株主は平等なので、株式の権利の内容は同じでないといけないのが原則です。
しかし、定款によって、①全部の株式に共通する特別な内容の株式や②内容の異なる2種類以上の株式(種類株式)を発行することもできます。これは、会社や株式の多様なニーズにこたえるためです。
全部の株式に共通する特別な内容の株式
発行する全部の株式に共通する内容として特別な定めを設けることができるのは、下記3つです(107条1項)。
種類株式
株式会社は定款で定めることにより、内容の異なる2種類以上の株式を発行することができます(108条1項)。
- 剰余金配当に関する種類株式
- 残余財産の分配に関する種類株式
- 議決権の制限に関する種類株式
- 譲渡制限付種類株式(全部の株式に共通する株式にもできる)
- 取得請求権付種類株式(全部の株式に共通する株式にもできる)
- 取得条項付種類株式(全部の株式に共通する株式にもできる)
- 全部取得条項付種類株式
- 拒否権付種類株式
- 種類株主総会において取締役または監査役を選任する株式
譲渡制限株式・譲渡制限付種類株式
株式は自由に譲渡できるのが原則です(127条)。しかし、中小企業・零細企業のような家族で経営している会社も多くあり、そのような会社は外部から新しい株主が入って、経営権を握られることを避けたいということもあります。つまり、敵対的買収を避けたいわけです。
このようなニーズにこたえて、株式の全部の内容として、定款で、株式の譲渡を制限することが認められています(非公開会社のみ)。
譲渡制限とは、例えば「譲渡による株式の取得について株式会社の承認を要する」といった内容を定款に記しておきます。
また、譲渡制限株式は、種類株式として発行も可能です。つまり、発行する株式の一部について譲渡制限を設けることもできます(譲渡制限付種類株式)←公開会社でも発行できる。
譲渡制限の効果
上記のように「譲渡による株式の取得について株式会社の承認を要する」と定款で定めた場合、譲渡制限株式を譲渡したとしても、譲受人は株式会社に対して、対抗することはできません。つまり、会社の承認がなければ、株主名簿の名義書換を請求できません(133条、134条)。
※譲渡制限株式の譲渡について、当事者間では有効です。上記は会社に対して対抗できないだけです。
定款変更による譲渡制限株式
定款の変更により「発行する株式の全部が譲渡制限株式」や「譲渡制限付種類株式」となった場合、反対株式は、会社に対して株式買取請求権が認められています(116条1項1号2号)。
取得請求権付株式・取得請求権付種類株式
株式会社は、発行する株式の全部の内容として、定款で、株主は、会社に対して、取得請求権付株式の取得を請求できる旨を定めることができます。
これは、株主からの請求に基づいて、会社が自己株式を取得する制度です。
つまり、株主が会社に対して「持っている取得請求権付株式を買い取れ!」と請求できるわけです。
そして、取得請求権付株式は、発行する株式の一部の株式についてのみ、取得請求権を付けることも可能です。これを、取得請求権付種類株式と言います。
取得請求権付株式・取得請求権付種類株式を発行するには、定款で、株式1株を取得するのと引き換えに株主に何を与えるのか(社債・新株予約権・新株予約権付社債・金銭等)を定める必要があります。
取得条項付株式・取得条項付種類株式
株式会社は、発行する株式の全部の内容として、会社が一定の事由が生じたことを条件に、取得条項付株式(種類株式)を取得することができる旨を定めることができます。
これは、一定事由が生じると、会社が株主に対して、取得条項付株式(種類株式)を売ってください!と強制的に買い取ることができます。
そして、取得条項付株式(種類株式)は、会社が自己株式を消却するために用いられる制度です。
自己株式を消却(株式を消滅させる)することにより、市場に出回っている株式数を減らしたり、株式配当を減らしたりできます。
剰余金配当に関する種類株式
会社が剰余金を配当する場合に、通常の株式(普通株)の1.2倍を配当をもらえるようにしたり(優先株)、普通株の0.8倍しか配当を受けることができないようにしたり(劣後株)できます。
剰余金の配当を全く行わない株式(劣後株)も可能ですが、
「剰余金の配当を受ける権利」及び「残余財産の分配を受ける権利」の、両方を全く与えない種類株式は認められていません(105条2項)。
残余財産の分配に関する種類株式
残余財産の分配とは、会社が清算をする場合に、会社債権者に対して分配した残りを、株主で分けることを言います。
残余財産の分配に関する種類株式も、「剰余金配当に関する種類株式」同様、普通株・優先株・劣後株として発行することが可能です。
議決権の制限に関する種類株式
議決権の制限に関する種類株式とは、この議決権制限株式を有する株主は、株主総会における議決権の全部または一部を与えないという内容です。
株主の中には、単に配当金だけが欲しいという人もおり、経営には関わらないという人もいます。そのような場合、議決権を行使できなくても別によいということで、議決権制限株式を与えたりします。その場合、剰余金の配当について優先株を付ければ、その株主は満足します。
公開会社における議決権制限株式
公開会社の場合、「議決権制限株式の数」が「発行済み株式総数」の2分の1を超えたときは、ただちに、「議決権制限株式の数」を「発行済み株式総数」の2分の1以下にするための必要な措置を講じなければなりません(115条)。
全部取得条項付種類株式
全部取得条項付種類株式とは、株主総会の特別決議によってその全部を会社が取得できるという内容の株式です。
取得条項付株式や取得条項付種類株式の場合、一定事由が生じたことを条件に、会社が取得できるという点で異なります。
どういった場合に使うかというと、経営が悪化したけど、新たに資金供給が必要な場合に、全部取得条項付種類株式を取得した後に、その株式を消却して、資本金を一度ゼロ(100%減資)にします。
その後、新株発行を行い資金調達をして企業再生を行うといった場合です。
拒否権付種類株式
拒否権付種類株式が発行されていない場合、株主総会決議や取締役会決議によって、色々なことが決議されます。
一方、拒否権付種類株式が発行されている場合、上記株主総会決議や取締役会決議だけでなく、「拒否権付種類株式の株主だけの株主総会」決議も必要となります。
ここで否決されれば、決議は否決なるわけです。つまり、拒否権を持っていることを意味しています。
種類株主総会において取締役または監査役を選任する株式
この種類株式が発行されている場合、「この種類株式の株式だけの株主総会」で、取締役や監査役を選任することができます。
※指名委員会等設置会社および公開会社では、発行することができない。