行政不服審査法25条の執行停止のルールについては、非常にややこしいです。しかし、行政書士試験ではよく出題されるので、しっかり勉強しましょう!合否の分かれ目となる条文となります。
目次
執行不停止の原則
行政庁の行った処分については、審査請求をしたとしても、処分の効力、処分の執行、手続きの続行は妨げられません。つまり、審査請求をしても、処分の効力は引き続き有効で、処分の執行を行われる可能性もあるし、処分の手続きも続きます。これを「執行不停止の原則」と言います。
例えば、Aが違法建築物を建築し、B市長が、建物の除去命令をした。Aが除去命令に不服があるとして、審査請求をしたとしても、除去命令の効力は有効なので、Aは建物を除去する義務があります。また、そのまま放っておくと、B市長が代執行を行い、建物を強制的に除去(=処分の執行)を行うこともあり得ます。
執行停止の手続き
執行停止の手続きについては、「審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁である場合」と「審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁でない場合」の2つで異なります。
審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁である場合
審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁である場合とは、例えば、処分庁がA市長、上級行政庁がB知事で、審査庁がB知事の場合です。また、処分庁がB知事で、審査庁もB知事の場合です。
この場合、審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより又は職権で執行停止ができます。
執行停止できる内容は、処分の効力の停止、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止だけでなく「その他の措置」をとることができます。
その他の措置とは、処分の内容を、免許取消処分から業務停止処分に変更するなどの措置です。
審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁でない場合
審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁でない場合とは、審査庁が「〇〇審査会」といった第三者機関(専門機関)の場合です。
この場合、審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより、処分庁の意見を聴取した上、執行停止をすることができます。
ただし、処分の効力の停止、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止の措置をとることはできるが、それ以外の措置をとることはできません。
つまり、〇〇審査会は、処分の内容の変更等はできないということです。
執行停止の要件
審査請求人の申立てがあった場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければなりません(義務)。これは、審査請求人の権利利益を保護するためです。
ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、審査庁は、執行停止は行いません。
重大な損害を生ずるか否かを判断基準
重大な損害を生ずるか否かは、「損害の回復の困難の程度」を考慮するものとし、「損害の性質及び程度」並びに「処分の内容及び性質」をも勘案します。
処分の効力停止ができない場合
処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるときは、処分の効力の停止はできません。
例えば、Aが違法建築物を建築し、B市長が、建物の除去命令をした場合、処分の効力・処分の執行・手続きの続行とは下記内容です。
- 処分の効力=除去命令自体
- 処分の執行=代執行により建物を強制的に除去すること
- 手続きの続行=上記代執行の手続きのこと
2や3は、1の処分の効力があることを前提に行います。そのため、1の処分の効力を停止させると、自動的に2、3も停止します。一方、2の処分の執行を停止させる場合、2のみを停止させて、1の処分の効力は停止しません。
そのため、2の処分の執行停止で目的達成ができる場合は、あえて、1の処分の効力を停止させる必要はないので、そのような場合は、1の処分効力停止はできないということです。
執行停止の決定は速やかに行う
下記1または2の場合、審査庁は、速やかに、執行停止をするかどうかを決定しなければなりません。
- 執行停止の申立てがあったとき
- 審理員から第40条に規定する執行停止をすべき旨の意見書が提出されたとき
(執行停止)
行政不服審査法第25条 審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2 処分庁の上級行政庁又は処分庁である審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより又は職権で、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止その他の措置(以下「執行停止」という。)をとることができる。
3 処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより、処分庁の意見を聴取した上、執行停止をすることができる。ただし、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止以外の措置をとることはできない。
4 前二項の規定による審査請求人の申立てがあった場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければならない。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、この限りでない。
5 審査庁は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
6 第2項から第4項までの場合において、処分の効力の停止は、処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるときは、することができない。
7 執行停止の申立てがあったとき、又は審理員から第40条に規定する執行停止をすべき旨の意見書が提出されたときは、審査庁は、速やかに、執行停止をするかどうかを決定しなければならない。
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