行政法

関連請求の併合


関連請求の併合とは、相互に関連する訴訟が提起された場合、別々に審理すると、審理の手続きが重複してしまい、効率が悪いです。そのため、関連請求にかかる訴えと取消訴訟とを併合することができます。言い換えると、まとめて訴訟審理を行うということです。

関連請求に係る訴訟の移送

取消訴訟と下記6つの関連請求にかかる訴訟とが異なるの裁判所に係属する場合において、相当と認めるときは、関連請求に係る訴訟の係属する裁判所は、申立てにより又は職権で、その訴訟を取消訴訟の係属する裁判所に移送する(移す)ことができます。(行政事件訴訟法13条)

つまり、取消訴訟をA裁判所で行い、関連請求にかかる訴訟をB裁判所で行う場合、2つの訴訟をまとめてA裁判所で行うということです。

ただし、取消訴訟又は関連請求に係る訴訟の係属する裁判所が高等裁判所であるときは、移送(移すことが)できません

関連請求にかかる訴訟

  1. 当該処分、裁決に関連する原状回復または損害回復
  2. 当該処分とともに一個の手続を構成するほかの処分の取消しの請求
  3. 当該処分に係る裁決の取消しの請求
  4. 当該裁決に係る処分の取消しの請求
  5. 当該処分または裁決の取消しを求める他の請求
  6. その他当該処分又は裁決の取消しの請求と関連する請求

1の具体例でいうと、Aが営業停止処分の取消しとともに、営業停止期間中に営業できなかったことによる損害についても賠償請求する場合です。
「営業停止処分の取消しの訴え」と「損害賠償請求の訴え」を併合して審理することができます。

2の具体例でいうと、土地収用における事業認定と収用裁決は一個の手続きを構成するものです。この「事業認定の取消しの訴え」と「収用裁決の取消しの訴え」を併合することができます。

そして、訴えの併合については、手続として、いろいろなルールがあります。

請求の客観的併合

  • 原告は、取消訴訟を提起するにあたり、関連請求に係る訴えを併合することができます。
  • 上記訴えを併合する場合において、取消訴訟の第一審裁判所が高等裁判所であるときは、関連請求に係る訴えの被告の同意を得なければなりません。
  • もし、被告が異議を述べないで、本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、上記同意したものとみなします。(行政事件訴訟法16条)

共同訴訟

数人の原告が関連請求を行う場合、関連請求を併合して、共同訴訟人として訴えることができ、また、数人の被告が関連請求として訴えられる場合も同様に共同訴訟人として、訴えられることもできます。(行政事件訴訟法17条)

第三者による請求の追加的併合

  • 第三者は、取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、その訴訟の当事者の一方を被告として、関連請求に係る訴えをこれに併合して提起することができます。
  • 上記訴えを併合する場合において、取消訴訟の第一審裁判所が高等裁判所であるときは、関連請求に係る訴えの被告の同意を得なければなりません。
  • もし、被告が異議を述べないで、本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、上記同意したものとみなします。(行政事件訴訟法18条)

原告による請求の追加的併合

  • 原告は、取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、関連請求に係る訴えをこれに併合して提起することができます。
  • 上記訴えを併合する場合において、取消訴訟の第一審裁判所が高等裁判所であるときは、関連請求に係る訴えの被告の同意を得なければなりません。
  • もし、被告が異議を述べないで、本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、上記同意したものとみなします。(行政事件訴訟法19条)

<<取消訴訟の手続きの流れ | 訴えの変更>>

適正手続の原則(デュープロセス)

適正手続の原則とは、行政法では「行政活動はその内容が正しいだけでなく、手続きも適正でなければならない」という原則です。
そして、実際、行政書士試験の「憲法」や「行政手続法」の分野でもよく出題される部分なのでしっかり頭に入れておきましょう!
憲法31条は,「何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない」と定めています。この「適正手続きの原則」を「デュープロセス」と言います。そして、この「適正手続の保障(デュー・プロセス条項)」は古くはイギリス中世のマグナ・カルタにまで遡ります。

適正手続の保障のポイント

  • 憲法31条の規定が行政手続にも適用されるかについて、31条の保障が及ぶと解する場合があっても行政手続は、刑事手続とはその性質において差異があるので、必ずしも適用・準用されるわけではない
  • 行政手続の適正性について、その一部が法律により保障されている。具体的には、不利益処分を行う場合、事前に告知、弁解、防御の機会(意見陳述権)が与えられている。

