長官は、内閣が指名して、天皇が任命する。
  • 最高裁判所の長官以外の裁判官内閣が任命して、天皇が認証する。
  • 最高裁判所の長官および裁判官は、任期がない任命後初めて行われる衆議院議員選挙の際の国民審査に付される
  • 最高裁判所の長官および裁判官は、定年70歳。(裁判所法50条
  • 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した名簿により、内閣が任命する。
    ただし、高等裁判所の長官については、さらに天皇が認証をする。(裁判所法40条2項
  • 下級裁判所の裁判官は、任期が10年
  • 高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所の裁判官の定年は、65歳。(裁判所法50条
  • 簡易裁判所の裁判官の定年は、70歳。(裁判所法50条

<<司法権の独立 | 裁判の公開>>

内閣と国会の関係(議院内閣制と内閣総辞職)

まず、三権分立でも勉強した通り、内閣は行政権を持っています。

そもそも内閣とは、内閣総理大臣を中心とする大臣の集まりですが、この点は「内閣の組織」のページで学習します。

行政権とは?

行政権とは、法律を執行する権限を言います。国会が法律を定めて、その法律に従って、内閣が国民のためにいろいろなサービスを行うわけです。例えば、国民年金の支給を行ったり、図書館を設置したり、高速道路を作ったりと幅広い内容を行います。

そして、通説としては、「すべての国家作用から立法(法律の立案)と司法(裁判)を除いたすべての作用(行為)」が行政権と考えられています。

議院内閣制

日本は、議院内閣制を採用している国です。国会と内閣の分離が緩やかな政治体制とも言えます。そして、議院内閣制の特徴は以下の通りです。すべて重要です。

議院内閣制の特徴

  1. 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名する(67条1項
  2. 内閣総理大臣以外の国務大臣(各大臣)の過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない(68条1項但書
  3. 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う。(66条3項
  4. 内閣総理大臣その他の国務大臣は、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。(63条後段
  5. 内閣は、衆議院の信任を必要とする(衆議院による不信任決議、内閣総辞職)(69条70条

上記5については、衆議院は内閣を辞職させることができ、一方、内閣は衆議院の解散ができることを意味しています。

衆議院の解散と内閣総辞職

衆議院の解散

解散とは、任期満了前に全衆議院議員の地位を失わせることを言います。任期満了によって議員の地位を失うことは解散とは言いません。

そして、衆議院が内閣不信任決議をした場合、内閣総理大臣が10日内に「衆議院解散」もしくは「内閣総辞職」いずれかを選ぶことができます。もし、衆議院解散を選ぶと、衆議院は解散され、衆議院議員の総選挙となります。

内閣不信任決議の詳細解説はこちら>>

内閣総辞職

内閣は、下記の3つのいずれかに該当すると、総辞職します。その場合、内閣は、新たに内閣総理大臣が任命されるまで、引き続きその職務を行うものとされています。(71条

  1. 衆議院が不信任決議案を可決し、または信任の決議案を否決した場合に、10日以内に衆議院が解散されない場合69条
  2. 内閣総理大臣が、死亡・辞職・国会議員の地位の喪失などにより欠けたとき(70条
  3. 衆議院議員総選挙の後に初めて国会(特別会)が召集されたとき(70条

<<国会議員の特権 | 内閣の組織>>

司法権の独立

司法権の独立とは、2つの意味を持ちます。

  1. 司法権が立法権や行政権から独立していること(司法府の独立
  2. 裁判官一人が独立して職権を行使すること(裁判官の独立

司法府の独立

司法府の独立は、全体としての裁判所が、国会や内閣から独立して、自主的に活動することができるということです。その為、憲法では、次のような制度が設けられています。

  1. 最高裁判所の規則制定権(77条
  2. 最高裁判所による下級裁判所裁判官の指名権(80条1項
  3. 裁判所による裁判官の懲戒(78条後段)

最高裁判所の規則制定権

憲法第77条
最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。
3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。

憲法41条で「国の唯一の立法機関」と書いているのですが、その意味は2つあり、「国会中心立法の原則」と「国会単独立法の原則」です。

今回、最高裁判所が、単独で、裁判所の規則を制定する権利を持つため、国会中心立法の原則の例外にあたります。

最高裁判所による下級裁判所裁判官の指名権

憲法第80条1項
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。

下級裁判所とは、最高裁判所以外を指すので、高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所のことです。そして、これらの裁判官は最終的には内閣が任命するのですが、最高裁判所が指名した名簿から任命させるわけなので、最高裁判所の意思が強く反映されるわけです。そのため、裁判所の自主性を確保していると言えます。

裁判所による裁判官の懲戒

憲法第78条
裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。

78条は、裁判官の身分保障の規定です。裁判官の懲戒処分は行政機関ができないのですが、これができるとすると、裁判官は、行政に有利な判断をしてしまい、独立性を失ってしまいます。そのため、裁判官の懲戒処分(免職、停職、降任、減給、戒告)は、原則、弾劾裁判といった形で行います。

