内閣総理大臣の権能は下記6つあります。
- 他の国務大臣を任命し、罷免すること(68条)
- 内閣を代表して、議案を国会に提出し、一般国務および外交関係について国会に報告すること(72条)
- 内閣を代表して行政各部を指揮監督する。(72条)
- 国務大臣に対する訴追に対して同意すること(75条)
- 法律および政令に主任の国務大臣とともに連署すること(74条)
- 議案について発言をするため議院に出席すること(63条)
国務大臣の任命権
憲法第68条
内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。
内閣総理大臣は、国務大臣を任命することもできるし、国務大臣を罷免(やめさせること)もできます。
そして、任命も罷免も、閣議にかける必要はなく、内閣総理大臣の独断で決めることができます。これは、内閣総理大臣自身を中心に、自分の政策に近い者を国務大臣にすることで統一的な内閣の組織を作り、運営するためです。
内閣を代表して議案提出・国務報告・行政指揮監督を行う
憲法第72条
内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
内閣総理大臣の行政各部への指揮監督は、閣議によって決定された方針をもとに行われます。(内閣法6条)
内閣総理大臣の権能に関する判例
「内閣総理大臣が行政各部に対し、指揮監督権を行使するためには、閣議にかけて決定した方針が存在することを要するが、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、内閣総理大臣の右のような地位及び権限に照らすと、流動的で多様な行政需要に遅滞なく対応するため、内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有するものと解するのが相当である。」として、閣議にかけて決定した方針でなくても、内閣の意思に反しない限り、総理は行政各部に指示をする権限を有するとしました。(最大判平7.2.22:ロッキード事件)
国務大臣の訴追に対する同意
憲法第75条
国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。
在任中の国務大臣の訴追には、内閣総理大臣の同意が必要です。これは、内閣の一体性を確保することと、内閣総理大臣の長としての地位を強化するためです。
しかし、上記ルールは、在任中は訴追されないだけで、在任期間が過ぎれば、訴追されることはあります。
これは、上記「訴追の権利は害されない」という部分です。
訴追の権利は害されないとは?
犯罪が終わった時から一定期間を経過すると、その後起訴することができなくなります。これを公訴時効と言います。そして、「訴追の権利は害されない」とは在任中に公訴時効の期間が進まないだけで、起訴ができなくなるわけではないということです。起訴する権利自体は残るということです。
法律・政令に連署
憲法第74条
法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。
内閣総理大臣は、主任の大臣が署名した法律や政令に連署(一緒に署名)します。
これは、法律や政令の執行責任を明確にするためのものです。
そして、連署は、形式上のものなので、連署がなかったとしても、法律の効力には関係ないので、連署のない法律や政令であっても効力を有します。
発言のために議院出席
憲法第63条
内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
内閣総理大臣および国務大臣は、いつでも議案について発言するため議院に出席することができます。つまり、議院からの呼び出しがなくても、自らの意思で議院に出席できるということです。