取消訴訟を提起してから判決が出るまで、数か月かかる場合もあります。そうなると、判決が出るまでに、不利益が生じる場合もあります。そのような場合に、裁判所は、処分の効力や処分の執行などを行わないようにすることができます。これを執行停止と言います。
執行不停止の原則
行政不服審査法でも勉強した執行停止と同様に、処分の取消しの訴えが提起されても、処分の効力、処分の執行または手続きの続行は妨げられません(停止しない)。これを執行不停止の原則と言います。
例えば、A社が甲県知事から土地の開発許可を受け、造成工事に着手したとします。その近隣住民が、当該造成工事をすることで、がけ崩れなどが起こる可能性があると考え、開発許可処分の取消しの訴えをしました。しかし上記執行不停止の原則の通り、訴訟提起しても、工事は続行されます。そして、造成工事が完了してしまうと、開発許可処分取消しの訴えの利益がなくなり、取消の訴えは却下されてしまいます。そのような事態を防ぐために、仮の救済策として、執行停止があります。
ただし、どんな場合でも執行停止されるかというとそうではありません。要件があります。
執行停止の要件
執行停止の要件は下記2つです。どちらも満たす必要があります。
- 処分の取消しの訴えの提起があること
- 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があること
上記を言い換えると、取消しの訴えを提起していない場合、執行停止はされません。また、重大な損害を避けることについて緊急ではない場合も執行停止されません。
上記の場合、執行停止の申立てにより、裁判所は、決定をもって、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(執行停止)をすることができます。
ただし、処分の執行又は手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、処分の効力の停止はできません。
この点は個別指導で解説します。
また、上記要件を満たす場合でも、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるとき(原告が勝訴する見込みがないとき)は、執行停止することができません。
即時抗告
執行停止の申立てに対する決定に対して、不服がある者は即時抗告ができます。
事情変更による執行停止の取消し
執行停止の決定を行った後に、執行停止をする理由が消滅したり、その他の事情が変更したときは、裁判所は、行政庁(相手方)の申立てにより、決定をもって、執行停止の決定を取り消すことができます。
内閣総理大臣の異議
執行停止の申立てがあったとき、内閣総理大臣は、やむを得ない場合には、執行停止しない理由を付けて、裁判所に対して「執行停止をするな!」と異議を述べることができます。
この異議は、執行停止の決定があった後でも述べることができます。
そして、内閣総理大臣が異議を述べた場合、裁判所は、その異議に従う義務があります。つまり、
執行停止の決定前であれば、執行停止をすることができず
執行停止の決定後であれば、執行停止の決定を取り消さなければなりません。
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