裁判官の独立

裁判官の職権行使の独立

憲法第76条
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

「良心」とは、客観的な裁判官としての良心を指します。裁判官として考えたときに何が正しいかで判断し、その基準は、憲法と法律です。

裁判官の身分保障

裁判官の罷免事由の限定

裁判官は上記78条および79条の場合でない限り、罷免されることはありません。

憲法第78条
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。

下記の場合に罷免されます。

  1. 心身故障のために職務執行不能の裁判を受けた場合(78条)
  2. 弾劾裁判所による罷免(78条)
  3. 国民審査による最高裁判所裁判官の罷免(79条2項3項)

3の国民審査による罷免は、最高裁の裁判官のみ適用され、下級裁判所の裁判官は適用されません。

そして、国民審査は、解職制度(リコール制度)であり、任期満了前に国民または住民の意思によって罷免する制度を言います。

行政機関による懲戒処分の禁止

上記「裁判所による裁判官の懲戒」でも解説した通り、裁判官の懲戒処分は行政機関が行うことができません。

報酬の減額禁止

憲法第79条
6 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

憲法第80条
2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

最高裁判所・下級裁判所関係なく、いずれの裁判官も、すべて定期に相当額の報酬が保障され、在任中に減額されることはありません。

一方、国会議員の歳費(給与)については、減額される可能性はあります。

<<裁判所(司法権が及ぶかどうか) | 裁判所の組織>>

裁判所(司法権が及ぶかどうか)

憲法76条
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

司法権とは?

司法権とは、具体的な争訟について、法を適用し、宣言することによって争訟を裁定する国家の作用のことを言います。分かりやすく言えば、具体的な事件について、法律を使って解決する行為のことです。

具体的な争訟とは?

そして、具体的な争訟を「法律上の争訟」という言い方をしますが、「①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争」であって「②法律を適用することによって終局的な解決をすることができるもの」です。

例えば、あなたが、Aさんに100万円を貸して返してくれないため、裁判をしようとしたとします。この場合、あなたは、Aさんに対して「100万円を返してもらう権利」があります。つまり、上記①を満たします。そして、お金の貸し借りについて、民法という法律を使えば、解決できます。そのため②も満たします。したがって、これは、具体的な争訟と言えるわけです。

具体的な争訟に当たらない事例(判例)

下記判例の通り、「具体的事件性がなく抽象的な事件」「宗教の対象の価値、宗教上の教義の判断、宗教上の地位の確認」については、具体的な争訟(法律上の争訟)に当たらないとして、司法権が及びません。(却下される)

  • 自衛隊の前進である警察予備隊の設置について、当時の日本社会党の代表者Xが、警察予備隊の設置及び維持は、憲法9条に反するとして、国に対して無効確認の訴えを提起した。これに対して最高裁は、
    「わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする」として、上記でも解説した通り、裁判で審理するためには、具体的な争訟である必要があるということです。また、
    「裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。」として、将来的にそのような論争が起こり得るとしても、抽象的なことを判断する権限は裁判所にはない、としています。さらに、
    「わが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所が、かような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない。」として、裁判所が違憲立法審査権を行使するには、実際に起こった具体的な争訟事件が必要ということです。言い換えると、わが国は、「付随的違憲審査制」を採用している、と判旨しています。
    結局のところ、今回の訴えについては、具体的な争訟に当たらないとして、却下されました。(最大判昭27.10.8:警察予備隊訴訟
  • 国家試験の合格、不合格の判定は、司法審査の対象となるかについて、最高裁は「国家試験の合格・不合格の判定は、学問・技術上の知識、能力、意見等の優劣、当否の判断を内容とする行為であるから、試験実施機関の最終判断に委ねられる」として、法令を適用することによって解決することができない事案なので、裁判の対象とはなり得ないとしました。(最判昭41.2.8:技術士国家試験事件)
  • 創価学会の本尊である「板曼荼羅(いたまんだら)」を安置するために「正本堂」を建築しようと、創価学会が、会員に建築費の寄付を募りました。
    寄付をした創価学会の会員は「板まんだらは偽物だ」として、寄付金の贈与の錯誤無効を主張し不当利得の返還を請求した。
    これに対して最高裁は「本件訴訟は、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとっており、信仰の対象の価値または宗教上の教義に関する判断は、錯誤無効による不当利得の返還請求を認めるか否かの前提条件にとどまっているとされているが、実際、問題、信仰の対象の価値等に対する判断が、本件を判断する上で必要不可欠なものと認められ、本件訴訟の争点および当事者の主張立証もこの判断に関するものがその核心となっていると認められることからすれば、結局、本件の訴訟は、その実質において法令の適用による終局的な解決の不可能なものであって、裁判所法3条にいう『法律上の争訟』にあたらない」とした。(最判昭56.4.7:板まんだら事件

司法権の限界

具体的な争訟であったとしても、「他の権利との関係」や「制度上の理由」から裁判所が判断を回避する場合があります。これを司法権の限界と言います。

憲法に規定された限界

下記については、裁判所による司法権は及びません。(裁判所は裁判をしない)