行政法の一般原則

信義誠実の原則
権利濫用の禁止
比例原則
平等原則
適正手続の原則

法律による行政の原理

法律の法規創造力 国民の権利義務に関するルールは法律のみ定めることができ、行政機関は、法律の授権なく法規を作れない
法律の優位 行政活動は法律に違反してはならず、違反したら、取消されたり、無効となる
法律の留保 一定の行政の活動が行われるためには、法律の根拠・授権が必要

平等原則

平等原則とは、憲法14条1項を根拠とする原則であり、行政法では、「行政は、国民を合理的な理由なく、差別してはならない」という原則です。例えば、飲食店は、食品衛生法で、健康を損なうような腐敗したものを販売してはならず、販売すると、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます。あるA店では、罰金1万円だったにも関わらず、同じような事例でB店では、最大の300万円を科すことは、平等原則に違反するということです。

平等原則に関する判例

  • Xはスコッチライトと呼ばれる信号用品を輸入し神戸税関長から30%の税率で関税を徴収されたが、同時期に、同物品につき横浜税関長及び大阪伊丹出張所長は20%の税率で関税を徴収していた。神戸税関に課されたXが10%分は無効として訴える。【裁判所は要旨】全国の税関の大多数が、事実上、特定の期間、特定の課税物件について、法定の課税標準ないし税率よりも軽減された課税標準ないし税率で関税の賦課徴収処分をしていて、しかもその後、法定の課税標準ないし税率との差額を実際に徴収したこともなく、また徴収する見込みもないような場合には、その状態が継続する期間内に右の慣例に反してなされた関税の賦課徴収は、租税法律主義ないし課税平等の原則に反し違法である。(大阪高判昭44.9.30:スコッチライト事件)
    →裁判所の解釈では30%が正しい税率。しかし課税の平等の原則から多数の税務官庁が採用した20%が実定法上正当。だから、超過した10%部分は違法処分

行政法の一般原則

信義誠実の原則
権利濫用の禁止
比例原則
平等原則
適正手続の原則

法律による行政の原理

法律の法規創造力 国民の権利義務に関するルールは法律のみ定めることができ、行政機関は、法律の授権なく法規を作れない
法律の優位 行政活動は法律に違反してはならず、違反したら、取消されたり、無効となる
法律の留保 一定の行政の活動が行われるためには、法律の根拠・授権が必要

比例原則

比例原則とは、ある行政目的を達成しようとするとき、より規制の程度が軽い手段を使いなさい!という原則です。例えば、ある宅建業者が、ある物件をネット広告を出しており、その物件が成約済みにもなったにも関わらず、1週間放置し続けてしまった。もちろん、宅建業法違反ですが、それだけであれば、指示処分が妥当です。それにもかかわず、免許取消処分は、宅建業者を更正するための手段としてはやりすぎです。そのため比例原則に違反するといったイメージです。これも、行政書士試験では、判例を頭に入れていきましょう!

比例原則に関する判例

  • 裁判所が懲戒権者の裁量権の行使としてされた公務員に対する懲戒処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と右処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、それが社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法と判断すべきものである。(最判昭52.12.20:公務員の懲戒処分)
    →「結果」と「処分」の均衡で判断すべきではなく、裁量権を濫用したかどうかで判断する

行政法の一般原則

信義誠実の原則
権利濫用の禁止
比例原則
平等原則
適正手続の原則

法律による行政の原理

法律の法規創造力 国民の権利義務に関するルールは法律のみ定めることができ、行政機関は、法律の授権なく法規を作れない
法律の優位 行政活動は法律に違反してはならず、違反したら、取消されたり、無効となる
法律の留保 一定の行政の活動が行われるためには、法律の根拠・授権が必要

権利濫用の禁止

権利濫用とは、見た目では正当な権利を行使しているように見えるが、実際には、その権利行使が社会的に認められる限度を超えたものを言います。権利行使といっても、限度を超えてはダメですよ!というのが、権利濫用の禁止です。そして、行政書士試験では、判例がよく出題されます。なので、重要な判例を頭に入れていきましょう!

