司法権の独立とは、2つの意味を持ちます。
- 司法権が立法権や行政権から独立していること(司法府の独立)
- 裁判官一人が独立して職権を行使すること(裁判官の独立)
司法府の独立
司法府の独立は、全体としての裁判所が、国会や内閣から独立して、自主的に活動することができるということです。その為、憲法では、次のような制度が設けられています。
- 最高裁判所の規則制定権(77条)
- 最高裁判所による下級裁判所裁判官の指名権(80条1項)
- 裁判所による裁判官の懲戒(78条後段)
最高裁判所の規則制定権
憲法第77条
最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。
3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
憲法41条で「国の唯一の立法機関」と書いているのですが、その意味は2つあり、「国会中心立法の原則」と「国会単独立法の原則」です。
今回、最高裁判所が、単独で、裁判所の規則を制定する権利を持つため、国会中心立法の原則の例外にあたります。
最高裁判所による下級裁判所裁判官の指名権
憲法第80条1項
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。
下級裁判所とは、最高裁判所以外を指すので、高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所のことです。そして、これらの裁判官は最終的には内閣が任命するのですが、最高裁判所が指名した名簿から任命させるわけなので、最高裁判所の意思が強く反映されるわけです。そのため、裁判所の自主性を確保していると言えます。
裁判所による裁判官の懲戒
憲法第78条
裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。
78条は、裁判官の身分保障の規定です。裁判官の懲戒処分は行政機関ができないのですが、これができるとすると、裁判官は、行政に有利な判断をしてしまい、独立性を失ってしまいます。そのため、裁判官の懲戒処分(免職、停職、降任、減給、戒告)は、原則、弾劾裁判といった形で行います。
裁判官の独立
裁判官の職権行使の独立
憲法第76条
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
「良心」とは、客観的な裁判官としての良心を指します。裁判官として考えたときに何が正しいかで判断し、その基準は、憲法と法律です。
裁判官の身分保障
裁判官の罷免事由の限定
裁判官は上記78条および79条の場合でない限り、罷免されることはありません。
憲法第78条
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
下記の場合に罷免されます。
- 心身故障のために職務執行不能の裁判を受けた場合(78条)
- 弾劾裁判所による罷免(78条)
- 国民審査による最高裁判所裁判官の罷免(79条2項3項)
3の国民審査による罷免は、最高裁の裁判官のみ適用され、下級裁判所の裁判官は適用されません。
そして、国民審査は、解職制度(リコール制度)であり、任期満了前に国民または住民の意思によって罷免する制度を言います。
行政機関による懲戒処分の禁止
上記「裁判所による裁判官の懲戒」でも解説した通り、裁判官の懲戒処分は行政機関が行うことができません。
報酬の減額禁止
憲法第79条
6 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
憲法第80条
2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
最高裁判所・下級裁判所関係なく、いずれの裁判官も、すべて定期に相当額の報酬が保障され、在任中に減額されることはありません。
一方、国会議員の歳費(給与)については、減額される可能性はあります。
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