国際法上の限界

例えば、「外交使節の裁判権免除」。外国から日本に派遣された外交官が犯罪を犯した場合、日本の裁判所で裁判をせず、派遣元の国で裁判を行います。

憲法解釈上の限界

天皇と民事裁判権

天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ、天皇には民事裁判権は及ばない。(最判平元.11.20)

自律権の問題

自律権とは、懲罰や議事手続きなど、国会や各議院の内部事項について自主的に決定できる権能を言います。

議院の自律権はこちら>>

憲法上、国会等に与えられた自律権については、それぞれの組織が決定権を持っているため、司法権は及びません。(最大判昭37.3.7:警察法改正無効事件

ただし、「議院の除名処分」「出席停止処分」は司法審査が及びます。(最大判昭35.10.19:地方議会議員懲罰事件)(最大判令2.11.25:地方議会議員出席停止事件

裁量行為

憲法が、立法権や行政権に対して一定の裁量を認めている場合があります。裁量の範囲内の行為については当か・不当かが問題になるだけで、違法性は問いません。そのため、原則、裁判所は審査できません。

統治行為(政治行為)

統治行為とは、高度な政治性のある国家行為で、例えば、「衆議院の解散行為」です。これは、国会等の判断を尊重すべきところなので、裁判所の審査は及びません。(最大判昭34.12.16:砂川事件最大判昭35.6.8:苫米地事件

部分社会の法理

部分社会の法理とは、ある団体内部の紛争で、団体の自立的な判断を尊重すべきとして、司法審査が及ばない考えを言います。ただし、一般市民秩序と直接関係する問題に対して司法審査が及びます。(最大判昭35.10.19:地方議会議員懲罰事件最判昭52.3.15:富山大学事件最判昭63.12.20:共産党袴田事件

司法権の限界に関する重要判例

  • 1954年(昭和29年)に改正された新警察法について住民が法律として無効であるとして争われた。これに対して最高裁は「新警察法は両院において議決を経たものとされ、適法な手続によって公布されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重し、議事手続に関する事実を審理してその有効無効を判断すべきでない」として司法権が及ばないとした。(最大判昭37.3.7:警察法改正無効事件
  • 地方議会が議員Xの出席停止とする懲罰を決議し、Xがこの決議の無効の確認および取消しの訴えをした。
    これに対して最高裁は「自律的な法規範をもつ社会ないしは団体に在つては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判による審査が適当でないものがある。本件における出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当するものと解するを相当とする。」として、議員の出席停止処分は、議院内部の話として司法審査が及ばないとしています。
    また、一方で、
    「議員の除名処分の如きは、議員の身分の喪失に関する重大事項で、単なる内部規律の問題に止らない」として議員の除名処分については、議院内部の話ではなく、司法審査が及ぶとしています。(最大判昭35.10.19:地方議会議員懲罰事件
  • デモ隊員がアメリカ空軍基地内へ侵入した行為が、日米安保条約に違反された事件について、そもそも、日米安保条約が違憲ではないかと争われた。
    これに対して最高裁は「日米安保条約は高度の政治性を有するものであって、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り、司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものである」として、日米安保条約は高度な政治性を有するものなので、原則、司法権が及ばないとしつつ、一見極めて明白に違憲無効であると認められる場合は、司法権が及ぶとしました。(最大判昭34.12.16:砂川事件
  • 吉田内閣時代、吉田自由党と鳩山自由党が対立しており、吉田自由党は密かに選挙の準備を進めておき、準備の整っていない鳩山派に打撃を与える目的で、抜き打ちで衆議院の解散を行った。これに対して最高裁は「衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であって、かくのごとき行為について、その法律上の有効無効を審査することは司法裁判所の権限の外にありと解すべきである」として、衆議院の解散については司法審査の対象外と判示しました。(最大判昭35.6.8:苫米地事件)
  • 富山大学のA教授が、大学から授業担当停止処分を受け、学生への代替科目履修の指示を行った。しかし、A教授は、授業担当停止処分に従わず、授業を続行し、学生Xもその授業を受け、A教授からの成績評価を受けた。しかし、学校は、Xに対して単位認定をしなかった。これに対して、Xは学校に対して単位認定するよう求めた。
    これに対して、最高裁は「自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の争訟のごときは、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当」
    また、
    「単位授与(認定)行為は、特段の事情のない限り、純然たる大学内部の問題として、大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであって、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが相当」として、一般市民法秩序と直接関係しない単位認定は、大学内部の問題(部分社会の法理)として司法審査が及ばないとしました。(最判昭52.3.15:富山大学事件
  • 日本共産党の党員Xが、党規律違反を理由に、党から除名処分を受けた。この除名処分について、最高裁は「政党の結社としての自主性にかんがみると、政党の内部的自律権に属する行為は、法律に特別の定めのない限り尊重すべきである」とし
    さらに
    「政党が組織内の自律的運営として党員に対してした除名その他の処分の当否については、原則として自律的な解決に委ねられ、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばないというべき」とし
    政党の党員に対する除名処分は、原則、司法審査の対象とならず一般市民法秩序と直接の関係を有する場合は、例外的に司法審査の対象となる判示した。(最判昭63.12.20:共産党袴田事件

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