権利濫用に関する判例

  • Xは、宇奈月温泉を経営するY会社が、他人の土地2坪ほどをかすめて引き湯管を設けているのに目を付け、その土地を買い受けてYに不当に高額な価格での買い取りを要求したが拒否された。そこで、XがYに対し引き湯管の撤去を請求した。所有権の侵害による損失はいうに足らず、侵害の除去が著しく困難であり、それができるとしても莫大な費用を要すべき場合において、当該除去請求は単に所有権の行使たる外形を有するにとどまり、真に権利救済を目的とするものではないのであって、社会通念上所有権の目的に違背してその機能として許されるべき範囲を逸脱するものであり権利の濫用にほかならない。(最判昭10.10.5:宇奈月温泉事件)
  • Xの所有地上には、武田信玄が軍旗を立て掛けたという言い伝えのある「信玄公旗掛松」があり、その近辺に国鉄が敷設する鉄道が敷設されることになり、Xは鉄道の煤煙により、この松が枯れてしまうことを恐れ、線路の位置変更を国鉄に申し入れましたが、受け入れられず、その後、蒸気機関車の煤煙等のためにこの松が枯れたとして、Xが国鉄に損害賠償を求めた。鉄道事業という公共性の高いものであっても、「他人の権利を侵略・侵害することは法の認許するところではない、松樹を枯死させたことは、権利の内容を超えた権利の行為である。」すなわち「権利の濫用」に当たる。(大判大8.3.3:信玄公旗掛松事件)

行政法の一般原則

信義誠実の原則
権利濫用の禁止
比例原則
平等原則
適正手続の原則

法律による行政の原理

法律の法規創造力 国民の権利義務に関するルールは法律のみ定めることができ、行政機関は、法律の授権なく法規を作れない
法律の優位 行政活動は法律に違反してはならず、違反したら、取消されたり、無効となる
法律の留保 一定の行政の活動が行われるためには、法律の根拠・授権が必要

信義誠実の原則

信義誠実の原則とは、「契約したことは、誠実に行いましょう!」とか「相手の信頼にそむかず誠意をもって行動しましょう!」という原則です。

これは、民法(私法)だけでなく、行政法でも一般原則とされています。

信義誠実の原則に関する判例

  • 行政主体が、一定内容の将来にわたって継続すべき施策を決定した場合、右施策が社会情勢の変動等に伴つて変更されることがあることはもとより当然であつて、地方公共団体は原則として右決定に拘束されるものではない。ただし、当事者間の関係を規律すべき信義衡平の原則に照らし、その施策の変更にあたってはかかる信頼に対して法的保護が与えられなければならないものというべきである。(最判昭56.1.27:宜野座工場誘致事件
  • 租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用を考え得るのは、納税者間の平等公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合でなければならない(最判昭62.10.30:青色申告課税処分事件

行政法の一般原則

信義誠実の原則
権利濫用の禁止
比例原則
平等原則
適正手続の原則

法律による行政の原理

法律の法規創造力 国民の権利義務に関するルールは法律のみ定めることができ、行政機関は、法律の授権なく法規を作れない
法律の優位 行政活動は法律に違反してはならず、違反したら、取消されたり、無効となる
法律の留保 一定の行政の活動が行われるためには、法律の根拠・授権が必要

法律の留保

法律の留保とは、行政機関が一定の行政活動を行う場合、あらかじめ法律によってその権限が定められていなければならない(法律の根拠・授権が必要)という原則です。

例えば、不動産を所有している人は、「固定資産税」が課せられます。これも、法律によって定められているから課せられるのです。

行政機関が勝手に、時計を持っている人には「時計税」を課します!といっても法律にそのようなルールは定められていないので、それはできません。

法律の留保の範囲

行政のすべての活動に「法律の留保の原則」が当てはまるかというと、色々な考え方があります。

それが、①侵害留保説、②全部留保説、③権力留保説、④重要事項留保説

①侵害留保説

行政書士試験では、この侵害留保説を覚えておきましょう!

侵害留保説とは、「国民の自由」や「財産」を侵害する行政活動のみ、法律の根拠が必要ということです。

上記事例の、税金を課す行為については、国民の財産を侵害する行政活動と言えます。そのため、法律に「〇〇税は課していいですよ!」と規定されていなければ、〇〇税を課すことができないということです。

つまり、上記「時計税」は法律に規定されていないので課すことができないということです。

②全部留保説

全ての行政活動について法律の根拠が必要という考え方です。

「国民の自由」や「財産」を侵害する行為だけでなく、侵害しない行為であっても法律の根拠が必要ということです。

この考えによると、警察官が、道案内をする場合も法律の根拠が必要ということになります。

そして、行政書士試験のレベルであれば、③権力留保説、④重要事項留保説は勉強しなくてもよいでしょう!

法律による行政の原理

法律の法規創造力 国民の権利義務に関するルールは法律のみ定めることができ、行政機関は、法律の授権なく法規を作れない
法律の優位 行政活動は法律に違反してはならず、違反したら、取消されたり、無効となる
法律の留保 一定の行政の活動が行われるためには、法律の根拠・授権が必要

行政法の一般原則

信義誠実の原則
権利濫用の禁止
比例原則
平等原則
適正手続の原則

法律の優位の原則

法律の優位の原則とは、行政活動は法律に反して行われてはならないという原則です。これは、「法律」の方が「行政活動」より「優位」な位置にあるからです。
行政活動は法律に従いなさい!ということです。
行政活動が、法律に従わずに、好き勝手やってしまったら、国民の権利を侵害してしまい、困りますよね。

そして、違法な行政活動は、取消しされたり、無効になります。

法律による行政の原理

法律の法規創造力 国民の権利義務に関するルールは法律のみ定めることができ、行政機関は、法律の授権なく法規を作れない
法律の優位 行政活動は法律に違反してはならず、違反したら、取消されたり、無効となる
法律の留保 一定の行政の活動が行われるためには、法律の根拠・授権が必要

行政法の一般原則

信義誠実の原則
権利濫用の禁止
比例原則
平等原則
適正手続の原則

法律の法規創造力の原則

法律の法規創造力の原則とは、「国会で制定する法律だけが、国民の権利義務に関する規律である法規を創造できる」という原則です。

これは、憲法41条「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と規定されている通りです。

言い換えると、
国民の権利義務に関するルールは、法律でのみ定めることができ、行政が勝手に定めることができないということです。

行政が国民の権利義務に関するルールを定める場合、法律の授権が必要ということです。

「法律の授権」とは、例えば、法律の条文内に「別途、規則で定める」と書かれている場合に限って、規則で定めることができるということです。

法律による行政の原理

法律の法規創造力 国民の権利義務に関するルールは法律のみ定めることができ、行政機関は、法律の授権なく法規を作れない
法律の優位 行政活動は法律に違反してはならず、違反したら、取消されたり、無効となる
法律の留保 一定の行政の活動が行われるためには、法律の根拠・授権が必要

行政法の一般原則

信義誠実の原則
権利濫用の禁止
比例原則
平等原則
適正手続の原則

行政調査

行政調査とは、行政機関が情報収集をして調査活動を行うことを言います。

行政調査の部分は、行政書士試験ではあまり出題されませんが、行政調査は、行政手続法には規定されていないという点は覚えておくとよいでしょう!

そして、行政調査には①強制調査、②間接強制調査、③任意調査の3つがあります。

強制調査

強制調査とは、国民が拒否しても、行政機関が実力行使(物理的強制:差押え等)して調査をすることを言います。

この行政調査は、実力の行使を行うため、法律の根拠が必要です。

ちなみに、物理的な実力の行使によって行政調査を行う場合には令状主義が適用されます。
よって、裁判所の令状がなければ直接強制調査をすることができません。

例えば、国税犯則取締法2条です。

収税官吏は犯則事件を調査する為必要あるときは其の所属官署の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所の裁判官の許可を得て臨検、捜索又は差押を為す事ができる

間接強制調査

間接強制調査は、強制調査のようにモノを差押えるなどの物理的強制をすることはできませんが、もし調査を拒否すると、罰則が科されます

例えば、国税通則法第74条の2です。国税通則法は第127条で、下記調査等を拒否すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金の規定を設けています。

(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)
第74条の2 国税庁等は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、一定の者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件又はその帳簿書類その他の物件とする。)を検査し、又は当該物件の提示若しくは提出を求めることができる。

任意調査

任意調査とは、相手方の人の協力に基づいて行われる調査です。強制力はないので、法律の根拠は不要です。そのため、拒否しても大丈夫です。

(給水装置の検査)
第17条 水道事業者は、日出後日没前に限り、その職員をして、当該水道によつて水の供給を受ける者の土地又は建物に立ち入り、給水装置を検査させることができる。

行政調査に関する判例

  • 旧所得税法63条、70条10号に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、憲法35条の法意に反するものではない。(最判昭47.11.22:川崎民商事件)
  • 質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、また、暦年終了前または確定申告期間経過前といえども質問検査が法律上許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行なううえの法律上一律の要件とされているものではない。(最判昭48.7.10:荒川民商事件)
  • 警職法2条1項に基づく職務質問に附随して行う所持品検査は、任意手段として許容されるものであるから、所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、職務質問ないし所持品検査の目的、性格及びその作用等にかんがみると、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合があると解すべぎである。(最判昭53.9.7:警察官職務執行法の職務質問に付随して行う所持品検査)
  • 警察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである。(最判昭55.9.22:自動車の一斉検問)
  • 法人税法に規定する質問又は検査の権限は,犯罪の証拠資料を取得収集し,保全するためなど,犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使することは許されないと解するのが相当である。しかしながら,上記質問又は検査の権限の行使に当たって,取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても,そのことによって直ちに,上記質問又は検査の権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたことにはならないというべきである。(最判平16.1.20:税務調査と犯罪捜査)